行間話【 自覚 】(視点・琴乃初音)
私は見慣れつつある天井に、そして課長の腕の中で目を覚ました。
その逞しい胸元に頭を預けながら、もう一度だけ深呼吸をする。耳を傾ければ、確かな課長の鼓動の音が伝わってきた。
私が寝付くまで付き添ってくれたこともあって、まだ眠りから覚めることはなさそう。もうすぐ目覚まし時計が自己主張する時刻だったが、それまでそんな課長の寝顔をじっくりと見詰めながら、にこにことそのときを待つことにした。
「んっ・・・・」
昨夜、雨に打たれ続けていたせいであろうか、少し熱っぽい。
少し気怠く感じられた重い身体でも、今の気分は嬉しかったことだけで一杯だった。ひーくんとのSEXでは濡れることもなかった、全く感じられることができなかった身体ではあったが、課長とのキス、SEXでは感じられたのである。
それがどのような作用によって引き起こされたことなのか、は私にも解からない。ひーくんにだけ感じられないのか、それとも課長にだけ、感じられるのか、それさえも・・・・
「どうする? 駅まで送っていこうか?」
軽い朝食を摂りながら、課長は私に尋ねてきた。
「ん・・・・」
今日は平日であり、二人とも出社する日ではある。もっとも私の出社時間は課長よりも二時間ほど余裕があるわけだが・・・・だが、それまでの時間、特に予定があるわけでもなく、私は今まで通りにここから会社に出社しようと思っていた。
「じゃあ、これを渡しておくね」
「はい」
私は再び、課長の自宅のセキュリティカードを受け取り、軽い朝食を摂り合った後、課長を玄関まで送り出した。
と、そのとき・・・・
「んっ!!」
私は慌ててバスルームの洗面所に駆け込み、嗚咽する。
「うっ・・・・」
まさか・・・・
と、いう思いが自分の身体ながらに駆け巡る。
まだ十五歳という年齢上から妊娠するなんて思っていなかったが、実際に生理は遅れているのである。
私は財布を持って付近の薬局屋に駆け込み、他の商品に紛れ込ますように妊娠検査薬を購入する。さすがに会計する際は、検査薬を手にした店員さんがまるで危ぶむような視線を向けてきたが、さすがに追及してくることまではなかった。
そして検査の判定の結果・・・・陽性。
私は判定の結果を、自身の腹部に手を宛てて受け止める。
ここに芽吹いていた、今も小さな生命が宿っている現実を・・・・
「に、妊娠・・・・」
これまでに私が関係した男性は、課長とひーくんの二人だけである。しかもひーくんに限っては、昨日の出来事であり、避妊のゴムをして、その行為の途中で私はその場を逃げ出しているのだ。
その父親はおのずと一人だけに限定されるだろう。
「か、課長の・・・・赤ちゃん、できちゃった・・・・」
鏡に映る呆然とした自分の姿に問いかける。
「・・・・」
堕胎することだけは考えたくもなかった。
課長との関係は自ら進んで望んでのことであり、その際に膣内出しして貰えるように希望したのは、自身なのである。これは自らが犯した過失であって、課長には・・・・まして何よりもお腹の子にもなんら罪はない。
ただ出産するともなると戸惑うことばかりであった。
何しろ私にとっては、妊娠も・・・・出産も未知の出来事でしかない。
「母様に・・・・相談・・・・」
私は自問しておきながら、激しく頭を振る。
家と礼節を重んじる母様が出産を認めるとは、とても思えなかった。
でも、他に相談できそうな人は・・・・
「・・・・」
妊娠している現実と、その不安に思わず口元を抑える。
何よりも、それ以上に・・・・私には、もっと深刻な問題があった。
「か、課長は・・・・」
私が妊娠した、と知ったら、課長はどう思うだろう。
何度も避妊することを薦められておきながら、私は課長とのSEXを望むそのたびに、膣内出しをして貰えるように願い出て・・・・その挙句に妊娠してしまったのである。
それでも・・・・喜んでくれるだろうか?
私なんかが妊娠しても。
そ、それとも・・・・?
私は何ごともなかったように、平静を装って出社した。
社内にはひーくんとのこともある。これで迂闊に妊娠してしまいました、なんて公言できるような立場ではない。
私はノックして課長室に入り、タイムカードを打刻する。
「課長、おはようございます」
「うん。おはようさん」
か、課長・・・・
今日二度目となる朝の挨拶も優しく微笑み、卓上に置かれたコーヒーを啜っては、再び書類に目を落としていく。
「か、課長・・・・」
「ん?」
「えっと・・・・あ、あの・・・・あ、カード・・・・セキュリティカード、まだ私がお預かりしていても宜しいですか?」
私は一度差し出したカードを胸元に戻す。
明日から学校が始まり、当分の間は泊まりに行くことも叶わないだろうが、このまま課長に返してしまうのは躊躇われた。このカードを所持していれば、またいつ課長に抱いて貰える日があるかもしれない。
「ん、構わないよ」
書類から目を離し、私に笑顔を向けてくる。
ああ、やっぱり課長は優しくて、貫録があるなぁ。
「と、いうか・・・・琴乃くんに持っておいて貰ったほうがいいかな。また昨夜のように悪天候だったり、また帰りが遅くなる日もあるだろうからね・・・・」
「ありがとうございます・・・・」
私は赤面した表情を隠すように俯く。
また私とSEXができるから、とは言ってくれなかったが、私は課長とのSEXが好きだった。快感を・・・・身体一杯で感じられるから。
だから、私はデスクに身を乗り出して、課長の唇を奪った。
ひーくんに抱かれることを決意し、課長との関係を清算したのは昨日のことであったが、もうそれが遠い過去のような気がする。
「こ、琴乃くん!?」
「不意打ちです」
課長は慌てて壁の電圧を操作しようとするが、私はそれに構わず、再び課長の唇を奪っていく。柴田さんがこちらを窺って驚いていたような気もしたが、私は敢えて気にしなかった。
この時間は課長と共用していい、と言ってくれたのは、当の事務長である柴田さんではないか。
「課長・・・・」
私は課長のデスクの前で俯く。
「その・・・・不安なんです・・・・」
課長以外では不感症かもしれない、私の身体のこと。未だはっきりと明確な答えが見い出せない、ひーくんとの関係。課長の・・・・私に対する感情が解からない不安・・・・夏季午前中出勤が今日で終わってしまう、そのことがそれらに拍車をかけている。
今朝、発覚した妊娠してしまっている事実。
そして何よりも・・・・課長と柴田さんとの関係が。
ここ一カ月もの間に様々な事態が、立て続けに頻繁に起こり、それらに対して私は莫大な不安と懸念しかない。もしかして何一つ好転しないのではないか、という危惧さえも抱いている。
それだけに今だけは課長に抱かれることで安息の時間を得たかった。安心したかった。この恐怖を解消したかったのだ。
・・・・それなのに。
「すまない、琴乃くん。今はさすがに、そんな気分じゃ・・・・」
むぅ。
壁の電圧を操作してくれた時点で、私は抱いて貰えるものだと期待していたこともあって、私の落胆は当然のものであっただろう。
一瞬、課長の背後に柴田さんの影を感じてしまう。
でも、それでは猶更簡単に引き下がるわけにはいかない。
「じゃあ、そんな気分にさせて見せます!」
「こ、こら・・・・」
私は課長のデスクの中に潜り込むと、課長のベルトを緩めていく。ここまで積極的に求めたことはなく、全く手馴れない手つきではあったが、その目的は果たせられようとしていた。
今までに得てきた知識を総動員し、私の純潔を捧げた課長の象徴を手にすると舌先で舐め、それからゆっくりと口に含んでいく。
どう? と、私は小首を傾げた。
さすがに私自身でさえ大胆だと思う行動に、驚きを禁じえない表情が浮かんでいる。が、まだその気にはなってくれていないようだった。
私は行為を続けることにした。
「ん、くっ・・・・」
つたない技巧ながらも、次第に課長からは苦悶のような声が漏れて、私は更に没頭していく。
「くっ・・・・こ、琴乃くん・・・・」
課長の限界が訪れていることを口に含みながら理解する。
私は咥えたまま頷き、口内で発射されたそれを決して零さまいと『ゴックン』と咽喉を鳴らして、ゆっくりと嚥下していく。無理はしなくていい、という課長の言葉に頭を振り、私は時間をかけつつその全部を飲み干していった。
「はぁ・・・・はぁ・・・・」
「本当に大丈夫かい?」
私は懸命に微笑みを装って頷いた。
「か、課長・・・・だから、ご褒美ください」
「・・・・」
それは射精したばかりの課長にとっては、過酷な要求だったかもしれない。が、私は当然だというばかりに願望を突きつけていた。
こうして私は、午前中だけで二回、午後からも外回りの社員たちが戻ってくるであろう三時ごろまで、課長とSEXをする権利を勝ち取ったのであった。
時刻を見れば、もうすぐその三時に達しようとしていた。
恐らくこれが今日の・・・・そして、夏季期間限定という条件で午前中出社できた私が、課長とできる最後のSEXとなろう。
そのSEXの最中・・・・今にも二人ともに果てようかという最中、突如、私の携帯が室内に鳴り響く。
「・・・・」
「このメロディーは・・・・田中からか?」
「うん。ひーくんから・・・・」
二人で海へ旅行に行った際に、ひーくんからの着メロは課長も知っている。故に気を遣ってくれようとしたのだろう。もうすぐ果てようか、というその行為を中断しようとしていた。
「あ、課長・・・・その、続けていてください・・・・」
「い、いや・・・・だが・・・・」
「その、ん、構いませんから・・・・」
課長の異議を認めず、私は後背位の体勢を崩さないまま、スカートのポケットから携帯を取り出して、彼からの電話に応じた。
《初音?》
「んっ、う、うん・・・・」
《昨日は・・・・その・・・・》
「・・・・」
今にも絶頂に達しようか、という喘ぎを決して漏らすまい、と片手で口を覆った。
《ごめんな・・・・》
正直、ショックな出来事ではあった。
ひーくんが他の女性と関係していた、そのことにではない。その彼とのSEXには全く感じられない、こんな自分の身体に、である。
《今・・・・課長、居る?》
「んっ! うん・・・・だって、か、課長室・・・・だもん」
まさか、その課長とSEXをしている・・・・しかも今にも果てようという最中であるとは、ひーくんには思いもしていないことだろう。
そんな彼には、さすがに後ろめたくはあるのだが・・・・
《今、帰社してきたから・・・・少し、話ができないかな?》
「う、うん・・・・今、課長とね、大事な用が・・・・あ、あるから、も、もう少ししたらぁ・・・・」
私は彼との通話を切り、帰社してきたばかりの彼、今しがた話していた携帯を置き、自分のデスクに座ろうとしているひーくんと目が合った。無論、片面透視不可の状態だから、目が合っている気がするだけのことである。
ひーくん、ごめんね・・・・
それとほぼ同時に私は課長を一段と強く締め付けて、既に懐妊している膣内へと注ぎ込んで貰うのであった。
私は一体、どうしたいのだろう?
帰社してきていたひーくんに声をかける直前、私は何度も自分に問いかけ続ける。急に色んなことが起きて、起き過ぎて・・・・気持ちの整理が全くつかないでいる。
「お帰りなさい」
私はひーくんの肩を叩き、彼を振り返らせる。
正直、ひーくんへの想いは変わっていない。処女を課長に捧げてしまった後ろめたさはあるが、彼への想いは尚も不動のままであった。
ただ自分が妊娠してしまっている事実。その父親である課長の気持ちも、私の課長への気持ちも解からないのだ。
課長を心から尊敬しているし、一人の男性として見ても、頼りとなる人物だとは思う。キスやSEXは上手だし、今までに幾度もなく膣内に注いで貰い、絶頂へと導かれているのだから。
だから、これからも機会があれば・・・・(セキュリティカードは預かったままだし)課長の自宅を訪ねて、身体だけでも重ねていきたいとは思う。
・・・・
本音を言えば、恐らく私は課長のことが好きなのだろう。
だが、それは長年に培われた幼馴染のひーくんへの愛情とは異なり、それが一時期的なものじゃない、とどうして断言できよう。
私は・・・・一体、どうすれば?
「第二応接室が空いているから、そっちに行こうか」
「う、うん・・・・」
本来なら社員同士での私用で、応接室を使用することは禁じられているのだが、この時間帯となると空き部屋となり、幸い第三応接室も現在は無人の状態である。業務に差し支えるようなことはないだろう。
「初音、昨日は・・・・その、ごめんな!」
「ううん、私も・・・・その逃げて・・・・ごめんなさい」
使用されていない応接室で、謝罪する彼には申し訳なく思った。
これまでに異性と関係を持っていたことに関して、私にも彼を責める資格は持ち合わせていない。むしろ処女を捧げると約束を違えてしまっている自分こそ、ひーくんに詫びねばならないぐらいである。
まして未だに自分の気持ちの整理もつけられておらず、口頭から謝罪されてしまったこともあって、とてもではないが彼に別れを・・・・
わ、別れ!?
私はひーくんと別れたがっているの!!?
自分の導いたその思考に、私自身が慄然としていた。
それもそうであろう。
私が都内に上京してきたのは、この講学社でアルバイトをするようになったのも、全てはひーくんの傍に居たいという想いからであったはずだった。そして、今も彼を想う気持ちは少しも揺らいでいない。今も昔も彼が好き、という感情一色でしかないはずだった。
わ、私は一体・・・・?
結局、全ての事態が曖昧のまま、私はひーくんと応接室を後にしていた。
私は・・・・どうすれば?
一体、どうしたいのだろう?
今日一日、何度も問答している疑問は、意外にもすぐに解けていく。
ひーくんと応接室を退出して課長室に戻ろうとすると、その出入り口の扉が少し開いていたことに気が付く。課長と柴田さんの声が聞こえ、その会話の中に自分の名前が上がったこともあり、私は密かに課長室にある自分のデスクに潜り込んだ。
「柴田くんも田中が本命であっただろう?」
「あら、もう違いますよ〜」
幸い、課長室の壁はまだ片面透視不可の状態が続いており、私がここで聞き耳を立てていることに気付く社員は皆無であった。
「それはまた、急にどうして?」
「ん、純な外見に騙されていましたが、結構、田中くん。女癖が激しいらしくて・・・・それに、その割には正直、あっちのほうが下手というか・・・・完全に独り善がりで、全く感じられないのですよ」
その柴田さんの率直な感想には、私も同意するしかなかった。
「これまでに彼に泣かされた、抱かれた少女は何十人・・・・そのうち身籠らせたのが八名とか・・・・まぁ、いいところのお坊ちゃんのようですから、不思議ではないのでしょうが・・・・」
「それほど?」
「ええ。それに結構、彼は腹黒いですよ・・・・」
「驚いたな・・・・まぁ、羨ましい部分もあるけどな」
そう言って課長も驚いていたが、彼の幼馴染である私でさえも驚きを禁じえないでいた。
課長は灰皿を出して同席の柴田さんに確認を得たあと、煙草を一本取り出して火をつける。
「ふー(煙)。それでも、田中の本命は琴乃くんだろう?」
「・・・・とは、限りませんよ〜」
私の名前が課長から再び出て、思わず『ドキッ』としたが、それだけにそれに続いた柴田さんの言葉が気にはなった。
「以前、彼から聞かされた話では、それはあくまでもお家の都合だけであって、彼個人の本命は別の良家の・・・・」
・・・・。
私は耳にした話にも、そして目の前(親しげに接する課長と柴田さん)の光景にも絶望する。
私はゆっくりと後退り、二人に気付かれることなく退出し・・・・次第に社内を駆け出していく。途中で永沢さんにぶつかりそうになってしまったが、機敏な永沢さんの反射神経で激突は回避され、私は課の職場を飛び出して、ひたすら社内のビルの中を駆け回っていく。
嫌・・・・嫌ぁ!
頭の中でその言葉だけがぐるぐると渦巻いていた。何も考えたくはなかった。呼吸も苦しい。何よりも感情の行き先が見つからない!
エレベーターのほうに向かって走り、混雑している状況が見えると最初の角を右に曲がった。そのまま社内の突き当りを更に曲がって、とにかく人がいない場所へと向かって一心不乱に駆け続けた。
視界が歪むと右手で目を拭い、嗚咽しようとする口元を抑える。
信じたくはなかった。
でも、信じたかった。
解からないし、解かりたくもない。でも解かってしまった。
認めたくもあり、でもそれだけは絶対に堪えられそうにもない。
相反する思考が駆け巡る中、『一体、何が?』と思った。
非常用の階段を駆け下りて途中の柱頭で座り込むと、私は一人で啜り泣く。
見たくはなかった。
課長と柴田さんが一緒にいる、その光景が・・・・
「早く・・・・離れてぇ・・・・」
ここまで強く望んだのは初めてのことであろう。
課長を取られたくない、と!!
ひーくんへの想いは少しも変わっていない。例え柴田さんの話が全て本当であった、としても・・・・少なくとも現時点においては。
・・・・そう、変わってしまったのは、私だった。
SEXをすることだけでじゃない。
ひーくんを想うそれ以上に・・・・私は課長を・・・・
「ううっ・・・・」
ようやくにして気が付いた、私の本当の気持ち。
同時に激しい焦燥感が私を悩ませるのだ。
柴田さんの全てに劣っているのは自覚していた。身長の高さもスタイルの良さも、胸の大きさから・・・・仕事の重責は無論、課長からの信頼においても・・・・私は全てにおいて柴田さんに劣っている。
私から見ても、誰もが憧れる女性像ではあろう。
だからこそ私は、柴田さんに嫉妬せずにはいられないのだ。
「ど、どうして・・・・」
私は課長だけを・・・・選ばらなかったのだろう!?
「ううっ・・・・」
彼と別れる・・・・
私、ひーくんへの想いを捨てるからぁ・・・・
だから、私だけを見てぇ!!!
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