04『 運命の邂逅 』( 裏 )

 

 『 運命の邂逅 』( 裏 )







 戦闘は終息を迎えつつあった。



 まだ残っている野盗二十余名に対して、戦える若者はただ一人。しかも矢が尽きつつあり、残された手持ちの武装は短剣が一本・・・

 と、甚だ心許ないことこの上なかった。



 ・・・はて?

 ここで儂が手を貸すまでもなく、この若者たちはこの窮地を脱するはすであった。



 どのようにして?

 それは解からない。儂とて全知全能ではないのだ。



 だが、このままでは若者は野盗たちに殺され、皇女はこの上ない辱めを――恐らくは残された野盗の怒りの捌け口としても――激しい凌辱を受けることに疑う余地はない。



 ・・・・。

 儂の『先見』――一種の未来予知、と思ってくれていい――という特殊技能では、この若者は後に『勇者エリス』と呼ばれ、魔軍にとっては災厄をもたらし、レティシア皇女と共に『神聖婚伝説』を紡ぐ存在となるはずだった。



 ・・・それとも?

 無論、確かに『先見』という技能は、至極曖昧なもの。

 結果を知ってから、それまでの過程を変えてしまえば――例えば、この儂のように、この事態を『千里眼』で静観していたことだけでも――時代の出来事は塗り変わってしまうこともある。





 儂が『先見』で予見できたのは、数日前のこと・・・

 当然、それによって儂の行動は少なからず様々な出来事に干渉し、それらが多くの人に伝播をして、様々な事態に影響を与えたとしても不思議なことではない。



 ・・・が、儂の懸念は迂遠のことだった。

「・・・・」

 さすがの儂も呆然とせずにはいられなかったわい。



 ・・・ほぉう、こ、これは・・・

 内心でそう呟くのがやっとのことだった。



 『千里眼』によって映し出されている光景は、野盗の集団が次々と若者に殺到し、次々と斬り倒されていく場面であった。その円滑な一連の動きは、事前に決められていたような殺陣の如く、華麗な短剣の舞踊にも見えなくもない。

「・・・・」

 その瞬く間の出来事に、負傷していた老騎士も、少年の近くにいたはずの皇女や侍女でさえ、目の前で繰り広げられた圧倒的な光景には、唖然とさせられずにはいられなかった。



 ・・・・。

 恐らくは・・・特殊技能、じゃな。



 ――『特殊技能』――

 それは人が隠し持つ、特質というべきか。

 儂のこの『千里眼』や『先見』といった技能も、その特殊技能の一種じゃ。

 この特殊技能は大きく二つに分類されて、主に先天的に得られ、本人にも認識不可能な技能を「パッシブ」、後天的に得られることで任意発動できる技能を「アクティブ」と魔軍内では定義されている。



 この若者は・・・いや、後に『勇者エリス』と崇められる英雄は、人間が持つ潜在能力の(常人では30%前後に制限されている)リミッターを意図的に強制解除させられるのであろう。

「・・・・」

 目を見張るべきは、その速さ・・・単純なスピードだけではない。その強制解除に伴って、筋力や技のキレなども倍化している、というところだろうか。



「こ、これは・・・まさしく、

 魔軍を滅ぼすだけの実力の、その一旦か・・・」



 『先見』という技能は、物事の結果を知ることで便利な技能と思われがちではあるが、残念ながら色んな弊害や問題を抱える、困った技能でもあった。

 まずなにより、技能の発動が本当に不規則で、儂の知りたい未来・・・望んだ時代が覗けるというものではない、ということ。更にこれまでの長年の経験からして、次の発動時期が三年以降のいつか・・・もしくは十年後まで発動せんかもしれない、ということだ。

 ・・・まさに気まぐれ技能じゃな。

 そして先にも触れたように、結果を知ってしまったことによって、たった一つの行動如何で容易に変わってしまう、その不確定な未来図ということ。またその結果にしても漠然としすぎていて、詳しいことが皆無であることだった。



「まぁ・・・魔軍壊滅、という、魔軍にとってもっとも最悪な事態さえ回避できれば、儂ら的には何ら問題はないんじゃがなぁ・・・」



「・・・・」

 今の儂に解かっていることは、そう多くはない。



 このエリスという若者が、後に『勇者』と呼ばれる人物に成長すること。

 そしてその勇者を中心とした一行が、マグラート(現在の魔帝殿)を討ち、魔軍全軍を壊滅させること。

 そして『神聖婚伝説』・・・この勇者エリスと皇女レティシアが、伝説の――『神聖婚』――儀式によって結ばれ、終生深く愛し合い続ける・・・という、ことぐらいじゃなぁ。



 たったそれだけのことで、それがいつの出来事なのか?

 そして、どのようにして魔軍は壊滅したのか・・・

 それさえも全く不明瞭なのである。

「・・・・」

 まぁ、悲観することでもない。

 『先見』で見ることができた、ということは、少なからずその可能性がある、という儂らへの警告だと受け取ることもできよう。



 ・・・・。

 現に『千里眼』で見ている光景が告げている。

 若者へ涙ながらに礼を告げている皇女が、既に好意以上の感情を芽生えさせているのを・・・そしてそれがただの、一時的なつり橋効果によるものだけではなく、それがレティシア皇女にとって初恋となるであろうことも、儂の目には明らかであった。

 ・・・・。

 ・・・もっとも。

 アルティスの公都に戻ることになった帰路。皇女は次第に強く惹かれていった若者に気になる視線、時には大胆に熱い視線を送ったものであったが・・・遂にエリスがそれに気付くことはなかったが。







 魔軍壊滅、という最悪な事態を回避するべく、儂は勇者エリス・・・現在はアルティス公国の狩人、エリス暗殺を目論んだ。

 『先見』によって予見された未来を確実に忌避するには、この後の勇者を現時点で亡き者にすることであろうからな。



 だが・・・

 それからの数日間。

 その暗殺の機会を窺いながら、儂は計画の断念を決断するに至った。



 何分、このエリスという若者は、物欲が乏しく、暢気かつ平然、穏やかな性格で、皇女の明らかなまでの好意にも気付かないほどの初心な心の持ち主でありながら、それとは裏腹にして全く隙が見当たらないのだ。



「・・・・」

 ふん。

 またも儂の『千里眼』の視線にも気付きおったわ。

 とにかく空気には敏、というか・・・特に殺気には鋭敏なのである。

 それはエリスが睡眠中でも変わりはなく、現に帰路の道中においても、件の野盗の残党の夜襲に即座に気付いて対応したほどである。

「ちと、調べてみるか・・・」

 儂は『生態調査』・・・(『千里眼』を使用したまま、更に視覚系技能を併用する負担は、この老骨にも、ちと堪えるのじゃがなぁ・・・)で、エリスという若者の能力、そして隠し持つ『特殊技能』の一つに全ての得心がいった。



 ・・・『察知』とは、な。



 これではエリスという若者には、夜襲は無論、奇襲も通じない。

 例えば、今から儂が『空間転移』と併用して、魔法詠唱を始めた・・・いや、詠唱を終える段階で『空間転移』を発動した、としても、エリスという若者は即座に回避行動と(恐らくは弓矢で)迎撃されることだろう。

 儂とて矢の一撃程度で倒されるほど軟な存在ではないが、エリスをその魔法攻撃の一撃で仕留められる保証もない。

 ・・・余りにもリスクが高いわな。





「し、しかし・・・」

 儂は暗殺を断念すると同時に、その狩人だったはずの若者の、その日常の急激な変化にも唖然とせずにはいられなかった。

 ・・・・。

 エリスは皇女を救出する際に『これは・・・今日の狩りは断念、かな』と呟いたように思えた――『千里眼』では会話や音声までは聞こえない――が、彼が再びアルティス公国の森で狩猟に赴く日は、遂に訪れなかった。





  ヴェンツェル皇国第四皇女・・・レティシアは、アルティス公国の公宮までエリスに護衛されると、道中で合流、負傷した騎士や老騎士の手当てを要請する一方で、エリスの主君である公主(非公式には父親でもある)トリグラフ公に対面を求め、エリスの身柄を強く願い出たのである。



「私はこの公国の若者、エリスに一命を救われました。

 叶うことなら、彼を私の従者に迎えたいのですが・・・」



 レティシアは謝辞を述べると同時に頭を下げた。



 エリスを侍従として迎え入れる。これはアルティス公国の公都フローラスに到着する事前に、皇女がローレンと話し合った結果のことだった。



 彼は少年という年齢にも関わらず、野盗とはいえ多数の大人を向こうに回してレティシアを救った立ち回りは無論、その胆力も兼ね備えている。そしてなんと言っても、あの弓の技量にその正確性。そして極めつけは野盗を瞬く間に壊滅させた短剣捌き、あの一連の動きは圧巻の一言に尽きよう。



「公主から多額の見返りを求められても、彼の身柄を引き取るべきです」

 レティシアも老騎士の助言に頷いた。

 平民出身の彼女ではあったが、皇族の一員である以上、金銭面ではある程度の余裕がある。亡き母が皇王から賜った荘園を売り払ってもいい。それでも足りなければ、最後は父親・・・皇王にお願いすることになるかもしれないが。

「彼にはそれだけの価値があります」

 老騎士の言葉にも熱が籠っていく。

「もし私が彼と対峙して、正面から戦えたとしても・・・私の敗北は濃厚でしょう。しかもそれは、彼が接近戦に応じてくれた場合の予測です」

 エリスから接近する必要はない。

 彼には遠距離からでも正確に的を射る弓がある。

 老いたとはいえ、かつては皇国騎士団の副団長(家柄さえ良ければ将軍)を務めたローレンが保証するのである。少なくともエリスという若者は、狩人にしておくのには勿体無いほどの逸材であった。



 ・・・・。



 レティシアは交渉が長期化することも覚悟したが、公主トリグラフ公との話し合いは、彼女が拍子抜けするほど簡単に纏まってしまった。

 エリスはレティシアの従者として譲渡された。

 それも無償で、である。

 公主トリグラフ公にとって、ヴェンツェル皇国のミステル家は彼の主筋に当たる。その皇族に連なる人物の嘆願を断れるはずもなかったのだ。ましてレティシアのような美少女にはとことん甘かった、そんな一面もあっただろう。

 ただそれ以上にレティシアにとって幸運だったのは、公主がエリスという若者の実力を理解していなかった、ということ。また実の父親だった、という後ろめたさと、先年にようやく終息したばかりの公主後継者候補争いの懸念もあって、厄介払いと言わんばかりに、実の息子を皇女に喜んで差し出したという背景もあった。



 ・・・・。



「・・・ということで、

 明日から、私に仕えてくれますか?」

「はぁ・・・」

 エリスの言葉は素っ気ない。

 確かに少し、状況の急激な変化に唖然とさせられていたこともあろう。

 レティシア自身、拍子抜けしてしまったほどだ。

「その・・・何か、それにあたって、

 要望とか、希望がありましたら・・・

 そ、その最大限、取り計らいますから・・・」

「あ、ありがとうございます・・・

 その、よろしくお願いします」

 ・・・・。

「それから、私のことは・・・

 レティ、と呼んでくれて構いませんから・・・」



 それはレティシアにとって特別なことだった。

 特別な・・・格別な意味を持っていた。

 彼女を愛称で呼んでいい存在は、今は亡き母親と・・・

 そして・・・



 年端もない皇女にとっては、懸命に自身の気持ちの一端を告白したつもりだったが、やはり正確にはエリスに伝わらない。しかし、それは無理もなかったかもしれない。

 エリス本人にしてみれば、彼女はまさに至高の一族。母親が平民出身とはいえ皇族に名を連ねる存在なのである。またこれまでに恋愛経験はおろか、初恋さえも体験していない精神的未成熟な少年には、皇女の芽生えたばかりの好意を理解できるはずもなかった。



「・・・・(はぁ・・・)。

 それでは今日は下がって結構です」



「はい。おやすみなさい、レティシア様

 明日から、よろしくお願い・・・」

「・・・・」

「あ、あの・・・な、何か?」

 少年は少女の地雷を踏んでしまったことに気が付かない。

 ただ僅かな表情の差で彼女が不快になったことを気付いたのは、さすがというべきであろうか。

「・・・私のことは?」

「あ、えっと・・・れ、レティ様で、いいですか・・・?」

「・・・・」

「レ、れてぃ・・・」



 それは劇的な変化だった。



「では、エリス。

 明日からよろしくお願いしますね♪」



 眩しいばかりの笑顔が少年の心に強く印象付ける。



「・・・・お、おやすみ、レティ・・・」





 尚、エリスがレティシアを意識するのが――正確には、彼女に惹かれていたのだと、改めて自分の気持ちに初めて気付くのが――半年後のことであり、レティシアの告白に対して初めて、自分の気持ちを吐露するのに、更に半年という時を要する。

 (※当時――未来――の記録では、エリス十六歳、レティシア十四歳に魔軍討伐の旅に出立し、そして魔を掃討して『神聖婚』を迎えるのが、エリス十八歳、レティシア十五歳最後の日のこととなっている)







 夜の帳が落ちる前に、レティシアはエリスの退出を認め、唯一に付き従えていた侍女のマリーダにも早めに休ませた。

 明日よりレティシアに仕えることになったエリスは、アルティスにおける身辺整理もあって公宮から離れ、慣れない旅路とそれ以上の(野盗襲撃による)過度の緊張感もあって、マリーダもそのレティシアの優しい言葉に甘えさせて貰ったのだった。





 レティシア自身、旅情に慣れているというわけではなく――今回は、今は亡き母の三回忌に合わせての墓参りであり――野盗の集団に襲われるという、体験までもしたばかりである。

 無論、後者に限っては、首謀者の(レティシアの帰郷するタイミングとそのルートを漏洩し、皇女を捕らえては想像を絶するような辱めを依頼した)黒幕は別の安全な場所にあって、今後もその危険が皆無というわけでもなかったのだが。

 ただアルティス公国の公宮に到着した安心感もあって、レティシアもその疲労と張り詰めていた緊張から深い眠りについてしまったとしても、致し方のないことだっただろう。



 ――そして、必ず夜の帳が落ちてくる――



 さて・・・

 儂は『千里眼』でレティシアの就寝している寝室全体を見渡して・・・イメージを強く膨らませる。

 そして『空間転移』の魔法を作動させた。

 この『空間転移』の魔法には、転移先のイメージが必要不可欠である。そのため、実際にはその転移先に一度は足を踏み入れておくことが望ましい・・・が、儂に限っては、それを『千里眼』によって代用することが可能だった。



 ・・・クッ、

 やはり、結界の影響はこの身にも堪える、のぉ・・・



 ――結界――



 それは魔の存在を阻害する空間装置の総称である。強弱の違いはあれ、人間支配地域の主要都市や各拠点には、必ず展開されておるものであった。だからこそ人間はそこに居城を作り、街を発展させ、そして安心と安らぎを手にするのだろう。

 そしてヴェンツェル皇国の一公国とはいえ、仮にもアルティス公国の公宮フローラスに設置されてある結界の強さは、強の部類に入る。さすがの『魔軍四天将』の儂でも、この結界の中で力を行使することは不可能じゃな。

 ・・・・。

 ちとばかし、浅はかじゃったわぁ・・・

 後の勇者エリスの暗殺が困難でも、レティシア皇女の殺害に成功すれば、魔軍壊滅という未来は完全に覆る・・・そのはずだったが、

 今の儂はまさに無力な老害じゃろうてぇ・・・



 とりあえず・・・

 レティシア皇女の尊顔を拝させてもらうかのぉ。



 多くの衛兵らが公宮を闊歩して警戒し、寝室の扉の前にも衛兵が四人交代で警護に当たっていたが、儂は音も立てずに侵入を果たし、その最初の・・・第一の目的を達成させる。

 ・・・ふむ。

 年相応に小柄な身体であり、全く起伏がない胸が音を殺したささやかな寝息に応じて動いている。真っ白な寝具――ネグリジュ――の上からでも解かる、くびれのある腰。裾から健康的な太腿に美しい脚線が描かれている。

 ・・・・。

 もし儂があのとき、野盗側に参戦しておれば、この小娘は今ごろ、野盗たちの慰み者として一生を終えていたことであろう。



 クッ、今にしてみれば惜しいことをしたわい。

 ・・・・。

 ん?

 か、勘違いするではないぞぉ!?



 わ、儂がこんな小娘如きが凌辱されたところで、ちっとも嬉しくなんかはないぞ。

 これぽっちの興奮も憶えるはずが・・・

 憶えるはずが・・・

 ・・・・。



 ・・・はて?

 儂は正直、今ほど湧き上がった、己の感情を否定できなかった。

「・・・・」

 この抑えきれない衝動は・・・

 皇女の無防備な姿を一瞥する。

 そう、その光景を見てみたかった、と本気で悔やみ・・・いや、自らが凌辱するべきだったのではないか、と本気で思い始めていたのだ。



 ま、まさか・・・この儂が?

 既に枯れ果て、不能となったはずの儂が、か?



 だが、このレティシア皇女の無防備な姿を見ていると、儂の逸物がムクムクっと硬くなり、天に向かって勃起したのである。



 ・・・およそ一千年ぶりのことであった。



 そもそもの『千里眼』で野盗襲撃を静観していた際、想定していた以上の皇女の可憐さに感嘆してしまったのは事実であり、後の勇者と目されていた人物の窮地に、その先の容易に想像できた光景に我知らず興味を憶えてしまっていたからこそ、熱心なまでに最後まで見届けていたのではなかっただろうか・・・



 ま、まさか・・・

(見ないでぇ・・・ヨーゼフ・・・)

 懐かしくも古い、苦々しいまでの記憶が脳裏を過る。

 まさか・・・

「・・・・」

 儂は結界の圧力に耐えながら、皇女に『生態調査』を作動させる。



「・・・・」

 漆黒の濁った瞳に映し出される、それは・・・

 まさに皇女の様々な秘密。



 ・・・こ、これは・・・

 ・・・くっ、クックックッ・・・



 深夜ということで音を殺すのも困難な出来事だった。

 儂の唇から洩れたのは、まさしく哄笑。

 そして得心がいく、レティシア皇女の秘められた力であろう。



 クククッ・・・クックッ・・・

 いやいや、まさか、これほどの・・・

 いや、しかし・・・クックックッ・・・







 儂はひとまず、皇女暗殺を諦めた。



 そして後ろ髪に引かれる思いで、皇女凌辱も諦めた。この千年ぶりの股間の滾りの高ぶりも、たった一つのこの思いつきに勝ることはない。

「・・・・」

 儂は虚空に向けて手を伸ばし、亜空間から七種類の種を取り出す。これらが全て役立つとは限らない。既にレティシア皇女の身体には常人が持ちあわせられる以上の数の特殊技能を保有している。小柄な身体でありながら、素晴らしいキャパシティではあろう。



 ・・・可能性としては、やや分が悪かろうな。



「まぁ、これは儂からの餞別じゃてぇ・・・」

 儂はその手にした種を皇女が眠る寝台に放り投げた。

 これが根付けばよし。

 また根付かなくても、それまたよし。

 だが、何れかの・・・もし全ての種が根付くようなことにでもなれば、それはさぞ見物な光景が拝められるやもしれんてぇ。



 さてと・・・とりあえず、妙案の仕込みを終えて、今日は退散させていただくとするかのぉ。この結界に耐えるのもかなりの重労働ではある。またそれ以上に、皇女の無防備な身体を見ていると、いつまでも平常心を保っていられるという自信もなかったのだ。



 ・・・・。

 この日の収穫は実際、それほどに多くはない。

 だが、得たもの・・・特に皇女の『生態調査』で得られた情報は極めて大きかった、と特筆するに値するものだっただろう。



 なにせ、それは・・・

 今後の魔軍全軍の行動指針と運命に大きく影響を与えるのであるから。


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