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リース達の悲劇の饗宴から数時間後・・・。
今、獣人たちの多くはここ、聖都ウェンデルが見下ろせる崖へと
赴いていた。理由は至極簡単である。いよいよ、人間たちの希望
の象徴であるウェンデルを落とし、獣人がいかに優れているかを
世界の人間たちに思い知らせるためである。



聖都ウェンデル。それは世界の人々の、まさに希望の象徴。
流れる川の流れが絶える事のないように、人の生死が永遠に続く
ように、また人々の悩みも絶える事はないのである。
ウェンデルの光の司祭は、そんな人々に行くべき道を指し示し、
人生に新たなる光を差し伸べる、世界中の人々が尊敬する人物で
ある。この、自分たちにとって忌々しい人物を葬り去り、世界に
は人間にとっての希望はもう残されていないのだという事を、人
間どもにわからせてやらなければならない。獣人たちの欲望は、
今まさに叶えられようとしていた。
襲撃隊の隊長である獣人ルガーは、これから自分たちが破壊しよ
うとしている都を眺めていた。朝霧につつまれてたたずむその様
子は、見ている自分の心を癒してくれるかのような感覚に思わず
捕らわれていた。かくいうルガーにも悩みはあった。一人の男と
して、獣人も、人間も関係なく、ただ強くなりたかった。ひたす
らに強さを求めて戦いに明け暮れ、いつしか獣人王にその自分の
力を認められて、今では獣人たちを指揮するリーダーにまで成り
上がったのである。だが、ルガーはそれで満足できるような男で
はなかった。野望があるわけではない。けれども、自分が今一番
強いと思っている獣人王に、まだ知らぬ格闘奥義を伝授してもら
いたいと、強く願っていたのである。しかし、それはかなわぬ夢。
奥義とは一子相伝であり、その資格があるのは息子のケヴィンた
だ一人である。そのケヴィンが獣人王の意思をついで、格闘奥義
を真剣に学ぶのならばそれでもよかった。だがこともあろうに、
ケヴィンはそれを学ぼうとはしなかった。そのことが、ルガーに
は侮辱以外の何者でもなかったのだ。怒りによって、独自に己を
磨き上げたルガーは、遂に闇の格闘奥義を身につけ、獣人王をの
ぞいたあらゆる獣人の頂点に立ったのである。しかし、それでも
ルガーは一時たりとも満足できなかったのだ。
そして今、自身はあらゆる悩みに答えるという光の司祭のいる、
聖都に赴いているのだ。例え修羅に身を落とせし者でも己を振り
返ると言われる場所にいて、なんぞ自分自身を振り返らずにいら
れるだろうか。ルガーは思わず、
(光の司祭とやらならば、自分の悩みをいい方向へ導いて下さる
かもしれぬ・・・)
と思った。その時であった。
「ルガー様!侵攻の準備が完了いたしました!」
知らせに来たのは若いウェアウルフの一人であった。
その言葉を聴いて我に返ったルガーは、思わず自身を鼻で笑って
いた。そして、不思議そうに見つめる新兵に向かって、
「よし・・・!これより我々は朝霧に乗じて聖都ウェンデルを陥
落させる!各個別に敵を襲撃し、我らの悲願を果たすのだ!!」
「はっ!」
号令を出していた。土煙を上げて進む獣人たちを見ながらルガー
は思った。
(人間ごときに解決できる悩みならば、このルガーは人間以下と
いうことになる。それだけは、この自尊心が許さぬ・・・)
そして、自分もウェンデルに向かって進軍して行ったのだった。




一方、同時刻ジャドの地下牢では、リースたちが獣人たちによる
陵辱からようやく解放され、静かに寝息を立てていた。
あれから散々に精をかけられ続けたリースたちには、到底逃げる
気力も体力も残ってはいなかった。特にシャルロットは、初めて
にもかかわらず凄まじ過ぎる体験をしたことによって、ほぼ完全
に自我が崩壊しかけていた。
「あぁぁぁぁ・・・・・・あ・・・・ああぁ・・・・」
恐怖に震え脅える声が、声にならない声と化してあたりに響いて
いた。そして、それに答えるものはいなかった。一つの闇の空間
いや、一人の人間を除いて。
「ふん・・・まったく手間のかかるお姫様たちだことだ・・・・
これでは、いつ私が自由の身になるのかわかったものではない」
男は悪口をたたきつつ、牢の鍵を開けるとリースたちを抱え上げ
そのままそこを後にした。数時間後、逃げ帰ってきた獣人たちは
驚きの表情を隠せなかった。今度の戦いの唯一の戦利品である女
たちが牢屋からいなくなっていたからである。そう、戦は獣人達
の結果的な敗北に終わったのである。
「畜生!いったい、何がどうなってるんだ!?」
「ウェンデルの連中には一泡ふかされるわ、女どもはいなくなる
わ、まったくなんてこった!」
「とにかく!こうなっては仕方ない。一度、ビーストキングダム
まで引き上げるぞ!」
そして、獣人達はジャドから引き上げたのである。



「んん・・・?・・・・・ここは・・・・・・?」
次にリースたちが目覚めたとき、そこは船の上だった。
運命の導きか、それとも悪しき者達の陰謀か。リースたちは要塞
都市ジャドを脱出し、自由都市マイアへと向かっていた・・・。


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