第一章【運命の邂逅】

(5)

 後ろ手に拘束した小柄な少女の身体を抱え上げながら、カルロスは兄の待つ二階へと階段を登る。
自分がこの少女を犯したい・・・・・・という衝動がない、と言えば、嘘になる。だが、これが他の女ならいざ知らず、パフリシアの名を戴き、ましてや最後のパフリシア王族の少女である。
 兄への裏切りは、弟の自分の最期を意味する。だから彼は、まず常に兄を立て、自分は許された範囲で恩恵を受ける。だからこそ、自分と兄は、一度として仲違いなり、兄弟喧嘩になった事がないのだから。
 そして、二階ではその兄一人が待ち構えていた。
 (存分にお愉しみを・・・・・・)
 (ああ、すまない・・・・・・)
 その弟の苦悩を察して、兄が心の中で詫びる。
 小柄な少女の・・・・・・捧げられた身体を弟から受け取った。十六年の歳月をかけて、彼の手に戻った瞬間であった。受け取った身体は軽かったが、かけられた十六年の歳月は、彼の手にしても重かった。
「兄さんの活躍を・・・・・・じっくりと拝見させて頂くよ」
「フッ・・・・・・」

「まず勇者一行の捕縛して、その後、ガンドルフ達を起こして・・・・・・」
 兄のディメイションクラウドを受けた以上、あと二、三時間は意識を取り戻すような事はないだろう。だが、万が一、勇者一行が意識を取り戻した場合、形勢はたちまち一転する。
 もっとも、それも・・・・・・
 小柄な少女を腕に、カリウスは二人だけしか入室を許されない、三階へと足を運んだ。階段の途中で突如、かすかな抵抗を感じる。カリウスが事前に施した、特殊な結界である。
 パッフィーの身体とカリウスは、それ以上の抵抗を感じる事なく、結界の内側に到達した。
「これで最早、邪魔する者はいない」
 この瞬間、例え今、勇者一行が意識を取り戻し、二階以下の戦況の形勢を逆転させても、三階のカリウスとパッフィーに手出しする事は叶わなくなった。
 三階はある一室を擬して作られた部屋だった。恐らく手にしている少女も憶えてはいないだろう。彼女の国・・・・・・パフリシアは、彼女が生誕してから間もなく、落城・・・・・・滅亡国となっている。
 そう、ここはパフリシア王宮の・・・・・・彼女が生まれた場所を再現したものである。
 部屋の真ん中には豪華な作りだが、少女チックなベッドがある。彼女の母マーリアが魔王ウォームガルデスとの戦いで旅にあり、祖国に帰ってきた後も、そのまま状態を好んだのだから・・・・・・
 カリウスの腕に抱え上げられたパッフィーは、後ろ手に拘束された状態で整えられた舞台の上に放り投げられた。
・・・・・・あれから十六年、見事に成長したものだ

 かつてカリウスは、何処にも属さないものの優秀な魔導師だった。その絶大な魔力に惹かれた初代パフリシア王は、建国当時の物足りない軍事力とあって、無所属の彼を懸命に引きとめた。
 今から一千年以上も前の話である。
 カリウスはある条件を出した上で、初代パフリシア王の廷臣となった。宮廷魔導師として、魔法指導は勿論、多くの優秀な素材が彼に見出されていった結果、パフリシアの軍事力は、他国の大国さえも侮れないほどの力に伴い、発言力を強化していった。
 その現実は、カリウスの立場をも強化していく。
 そしてある日、初代パフリシア王の娘の一人が、カリウスとの子供を懐妊した。それだけならば然したる不思議はなかった。その翌々日の事である。その妹の姫君もカリウスの子供を懐妊したのだ。
 事実を知った廷臣達は驚愕して国王の元に駆けつけたが、国王はその廷臣達を退け、カリウスを召しかかる際に受諾した条件を王宮に発した。
 パフリシアの名を冠する姫君全てをカリウスに献じる・・・・・・である。
 既にカリウスの存在は、パフリシア王家にはなくてはならない存在であったし、何よりも優秀な魔導師の血がパフリシアに組み込まれる事は、喜ばしい事だと、当時の王は思ったのである。
 そして、姉が男児を・・・・・・妹が女児を出産した。出産の際、姉の方は他界したが、翌々年、妹が再び女児を産んだ。
 それからカリウスの息子達が幼年期迎えた頃の事である。期日を選んで息子を連れ出した彼は、その自分の息子の身体を乗っ取り、それまで自身の身であった身体を焼き払ったのである。
「前の身体にも、愛着がありましたがね・・・・・・」
 幼い外見に似つかわしくない、カリウスの言葉だった。
 パフリシアの血とよほど相性が良かったのだろう。新しい得た肉体の方が以前の身体と比較して魔力が高い。また自身の血を分けた肉体だからだろう、よく身体に馴染んだ。
 そして驚愕の事件が発生する。無論、王宮内に留められた不祥事だが、さすがのパフリシア国王も唖然とした。なんと新生カリウスとなった彼が従兄妹と妹を犯したのである。勿論、近親交配など国家という枠組みの中では物珍しい出来事ではなかったが、産みの親でもあったカリウスが、従兄妹を・・・・・・そして肉体的には、兄が妹を犯したのである。
 事態を知ったパフリシア王はカリウスを呼び、さすがに蒼白して忠告したが、かつて国王が受諾した条件を持ち出されてはそれ以上、何も言えなかった。逆に、唯一、国王の血を引く孫娘さえ差し出さなければならない羽目になったのだった。
 カリウスは長い時の中を、パフリシア王家と共に過ごして来た。初代パフリシア国王を除き、それ以降にパフリシアの名を冠する者は、全てがカリウスの血を引いている、と言っても過言ではない。
 カリウスの血脈とパフリシアの血脈は幾度もなく交わり、そのたびに、血を重ねていくたびに、新たな肉体は強大な魔力を備えていく。カリウスは次々と肉体を移し、パフリシアの姫を抱き、子を産ませていった。
 だが、魔力が向上していくに連れて、出産率は低下していった・・・・・・今から三十年前には、遂に新生カリウスとなった肉体と同時期に生まれた弟のカルロスの身体をスペアとし、マーリアの三人を除いて、パフリシア・カリウスの血脈を受け継ぐ者はいなくなってしまったのだ。
 極度の近親交配を重ねてきたツケが回ってきたのだろう。カリウスはマーリア一人に、男女二人の出産に望みを託すしかなかった。
 だが、線の細い当時の十五歳の彼女には・・・・・・カリウスとの交配と出産はさすがに、厳しいように思われた。故に彼は、彼女をと、ある旅に送り出す事を了承した。
 そう、対ウォームガルデス大戦で初代勇者と謳われるラーサー・・・・・・奇しくもアデュー・ウォルサムの父である。戦争は苛烈さを極め、その間カリウスもカルロスを伴って、パフリシア国土を護る為に尽力している。
 魔王ウォールガルデスとの戦いから、彼女は帰国した。決戦で仲間を失い、また勇者ラーサーに惹かれていた想いを心に秘めて・・・・・・兄カリウスに貞操と身体を捧げた。
 マーリアを旅に出した事は、カリウスにとって予想外の収穫を齎した。それまで出産させる為だけに女を犯していたが、この数年の旅によって、妹の身体は、犯す兄を連日も没頭させるほどの快楽を与えたのだった。
 この二人の男女にして兄妹の行為に、マーリアの夫であり、国王の冠を戴く男の表情を曇らせたが、代々王位を継ぐ時に厳命される口伝によって、この兄妹の行為を黙認するだけであった。口伝を護り限り、王位継承権には要求しない約定もある。王妃のマーリアを抱く事こそ許されないが、その分、側室との間に次の王位継承者を設ければいいだけのである。
 連日連夜・・・・・・昼夜問わず、兄に犯され続けたマーリアは、兄の子供を遂に懐妊。翌年、母子共に無事に出産を終え・・・・・・パッフィー姫の生誕である。
 カリウスは母子共に無事に終えた事に・・・・・・次なる世代に望める希望に妹を褒めちぎった。だが、その後の・・・・・・出産を終えた直後に、マーリアを犯した事が、カリウスにとって大失敗だった。
 出産直後だっただけに体力の極限まで疲弊していた彼女の身体には、兄に限らず性交行為は、健康を損ねてしまうだけのもの以外、なにものでもなかった。
 マーリアは兄に犯されながら、自分の命数が尽きているのを把握できてしまった。生まれたばかりのパッフィー姫に、魔王ウォームガルデスの封印を託し、ゆっくりと息を引き取った。兄に犯されながら・・・・・・
 またカリウスの失意は相当なものであった。
 マーリアが残したまだ自身の血脈が伝える事ができる器・・・・・・パッフィー姫の存在さえ、失念していた事が彼の失意を物語る。
 そう、この時の彼は、血脈を伝える器としてだけではなく、マーリアという最高の身体に溺れきっていたのだ。
 カリウスはスペアとして供にあったカルロスを連れ立ち、王都から姿を晦ました。特に世間の常識などに関しては、カリウスは無能とも言えただけに、カルロスは優秀な魔導師である以上に、有能な側近であった。

 この地モンゴックに根を下ろした後、カルロスの仕入れてきた情報の中に、パフリシア王都落城の報があった。魔王の封印を狙った魔族の襲撃によって・・・・・・
 さして興味を示さなかった兄だったが、次の弟の言葉に、弾かれたように驚きを禁じえなかった。
 (王都には、パッフィー姫が・・・・・・兄上とマーリアとの女児がいるではありませんか・・・・・・)
 彼にとっては兄と妹との間に出来た子供であったが、何より、カリウスが次世代に繋げる事ができる唯一の子供である。この先、また新しい血脈と結びついて、相性のいい血脈が発見できればそれに越した事はないが、兄でなくても、パフリシアの血脈との相性に勝るものは望めないだろう。
 (私も出来れば永久に生きたいですが、先に兄上が次世代の・・・・・・)
 (思ってみれば・・・・・・)
 思考を遮られたカルロスは、兄の表情を伺った。そこにはマーリア喪失してから見る影も無かった、そう、覇気に漲っていた。
 (姉妹や従姉妹を犯した事はあったが・・・・・・精神も肉体も、実父で娘を犯した事はなかったな・・・・・・)

 自信と新たな欲情に満ち溢れていたそれこそ、カリウスが完全に立ち直った証明であり、新たな欲望を得た瞬間でもあった。


→進む

→戻る

悠久の螺旋のトップへ