<<8月18日(水)14:00 葦挽樹海・ロッジ近辺>>

  

ビュオオオオオ〜〜〜〜!!

木々の間をすり抜ける暴風雨が恐ろしい唸り声をあげ続ける中、3人の男たちが森の中を歩いていた。
迷彩服を着たガタイのいい若者が2人、それと品の悪いアロハシャツの中年男性が1人・・ガイ、スカル、矢部の3人である。
また、スカルと矢部の背には、恍惚の表情のまま失神しているアンジュと翔乃が負ぶさっていた。

「ところでダンのやつ、ちゃんと残りの子猫ちゃん2人、ゲットしてっかなァ〜?」
「どうだろな。成功してれば、先にロッジの方に行っているはずだけど・・?」
「おいおい、頼むから食べ残すのだけはやめてくれよ、2人とも。逃げられて、町で騒がれたら元も子もないんだぞ!」
「・・・・」
「お〜う!そ〜れはマズイすねぇ、矢部ティ〜チャ〜」
「真面目に言ってるんだ!」
「・・待って!」

ガイが不意に上げた声に、スカルと矢部が制される。
2人が振り向くと、ガイは息を殺したまま、視線を周囲に走らせていた。

「どうしたんだよ、ガイちゃん」
「・・いや」
「おいおい、熊でもいるんじゃないだろうな!」
「・・『何かの群れ』につけられてるような感じがしたんだけど・・」
「ちょ、ちょっと待て・・冗談は好かんぞ!」
「・・シィ〜!静かに、ティ〜チャ〜・・」

続いて、スカルもガイと同じようにして辺りを探り始める。
重苦しい沈黙。
矢部が不安げな顔で2人を見守っていた。
そして・・

「ガイちゃん・・」

ぼそりと口を開いたスカルは、そこで片目の眉を跳ね上げ、声を裏返した。

「な〜んにもいねぇんじゃねえのかァ〜?」
「・・みたいだな、気のせいだったか」
「お、驚かせるな・・まったく・・」
「おぉ〜?ションベンちびっちまいやしたかァ〜?」
「ば、バカ言うな!」
「2人ともストップ!」

ガイは、スカルと矢部が一息つくのを確認すると一方を指差す。
その先にロッジが見えた。

そこには恐らく仲間のダンが先についている。
もしかしたら、ブロディたちもそこにいるのかもしれない。
となれば、捕まえた女子中学生たちを交えて、サバイバル同好会のキャンプは第二幕に突入する手筈となっていた。
もう、獲物を追い詰め、1人ずつ減らしていくゲームは終了。
あとはそれぞれ精力の許す限り、何の制限もない望むままのセックスを楽しめるのだ。
それを思うと、男たちはもう昂ぶらずにはいられなかった。

「じゃあ、オレは先に行ってダンと合流します」
「おう」
「ま、気ぃつけてなァ、ガイちゃ〜ん♪」

スカルと矢部は、それぞれアンジュと翔乃を背負っている。
1人身軽なガイが、先行してロッジへと走っていった。

    ▽     ▽     ▽     ▽     ▽

「あっ、あはっ、あぐ・・い、イイぃぃぃ〜ッッ!」

ガイがロッジに入ると、二階へと続く階段の先から叫びにも似た少女の喘ぎ声が響き渡っていた。
それは扉の閉ざされた二階の一室からだ。

「うっひょ☆これはまた、ずいぶんと淫乱な子猫ちゃんがいたようだな…」

1人ごちると、ガイは階段を上ってゆく。
踏みつけられる重さで、木の階段はギシギシと嫌な音を立てた。

「あっあっあっ・・だっ、出して出して出してェェ〜〜・・ひああああああぁぁんッッ!!」
「うわっ、マジすごいな・・いったいどんなセックスやってるんだ、ダンのヤツ・・」

それは牡に肉の快楽と精液を乞い、生殖本能を掻きたてる牝の声。
一応人間の言葉でしゃべってはいるが、本質的には動物の鳴き声といった方が適切だ。
しかし、こんなものは中学生程度のキャリアの女が出せる声ではない。
犯罪に暴力にドラッグ、あらゆる快楽に身を堕としつくした人間、狂人のそれに近かった。
ガイは背筋を駆け抜ける何かに思わず体を振るわせると、誘われるように小走りに階段を上る。
そしてドアを開け放つと、牝の声は一気にボリュームを増した。

「あふはふはぁ・・もっと、もっとぉぉ〜〜っっ!!」

だが、ガイはその視界に写った光景に一瞬戸惑う。
部屋の中で少女を犯しているのはダンでなかった。
ガイに大きな尻を向け、ベッドに繋がれた節子の腰を抱え上げているのはオークだったのだ。

「オーク・・お前・・今までどこに行ってたんだよ?」

ガイは拍子抜けしたような声でそう言う。
それまで張り巡らせていた緊張感も、仲間内のパシリであるオークの登場ですっかり消え失せていた。
しかし・・

「・・うるさいなぁ、人が気持ちよく女のコに精子を植え付けてるんだから、邪魔しないでよ・・」

オークは振り向きもしないでそれだけ言うと、また行為に没頭する。
同じタイミングで、節子の狂ったような喘ぎ声も途切れ、続いた。
ガイは多少不思議そうな顔をすると、ため息をつきながらオークに歩み寄った。

「おいおい、オーク・・お前、突然何様になったんだぁ・・って・・ん?」

ガイが手をかけたオークの肩の先には、節子以外にもう1人、見知った少女の姿があった。
裸体にシーツ一枚を纏っただけという彼女は、中学生にしても小柄な体格で、頭にはポニーテールをしている。
そう、それは森の奥に置き去りにしたはずの中本千秋だった。

「あれ・・っ?」
「お久しぶりね、お兄ちゃん・・」
「あ、ああ・・」
「ふふ・・あの夜のえっち、とっても気持ちよかったよ。千秋、何度もイッちゃった・・」
「・・・・?」

それはあの夜、何をされているのかもわからないまま、自分たちの性処理具になっていた少女とは全く別人のような雰囲気を纏っていた。
姿形が変わっているわけではないが、あえて言うなら身振り素振りが違う。
すぐ横ではオークと節子のセックスがヒートアップしているというにも関わらず、千秋の体の動きはゆったりとした一定の速度を崩さず、見開いた瞳は瞬き一つせず、動くのは口元だけ。
それはまるで不気味な人形劇だ。
しかしまた、今の千秋は牡の本能を侵食してゆくような不思議な魅力を持っていた。

「お兄ちゃんとなら、またえっちしてもいいよ。そしたら千秋のおっぱい、チュウって吸わせてあげる・・甘くて美味しいよ・・」
「あ?・・ああ、それは・・嬉しいな」
「お兄ちゃん、なに不思議そうな顔してるの・・?千秋の顔に何かついてる?」
「・・あ、いや、そうじゃないんだけど・・雰囲気とか、ずいぶんと変わるものだなと・・」
「え?…変なの?でも、まあいいや・・あ、でもね、えっちの代わりに・・千秋の言うことも一つ聞いて欲しいな」
「・・ああ、なんだい?」

また、口だけを動かして千秋はこう言った。

「その体が欲しいの」

――ゴボッ!
瞬間、ガイの後頭部に鈍痛が走った。
目の前の千秋でも、横のオークと節子でもない何者かに、後ろから凶器で殴られたのだ。
もんどりうって床に転げるガイ、そこに容赦なく二発三発と追撃が襲う。
凶器は大きな石か何かだろうか。
ベキ・ピキ・と、嫌な音が響いては打撃を受けた部分があらぬ形へと変えられてゆく。
それでも体を亀のように丸めてひたすら打撃を凌ぐガイだったが、最初に頭を強打したからだろうか、既にその体にはほとんど感覚がなくなっていた。
視覚も聴覚も、寿命が来た電球のように点いたり消えたりを繰り返しているが、その中でガイは懸命に敵の姿を探す。
だが…

「・・・・あ・あああああああああ〜〜ッッ!!」

その視界に移るものを認識した彼の脳は、残った全ての力を結集させて『悲鳴を上げろ』と命令を出していた。
そして、身を守る分の力を脳に奪われた瞬間、無防備となった肉体は狂気の打撃の雨にのみこまれていった・・


    ▽     ▽     ▽     ▽     ▽

ガイは今、一切光の差さない闇の中にいた。
地面に立っている感覚もなければ、浮遊感もない。
熱くもなければ寒くもない。
なのに違和感もなければ、恐怖もない。
ただ、どこかから聞こえてくる誰かの声だけが届いていた。

「お兄ちゃん、まだ千秋の声、聞こえる?・・聞こえるよね?」
「もう聞こえてねーんじャねえのか?」
「・・いや、声に反応シてだろう、眼球がわずカに動いている・・まだ聞こえているかもしレんな・・」
「まぁ、どチらにしろ、すグニ元に戻るってよォ」
「うん、そうだね。『おじさんたち』、ここに沢山集まってきてるから・・」
「いひは、あふぃぃ〜っっ。あうはう、ぎもちぃ・・ぎぼちぃぃ〜ッッ!」
「ちょっと、せっちゃん・・気持ちいいのはわかったから、少し静かにして!」

すぐ近くの音のようであって、またはるか遠くから聞こえてくるかのような不可思議な声。
そのどれもが聞き覚えのある声だが、今のガイにははっきりとは思い出せない。

「でね。お兄ちゃん、知ってる?ここの葦挽の森って、戦国時代に悪い大名が、捕らえた敵の捕虜を沢山沢山殺した場所なんだよ・・」

その少女の声一つだけが、いやに鮮明に聞こえていた。

「・・むりやり戦争に借り出された兵士たちが、工場で処理されるみたいに次から次から殺されていったの・・痛かったよ、辛かったよ、皆、生きていたかったんだよ・・」
「あは!ひぐぁ!かは!・・だ、出して出して、また出して、精液沢山欲しいの〜ッッ!!」
「ふう・・せっちゃんたらぁ・・ねえ、オークのお兄ちゃん?お兄ちゃんのすっごい気持ちいい射精で、せっちゃんを満足させてあげてくれる?うるさくてお話できないよ・・」
「うン、いいよォ・・じゃあ、節子ちャん・・ハァハァ・・中にタ〜っぷりイクよォ・・い、イっちゃうかラねェ・・ッ」

直後、ガイに聞こえてきた怪鳴。
粘液質で、耳に絡み付いてくる雷鳴というものがあるなら、ちょうどそんな感じの音だった。
そしてしばらくすると、先程の怪鳴をひっくり返したような静寂が戻り、またあの鮮明な声が聞こえてくる。

「・・自分たちを戦争に借り出した大名や、能面のような冷徹な表情で自分たちを切り刻む敵兵たちへの恨みもあったけど、でもそんなのは一番じゃなかったの。生きていたかったの。家族の元に帰りたかったの。それだけなの。それだけのために、今までずっとここで待っていたのよ・・この『おじさん』たち・・」

ガイのいるのは何もない真闇の中、少女の声が『おじさん』と響いた瞬間、遠くからものすごい勢いで光が駆け抜けた。
一気に視界が広がり、光と色がガイの前に戻る。
広がるのは一面の赤だった、赤い森だ。
見た事もないほどの大量で重苦しい赤。
その中には、全身ボロボロになり縛られたふんどし姿の男たちと、手に手に刀を持った沢山の鎧武者たちが、エコーのかかった奇声を上げながら蠢いている。
大地を覆い尽くす赤にはぷかぷかと沢山の塊が浮かび、奇声が一つ轟くごとに、一つまた一つ、ぽちゃぽちゃと水音を上げて塊が増えていく。
そして、頭がなくなった男たちが沈んでゆく。
延々と続いた地獄、それもやがて終わりをつげ、鎧武者たちは何もなかったかのように場を立ち去ってゆく。

そしてその直後、ガイは見た。
血の海に浮かぶ沢山の頭がいっせいに振り向くのを。
両の瞳からドロついた血を洗い流すほど大量の涙を流し、彼らは皆同じ方向を向いていた。

・・カエリ・・タイ・・

その一言を最後に残し、再び世界は闇に包まれる。

「お兄ちゃん、見えたでしょ『おじさんたち』が?・・可愛そう・・だよね?」
(・・ああ)
「助けてあげたいって思うよね?普通思うよね?」
(あれは・・たしかに、マジ無残すぎる・・よなあ・・うん)
「皆で助けてあげようよ!おじちゃんたちも言ってたよ?千秋たちが力を貸せば助かるかもしれないって!ね!助けてあげよう!お兄ちゃんたちの体をおじちゃんたちにちょっと貸してあげるだけだから!」
(・・ああ、いいぜ・・)

すると、やけに影が濃いその部屋の中、何かがむくりと不自然な起き上がり方をする。
それはガイであって、既にガイではなくなったもの。
全身、特に四肢の骨をめちゃめちゃに折られ、あちこち皮膚から骨が突き出ているというのに、それは立ち上がる。

「・・んふ、お兄ちゃん、優しいから好きだよ・・」
「・・そ、オレは見かケ通りの優しい男ナんだ・・」

――ギシッギシッギシッ

「・・あ、他のお兄ちゃんたちも来たみたい・・」
「・・ははは、大丈夫。あいツらも・・優シい・・」

直後、その部屋を再び狂気じみた悲鳴と怒轟が埋め尽くしていった・・


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