第序話『WHITE
ALBUM』
『white album』・・・
それは今の時代、その名称は二つの意味を持つ存在となっていた。
一つは今から十五年ほど前に、芸能音楽業界において鮮烈にデビューした『森川由綺』のデビューソングにして、もはや冬の定番曲としても定着している名曲
でもある。
冬の時期なら、きっと誰もが街中で一度は耳にするぐらいに。
・・・ちなみに、俺が自分のお小遣いから、最初に買ったCDでもある。
・・・・。
まぁ、それぐらいに定番な、十余年が過ぎた今でも決して色褪せない、物静かな美しい旋律なんだよ。
・・・余談となるが、この名曲は、十年という歳月を越えて、一つの奇跡的な出逢いを引き起こすことになる。場所は『峰城大付属高校』の・・・その第一音
楽室、第二音楽室、そして屋上と。
・・・奇跡的、って言うのは、さすがに大仰か、な?
ははっ。
でも、それが俺たちの一生までも動かしてしまったのだから、やはり奇跡的であり、そして運命的な瞬間だったのだろう。
・・・・。
俺は今でも、当時のことを鮮明に思い出すことができる。
・・・・。
一時は余りにも辛い記憶だけでしかなく、心の奥底に封印したい、なんて思い悩んだりもしたものであったけど・・・
第一音楽室には、学年主席にして優等生な、稚拙なまでのギター。
当時の俺が唯一まともに弾けた(それでも下手くそだったけどな・・・)『white album』を奏でる。
その稚拙なギターを正しく導くような、完璧な旋律を奏で続けてくれた、第二音楽室のピアノ。
そしてそのセッションに乗せられて、発せられた・・・まるで天使のような美しいまでの声量。
これが後に・・・『付属祭ライブ』における、伝説ともなった『峰城大付属軽音楽同好会』の・・・その初めての邂逅だった。
ギター歴一年にも満たない、万年委員長な俺、『北原春希』と・・・
音楽科を首席で入学し、国内のピアノコンクールでは優勝したこともある、孤高の天才『冬馬かずさ』・・・
そして付属高校では初の快挙ともなろう、『ミスコン』三連覇も間違いなしと評された、絶世の美少女にして学園のアイドル『小木曽雪菜』
確かに俺たち『三人』は・・・この『white album』によって出逢って、一つの人生の転機ともなったことは間違いなかった。
それが良くも、そして・・・
・・・悪くも。
・・・・。
そして、もう一つの『white album』とは・・・
その『峰城大付属軽音楽同好会』が発足して、『付属祭』の日をもって解散してから、その五年後のことだった。
俺は大学のバイト時代からお世話になっていた大手出版社『開桜社』に就職し、多忙なまでの仕事量に埋没されそうな日々の中、遠い欧州でも天才ピアニスト
として名を馳せて、凱旋帰国ともなったあいつの・・・『冬馬かずさ』の写真特集に付録されたミニアルバム・・・三倍増に増版されていたのにも関わらず、書
店では発売当日に完売続出とさせてしまっていた・・・それこそが、俺たちの出逢いの原点でもあった・・・
・・・もう一つの『white album』だった。
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