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●悪夢
「やぁっ！やあああっ！」
男の力は物凄かった。僕の両足を掴んだまま、あっという間に林の中に引きずり込んでしまう。背中に石や木の根が当る。でも、痛みなんか感じなかった。どうにかして、どうにかして、ここかに逃げ出したかった。ほんの10分あれば、家に帰れたのに。さっき、友達とわかれたばっかりだったのに。今、こんなことされてるのが、なにか嘘みたいだった。
ここから、男から逃げ出して、家に帰れば、男もなにもかも、無かったことにしてしまえるような気がした。
だけど、それは無理なことだ。あんなに練習したのに。いっぱい運動もしたのに、僕の脚は、男の手の怪力から逃れることもできなかった。必死に暴れるのに、男が掴んだ足首だけは、ぴくりとも動かすことができない。
く、くくくくくくく。
抵抗してる僕を嘲笑うみたいに、男が始めて声を出した。獣が笑うみたいな声・・・。
そして、不意に手を離した。脚にかかっていた重さが消えて、自由になる。
逃げられる！？
一瞬そう思った。死ぬ気で走れば、ここを逃げ出せるかも知れないって。
だけど、それはほんの一瞬。
あらい息をついて、四つんばいになって、立ち上がろうとする。
立ちあがって、走ろうとする。
「あ、きゅ」
その前に、男は身体全体で僕を組み敷いていた。押しつぶされそうな重さに、肺から勝手に空気が出ていってしまう。
重さ。男の身体の硬さ。獣みたいな体臭。そのどれも、僕を恐怖させるのに充分過ぎた。
「やめ・・・」
やめて、って言う前に、男の口が、僕の口をふさいでいた。むわっ、と口臭が僕の口に溢れて、鼻に抜けた。ぬるりとした舌が、僕の唇の中に入りこもうと動き回る。ぞぞっと怖気の立つような感触。
男の舌が僕の口の周りを動くたびに感じる寒気に耐えて、僕はぎゅっと目を閉じた。必死に男の口から逃れようとするけれど、男が片手で僕の頭を押さえただけで、もう頭をぴくりとも動かせなかった。指が、僕の短い髪を通りぬけて、頭の皮膚に食いこんだ。
舌が、ついに唇を割った。男の無遠慮な舌が、唇の裏を舐めまわす。ぞくっ、ぞくっ。寒気がひどくなった。口を塞がれて、ひどく息苦しい。舌が、口のもっと奥に入ってこようとするのが解った。それが恐ろしくて、必死で口を閉じる。
「ぁ・・・！」
だけど、思わず声を出してしまった。男の片手が、僕の内股を撫でまわしていた。
ぞくっ。ぞくっ。背筋に寒気が走る。
スカートがまくれあがってしまっているのがわかる。無防備な場所を、男のぬるぬるした手が好き勝手に撫でまわす。
「い・・・ぅっ」
嫌だって叫ぼうとした瞬間、男の舌は、僕の口の奥まで入りこんでいた。男の舌は大きくて、僕のちっちゃい口の中は男の舌でいっぱいになってしまった。もう口を閉じることもできない。気道を塞がれて息ができない。苦しい。男の舌は、僕の苦しさなんかおかまいなしに僕の口の中を動き回った。僕の舌を絡めるように動く。顎の内側を舐めまわす。まるで僕の口をオモチャにしてるみたい。臭い唾液が溢れて、喉を塞ぐ。ひどく惨めな気分になって、涙が溢れた。キス。これ、キスなんだろうか？僕の初めてのキスなんだろうか？口の中をオモチャにされて、こんなに苦しい、こんなに嫌な思いをする、これがキス？
違うって思いたかった。男女。そんな風に言われてる僕にだって、キスへの憧れはあったから。
嫌だ。こんなの嫌だ。泣きたいような、悔しいような、腹立たしいような気持ちが、僕の中で膨れあがる。
思いきり叫びたかった。いやだって。かなしいって。でも、僕の口はどんな言葉も発することができずにいた。それどころか、息もできない。舌をねじこまれて、臭い唾液がいっぱい口にあふれて。必死で暴れてると、あっという間に息が詰まって、苦しくなってしまう。喉を強く圧迫されて、自由なはずの鼻からも、全然息ができない。もがく。自由になろうとする。でもそれは全然逆効果で、暴れれば暴れるほど、僕の身体は男に押さえこまれて。息は苦しくなっていって。頭の中に、視界に、朦朧としたもやがかかったみたいになってくる。嫌だって気持よりも苦しさに耐えかねて必死で口を開くとも喉が開いて、生暖かい唾液がどっとながれ込んできた。喉を塞ぐようなねばっこい液体。窒息したくなかったら、僕はそれを必死で飲み下すしかなかった。こくん、こくん。ねばっこい液体を必死で飲み下す。ヘンな味。なにか、びりびり喉が痺れるような。
二口、三口飲み下したところで、不意に男のが口を離した。
く、はあっ！逃げることも忘れて、必死に息を吸った。空気と一緒に男の唾液の残りが入りこんで少しムセてしまうけど、そんなこと気にならない。胸いっぱいに冷たい空気を吸いこむ。荒い息をついて、胸を何度も上下させる。息をすることだけしかできない。身体の力が抜けて、頭が、ぼうっとして、ほんの一瞬だけ、のしかかっている男の存在を忘れてしまう。
だけど、男はすぐに、僕に存在を思い出させた。いつの間にか、僕の顔のすぐ近くに、男の顔があった。
べろり。
さっきまで僕の口を弄んでいた舌。人間じゃないみたいに長い舌が、僕めがけてぬるりと伸びた。あの嫌な、嫌なキスを思い出す。
いやっ！
あまりに長い舌に違和感を覚える余裕すらなかった。あのキス。口の中を汚されるみたいな感触が恐くて、僕はぎゅっと目を閉じて、男の口から逃れるように顔をそむけた。
けど、男の狙いは、僕の口じゃなかった。
「ひ、あぁっ！」
僕は思わずか細い声を上げていた。いつもの僕を知っている人なら意外に思うかもしれないくらい、切ない声。
男の舌は、僕の首筋をなめ上げていた。背筋から、ざわざわって登ってくるような寒気。
「や、やあっ！！」
飴でもしゃぶるように、僕の首筋を舐め上げる舌。首筋、顎の下、耳の裏。丹念に舐め上げる動きに合わせて、僕の身体が勝手にびくんと跳ねた。未知の火花が、僕の脳裏でばちばちとはじける。
やだ、やだやだっ！！嫌悪感。寒気。僕の身体の中で勝手に弾けはじめたなにか。それがどれも嫌で、僕は必死で暴れる。暴れるのに。
それなのに、もがけばもがくほど、男は僕の身体の自由を奪っていく。泣き喚く僕を嘲笑うみたいにゆっくりと耳たぶを舐め上げながら、僕の手の、足の自由を奪う。ぎゅっ、と濡れた何かに締め上げられるような感触。それが絶望の感触みたいに感じられて、僕は思わず目を閉じた。
そして、僕の肩のあたりに、男の手の感触があった。固くてぬるりと汗ばんだ、大きな手。その手はゆっくりと服の上から僕の肩を、鎖骨をなぞって、僕の胸に。クラスで一番小さくて、ようやくふくらみはじめたばっかりの、僕の胸に到達した。
「い、だっ・・・ぁ！」
嫌だよ、ダメだよって言いたかったのに、言えなかった。服の上から僕の胸の位置を確かめるみたいな手と一緒に、男の舌が僕のうなじをなぞる。それにあわせて、僕の喉から勝手に声が出ちゃったんだ。
あの火花。頭の中で散ったあの火花が散るたびに、僕の身体が僕のいう通りに動いてくれない。そして。
「ん、んんっ」
男の手が僕の胸をまさぐると、今度は声を出そうともしないのに、声が出た。くすぐったいような、痺れるような感覚が、火花と一緒に胸から広がっていく。なに？なにが？どうして、僕・・・ああああっ！
胸元から刺しこまれた男の手が、下着と素肌の間に潜りこんだ。ざらりとした素肌の感触が、やわらかい肌をすり上げると、僕の胸にさっきの痺れが走った。きゅって肩がすくむ。首がそりかえりそうになっちゃう。止まらない。その動きを止めようと思っても、僕の身体が、かってにそう動いちゃう。
どうして？
男は、僕の戸惑いなんか知らないみたいに、空いているほうの手でセーラー服の上着を首までたくしあげた。山の冷たい空気が僕の肌を冷やす。こんな時に場違いかもしれないけど、僕は制服を改造したのを後悔していた。みんながやってるから、僕も上着の丈をちょっと短くしていたのだ。そうでなかったら、もしかして、こんなに簡単にはハダカにされずにすんだかもしれない。勿論、そんなこと考えても仕方ない。だけど、どうしても。
どうしても、少しでも、男の手をさえぎるものが無いのが、辛かった。好きなように、僕の身体。自分でもこんなふうに触ったことなんてな胸が、小さいのが恥ずかしくて、水泳の時間とか、男子に見られたりするのが恥ずかしくて、辛くてしかたなかった僕の胸が、揉んだり、撫でたりされてるのが、悲しくて、悲しくて、しかたなかった。男は、ついに両手で僕の胸をまさぐり始めた。スポーツブラはいつの間にかずり上げられて、僕の胸、すっかり外に出てしまっていた。男の手が動くたびに、きっと、僕の胸の形は好き勝手に変えられてるんだ。
「あっ、ひぁっ・・」
もう、やめてって、言えなかった。口をあけたら、男の手が動くたびに、勝手に声が出てしまう。切羽詰った声。あ、とか、ひ、とか、意味にならない声。男の手が僕の胸の上を動くたびに、あの痺れと火花と一緒に、声が迸ってしまう。何故だろう、頭の芯が、じーんと痺れている。その他のことは、何故か皮膚いちまい隔てたみたいに微妙に不確かにしか伝わってこないのに、胸を触られる感触だけは、知りたくないのに敏感に伝わってきてしまう。
だめ、さわらない
いやなの、ぼく、そんな
だれにも、さ
ぼくの、たいせつな
いつか、ぼくの
だめ、だめっ
ぼくの、
だめっ
考えが、形になってくれない。胸を触られるたびに、僕の考えが勝手に止まって、真っ白になる。声が迸っているのが解った。勝手に、僕の声が。
「はぅっ！」
急に、男の舌が僕の胸の蕾を舐め上げた。
きゅんっ。
刺激。
痛み？ううん。
さっきまでの火花？
ううん。痺れ？ううん。
なにか、未知の甘い感触。それが、僕の胸からすごい速さでが全身に走った。
ぼくのちっちゃな乳首を舐めながら、右の手は僕の剥き出しの胸を手のひら全体で揉みしだいてる。
切ない。胸が切なくなって、止められない。背筋に走る震え。
「や、めてぇっ」
僕の声に、僕の意識はかえってはっきりしてしまった。僕は嫌で、嫌で、悲しくて。必死で叫んだのに、僕の声は、甘い・・・・まるでそれを喜んでるみたいな声だった。じんじんと痺れる乳首の感覚を喜んでるみたいな、浅ましい声。気持イイ？・・・ううん、そんなはずないのに！！
汗が。寒いはずなのに、身体中にじっとりと汗をかいているのが解る。
その汗を舐め取るように、再び舌が。
手に、舌にもみくちゃにされた僕の胸の先っちょで、胸の先がゆっくりと尖ってくるのが、自分にも分かる。
尖った先っちょに、舌が、ふれた。
「っ、ぁぁぁっ！」
厚ぼったい唇が、僕の乳首を強く吸い立てた。
気持いい。そう叫んでるような声が、口元からこぼれ出て止まらない。
違う。気持良くなんかない！！嫌なの！！僕は悔しくて、悲しくて、恥ずかしくて・・・・！
「はぁん、んんっ、はう」
でも。でも。
僕の敏感な所を舌で弄られ、強く吸われて、自分でも驚くほどの大きな声が、漏れていた。そんな声出したくない。ダメ、ダメ。僕のそんな意思を無視して、声は切羽詰っていく。
見られて、好き勝手に触られる、弄ばれる恥ずかしさよりずっと残酷に、僕の甘い声が、はしたない声が、僕の心を苛んでいくの。
そして、
体が、
溶けてしまいそうな刺激。
駄目。駄目だ。駄目なのに息が荒くなる。
身体の芯が熱くなっちゃう。
胸から溢れるじんじんするような熱さが、僕の身体を焦がしはじめた。
それなのに、男の両手はさらに、僕の胸を、尖った先っちょを弄ぶ。舌が、首筋を。耳たぶを。３箇所から同時に、無理矢理送りこまれる刺激。そのたびに、僕の身体が勝手に跳ねる。くなくなと首を振ってしまう。言葉にもならないような言葉が喉から溢れて、だんだん、僕の頭、ぼんやりとしてしまう。
そのかわりに、その感触。認めたくない感触・・・・気持良さ、が、身体中に満ちてくるのが感じられた。
ダメ。その感覚を受け入れたら、絶対にいけない。なぜだかそんな気がして、僕は必死に声をこらえた。でも、それは無駄な努力で、僕の身体は勝手に跳ねて。
僕の気持も、僕の悲しさも無視して、勝手に跳ねて。僕の感情のとおりに動いてくれたのは、もう、涙だけだった。悔しさの、悲しさの涙。感じたこともないような感覚に全身を苛まれながら、僕は必死に祈った。誰に？・・・男に。
お願い。お願いだから、もう 僕を苛めないで。こんなことしないで。だって、これ以上は、僕、これ以上は、頭がどうにかなっちゃうかもしれない。やめてっていう声も、まともな形にならない。両手両足はしっかり押さえられていて、男から逃れることもできない。こんな状態がずうっと続いたら、僕はきっと耐えられない・・・
・・・・！
押さえられた両手両足を意識したとき、なにか、僕の中で違和感が閃いた。おかしいことがある。なにか、決定的におかしいこと。
「あ、ぁ、あぁ」
それが何なのかは、僕の胸を弄ぶ手が思い出させてくれた。じんじんするような甘い痺れを感じながら、僕の意識が一瞬冷める。そうだ、両手。両手は、僕の胸に・・
「んうぅっ！�
首筋から伝わる舌の感触に、思考が中断されてしまいそうになるのを、必死で繋ぎとめる。
そうだ、両手。男の両手は僕の胸を好き勝手にしている。じゃあ、僕の手を締め上げているのは？
僕が逃げられないように、いつの間にか縛られちゃってたの？
それとも、隠れていたもう一人が、どこかにいて・・・・
恐ろしい可能性が頭を掠めて、僕はきつく閉じていた目を見開いた。ほんとは、あけたくなかった。開いたらきっと、逃げられない状況が、弄ばれてる僕が、まざまざと見えてしまうから。
でも、頑張って、目を開いた。
そして・・・
「ひ・・・っ！！」
僕は、悲鳴を飲みこんだ。
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