触手責め。まさかの触手責め。
わたしは今、触手責めされています。ねばついた甘く茶色い粘液で濡れ鼠となって。
わたしの身体は今、不気味なイソギンチャクを思わせる、奇妙な花弁の植物に絡め縛られ、ウネウネ蠢くソレに、弄ばれています。
「い、いったいどうしてこんな状況に……?」
不快さと、戸惑いと、焦燥と、猛烈な嫌悪感。
それと、物凄く甘ったるい、チョコレートの味。あん!熱いっ!なのにっ!や、やめてぇ…
触手(というのだそうです古代では)が、胸の谷間(あまりないですけどっ)をのたうちます。
ずる ・・にゅちゃぐぢゃ…ぐにゅにゅにゅにゅ〜。
「ひああああっ!ふぁ!うふあっ!やだぁ!そこ、触らないでぇ…はああああっん!」
ビクビクビクッ!…わたしの身体が、痙攣しています。
湯煎したチョコそのものな熱い粘液が染み込み、信じられない事に、すごくきもちいです。
「らめぇ!ふあああああああっ!!!」
猛烈に甘い匂いの汁滴る疣付きの先端で敏感なところを弄られるたび、ゾクゾクっと痺れるような、ヘンな感覚が身体の奥から溢れて、力が抜けてしまうのです。
「はぁ、はぁ、ふにゃあぁ…どうしてぇこんなじょうきょうにぃ…」
喘ぎ疲れて意識がぼおっと霞んで、わたしはもう何度も繰り返した疑問を口にします。
《「なぜ?」「なんでですかねぇ」「だれかわかるー?」「さー?ぴんちですか?」「おもいもよらぬできごとでしたな」》
賑やかに答える、いや、各々気侭にトークを繰り広げているのは、ちっちゃな妖精さんたちです。
ああ、可愛いなあ。って、今わたしはピンチなのです。な、なんとか、しないと!
――状況を整理するために、記憶を数時間前まで遡らせる必要があります。

・・わたしたち人類がゆるやかな衰退を迎えて、はや数世紀。
すでに地球は『妖精さん』のものだったりします。現在、人類というのは彼ら妖精さんの事なのです。
10cmほどの可愛らしい方々ですが、わたしたち人間には魔法にしか見えないような、超高度な技術力をもっています。
わたしは、妖精さんと人間の間を取り持つ国連公務員『調停官』のお仕事をしているのですが、人見知りな妖精さんは滅多に人間の前に現れませんし、特に何もしなくても関係は良好ですので、実質殆どお仕事はなかったりします。
・・いいえ、わたしにも、大事なお仕事がありました。
お菓子作りです。
妖精さんは魔法のような超技術で何でも出来てしまうのですが、何故か、お菓子作りだけは苦手みたいです。
そして、妖精さんはお菓子が大好きですので、今日も『にんげんさん』のわたしがお菓子を作っていたわけです。
しかし。衰退したわたしたち人間は慢性的な物資不足で、お菓子、特にチョコレートの材料のカカオも手に入りにくくなっておりまして。
「だから今日はチョコレートが作れません。ごめんなさい」
わたしのチョコ菓子を楽しみに集まって下さった妖精さんたちは落胆しましたが、すぐに会議状態に突入しました。
《「ぶっしないですか」「ぶっしって?」「ちょこのざいりょうです?」「かかおですな」「ないとにんげんさんちょこつくれないのだ」「ちょこたべれないかもです?」「しょぼーんです」》
魔法のような超技術があるのに。不思議な方々です。
「ざいりょうがあればにんげんさんちょこつくるですか?」
「はい。カカオ豆があれば、作れるのですけど…」
《「まじで?」「じゃあかかおつくるー?」「いでんしくみかえですな」「かかおはたねです?」「けんきゅうかいはつかも?」》
…妖精さんは植物を遺伝子レベルで組みかえる魔法が使えます。
以前漂流した島で国を作った時、飴玉の実がなる被子植物ならぬ菓子植物を開発しちゃったし。
それなら自力でお菓子作ればいいのに…。
それから1時間後。
「できたですー♪」
「早いですねぇ。早すぎなんじゃ…?」
さすが、無人島に数日で高度な科学文明を築く人たちですね。相変わらずデタラメな技術力です。
「せんもうちょこごけ、いうです」
妖精さんが作った植物は、件(くだん)の不気味なイソギンチャクでした。
あれ?これ、以前にわたしが女王を務めた妖精さんの国で、麻薬効果があるから禁止した記憶が…。
「かいりょうして、ちょこのみができるのですー」
たしかに、綿毛部分の先端から滲み出ているこげ茶色の液体から、甘くて美味しそうな香りがします。
うう、でも、気色悪いなあ。うねうね蠢いてて、とても食欲が…
おそるおそる、舐めてみました。
「うん?あ、甘ーい!これは確かにチョコレートみたいですね」
美味しい!口いっぱいに広がる、甘ぁい芳香。頭が少しくらくらするような、心地良い幸せな味でした。
ふぁぁ…なんだか妙に幸せです。なん ・・で?だろう…?
妖精さんの作る改造食物は微妙〜なのが多いのですが、これは奇跡的な成功例みたいですね。
「これならとても美味しいチョコが出来そうです。けれど、量がすくないのでは?」
妖精さんは小っちゃいですが、とても大勢いらっしゃいます。
衰退しちゃったわたしたちより多数派の方々なのです。
《「すくないですか」「おいしいかも?」「しょうひぶんめいにはたりんですな」「そだてるです?」「にんげんさんよりおおきくそだてるのだ」「にんげんさん、ちょこたくさんつくるですー」》
妖精さんたちは、この画期的な妖精植物を大きくそだてる気満々でした。
疣付きの先端がうねり粘液が滲む、その不気味な植物を、ですか…?
わたしは、少しイヤな予感がしましたが、チョコの美味しさに目が眩んで、許可してしまいました…。

そして、今。
(い、いったいどうしてこんな状況に……?)
続きます。


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