第三話【 面接判定 】




 《和馬》

「・・・・」
 遅い。
「・・・・」
 いや、遅すぎる・・・・
 かつての婚約者から貰った腕時計を幾度もなく見ても、都々御遥人と小泉とうあの姿は一向に現れない。
 深い溜息が漏れる。
 二人の出遅れは、もはや日常化していた今日ではあったが、俺はいつにもまして、苛立ちを憶えずには居られなかった。
 理由は明白である。
 新邸の前に広がる運動自然公園の一角。ここで二人を待つ日常こそ、相変わらずの日々ではあったが、昨日までの状況と異なるのは、二人を待っている人間が、俺一人だけ、ということであろう。
 コタのこと・・・・谷浦虎太郎と、隣家の雛凪つむじの二人は、来週の大型連休を控えている時期ということもあって、早朝から風紀委員の会議へと赴いている。そのため、おのずと登校時間ギリギリの二人を待つ役目は、俺一人となってしまったのである。

 再び、腕時計を見る。
「一人で行くか・・・・」
 と独り言した、その矢先のことだった。
 ・・・・小泉とうあが、唯一人でやってきたのは。
「神崎くん。おはよ」
「おう。おはよう・・・・で、都々御は?」
「んっ、」
 途端に機嫌が悪くなったのが、まだ出会って一月の俺でさえ容易に解かってしまった。
 また喧嘩か・・・・。
 二人の間には、よくあることであった。仲が良いほど喧嘩するとは言ったものだが、この二人の場合は顕著に過ぎるところがある。昼食におけるおかずの取り合いから、些細な言論からなど、例を挙げたらきりがない。
「でも遥人が悪いの!」
「へいへい」
 一々仲裁する気にもなれなかった。
 痴話喧嘩は犬でも食わない。触らぬ神に祟りなし。
 俺は早々、静観する立場に決めていた。


 小泉とうあは、俺の親友ともなる都々御遥人の幼馴染で、ゲームやインターネットにも精通している、同世代の女生徒たちに比べて一線を画する稀有な存在であろう。
 それでいて健康美な身体は、如何にも女性らしく、九千人とも言われる桜花中央学園の新入生の中で、三大美少女の一人と称されながらも、全く当人には自分の美貌に自覚がなく、親しみやすい性格ではある。その辺に他の二人に可憐さでは劣るはずの彼女の、人気の高さがあるのかもしれない。
「どさくさに紛れて、胸を触ろうとするだもん!」
 Hは嫌い。と断言するとうあに、俺も唖然とする。
 ちなみに小泉とうあは、俺が最初に犯すつもりであった獲物である。
「ったく・・・・」
「んあ?」
「二人揃って、ガキなんだから・・・・」
「私は子供じゃないよぉ!」
 そう剥きになって反論するところが子供っぽいなのだが、俺はある事実に基づいて現実を指摘する。
「生理が来ていないお前も、十分、お子様だろうに」
「!!」
 屈辱の怒りからか、それとも羞恥心の気恥ずかしさからか。途端に真っ赤に顔を染める、とうあ。
 MCNには排卵日を迎える一週間前、そしてその当日に、俺宛にメールする、と記載してある。だが、とうあと出会ってから、早一月近い歳月が過ぎても、未だにメールが届いた形跡はない。
 くびれの良い身体には、既に懐妊しているような傾向もなく、そもそもとうあが処女であることも判明済みでもある。

 つまり、ここから導き出される答えは一つしかない。
 小泉とうあは、その女性らしい身体つきにも関わらず、未だに生理を迎えていないのである。無論、生理を迎える少女の年齢には個人差があり、何も早ければいい、というわけではなかったが・・・・

 真っ赤に顔を染めたとうあの向こうに、如何にも蒼痣の紅葉を頬に作っていた都々御の姿が見え始める。
「ほら、さっさと仲直りしてこい」
「うぐぅ・・・・」
「それとも何か、都々御にバラして欲しいのか?」
 反抗的だった視線が、僅かに上目遣いに変わる。
 俺が小泉とうあを最初に狙った理由は、この表情の変化にあったのかもしれない。どことなく・・・・だが、俺の良く知る人物に似ているのだ。
 是非、とうあを犯すときは、俺のことを「かずにぃ」と呼ばせるようにしよう。
 とうあに「かずにぃ」と呼ばれる、その状況を想像して、俺は脳裏からつま先に至るまで狂喜が貫いていた。


「お、おはよう、和馬」
「おはよう。遥人、大丈夫か?」
 俺は痛々しく弱っている都々御に視線を送った。
「朝から、喧嘩はほどほどにしてけよ」
「たぁっははは・・・・」
 都々御がとうあに想いを寄せているのは、傍から見ても明らかであった。親友ともなっていく俺としても、二人が結ばれることに何ら異存はない。いや、喜んで祝福もしよう。
 だが、俺がとうあを抱くときになって、未だにとうあが処女であろうとも、そのときは遠慮なく破瓜させてもらう。
 小泉とうあが初潮を迎えるのが先か?
 それとも、遥人が想いを告げて結ばれるのが先か?
 それは目に見えない、俺でさえ先が読めない勝負・・・・一つの賭けであった。
 その前に俺が神崎家の当主になっている可能性もある。そのときは延長戦なしの、俺の負けにしておいてやろうか。
「笑ってごまかすな。これは忠告だぞ」
 それは俺の本音でもある。
 俺の中のもう一人の自分が「小泉とうあを犯せ」と囁く一方で、本当に二人のことを案じてもいる自分もいる。この二人には、俺と弥生のような二の舞だけは迎えさせたくはない。

 たとえそれが、自分の手によるものだとしても・・・・



 《直人》

 和馬さまの桜花市における生活は、初めての一人暮らし(建物それ自体は地下通路で繋がってはいるが・・・・)おおよそ順風に適応している、と思われた。
 少なくとも、住み慣れていないはずの地元以外で、多くの友人ができることは、和馬さまにとっていい傾向であろう。
「・・・・こんなものか」
 ホームルームの準備、今日の授業で使う予定の題材や課題などを予めプリントアウトしておき、受け持った吹奏楽の練習場所の手配から、個人個人の課題に取り組む。
 教師稼業も板についてきたな、と思うと我ながらおかしくなる。

 続いて情報屋に依頼しておいた報告のメールをチェックする。
 ちなみに今回はグレンには依頼していない。確かにグレンの持つ情報網は、わたしの知る限りの情報屋の中でも精巧かつ精密ではあるが、あの男ばかりを頼りにするわけにはいかない。いざ、とときの選択肢は多いほうがいい。そもそもグレンや、天城小次郎は東京である。

 それぞれの情報屋に依頼しておいたのは、二つ。
 一つは和馬さまより依頼されてあった、結城琴子である。
 彼女の家族構成から主な友人関係、好みから性格、桜花中央学園に至るまでの、結城琴子に関する個人情報が綿密に調べ上げられてあった。
 即座に更なる調査の継続、新たなる発見があれば、即座に連絡を貰う手筈でメールを返信する。
 これ以上の新たな発見は難しいかも知れないが、得られる情報は多いことに越したことはない。
 そして送られてきた結城琴子の個人情報は、和馬さま宅のパソコンのアドレス、校内の個人専用メールアドレスにそれぞれ送信しておく。

 続いて次の情報屋から送られてきたのは、この桜花市における神崎家、より正確には、神崎一樹の動向である。
「仁科が姿を消したそれ以外は、特に動きは・・・・なし、か」
 現在は名家草薙家と鳳家などの支持を得て、優勢な一樹なだけに、露骨にこちらへ仕掛けてくる可能性は、そう高くはないだろう。
 だが、篠原商会、大原財閥の(正確には、大原財閥だけでも)支持を得れば、たちまち一樹との形成は逆転する。そのときに一樹がどんな手段を講じることになるか、今の状態で予測することは極めて難しい。
 また、あの一樹のことである。万全を期するためにも、和馬さまを亡き者にするよう、画策する可能性も皆無ではなかった。
 その意味においても、神崎家には常に目を配らせておく必要がある。
「まぁ、神崎家を離れて、まだ一ヶ月ですからね・・・・」

 桜花から遠く離れた神崎家。それだけにわたしも油断していたのかもしれない。後にわたしはこちらの依頼を、グレンないし、天城小次郎にしておくべきであったのだと、深く痛感することになる。
 もっともその頃、グレンだけでなく天城小次郎もまた、某王国の王位継承に纏わる重要人物として事件の渦中の人にあったわけで、とてもこちらに協力できるような状況ではなかったのだろうが・・・・


 時間が経つにつれて出勤してくる教師も増え、職員室内がざわめいてくる。あちこちで談笑の声が上がり、時折耳障りな笑い声も耳についた。
 同じ学校で教鞭を振る同僚とはいえ、特に親しい友人をつくろうという気がなかったわたしに、話しかけてくるような酔狂な者はいない。
 とも、思っていたものだが、
「おはようございます。真田先生」
 すぐ側から涼やかな挨拶が聞こえてきた。
「おはようございます、と。宮森先生・・・・御早いですね」
 液晶画面から視線をはずすと、隣の席でにこやかに微笑む宮森香純の顔が映る。彼女は今しがた出勤してきた、というわけではなく、行事から戻ってきたような格好であった。
「今日は風紀委員の会議がありましたから」
「あ、なるほど」
 ご苦労様です、と度のない眼鏡を抑えて微笑む。
「あっ・・・・」
 その途端に彼女は、赤面して俯いていく。
 そんな香純の仕草がやけに幼く見え、教師らしい服装さえを除けば、つい和馬さまたちと同世代の生徒に思えてしまうのは、わたしだけではないだろう。
「あの、これ、頼まれていた文献の写本です」
「これは、ありがとうございます。大変助かります・・・・」
 手にした厚表紙から、かなりの年代ものであることが伺える。
 それは以前、わたしが彼女に頼んでおいたものであった。
 桜花中央学園の教師になる(正確には成り済ます、ではあるが)と決めたのが近年のことであり、どうしても古い文献などの資料の入手が困難なものが出てきてしまうのは、致し方のないことであった。
「今度、お礼に是非、食事でもお誘いしますね」
 写本に目を通しながら、つい口にしてしまった言葉ではあった。
「ほ、本当ですかぁ!」
「・・・・ええ、是非」
 身を乗り出すような姿勢の勢いに、思わずたじろいでしまう。
 目を輝かせる彼女に、これは本当に誘わなくてはならないな、と改めて思い直す。思えば女性に食事を誘ったことなど、これが生まれて初めての経験であったかもしれない。
「本当に約束ですよぉ!」
 手を振りながら退出していく後ろ姿を見送って、わたしはようやく、同僚の注目を一身に浴びている事実に気がついた。ある者は羨望と祝福の言葉を、ある者は嫉妬にも似た舌打ちを影で鳴らす。それも彼女が教員の中でも人気が高い証ではあろう。
「お、お騒がせしましたぁ!」
 わたしも即座に書類をかき集め、職員室を退出していく。

 そして同時に、これは絶対に和馬さまには知られてはならない、と強く思うのであった。



 《和馬》

 緑の芝生に無数の白線。放物線の孤を描く、赤と白の二色の球。
 かつての俺も、あの一個のボールを目掛けて、がむしゃらに走ったものである。
 外の奴らの授業は、ハーフサッカーか・・・・
「・・・・」
 正直、その光景を見て、羨ましいと思ってしまった。兄貴を蹴落とし、神崎の家を継ぐ、と決めたときに、サッカーとの人生を断念したばかりの俺ではあったが。
 幼少のころから、現代の人気スポーツだと直人に仕込まれ、中学サッカーでは全国までに名を馳せた。名門クラブユースの推薦、サッカーの強豪校からは特待生の誘いもあった。桜花に進学する、と決めるまでに進路を迷った部分は確かにある。
 苦し紛れのアーリークロス。俺の目に映ったFWは、それをトラップしてシュートするも、ボールは明後日の方向へと飛んでいった。
「へたくそ・・・・」
 俺ならダイレクトで・・・・
 不意にかつての、代表(世代別)での光景を思い浮かべてしまう。

 代表では一つ上に、絶対的存在感のある司令塔がいて、ここぞ、というときに鋭いパスを供給する名パサーもいたこともあって、俺はストライカー(正確にはセカンドトップ)としての役割を担うことになった。
 司令塔・相沢傑の展開からボールはサイドに流れ、名パサー・荒木竜一のワンタッチピンポイントクロスが鋭く上がり、それを俺がダイレクトでゴールへ豪快に叩き込む。
 俺が記憶する中でも、ベストゴールだ。
「相沢先輩に、荒木先輩・・・・元気にやっているかな?」
 サッカー界から離れてしまっていたこともあって、既に相沢傑は交通事故によって他界・・・・荒木竜一もまた、とある事情でサッカーを(一時的に、だが)辞めてしまっていたことなど、知る由もなかった。


 その退屈なまでの授業中、俺は外の体育の奴らを眺めていた。時折、右隣からの視線を感じてはいたが、俺は敢えてそれを黙殺する。
 用件は言われなくても解かっている。
 昨日、偶然に桜花市外で見かけた、《道頓堀》でのアルバイトのことであろう。見かけたことそれ自体は本当に偶然の副産物ではあったが、特待生待遇で進学してきた彼女にとっては、確かに大きな問題であったかもしれない。
 香帆を犯すか・・・・
 整った顔立ち、華奢な身体、艶やかな長い髪・・・・桜花三大美少女の一人に挙げられる、とびっきりの美少女である。全男子生徒の憧れの的といっても良いだろう。
 既に幾人もの男子生徒から告白(全てが玉砕)されている噂もあり、このまま後手に回っては、期を逸することにも成りかねない。
 もう弥生のときのような、後悔や泣き言などごめんだった。



 昼休み。
 俺は気分転換も兼ねて、立ち入り禁止ともされている屋上に出た。高置水槽の屋根に登って寝転ぶ。
 一つ一つ違う雲の形。そのゆるやかな流れ。それらを眺めていると、余計な雑念を捨てて、一つ一つのことに集中できるような気がしたのだ。

 直人が挙げた三名を除き、俺が抱くと決めた少女は、小泉とうあ、雛凪つむじ、宮森香帆、結城琴子の四名。
 まず【小泉とうあ】に関しては、今朝、俺の中で勝手に決めたように、とうあからのメールが届くまで、都々御との関係を見守っておいて置くことにしよう。
 【雛凪つむじ】・・・・彼女に関しては、他の三人ほどに深く強い執着はない。が、隣家ともあってもっとも身近な少女であり、既にMCNにも登録してもあるように、既に抱くだけの準備は整っている。
 【宮森香帆】はつい先ほど、抱く決心をつけたばかりである。
 向こうもこっちに用件・・・・恐らくはアルバイトをしていたその口止めであろうが、会話の機会は向こうから作ってきてくれるだろう。


 ・・・・。
 ・・・・問題は・・・・


 俺は遅々として進まない、【結城琴子】の攻略に焦っていた。
 音楽科とは建物それ自体違うこともあって、入学式から一ヶ月近くが過ぎようとしていて、あれ以降、未だに話しかける機会さえなかったのだ。当然、未だにMCNにも登録できていない現状なのである。
 直人からの調査報告で、結城琴子の交友関係・・・・小池鈴子以外に、神崎研一郎、霧島海の存在を知ったのは、今朝のことである。

 名門進学校に進学した神崎研一郎は、琴子にとって良き相談相手というべき存在で、小池鈴子と現在、恋人関係にあるという。
 先月の春休みに初体験を済ませていることも知りえた。今時の女生徒では、まぁ標準? といった感じではあろう。
 この歳になって、弥生やとうあのような、処女のままであることの方が稀有な存在なのである。
 問題は霧島海のほうだ。
 中学を卒業後、プロのピアニストを目指してウィーンに留学した男で、結城琴子にとっては初恋の人物でもあるという。メールに添付されてあった写真も見たが、かなりの男前だ。
 そいつは恐らく夏に帰ってくる・・・・
 それまでが勝負だな、と思わずにはいられなかった。
 いくら霧島海、結城琴子の性格が奥手だからとはいえ、高校一年になっても関係を持たないとは思えない。まして二人の親友でもある、研一郎と鈴子は既に関係を結んでいるのである。
 MCNの力は絶大だが、登録した個人しか操作できない欠点があり、しかもページ数も限られてくる。まだ十分に余分なページは残してあるが、これからの先のことも考えると、ここで使いまくるわけにもいかない。
 だが・・・・時間がないのも、事実。
 本来、無関係な人物はMCNに登録するつもりはなかったが、幸い、琴子の親友である小池鈴子は、俺のクラスメイトだ。親友の彼女なら、琴子との接点は十分にあり、MCNに登録が必要なものも手に入れやすいだろう。
「仕方ない・・・・搦め手から攻めるしかないか」
 もう一人の俺・・・・本性の俺がさぞ喜んでいるような気がした。
 いや、きっと本当の俺も・・・・。



「キャ!」
 結城琴子を攻略する思案に没頭していたせいもあるだろう。高置水槽の屋根から降り立ったとき、その場に自分以外の存在に初めて気が付いた。
「かぁ、神崎くん! 脅かさないでよぉ!!」
「あ、雛凪・・・・悪い」
 水槽の下に人が居るなんて思いもしなかった。また、そこまで接近されて気付かずにいたとは、俺も迂闊といえば迂闊である。
「もうすぐ予鈴が鳴るぞ・・・・いいのか?」
「ほっといてよ!」
 たった一ヶ月の付き合いとはいえ、都々御やコタたちの中でも一番に縁が深いのは、隣家の雛凪であったはずだが、およそ初めて見る彼女の反応に、俺は唖然とせずにはいられなかった。
「何か・・・・あった?」
「神崎くんには関係ないでしょ! もう、ほっといて!」
 ややヒステリー気味に叫ぶ雛凪。弥生や和美でさえ、ここまで叫ばれたことはない。単に俺には対女性経験値が圧倒的に少ないだけのかもしれない、が。
「そ、そうか。ごめん・・・・」
 俺は黙って踵を返そう、とすると、後ろから襟を掴まれた。
「うぐっ!」
 ・・・・か、かなり苦しかったぞ。おい。
「ちょっと、ちょっと! そういうときは愚痴ぐらい聞いてよ!」
「ケホ、ケホッ。だったら、素直にそう言ってくれればいいのに・・・・」
 その俺の「素直」という言葉に、雛凪は視線を落とした。
 なるほど、と思った。
 雛凪つむじの気持ちが良く理解できていた。どこか似ているのだ。以前までの、弥生と向き合っていたころの自分に。
 そう、かつての俺も弥生と向き合った際、直人以外の第三者がいると、俺は素直に接することができないでいた。どうしても気恥ずかしさが先行して、己の感情を旨く操作することができないのだ。
 雛凪は手すりに身を預け、黙り込んだまま外の景色を眺め続けている。俺もしばらく黙って立っていたが、さきほどまでお世話になっていた高置水槽に寄りかかった。
「・・・・コタとのこと?」
「!!」
 こちらに振り返った表情は、驚きに目が見開かれている。
「気付いていない、と思った?」
「まだ神崎くんと会って、間もないのに・・・・解かるんだ」
「まぁ、ね・・・・」
 似た者夫婦、という言葉があるように、雛凪とコタの組み合わせは、遥人ととうあ同様、お似合いのカップルのように思っていた。
「コタに告白してみれば、いいじゃん」
 簡単に言ってみたものだが、実際にそれがどんなに困難なことであるか、俺も身をもって知っている。時に親しい関係であることが、逆に関係を損なってしまう恐れで、立ち竦んでしまうのだ。
「女の子に人気がある神崎くんに、私の気持ちは解からないわよ」
「・・・・、そうかぁ?」
 桜花に通学することになって、女生徒からの告白はおろか、ラブレター一つ貰っていないのが現状である。
「それは神崎くんが越してきて、一ヶ月だからだよ・・・・私のクラスにも、隣クラスの神崎くんを狙っている子、多いよ」
「・・・・それは、光栄だね」
 雛凪の手前、そう言う以外に他なかった。
 告白されることもラブレターを貰うことも、中学時代に嫌というほど体験してきた。正直、今でも鬱陶しいという思いは、確かにある。
 だが、現在の俺の事情は中学時代と大きく異なっている。
 俺に好意を寄せる女生徒と関係するのに、相手に何の気兼ねもする必要はない。むしろMCNを用いないことで、俺の良心も痛まない。彼女たちには、性交技術の向上の肥やしとなってもらう、としよう。
「でもさ・・・・雛凪も十分、可愛い、と思うぞ?」
「嘘よ。もしくは神崎くんの目が、私の上辺だけを見ている。過去の私を知ったら・・・・」
「過去?」
 そこでハッ、とする雛凪。
 一体、過去の彼女がどうしたというのだろう?

  《 キーンコーンカーンコーン・・・・ 》

 学園全体に予鈴の鐘が鳴り響く。あと五分もすれば、午後の授業が再開されるだろう。
「・・・・もう、行ったら? 午後の授業、始まるよ」
「んっ、・・・・」
 俄かには立ち去り難い心境だった。
 雛凪の過去になにがあったのか、俺には解からない。ただ普段の彼女が無理をして、猫を被っていた、ということは推測できた。そして解かっていることもある。
 かつての俺がそうであったように・・・・
 過去の俺と今の雛凪、互いに欠落している共通するものとして、自分に自信が全く持てないのだ。だから、弥生と釣り合いがとれないことに引け目を感じ、冷たくあしらってしまう。周囲の目がどうしても気になってしまう。自分からアプローチすることも躊躇ってしまう。
「自信がないんだよな・・・・きっと、自分に」
 それは彼女に言った言葉か、それとも過去の自分を戒めた言葉であったのか、口にした俺自身でさえも定かではなかった。
「ん、そうなるのかな・・・・でも、もうこんな自分に慣れているし」
 自己嫌悪な微笑。
「私自身、呆れてもいるけどね」
 俺が新邸に引っ越したときに見せた、雛凪の微笑みからは想像できないほど、憔悴しきった微笑みだった。
 こんな雛凪の現状を打開してやるその手段が、俺にはある。
「でも、コタと・・・・うまくいきたいんだろう?」
 それは俺の最終確認であり、雛凪はゆっくりと頷いていった。

 踵を返して教室に戻る俺は、確かにこのとき、見えない大きな一歩を踏み込んでいたのだろう。



 なんとなく・・・・だが、予感があった。
 午後の授業が終わり、俺は自分の鞄を机の横に残したまま、第五音楽室に足を運んだ。もしかすると今日こそ、彼女に会えるかもしれない、そんな淡い期待を抱いていたのは、事実だ。
 恒例となりつつある、この日常。
 かなり重症だな、と我ながらおかしくもなる。
 だが、俺の来訪は今日も空振りに終わる。完全防音の音楽室は、無人と無言の沈黙をもって俺を迎えた。
「まぁ、こんなものか・・・・」
 俺は歩を進めて、入学式の日に彼女が座っていたピアノカバーを開く。一つ深呼吸して、《夢》とも名付けられた、シューマン子供の情景の第七節・・・・別名、トロイメライを弾いていく。
 入学式の日のこの場所で、この曲を披露した結城琴子。
 クラスメイトであり、彼女の親友でもある小池鈴子の頭髪を手に入れた今、琴子攻略はもはや時間の問題であろう。
 だが・・・・
 琴子をどうやって抱くか、何処で・・・・どのように?
 途端に俺の指は止まり、第五音楽室は静粛の空間に戻った。
「・・・・」
 一つ深呼吸して、今の俺にもっとも相応しく、もっとも好んでいた一曲を選び出す。
 ショパンの名曲、英雄ポロネーズ。
 強壮で猛々しいリズムが、当時の封建社会を偲ばせる。数多くの人に愛され、これからも愛されていくだろうショパンの名曲の中で、俺がもっとも好んでいる所以でもある力強さ。激しさが俺の心を掻き立てる。
 演奏と想像の中で、俺は琴子を無理やりにレイプしている光景を思い浮かべては断念していった。頭の中で琴子を幾度もなく穢しながら、股間はこれまでにないほど、激しい痛みを覚えるほどに勃起させていた。

 それから図書館に足を運んだ。
 これといって調べたいものがあったわけではない。単なるただの暇つぶしである。
 鞄は机の上に置いたままで、まだ在校中の目印は残してある。
 書架に並んだ蔵書の背表紙を眺めながら、のんびりと歩き、腕の時計が午後五時を回ってから、教室へと戻った。

 雑談するクラスメイトの姿はない。教室内は第五音楽室と同様、無人でガランとしていた。この時間で校内に残っている学生は、部活動に精を出す者たちだけであろう。
 俺は窓際の自分の席に立ち、漠然と広い学園一帯を窓から眺める。
 それほど長く、待つつもりはなかった。
 が、それは相手も同様の思いであったらしい。
 一日中、黙殺してきた視線が痛いほど背中に突き刺さっている。しばらく黙って立っていたが、やがて気まずそうに口を開いてきた。
「神崎くん・・・・」
「・・・・」
 俺は返事をせず、黙殺する。
 こちらから話しかけて、足元を見られたくはなかった。
「その・・・・見なかった・・・・ことにして、くれないかな?」
「んっ?」
 ゆっくりと振り返った。
 俯くようにして哀願している宮森香帆の姿を認める。夕日を浴びる彼女の可憐さは、確かに全校男子生徒の憧れの的であった。
「わたしがあそこで、働いていること・・・・」
「まだ、バイトを続けるつもりなんだ?」
「うん・・・・うちは、その・・・・お金がないから・・・・」
 その言葉を意外とは思わなかった。
 姉を学園の教師に持ち、姉妹揃って規律を重んじるようなタイプではある。その妹が校則違反とされる外部のアルバイトをしているのだ。何かしらの事情があるのだろう。
 今度、直人にその辺を探らせておいたほうがいいかもしれない。俺にだけではなく、直人自身にも大きく関わってくる問題だろう。
「お姉ちゃん、ここの学園の給料はいい、って言っても・・・・それでも生活はギリギリなの」
「そうか・・・・」
 その上、桜花は私立だ。いくら推薦入学の特待生待遇の宮森とはいえ、全くお金がかからないはずがない。
「だから、お願い!」
 パン、と両手を顔に合わせて、俺を拝む。
「・・・・」
 俺が黙っていたところで、時間の問題だと思った。
 確かにあそこ《道頓堀》は桜花市外だし、桜花中央学園の最寄りの駅、というわけでもない。だが、市内にある近代化された大型ショッピングモールのせいで寂れているとはいえ、それでもいつかは誰かの目に留まるだろう。
「今のバイトは辞めたほうがいい」
「えっ、そ、そんな・・・・」
 抗議にも似た口調も当然ではあろう。香帆にしてみれば、桜花市外ギリギリの場所で見つけられた、唯一の働きどころである。
「俺が黙っていても、いつかは誰に見つかるさ・・・・」
「・・・・」
 それが明日なのか、来年なのかは定かではない。あくまでも可能性の問題ではあるが、実際に俺に見つかっているのだ。香帆に反論できる余地はなかった。
「もし学園側に露見すれば、いきなり退学はなくても・・・・停学は免れないだろう。最悪、特待生待遇の剥奪かな」
 特待生待遇の剥奪。それは香帆にとって退学と同意義である。
「また香純先生も何らかの責任は取らされるかも・・・・」
「そ、そんな・・・・」
「あくまで、可能性だよ」
 俺は現実を指摘しつつ、直人のためにも、それだけは忌避しなければならない、と強く思った。
 教室内に再び、静粛の時間が流れる。校庭から甲高い金属音とともに上がった野次は、野球部のものだろうか。
「一つ、提案があるんだけど・・・・」
「提案?」
「そうだな。一ヶ月に一日程度・・・・宮森さんの都合の良い日でいい。その一日、俺に付き合ってくれれば、今のバイトの数倍は渡してあげる。ついでに、理事長にも特別に認可が下りるようにしてあげる」
 提案、とは言ったものだが、それを香帆が拒絶できないであろうことは計算済みである。だが、これは香帆にとっても悪い話ではないはずだ。
「えっ?」
「ちょっとしたコネがあってね。これで陰に隠れるように、コソコソする必要もないだろう?」
「神崎くん・・・・」
 次第に香帆の頬に赤みが帯びる。俺への感謝と好意が込められているのは、巨像並みに鈍感な俺でさえ明白であった。
 だが、俺はその想いを思いきり踏みにじることにする。
 俺が欲しいのは、美少女の肉体であって、青春の一コマを演じてもらう相手ではない。大原理恵をこの手に入れるその日まで、結城琴子一人を除けば、誰とも恋愛ごっこに興じるつもりはなかった。



「ただいま・・・・」
 無人のただ広い自分の家。この沈黙の出迎えによる帰宅にも、もういい加減に慣れてきていた。唯一、これまでの帰宅と大きく異なるのは、俺に同伴者がいることであろう。
「ここが神崎くんのお家なの?」
「ああ・・・・」
 宮森の率直な疑問に、俺は頷く。
 全ての(普段から全開にはしていないが)セキュリティーを解除して、俺は正門を先導していき、左右に首を振る宮森がそれに続く。
 玄関から見えるランプも消えたまま。直人もまだ帰宅していない証明である。
 ま、当然か・・・・
「今、紅茶を入れるから、そっちのリビングで寛いでいて」
「うん、お邪魔しますね」
 礼儀正しく、履き捨てた俺の分の靴も直していた宮森を残して、台所から紅茶セットを準備し、湯を沸かす。その間に自分の部屋(いずれも自分の部屋には違いないが・・・・)に入り、コンピューターを立ち上げながら、私服へと着替える。
 立ち上がったコンピューターから、この建物の制御室にアクセスして、映像保存の開始を特別寝室の開錠に合わせる。
 それから台所に戻り、湯が沸騰するまでの間・・・・その僅かの時間だったが、俺はこの直前になって香帆を犯すか、否か、の葛藤に際悩まされた。
 今なら、まだ間に合う!
 確かに今なら、良き雇用者として立ち止まることが可能だろう。このまま友好的な関係を築いていき、うまくいけば、俺の望むように自主協力的に、身体を開いてくれるかもしれないだろう。
 だが、俺の悪意が、弥生を犯している場面を脳裏に焼き付ける。
 ―はん、何を今更躊躇う必要がある?
「くっ・・・・」
 思わず握り締めた拳が痛い。
 ―弥生を犯して、孕ませちまった今になって、偽善者ぶるなよぉ、和馬ぁ〜!
 ―いいじゃねぇか。宮森もお前に気があるんだしよぉ!
「ぐっ・・・・で、でも、だからって」
 俺の呻きにも似た心の吐露は、眼前のポットに掻き消され・・・・
 ―ハハハハッ、レイプでも結構! 何のためのMCNだぁ?

 通称MCN・・・・正式名称、マインド コントロール ノート。
 一見、何の変哲もないノートではあるが、他者の思考を操作し、意思を制限させ、時には書き記した行動そのものを強制する。それこそ俺が父親である神崎源蔵から受け継いだMCNである。
 その効果こそ未だに模索する段階ではあったが、既に俺は元許婚である草薙弥生を操作し、妊娠レイプを成功させる効果まで挙げている。もはやその効力を疑う余地はなかった。


 俺は紅茶を注ぎ、しばらくは宮森との談笑を試みたものの、地元が違えば、生活水準も明らかに違う。ましてや男子と女子である。共通の話題を見つけるほうが困難、というものであろう。
 宮森が俺の経済方面・・・・特に、本当にお金を渡せられるのか、を気にしているようでもあったので、俺の身上や家族構成など、語られる範囲内で教えてやることにした。
 無論、MCNや弥生のこと、当主戦のことは伏せておいた。
 そして室内の大時計が七時を指し、時代遅れのような鐘を打ち鳴らす。男女に問わず寮の門限は確か九時だったはずだから、後二時間しかない。
「それじゃ、簡単に面接しよぉっか・・・・」
「あ、面接?」
「まぁ、簡単な実地テストみたいなものだから、そんなに畏まらなくても構わないよ」
 慌しく身なりを整えようとする彼女に苦笑しながら、俺はゆっくりと頷いた。
「それじゃ、(心の)準備ができたら、こっちに」
 目指すところは、無論、二階の特別寝室・・・・
 俺自身、入室することは初めてのことだ。
 およそ柔道ができそうな部屋に、ウォーターベッドが中央にして、敷き詰められた羽毛のベッド。完全に防音処理が施された壁にも、弾力の高いクッションが覆う。決して外から覗けることができない、マジックミラー製の防弾ガラス。天井一体に広がる鏡。そこから釣り下がるミラーボールのような、ムービングライト。 俺の指紋(もしくはパスワード)によってのみ開錠可能な電自動扉。
 直人が俺のために用意した特別寝室。ここではあらゆるSEXの体位と、あらゆるプレイを可能にする。
 無論、俺の性交の技量が伴えば、の話なのだが・・・・

 宮森を室内に押し込めると、そのままウォーターベッドのほうへ押し倒す。
「えっ、・・・・か、神崎くん?」
「さてと、面接を始めてやるとするか・・・・」
 これまで抑えつけていた本性が、静かに解放されたことを、俺自身だけが理解できていた。
「宮森のような腐れマンコでも、俺のチンポに適合できるのか、どうか・・・・」
 クッククク。互いの性器による、面接をよぉ・・・・
 俺はゆっくりと宮森のほうに向かいながら、脱ぎやすい私服を脱いでいった。弥生の脾肉を味わった経験、想像の中で幾度もなく琴子を穢して勃起させていたこともあって、トランクス越しでも明らかに反り起っている怒張が、激しくも自己主張している。
 宮森は俺の側を潜り抜けるようにして、再び扉のほうに向かう。
 特別寝室は一度扉を閉められたら、俺以外の人間には絶対に開けられない構造になっている。つまり、いくら宮森が懸命になって扉を開けようとしても、俺が室内に居る限り、絶対に退室できるわけがない。
「い、いやぁ・・・・いやぁ、」
「やれやれ・・・・」
 往生際の悪い女だ。
 俺は再び宮森の身体を掴むと、再びベッドのほうへ手荒に押し返した。
「男の家に一人でノコノコ、付いてきたんだ・・・・ある程度は覚悟していたんだろう?」
「で、でも・・・・こ、こんなのって・・・・」
 俺は先ほどの自分の心に勝った気分だった。やはり、宮森もある程度はこうなることを予測できていたらしい。
 ならば、話は早い。
「無理やりにされるのが嫌なら、まず自分で下着を脱げ・・・・おっと、制服はそのままでいい」
 中学時代の友人が言っていたことがある。ナース姿の女は、ナース姿だからこそ燃えるのだと。それは確かに正論だと俺も思う。いずれは裸体にして、隅々までいたぶることにしても、今は制服姿の宮森のほうが妙にそそるのである。
「ううっ・・・・」
 観念したのか、宮森は俺の要求を言われたままに、ワイシャツのボタンを二、三だけ外して、ブラジャーだけが取り除かれる。
 そして、ゆっくりとスカートの中に手を入れる・・・・ものの、それからが急にもどかしくも動かなくなる。まぁ、十五、六の少女に自ら脱がせることに抵抗を覚えるのは、当然のことであろうか。
 この展開で、逆にすんなり下ろされても、興醒めもいいところだ。
「おい!」
 だが、時間が限られているのも、事実。
「やはり、無理やりに面接をやってやろうか?」
 その言葉にビクッ、と震えると、ショーツを下ろす作業が再開されていく。その作業がようやく完了するか、どうかのところで、俺は宮森の太股を抑えつけ、おそらく全校男子生徒の誰もが羨望するであろう、光景を眼前に曝け出させる。
 桜花三大美少女といっても、所詮は貧相な庶民のマンコだぜぇ!
「折角、面接して貰えるんだ・・・・面接の挨拶は!?」
「・・・・」
 顔をクシャクシャにして、首は懸命に拒否を示す。
「それとも無理やりに抉って、不合格でもいいかぁ?」
 それこそ宮森にとって無意味なものはない。
「よ、よろしく・・・・お願いします」
「・・・・」
 被虐的な言葉を期待した俺がバカだったのか、それとも、宮森の天然を計算せず、言葉足らずの俺が悪かったのか・・・・
 一つ溜息をつき、改めて気を取り直した。
「こんな腐れマンコですが、面接、よろしくお願いします・・・・だろ?」
「そ、そんな・・・・酷い・・・・よぉ」
「そうか、酷いか・・・・それじゃ、姉妹揃って、学園去るか?」
 その俺の非常な一言は、宮森の残された羞恥はおろか、僅かな矜持をもズタズタに引き裂く。

 ベッドに寝そべり、天井に向けて反り起つペニスを宛がう香帆。
「こ・・・・こんな、くされ・・・・ま、マンコ・・・・ですが、面接、よろしく・・・・お願いします」
 今の香帆が落としたものは、果たして大粒の涙か、それとも残された理性の人間性だったのか。
「・・・・うぐっ!」
 香帆が腰を下ろそうとした直後の激痛を、俺は濡れていない膣内の摩擦によるものだと思っていた。が、それはすぐに修正を余儀なくされた。
 処女、という言葉を俺は知っていた。たとえ知識上のことだけでも、理解はしていたつもりだった。挿入するペニスには抵抗があり、女は一生に一度しかない痛みが伴うということにも・・・・
 宮森が・・・・処女!?
 まさか、と思った。
 桜花三大美少女と持てはやされるほどの可憐さに、校則違反を犯してでも生活費を稼ごうとしていた宮森だっただけに、とっと売り払っているものだと・・・・
 クックッククク・・・・和馬ぁ、嬉しい誤算だったぜぇ。
 途端に俺の表情が愉悦に歪む。
 俺は宮森の腰を抑えつけ・・・・一気に腰を突き上げた。
「!!」
 宮森の声にならない激痛が上げ、大粒の涙が俺の頬をうつ。繋がったペニスには生々しい感触と、処女特有の強烈な締め付けによる歓迎。濡れ具合こそ圧倒的に足りなかったものの、香帆の純潔によるぬめりが初めての男を染め上げる。俺は熱くも心地よい歓迎に酔いしれていく。
「いいぞ、合格だ、合格・・・・喜べ! 合格にしてやるぞ!」
「いっ、痛い!! おっ、お願ぁ・・・・う、うご・・・・」
 もはやその香帆の言葉も届かないほど、狂気に支配されていた。ただ乱暴に腰を突き上げ、そこから得られる受肉の快楽に身を委ねさせていく。
 香帆もまた、合格の喜びによる嬉しさを表すかのように、言葉にはならないほど、狂喜乱舞しているようだった。


 俺は遂にこの日、自らの半身である本性を完全に解放させた。
 決して他人ではなく、それも紛れもなく神崎和馬、俺自身だった。
 その日、俺は香帆の身体を時間の許す限りに蹂躙し続け、
 そして弥生の身体でも果たせなかった優越感に、有り余るほどの充足感に満たされていった。


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