【 最終話 】

 『妹のあたしがこんなに可愛いはずでしょう』

 

 本当に久しぶりの日本だった。

 あたしが寄稿した小説もあって、一昨年の夏コミは大盛況・・・前回、完売したこともあって増刷したのにも関わらず、前回よりも早い時間で売り切れてし まったらしい。

 あやせも売り子として、また兄貴と一緒にコスプレしたらしく、かなり売り上げに貢献してたみたいだけど、やっぱっ、あたしの小説が完売した一番の要因 しょ。

 その次の冬コミは落選し、去年の夏コミはあたしの方が多忙過ぎて、とうとう小説を書き上げることはできず、前回の冬コミも今回の夏コミも『神聖黒猫騎士 団』の情報は分からずじまいだった。

「うっ、ぬっ・・・」

 一応、夏コミ参入することを前提に、去年仕上げきれなかった小説を完成さての来日だったのだけどね・・・うーん、無駄になっちゃったのかな、これ。

「あ、暑っ・・・」

 日本は暑かった。ちょー暑かった。とてつもなく超ぅ暑かった。

 あたし、この国で生まれ育ったんだよね・・・

 あやせ元気かな!?

 黒猫は?

 そして・・・あ、兄貴は・・・

 あたしにはまだ兄貴がどちらを選んだのか、分からなかった。そのことに関しては、兄貴はおろか、あやせも黒猫でさえも黙秘を続けており、今まで送られて きたメールにも一切、それらに触れられてなかった。

 たくっ。振られたほうはあたしが慰めてやんなきゃ、って、色々と気ー使ってやってんのにぃ。

 って、このガキ、なに人のことをガン見してるのよっ!!

「うわぁ綺麗な人・・・」

 よし。素直な子だから許す。



 空港に降り立ったあたしは、出迎えに来てくれた兄貴(視界に入れてから僅か0.01秒で発見w)を見つけて思わず頬を綻ばせ、その隣には居るであろう姿 を見つけられず、たった一人で立っていた兄貴の姿に表情を曇らせた。

 もしかするとあのシスコンの兄貴のことだ。また両方を振ってしまったのかもしれない。(←そんときは殺〜すw)また付き合ったとして、あれから二年近い 歳月が過ぎている。別れてしまった、のかもしれないだろう。

 うんうん。あのキモいシスコン兄貴のことだ。十分に有り得ることでしょ。そんときは・・・あたしが・・・(////////)

「お帰り」

「た、ただいま・・・」

 あたしは頬を染めているのを自覚しながら俯く。

 そのとき、兄貴の指に填められている指輪を見つけていなければ、あたしは盛大な自爆を起こしていたかもしれない。

「あ、兄貴・・・」

「んっ?」

「その指・・・指輪・・・」

「ああっ、宣言した約束通り、結婚したぞ、俺・・・」

「そ、そっか・・・そっか・・・」

 思わずそんな展開に落胆しているあたしは、改めてまだ兄貴のことを想っていることを自覚する。

「で、でも今はまだどっちって言っちゃダメだからねぇ!!」

「お、おう・・・」

「で・・・はい」

 あたしは所持している荷物を差し出す。

「へいへい・・・あ、車、こっちだから・・・」

「あ、兄貴車買ったんだ・・・っていうか、免許取ったんだ?」

「だな・・・」

 兄貴はあたしが重いと思った荷物を軽々と持ち、久しく見る兄貴の体付きが逞しくなっていることに思わずときめく。い、いけない・・・と思いつつも。



「へぇ〜〜アンタにしては、いい趣味してんじゃん・・・」

 兄貴の車は『トヨタ・アルファード』の新モデルだった。てっきり兄貴のことだから、スポーツカー系(←それもダサイのwww)のその辺だと思ったんだけ ど。

「そりゃ、どうも・・・」

「いぇーいぃ〜」

 この広い快適空間。まさか兄貴がこんな車を所有するとはねぇ〜

 しかしあたしが驚いたのはそれだけではない。

「ちょ、ちょっとアンタ・・・・」

 成田空港から実家に向かうと思いきや、川沿いをひたすら走り続けて到着したのは兄貴の家であり、その広大な庭と予想外の豪邸には唖然とするしかなかっ た。

「あ、アンタ、宝くじでも当たった? 兄貴が・・・こ、こんなとこに住んでるなんて、超っありえないしょ!!?」

「・・・・」

「うわぁ〜すごい、噴水に、すごぉー、あ、あのでかい洋館には部屋いくつあんのよ?」

 今でも信じられなかった。

 本当に夢じゃないか、と思った。

 後から思えば、こんなことができる知人など一人だけに限定できたはずだったのに・・・

「部屋有り余ってっから、しばらく泊まっていくだろ?」

「も、もちぃ!!」

 あたしは勢いよく頷いた。当然しょ。こんな素敵な建物に宿泊するなんて、むこう(欧州)でも数える程度で・・・それもホテルでの話だった。

「あっ、桐乃じゃーん〜〜お帰りぃ〜」

「あ〜『きりりん』氏だぁ〜〜お久さぁ〜だね〜♪」

 その門から出てくるのは、少し大人びたような加奈子と、それとそっくりで何処かで見かけたことがあるような同世代の女の子だった。

「ど、どうして・・・あの女が・・・」

「ああ、彼方さんか?」

 兄貴は淡々として衝撃的な事実を告げる。

「彼方さんは加奈子のお姉さんで、現在は瑠璃の先生。あ、漫画のな。あっちの離れの建物がその新しい仕事場ってわけ・・・」

「ふ、ふ〜ん」

 あたしの思考はもうパニック状態だったのだろう。なるほど、兄貴の説明から彼方さんという女性の素性、兄貴の家に居た理由は分かった。が、何故加奈子ま でここに居たのか、そしてあの兄貴が『黒猫』のことを素で「瑠璃」と呼んでいた事実をこの場では見逃していたのだから。

「あ、瑠璃のやつが京介を呼んでたぞぉ〜〜帰ったらすぐに来ないと呪い殺すってさぁ〜〜」

「へいへい・・・それじゃ彼方さん」

「うん。あたしもまた泊りにくるよぉ〜♪」

 それで彼方さんと加奈子と別れて、あたしは兄貴の先導で建物の中に足を踏み入れた。外観からして予想はしていたけど、余りにも立派な装飾。綺麗なまでの 大きなシャンデリア。廊下から階段までに敷き詰められた赤い絨毯。二階へ三階へと続く放物線状の大きな階段・・・

「うわぁぁぁ・・・・」

 余りの凄い、そして外観から予想通りの内装にあたしは目を輝かしていた。

「案内してやりたいけど・・・とりあえず先に黒猫に会いに行くか? っか、マジ行かねぇと俺が呪い殺されるんだわ・・・」

「う、うん分かった・・・け、けど、あいつなんで兄貴を?」

「ああ、瑠璃な・・・これなんだわ」

 兄貴は荷物を抱えながら、腹部を膨らませる。

 つまり、妊娠中・・・しかも出産間際、ということらしい。

「えぇぇ〜〜ちょ、じゃ、あ、あんたが選んだのってぇ・・・」

 うーん、確かに日本を離れるとき、若干黒猫のほうが有利かな〜って気はしてたと思う。何と言っても、兄貴と黒猫は付き合っていた過去もあったわけだし、 あいつはあんななりでも家事万能だった。

 ああ、だからさっき、黒猫の仕事場とか、あいつの先生が・・・

 あ〜でも、あやせ可哀想過ぎ。こんな兄貴を好きなってしまったがために、二回も続けて振られちゃったんだ・・・会ったら、しっかり慰めてあげなきゃ ね・・・もし、それであやせを泣かしてたら・・・コイツ、殺すぅ〜。



「よぉ、今、帰ったぞぉ〜」

 兄貴は一つの扉を開けて、淡々として告げる。

「お、遅かったのね・・・それで桐乃は?」

「ああ、入れよ・・・久しぶりの黒猫だろぉ?」

「う、うん・・・お邪魔しま〜す」

 あたしは恐る恐る室内に入って、最初に目についたのが、そんな小さな身体には大き過ぎるであろう、大きな装飾のあるベッドだった。この華美なまでの内装 や装飾品なども、あたしが持つ黒猫のイメージにはそぐわなかったが、今ベッドで横たわる可憐な黒髪美少女の姿を見て、その考えを改めずにはいられなかっ た。

「ごめんなさいね。本当は京介と一緒にあなたを迎えに行きたかったのですけれど・・・」

「う、ううん・・・む、無理しないでぇ・・・」

 あたしはあれから余り変わらない黒猫を見て、ああ、今度から彼女を義姉さんと呼ばないといけなんだな〜と思った。

「だ、大丈夫?」

「ふっ、もう三人目よ。いい加減に慣れたものよ・・・」

 余りにも凄い台詞だった。

 って、あたしは離日してからの年数を数えてみる。二年・・・二年のはずだった。そ、その間に三人目が生まれるって、あ、あんたどんなペースで出産してい るのよぉ!?

「さぁ、悠瑠、璃乃・・・挨拶なさい」

 あたしは確かに見た、と思う。

 途端に義姉さん呼ぶべき彼女の唇が吊り上ったのを・・・

「桐乃叔母ちゃんよ〜〜」

「お、おばっ・・・」

 あたしは途端に凍りついた。

「あ、あんた・・・い、今、言って、は・・・ならない、言葉を・・・」

「あら、この子たちは貴方のお兄さんの子なのよ?」

「は、ははっ・・・」

 確かに彼女の言ってることに偽りはない、のだろう。で、でも、あたしはまだ高校生・・・日本ではまだ高校二年生の、今年で十七歳になったばかり。その あ、あたしを・・・叔母ちゃんってぇ!!



「どうしたんです〜〜あ、桐乃ぉ〜〜お帰り!!」

「あ、あやせぇ?」

 親友であるあたしが聞き間違えるはずがなかった。何より、彼女は兄貴なんかに振られて傷心でもあったはず。だから、会ったら最初に謝罪と慰めてあげな きゃと心に決めていたが、たった今黒猫から受けた酷い虐待(言葉)に、それどころではなかった。

 の、だけど・・・そのあやせの腕にも・・・

「さぁ、ちとせ。桐乃叔母ちゃんですよ〜♪」

 親友の彼女の腕には健康的に育っているだろう赤子の姿があった。

「お母さんの一番の親友、桐乃叔母ちゃんですよ〜♪」

「あ、あやせ・・・まで、ひ、酷くなぁい!?」

「ど、どうして? どうしたの桐乃?」

 あやせまで赤ちゃんを出産していたのは驚きだったし、彼女が望んだことならばあたしも喜んで祝福する。で、でも、その子供にまで叔母ちゃん扱いされる謂 れはなかった。

 なかった・・・はずだった。

「でも、桐乃はこの子のお父さんの妹でしょ。この子にとっては、桐乃は叔母ちゃんじゃない〜♪」

「えっ・・・」

「ほら教育はしっかり、赤ちゃんのときからしときたいから。ねぇ〜ちとせちゃん〜♪」

 え、えっ・・・ど、どゆこと?

 あたしは即座に黒猫の指に填められた指輪、そしてあやせの指にも填められた指輪を即座に確かめる。そしてそれが兄貴の指に填められていたものと同一のも のであることも。

 つまり二人は? いや二人とも!?

「・・・・」

 あ、あ、あいつ・・・絶対、殺すぅ!!

 ち、超殺すぅ!!

「・・・・あ、兄貴・・・チト、面貸せぇやぁ〜〜」

「ふふっ、京介なら貴方の荷物を持って客間に向かったわよ〜」

「京介さん、久しぶりに妹の桐乃に会えて喜んでいたわよ?」

 ちっ。に、逃がすかぁぁぁ〜〜!!

「あら、これはこれはきりりん氏ではござらんかぁ〜? 本当にお久しぶりですわ〜わたくしもこの日を待っておりましたの〜♪」

 それは素顔の沙織だった。

 彼女の成長期は止まったのか、あれから身長は伸びていなかったが、その姿は今も美しいままのものだった。

「さぁ、きりりん叔母ちゃんですよぉ〜〜京介さんの妹の、あなたのお父さんの妹、きりりん叔母ちゃんですのよ〜〜」

「さ、沙織・・・まで・・・」

「キョースケぇぇぇ、瑠璃はもう三人目なのに、アタシはまだ一人目ってどーゆーコトだぁぁぁ!!」

 と駆け込んできたのは、姉を見送って帰ってきた加奈子。

「・・・・」

 いずれの彼女たちの指には、全く同一の指輪が・・・



 こ・ろ・す

 アイツは絶対に超殺すぅぅぅ!!!

 あ、あたしの・・・友達・・・ぜ、全部・・・アイツの、嫁?

 それ・・・ど、どんなエロゲーよっ!?

 ハ、ハーレムエンドかっ、っーのぉ!!

 あ、あんたは・・・シスコンで・・・あ、あたし一筋で・・・

 だから・・・あたしは・・・あたしはあぁぁぁぁ!!!



 あたしは広大な建物の中を駆け回った。元陸上部のエースの称号は伊達ではない。きっと今のあたしなら、あのリアでさえもぶっちぎれる。絶対に逃がすこと はない。

 標・的・発・見っ!!!

 捜索の最中、あたしのシスコンセンサーが兄貴の存在を捉える。

 今のあたしは「悪即斬」ならぬ「兄即斬」。

 怒りゲージはフルMAXフルブーストマキシマム状態っ!!





「み・つ・け・た・あ・ぁ・・・・」

「げっ、早っ・・・」

 兄貴が慌てて部屋に逃げ込み、扉を閉めようとしたが、それよりもあたしが扉を掴み止めるほうが早い。

 ふふっ・・・ククッ・・・元陸上部の脚を舐めないでよねぇ?

 さぁ、念仏唱えたかぁ?

 遺言はオーケーぇ?

 んじゃ、とりあえず・・・

「だがなっ、俺だって・・・今日この日のために、秘密兵器っていうか切り札は用意してあるぜぇ・・・」

 往生際悪く尚も扉を閉めようとする兄貴。

 オーケーオーケー。

 んじゃ、とりあえず死ねぇよ。

 扉の閉鎖を完全に断念させて、無様に尻込みする兄貴を一瞥する。

「な、頼む・・・」「えー、あたしら高いよ〜〜?」「たかいですよ〜♪」と兄貴の言葉に続く声。「分かった、なんでも買ってやるし、何処でも連れて行って やる〜なんでも言うこと聞くから、たっ、頼む!!」

「商談成立〜〜♪」

「しょだんせいり〜つ〜♪」

 な、何故だろう・・・この声を、この子たちの声を聞くと・・・

「キリ姉ぇ〜お帰りぃ〜」「おねぇちゃんおかえ〜りぃ〜」

 ま、まずい、と思った。

 でへぇ〜〜と表情が崩れていく。

「キリ姉ぇ〜お風呂入ろぉ〜今日は一緒に寝よぉ〜」

「おねぇちゃん・・・あそぼぉ」

 それは黒猫の妹たち。日向ちゃんと珠希ちゃんであり、殺すべく兄貴が用意していた恐るべき秘密兵器だった。特に『妹萌え』属性に弱いあたしにとってこれ 以上にない迎撃方法だっただろう。

「でへへぇ・・・いっ、一緒にお、お風呂・・・き、今日、い、一緒に・・・寝てくれりゅのぉ(じゅるり)・・・」

 らひょぉ〜〜マジ、マジマジキタぁ〜よぉ〜〜♪

 完全に籠絡されてしまっていたあたしだった。

 特に欧州では恵まれなかった、あたしのパラダイスがそこにあったのだ。



 ・・・こうして兄貴抹殺は失敗(ちっ)に終わった。

 あいつには後々きっちり落とし前をつけさせたいが・・・一つのベッドに二人の義妹たちに挟まれている今のあたしは完全に無力の肉の塊であり、兄貴の嫁さ ん(←もう全員義姉さんだよぉ〜)の中でも、黒猫を兄貴の一番にする、という協力を乞う義妹たちの願いを、あたしはとうとう退けることはできなかった。





「まだ起きてたのか・・・」

「うん・・・」

 それは久しぶりに兄妹で見る夜空だった。

 何故だろう。ここで夜空を見上げていれば、必ず来るような・・・そんな気がしていたのは。

「あんた、ふざけ過ぎ・・・」

「そうか?」

「ハーレムエンドって、どんなエロゲーよ?」

「ははっ・・・実妹エンドを目指した男の底力を思い知ったか?」

 はいはい。御見それ致しました。

 いや、マジ・・・驚いたわ。

「それ、ほんとー?」

「何が、だ?」

「あ、あんだが実妹エンド・・・目指したって・・・」

「忘れたか? 俺は変態ヘタレの超シスコンだったことを・・・」

「ううん、忘れてない・・・ケド・・・」

 あれが夢だったのではないか、と思うときがある。

 本当に兄貴と恋して、付き合って・・・あの楽しかった日々が。

「俺は何度だって言ってやるぞ・・・」

「・・・・」

「俺の妹がこんなに可愛いわけがない、ってな・・・」

 ほれっ、っとあたしに小さな箱を放り投げる。

「あっ・・・こ、これ!?」

「お前んのだろ、それは・・・」

「う、うん・・・」

 かつてあたしが填めていた指輪であり、兄貴に贈られた指輪であり、あたしたちが本気で恋をした、確かな証だった。恐らく兄貴はこれのデザインを参考にし て、彼女に贈ったのだとも分かってしまった。

「も、もう・・・返さないし、絶対に外さないよ、こ、これ・・・」

「おう、好きにしてくれ・・・」

 久しく填められた指輪。

 そして、ふと訪れた沈黙に・・・

「・・・・」

 ・・・重ねられていく、唇の感触。

 ・・・・も、もう一回・・・んっ。

 わざわざ言葉にする必要はなかった。そう心に願っただけで兄貴はあたしの要望に応え・・・・あたしの身体は確かに濡れた。

 あたしと兄貴は兄妹であり、確かにあたしは彼女たちのように兄貴と結婚することはできないだろう。だが・・・それでも愛し合うことはできる。現にあたし の身体は、こうして今も兄貴の愛を欲したのだから。





 あたしは心の中で四人への反撃を決めた。

 はん。上等じゃーんっ〜!!

 あたしは高坂桐乃っ。容姿端麗、学業優秀な優等生にして、元陸上部のエースであり、一度決めたことはとことん貫き通す。

 だから・・・そのあたしが奪われたものは、絶対に取り返してやるっーのっ!!



 例えそれが生涯の親友たちであっても・・・

 そして・・・それが、実の兄貴だった、としても。


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