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第一章【運命の邂逅】
（４）
「パッフィー様・・・・・・姫はどうか、ここでお休みください」
先の強力な魔法を放ち、既に彼女の疲労は極に達している。そう判断したイズミが諭すように告げた。
「で、でも・・・・・・」
「では、まだ現存の一個小隊をこの場に置いていきましょう」
ウェンの配慮で十数名の憲兵が一階に逗留され、既に魔法力が尽きつつあり、極度の疲労により体力も正直乏しい。この状態では足手まといにもなりかねないだろう。
パッフィーはその配慮と仲間の好意に、心から感謝して受け入れた。
二階は麻袋が幾重にも積み重ねられた、広大な広間だった。
「ほぉ・・・・・・よくここまで辿り着いたものだな」
そこにカリウスとガンドルフ・・・・・・そして主だった幹部達が待ち構えていた。既にガンドルフはリューウォリアーを、ファリスはリューファントムに搭乗している。
「カリウス様、ここは我らが・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
「カリウスだと！」
更に濃いダークグレーの、マスターの称号を帯びた爆裂丸が叫び、アデュー達は、細身の剣を手に漆黒の軽鎧を身に纏った、一見、剣士風のリューに目を奪われた。名をリューソーサラー・アナザード。名の示す通り、パッフィーのマジドーラ同様に魔法を主とした機体であるが、こちらは近接戦も想定された性能を持つ。
戦いはどちらが先に、とは関係なく、必然的に開始された。
だが、如何に疲労しているとはいえ、圧倒的だった・・・・・・
「なるほど・・・・・・大陸の英雄と呼ばれるだけの事はあって・・・・・・」
「強ぇっ！！」
また新たなギザーが斬り捨てられ、カリウスは素直に賛辞を送った。
かつてカリウスも剣術を嗜み、平均程度の・・・・・・自身の身ぐらいは護れる程度の護身剣術を会得しているが、それもまず役にはたたない相手である事がわかった。
組織で随一の武断派であるガンドルフのウォリアーでさえも、パラディン相手では、時間稼ぎ程度の働きしか期待できそうになかった。一方のファリスも、サルトビの爆裂丸を前に翻弄されている。ギザー隊も憲兵のソリッドを足止めするのが精一杯で、これ以上、戦線を維持する事も困難な状況であった。
（潮時だな・・・・・・）
内心で呟くそれは、即座に離れた場所にある弟に伝わる。
「リューアークメイジ・アナザードマスター、上級転位」
・・・・・・範囲はこの二階一帯。俺が万全でなければ使いこなす事ができない禁断魔法・・・・・・ガンドルフを含む多くの側近が巻き添え受けるが、この魔法は驚異的な性能を誇るものの、殺傷力においては皆無である。カリウスは躊躇う素振を見せる事なく、手早く詠唱を開始する。
「我は誘う、黄昏の彼方より、この一帯を闇に導かん・・・・・・」
「時は光魔、狭間の彼方より、この地全ての衝撃を放て！」
高度な禁断魔法、それも包囲とあっては、詠唱中は無防備な姿を晒してしまう。だが、それだけに詠唱を終え、魔法の印を結び終えた時・・・・・・彼は戦いの終幕を確信した。
「なっ・・・・・・」
勇者一行と斬撃を応酬しているガンドルフも、圧倒的な戦闘力で数に勝る側近達を駆逐していく勇者一行も、そして自分の組織の部下でさえ驚きを禁じえなかった。
≪ディメイション クラウドォ！≫
アースティア大陸において、魔法を使える者は少なくないが、魔法使いは極めて少ない。これは剣術や武術とは違い、先天的な素質だけによって左右されてしまうものだからだ。無論、希少な先天的な素質と、それを開花させるのにも、並大抵ならぬ努力が必要であり、多くの人間が魔法使いになる前に断念する。
ましては魔法使いの上級職、魔導師に至っては特に・・・・・・
今、カリウスが使ったディメイションクラウドという魔法は、どんな万全な状態であっても、精神・四肢を一時的に麻痺させた上、強制的に昏睡状態に陥らせるものである。
「終わったな・・・・・・」
まだ誰もが驚きを隠せないでいる。
このモンゴックに住み着いて以来、彼は一度として魔法を使用する事はなく、魔導師の仮面を見せる事はなかった。闇社会に身を処して、本性を隠せ遂せたのは、ガンドルフの武勇とカルロスの見事な立ち回りがあり、カリウスは切り札として、自分の真の才能を温存できたのだった。
全てのソリッドが機動を停止し、リューの召還も解けた。
「終わったな・・・・・・」
周囲を確認して、カリウスもまた、アナザードマスターから降り立つ。
勇者一行にも当てはまったが、転位は立っているだけでも体力を消耗させる、諸刃の剣である。これが全ての終わりならばともかく、この後、彼にはなさなければならない宿願がある以上、ここでこれ以上の体力を消耗する事は好ましくなかった。
「なっ・・・・・・ま、魔導師が・・・・・・」
「何！？」
さすがのカリウスも、その声に驚きを禁じえなかった。彼の放ったディメイションクラウドを浴びても尚、まだ意識を保ち続けていた者など、今までに存在しなかったからだ。
「イズミかゥゥァ�
得心がいったと同時に、イズミの状態を見て安堵した。なるほど確かに僧侶である彼は魔法抵抗値が高く、ディメイションクラウドの強力な呪縛に対し、辛うじて精神を繋ぎ止められたのであろう。
（もっとも、それも限界であろうが・・・・・・）
「フフフフッ・・・・・・まだ意識を繋ぎ止めていられるとは、正直、心から称賛を贈らせて頂こう・・・・・・だが、会話できるのがお前だけとは、運命というやつは、因果ものだな」
「な・・・・・・な、に？」
強烈な呪縛に侵食されたそれ以上に、カリウスの言葉に対して、怪訝な表情を浮かべる。
「お前には感謝の言葉もない。よくぞパッフィー姫をあそこまで育ててくれた。まるでマーリアを彷彿させてくれるじゃないか」
マーリア・・・・・・イズミにとって古き戦友にあたり、パッフィー・パフリシアの母でもある。彼女はパッフィーの生誕と、ほぼ同時期に亡くなっている。
「き、貴様が、な、何故、マーリア様の名を・・・・・・」
「・・・・・・！？」
噛み合わない会話に、カリウスはようやく得心がいった。と、同時に、嘲笑が自然とこぼれる。
「フフッ・・・・・・そういう事か・・・・・・」
イズミは先の大戦以前の記憶を、故意的に失っている経緯がある。そしてそれは先の大戦の最中、魔王ウォームガルデス復活を期に思い出す事が出来ていたが、どうやら完全に記憶を取り戻すまでには至っていなかったらしい。
イズミが遂にディメイションクラウドの呪縛に捕らわれ、意識が途絶えた事を認識したカリウスは、嘲笑を漏らさずにはいられなかった。
「それでは戴くとしよう・・・・・・」
（あのパフリシア王家の系譜が連なる、彼女の王宮へ・・・・・・）
絶望に等しい二階の戦況を知る事もなかったパッフィー・パフリシアは、憲兵隊の一個小隊に護られながら、胸中に秘めている者と供に旅してきた仲間の無事を、今も祈り続けていた。
「少しお休みになられますか？」
「いえ・・・・・・大丈夫です。心遣いありがとうごさいます」
自分の状態を察してくれたのだろうが、まだ仲間が闘っているのに、自分だけ安息の時間にいるのは忍びなかった。
だが、静粛に包まれていた一階もまた、再び戦いが繰り広げられ始めようとしていた。
「まだ外にロンバルディアの奴らがいたのかぁっ！」
突如、発せられた苦痛と、突然の襲撃が同時であった。
意表を突かれた事と、無傷とはいえ疲労していた憲兵隊は、次々と叩きのめされていく。パッフィーは愕然としながらも、一人の男の頬を杖で叩きつけ、疲労によって重くなったような身体で見事な動作で距離を保った。
また一人・・・・・・また一人と、憲兵隊が倒れていく。
「フルム！」
少しの休息で回復した魔法を駆使して、近寄ってきた男達を一蹴し、彼女の前に立ちはだかるのは、十人近くの男達だった。完全に魔法力が尽きた彼女には、容易に倒しきれる数ではない。
また一人を杖で薙ぎ倒し、小さな身体を駆使して、別の男に蹴りこむ。体重差でビクともしないが、体勢は崩せる。そこに再び杖で殴打した。
「ハァハァ・・・・・・」
彼女は渾身の力で一人を薙ぎ倒した際、脚を警棒で祓われ、痛打に倒れこむ。
彼女は気力だけで再び立ち上がり、不用意に近づいて男に杖を振り回したが、片脚の鈍痛から大したダメージも与える事もできなかった。
「痛いなぁ、お嬢ちゃんよぉ」
気力だけの攻撃を受けた男は、既に体力の尽きている彼女の身体を掴み挙げると、無造作にも力任せに放り出す。
起き上がる事もままならないパッフィーの身体を別の男が掴み上げて、起き上がらせると、また前方に突き出し倒す。気がつけば、既に彼女の周囲には味方が一人としてなく、あるのは下品な笑みを浮かべた男達だけであった。
「お嬢ちゃん、俺らと気持ちいい事しようぜぇ」
「おまえ、こんな小娘がいいのかぁ？」
その意味が解らないほど、パッフィーももはや子供ではない。仮にも王族であり、また恋する乙女であるだけに、それは恐怖以外なにものでもないだろうが・・・・・・その悪魔のような手から懸命に逃れようとするが、また別の男に捕まってしまう。
「ほらほら、おまえの相手はむこうだよ！」
下卑な嘲笑をしていながら、彼らにも理解している。彼らはあくまで、彼女を疲弊させ、心身ともに追い込む事だけにある。もし命令に背き、度を越せば、それは彼らの破滅を意味しているだろう。
だが、突き飛ばされた勢いを利用して、パッフィーの愛用の杖が再び、男の顎を捕らえたとき、戒められていた暴力を発揮してしまった。
「ッ！�
彼女の腹部に痛烈な拳を送り、小さな身体が膝から崩れ落ちる・・・・・・
その時だった。囲んでいた男達が、見覚えのある一人の男によって叩き伏せられていく。まさに無駄のない体術に、今もまた、もう一人の男が叩き伏せられた。
「あ、あなたは」
「大丈夫ですか・・・・・・？」
パッフィーは差し出された手を受け取った。
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
パッフィーは不意に安堵の溜息を漏らした。眼前の青年は市長の手の者であり、味方である・・・・・・はず、だった。
ゆっくりと立ち上がろうとしたのも束の間・・・・・・重い衝撃が腹部を再度襲う。さっきの力任せの攻撃とは違う。彼女の意識を奪うためだけに、加減された、正確な一撃だった。
「うぐっ・・・・・・」
味方と思って手をとった男・・・・・・市長の使者として面識を持っていただけに不意の痛打。
（・・・・・・何故？）
意識が薄れていく中、首筋にチクリと痛みが走る。
彼女の手をとった男のもう片方の手に、鋭く光る線状のような物が握られており、首筋の衝撃から・・・・・・
（目が・・・・・・か、霞んで・・・・・・）
意識が次第に遠のき・・・・・・途切れた。
（あ、アデュー・・・・・・）
「お礼には及びませんよ・・・・・・何故なら・・・・・・」
市長の使者であり、カリウスの弟・・・・・・カルロスが、視神経と身体能力を麻痺させていく彼女に、被虐的な笑みを浮かべる。
「これからたっぷり・・・・・・と、兄上が愉しませてもらうのですから」
か細い片腕を吊り上げて、兄に捧げられし獲物を一瞥する。ツインテールの清廉な薄緑色の長い髪・・・・・・あどけない表情は可憐そのもので、十五歳の少女に相応しい小柄な身体。それでいて、胸の発育は小柄な身体には素晴らしいほどの膨らみ、弾力性も申し分ない豊かさであろう。長細い脚で揃えられた下腹部はまた細身だが、それだけに身体の締まりの良さと感度の良さが伺えよう・・・・・・
「貴女のその小柄な身体で、ね・・・・・・」
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