第三章「Change・変化の兆し」
「えーっと、『この粉末に雌牛の骨の髄を加えて、さらに細かく砕く』、と・・・」
所狭しと並べられていた秘薬の材料たちは、魔道書の示すレシピに従い、あるものは粉砕され、あるものは油やアルコールと混ぜることにより、そのエキスを抽出され、熱せられ、冷やされ、蒸留され、置換され、等々、複雑な過程を経て、徐々に一つにまとめられて行く。
秘薬作りに取り掛かってから、はや数時間。いつもならば、そろそろこの辺りで「優雅なティータイム」あるいは「ちょっとコーヒーブレイク」と称して、街中の甘味処をはしごして回るリナなのだが、今日ばかりは一心不乱に作業にのめり込んでいる様だ。
手の動きを休めることなく、魔道書の指示を確認し、時折、大きく膨らんだ自分のバストを夢想しては、にやりと笑みを浮かべるリナ。
その有様は、即売会で念願のアニメキャラフィギュアを手に入れて、自室に篭って黙々と組み立てに勤しむ「ヲタ」を思わせる・・・・・・。
そしていよいよ・・・・・・。
「『最後にウラジロオオバモドキの葉をよく揉んで加えると、油臭さが抑えられ、爽やかな香りが立ちます』、って、ただの香り付けかい、この葉っぱは!」
お金を支払って購入した材料のうち、もっとも高価だった葉っぱを握り締めて、怒りにわなわなと拳を震わせるリナ。
だが、何はともあれ、これで秘薬は完成である。数多の材料は、最終的に、小さ目のボウルの半分にも満たない、蜂蜜か香油を思わせる黄金色の透明な液体へと姿を変えていた。
しかし『外道の書』を信用するなら、これだけあれば一人分としては十分過ぎるくらいの分量だ。
「ようし、これで完成、と。少なくともここまでは順調だわね」
とろりとした秘薬の感触を指先で楽しんでいたリナは、満足げな笑みを浮かべた。
午後の穏やかな日差しは既に勢いを失い、ゆっくりと翳りに転じようとしている。ここらで軽く一息入れておこうか。ちょっと「小腹」も減ってきた事だし・・・。
そう考えながらも、リナはボウルの中で揺れる黄金の液体の誘惑から目が離せない。暫しの逡巡の後、結局、リナはこのまま引き続いて魔法の実践に取り掛かることにした。
あのリナの食欲を捻じ伏せるとは、恐るべし、「うしちちの法」!
ベッドの上で上半身だけ裸になると、リナは、まずは固く絞ったタオルで乳房や乳首を拭き清めて行く。
結果、嫌でも己が胸の貧相さを再確認することになり、知らず知らずにその口から溜息が漏れる。
「上から覗くような視線で見るから、実際よりも小さく見える」という言葉を信じない訳ではないが、手の平にすっぽりと収まってしまうその大きさは、やはり年齢不相応としか言い様が無い。
しかも、それだけならまだしも、リナには、彼女の行く先々に出現しては、そのコスチュームで巨乳ぶりを強調するおジャマ虫、金魚のうんち、「白蛇(サーペント)のナーガ」という存在があった。
脳味噌に廻るべき栄養をことごとく取り込んだナーガの巨乳が傍らで揺れるたびに、リナの胸の貧弱さがより一層際立ってしまう。
「何時までもいい気になってんじゃないわよ、ナーガ! この次会う時には、あんた以上の巨乳になって、あの馬鹿笑いも出来ない位に驚かせてやる!」
今はまだ小さなその胸を、ぐっ、と反らせて、リナは『宿命のライバル』(「魔道士」としてではなく、あくまでも「胸の大きさ」に関してのみだが)にふつふつと対抗心を燃やし、堅くこぶしを握り締めた。
さて、色々な準備も済んだところで、いよいよリナは、ボウルの中の液体を、その手の内に垂らし、ゆっくりと掌全体に伸ばして行った。
とろり、とはしているが、特にべたつくでもなく、かと言って、指の隙間から流れ落ちるほど緩いわけでも無い。あたかも化粧品の乳液を思わせる、しっとりとした手触りをしばらく楽しんでから、リナはおもむろに手の平で自分の乳房を包み込んだ。
「ひっ! 冷たっ!」
敏感な乳首に薬液の冷たさを感じて、思わず小さく悲鳴を上げるリナ。だが、そのまま辛抱していると、肌の温みが移り、さらにしっとり感の増した秘薬から、微かに良い香りが昇ってリナの鼻腔を刺激する。
「あ、ホントだ。爽やかな香り・・・」(・・・・・・例のあの葉っぱ、使ったんだね、結局・・・・・・)
その香りを楽しむかのように大きく息を吸うと、リナは瞳を閉じて呪文の詠唱を始めた。
今はもう話す者の無い、古の王国の言葉で、一字一句間違うことなく、写本に記された通りの呪文を囁く様に唱えながら、リナはゆっくりと、その手で自らの乳房を揉むようにして、秘薬を塗り込めて行く。
秘薬の効果なのか、それとも単にマッサージの結果なのかは判らないが、その掌の中のリナの乳房が徐々に温かみを持ち始める。
血液が胸に集中してくるような感触に、リナの期待は高まる。ひょとして、ひょっとして、今度こそ!
「やだ。乳首、勃ってきちゃった。本当に血が集まってるのね、おっぱいに・・・」
乳房を覆うように包み込んでいる手の、その指と指の隙間から、リナのきれいなピンク色をした乳首が堅く尖って顔を出してきた。
胸は小さくとも、乳首の大きさは人と変わらない。いやむしろ、乳房が貧弱な分、乳首の大きさとのアンバランスさが逆に、エロチックさを強調しているようにも感じられる。
充血して大きく膨らんだ、その乳首を指で強く挟むと、ジン、と痺れるような快感がリナを襲う。
「うわあ、ヤバイよ。感じてきちゃった・・・」
と、その時。
リナの掌の内の乳房が、びくん、と震え、乳首に、ズキン、と、疼きのような刺激が走る。
「な、何、今のは?」
慌てて手をどけて、自らの胸を見つめるリナ。
そして彼女は気付く。自分の乳房が大きくなっていることに・・・・・・。
だが、それは、己の胸のサイズに異常なほどの関心と執着を持つリナだからこそ気付き得た、余りにも微かな微かな変化であった。
普通の人ならば、たとえ指摘されたとしてもまず判らないような、そんな、ごくごく僅かの変化でしかない。
ああ、なるほど、こういう事ね。
うんうん、判ってる、判ってる。いつもの事だわ。
そうよ、別に、そんなに期待してたわけじゃないし。
まあ、最初に予想してた通りの結末よね。
そう言えば、あの時もだし、そうそう、別のあの時もこんな感じだったわよね、こんな肩透かしの結果に終わったのは。
つまり、どうしたって、私の胸を大きくする方法はないって事よ。
古の秘法も、伝説の秘薬も、私には効果なしって事よね、わかった、わかった、わかりましたよ!
散々っぱら苦労して、必死の思いで挑戦しようが、全然報われないって事だわよね!
えーい、むしゃくしゃする! 腹が立つ!!
くそう! 暴れてやる!! 暴れてやるずぉおおおおっ!!!!!
世界がまさに破滅の危機を迎えようとしていた、その瞬間!
「ひっ、何、また?」
先程と同じ、震えと疼き。そして、彼女の乳房は、更にほんの少しだけ大きくなっていた・・・・・・。
陽はすっかりと暮れ、室内は闇に沈んでいた。
リナは、魔法で明かりを点すと、その光に照らされる自分のバストを、夢見るような瞳でうっとりと眺めた。
効き始めるまでに時間を要したものの、「うしちちの法」は効果絶大であった。
あのリナの「ない乳」が、いまや大振りのオレンジ位の大きさになり、しかも、なお成長中であった。
「んっ、また来た、また来た!」
効果が上がるたびに起こる乳房の震えは、そのサイズが大きくなるにつれて、さらに判りやすく、露骨になっていく。
最初は、ピクッ、と引き攣るような感じだったものが、いまや、プルン、と胸が震えるのを実感することが出来る。
私のおっぱいがプルンプルンしてるぅ!
リナは、天にも昇らんばかりの表情を浮かべ、今まで経験したことのない、その感触を愉しんでいる。
ただ、乳首の疼きの方は、少し厄介だった。
乳房に比べれば僅かではあったが、乳首の方も少しずつ大きさを増しているようで、しかも、充血が収まらない。
そして、その勃起した乳首に疼きが走ると、リナの股間、女性の部分にも、やはり同じような疼きが走るようになって来ていた。
何とも、もやもやした気持ちで、もぞもぞと腰を動かしながら、彼女は「うしちちの法」が、本来、夜の営みのための術であった事に思いを巡らせる。
あるいは、この感覚は、施術を受けた女性を、「その気にさせる」ための副作用のような物なのだろうか?
もちろん、胸のないリナにだって、性欲って言う奴はちゃんとあって、それなりに悶々と眠れぬ夜を過ごした経験はあるし、時には、服の上から自分の女芯を、堅い物にこすり付けて、そのもやもやを収めた事も一度や二度ではない。
だが、それにしても、先程から感じているこの感覚は、やはり尋常な物とは思えない。
副作用と言えば、もう一つ。それぞれの乳首の上の方に、小さなニキビのようなものが出来ている事にもリナは気付いた。
左右の乳房のほぼ同じ場所に出来ているので、偶然出来た自然の物でないことは明らかだ。
これも気がかりと言えば気がかりな話だが、しかし、今のリナにとって、それは全く取るに足らない、些細な事でしかない。
何しろ、あれほど憧れ、夢にまで見た豊かなバストを遂に手に入れることが出来たのだから!
これでもう、あのナーガ如きに気後れする、いや、この調子なら、最終的には、ナーガさえ圧倒するほどの巨乳となる事も出来るのではないか?
「うーん、もう、これまでの服が着れなくなっちゃうわね、困っちゃう、困っちゃう!」
全然困った感じのない明るい声でそう独言つと、リナは明日、市場で新しい服を探す自分の姿を想像してみる。
きっと、街中の男たちの目は、わたしのこの胸に釘付けになってしまうわね。
男たちの好色そうな視線を一身に浴びることを思うと、またしても股間が、ジンジン、と疼き始めるリナ。
服の隙間から、そっと手を忍ばせると、彼女の柔らかな茂みの下、まだ経験は無いものの、女性としてちゃんと成熟した秘花は、しっとりと潤み、熱く火照っていた。
「やだ、このままだと染みになっちゃう・・・」
少し逡巡した後、リナは手早く残りの服も脱ぎ捨て、そのまま全裸でベッドに横たわった。
「あ、また・・・」
乳房が震え、乳首とあそこに疼きが走る。
「おっぱいが小さいほど感度は良い、って言うけど、本当は大きい方が感度がいいのかしら?」
リナが、試しに、堅く尖った自分の乳首をもう一度摘んでみると、先程とは比較にならない位、信じられないほどの快感が背筋を駆け上って行った。
「あはん!」
普段からは想像も出来ないほど色っぽい悲鳴が、彼女の口から漏れる。
たまらずに、もう一方の手をあそこに伸ばすと、乳首同様、リナのクリトリスは、堅く充血して勃起していた。
「あふっ、もう、辛抱できない・・・。んっ! んんっ! あはっ!」
全裸のままベッドの上で、股を拡げて大の字になり、我を忘れて自慰に耽りだすリナ。
ブルルン! ズキン!
その間にも、彼女の乳房は、どんどんとその大きさを増し続けていく・・・・・・。
そしてその頃、宿屋の一階では、リナがいつまで経っても夕食に現れないため、欲を掻いてかき集めた、一週間分以上もの食料の山を前にして、宿屋の亭主と女将が大喧嘩を始めていた。
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