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第三話・魔【 忘れ去られた魔女 】
深い森林が繁った山奥の山中に生暖かい風がよどみ、漆黒の羽を身に纏った鴉たちが一斉に飛び去っていく。
『困ったわねぇ・・・』
その飛び去っていった鴉の姿を尻目に、ヒビ割れた石から吐息が漏れた。
ここの地は数十年前、精霊使い・・・俗称では、退魔師と呼ばれる人間たちと魔族の一派が激戦を繰り広げた戦場跡であり、そのせいもあって普通の生物は寄り付くことさえもなかった。
それだけに自殺の名所の一つ、と呼ばれる由縁にもなったのではあるが、わざわざこんな辺鄙な山中の山奥にまで到達する必要はない。首を吊ろうとする自殺志願者は、ここに到達するそれ以前に、首を括っていることだろう。
『本当に困ったわ・・・』
再びヒビ割れた石から吐息・・・というより、思念の声が漏れた。
この石はただの石ではなく、退魔師が魔物や妖魔などを封じることに用いられる封印石であり、今朝の地震によって石に亀裂が生じたものであった。
ここで退魔師に封じられたのは・・・そして、封じられたまま忘れ去られてしまったのは、未来の偉大なる魔女（自称）であるサキュラであった。
封じるだけ封じておいて、その後は忘れ去られるって・・・そんなの、かなり酷い話ではないかぁ！
と、サキュラが嘆きたくなるのも無理もなかったことであろう。
だが・・・
先にも触れたが、当時は魔族と精霊使い・・・退魔師とはまさに熾烈な激戦を繰り広げていた戦争状態であり、また魔王が最前線で大暴れしていた最中の出来事なのである。
『その魔王様もやられちゃったみたいだし・・・』
というサキュラでさえ、魔王のことを詳しく知っていたわけではない。ただたった一人の退魔巫女に執着して、その巫女を手に入れるがために戦争を引き起こした、との噂は魔族の間にも有名な話ではある。だが、その魔王もその巫女の剣士に逆襲され、打ち倒されてしまったらしいのだが・・・
その魔王のせいもあって、サキュラのような比較的小物な魔族が忘れ去られてしまったわけではあるのだが・・・
そんな折、今朝の大規模な地震によって、封印石が欠損してくれたことは僥倖というべき事態ではあっただろう。だが、肝心のサキュラの魔力はガス欠状態であり、この封印石から脱出した後には、小一時間として現世に留まっていられることはできないのである。
まだ魔王が健在であったのなら、たとえその魔王が何処にいようとも、魔力の供給を受けられたことであっただろうに・・・
『あ〜、もう！ 本当に困ったわぁ・・・』
と、途方に暮れることしかできない、ある意味、本当に可哀想な魔女であった。
だが、サキュラこと私にとっては、遂に絶好の好機が訪れようとしていた。
「うわっ、な、なんだ。樹木かよ・・・脅かさないでくれよ・・・」
既に陽は落ち、周囲の一帯は真っ暗闇である。こんなところに迷い込んでくるところ、およそ山道に入った迷子か自殺志願者のどちらかであろう。
（前者でも、後者でもいい・・・特に後者なら、もう死ぬんだから、たっぷりと魔力を頂いちゃっても構わないよねぇ〜）
学生の制服を身に纏い、体格はどちらかというと細めだが、貧弱なガリガリというわけでもなく・・・その分、顔の容姿はとても残念ではあるが、後数年もかけて渋みと自信を加えれば、人間的にはまずまずといったレベルではないだろうか？
まぁ、この際、私にとって容姿は関係ない。要はきちんと魔力さえ補填できれば、選り好みしていられる状況ではなかったのだ。故に私は素晴らしいばかりの笑顔で微笑む。
さぁ、いらっしゃい〜♪、と。
「あああ、もう僕は終わりだぁぁぁ・・・」
あんな凄まじい形相を浮かべた彼を見たのは初めてであったが、まさか僕に指を向けて、僕に向けられてくるなんて・・・
『いいかぁ！！ あれは俺の女だぁ、手を出す奴は俺が殺す！』
今でもあの時の光景が、その時の叩きつけられた言葉が何度も木霊する。
これまでの水無月クンは他の生徒とは異なり、僕に危害を加えることはない珍しい人物であった。そしてもう一人、荒川たちにリンチされて立ち上がれずに居た僕に手を差し伸べ、保健室まで優しく応じてくれたのが、中川桜ちゃんであった。
もし、水無月クンとあの桜ちゃんが交際している、って知っていたのなら、僕とてお似合いのカップルだと祝福していたことだろう。まして恩人でもある水無月クンの彼女から、ジャージを盗んでくるなんてこともなかったはずだ。
「・・・死のう・・・」
それが放課後から、何度も頭の中で迷った挙句に出したたった一つの答えだった。もし明日から水無月クンの保護がなくなれば、僕の人生は荒川たちによる地獄の連鎖となり得よう。それだけならまだいい・・・もう暴行を受けることには慣れた。でも、その水無月クンと桜ちゃんに詫びる意味でも、僕なんかは・・・
「死んで詫びたほうがいい・・・」
そもそも、僕・・・間藤圭一は生まれて来なければ良かった存在であった、と自分でさえそう思える存在である。趣味はアニメとゲームだけで、周囲はアニオタと嘲笑し、常にポシティヴに生きているように思われがちだが、実は誰よりもネガティヴな思考と、周囲のそれ以上に自身の愚かしさを理解しているのである。
僕には父と母、兄や姉、弟に妹と、家族と呼べる全てが揃っていたが、そのいずれにも好かれることは・・・そもそも家では存在として認められていなかったのだ。それに比べれば、学園内で嫌われ、暴力を振るわれている方がまだ気楽でもあった。
そこに僕、という存在は確かにあったのだから・・・
そして今春、僕は初めて・・・アニメや漫画のキャラクター以外で、リアルな人間に魅せられることになった。先にも述べた中川桜ちゃん、さっきまでは知らなかったけど、水無月クンの彼女である。
僕は一目で桜ちゃんに心を奪われた。無論、高嶺の花であることは解っている。彼女のような存在と付き合える可能性なんて、奇跡を千個用意しても不可能ではあろう。
（今思えば、本当にお似合いの素敵なカップルだよね・・・）
だが、明日からはその水無月クンも僕を侮蔑するであろう。いや、以前から軽蔑はしていたのであろうけど。それだけならまだしも、事の真相を彼女に伝え・・・あの桜ちゃんまでが、僕に冷たい目を向けてくるのだとしたら・・・
今、死んで詫びれば・・・少しは同情してくれるかな？
『ねぇ、聞いてる？ その、聞こえてる？』
「え？」
深い無人のような森林の中で声をかけられ、僕は驚き、慌てて周囲を見渡してみる。が、無論、そこには誰も居ようはずがなかった。
「ま・・・こんなところで、女性が僕なんかに話しかけて・・・」
『その死ぬ前にさぁ・・・』
「！！？」
やはり、幻聴なんかでもない。何かが僕に話しかけてきている。この暗闇の森林の中、姿は見えないけど・・・それは間違いない。
『気持ちいいことしてみない？』
「気持ちいいこと？」
『そう。気持ちいいこと・・・』
そう言われて一番に思いつくことといえば、やはり定番のあれであろう。
『そうよ、それよ・・・私とセックスしてみない？』
思わず僕はたじろいだ。当然であろう。僕はその・・・当然、童貞であったし、ましてこんな場所で、今にも死のうと思っていた矢先のことである。そんなゲームやアニメの世界のように都合の良い話なんてあろうものだろうか？
「す、姿を現せ・・・僕をからかって、何が楽しい！」
『あらぁ、からかってはいないわよ。それに姿を見せられるのは、貴方が私を抱くと決めてくれてからよ』
「・・・」
僕は迷った。既に死のうと思っていた身だ。今更、どんな死に方でも拒むつもりなんてなかったし・・・その、できれば余り痛くない死に方のほうがいいけど・・・つまり、この呼びかけに応じるだけでも・・・と思わなくもない。
僕は今一度、ゆっくりと何一つ変化がない周囲を見渡した。
まだここに訪れた初めての訪問者からの返答はなかった。
姿を見せることはできなくもないが、彼に抱かれることがないと私の魔力はすぐに尽きて、現世に留まることさえできなくなる。
『困ったわねぇ・・・』
「い、いや・・・ＳＥＸしてもいい・・・けど・・・」
『本当に？』
これは気が変わらないうちに姿を見せるべきかしらねぇ？
「ああ、どうせ自殺しようと思っていた身だ・・・誰かは知らないけど、ＳＥＸさせてくれる、っていうなら・・・」
『契約完了ねぇ〜♪』
私は残り少ない魔力を消費して、私を閉じ込めていた封印石の残骸を退け、およそ十数年ぶりの現世へと蘇る。私の細長い腕があり、美脚というべき足があり、ナイスバディな胸があり、そして漆黒の羽がある。
その私を目の前にした少年の第一声が・・・
「なんだ、コスプレ姉さんかぁ・・・」
ガクッと私は前のめりに倒れかけそうであった。
「できれば、もっと可愛い子が良かった・・・」
私の美貌を見てから、な、なんですってぇぇ！？
これから死のうとしている人間がなんと贅沢な思いであろうか、とも思ったものだが、抱く者も抱かれる者にも雰囲気というものは必要なものである。
「できれば、処女で・・・」
『はいはい、解りましたよ。貴方の要望、全て叶えてあげるわよ』
全く、余計な魔力を消費しちゃう。
『その代わりに一つだけ条件があるわよ・・・絶対に膣内出ししなさいよね』
「えっ？」
えっ、じゃない。でなければ、私だけやられ損であり、魔力はあっという間に尽きて消滅してしまうことであろう。
『少し貴方の頭を覗かせて貰うわ・・・理想的な子だけを思い浮かべていなさい』
私は右手の人差し指と中指に魔力を集中して、目の前の人間の額に触れる。そして・・・人間の思考を、情報を、記憶を覗き見る。
名は間藤圭一、と。
・・・うわっぁぁぁ、これは悲惨な人生ねぇ。・・・って、いうか、これまでこれで良く絶望せずに生きていられたわねぇ。ある意味感心しちゃうかも・・・
『！！！』
あう。これは負けた・・・
圭一が思い浮かべた少女は確かに、私の目からしても可愛いらしかった。いや可愛すぎるわよぉ、これ・・・巫女の中にでもこれほどの・・・って、ああ、この娘は退魔巫女かぁ・・・なるほど、なるほど。名前は桜、えっと中川桜、と・・・性格は、と・・・ふんふん。なるほどねぇ。
さすがに唯一に気になっている少女とあって、圭一も良く観察していることもあり、中川桜の情報は事欠かない。もっとも会話があったのは、一、二度だけのようで、それも「大丈夫ですか？」「今、保険医の先生をお呼びしてきますね」程度のことである。
それだけで圭一が惚れるのも単純といえば単純といえるが、これまでの経歴を知ってしまった今では、それも無理はないわね、と思ってしまう。
そして今日・・・恐らくはこの巫女の剣士とも思われる、水無月光一とのやりとりを私の知るところとなる。
次は圭一が望む設定は、（まぁ、巫女なら当然でしょうけど）処女。しかも排卵日当日（笑）孕ませる気まんまんって、なわけねぇ。
『もう目を開けてもいいわよ・・・』
「・・・はぁはぁ・・・一体、僕に何を・・・あんたは一体！？」
私は圭一の頭脳との接続を終え、ゆっくりと微笑む。
『初めに言っておくけど、退魔巫女の処女膜は特殊だから、そこまでの複製は不可能ね・・・』
退魔巫女にとって純潔とは、まさに生命の次に必要不可欠となる大切なものである。それだけに処女性の象徴でもある処女膜は丈夫であり、これを突き破る方法は二つしかない。一つはまさに力任せ・・・あくまでペニス限定で、それで強引に突き破る従来の方法ではあるが、これは巫女だけでなく、挿入者となる男側にも相応な痛みを強いられることであろう。
もう一つは巫女自身が認めた男であった場合である。このケースならば、巫女の処女膜も一般の女性におけるそれと同じとなり、男は難なくと巫女の処女地を貫くことが許されるのだ。その最たる例が、退魔剣士と結ばれることが許される『降臨儀式』ではあろう。
それに巫女の身体は『聖杯』と呼ばれるほどの、自分の剣士を楽しませるための極上の器（名器）であり、体内で精製される体液は、その剣士に捧げるための『聖水』とも呼ばれた愛の雫でもある。
これは儀式によってのみ誕生した巫女特有のもので、如何に魔族の私であろうとも、複製することは絶対に叶わないことであろう。
「た、退魔・・・巫女って！？・・・」
『ま、年齢からして、まだ見習いなんでしょうけどね・・・その辺は後で説明してあげるわよ』
圭一との頭脳接続によっても確認できたことではあるが、この世に退魔師という存在は一般的にも認知されているものの、その退魔師世界の仕組みについては曖昧なままのようであった。
『それから勿論、貴方のイメージを元に復元することになるから、こちらも完璧というわけにはいかないわよ』
「な、何を言っているんだ、さっきから・・・」
『でも、貴方の要望通りに処女・・・だから、好きなように破瓜して、好きなだけ膣内に注いじゃっていいわよぉ〜』
私はいよいよ残された最後の魔力を振り絞って、相手が望む世界『固有結界・ラブリードリーム』を展開する。
『固有結界』とは指定した空間に、自らが創造して再構築された別世界のことをいう。また固有結界にはいくつかの系統にそして種類が存在したりして、展開した術者の用途、目的によって大きく異なっていくことになる。
例えば戦闘系列でも、術者の能力を底上げ（魔族のみが使用）できる『バトルフィールド』に、戦闘における被害を周囲に及ばさないよう、退魔師などが使用する『戦闘用空間』などがある。
特殊な儀式などに用いられる（主に退魔師が使用する）儀式系列においても、本番が可能な『降臨儀式』から、あくまでも性的接触だけまでが可能、という結界も存在する。
結界内の時間という概念を歪める時空系列（大雑把に言えば、一分間が一時間に、または一時間が一分間に、というわけ）
結界に新たな幻想を用いて構築する特殊系列・・・今回、私が使用する固有結界は、これに属することになる。
『固有結界・ラブリードリーム』は、相手（圭一）がその異性（桜）と逢瀬をするとして、もっとも望ましく、もっとも可能性の高い場所を再現させられる異世界のことである。勿論、色々と制限があったり、制約があったりはするんだけど・・・
『では、圭一は・・・どのような場所で私を抱いてくれるのかなぁ？』
既に私の身体ではない私が、明らかに私の声ではない私の声が、ゆっくりと圭一が思い描いた世界に溶け込まれていき・・・
「くぁ、一体・・・何なんだよ・・・って、ここは・・・」
僕はゆっくりと立ち上がって周囲を見渡すと、そこはもう先ほどまで居たはずの深い森林地帯ではなく、日常から物凄く見慣れていた光景でもあって、思わず唖然とせずにはいられなかった。
「こ、ここは・・・東洋学園の、僕の教室・・・？」
ま、間違いない。しかも窓から見える景色は夕刻のそれであり、今の時間と大きく・・・僕は自分の腕時計を見て、夕方の六時に針を刺す時計に思わず仰天していた。
じ、時間が遡っているのか・・・？
『間藤先輩・・・お呼び出しして申し訳ありません・・・』
「えっ、あ・・・」
小柄ながらも健康的な細めの華奢な身体。背中で一つに纏められた艶やかな黒い長い髪。瑞々しいまでに張りのある肌。見れば誰でも振り返ってしまうであろう整った顔立ち・・・
それは学園のアイドル的な存在にして、僕が初めてリアルで興味を示すことができた唯一の存在、中川桜・・・桜ちゃんであった。
その彼女が・・・僕を呼び出す？
一体、何のことであろうか・・・
『その、水無月先輩が・・・間藤先輩に暴力を・・・』
「ああ、でも・・・それは・・・」
あれは僕が君の私物を盗んだことが元凶であり、その非は全てに僕にこそある。水無月クンが怒ったのは当然のことであったし、ましてこのことで桜ちゃんが謝罪する必要はまるでなかったはずである。
『でも、暴力は、いけないと・・・思います』
あれを暴力、と呼んでいいものかどうかは人によって異なるものであろう。少なくとも僕自身、水無月クンに殴られたことと、荒川たちに殴られてきたことは全く別次元の出来事だと解釈している。
教室を出入りできる唯一の扉に『カチリ』と鍵を閉め、桜ちゃんはゆっくりと踵を返す。そして・・・ゆっくりと僕の視線を受け止めた。
『その、お詫びに・・・わ、私の身体で・・・』
途端に真っ赤に羞恥する表情を俯かせて、制服のスカートの裾を掴む。
「んっ？」
『私の身体で・・・つ、償いをさせてください』
「え、と・・・それって・・・」
『だ、抱いてください』
彼女は駆け出し、思わず僕は彼女の身体を受け止めていた。
ありえない、これは絶対に夢だと思った。あの桜ちゃんが・・・こんな僕に対して、そんなことを口にするはずがない。だが、小柄な身体を受け止めた質量は本物であったし、鼻腔をくすぐった香りはまさに桜ちゃんの香りそのものである。
「でも、水無月クンは君の・・・」
『先輩には黙っています・・・』
「ほ、本当にいいんだね？」
なら、夢なら夢でもいいし（できれば、終わりまで醒めないで）・・・何かの間違いでも一向に構わない。彼女は人をからかうような性格ではなかったし、彼女が外見だけの偽物でもいい。教室の鍵は確かに閉まっているし、誰も来るような気配すらなかった。
今なら、ヤレる！！
例えここで『ドッキリ』でしたと言われても、他の人が教室に入ってくるまでには多少の時間を要することであろうし、桜ちゃんがここから抵抗を試みたとしても、所詮は小柄な少女である。いくら僕が貧弱だといっても力負けをすることは決してないだろう。
僕は並べた机の上に彼女の小柄な身体を押し倒すと、スカートの中に手を偲ばせて、真っ白な純白のそれをゆっくりと引き摺り下ろしていく。そして徐に両股を開脚させて・・・穢れのない性器を曝け出させて貰う。
「本当にいいんだよね・・・」
『つ、償いですから・・・間藤先輩の好きなようにして、ください・・・』
僕は桜ちゃんの股間を凝視して、ゆっくりとそれを広げつつ、鼓動が高鳴りながら鼻息が荒くなっているのを自覚する。僕は今、確かに偽物であるのかもしれないけど・・・あの桜ちゃんを擬した美少女の、あそこを直にじっくりと眺めることができているのだ。当然ではあろう。（※かなり動揺中につき、真実を口走っています）
僕はじっくりと桜の膣内の香りを楽しみ、そしてゆっくりと舌を這わせて、その付け根に触れると少しずつ、桜ちゃんの味を噛み締めてみるのであった。
男を・・・まして、一般人である人物を誑かすことほど、私にとって容易なことはなかっただろう。既に圭一は私の似せた中川桜の身体に血走りながらも凝視し、既にこの身体の虜であった。それも無理はない。どんなに高潔な男であろうとも理想的な女性の身体には無関心というわけにはいかないのだから。
『くっ・・・んんっ・・・』
私に誤算があるとしたら・・・圭一の愛撫が極めて上手であったことだろうか。確かに圭一は童貞であり、これまでにキス一つしたことがない未経験者であった。だが、ゲームやアニメなどを通じて知識だけは異常なまでに豊富であったし、それだけに女体の僅かな変調にも鋭敏で、次の責め手も的確なまでに女の弱点をついてくる。
もし・・・これで経験を積ませたら、一体、どれほどの色事師に化けることであろうか？
思わず『ゾクッ』としたのは、そんな圭一の未来を想像したからであり、また圭一の的確な愛撫によって軽く達してしまったからであろう。
恐らく本物の桜は巫女であり、これほど性感は良くはないのだろうが・・・それにしても、この人物の愛撫の上手さには舌を巻かずにはいられなかった。だが、それ以上に私を驚嘆させたのは・・・
『む、無理・・・』
あ、あんなのが入るわけがない！
圭一の曝け出したペニスに・・・私は顔面を蒼白させずにはいられない。基本的にこの仮初の身体には、明らかに彼の巨根は規格外なのである。
あんな大きなものを入れられたら・・・
この身体が、本物の巫女である桜の・・・剣士を喜ばせるという『聖杯』であったのなら、どれほどの巨根をも受け止め、壊れることも裂けることもなかっただろう。無論、相応の激痛は伴うことであろうが・・・
また私の従来の魔族の身体であったのなら、魔王のデカチンであろうとも受け入れられる自信がある（と・・・思う）少なくとも、人間である圭一に壊されるような、やわな身体ではない。
ついでに今のこの仮初の身体がここで壊されようが、膣口が裂けることになろうとも私は一向に構わない。またイメージして復元すれば元通りとなろう。だが、今、この仮初の姿で受ける破瓜された激痛と、肉体を損なう痛みはもろダイレクトに、私へと与えられることになるのだ。
『い、痛いぃぃ・・・』
駄目、無理！ 痛い！ た、助けて・・・さ、裂ける・・・って！！
ブチブチッ、と膜を一気に突き破り、尚もミチミチィと私の膣内を抉ってくる圭一。夥しいばかりの鮮血が私と圭一の結合部を真っ赤に染める。
「す、すごい締め付け・・・き、気持ちいいよ、桜ちゃん・・・」
『い、痛っ・・・まっ、てぇ・・・し、んぅじゃう・・・』
「まだまだ、は、入るよ・・・き、気持ち・・・良い・・・」
彼が童貞であったという事実は、私にとっては最悪な状況に拍車をかけており、また今の私の姿が中川桜ということで歯止めも利かない状況である。圭一が全てを突き込んだときには、既に私の今の身体の子宮を圧迫しているほどの深さであり、私には悶絶することだけしか許されなかった。
「い、行くよ・・・」
「ッ！！！」
懸命に頭を横に振ろうとしたが、破瓜された苦痛に歪ませた表情が圭一を更に高揚させてしまったのか、こちらの意思にはお構いなし。私にとってはまさに、地獄のような性交の始まりであった。
圭一はまさに童貞らしく、荒々しい腰使いで私の身体を突き上げ、私の膣内を抉り続けていく。見た目はともかくとして、素材はかなり優秀なものを持っているのだから、鍛えれば後日に恐ろしい男になれたことだろう。
無論。彼に後日という未来があれば、の話ではあるが・・・
だが、とにかく今の私は、膣内から圧迫される耐え難い激痛と、膣内を引き摺り出されるような悶絶に耐え凌がなければならなかった。この時間が思いのほか短いもので済んだのは、圭一が童貞であり、がむしゃらに腰を動かし続けてしまった、経験不足を露呈した結果であっただろう。夥しいばかりの濁流が私の膣内に流され、私は即座にそれを魔力へと変換していく。
そこで私は一番の誤算（今日、何度目ぇぇ〜？）が起きていた。圭一の精力が濃厚に過ぎて、魔力への変換が間に合わず・・・
（い、いけない・・・このままでは、ほ、本当に・・・妊娠してしまう！）
魔族（あくまで人型ではある）が人間の胤を宿すことはない、と思われがちだが、それは大きな間違いである。そもそも人間の女が魔族の胤を宿し、出産できる以上、その逆も然り。魔族も一定の周期に人間の精を受ければ、妊娠することが可能なのだ。
その結果・・・今の私の子宮にある卵子、その五個全てが圭一の胤と結びついてしまい・・・私の妊娠は確定事項となってしまっていた。
森林地帯に戻った私は、至福な表情で意識を喪失させている男の身体を押し退け、ゆっくりと立ち上がった。既に仮初の巫女の姿ではなく、私、本来の肉体である。
「あ〜あ、不味ったわね・・・」
妊娠か・・・
魔力の補給は無事に成功したものの、それに支払った代償は大きかったと言わざるを得ないだろう。まぁ、とりあえず最低限（性魔術）の目的は果たすことができたわけだし、これから殺すことになる圭一の子を出産してやれば、この男も思い残すことはないだろう。
「それじゃ死んで貰おうかしらねぇ・・・」
意識のない今なら、この男も至福の幻想に囲まれたまま、あの世に行けることだろう。
指先に魔力を集中させて魔弾を作り上げると、意識のない圭一に向け・・・今なら一瞬にしてこの男を屠り、この一帯を吹き飛ばすことも可能であろう。だが、私は三つの理由でそれを断念せざるを得なかった。
順に説明していくとしよう。
最初に、人間とはいえ一度だけでも身体を重ねてしまった、圭一の肉体的な素材が余りにも惜しい、と思ってしまったことが挙げられる。そう、私はこの男を・・・少なくとも、今は殺したくはなかったのだ。
「ん・・・」
「少し痛むけど、我慢してね・・・」
私は圭一の首筋に口元を這わすと、ゆっくりと噛み付いた。小さな牙が彼の首に食い込み、幻想の至福の中にあった圭一の表情が僅かに歪む。それでも結界内で受けた私の激痛に比べれば、生優しいものであっただろう。まして今の圭一は無意識で、私に噛まれたことなど気付かないほどに。
次に気付いたことは、彼の祖先のことである。
「やはり母親のほうは、三代先の母方が魔族に犯され、その子宮は魔力の呪いを帯びていたみたいね。しかも圭一の父親は・・・父親だけが違う。これは人間の姿をしていても人間ではないわ」
恐らく圭一の母親は・・・浮気か強姦によってか、は定かではない。が、知らずに人間の姿をした妖魔と肉体関係を結び、そこに生まれてきたのが、この圭一であったのだ。
すなわち間藤の家族には人間でありながら、いずれにも魔族の血が流れており、圭一がそれを一番濃く受け継いでしまったのであろう。だから人間の一般的な社会には適合できずに、普通の人間たちとは一線を画していたのかもしれない。
と、思うのは・・・私の思い込みかもしれないが・・・
「うっ・・・」
「お目覚めの気分は如何でしょうか？」
結界が解けてこともあり、どうやらお目覚めの様子であった。
そして私の三番目の理由・・・これが一番の最大な理由であっただろう。
「我がマスターよ」
二番目の魔族の血を濃く継いでいた、という理由にも重なるが、マスターとなる魔導師としての才能を元々から持ち合わせていたようであった。その力の起源は『吸収と増幅』であり、魔族の私と性交を行ったことで・・・魔力に目覚めたようであった。
今ならはっきりと感じることができる。
マスターには私から吸収した魔力があり、そしてそれを増幅させることで、私への供給ができる存在となっていた。
「こ、ここは・・・さ、桜ちゃんは・・・」
「やはり、巫女の身体をお望みですか？ マスター」
「えっとお前は・・・」
私はこの時点でやっと、自分がまだ名乗りさえしていなかった無礼に思い至る。まぁ、私の魔力が切れかかっていた切迫の状況であったわけだし、何より圭一は私のマスターとなったばかり。多少の手順の違いはこの際、致し方のないことであろう。
「私は貴方様の忠実なる下僕となります、サキュラとお呼びくださいませ」
「さ、サキュラ・・・ただのコスプレ姉さんじゃ、ないのか・・・」
「私はマスターの知識の中にありました、魔族・・・闇夜の眷属とも呼ばれる種族であります」
これは早速、魔力を放出して証明してみせる必要があるだろうか。だが、意外なほど圭一は私を魔族として認識し、以前とは異なる自身の存在に戸惑ってもいるようであった。
「僕が魔術師・・・では、こ、これが、この力が魔力か？」
「はい」
まだ駆け出しともあって、魔術の一つも使えないマスターではあったが、それはこれから指導していけばいいだろう。
「マスター、それではかねての約束通り・・・巫女の身体について、私の知る限りのことをお伝え致します」
巫女の身体を・・・桜、という少女の身体を、本当の意味で味わい尽くすためには、その巫女の剣士となるか、もしくは巫女に抱かれてもいい、と思わせることが肝要であった。でなければ、分厚い処女膜によって阻まれ、それを突き破ったところで、挿入者にも相応の激痛と苦痛でしかない性交を強いられることになる。
巫女の身体が、剣士の『聖杯』と呼ばれる由縁でもあろう。
「ただ残念ながら、マスター・・・恐らく、水無月という人物が、この巫女の剣士と思われます」
「水無月クンが・・・桜ちゃんの、剣士・・・？」
まだ断定はできない。マスターの記憶には観察した桜の情報は多くても、この水無月という少年の情報は、それに比べて余りにも少なかったのだ。
「この水無月光一という人物に使い魔を放っておきましょう」
「・・・桜ちゃんが巫女で・・・水無月クンが・・・その剣士・・・」
巫女はたった一人の剣士にしか霊線をつなげることができない以上、この剣士を殺害するそれ以外に剣士の空席が生じることはない。それ故に巫女に『抱かれてもいい』と思わせることのほうが現実的ではあろう。ただし巫女の身体はその処女膜と同様に、膨大な霊力によって護られており、特に対魔力への抵抗値が半端ない。魔族である私でさえもその防御壁を前には、攻撃魔法で傷を負わせることも、洗脳することも不可能であろう。
だが、もし仮に桜という少女に『抱かれてもいい』と思わせることができたのなら、本来は剣士にのみしか与えられない『聖杯』が・・・最高の快楽と快感による極地が、男に（マスター）に約束されることになる。
「幸い、この桜という巫女の性格ならば、十分に付け入る隙がありましょう」
剣士への想いを逆手に利用する手段がある。もしくは剣士を窮地に追い詰めて、助命を条件に、その見返りとして身体を差し出させる方法でもいい。とにかく僅かでもその男に『抱かれる』と、桜に認識させて・・・巫女の身体を守護する精霊たちを黙認させられればいいのだ。
「問題は如何にこの剣士の妨害を退け・・・また無力化させ、窮地に追い込むか、というところでしょう」
「水無月クンを、戦闘で追い詰めて・・・桜ちゃんに迫る・・・」
マスターの言葉に私は頷いた。
私のマスターとなった圭一の（体力、運動神経的なことも含めての）素質、及びその起源が『吸収と増幅』である以上、遠距離からの攻撃が主軸ということになろう。
私自身も接近戦は苦手ではないが、決して得意だ、というわけでもない。まして武器の具現化ができるとされる剣士ともなれば、それを相手に接近戦を挑むというのは、もはや無謀というものであろう。
出産を今日明日に行うにしても、いくら魔族の成長が早いとはいえども、誕生したての子供らでは戦力にもなりえないだろう。
近接タイプの魔獣を数体ほど召喚しておこうかしら・・・
それには今の魔力だけでは少し心許ない。が幸い、桜の姿を借りれば、マスターは喜んで魔力を補給してくれることであろう。それによってマスター自身の魔力が（吸収と増幅によって）更に強化され、性交に及ぶ男としても磨かれるともなれば、一石三鳥ではないか。
ただ・・・その際はこっそりと、少し大きめにイメージしよう。もうあんな激痛はごめんだわ。
かくしてこの京都の地に、退魔戦争と呼ばれた戦争以降、初めて魔族とそのマスターとなる魔術師が揃うことになる。
また一方の退魔師側においても、後に不世出の剣士とも呼ばれ、史上最年少にして退魔剣士となる少年が、いよいよその頭角を現しつつあった。
そして今、この京都の地にもう一人・・・
退魔師結社からも危険視された万夫不当の退魔剣士の姿が・・・
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