第一話【 歯車 】
俺の勤める大手出版会社「講学社」には、何百人もの社員が詰め寄り、また出版している雑誌や分野に応じて、様々な課に形成されている。
「講学社」ビルの五階には、四つの広報課部門が引き締めあっており、俺が請け負っている「広報D誌担当課」も、その一つの課に過ぎない。他の課に比べて、月刊誌、季刊誌を多く取り扱っており、発行している雑誌の売れ行きも、まぁまぁ、といったところだろう。
・・・・さすがに少年詩系、週刊誌部門には勝てん!!
その「広報D誌担当課」の職場には、各社員ごとに割り当てられたデスクの他に、来客や交渉などを主とする応接室が三つあり、休憩室、キッチン、化粧室、課長室、会議室、喫煙室などがあり、十名の正社員、二十五名の派遣、百名近い臨時(主にフリーを一時的に在籍させる)社員などが出入りしている。
天野との再会から一週間が過ぎて、思いのほか、孕ませ願望が強いことを認識できた俺であったが、あの青山恵都の処女喪失映像だけで満足できたのか、それとも今はただ影を潜めているだけなのか、俺自身にも解からないでいる。
まぁ、これだけ多忙であり、人込みに紛れてしまえば、その強い願望もただの夢想でしか有り得ない。
・・・・残念ながら。
特に担当する雑誌の薄幸間際ともなれば、職場はさながら戦場である。
もっともアンカーマンの俺が忙しくなるのは、出払っている社員たちが帰社してきた後、だいたい四時過ぎくらいからとなろう。それまでは昨日からの編集の続き、その完成された記事の確認など、比較的に日常的な計画通りの作業となる。
「それじゃ、ここの訂正と・・・・こっちの文章の補正、それから写真の拡大を忘れないでね」
あらかたの指示を部下に与えて、俺はゆっくりと立ち上がった。
「では、また後で確認お願いします」
「ん、何かあれば、課長室に居るから」
課長クラスともなると、職場に個室が与えられるようになる。
「はぁ・・・・」
大きな息を吐き捨て、デスクの椅子に座り込む。椅子の素材が低反発のためか、座ろうとするたびに息を大きく吐き出すその癖は、直したほうがいいかもしれない。
職場全体を見渡せる必要もあって、職場の中心に位置する小さな部屋ではあるが、自分のデスクに座っていられる時間だけが、心休まる穏やかな休息の時間であった。
部長ともなれば、この職場規模の個室が与えられるようになる。
俺も定年を迎えるまでには、部長ぐらいにまで出世したいものだな。
「か、課長!!」
そんな最中、我が課の女性社員である、柴田茜が課長室の俺のもとへ報告に駆け込んでくる。
柴田茜は今年で二十歳となる女性であり、身体のスタイルが良く、また相当な美人でもある。事務員としても非常に優秀で、この若さで課の事務長を務め、課を預かる俺としても非常に助けられている。
ベージュのワイシャツに白のカーティガンを着こなす、その外見からは、颯爽とした淑女を彷彿させるものだが、帰国子女という経歴もあってか、上司との付き合いの延長上にsexがある、といったような、極端に解放的な性格の持ち主である。
そのせいもあって、他の課との交流の広さも深く、俺としてはいつ他の課に引き抜かれるのではないか、と心配の種は尽きなかったが・・・・
それだけ彼女が、容姿だけの美女なだけでなく、事務員としてだけでなく、補佐役としても優秀な人材なのである。
その彼女が慌てて駆け込んできた、とあって、俺も容易ならざる態度で構えたが・・・・彼女が持ち込んできた報告は、俺の予想の範疇を遥かに凌駕するものであった。
「二時から我が社独占でアポを取っていた、夏目氏との会見なのですが、まだこちらのスタッフが現地に到着していない、との連絡が・・・・」
俺はデスクの置時計に視線を送る。
今の時刻は、二時十五分・・・・
「・・・・で、その我が社のスタッフ、とは・・・・まさか?」
「・・・・はい」
俺は無意識に頭を抱えていた。
心の中では「またか・・・・」とも呟く。
どうやら心休まる穏やかな時間は、俺に断りを入れるようなこともなく、その中断を余儀なくされたようであった。
俺は即座に先方に電話を掛け、こちらの手落ちを詫びる。
独占とか、会社の利権に関わりなく、約束事の遵守は何処の社会においても、必要最低限のマナーである。
幸い今回の先方の相手とは、個人的に親しい間柄の人物であり、そう大過なく、穏便に済ますことができたのだが・・・・
「はぁ・・・・」
「お疲れ様です、課長」
一段落がついて一息入れた俺に、柴田くんはアイスコーヒーを机に差し出した。先方と電話している間に淹れてきてくれたのであろう。相変わらずの手際の良さである。
「また、アイツが問題を起こしたみたいですねぇ!」
課長室の扉を《コンコン》と叩き、部下の永沢が入室してくる。
永沢博之は今年で二十八歳。基本的に外回りということもあって、今はTシャツにGパンというラフな格好をしている。長身の細身な体格ではあるが、脆弱さは全く感じられない。
性格も勝気で一本気。やや粗野な印象はどうしても否めないだろう。
カメラマンとしても優秀な男で、報道マンとしては非常に有能な人物の一人であろう。俺もアンカーマンとして会社で構えていられるのも、この永沢の存在に寄るところが大きい。
本来なら、そろそろ課長に・・・・係長ぐらいには昇進していても、おかしくはない功績の持ち主だが、その経歴に難点があり、致命的なまでに女性社員たちからの受けが悪い。
(まぁ、女性社員の隠し撮りの噂が絶えない奴だからなぁ・・・・)
それがただの噂だけではなく、事実であったことを知っているのは、極少数の人間だけに限られている。
「永沢、予定よりも早いんじゃないか?」
「めっちゃぁ、短期決戦でしたから・・・・」
永沢が報告書と掲載候補の写真を交えて、俺に提出する。
「試合最短記録更新、僅かに及ばず・・・・でしたが、それでも試合内容は中々のものでしたよ」
「そうか、ご苦労様」
受け取った報告書に軽く目を通しながら、デスクに置かれていたアイスコーヒーを啜る。
永沢のおかげで来月の見出しも決まったことであり、俺はとりあえず、肩の荷をゆっくりと降ろした。
時刻は五時過ぎ。
もっとも夏(現在、六月末)が間近ということもあってか、この時刻になっても日は明るい。
これまでに帰社してきた社員を会議室に集めて、今日の収穫の報告と、明日、明後日の予定などを検討する。ジャーナリスト(報道関連)という職務上、社員の中には明日から出張する者、もしくは約一週間ぶりに顔を合わす社員も少なくはない。
永沢やそれぞれの社員と談笑を交えながら、会議室で散会した直後、俺は永沢と会話を継続しながら、帰社したばかりの田中の姿に気が付いた。
定時が六時、という関係上から、五時を過ぎれば、外回りの社員はそのまま直帰するのが習慣である。
まぁ、反省はしているんだろうな・・・・
その俯き加減の姿勢からでも、今の彼の心境を察することができた。
課長室に入っても、何故か、永沢までもが付いてくる。
そこに事務長の柴田くんが田中の帰社を告げ、まさに蒼ざめさせた表情の田中が神妙に入室してきた。
「申し訳ありませんでした・・・・」
俺のデスクの前で頭を下げる。
田中均は今年で十九歳となる、入社三ヶ月の新人社員である。性格は温厚かつ真面目で、とにかく誠実。仕事に取り組もう姿勢には文句のつけようがないだろう。また端整な顔立ちもあって、女性社員たちからの評判は非常に高い。
ただ時折、予想もできないようなポカをする。
そこも好感を寄せている女性社員が口にするように、彼の愛嬌と受け取れなくもない・・・・が、永沢のような一本気気質の社員には面白くはないのだろう。
特に女性に不人気な永沢だけに、反感に拍車をかけている。
俺はデスクにあるリモコンを操作して、壁の電圧を落とした。
課長室は他の社員のデスクに囲まれる場所に設置されたこともあって、壁の電圧調整加減で、職場全体を見渡すことができる。
電圧を下げれば、こちらからは見渡せるが、周囲からの視線を遮断させることができ、完全に電圧を落とせば、ただの完全防音の薄い壁となってくれる。
そして今、電圧を落としたことで、外部からは課長室を覘くことはできない。
人が頭を下げている光景など、わざわざ晒すような必要はない。
「十分に間に合うように・・・・」
「言い訳はいい」
俺は両腕を組んで、田中の主張を遮った。
今までのように社内だけで済む問題ならば、まだ笑い話で済む。だが、今回は先方との約束の時間に遅れてしまったわけである。
「が、まぁ・・・・過ぎてしまったことではあるし、以後は気をつけてくれよ」
「えっ? あっ・・・・はい。申し訳ありませんでした」
俺は視線を横に移すと、厳しい叱責を予想していた永沢には、やはり面白くはないのだろう。
現に田中が神妙に退室していった後、
「課長はアイツに甘いですよぉ!」
さすがに上司の机を叩くような真似はしなかったが、普段よりも声量を抑えることはできなかったようだった。
「甘い・・・・かな?」
「甘々です!」
俺はもう一人の当事者である、柴田くんに視線を向ける。もっとも彼女は、個人的に田中へ好感を抱いている人物であり、彼女の意見を聞くまでもない、と思っていたのだが・・・・
「懲罰はともかく、私も今回は、叱責及び警告だけでもしておくべきだった、と思います」
「・・・・」
「確かに今回は課長の働きで、大きな問題にはなりませんでしたが・・・・」
「別に彼だけを甘くしているつもりはないのだが・・・・」
二対一・・・・
さすがに俺もそれ以上は反論できず、両手を上げた。
確かに俺は田中をお気に入りとする社員の一人である。それは認めざるを得ないところだろう。漢字は異なるものの名前が同じ、という理由もその一つに上げられるが、それ以上に、現在の田中と若い頃の俺・・・・俺が社会に出た当時と酷似しているような、そんな気がするのである。
「今度からは気をつけるようにしよう・・・・」
俺は心の中で白旗を上げた。
「まぁ、今回は大きな問題にならなかったのだし、何といっても田中はまだ新人だ。多少のことは大目に見てあげてやってくれ」
「まぁ、課長がそう言うのでしたら・・・・」
永沢も柴田くんも同じ台詞を口にし、課長室を後にする。
今回の一連の出来事は、まず穏便に済ませることができたようだった。
まぁ、田中も同じようなミスはしないだろうし・・・・
壁の電圧を戻して、室内のカウチソファの向こうに見える田中の姿を一瞥する。
「・・・・」
大丈夫・・・・だよな?
永沢と柴田くんが退出した後、暫くして学生アルバイトの琴乃初音が入室してくる。
「課長、おはようございます」
「ん、琴乃くんか・・・・おはよう」
琴乃初音は今年末で十六歳となる高校一年生であり、勤務時間が一日二、三時間程度の学生アルバイトである。短い勤務時間とあって、与えられる仕事も雑務が主ではあるが、指示しておいた仕事を嬉々として応じてくれる健気な女の子である。
白いワイシャツに紺色のプリーツスカート、という素っ気無い学生服ではあるが、髪はサラサラのロング。スカートから覗ける長細い美脚。年齢に比べてやや童顔ではあるが、その可憐さにおいては、社員随一の美女と目される柴田くんでさえ、さすがに遠く及ばないことだろう。
その可憐さに無自覚なのか、誰にでも優しく笑顔を振りまき、それは俺のような中年相手にも変わらない。
そう、全く気取った部分がないのである。
「今、お時間よろしいですか?」
会議室での会議から、先ほどまで田中、永沢や柴田くんとの一件もあって、時間を見計らっていたらしい。
「ん? どうしたんだい?」
「アマノトモキさま、という方から、何度も課長にお電話が入っているのですけど・・・・」
天野が・・・・?
確かにあの晩、天野には会社の名刺を渡しておいたような気がする。
「何でも急を要する件と伺っていますが・・・・」
「解かった。こっちで受けるから、回線をこっちに回してくれるかな?」
「あ、ハイ」
琴乃くんが可憐な微笑みを見せて退出していく。
内線を使えば済む内容であろうに、わざわざ挨拶を兼ねてまで訪れてきてくれた、と思うのは、俺の自惚れというものであろう。
俺のこれまでの長い人生の中でも、可憐さにおいて彼女に勝る存在は皆無、絶無であったと断言できるほどの美少女である。実際に社内の男性社員における彼女への人気は、勤務時間が僅かの学生アルバイト、という存在でありながら、社内随一であり、他の追従をも許さない感がある。
あの可憐さなら、恐らく・・・・嫌、間違いなく、芸能界にでもデビューすれば、世界の男児を魅了する存在にもなろう。
実際に社の人事部からも、写真集や芸能界への進出の話が持ち上がったものではあるが・・・・現代の少女にしては珍しく、そういう方面の話には興味がないとのことだった。
「もしくは現代の少女だからこそ・・・・かな?」
《内藤、急に何度も電話して悪いな》
「ん、いや別に構わないよ・・・・」
報道関連の仕事に携わっている以上、見知っている者から見知らぬ者にまで、電話が掛けられてくるのは日常茶飯事のこと。何回も掛けてこようと、例え長電話になろうとも不審に思う社員もいない職種である。
「それで急を要する用って聞いたが?」
《ああ、実は今、都内に居てな・・・・お前に相談に乗って貰いたいことがあるんだが・・・・これから会えないか?》
俺はデスクに置いてある時計を一瞥して、既に六時を・・・・定時が迫っていることを確認する。
そして当然のことながら、俺にはこの後の予定などあるはずがない。
そう断言できてしまう辺り・・・・少し悲しく思った。
俺は天野と再会の約束を取り付けつつ、今日に限っては、今回の判断を後悔するようになるのだが・・・・
退社する準備を終えて課長室を出る。
時刻は既に六時半を廻っており、定時を過ぎても職場に残っているような、物好きな人物はそうそう居ないはずであった・・・・のだが。
突然、背後から!
「課長〜」
「おわっ!」
年甲斐もなく、驚きふためく。
職場の電気は落ちており、余りにも物静かな雰囲気だっただけに、無人だと思い込んでしまっていたのだ。
「うふふ・・・・」
「し、柴田くんか・・・・脅かさないでくれ」
「今日も琴乃ちゃん、可愛かったですよねぇ〜」
うっ。
「さっき、課長室で二人、何を話していたのですかぁ〜?」
「ああ、いや、只の電話の取次ぎ・・・・」
余りのうろたえように、我ながら情けなく思う。
柴田くんが田中に好感を抱いている事実を、俺が知っているように、彼女は俺が琴乃くんの容姿に目を奪われてしまっている(この場合も一目惚れと言うのだろうか?)事実を知られてしまった、唯一の人物である。
「あ・や・し・い・な・ぁ〜〜〜」
俺は一息入れ、平常心を取り戻してから、改めて事実を告げる。
「本当に只の電話の取次ぎだけだよ・・・・そもそも、こんなおじさんが相手じゃ琴乃くんと何も起きるはずがないじゃないか」
事実、確かに俺は琴乃くんの容姿に惚れ込んでいる。が、特に彼女との間に何かを望んでいる、というわけでもなかった。何しろ、年齢差が二周りも異なるのだ。
まして琴乃くんのような美少女である。
それこそ高望みもいいところだろう。
「それじゃ、今夜・・・・お暇ですか?」
「えっ?」
「食事でも一緒に如何かなぁ・・・・と、思いまして」
俺は思わず胸が高鳴る。
彼女との食事には、大抵、その後にSEXが付いてくる。
これまでにも数え切れないほど彼女と食事を共にし、それとほぼ同じ回数の一夜を共にしてきていた。二十歳という若くて瑞々しい身体は、素晴らし過ぎるの一言につき、それはどんな技巧に優れたソープ嬢、ホステスたちも遥か遠くに及ばないものであった。
まして明日、明後日は土日の公休日。
瑞々しい身体を、時間をかけてたっぷりと堪能させてくれること、間違いなしである。
勿論、生挿入、膣内出しだけは許してくれないのだが・・・・それは女性として当然の常識ではあろう。
「くっ・・・・」
途端に俺は、壁に頭を打ち付ける。
ぶつけた頭も痛かったが、それ以上に折角の彼女の誘いを断らなければならない現実のほうが遥かに辛かった。
「課長?」
「すまない。今日は旧友と会う約束があって、ね・・・・」
「えー、残念・・・・」
俺のほうは、心の底から残念に思う。
彼女が俺を誘ってくれる機会は、それほど多くはない。現在、柴田くんは本部長の支倉忠典の愛人であり、また彼女の気持ちの本命は、唯一に田中均だけである。
だが、今更、天野との約束を取り消すのも申し訳ない。何より、東京にまで足を運んで、相談したいことは急を要する、とまで言っていたほどである。
はぁ・・・・世の中、うまくいかないなぁ。
「待たせたな・・・・」
俺が天野との待ち合わせ場所に選んだのは、帰路の途中にある馴染みのレストランであった。独身の一人暮らしという身の上、基本的に外食で食事を済ませるか、コンビニ弁当でしかない。
俺は一通りの注文を済ませると、天野の話を伺うことにした。
天野はテーブルの声量遮断のスイッチを確認する。
余程、外部には聞かれたくないような内容なのであろう。
「実は、な・・・・先月のことだったのだが・・・・」
「・・・・」
「若い女と出会って・・・・まぁ、そのなんだ。一夜を共にすることができたんよ・・・・」
確か、お前・・・・既婚だったよな?
と、突っ込みたい気分ではあったが、まだ天野の話は始まったばかりであり、話の腰を折るのも悪いと思ったので、とりあえず黙っておく。
天野の話を聞く限りでは、こんな話であった。
先月、探偵の仕事を終えて、事務所に帰宅する際、少し世間知らずの少女と遭遇したとのことだった。写真を見せて貰った限り、確かに万人が見て、美少女と評するところではあろう。
だが、さすがに琴乃くんには及ばないな。
その写真の少女の名前を「桐野雪」年齢は十七歳。
この桐野という少女が数名の悪漢に襲われそうなところで、天野が現場に遭遇したらしい。
「そして、お前も男たちに混じって、彼女に乱暴をした・・・・と?」
「おい!」
・・・・違うらしい。
「じゃあ、この悪漢たちを退治して、彼女に乱暴をした・・・・のだな?」
「・・・・どうしても、俺を強姦魔に仕立て上げたいらしいようだな」
天野が僅かに震えている。
「違うの?」
「違うわい!」
俺は笑いつつも、天野を信じた。
まぁ、確かに嘘を口にしてまで、正当化しようとする男ではなかった。
悪漢たちを退け、桐野雪を救出することに成功した。ここまでは良くドラマや小説にもある話ではある。そして救出されたことによって、この少女が男に好感を抱いていくのも、まぁ、王道といったところだろう。
「で、やったのか・・・・?」
「・・・・ああ、やった・・・・」
声のトーンを落としてはいたが、天野は素直に認めた。
「お前も、こんな美少女が・・・・目を潤わせて、抱いてください、なんて言われた日に、お前は抑制できるかぁ?」
うん、無理。
と、俺の心と愚息は即座に返答していた。
実際に俺は柴田茜と関係を持っている。
柴田くんの容姿はこの桐野雪という少女とも甲乙がつけがたく、初めて柴田くんと関係を持ったときの俺は、態度はともかく、心の中ではまさに野獣そのものであった。
「ところが・・・・」
天野はゆっくりと言葉を続ける。
「この話には、ちょっと後日談があってな」
「・・・・」
もしや身篭らせたのか?
それとも奥さんにバレたとか?
色んな推測が俺の頭の中を駆け巡っていたが、天野の答えは俺の予測の範疇を越えていた。
「俺の子を身篭った彼女・・・・桐野雪は・・・・組長の一人娘だったんだよ・・・・」
「組長?」
「ああ、組長・・・・極道の、な・・・・」
・・・・。
遠い昔は然ることながら、現在に至っては結構クリーンなイメージが定着しつつある極道の世界ではあるが、やはり「暴力団」「右翼団体」「ヤクザ」などといった言葉を未だに思い出せる辺り、一般市民の俺たちには、恐怖の対象でしかない存在であろう。
「まぁ、向こうも合意だった上に、大事にして組織の看板に恥を塗りたくない手前、穏便に済まそう・・・・金で済まそう、って話になった」
「金額は?」
「・・・・二百万」
確かに大金ではあるが、一人娘を一夜だけの慰め物にされ、身篭らされたことを考えてみれば、下手で出てくれたことには違いない。また天野は既婚の身でもある。後腐れなく、今後の安全が金で買えるのだとしたら、受けざるを得ないところであろう。
「何とか百八十万まで、工面することができたのだが・・・・」
妻子に気付かれぬよう、必死に掻き集めたのであろう。
「それで残りを俺に頼みにきたのだな」
「返済する宛てもなく、悪いとは思うのだが・・・・」
「・・・・」
まぁ、わざわざ都内に居る俺を頼ってきたのだ。
親友であった男の窮地を無下に断っては、その親友であった俺の沽券にも関わろう。まして天野には、例の青山恵都の処女喪失を収めた、光学用メモリースティック(しかも裏物)を保存させて貰った借りもある。
話を聞き終わった段階で、俺は無条件で出資してやるつもりだった。
だが・・・・次の天野の一言が、その後の俺の運命を変えてしまう。
「そうだ!」
「急にどうした?」
「お前、今・・・・抱きたい、って女はいないか?」
天野がテーブルに身を乗り出す。
「どんな身分、容姿、年齢に・・・・そしてその女の意思にも関係なく」
「急に何を・・・・」
だが、その瞬間、俺は無意識に一人の美少女を思い浮かべていた。
俺の知る限りの、十五歳の絶世の美少女・・・・
琴乃初音の存在を・・・・
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