【 第序話 】
『あたしと兄貴が再びキスをするわけがない』
「あっきはばらぁ〜!」
あたしはもはや恒例ともなりつつある挨拶をした。
っか、やはり秋葉原に来たら、テンションハイMAXフルバーストしょ?
「春といえば、新作エロゲー〜〜」
「やれやれ、改札通って早々、とんでもねぇこと口走ってんな」
と、兄貴にツッコまれた。
春休みに入って早々、あたしと兄貴は秋葉原へとやってきた。
暖かな陽光が電気街の街並みを照らし続けている。
本格的な春の前触れを予感させる晴天。
「今日、何しに来たか、わかってんのかよ?」
「もっちろん!」
あたしは堂々と宣言をする。
「春休みにやるエロゲーを買いに来た! 妹めぇかぁシリーズ最新作ぅ!!」
「違う!!」
あうっ。
「オタクっ娘、集まれーのオフ会のためだ!」
「分かってるって・・・」
そう。
今日は『沙織・バジーナ』が主催するサークルのオフ会であり、あたしが初めてこの秋葉原に来てから、早二年が過ぎるのだ。
「なんか今日は、新メンバーの紹介があるとか言ってたね〜」
「だな」
兄貴が溜息交じりに呟く。
「沙織がこの集まりに入れるって、どんなやつなんだか」
勿論、この『オタクっ娘集まれー』というサークルは、あたし、『黒猫』に『沙織』と兄貴だけの四人だけ・・・というわけではなく、もっと多くの人間が在
籍しているんだけど、あの初めてのオフ会で浮いてしまっていたあたしや、黒猫、それを見守ってくれていた兄貴に沙織が声をかけて、結集することになっ
た・・・いわば、はぐれ者の集団。
そんなあたしたちを沙織は、とっても大切に・・・特別にしてくれていたんじゃないかな〜〜
この二年間の間、濃密なまでに親交を深めることができた四人に加えて、今日から新メンバーが加わる、らしいの。
「さぁ? どんなやつなんだろうねぇ〜?」
あたしには十分、心当たりがあったけど。
まぁ、まだ兄貴には教えてあげないでおく。
きししぃ(笑)
「でも、妹っぽい娘だったらぁいいなぁ〜〜」
えへへへ。
「オマエ、ほぉんと、そればっかなぁ? 意外と男かもしれないぞ?」
「『オタクっ娘集まれー』なのに?」
「既に俺が居るわけだし、女限定ってわけでもないだろ」
「うーん、まぁ、会えば分かるか」
「そういうこったな」
そんな会話を続けながら、あたしたちは待ち合わせの場所へ向かっていく。大通りから角を曲がったアニメショップの店頭で、あたしは目を輝かせて駆け出し
てしまっていた。
「メルルの新しいグッズ出てるぅ! まじかるリングぅ!」
『星くず☆うぃっちメルル』の作中にある、魔法の指輪だ。
「ねぇねぇ、あんたあたしにコレ買ってよ」
「はぁ!? なんで俺がおまえに玩具の指輪なんざ買ってやんなくちゃいけねーんだよ?」
さすがの兄貴も苦笑。
「自分で買えばぁ?」
「チッ、兄妹なんだからいいでしょう?」
「な、なんだその理不尽な理由は・・・」
「ったく〜分かってないなぁ。いい? 妹ってのは、兄に可愛くおねだりするもんなの」
「じゃ可愛くおねだりしろ。そしたら考えてやんよぉ?」
「えっ、あたし可愛いしょ?」
容姿端麗。
ついでに言えば、頭脳明晰、運動神経抜群だしぃ。
兄貴自慢の妹っしょ?
「いーじゃん、買ってよぉケチ〜」
「ぐぬぅ・・・はぁ、わぁーたよぉ」
結局、兄貴はやはり、あたしのワガママを聞いてくれる。
「へっへー、さんきゅぅ〜」
つい先日に返還しなければならなかった指輪ほどではないけど、これも一応はれっきとした指輪しょ!?
「あ、忘れてたわ」
兄貴が途端に歩みを止め、あたしも思わず振り向く。
ま、まさかあの指輪をぉぉぉ??? そ、そしたら、あたし、本当に一生填めちゃうよぉぉぉ???
「な、何が?」
「ほら、いつかの『おまえが何でも言うことを聞いてくれる』っつー約束。まだなんもして貰ってねーや、俺」
「そういや・・・そうだね」
あたしは平静を装いながら落胆しつつ、ゆっくりと頷く・・・
ら、落胆なんかしてないからぁ!?
「で、使い途、思いついたわけ?」
「おう」
「秋葉歩いてて思いつくとか、嫌な予感しかしないですケド・・・ま、いちおー聞いてあげるよぉ?」
兄貴は数歩先に立つあたしに手招きする。
「よし、じゃあちょっとこっちに来い」
「はぁ〜なんだってのぉ・・・それが願い事ぉ?」
「いいからぁ」
「はいはい。これでいい?」
「おう」
不意打ちにキスされた。
「んなっ・・・」
途端に顔が異常なまでに熱くなる。
「なっ、なにすんのぉぉぉ・・・や、約束は!?」
「兄妹なんだから、別にいいだろう?」
「い、いいわけ・・・あるかぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
あ、あたしは兄貴に向かって指を突き刺した。
き、今日は・・・あ、あんた、き・・・きっと特別な日に、なる・・・
そ、その・・・特別な日の始まりに、い、妹にキスするなんて!?
なんてバカ兄貴ぃ!!
キ、キモい・・・う、嬉しいケド、さ、最悪しょぉぉぉぉぉ!!
「帰ったら、人生相談だからねぇ!! 憶えてなさいぃ!!」
あたしはにやける表情を隠すように、目的地に向けて駆け出していた。
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