□ Page.14 『宴の夜』 □

 

――バウウウウウウウウ・・・ン!

都会向きの音とでもいうべきだろうか。
すっかり夜も更けた山神村の片隅に、酷く垢抜けたエンジン音が唸っている。
白いオープンカーが止まっており、近くには、これまた場違いな服装の4人組が立っている。
夏らしいラフないでたちながらも、いかにも都会っ子らしい服に身を包む男3人と、やや地味ながらも生来の美しさで際立つ少女1人。
それは氷川沙弥と例の男たちだった。

「今日はいつもにも増して色々ご馳走になり、本当に有難うございました」
そういって、沙弥は丁寧に頭を下げる。
そのあと、それぞれ3人の男たちに順番に媚びの視線を送ることも忘れない。
それは普通の高校生とは思えない、異様なまでに洗練された動きだった。
「ハハハ、可愛い沙弥のためだ、全然安いもんだよ。なあ?」
ナルシストさが滲み出たような妙に上品にまとめたロングヘアの男がそういうと、他の2人も偉そうに笑いながら同意する。
このロングヘアは稲垣、その後ろにいる小太りの男は馬場、天然パーマの眼鏡の男は小渕という。
皆、同じ有名大学に通う学生だが、成績がいいだけのボンボン育ちといったイメージがその顔に現れている。
遊ぶ金もそうだし、この車にしても、やはり親の金で調達したものだ。
「沙弥は嬉しいです・・・ご主人様」
再び、あきらかに日常とは違う何かを演じ、沙弥が応えた。
これは彼らの『趣向』により、非公式ながら訓練されてきた仕草だ。
稲垣たちの前では沙弥は僕(しもべ)となる。
主人たちに従順に尽くす女奴隷を演じることで、沙弥は男たちに気に入られ、この禁断の世界に存在し続けることを許されるのだ。
そこは常識的な観点から見れば蔑まれるべき世界だが、同年代、年頃の少女たちからすれば、酷く危険だが羨望の先にある異世界。
「ん・・んん」
稲垣が、まるで落とした財布でも拾うかのような自然な動きで沙弥を抱き寄せ、唇を吸う。
やがて唇が離れると、そこに唾液の余韻が糸を引く。
稲垣の覗き込むような視線に、沙弥も思わしげな視線で返す。
「沙弥・・・今日はここからが本番だぜ」
「・・・はい」

最近の沙弥は、ちょっとした不良少女になっていた。
不良といっても、もちろん以前の棗のような凶暴さがあったりするわけではない。
3ヶ月ほど前に稲垣たちと知り合い、逢瀬を重ねるうちに、完全にその優越感と快楽の虜となり、勉強そっちのけで遊びを繰り返しているのだ。
この頃は親に内緒の欠席も隠せない回数になってきており、現に今日も学校を休んで遊びまわっていた。
「あれェ?どこだっけ?」
1人車の中を覗き込んでいる馬場がそんなことをいう。
「あ?いやだから、俺のバッグの中だってよ」
「おお、あったあった」
小渕も車の中に身を乗り入れ、大きな巾着袋を引き出すと、そこから更に何かを取り出して見せた。
どこにでもありそうで、意外と非日常的な物。
それはロープだった。
「ヘッヘヘ、沙弥ぁ〜♪」
小渕はいやらしい笑みを浮かべながら、それを沙弥の方にちらつかせる。
彼らがロープを取り出せば、それをどう使うかなど沙弥には容易に想像がつく。
ここで全く嫌がる素振りもなく、むしろ恥じらいと期待の表情を見せる辺り、沙弥の調教の完成度の高さをうかがわせた。

「さ、来いよ。暗くて人気のないところに行こうぜ」
小渕が沙弥の背中を押して、村を囲む森、道脇の茂みの中へと連れてゆく。
奇妙な沈黙。
稲垣と馬場は一度ニタリ顔を交わすと、遅れてそこに続いた。


        ▽        ▽        ▽


――ギシ・・・ギシ・・・・・
――チュッポチュッポチュッポ・・・
「んむ・・・・ふぷっ・・あぇ・・・」
暗い森の茂みの奥、かすかな水音と何かがきしむ音が響いている。
風が木々を揺らし、一瞬だけ月光が落ちたその場には異様なシルエットがあった。
男3人の中央には、目隠しをされ、後ろ手に縛られ、太い木の枝から吊るされる全裸の沙弥がいた。
沙弥は尻を上げるようにして重心を前に倒し、稲垣の下半身の辺りで何やら必死に顔を動かしている。

「沙弥・・今舐めてるのは、誰のチ○ポでしょう?」
わざと小渕の肩元に頭を乗せた状態で、小渕がそういう。
声の発生点で、自分がハズレだと見抜かれないためだ。
「んぶぁ・・・・・は、はい、これは稲垣様ですね」
しかし、これまで散々調教しまくってきた沙弥にはあっさりと見破られる。
迷う素振りすら見せなかった沙弥に、さすがの3人も驚きの顔を見合わせあった。
「すごいな・・・・大正解だぞ、沙弥」
この沙弥の後ろから響いた声は馬場だ。
馬場は何とかつま先がつくくらいまで吊り上げられた沙弥の後ろに中腰になると、白い尻の肉を掻き分けてそこにむしゃぶりつく。
3ヶ月前まではキュッとすぼまっていたその排泄用の穴も、稲垣たちに幾度となく使われてきたせいで随分と緩まっている。
舌先を尖らせて突きこめばあっさり入るが、小渕は特にそうしようともせず豪快に嘗め回した。
――ギシ・・・ギシ・・・・・
「・・ふ・・・んんぅ・・・・・」
ベットリと唾液を塗りつけられた肛門に馬場の荒い吐息や鼻息がかかるたび、沙弥は羞恥と快楽に身をよじらせる。
だが、ちゃんと稲垣への奉仕も忘れない。
最初に肛門を嘗め回された時は、恥ずかしさのあまり泣いてしまったものだったが、もうすっかり体が馴染んでいる。
今の沙弥には性交奴隷としての余裕があるのだ。

「さて、沙弥、もうフェラはいいよ」
「・・・はい」
そういって稲垣が腰を引く。
そして、他の2人と何やら視線を交し合った。
それは普段通りの声で、沙弥ですらその奥にある物を見抜くことはできない。
そこに続く展開が自分の予想と全く別のものだなどとは、沙弥は知る由もなかったのだ。

「沙弥、楽しかったかい?」
そんな稲垣の言葉。
沙弥は当然『今日のこと』を聞いているのだと思う。
「・・・はい、あちらこちら楽しい所に連れて行って頂き、本当に楽しかったです」
「あっははは、オレたちも沙弥には随分金かけたからなぁ」
沙弥が応えるや、すぐそこに続く小渕の言葉。
しかし、その言葉に沙弥は微妙な違和感を感じる。
「沙弥は今までん中じゃ、一番楽しめたよ」
「・・・え?」
最後の言葉は馬場。
『今までの中』
『楽しめた』
妙に切り捨てるような言葉遣い。
沙弥の心の中で違和感はズルズルと触手を伸ばし、不安へと姿を変えてゆく。
「あの・・・ご主人様方・・いったいどういうことでしょう??」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
沙弥が不安から吐いた言葉に、稲垣たちは沈黙をもって返す。
そして、やがてそれが含み笑いになった頃、沙弥の不安もまた、恐怖へと変貌しつつあった。

――ズリュッ!
いきなり尻を持ち上げられ、男根を挿入される。
普段であれば、これは別に何も特別な行為ではない。
むしろ自ら誘うくらいだ。
だが今は違った。
それは、得体の知れない行為に他ならなかった。
「な・・・何を・・・・・・・んっ・・・うんっ・・・」
――パンッパンッパンッパンッ!
「やっ・・・は・・ん・・・・あン・・っ」
身動きの取れない状態で女の内臓を突き上げられ、沙弥は思わず声を上げる。
だが、いつもとは違い、それは最低限の声量に抑えられていた。
稲垣たちが何か言い出さないかという恐怖が、聴覚に集中しているからだ。
――パンッパンッパンッパンッ!
そして、適度に沙弥を怯えさせたところで、やっと男たちは口を開き初めた。
「沙弥・・・お前はもう卒業だよ」
「え・・?」
「ハハハ、もうすっかり淫乱女じゃん、無事調教(済)ってことだよ」
「わかっかなぁ・・女の調教って過程は楽しいんだけど、済んじまうとなんか萎えるんだよね」
「そうそ、オレたちの獲物はあくまで純真な乙女だからさ」
「あ・・・あの・・・・・んんっ・・!」
――パンッパンッパンッパンッ!
「先週の土曜にさ、新しいコが手に入ったんだよ。沙弥と同じ高校生でさ、どっちかっつーと可愛い系?」
「うんうん、亜美は可愛い系だ」
「で、来週辺りからそっちの方にかかりっきりになるんでさ、沙弥とは今日までってことになるんだよね」
「はう・・・・そ・・そんな・・・・いやです・・・」
「ハハハ、まあ嫌かもしれないけどさ、我慢してよ」
あきらかに嘲りを含んだ楽しげな口調で稲垣たちは笑いあう。
それは、今まで形はどうあれ、自分に優しくしてくれていた男たちの声とは思えなかった。
沙弥が見ていた夢は、一瞬で砕け散った。
周りの友達に対して感じていた優越感も、その絶望という名の本性を表す。
『自分は弄ばれていただけ』
舞子に面と向かっていわれた時、全身全霊が拒否した言葉が今、防御力を失った沙弥の中に染みこんでゆく。

「でもさ、沙弥。オレたちもそんな冷たい男じゃないぜ。ちゃんと置き土産をしていってやるよ。オレたちを忘れないようにね」
そんな時、稲垣がいった一言に沙弥は凍りついた。
稲垣たちは沙弥の体について知り尽くしている。
今まで、様々なプレイを楽しむために沙弥自身が全てを教えていたのだ。
そう、生理の周期までも。
「え・・・・まさか・・・」
「そ♪」
――パンッパンッパンッパンッ!
「や・・・・やだ・・・やめてぇぇ!!」
――ギシッ・・・ギシギシッ・・・・!
沙弥は弾かれたように激しくもがき始める。

稲垣がたった一言だけ返した言葉は、まだ全く核心に触れていなかったが、沙弥には彼らの真意がはっきりとわかっていた。
今日は沙弥にとって、最も『大当たり』に近い日だ。
だから今行っている行為は、人間的なセックスではなく動物的な交尾。
その行為が本来持つ意味合いを、男たちは実践しようとしているのだ。
――パンッパンッパンッパンッ!
「やぁっ・・・・やだぁぁっ!!」
「ハハハ、そういうなよ。これは卒業証書なんだからさ」
「今までのコたちにだって、皆あげてるんだぜ?」
「ま・・でも、最後だけに、『当たった』かどうか確認し辛いのは寂しいけどな」
「あ、そういえばよ・・・どうも、美香子、産んだらしいぜ?」
「えぇっ?」
「・・マ、マジで!?」
「やっべ、オレたち愛されまくってる?」
「つか、誰の子になるんよ?」
「誰のでもいいじゃん、関係ないし♪」
「うわっ、馬場ちゃん鬼畜!」
「アッハハハハ・・・」
――パンッパンッパンッパンッ!
「いや・・・離して・・・許してぇぇっ!」
沙弥は力の限りもがき抗おうとする。
だが、そのほとんどはあっさりとロープに吸収され、残ったわずかな力も大学生男子の前では赤子程度のものだ。
声を上げて助けを求めようにも、山神村の夜は早く、またこの辺りには特に民家も人通りも少ない。
更にここは結構な森の奥。
何より、この場所を稲垣たちに教えたのは、誰でもない沙弥自身だった。
――パンッパンッパンッパンッ!
「あ・・あっ・・・お願いです・・・助けて・・・・!」
「ダ〜メ♪」
――パンッパンッパンッパンッ!
自らの無力が、更に沙弥をどんぞこへと追い落としてゆく。
目隠しの下から、とめどなく涙が零れ落ちる。
絶望に支配された頭に思い浮かんだのは、親友であった少女の姿だった。
自分を心から心配してくれていたのに、自ら切り捨ててしまった舞子の姿だった。
『あの時、舞子のいうことを聞いておけば・・・』
そんな酷く都合のいい後悔。
だが、既にバッドエンドを確信している心中で頼れるものといったらそれくらいなのだ。
(ごめんね・・・・舞子、ごめんね・・・・・・)
――パンッパンッパンッパンッ!
(わかってるの・・・これは舞子を裏切った罰なんだわ・・・・)
――パンッパンッパンッパンッ!
(・・でも、でも・・・でも、私は汚い女だから助かりたいって思っちゃう・・・いいよね?いいわよね?・・思うだけなら、誰にも迷惑はかからないから・・・)
――パンッパンッパンッパンッ!
「アッ・・・・やべ、出る・・・!」
「いや、誰か・・・・・・・いやぁぁぁぁぁっっ!!」


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