<<8月16日(火)20:00 葦挽樹海・ロッジ>>
その頃、ロッジ内は騒然としていた。
今日の昼間に行っていた練習のあと西林里美が忽然と姿を消し、それを探しに行く、と部員たちを残してロッジを出た顧問の矢部幸造すら、もう3時間以上帰ってこないのだ。
ロッジ内、二つ平行に並ぶ丸太椅子に向かい合って座っているのは、高橋翔乃、久我原節子、栗原芽衣子、アンジュ・リセニーの4人の水泳部員だ。
皆、Tシャツに短パンといった感じのラフな格好をしている。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
深い沈黙。
ランプの明かりがそう見せるのか、皆、あきらかに不安に駆られたような暗い面持ちだ。
「もしこのまま、矢部が帰ってこなかったら、どうしようか・・?」
節子のそう呟くも、なかなかそのあとに続く言葉は出てこない。
全員まだ中学生だ、こんな状況で冷静な判断といっても無理があるのは目に見えている。
「帰ってくるわよ・・先生は・・絶対」
翔乃がそう返すが、無論何の確信もない。
ただ、心からそう強く願っているだけ。
翔乃が矢部に特別な好意を抱いている事は、部員全員がやんわりと気付いていた事だ。
そして、だからこそその言葉はただの思い込みであり、何の信憑性もない。
再び、場は沈黙に沈んだ。
「・・・・」
「・・さ、探しに行きまショウ!」
黙り込む芽衣子の横で、アンジュが思い切った発言に出る。
さすがに、それには他の三人の視線も集中した。
「もし、西林センパイや矢部ティーチャーに何かあったら大変デス・・!」
いつもは独特のボケっぷりのアンジュだが、ここ一番では仲間思いで勇敢な一面を見せる。
親友である芽衣子も、元はといえばアンジュのそこに惹かれた一人だ。
だから芽衣子は、ここで声に出して賛成意見を出せず、判断を仲間任せにしようと逃げている自分――後ろ向きな自分が嫌だった。
「・・で、でもさァ、アンジュ、やっぱそれって・・」
「・・いいえ、アンジュの言う通りだわ。幸い懐中電灯も人数分以上あるし、探しに行きましょう。ただし、探すのはあくまでロッジ周辺だけ、それも4人一緒に探す事。もし、それでだめなら、改めて明日の朝よ。いいわね?」
「オーケー」
節子のたどたどしい言葉を、翔乃が打ち消した。
アンジュもそれに改めて同意した。
芽衣子だけが、何も言えないままそれに従う形となった。
月明かりさえも覆い隠す密林の中。
メンバーたちは意を決すると、各々懐中電灯を手にロッジをあとにした――
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