第三話『 勝負 』
(視点・結城瑞希)
宗ちゃんにあげられるものがなくなっちゃったよ。
初めての、ファーストキスも……
私の……『処女』も。
せ、折角……宗ちゃんが、彼女にしてくれたのに。
ごめんね……
私は……私は……もう、宗ちゃんを『運命の相手』にすることが叶わない。
宗ちゃん、ごめんね……
許してくれないかもしれないけど……
そ、宗ちゃん……ごめんなさい。
「家に電話してなくても大丈夫?」
宗ちゃんではなく、私の『運命の相手』となった人物が問いかける。
彼は抱き終えた(あれをレイプと呼ぶ程に、私は最初から抵抗を示していなかった……)私を、寮かマンション、まるでホテルのような一室に(この建物それ自体が、彼の自宅なんだと知るのは後日のこと)連れ込んでいた。
ちょうどその時だ。
私の携帯端末に宗ちゃんからの着信を受けたのは。
「いいよ、出て……俺は着替えに席を外すからさ」
そう言って彼は退室していった。
『瑞希か、すまん……今、やっと部活が終わって……』
「あ、ごめん、宗ちゃん……」
時刻を見ると十九時を廻っていた。
きっと今まで練習中だったのだろう。
「私、朝から体調が良くなくて……」
『え! だ、大丈夫か?』
「うん、大丈夫……でも、駅で待って居られなくて……」
『いいって。そんなこと気にすんな!』
宗ちゃんが本気で心配してくれているのが、良く解かる。
『誕生日祝いは、今度な……』
「……うん」
宗ちゃん……ごめんね。
宗ちゃんにあげるはずだった『処女』も、もう無くなっちゃったけど……私が好きなのは、宗ちゃんだけだから。
私の心は宗ちゃんだけ、だから……
『明日、明後日と休校日だろ……しっかり治せよ』
「う、うん…ありがとう…」
ごめんね。
「好きだよ、宗ちゃん……」
これから私は、宗ちゃんじゃない人に抱かれる。
彼の持つ携帯端末には、私の破瓜した画像が収められており、それを抹消する条件で、私は一夜の相手する約束をしてしまったのだ。
それがどれだけ愚かしい選択だったが……
どんな結末を迎えてしまうものであったのか、
現時点での私では理解できていなかった。
「シャワー浴びて来てもいいよ?」
「………」
「夜は長いんだし……約束は守るから」
あの画像が広まるのは困る。まして彼は野球部員だ。特に同じ野球部の宗ちゃんだけには見られたくない。
宗ちゃんだけには知られたくなかった。
宗ちゃんじゃない、男を知ってしまった私の身体。
処女じゃない、穢れてしまった事実。
シャワーを浴びても、初めての性交で汗だくになった汗は流せても、その事実までは洗い流せない。
(ごめんね…ごめんなさい……)
シャワーは涙も誤魔化すように流してくれるのに。
「あ、泣いてた?」
「えっ?」
浴室に彼が入ってくる。
「一緒に入らない、とは言ってないよね?」
「そ、そんな……」
改めて見る彼の肉体。
数時間前、私の純潔を奪った男性器。
(あ、あれが…本当に…私の身体に?)
信じられない大きさだった。
「あっ……んっ……」
再び唇を奪われる。
「んっ……んんっ……」
シャワーを浴びながら、お互いの口内に侵入し、お互いの唾液を啄み合う。こうやって男の人とキスをすると、ダメだって解かっていたはずなのに……
……もう拒むことができない。
「もう、乳首ビンビン……」
カァーと赤面する。
「瑞希ちゃんって、超敏感なんだね」
「そ、そんな……」
女の人はみんなそうなんじゃないですか、とはさすがに聞けない。もしもこの現象が私だけだと知ったら、ショックが大き過ぎるよ。
「まぁ、俺も…瑞希ちゃんでガチガチだけどね!」
それは先ほどよりも大きくなっていた気がする。
「俺とのキスは…好き?」
「………」
「あ、いいよ、いいよ。答えなくても……ね」
彼は優しく微笑み、そして残酷に告げる。
「その分、瑞希ちゃんの身体の反応は正直だから、さ…」
正直、私は自分の身体が信じられない。
宗ちゃんじゃない人とキスをして、それが全然、嫌じゃなくなってて……次第に無我夢中で身体が反応してしまう。
気が付けば、私はベッドの上に横たわらさせていた。
「顔も乳首も…こっちも、もうトロトロだな」
「うぁ……らめぇ……そ、ちゃんじゃないの……に…」
「それじゃあ、まぁ…淹れるよ?」
「あっ……あぁ……」
再び挿入されてくる圧迫感。
でも、最初の時に比べれば痛みはそれほどなく……
「うん。馴染んできたな」
「……まぁ、たぁ……頭ぁ……真っ白に……」
「いいよ、いくらでも往かせてあげるよぉ、っと!」
「あっ…あああぁぁぁぁ……」
一気に奥深くまで貫かれて、その先端が私の底までに到達されていく。
「まだ全部…入ってないけどね……」
う、うそ……
でも、あの大きさなら、と……
「俺の大きさ……身体が覚えたでしょ?」
「あっ……あっ?」
「そうだね、答えなくていい約束だったし、往かせてあげる約束だったね」
彼の動きがゆっくりと…次第に激しくなっていく。
「らめぇ……れすぅ……らめぇ……ああぁ…」
「…やっぱり、瑞希……いいよぉ、いいぜぇ、この身体!」
「あ…??…ら??」
もう頭が真っ白で何も考えられなくなっていた。
彼が付き合おう、って言ったのは何となく覚えている。でもそれだけは宗ちゃんへの想いもあって、返事はしなかったと思う。返事をすることができなかった、ってこともあるだろうけど。
(私が好きなのは……宗ちゃんだけ!)
彼に抱かれるのは、今夜だけ……
あくまで、あの画像を削除して貰うため。
そんな言い訳も……初めての絶頂を『処女』を失ったその日に、その相手との性交で迎え、彼の夥しいばかりの精液を何回も、膣内で受け止めていく毎に、もう何も考えられなくなってしまっていった。
彼の体力は底なしだった。
それ以上に彼の精力は旺盛…絶倫だった。
「瑞希ちゃん。凄い、往きっぷり!」
「あっ! やぁっ! あっん……」
「ほら、瑞希ちゃん、鏡を見てみ?」
そこにはひたすらに彼を受け入れて、蕩けた表情の自分の姿が映っていた。酷くはしたなくて、酷く淫らな自分が。
(あ、あれが……わ、私……)
こんな姿、宗ちゃんだけには見られたくない。
少なくとも、宗ちゃん以外の人に抱かれている、こんな私の姿だけは……絶対に。
「す、すこひ……休ま…せてぇ……」
「だーめ。今日は一晩中相手にしてくれる約束でしょう?」
彼は優しく、そして残酷なまでに告げてくる。
だが、彼は決して間違ったことを言ってはいない。
一晩中、というのは当初からの約束だった。
で、でも…こ、これが……あ、朝まで、休まず?
全身ビクビクと痙攣させて、膣内は彼の精液だけに満たされる。私は生まれて初めての、この往き地獄を体験させられていた。
「ぅんーそうだなぁ……」
時刻を確認しながら、提案してくる。
「明日は土曜の休校日だよね……」
入学式は異なるが、休日は高等部も中等部も基本同じだ。
「なら、明日も瑞希ちゃんが付き合ってくれる……って言うなら、今日はこれで終わりにしてあげるよ?」
「あ、あひたもぉ……」
やっと休める…って気持ちと、もうこれ以上は宗ちゃんを裏切りたくない、ってそんな後ろめたい気持ちに挟まれる。
「あやぁ……ひやぁ……」
悩んでいる間にも、彼は私の膣内に入ってくる。
正直、もう限界だった。
「わ、わかひまひたからぁ……あひたもぉ……」
「了解、んじゃ、これを膣内に出したら、今日は終わりにしてあげるね!」
結局、その一回の射精までに、私は三回は果てさせられ、明日も彼に抱かれる約束までさせられて、私はやっと休息の時間を得られるのでした。
翌朝。
意識を覚醒させた私は、見慣れない天井の光景と、昨日の出来事……処女喪失からこの時間までの出来事を振り返っては、絶望的な気分になってしまう。
(もう…私、宗ちゃんの彼女に相応しくないかも……)
もう私は宗ちゃんに『愛の証』をたてることはできない。
宗ちゃんを『運命の相手』にすることも……
その資格を、もはや私は失ってしまっていたのだ。
「おはよう、瑞希ちゃん」
その宗ちゃんの代わりに、私の『運命の相手』となった彼が顔を出す。
「朝食…食べるでしょ?」
「………」
正直、食欲なんてあるはずもなかった。
「何でも作らせるし……その後は昨夜の続き、なんならすぐに始めるよ?」
その言葉に再び愕然とさせられる。
そうだ、昨日で終わりではないんだ、と。
そして食事の時間、その朝食の時間の間だけでも、時間を稼ぐことができることを彼は暗に告げていた。
「何でもいい、ってことだから……そうだね、今夜も瑞希ちゃんは頑張らなきゃならない身だから、朝から精の付くものがいいかな? あ、いや、でも朝だし……軽食がいいか」
「………」
「さすがに午前中からは可哀想だから、そうだね。まずは俺好みの衣装に着替えさせてあげようか」
「………」
彼が懸命に話題を提供しようとしているのは解かったが、私は朝食中の間だけでも、終始無言を貫いた。
「あ、昨日、一杯膣内に出しちゃったけど……大丈夫?」
「……っ……暫く安全日です…」
「あはははっ、やっと話してくれた」
っ、答えなくても良かった気がするけど……
無視し続けるのも意外と難しい。
彼の名前は『武田信晴』だと、私の着替えを手伝ってくれたメイドさんが教えてくれた。
関東の『名五師家』「武田家」の御曹司。私だって何度も彼の名声は耳にしたこともあった。現に宗ちゃんの所属する東条高等野球部は、彼の活躍をなくして甲子園優勝はなかった、と言えるほどのものだと。
着替えさせられた後に軽いメイクもさせられる。
私を彼好み、とさせるには必要なことらしい。
またメイドの彼女たちから忠告もされる。
彼を絶対に怒らせてはならない、と。まだ笑っているうちはいい、交わした約束は守るタイプであり、基本的には温厚だという。
ただし、彼が欲しいと思った物は絶対に手に入れる。それにはどんな手段を用いても、だという。
(たぶん、私には、関係のない話だよね……)
私にはそんな価値なんてない。
約束通り、今夜、彼の相手をして……私は宗ちゃんの処に帰るだけ。それ以外の余計なことは考えない。
「お、いいねぇ……」
彼はおどけたように私を出迎える。
「………」
「口を利いてくれれば、もっといい…かな?」
「………」
その彼の言葉に抵抗するように、私はそっぽを向く。
絶対に彼のペースに、口車に乗せられてはダメ。
それから、キスだけは絶対にダメ……。処女喪失させられた時も、この寝室に連れ込まれ、シャワーを浴びていた時にも、彼とのキスが始まりとなっている。
だから絶対に、彼に唇を許してならない……って、私はこの短い間に学んでいた。
唇を固く閉ざし、ついでに目も瞑って視界も閉ざす。
今夜だけは身体を許すが、それだけだ。
(私は絶対に、宗ちゃんの処に帰るんだから……)
折角、長年想っていた宗ちゃんが、私を彼女にしてくれたのに、もう私は彼女失格かもしれない。宗ちゃんじゃない男に身体を許したって、幻滅されて、罵倒されて、破局させられるかもしれないだろう。
「うん、なるほど……君の考えが解かったよ」
「………」
明らかに彼の雰囲気が変わっていた。
それは私を名前ではなく……「君」と呼んだことでも解かる。彼のペースに……口車に乗せられてはならない。でも、同時にこのままでもいけない。
『信晴様を怒らせてはならない…』
それはメイドからの忠告。
視界を開いた私は、彼が微笑みを絶やしていなかったことに安堵し、そしてまた、その瞳が決して笑っていないことにも気付いていた。
「一つ、勝負をしようか!」
「し、勝負?」
「うん。勝負だ……もし君が勝ったのなら、君を即時解放して、勿論……昨夜の画像は消す。もう俺は君の前に現れないし、関わらないことも約束する」
「……、もし、私が負けたら?」
どんな勝負かも解からない。
だが、既に私は自分の負けを予測していた。
これが既に彼の口車、ペースに乗せられた証明だろうか。
「また来週の週末……俺とSEXをしよう、瑞希ちゃん」
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