第四話・魔【 ニンジン作戦! 】


 僕は新たに得た力に・・・魔術、というものに興味を抱かずには居られなかった。嬉しかったのかもしれない。アニオタと蔑まれて、確かにそれまでの僕には、アニメとゲームだけしかなくて。一つの取り柄もない人間であったのだから・・・

 突き出した手のひらに魔力を集中させ、渾身の一撃を解き放つ・・・攻撃魔術の基本ともいうべき、それが魔弾である。
「お見事です、マスター」
 その魔弾を受け止めて、サキュラは微笑んだ。
 魔術を一つ成功させるたびに、サキュラは惜しみない賛辞を送ってくれる。それは人に・・・(魔女である彼女を人と呼んでいいのか、は微妙だが・・・)褒められたことがない、そんな僕であったそれだけに単純に嬉しかった。


「それでは、次はどんな姿を・・・どんなシチュエーションを望まれますか?」
「う〜ん、そうだね・・・」
 僕が魔術師となってから僅かにまだ一日。そんな僕がここまで急成長できた理由には、僕がまだ駆け出しであったこと、そして、このサキュラの教育方針にあったのかもしれない。
 僕が新たに魔術の一つを習得する毎に、サキュラは僕が望む桜ちゃんの姿に変わって、僕が望んだ展開の要望を叶えてくれるのだ。ちなみにこれまでは(透明化、精神感応力を習得した際の)学園の制服の他に、(瞬間移動)でスクール水着、(部分硬化)裸エプロン、(使い魔召喚)メイド服と、僕の目を楽しませてくれている。またシチュエーションもバラエティに富み、恋人から・・・気を失わせての昏睡レイプと、マニアックな願望までと多岐に渡っている。
「と、その前にさ・・・」
「はい、マスター?」
「今の魔弾なんだけどさぁ・・・」
 そんな楽しみな一時のご褒美を前に、僕はふと抱いた疑問を口にせずには居られなかった。
「もっと凝縮させて撃ってもいいのかな?」
「と・・・言われますと?」
「あ、いあ。魔弾ってさ、手のひらを開いてから撃ち放つでしょう?」
 そう。それが攻撃魔術の基礎、魔弾である。確かに基礎とはいっても、そこに込められる魔力に応じて攻撃力は大きく異なるものだが、赤い球状であること、そして一定の速度は変わらない。
「それを・・・指先に凝縮させたら、どうかな・・・って」
 僕は何気なく突き上げた二本の指先に魔力を凝縮させ、サキュラに向けて再び解き放った。赤い球状の魔弾よりも凝縮されたそれは、細くも赤い亜光速の閃光となり、通常で放たれた魔弾とは雲泥の差な貫通力を示して・・・
「ま、マスター・・・わ、私を・・・殺す気ですかぁぁ!!?」
「ごめん・・・ま、まさか、ここまで・・・」
 僕はサキュラの糾弾のような抗議に萎縮する。魔弾を凝縮させた光線が、まさかここまでの破壊力を示すとは思わなかったのだ。しかも今のはただの魔弾を凝縮させただけであり、もしこれが渾身の魔弾であったのなら、どんな大惨事を引き起こしていたか、定かではなかった。



 正直、マスターの魔術に対する才能には、魔族である私でさえ舌を巻いていた。魔術の習得力も(ニンジン作戦が功を奏したこともあろうが・・・)異常ではあったが、その魔術の根幹から理解していく才能は、もはや驚異的とさえ言って過言ではない。
 たった今即興で完成させてしまった、赤い閃光魔術に限っても、そう。
 後にこれは『魔貫砲』と名付けられ、マスターだけの独自魔術として猛威を振るうことになる。
 魔力を凝縮させる分だけ、通常の魔弾よりも僅かに時間を要するが、それに見合った以上の破壊力と貫通力を秘めていた。
 そしていずれは『極限攻撃魔術・コズミック・ノヴァ』(圧倒的な破壊力を秘めた超圧縮光線(破壊力・SS)。剣士程度の霊力防御をなんなく突き破り、鉄壁の霊力防御力を誇る巫女でさえ防ぎきることは不可)へ、と発展していくことになる。

 思わず、そんなマスターとなった魔術師の素質に私は歓喜さえしていた。
 今回はマスターの望むイメージ通りに・・・めちゃくちゃ痛いけど!! それぐらいのご褒美を用意する価値はあろう。


 私は『固有結界・バトルフィールド』を解除する。
 破壊による周囲の影響もなく、また放出時の魔力が検知されることもない。マスターに巫女の身体を献上する、それより先に他の退魔師などに目を付けられる心配もない。そのため魔術の指導と訓練には、『固有結界』の中が最も適していると言えるだろう。
 周囲は中学生でも気軽に利用できるという、ラブホテルの一室に戻った。
 そのため料金はやや割高であったが、それに見合った以上の広さと設備が兼ね備えており、マスターから魔力の供給を受けることがなった昨晩から、ご褒美と称して、幾度もなくマスターの望む巫女の姿に変え、激しいまでの性交を営んだものであった。

 ちなみに今現在、マスターの習得した魔術は『魔弾』と先の『魔貫砲』のそれ以外に、『擬似透明化』『瞬間移動』『精神感応力』『部分硬化』『拘束魔術』『召喚魔術』『固有結界』『性魔術』とあり、あとは攻撃魔術のバリエーションを増やせれば、もう十分に魔術師と呼ばれる資格とその実力はあるだろう。
 まずマスターの独自魔術『魔貫砲』について説明しようか。

『魔貫砲』
 通常の・・・攻撃魔術の基礎である魔弾の球状を、更に一点だけに凝縮させて解き放たれたそれは、まさに亜光速の赤い閃光。その破壊力と貫通力は、およそ既に魔弾レベルではない。ただし、魔力を集中させてから、凝縮させる分だけ速射及び連射は不可能(※あくまでマスターの現段階でね・・・)

『擬似透明化・別名ミラージュ・コロイド』
 マスターの肉体を透明化させる魔術だが、幽体とは異なり、物理的な干渉は当然に受ける。また透明化させた後にその場から動くとズレが生じ、そのため視認されてからの透明化も効果は薄い。
 あくまでその場で静観し、やり過ごすための魔術といっていい。

『瞬間移動・別名テレポート』
 現段階では有効移動距離も短く、詠唱もやたらと長いため、移動手段としてはまず使えない。が、こちらは物理的な干渉を受けず、脳裏に浮かび上がった場所を任意で選んで移動する。

『精神感応力』
 対象の精神、記憶、情報を覗き込む。私が最初にマスターの記憶を覗き込んだあれであり、私が最も得意とする系統の一つ。またこれの応用で記憶を改竄したり、抹消したり、思考を誘導することも可能。(※後者の応用は頻度が高いと精神崩壊を引き起こす、その危険性あり)

『部分硬化』
 肉体の一部分を硬質化させる魔術。魔力によって硬度は変化するが、退魔剣士の武器具現化されたものは絶対に防げない。

『拘束魔術・別名サイコミュジャック』
 手のひらから赤い霧を発生させ、触れた者には一時的な全身麻痺を引き起こす。霊力に反発する性質を持っており、退魔師が触れても停滞はしないが、かなりの速度減少は免れない。

『召喚魔術』
 魔力を代価にして下僕となる物を召喚する。今でこそマスターにはまだ使い魔限定となるが、いずれは魔獣なども召喚できるようになるだろう。

『固有結界』※現在は低級のみ。
 マスターの思い描いた異世界の創造構築。
 本来の固有結界では、術者の魔力を向上、底上げさせるなどの特性を付けられるものだが、現段階のマスターにそこまでの技量を求めるのは酷であろう。だが、経験を積んで魔力の向上に努めれば、いずれは私の想像を絶する独自の異世界を作り出す可能性も・・・

『性魔術・性感上昇』
 私の性魔術は膣内に出された精液を魔力に還元するものであったが、男性であるマスターのこれは全くの別物である。(当然か)
 対象の性感を上昇させ、次第に発情化させていく。相手に密着しているほど効果は高い。ただし、退魔師など霊力によって護られている者には無効。

『性魔術・聖魔淫行』
 魔王様が最も得意とした魔術の一つで、この術式を展開している状態で、身体を繋げた相手と口づけ(つまり、キスハメ)をし、口内の舌と膣内の性器が接触した段階で発動。
 マスターから魔力が供給される代わりに、本人の意思に関わりなく、身体はマスターの性交に応じる身体となる。
 使用制限は一人限り。つまり目下『対 桜専用・性交用性魔術』ね。



 翌朝、日曜日の早朝・・・
 学生だけでなく一般の社会人にとっても休みであるためか、周囲は異常なのではないか、と思えるほどに静音で、穏やかなまでの朝であった。
「あれが水無月クンの・・・」
 僕は山の一つの向こうを遠望して呟く。
 険しい山道から長々として階段の長蛇が連なり、こうして遠くから眺めているだけでも気が滅入りそうな気がしてしまうのは、魔術師となる以前の僕が如何に、堕落した生活の日々を貪り続けてきた証明であろう。
「退魔師の家か・・・」
 以前から気にはなっていたのだが、こうして彼の家と知って拝めるのはおよそ初めてのことであった。だが、やはり退魔師の家ということだけのことはあって、大きな立派な外門の中に複数の道場から拝堂、本堂などといった施設が揃っており、それはまさに他を圧倒するかのような、威風堂々とする依然とした雰囲気だった。

「お気を付けくださいませ・・・マスター」
「ん?」
「退魔師家には必ずといっていいほど、結界によって護られているものですから」
 僕は可憐な美少女の姿をさせたその忠告に頷き、思わず赤面し横を向く。
 やばっ。もう少し見えそうなのに・・・その・・・
 今のサキュラの姿は、僕がイメージした桜ちゃんの私服バージョンであり、髪型も僕好みに少し変えてある。が、特に目を奪われるのは、その大胆なまでに短めのスカートであっただろう。さぞ本物の本人が見れば、顔を真っ赤にして羞恥してしまうのではないだろうか・・・
 それでも見えない、絶対に見せない、という、桜ちゃんの設定は忠実に再現されており・・・それだけに僕を激しく欲情させてしまうのであった。
「その結界とやらは、今の僕は当然としても・・・サキュラでも破壊はできないものなのか?」
「さすがに私一人では手に余る代物ではありましょう」
「・・・」
「ご命令とあれば、仕掛けてみますが・・・マスター、如何いたしますか?」
 僕は頭を横に振った。サキュラの説明によれば、結界に護られた退魔師家とは、ある種族と魔術師にとっては、まさに城塞であり、そこに魔族がたった一人で仕掛けたところで焼け石に水とのことである。
 ならば今ここで、こちらの存在を知られてしまうような愚はさけるべきであろう。
「では、水無月家周辺に使い魔たちを放ち監視させておきます」
「あ、サキュラ・・・それは僕がやる」
「しかし使い魔召喚などに、マスターの手を煩わせるのも、どうかと・・・」
 召喚した使い魔は現界しているその間、召喚者から魔力を供給することで従えることが許される。もっともサキュラに供給する魔力の量に比べれば、確かに使い魔程度への供給量はたいしたことはなく、サキュラがそれを受け持とうとするのは、主従という関係上、当然の流れではあっただろう。
 僕は僅かな短期間で魔術師となり、いくつかの魔術を習得した。サキュラの言葉を疑うわけではないが、こと魔術に関してだけは、確かに僕は優秀な魔術師になれるのかもしれない。
 こんな僕が、ね・・・
 だが、僕に実戦経験はなく、いざ戦闘ともなれば、今のところサキュラだけが頼みの綱となる。ならば彼女には極力、万全な状態でいられるようにすることが、今の僕にできる役割であろう。

「まさか、そこまでのご配慮をしていただけるとは・・・ありがとうございます。マスター」
「い、いや・・・そもそも分不相応を承知の上で、桜ちゃんを望んだのは、僕なわけだし・・・」
「マスターの望みは、マスターの下僕である私の望むところであります。そしてその私のマスターが望むのです、分不相応ということもありません」
 サキュラは自らの身体に触れ、ゆっくりと微笑する。
「偉大なる私のマスターに望まれた、ともあれば、この本物の桜の身体・・・桜の『聖杯』は、マスターにこそ相応しいものでありましょう」
 桜ちゃんの姿をした者に言われれば、こんな僕としても不思議と自信となるものである。
 僕は手を突き出し、召喚する生物をイメージする。水無月家が外門と結界で囲まれている以上、イメージする生物は鳥などがいいだろう。その生物は常に水無月家を監視し、異常があれば視界を通して僕の脳裏に流れ、映像を記憶しておくこともできる。
 来いぃっ!
 僕の心の中の気合に応じて召喚されたのは、雀の姿をした使い魔が八羽、夜間監視用の梟の姿をした使い魔が四羽となる。それらを飛び立たせ、水無月家の周辺に配置させていった。

「それで、サキュラ・・・それほどに巫女の『聖杯』というものは凄いものなのか?」
「それは中川桜が退魔巫女である・・・と判明した今、魔族である私が保証するところであります。マスター」
 と、サキュラは断言をした。
 桜ちゃんが退魔巫女である、という確定情報は、意外と簡単に手に入った。
 僕の担任であった教師は、クラスメイトの水無月クンが退魔剣士であると教えてくれるのと同時に、その巫女が桜ちゃんであるとも快く答えてくれたのである。
 サキュラの得意とする洗脳魔術によって・・・ではあるが。

「では、今日はこれで帰ろう」
「はい、マスター」
 僕はこの場を離れる際に、今一度、水無月家に振り返ってみた。


 桜ちゃん・・・
 別に僕の子供を生んでくれ、とは言わないよ。強制でも、無理矢理に・・・いや、形だけでもいいから、僕の妻になって欲しい。叶うことなら、ずっと僕の傍にいて欲しい。そのためになら僕は、なんでもするつもりだった。
 それは嘘偽りのない、本当の僕の気持ちである。

 奇しくもこのとき、丹後半島にある駅前で桜ちゃんは水無月クンにプロポーズされ、形式上は(まだ十二歳のため)ともかく、事実上の水無月クンの妻となり、感涙によってそれを受け入れていた。

 僕がそんな桜ちゃんの『聖杯』を手に入れる、ということは・・・それはきっと彼女が望まぬ形であり、僕と結ばれるのには、強姦によるレイプ。きっとそれしかないのだろう・・・
 きっかけは何でもいい・・・
 僕なんかが望んで、待っているだけでは絶対に叶うはずがないのだから。
 でもね・・・

 それが叶えば・・・僕は無償で彼女を生涯、愛することだろう。


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