第三話【 春眠睡姦 】( 3月 )


 《和馬》

 それは三月に入って間もない、上旬の出来事であった。
《 ピッピッ。メールが届きました。ピッピッ。メールが届きました。 》
「んっ、・・・・こんな朝早くに、誰から・・・・だぁよ?」
 枕元に置いてある携帯を充電器から取って、眠気眼の片目で受信ボックスを開く。差出人、件名、共に不明だ。メールの内容も住所だけしか打ち込まれてなく、一見間違えメールように見えなくもない。
 だが・・・・そのメールの内容だけで、俺には・・・・神崎和馬にはその差出人に思い当たる節があった。
「クッ、ククククク・・・・」
 俺は笑いが止まらなかった。
「ククククク・・・・」
 いよいよ、このときが来たのだ。
 俺はMCNを用いて、現住所を記してメールするように指示しておいたのである。
 MCN・・・・「マインド コントロール ノート」の略であり、中学を卒業したその日、父の源蔵から受け継いだものである。
 基本的にMCNには三つの用途があり、直接行動、思考操作、制限である。そのうち直接行動には、その当人が知悉できないタイミングで行動させることも可能なのだ。
「そうか・・・・いよいよ、明後日だな」
 このメールは彼女からの招待状だ。
「たっぷり・・・・と、注いで・・・・」
 妊娠させてあげるよ!

 このメールが届く二日後、彼女は排卵日を迎えることになる。そのようにMCNには記載してあるのだ・・・・
 ね、弥生さん・・・・!

 メールの差出人は草薙弥生。俺の元許婚であり、現在では兄の神崎一樹の婚約者である。どういう経緯でそうなったか、は俺にも定かではない。だが、結果だけをみれば、俺との婚約に見切りをつけて、兄との婚約者に納まったことには間違いない。
 俺から見れば、明らかに弥生の背信行為であろう。
 だから俺は復讐を決意したのだ。
 排卵中の弥生の意識を奪い、犯して孕ませる。
 妊娠が発覚すれば、その子供を一樹との胤として出産させる。堕胎させてやろうという気は、俺にはない。
 たとえ妊娠と出産が女性にとって一生の問題であろうと、俺は一生に残る傷跡を、弥生に刻み込んでやるつもりだった。
 そのために色々と修正したり、前後したりするだろうが、それが俺のおおよその計画である。
「しかし、意外と神崎の家(ここ)に近いな・・・・」
 弥生が大学進学の際に、草薙の家を出る、とは聞いていたが、ここまで近いとなると、和馬ないし、一樹を意識してということになるだろう。
 やはり・・・・兄貴のためか。
 くそっ、腹立たしい。
 だが、俺が苛立ちを覚えれば覚えるほど、弥生を犯す、そのときを想定することで興奮を覚えてもいた。

 そのためにも今日と明日、鋭気を養い、精気を蓄えておくとしよう。
 俺はようやく、眠気に満ちていた頭が冴えてきてようだ。そして計画の日の細部を詰めていくことにした。


 既に俺の頭の中には、弥生を犯し、孕ませることだけで一杯だった。
 俺の携帯には弥生の登録はされてある。去年まで婚約者同士だったのだから当然のことではあろう。それが何故、差出人が不明だったのか、という謎は・・・・

 既に俺の頭の中にはなかったのである。



《弥生》

 わたしは目を覚まして、無意識のまま携帯を手にした。
「あ、メールしなくちゃ・・・・」
 久しぶりに和馬さんにメールをしなくてはならない。伝えなくてはならないことがあるのだ。
 この携帯で和馬さんにメールするのは初めだった。それでも和馬さんのメールアドレスは頭の中に記憶してある。

 以前の携帯は・・・・もはやわたしの手元にはなかった。
 あのときに取られたままだ。

 ・・・・あのときに・・・・

「和馬さん・・・・」
 本当はこんなアパートの住所、教えたくはないのだけど・・・・
 折角久しぶりにメールするのだから、もっと伝えたいことは山ほどあったのだけど、今更、わたしが和馬さんに伝える資格は・・・・もう、ない。
「未練・・・・だね」
 わたしはここの住所を入力して送信する。
 そしてそのメールを削除した後、わたしの記憶からも削除されていく。

《カチッ、カチッ、カチッ・・・・》

 時計だけの音が耳につく。
 それがきっかり三十秒経過した後、わたしの意識は回復した。

「あれ・・・・わたし・・・・?」
 起き上がったわたしは、携帯を片手に狭い室内を見渡した。
 資金難に苦しむ実家のため、わたしは東大に通いながら、アルバイトをすることで借りられた、唯一の場所である。
 こんな早朝から、どこかにかけようとしていたのかしら?
 わたしは携帯を充電器に挿して、角の机に倒してある写真たてを手にする。
「おはようございます・・・・」
 起きてから、まずこの写真に挨拶をする。それがわたしの習慣だった。

 まだ穢れを知らない頃のわたしが、彼の腕をとって笑っている。
 最高の笑顔だ。
 本当に幸せそうな、あのころのわたしだ。

 ふと、わたしの頬から零れ落ちるものがあった。
 解かっている。でも、零れ落ちる涙は止まらない。
 もう、このときに戻れないのだ、と。でも、できるのなら・・・・
 わたしはパジャマの胸元に写真たて抱え、嗚咽した。顔をクシャクシャにして号泣する。
 この頃に戻りたい・・・・この頃に帰りたい。

「和馬さま・・・・のところに・・・・」



《直人》

 その日、わたしは和馬さまの下を離れていた。
 来年に入学する和馬さまはともかく、教師として赴任するわたしには、先に桜花中央学園に行っておかなければならない用事があったのだ。
「解かりました。二日後ですね・・・・」
 その帰路、運転中ということもあって車に備えつけられた携帯から、わたしは車の中で和馬さまの報告を受けた。
「あとニ、三時間後には戻ります・・・・ええ、学園はいいところでしたよ」
 幸い、というべきか、新任となる教師はわたし以外にもいた。
 本来、国家試験で取得するべき教師免許を捏造しているわたしには、教師になるという資格はないのだが、無論、教鞭を振るうことに関して自信がないわけではない。
 ただ同じ新米教師という、その謙虚な態度は見習うべき、良き相手ではあろう。
「これから、よろしくお願いしますね。真田先生」
 新任女教師の名は宮森香純。まだ短大を卒業したばかりだというが、幼い顔立ちと小柄な体格から、和馬さまと同年齢ぐらい見えてしまう。
「ええ、こちらこそ。来年からよろしくお願いしますよ。宮森先生」
 彼女は差し出し手を握る。僅かに上気する頬。
 これはわたしにも、春が訪れつつあった、ということなのだろうか?
 そしてわたしは、普通に恋愛することが可能なのだろうか?

 桜花中央学園の生活は、どうやら学生の和馬さまだけではなく、わたしにも人生の学び場になりそうであった。


「・・・・・・」
 国道は比較的空いている。対向車もまばらだ。
 和馬さまとの通話が途切れ、わたしは少し逡巡していた。
 無論、これから和馬さまが復讐の対象としている、草薙弥生のことである。結果だけをみれば、和馬さまが逆上するのも無理もない。だが、わたしの知る限りの草薙弥生と、現在の状況には強い違和感を覚えているのは事実であった。
 確かに和馬さまには欠点が多々とある。女心に疎すぎる点、人前で素直になれない点など、その最たる例だろう。だが、その初心なところが和馬さまの魅力なのであり、弥生も惹かれていったのではないだろうか?

 わたしは独断で行動した。
 それが和馬さまのためとはいえ、主の命令なしにSP風情が勝手に行動することは、分を超えていると弁えている。
 だが、わたしは、きっと何かがある。
 きっと何かが違うのだと確信さえしていた。

 わたしがこの人物にかけるのは一年ぶりだ。
《・・・誰ダ!?》
「少なくとも、総理大臣ではありませんね」
 暫くの無言が続いた。
「まだ、わたしだと解析されませんか?」
《ヘッヘッヘッ、直人サン、デシタカ・・・・声紋解析機ノ調子、今一ツナモンデネ・・・・申シ訳アリマセンゼェ》
「相変わらずでね、グレンさんも・・・・」
 携帯の相手は、グレン。恐らくは偽名であろうが。だが、わたしの知る限りの情報屋の中では、もっとも情報収集に精通し、緻密なほどの信頼性のある情報を提供してくれる、凄腕の情報屋である。
《紹介シタ、西條先生、源蔵サン、ヨカッタデスカ?》
「はい。その節は大変助かりました」
 昨年、源蔵さまが倒れたとき、わたしはグレンを介して、平聖中央病院の、西條医師を紹介して貰っている。即ち、グレンは源蔵さまの命の恩人ともいえた人物であろう。
 無論、その見返りの報酬は決して安く額ではないが・・・・
《ソレデ、今回ノ用件ハナンデショウ?》
「わたしがグレンさんに頼むことは、いつも一つです」
 わたしは八百屋に魚を注文するつもりはない。
《デスネ。イツモ、ゴ贔屓ニアリガトウゴザイマス》
「その日本語は可笑しいぞ」
 前回の依頼が昨年の春・・・・つまり一年に一回しか掛けていないことになるのだが・・・・それとも、わたし以外のクライアントはもっと期間が長いのかもしれない。
 報酬が高額なのも、その辺が少し影響しているのか。
《直人サン。ソレデ、何ヲ、調ベレバヨロシイカ?》
「グレン、お前の本名を調べて教えて欲しい」
《・・・・》
 物凄く気まずい沈黙が流れた。
 グレンのような闇に住む人間が、偽名を用いることは当然である。特に情報を扱う彼にとって、本名を知られることは、自殺行為にも等しい世界なのである。
 声紋で相手を解析するのも、その用心の表れだろう。
《ゴ冗談ガ過ギマスゼ、直人サン・・・・》
「すまん!」
 ようやく本題に入れそうだ。
 その半分以上は、わたしの責任なのだが。
「急ぎだぞ!」
《okヨン、急イデ調ベルアルネェ》
 何人だ。お前は・・・・。
「昨年、神崎家の神崎和馬さまと草薙家の草薙弥生嬢、二人の婚約が解消された、その辺の詳しい経緯を調べて貰いたい」
《ok。昨年、カンザキカズマ、クサナギヤヨイ、婚約ノ解消、ネッ!》
 カタカタカタ、とキーボードに打ち込まれる音が耳につく。
《期限ハ・・・・?》
「三日以内だ」
《三日! ソ、ソレ・・・・》
「無理を承知で指定しているのは解かっている」
《人ツカウ、非合法ツカウ。勿論、オ金モカカルヨ》
「了解だ」
 確かにグレンの依頼は高額だが、だからといって、不当な金額は請求してこない。恐らくは情報屋としての、プロのプライドであろう。そしてこれまでに、支払った金額に見合うだけの情報の成果はあげている。
「その人物、信頼できるのか?」
《敏腕ノ私立探偵ネ、名ハ天城小次郎・・・・事務所ハ狭イガ、探偵能力ハ日本ノ五指ニハ入リマスゼェ!》
 天城探偵事務所所長、天城小次郎。
 わたしは知らなかったが、実はこの天城小次郎という探偵。わたしとは全くの無縁というわけではない。
 わたしたちの間に、一人ほど、ある人物を挟むことになるのだが。
 彼の探偵の師ともいうべき、桂木源三郎。旧エルディア情報部の実行部隊《テラー》の創始者だ。
 わたしは数十年前、このエルディアを含む中東戦線で桂木源三郎と、幾度もなく刃を交えていた。銃弾の交換を応酬していたのだ。お互いの生命をかけて。
 無論、彼に手傷を負わされたこともある。負わしたこともある。だが、いつも必ずといっていいほど、相手に致命傷を与えることはできなかった。
 ・・・・互いに。
 熾烈な戦いの決着はつかないまま、旧エルディア情報部の解体。彼は姿を消し、わたしは新たな戦場へと渡り歩いていった。
 その桂木源三郎が日本に帰国した後、収賄の容疑によって、天城小次郎の手で囚人収容所送りにされている。
 つい二ヶ月前の出来事だ。
 もっとも桂木源三郎と天城小次郎の関係を知らないわたしが、それを知ることはなかったのだが・・・・

 だが、情報屋であるグレンの目利きは信頼するに値する。
「解かった」
《ジャ、三日後、コチラカラTELスルネェ》
「頼む」
《ぶつ。つー。つー。》
 途端に通話が切れた。さすがに今回は急がせすぎたような感もある。が、実際に時間がないのも確かだった。もうすぐ和馬さまのMCNを用いた復讐が始まってしまう。

 責めてそれが、不当な復讐にならないよう・・・・わたしは切実に願っていた。



《弥生》

 わたしは早朝、いつもの時間に目を覚ました。
「おはようございます」
 二人だけの写真に挨拶し、今日は胸が締め付けられるような気分になった。排卵期が近いということもあって、少し情緒不安定になっているのかもしれない。
 今日は特に、これといって予定を入れてなかった。
 狭い部屋の片隅に置いてある、ラケットを一瞥する。
「久しぶりに・・・・やってみようかな」
 わたしのテニス歴は高校三年、最後のインターハイで終わっている。それ以降は、東京大学の進学に向けて勤勉に励んだ日々。進学後もサークルなどに誘われたが、ここの家賃の支払いも無料じゃない。
 草薙の家は経営難から立ち直りつつあるが、両親からの仕送りだけで生活していくには、さすがに無理があった。そこで現役の東大生、という肩書きを利用して、週に二回、近所の女生徒の家庭教師をやっている。

 テニスクラブのテニスコート。ラケットの上でボールを弾ませる。
「この感触・・・・」
 久しぶりのその感触に、わたしは笑顔がこぼれる。そういえば、最後に笑ったのはいつのことだろう。
 だが、それも壁打ちともなると、わたしの笑顔は凍りついた。
 想像はしていたが、一年のブランクはその想像以上に大きかったのだ。
 一時間ぐらいだろうか。それでも、しばらく壁打ちをやり続けていると昔の感覚が取り戻せてくる。自分でも実感できるほど、身体にキレが戻ってきているのだ。
 そのわたしの壁打ちを見ていた一人の女性が話しかけてきた。
「練習相手になってもらえませんか?」
 近所の主婦さんだろうか?
「テニスは一年ぶりなんで、足手まといになるかもしれませんが、こんなわたしで宜しければ、喜んで」
「えっ、それであんな壁打ちできたんですか!?」
 確かに後半はブランク明けの感触を得て、鬼気迫るような状態だったかもしれない。
 近所の主婦さんと一緒にコートに出て、試合感覚で勝負する。確かに主婦さんの実力は下手ではなかったが、わたしのブランクが次第に解消されるにつれて、わたしたちの差は、歴然たる差となっていった。
 試合が終わるころには、インターハイを制したときのかつての自分を、完全に取り戻していた。
 練習試合を一方的に勝つのは、相手に失礼なことかもしれない。
 それでも、やはり生きた球を打つのは楽しかった。
「ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ・・・・できましたら、またお相手してくださいね」
 これは社交辞令などではなく、わたしの本音だった。
 ネットの上で握手する。
「わたしのほうこそ、その、色々と教えてください」
 奥さんは恐縮して一礼した。
 こんなに気持ちの良い汗をかくのも久しぶりだ。

 その後、その主婦さんと一緒に少し早い昼食を済ませ、テニスの話題だけで会話が途切れることはなかった。


 その後、わたしはアパートへと帰宅すると、入浴をして気持ちの良かった汗を流した。久しぶりに身体を動かしたからだろうか。身体の節々が少し痛い。
「鈍っているな・・・・」
 明日は筋肉痛かもしれない。
 三十分かけて浴槽に浸かり、手足の筋肉の張りを揉みしだきする。そして入浴を済ませて、軽装の部屋着に着替えた状態で時計を見る。もうすぐ正午だ。
 そのとき突然、わたしの視界が揺らぐ。
「あ、あれ・・・・?」
 お風呂あがりなだけに、ただの立ち眩みかな、とも思ったが、やがてわたしは熱病に侵されたように、立っていることもままならなくなる。
 幸い、蒲団は敷いたままだ。
 今日は特に予定がないから・・・・このまま・・・・。

 時計はきっかり、正午をわたしに伝える。
 その瞬間、わたしの意識は完全に途絶えた。



《和馬》

 パワーウインドで車の窓から一望する。
「本当に・・・・ここ、なのか?」
 弥生のアパートに着いた、俺の第一声がそれだった。
「メールに入力されてある住所では、間違いありません」
 断言をした直人でさえも唖然としている様子だ。だが、同時に草薙の家の窮状を考えてみれば、当然だったのかもしれない。そもそも、草薙家が経営難などになっていなければ、弥生は、俺や兄貴とも、婚約することもなかったはずなのだ。
 都内で有数の資産家である神崎家でも、家名においては草薙家の足元にも及ばない。
 その令嬢が・・・・まさに崩壊寸前、というような木造の老朽化したボロアパートに住んでいるなどと、迂闊に信じられることではなかった。

「和馬さま、それでは明日のこの時間に、お迎えにあがりますね」
「んっ・・・・何かあれば連絡するけど、最近、直人は休みないだろう?」
 従来の護衛の仕事に、弥生をレイプするための性教育、格闘の訓練。新居への引越しの準備。桜花中央学園での教師としての仕事などなど。ここのところ、直人は働き詰めである。
「お前に倒れられても代わりはいないのだから、今日と明日ぐらいはゆっくりするといい。迎えも別の人間を呼ぶから」
 直人は俺の申し出に一礼した。
 恐らくは本人も疲労を自覚しているのだろう。

「それでは、和馬さま。ご存分に・・・・」
 俺は頷き、踵を返した。
 共同玄関から入り、弥生の105号室に向かう。和馬が廊下を歩くたびに《ギシィギシィ》と軋む。ここまでの年代物もめずらしいだろう。
 俺は105号室に辿り着き、時計を確認する。

 十二時五分過ぎ。

 ドアを開ける。鍵をかけないよう、弥生には指示済みだ。室内を見渡すとその105号室全体を見渡せた。そして、敷かれている蒲団には、意識を完全に失っている弥生の姿があった。
「五分だけ遅刻したけど、お待たせ・・・・弥生さん」
 俺はドアの鍵をかけた。そして唯一に外から覗ける窓の鍵もかけて、カーテンを引く。部屋は薄暗くなるが、これからの行為を覗かれる可能性はない。
 ただ唯一、MCNを用いた俺の誤算は、このボロアパートと弥生の状態である。
「これだったら、深い眠りについて貰ったほうのほうが、よかったな」
 いくら復讐のためとはいえ、マグロ状態では興が冷めるというものだ。だが、ここまで老朽化が進んでいるアパートでは、無意識な状態の小さな喘ぎ声でも、隣の部屋には筒抜けかもしれない。
「仕方ない、加筆しておくか・・・・」
 何があっても六時間は目が覚めることはない、深い眠りについてもらうとしよう。俺は手持ちの鞄からMCNを取り出し、記入する。基本的に記載事項が矛盾した場合、新しい指示のほうが優先されるのだ。
 しばらくして、弥生から心地よさそうな寝息が耳につく。
「それじゃ、早速・・・・」
 俺は弥生の身体に覆いかぶさり、前髪をかきあげて唇を重ねた。およそ一年ぶりの唇の感触である。そして初めて、舌を弥生の口内に侵入させていく。
「んっ・・・・んんっ」
 弥生の唾液を奪い、そして俺の唾液を送り込む。深い眠りにある弥生は少し苦しそうに喘いだ。
 Tシャツの中に手を忍ばせた。室内着と指定していたこともあって、ブラはされてなかった。俺は弥生の膨らみを掌に収めた。
 掌で乳房を弄びながら、突起する乳首をコリコリと刺激させる。
 少しずつ、だが、確実に唇を重ねる弥生の表情は反応する。
「そろそろ、見せて貰うよ」
 唇を解放し、じっとり汗ばみだした膨らみから手を離し、Tシャツを捲し上げる。弥生は決して巨乳というわけではなかったが、それでも形の良い張りのある胸である。
 両手で乳房を揉みしだきする。片方の乳首を舐め上げ、甘噛みする。片方の乳首には指先で摘み上げて、爪を食い込ませる。指先で先端の突起を弾いてやる。それを左右交互、繰り返していくと・・・・そのたびに弥生は寝返りをうつようにして、顔を落ち着かせない。
 そして次第に・・・・入浴済みの弥生の身体から、明らかな雌の匂いが漂いだしてきた。
「・・・・」
「感じて、いるんだな?」
 俺は弥生のスカートを捲し上げて、ショーツを引き摺り下ろす。手にしたショーツは明らかな湿りを伝えている。排卵を迎える当日なだけに、彼女の反応は顕著だった。
 細い脚首を掴み上げて、弥生の股にある割れ目を凝視する。綺麗なピンク色のそこから、雌の液が溢れている。ここ数日、直人に教わった女性器の仕組みから、俺は小さなお豆に触れてみる。
「くっ・・・・あっ、ぅぅぅ」
 直人の指摘していたとおり、クリトリスの刺激による弥生の反応は、敏感すぎるものだった。敏感な感度はそのままに、深い眠りにある彼女の身体の振動は、押さえつけている俺にも伝わるほどだ。
 陰核の刺激を繰り返し、片方の二本の指で弥生の膣内を、恐る恐る差し込んでいった。

 やはり・・・・
 俺は覚悟していたとはいえ、やはりショックではあった。

 異物をギュウギュウに締め付けてくるものの、その間に、侵入に抵抗するようなものは存在しなかった。つまり、弥生は既に非処女だったのだ。

 恐らくは、兄貴に処女を捧げたのだろう。

 次第に俺の胸には、ドス黒い感情が溢れ出してくる。
 弥生が処女であるのなら、このまま優しい愛撫で絶頂に導き、優しく挿入してやろう、とも思っていた。
 が、今の俺には、もうそんな気は微塵さえ残っていなかった。
 俺は乱暴なまでに陰核を刺激し、愛液でグチャグチャな膣内を、指先で突き刺しする。
 弥生をとりあえず、いかせる・・・・直人が、妊娠させることを目的とするなら、まずは一度、弥生をいかせることだと言っていた。俺はそれをただ実践しているだけである。
 憎しみと怒りに身を任せて・・・・

「くぁぁ・・・うっ、うっ・・・・んんっ、んっ・・・・」
 次第に弥生の身体の反応が激しくなってきた。
 そしてそのときは、もう目前に迫ってきていた。弥生の身体の四肢が痙攣したように痺れ、俺の目前の膣口で潮吹きが催された。
「はぁ・・・・はぁ・・・・」
「フン・・・・」
 俺は一度立ちあがり、初めて弥生を見下げ果てたような視線で見下す。所詮は弥生もただの雌だったのだ。身体に異物を突っ込まれれば、簡単に感じて、いってしまうような女だったのだ。
 こんな女に惚れ込もうとした自分が恥ずかしい。
 絶頂の高みに昇った弥生の表情は、明らかに紅潮していた。まさに発情している雌そのものだ。細い腰を蠢かして、そこに挿入されるべく肉棒を求めているかのように見えた。
「ああ、解かったよ。今、挿入してやるよ」
 俺はベルトを外して、ズボンとトランクスを引き摺り下ろし、既に隆起しているペニスを曝け出す。そして弥生の細い片脚を掴み上げ、弥生の性器へと宛がった。
「お前のオマンコが大好きなチンポだ」
「くぅぅぅ・・・・」
 互いの性器が触れ合い、先端が若芽を刺激する。
「たっぷりと味わえ!!!」
 俺は弥生の乳房を鷲掴みして、一気に弥生の膣内を貫いた。
 《ズブッ、スブズブズズズゥ・・・・》
「ああっ・・・・あああっ・・・・」
 挿入していくことに、弥生の寝息から甘美の声が耳につく。
 ぬめりが肉棒をくるむ。弥生の膣内と愛液は、俺の想像以上に、火傷しそうなほどに熱かった。
 うぐぅ・・・・、こっ、これは。
 俺は余すところなく、全てが呑み込まれた。硬い怒張の表面にねっとりとまとわりつく襞肉の柔らかさが、弥生を串刺しにしているのだと、実感させる。深い眠りで静止しているはずの身体が、内深くへと誘っているような錯覚。
 この蠢きと吸い付きの良さは特筆ものだ。
 確かに弥生は処女でこそなかったが、その締め付け具合は最高だった。もともとテニスで鍛えられてきた腰であり、直人の提案どおり、午前中に軽い運動を行わせていたことが、この結果を生んだのかもしれない。
 こ、こんな・・・・こんなに凄いなんて!
 自慰では決して得られない、快感だ。
「んっ・・・・んんっ・・・・」
 俺が腰を突き上げるたびに、深い眠りにある口元が囁くように喘ぐ。
 弥生の膣内はギュウギュウに俺のペニスを締め付け、一突きされるごとに歓迎の凝縮を繰り返しする。
 
 兄貴と何回、犯った!?
 兄貴に何回、抱かれた!!

 怒りに任せて、俺は乱暴に腰を振るった。童貞という、経験のなさもあっただろう。弥生を犯し始めてから、僅か一分で自分の限界を感じた。
「んんっ・・・・ぅぅぅ・・・・」
 グリグリと弥生の膣内を抉りながら、なんとか持たそうともしたが、ダメだ・・・・気持ちが良過ぎて、抑えが効かない。
 俺は即断した。
 即座に方針を切り替えた俺は、再び激しい抽送を繰り返し始めた。
「あっ・・・・あっ、んっ、あっ、んっ、んっ!」
 更にペースを上げ、それにつれて弥生の喘ぎも早まる。
 もうすぐだ!
「くくくくっ・・・・」
 弥生の感じまくっている表情を見て、思わず嘲笑が漏れた。
 俺の最初の射精は、弥生の妊娠への第一歩である。メールを送ったときから48時間が経過している。つまり弥生の排卵は既に、今日の早朝から始まっていることになる。
「くぅぅぅぅぅ・・・・!!!」
 弥生の四肢が再び、痙攣したように《ビックン、ビクン》と繋がる男に響く。身体から弓なりになって悶えると、膣内の暖かく柔らかい肉はペニスを捻るようにうねった。突き上げられたつま先がピーンと張る。
「ぐくぅぅぅぅああああ・・・・」
 俺も既に限界だった。そこに絶頂に達した膣内が圧縮したように締め付けたのだ。
 俺は激しい抽送から、弥生の両肩を思わず掴み込んだ。
 そして弥生の膣内の一番深くに注ぎ込もうと、腰を叩きつけた。

 《ドピュュュゥゥ、ドプッゥ・・・・》
 弥生の膣内で激しく迸り、弥生の胎内に直撃する。
「あっ・・・・あっ・・・・」
 激しく波打つスペルマが放たれるたびに、俺は身体を弥生の腰元を打ち付けた。そのたびに弥生の口元からは、膣内射精からだけしか味わえない雌の充足の声が漏れる。

 《ドックゥ、ドクッ、ドクン・・・・》
 その波打つ射精の律動に合わせて、
 二人の身体がダンスを踊る。

 二年間の淡いの想いと、一年間の後悔、この一ヶ月の激しい憎悪の塊が、弥生妊娠計画の尖兵として、彼女の胎内へ送り込んでいく。
「んっ・・・・んん・・・・ふん!」
「あっ・・・・あっ・・・・あふっぅ!」
 俺は、その最後の一滴まで膣内に送り出そうと弥生を抉り、
 弥生は俺の全てを貪欲なまでに受け止めていった。

「ふぅ・・・・」
 絶頂に達し、膣内出しされた弥生の寝息も荒々しくだったが、動いていた俺のほうが特に呼吸を荒かった。
 その最初の膣内射精を終えて、俺は身体を繋げたまま汗ばむ弥生の胸元に身体を預けた。サッカーの試合でいえば、一試合を終えたような疲労を感じる。
 それだけ弥生の身体が良過ぎたのだ。
 これが俗に言う、名器ってやつかもしれない。
 無論、つい先ほどまで童貞であった俺には、弥生の膣内と比較できる相手がいるはずもなかったのだが・・・・

 受精させてやった弥生の、紅潮している表情を見て、おおよそながら彼女が受胎する手応えを感じていた。無論、何の確証もない。あくまで俺の予感である。
 だが・・・・
「んっ・・・・」
 弥生の身体が膣内出しされた余韻に醒めてきたのだろう。
 膣内に挿入したままのペニスに、再び弥生の襞肉がほどよく締め付けてきた。射精を終えたことで萎えかけていたが、その適度な刺激が俺の復活を促していく。
「安心しろよ。絶対に孕ませてやるから・・・・」
 これは既に決定事項だ。
 一回の射精だけで妊娠が確定する、とは限らないのなら、とことん弥生を犯し抜いてやる。
 また、一回の膣内出しだけで終わらせてやるほど、お人好しでもない。
 一回の膣内射精で治まるほど、俺の怒りは生易しいものではない。
 元々、俺の精力と体力が許す限り、弥生を犯してやるつもりであった。今日一日だけのことではない。一晩中をかけて明日の夕刻まで。たっぷりと犯し続けてやるつもりである。

 勿論、全て膣内出しで、だ!

 俺との性交に覚えのない弥生が、俺の子を孕む。
 間違いなく、孕むことだろう。
「さぁて、弥生の身体のリクエストに応えて、第二ラウンドといこうか」
「んんっ・・・・」
 
 膨張して怒張していくペニスに弥生の襞肉が圧縮させる。


 妊娠を自覚したときの、
 蒼ざめる弥生の表情が、今から無性に楽しみであった。


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