08『 婚礼の式典 』

 

 『 婚礼の式典 』







 エリスプス大陸に春の季節が到来し、ヴェンツェル皇国の七公国が一つ、南東に位置するアルビオン公国では、ヴェンツェル皇国第三皇女マリアンヌ皇女殿下と、アルビオン公国の公主継承者であるエルドレット侯爵による婚礼の日を迎えていた。

「豪勢な会場ですな」

 皇族の娘と貴族の御曹司による結婚ということもあって、これが政略的な婚姻とも思われがちではあったが、これは当人同士の意思と国家の方針が一致していた、珍しいケースである。

「とにかく、にも、これはめでたい」

 それだけに婚儀の参列した者は、政略結婚に参列する普段よりも、気軽に婚礼の式典に望むことができていた。



 そしてまた、この参列者が非常に豪勢でもある。

 まずヴェンツェル皇国の人間だけでも、皇女の父である皇王ダグラス・フレンツェ・ティア・ミステル。第二皇女のフレア。第四皇女のレティシア。乳飲み子の第八皇女までが側妾の母に抱えられて出席を果たしている。

 また第一皇女ミレーユは、既にカルマーン帝国の嫡子に嫁いだ身ということもあって、カルマーン帝国からは彼女の他に、『戦姫』と称されるクリスティーナ・スティール・フォン・クライファートも参加している。



「・・・・」

 本当に凄い参列者だな、と思った。ここに大陸全土の美少女が出揃った、と言っても、きっとそれは異論があっても誇張はないんじゃないか、とも。

 まだ見ぬ美少女には大変失礼な話なんだろうけど・・・

 エリスはゆっくりと列席者の最前列を見渡した。



  第二皇女のフレア・フォード・ティア・ミステルは、エリスと同じ十二歳の少女にして既に統治における素養を示しており、朱華――透き通った薄いピンク――色の長い髪に芸術家が丹精を込めて作り上げたような端整な顔立ち。身長はエリスにこそ及ばないものの、バランスの良い均整な身体つきだった。

 頭部には光輝く白銀のティアラが飾られ、黒で縁取られた薄橙色のドレスが清楚な印象に拍車をかけている。



 帝国の皇太子に嫁いだ第一皇女ミレーユ・フレンツェ・フォン・クライファートは絶世の美少女の一人に挙げられており、柔和な瞳と端整な顔立ちも相まって多くの異性を魅了している。嫁いだ先の皇太子の寵愛ぶりは皇国でも広く知れ渡った話であり、嫁いでから僅か数か月で身籠っていることからも、それが事実であることを如実に表しているだろう。

 身重の身体のために身に付けたドレスもゆったりとしたものが選ばれ、今は祖国の旧臣や妹たちとの会話に花を咲かせていた。



 その隣の帝国の皇女(ミレイユの義妹に当たる)クリスティーナ・スティール・フォン・クライファートも他者を圧倒してしまうほどの美少女であり、細身の華奢な身体でありながら、それはスタイルの良さを感じさせるプロポーションを誇る。そして帝国の『戦姫』としても名高い存在である。

 年齢はエリスより一つ年長の十三歳。

 ちなみに今日の彼女は礼節に則った丈長のドレスを着用しており、その華麗な姿によって多くの異性の熱い視線を集めてもいた。



「・・・・」

 でも、その中でも。

 エリスはもっとも身近で、もっとも愛おしく想う少女の姿を見つめる。



 第四皇女レティシア・ミラルド・ティア・ミステル。エリスの仕えるべき大切な主君であり、彼が一番に想いを寄せる人物は、光輝くようなブロンドの髪を腰まで伸ばし、小柄な身体ながらに皇族の威厳と気丈さを兼ね備えている。

 年齢は今年の冬で十一歳。

 今日は淡いピンクのパステルカラードレスを着用し、『皇国の至宝』と称される可憐さを存分に発揮している。



 そんなレティの可憐な姿に思わず鼓動を高めてしまったエリスは、足早にビュッフェに辿り着くと見知った顔に遭遇する。

「よう! エリス」

 カルマーン帝国近衛騎士団のアーレスだった。

 先日、この公都シアルフィーの近辺で、野盗団を相手に共闘することになった間柄であり、エリスより三つほど年長の十五歳という若者だ。

 またこれはその後になって知ったことであったが、この若き騎士はこの年齢で既に数えきれないほどの武勲を上げており、帝国内では賞賛と期待を込めて『若き英雄』の一人に数えられている。



「今日のレティシア殿下の可憐さは素晴らしいな」

「え、あ、・・・そ、そうですね」

 それは単なる社交辞令だったのか・・・彼の本音であったのか、その真意はエリスにも分からない。

「その反応。やはり惚れているな、お前〜♪」

「ぶっ、ごほっ、ごほっ!?」

 エリスは思わず赤面して咳き込む。

 口に入れた物まで吐き出してしまった気もするが、今の少年にはそれどころじゃなかった。

「あははっ・・・、焦るな、焦るな」

「きゅ、急に、な、何を・・・」

「そりゃまぁ、あんな超絶な美少女と一緒に居られたら、男なら惚れちまうってもんだよなぁ〜♪」

「えっ、あっ、えっと・・・」

「男なら、そりゃ護ってあげたくなるよなぁ〜♪」

「/////////」

 アーレスにからかわれた、のだと解かった。

 普段は澄ませていくらでも平静を装える彼でも、ここまでの直球・・・ストレートな物言いをされると年相応の反応を示してしまう。

 それも経験の差というものであろう。



 その後も暫く、アーレスは面白い玩具を見つけたかのように、エリスを弄り続けていく。

 だから、なのだろう。

「なぁ、エリス・・・」

 唐突に真剣味を帯びた口調はエリスの関心を強く引いた。

「エリス、私と踊ってくれないか?」

「えっ?」

 振り向くとそこには指折りの美少女の一人、クリスティーヌ・・・クリスが優雅な佇まいで微笑んでいる。今更ながらに気が付いたことで、婚儀場内には緩やかな音楽が流れており、ダンスタイムが始まっていたのだ。

「あ、アーレスさん、とですね・・・」

「いや、私はエリスを誘ったのだぞ?」

「!!?」

 何故に僕ぅ!?

 と、心の叫びが胸中を駆け巡る。

「折角、知り合えたのだ。私と踊ってくれないだろうか?」

 そこまで言われてはエリスにも断る理由もなく、固辞すれば相手の対面にも傷がつくことになろう。それはレティシアの環境に対しても望ましくない。

「解かりました、よろしくお願いします。

 クリス、僕と踊ってくれませんか?」

「そうか、心得た」

 クリスティーヌが破顔して差し出されたエリスの手を受け取る。



 エリスもレティシアに仕えるようになり、宮廷舞踊は一通りに叩き込まれている。まだ流暢な動きとはいかないが、相手に恥をかかすことはない。

 だが、カルマーン帝国の『戦姫』との舞に、当然として周囲からの注目度は高い。談笑していた参列者たちは揃って口を閉ざし、共に踊っていたはずの男女も二人の若者の舞踊に黙って着目した。



 ・・・ううっ。

 レティの鋭い視線が痛い。とても痛い。

 不機嫌になっているのが手に取るように解かるのだ。



「良かったぞ。私はエリスに嫌われているのか、と思った」

 踊りながら、クリスがこんなことを呟く。

「何故、そんなことを?」

「話しかけても素っ気なく、視線は逸らされるし、な」

「あっ・・・」

 エリスにも思い当たる節は確かにあった。

 それは先日、クリスと初めて会ったときのことだ。当時の彼女の衣装は部分鎧を着用し、極端に短いスカートと眩しいばかりの脚線。顔は端整な美少女のそれで、下半身は眩しいばかりのそれ。まさか胸を見て会話するなどもってのほかであり、エリスとしては目のやりどころに困ったのだった。



 エリスは当時の心境を率直に吐露した。

「・・・すみませんでした」

「・・・・」

 浅ましい目で見ていたことに怒る・・・もしくは軽蔑されるか、とも思ったが、クリスは驚いたように微笑する。

「何を謝る必要があるんだ。あれが私の戦装束であり、そして私が見せているんだ。見たいんならいくらでも見てくれて構わんのだぞ?」

「・・・・」

「そういうことだ」

 曲が終わり、踊りを終えたクリスが微笑む。

 もしエリスが如何わしい視線だけで見ていたら、クリスとてこんなことを口にすることはなかっただろう。少年の心境が余りにも初心で、誠心の心の持ち主だからこそ、彼女は告げたのだった。





 続いてエリスはその足でレティシアのところまで赴く。

 幸い、ダンスタイムはあと一曲の猶予がある。

 自分の正直な気持ちに向き合うため、であり、そして彼女のあからさまなまでの不機嫌さに危機感を募らせてという、率直な理由からでもあった。

 そんな不機嫌気味だった彼女も、エリスの申し出によって即座に氷解し、若者は再び舞踊の場に戻らなければならなかった。

 そしてエリスとレティシアの対になる形で、アーレスと先ほどまでエリスと踊っていたクリスが手を取りあっている。それぞれの視線が重なって、それぞれが微笑する。



 この日、『帝国の至宝』とも称されるレティシアと踊れたのは、エリスだけという栄誉であった。他の者からの誘いには丁重なまでにお断りを入れ、きっとエリスから申し出なければ、誰もレティシアの華麗に過ぎる舞は披露されなかったことだろう。



 舞台は再び・・・いや、今度は四人二組だけの独擅場となり、多くの注目を集めることになっていた。







 こうして全ての余興が終わりの時間を告げ、盛大な音楽が流れる。そして本日の主役であるエルドレッド侯爵とマリアンヌ皇女が登場した。

「綺麗・・・」

 つい先ほどまでこの大きな歓声と喝采を受けていたレティシアも、姉であるマリアンヌの登場に吐息を漏らした。

「ですね・・・」

 エリスも同意を示す。

「「/////////」」

 尚、二人はダンスが終わった後も互いの手を離さず、この新郎新婦が入場する暗闇の中でも互いの温もりの熱を確かめていた。



 マリアンヌ・ブロード・ティア・ミステルはもうすぐ十二歳となる可憐な美少女である。

 ヴェンツェル皇国の第三皇女であり、母の出身も七大国の一つ、ブロード公国の公爵家出身という名門であり、正妃と側妾の違いはあれ、第二皇女であるフレアとの差は、実のところ数日の誕生の差でしかなかった。

 光り輝く純白のウェンディングドレスを纏い、片手には花束が一つに纏められたブーケ。もう片方の手を夫となるエルドレッド侯の腕に預けている。

 尚、一方のエルドレッド侯爵は今年で十八歳となる若者であり、マリアンヌの心を射止めるために、それは相応な労力を費やした努力家ではあるが、大貴族にありがちな自己顕示欲、そして独占欲の傾向も強かった。

 そのため・・・幼い皇女はお互いに永遠の愛の誓いを祭壇で述べ、互いの指に指輪を填め合った後は、会場の真ん中に設置されたベッドへと誘われる。

 婚礼の儀式の一つ。『床入れの儀』である。

 これによってエルドレッド侯はマリアンヌ皇女を破瓜し、公然の場で抱くことで彼女が自分の物になったことを主張するのである。

 ・・・尚、これは皇国や帝国だけに限ったことではない。皇族や貴族らの婚姻には『床入れの儀』が付き物であり、これによって周囲にも二人が結ばれたのだと認知されるのである。そしてその代表格こそ、天上の神々も祝福するという『神聖婚』であった。



 ・・・・。

 余談ではあるが、そのため高貴な身分の初婚となる花嫁には、当然に処女性が強く求められる。仮に非処女で初婚を迎え、初めて夫を迎え入れるとき、実は以前に男を受け入れていました、では、新郎の面目は丸潰れである。

 もしマリアンヌ皇女が非処女であった場合、彼女には三つの道があった。

 一つは無論、挙式を上げずに結婚をすること。ただし、この場合は彼女の面目がない。社交会の場で挨拶をするたびに後ろ指を指されることになろう。

 もう一つは演技をすること。

 公然の場で抱かれることになる『床入れの儀』ではあるが、『神聖婚』と同様に公然と晒されるのは、あくまで新郎と新婦の表情だけである。実際にこれまでの貴族の娘にも、挿入をされた際に演技をすることで遣り過ごした婚礼は少なくない。

 最後の一つが結婚しないこと。

 極論ではあるが、これも非処女となった高貴の身分の独身者に残された逃げ道である。



 ・・・・。



 そして、マリアンヌの選んだ道は・・・

「んっ・・・」

 羞恥と高まる性感に頬を紅潮させる。

 上質の、透き通るほどに薄い魔法性の生地に隠れて、エルドレッド侯の手が彼女の胸を、そして侵入を許した股には舌によって、マリアンヌに戸惑いの表情を強要する。

 皇女には演技の必要はなかった。

 これまでに誰にも許していない場所。それだけに戸惑いがあり、その反応が周囲には初々しくもあった。これは演技ではない、と誰もが認めてもいた。

 実際に婚礼に見慣れた者であれば、花嫁の演技を見破れるものである。もっともそれらを公言して婚礼を台無しにするような者も皆無でもあったが・・・



「「//////////」」

 エリスもレティシアも互いの手を握りしめていた。

 どちらも目の前の光景から目を逸らすことはない。

 これは人である以上、そして愛する者がいる以上、誰もが必ず行うであろう神聖なもの。その儀式である。

 当然に恥ずかしさは伴うが・・・

 これはマリアンヌ皇女が処女を侯爵に捧げた証明であり、権利であり、列席者にはそれを見届ける義務がある。それから視線を逸らすということは、参列者の責任放棄であり、神への冒涜でもあり、そしてマリアンヌを侮辱する行為に他ならないのだ。



 《 バァァーン!! 》



 けたたましく銅鑼の音が鳴り響く。

 同時に周囲から期待に満ちたざわめきが洩れた。



 それは儀式の執行を・・・『床入れの儀』の遂行を報せる合図。勿論、こんな僅かな時間では十分な前座は望めないだろう。これより性交を・・・破瓜を余儀なくされるマリアンヌの激痛は並大抵の物ではない。

 だが、『床入れの儀』における目的と意義は、その無垢な花嫁の苦痛にある。マリアンヌが激痛で顔を歪ませ、苦悶の声を上げさせることによって初めて、彼女がエルドレッド侯の物になったことを証明させるために。

「あぐぅ!!」

 無垢な花嫁の表情が歪む。《 みしぃ、みしぃ 》と軋むような音が響いた。幻聴ではない。二人の結合部こそ魔法性の生地とエルドレッド侯の身体によって隠されているが、この生地は花嫁の身体と同調することによって、体内の衝撃を拾いそれを増幅させる性質があるのだ。

 ※演技の場合には、通常の生地を使用。



 続いて、《 ぷつっぷつっ、ぷつっ・・・ 》という、増幅された音。エルドレッド侯の体が皇女の身体へと沈ませていき、侯爵の存在を受け入れていったマリアンヌが声にもならない苦痛を表明していく。



 《 ずっぼぉ! 》



 勢いよく打ち込んだエルドレッドの腰。

 涙交じりに虚空を見上げた皇女の顔。



 それに伴って二人の営みを覆う、透き通るほどに薄かったはずの生地には赤い・・・真紅の染みが滲んでいく。

 これこそ彼女がエルドレッド侯に純潔を捧げた証明。

 それはマリアンヌが破瓜された際に流血させた鮮血のように紅い。そしてこの染みは花嫁の膣内が抉られ続けられることによって、次第に広がるように拡大をしていく。その間にもマリアンヌは苦悶の声を上げたが、エルドレッド侯は一向に構わず彼女の膣内を抉り続けていた。



 何も侯が薄情だったという訳ではない。

 ――これが『床入れの儀』の通例なのだ。

 例え花嫁が泣き叫んだとしても・・・これを止めるということは、エルドレッド侯は情けをかけたのではなく、彼女の覚悟を侮辱し、周囲の目に恥を晒させることに他ならない。



 マリアンヌが苦悶の声を漏らすたびに、レティシアの握る手が強くなる。

 これは未婚かつ初婚の参列者に多い。現在のマリアンヌは未来の自分の姿であり、恐らくは自分も彼女と同様、苦悶の声を上げるだろう。いや、そればかりか抗議を、泣き叫んで抵抗してしまう醜態まで晒してしまうかもしれない。

 だから、その時はその抵抗を抑え付けてでも行為を続けて欲しい、と添い遂げる異性に強く願うのである。



 ・・・・。



 こうして『床入れの儀』は終わった。

 日を閉ざしていたカーテンが開放され、想像していた以上に時間が経過していたのだろう。明るかったはずの陽射しはいつの間にか夕焼けへと変わっている。

 それとは対照的に真っ赤に染まった魔法性の薄布は、何ごともなかったように、また透き通った生地へと戻っていた。

 ・・・まるで儀式がなかったように。

 レティシアは頭を振って、興奮していた鼓動を深呼吸して抑えた。

 でも、参列者の心には深く残っている。そして誰もが認めることだろう。マリアンヌ皇女が・・・異母姉がエルドレッド侯のものになったのだ、という事実を強く認識できることで。



 ・・・・。

 マリアンヌの異母妹であるレティシアもその一人である。

 わ、私もいつか、エリスと・・・と、ね。

 平民出身であった私には、こんな盛大な結婚式は無理かもしれない。・・・ううん、別に参列者なんていなくても、誰に祝福されなくてもいい。そのときは皇女でなくなっている可能性もあるだろう。

 ・・・それでも構わない。

(エリスさえいてくれれば・・・)

「・・・?」

 ふと、レティシアは先ほどまで握っていたはずの手がそこにないことに気が付く。

 あれ、エリス・・・?

 だが、そこに彼女の求めた銀髪の少年の姿はない。



「・・・・」

 途端に彼女の心に漣のような不安が沸き起こる。

 彼が自分のことを好いていてくれる、少なくとも意識してくれているのだと思ったそれが、錯覚・・・自分にとって都合の良過ぎる自意識過剰と感じてしまうのだ。

 ・・・・。

 そう、エリスはこれまでに一度として「好き」とは言っていない。

 エリスの気持ちを言ってほしい。

 ううん、言われたい。



 そしてもし、その気持ちが自分の望んでいた答えと同じものであるのなら、そのときは、きっと、私は・・・







 ――翌日――



 今朝からシアルフィー公宮がやや騒がしかった。

 そのため、熟睡できなかったレティシアは少しだけ不機嫌だった。もっともなかなか寝付けなかったのは、その騒がしい外野のせいではなく、昨夜に抱いた不安が深刻なほどに気になってしまっていたからではあるが・・・



 《 コンコン 》

 と、寝室の扉がノックされた。

 マリーダかしら?

「エリスです」

 えっ?

「ち、ちょっと待って・・・」

 レティシアは慌てて寝起きの乱れている髪を整え、身に纏っている着衣に目を向ける。

 さ、さすがにネグリジェ(しかもそれは最近に購入したばかりの、真っ白なお気に入りであり、少しだけ大胆に刺激的でもあるやつ)だと、まるでレティシアのほうから誘っているようにも・・・



 そこでレティシアは考える。

「・・・・」

 むしろエリスには丁度良いのかもしれない、と。



 誘っているように思われたのなら、それでもいい。むしろエリスとなら、そうなりたいと思っていたのである。

 下着も身に着けていないネグリジェだけ。

(/////////)

 どうしても昨日の『床入れの儀』が彷彿される。

「ど、どうぞ。鍵なら開けてあるから、入って頂戴・・・」

 それだけに鼓動が高まる。

 だ、大丈夫よ。胸を張りなさい、私。

 この一年で少しは胸だって・・・膨らんだんだから。

 ・・・・。

 確かにネグリジェから窺えるレティシアの胸は、一年前に比べれば、脹らみを帯び始めていたかもしれない。もっとも完全な絶壁だったそれが、超貧乳になった程度のもの。

 それでも一年前の垂直だった絶壁に比べれば、それは確かな彼女の成長の証ともいえた。

 少なくとも、レティシアにとっては・・・だが。



 ・・・・。



「失礼します・・・えっ、と・・・」

 ベッドに腰掛けているだけのレティシアに、途端に視線を逸らす少年。

「お休みのところ申し訳ありません」

「か、構わないわよ・・・そ、それで、こんな今朝からどうしたのかしら?」

 平静を装いつつ、少しだけ期待する。

 自然と胸の鼓動が高まった。

 ・・・れ、レティシア・・・準備は万端、よね?

 エリスに求められてもいいように。

 彼をいつでも抱き止められるように。



 ・・・えっ?

 だが、エリスの一言に顔を強張らせるレティシア。

 彼は淡々として言ったのである。



 ・・・お暇を頂きに参りました、

 と。



 あくまでも淡々に・・・



 その瞬間、レティシアの時が止まっていた。

 レティシアだけの時間が・・・


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