□ Page.17 『ノゾマナイカタチ』 □

 

夕暮れ時。
山神村の外れにある神社。
ここは舞子にしても、敦にしても、何かと縁のある場所だった。

「パッキー食べる?」
「ああ、じゃ、2・3本くれ」
2人は無人の境内で、縁に並んで腰を下ろしていた。
ここにくる途中にコンビニで買ってきたお菓子をつまみながら、何かを照れ隠しにするように雑談でお茶を濁しているのだ。
「あれ?サラダ味買ってなかったか?」
「あ、サラダの方がよかった?大丈夫、ちゃんとあるよ。2つ買ったの」
そういって、舞子はコンビニ袋からパッキーの容器を取り出す。
――カタッ
その時、その拍子で袋の中の別の容器も一緒に零れ落ちていた。
そして徐にそれを拾う舞子は、不意にピタリと動きを止める。
コンビニに寄ったのは、実はお菓子を買うためではなかった。
近所の自動販売機で売っている『コレ』を買うためだったのだ。
どこかお菓子だかタバコだかの箱を髣髴とさせるこれは――コンドームの箱だ。

「あ・・・あはは・・」
そこで、あの困り笑い。
敦の保護欲と独占欲を掻き立てる舞子の笑み。
それも他に人のいないこの場所で、自分だけに向けられたものだ。
敦の中の緊張の糸は優しく溶かされた。
――ガバッ
敦の匂いが舞子を包む。
「・・えぅっ?」
照れ隠しの延長か、舞子は敦の腕の中で間抜けな声をあげる。
父親以外の男性に抱きしめられるのは初めてだった。
「岡本・・・すっげぇ可愛い!」
相変わらずムードに欠ける敦の愛情表現。
だが、言葉を飾らないだけに純粋で嘘がない。
こそばゆいような嬉しさが、舞子から硬さを取り除いていく。
敦に対して開き始めた心の最奥、一度粉々に砕かれた乙女心が新たなる芽を出す。
「有難う。すごく嬉しい。嬉しいよ・・」
舞子は手応えを感じていた。
敦とならば、この恐怖も乗り越えられそうな、そんな手応えを感じていた。

「ねぇ・・・おっぱい、吸って?」
舞子は自らブラウスのボタンを外すと、飾り気のない純白のブラジャーをたくし上げようとする。
だが、その手を途中で制止して、敦の手が続きを行った。
『さくらんぼ』としか比喩しようのない愛らしい乳首が姿を現すと、敦はそれにむしゃぶりつく。
口の中で転がすように嘗め回す。
「・・・ん」
思わす舞子が呻く。
その感覚はくすぐったいとかそんな曖昧なものではなく、精神的な快楽そのものだった。
敦はオナニー・フェラチオ以外経験なし、舞子はレイプされたとはいえ、自らその行為に参加しようとしたこと自体は経験なし。
幾らか曲解すれば、2人は未だ童貞と処女。
だが、初体験独特の恐る恐る感はほぼなく、双方共に積極的だ。
「ヘヘ・・もう片方も吸わせろよ」
「ふふふ・・気に入った?」
「ああ、すっげぇやらかくて気持ちいい・・」
「あ・・・・ン・・」
舞子は敦の頭を抱き寄せ、『えいっ』とばかりに胸に押し付ける。
すると、圧迫された小ぶりな胸は、敦の顔を心地よい弾力で愛撫する。
気が遠くなるような優しさの中、敦はしばし口での愛撫をやめ、そこに頬を預けて目を閉じた。
――とくん・・とくん・・とくん・・
聞こえてくる鼓動が、敦を眠りよりも深い安らぎへと誘う。
どこか懐かしい感覚は、幼い頃に母親に抱かれていた頃の記憶。
だが、それとは明らかに違う点があった。
母の胸は乳児からすれば広大な世界そのものだが、今、目の前にある胸にそんな絶対さのようなものはない。
両手を回せばそれだけで征服できる、等身大の安らぎだ。
しかし、だからこそ自分の手で守ることができる。
今は赤子ではなく高校生であり、もう腕力だけなら、昔絶対の存在だった母親よりも断然に強い。
これまでむやみやたらに振り回してきた力に向けるべき方向性がついたことを、敦は深く実感していた。
「(これからは、俺が守ってやっからな・・)」
口の奥で小さく呟かれた言葉は、舞子の鼓膜を揺らすことはなかったが、優しい音を刻む心臓に直接届けられた。

「ねぇ・・高田」
「・・あん?」
2人は縁に上半身を投げ出し、真っ赤に染まる空をぼーっと眺めていた。
神社には相変わらず人の気配など欠片もなく、聞こえるのは木々のさざめきとカラスの声だけだ。
「あの・・オナニーする時、私をオカズにしてたんだよね?」
「あ・・ああ、毎日な。そうそう、岡本が前に馬鹿女どもに絡まれてた時も、お前と別れてからトイレ行って、すぐヌいたんだぜ」
「・・あ!じゃあ、もしかしてあの落書きって・・・」
「あ・・ああ、あれも・・俺・・・・かな」
ばつが悪そうに目線を逃がす敦に、舞子は少し頬を膨らませて見せるが、それもすぐ含み笑いに消えていった。
「ねっ、高田の中の私って、どんなコなの?」
「え・・・っ?いや、う〜〜んとな・・」
「あはっ・・どうせ、すっごいエッチなんでしょ?」
「ちぇっ、余裕でバレてら」
「あはは・・」
高田は照れ隠しに舞子のお下げを弄くりまわす。
だが、舞子にペースを握られまいと素早い切り返しも忘れない。
「頭の中の岡本はさ・・結構恥ずかしがるわりに、自分から誘ってくるんだ」
「あはは・・すごいすごい。当たってるじゃん」
「でさ、いつも最後が近づくと、俺は岡本に『膣に出すぜ』って言い、岡本も小さく頷くんだ」
「う・・うん」
「あとは一直線さ。バッコンバッコンとラストスパート。で、俺は岡本の膣にたっぷりぶちまける。そしたら、岡本はこう叫ぶんだよ『赤ちゃんできちゃう〜!』って・・・で、終わり・・・かな」
「くぷっ・・・ふ・・ふ〜〜ん」
「お・・お前、今、笑ったろ?」
「だ・・だって、高田ったらすっごい真面目な顔でロマン語ってるんだもんっ」
「わっ・・わりぃかよ!?」
「あはは、ゴメンゴメン・・・・でも、そっかそっか・・・・」
そこで舞子は顎に手を当て、1人何やらフムフムと頷いてみせる。
それは敦には酷くくすぐったい沈黙だったが、運良く、そう長くは続かなかった。
空を見ていた舞子は目線だけを流し、敦の横顔をのぞき見る。

「その台詞、あとでいってあげよっか?」

「あ・・あん!?」
「あ、もちろん『アレ』はちゃんとつけるんだよっ?あくまで擬似的にだから。で・・でも、オナニーよりはリアルだと思うけど・・」
「え・・マジで?いいの?」
「・・うん。そっちの方が、私的にもエッチっぽいし・・ね」
「うおおおお!マジか!」
歓喜の叫びと共に敦は飛び起きる。
しかし、すぐにまた寝る。
「なぁ、岡本。パンツ脱いでここにまたがれよ」
「え?」
「シックスナインしよーぜ」
「あ・・う、うん・・・しよぅ!」

――チュク・・チュクチュクチュク・・
そこにあるのは、小さな水音とかすかな息づかい。
俗にシックスナインと呼ばれる行為が始まっていた。
下半身を露に寝転ぶ敦の上には、同じくパンツを脱ぎ去った舞子が逆方向に覆いかぶさる。
お互い初体験同士ながら、果敢に相手の弱点を責めたてあっている。

「・・んっ・んむっ・んぷぁっ・・・ひぃんっ・・」
舞子は今まで読み聞きした知識を活用し、フェラチオに夢中になっている。
一昨日の恐ろしい記憶も今は薄く、目の前にそそり立つ男性器は、舞子が憧れていたままの姿でそこに存在している。
ここから小便が出るから不潔だとか、そういう考えなど全くない。
それはいうなれば『エッチの象徴』なのだ。
触ったり・舐めたり・咥えたり・しごいたり、舞子が悪戯心を起こすたびに、自分の股下から敦が呻き声を漏らす。
舞子にはそれが楽しくて仕方がない。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
一方、敦も負けてはいなかった。
何せ、夢にまで見た好きな女子の女性器を、思いのままに愛でることが許されているのだ。
生まれもった攻撃性を総動員し、そこに鼻先から顔をうずめてゆく。
舐めれば舐めるほど白いあぶくで潤ってゆくそこからは、なんともいえない香りがした。
言葉では表しようのない、透明ないい香り。
敦は溜まらずそれを吸い上げると、再び攻勢に転じてゆく。

――チュク・・チュクチュクチュク・・
「んむ・・あ・・あぁんっ・・」
「アッ・・・ハァ・・・ん・・・」
それから1分も経たない内に、舞子対敦の攻防は第2の局面を迎えていた。
お互い攻撃し放題なのはいいが、その反面、一切の防御もできないのだ。
2人の若い肉体はその異様な感触をすぐに快感と捉え始め、抵抗の余地なくその浸食を受け始める。
「ん・・・高田・・・あっ・・・き、気持ちいい?」
「なっ・・岡本の方がっ・・・く・・気持ちよさそうじゃん・・?」
何気なく交わしたのは、売り言葉に買い言葉。
そこに続く沈黙の中、お互いが根拠のない攻撃性をむき出しにしてゆく。
「ふぅ〜ん・・・?」
「ヘッヘヘヘ・・・」
「・・絶対、先にイカせてあげる」
「くく・・おもしれぇ・・」
――チュク・・チュクチュクチュク・・
酷く淫猥なケンカは続く。
2人とも心地よい脱力感の中、それに呑み込まれないように必死に頑張る様はどこか微笑ましく、間抜けだ。
しかし、やがて拮抗していた勝負もゆっくりと傾き始める。
「うぷぁ・・あ・あんっ・・・・あぁんっっ」
ある瞬間から、途端に敦優勢となった。
今まで無作為に力押しを続けていた敦は、舞子のクリトリスの存在に気づいたのだ。
そしてそこは、舞子にとって決定的な弱点だった。
そこを責めるのは、まるで弓の弦を弾くよう。
ちょっとした刺激で、易々と肉体全体を震わせることができる。
「ひゃっ・・・ひぅん・・あ・・・・っく・・ぅン」
相手の弱点を見つければ、そこを容赦なく突き倒すのがケンカの必勝法。
一気に畳み掛ける敦の前に、舞子は虫の息同然だ。
もう攻撃も完全に止まっていた。
体がいうことを聞かなくなっているのだ。
「んぷっ・・・おら、どうした岡本。もう降参かぁ?」
「んふぅ・・・ふぅ・・・・・こっのぉぉぉ・・・・ひぁっ!」
「はははは・・・じゃ、そろそろトドメといくぜ♪」
「・・うぁっ・・・・は!」
敦は指先でクリトリスをこすり・弾きしつつ、秘穴全体を音を立てて嘗め回し・吸い上げる。
否応なく階段を昇らされる舞子も、とうとう最後の一段へと足を伸ばしていた。
「やんっ・・・・ダメッ・・ダメ・・・・イ・・イク・・・・ぅ・・ぅぅ!」
――ぷしィっ!
勢いよく潮を吹いて崩れ落ちる舞子の下で、敦は小さくガッツポーズをとった。


        ▽        ▽        ▽


もうカラスの声も聞こえない。
鳥が散歩をするには辛い時間帯だからだ。
世界は強烈な紅から深い紺へと、その装いを変えていた。

「おっし、じゃあ来い、岡本」
「う・・うん!」
しかし、ここには2人だけの時間がゆっくりと流れている。
とても神社の境内などという神聖な場所であってはならぬような行為は、今まさに最終幕に入ろうとしていた。
――チュプ・・・
「ん・・・・んんんん・・・・!!」
先程の場所に敦を寝転ばせたまま、舞子は騎乗位での接合を試みていた。
自らの肉体が自由にならない状態でのセックスは、さすがにまだ怖かったからだ。
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
だが・・・。
ゆっくりと腰を下ろしてゆくが、舞子の膣内の異物感は鈍い痛みと嫌悪感しかもたらさない。
何度も何度も動きを止め、息を整える。
下から心配そうな顔で見上げる敦に例の笑みを返しつつも、その額には脂汗が伝っている。
つい先程までは、もう少しスムーズに行くものだと思っていた。
いい流れがきていると思っていた。

《――グジュ・・グジュ・・グジュ・・・》
《っ・・痛い!痛い!痛い!痛い!いたぁいいぃぃぃぃぃぃ〜〜ッ!!!》

だが、いざ『事』に及ぶと、途端に今までちゃんと命令を聞いていた舞子の脳が反乱を起こしたのだ。
沙弥の懇願の叫び。
男たちの笑い声。
自らの悲鳴。
そして、あの身を引き裂くような激痛。
恐怖の記憶。
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
行為が滞り始めるや、舞子の顔はみるみる青ざめてゆく。
リラックスしていたはずの肉体も、もう別人のように硬直していた。
せっかく潤った女泉も、もう乾いてきていた。
「・・・・・・」
事態が既にゲームオーバーに向かっていることに、敦は気づき始めていた。

「・・いや・・・ダメ、できない・・・・・・・こ・・怖い・・よ・・・」

それから数分の後。
舞子の瞳から流れ出す大粒の涙と共に、その行為は2人の望まない形での終焉を迎えたのだった――


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