春――
桜――
入学式――
 新入生の喧騒が遠くに聞こえる、薄暗い廊下の奥に、一人の男子生徒の姿があった――
左手で、右のひじをかばうように押さえて立つ姿。彼の癖だ――
 彼のその癖を見るたびに、懐かしさと、嬉しさの混ざった感情が胸の奥から溢れてくる――
 私は一歩、足を進めた――
 

 私立桜桃華学園。全国でも有数の私立高校であるこの学園にも新入生が通い始める季節になった。
 垣内祐司もその一人。
 所謂中肉中背。特に特徴のないのが特徴の彼だが、付属からエスカレーター式に大学まで進むこの学園にあって、外様の、一般入試枠で入学したのだから、それだけ学業の方は優秀なのだろう。
 祐司は初日のHRを終えると、一目散に旧校舎一階の一番奥、春の日差しもその場所には届いていないかのように薄暗い部屋の前にやってきた。
 学園は小高い山の上に建っているため、街からは隔絶されたような空間になっているが、ここは山の林が目前に迫っているため、学園からも隔絶されたような空間になっている。
 「本当に来たんですね」
 ドアをノックしようとしたところ、呆れたような声に呼び止められ、振り返った。
 聞き覚えのあるその声の持ち主は、幼馴染の少女、皆川琴音。
 小さく華奢な体は、まるで中学生。幼い顔つきとおかっぱの頭がそれに拍車をかけ、下手すれば小学生と見間違えるほどだ。
 「まったく、せっかくギリギリで受かったのですから、わざわざ面倒に首を突っ込まなくてもいいでしょうに」
「なんだよ、面倒って」
  見た目年下の少女が、ため息交じりに丁寧な言葉遣いで自分を批判するのは、あまり面白いものではない。ムッとした祐司は琴音に食って掛かった。
 「それにギリギリかどうかなんてわかんないだろ。得点は発表されてないんだから」
 「分かりますよ。勉強を教えていたのは私ですよ?あなたの学力はよく分かってます」
 「俺は本番に強いタイプなんだよ!」
 祐司は吐き捨てるように言って、ドアをノックする。
 「どうせ奏さんにこき使われるだけですよ」
 どうぞ、と中から声が聞こえ、祐司はドアを開けた。
 教室はもともと何かの準備室か何かなのだろう、ごく狭いものだった。
 両側の壁にはロッカーが立ち並び、中に無数のファイルが仕舞われている。
 中央に六つの机が向かい合わせに並び、椅子を引けばその後ろは人一人がやっと通れるかどうかという広さ。
そしてその先、窓を背にして置かれたOAチェアに腰掛けている、細目の男がいた。
 「いらっしゃい」
 「あんなきっちりした真ん中わけ、久しぶりに見ましたね」
 男には聞こえないように、隣で琴音がボソッと呟く。思わず祐司は吹き出してしまった。
 「どうか、しましたか?」
 不審そうに男が聞く。祐司は「いや、なんでも」とお茶を濁した。
 確かに琴音が評したように、色素の薄い、さらっとした髪は、眉間から真っ直ぐ上に上ったところ、ちょうど中央で左右に分けられていた。
 それを見れば見るほど頬が緩んでしまうために、祐司は彼の胸元に視線を落とした。
 「え〜っと、新入生、でいいですよね?」
 「はい」
 祐司が答えると、男はパタパタと持っていた扇子を開いた。
 「え〜っと、こういう場合はどういう順番で話をしたらよかったのでしょうかね。井口君がいれば、勝手に話を進めてくれたんですけどねぇ。いやはや、とりあえず、お茶でもお出しするべきですか?」
 「いえ、お気遣いな…」
 「あぁ〜〜!祐坊!!本当にウチに入ったんだ〜〜!!」
 祐司が申し出を断ろうとしたところ、突然ドアを開け、やけにテンションの高い、ボブショートの少女が飛び込んできた。
「あ、奏さん!」
 「うっわ〜、信じらんな〜い、らんない、らんな〜い!!」
 「言ったじゃないですか、合格したって」
 「だってさ、見るまで信じらんないじゃん?じゃん、じゃん?あのバカの祐坊だよ?だよだよ?ウチ、これでも名門校なんだよ?!」
 奏は祐司に抱きつく。スレンダーな体型だが、抱きついた奏の胸は制服の上からでも形が変わるのが分かるぐらいに、充分な大きさがあった。
 押し付けられた胸の感触に、思わず祐司は頬を緩ませる。
 「どうでもいいですけど、あちらの方があっけにとられてますよ」
 琴音が抱き合う二人の間に割って入る。
 琴音に指された扇子の男は、「あはは」と苦笑いを浮かべた。
 「あ〜!琴もいたんだ!ごっめ〜ん、見えなかった!」
 奏は失礼なことを言いながらも、平謝り。口が悪いのは彼女の癖だ。
 だが身長に対してコンプレックスを抱いている琴音には、分かっていても少しは頭にくる。
 「あ〜、井口君。知り合い、だったのでしょうか?」
 「あ、ごめんなさい、部長!この子達は私の後輩!ま〜、家がご近所さんなんですけどね。垣内祐司と、皆川琴音。で、こっちの細い目の男の人は、新聞部部長、逢瀬大和先輩!」
 お互いに紹介され、三人は軽く会釈をする。
 「とにかくいらっしゃい!我が桜桃華学園新聞部へ!!」
 
 
 ドアを開け、四人の男子生徒が保健室に入ってくる。
 保険医、桜花が長い髪をふわりとたなびかせ、振り返る。
 「あら、どうしたの、けが?」
 「ええ。治療お願いしま〜す、セ・ン・セ!」
 「ええ。わかったわ。じゃあ、ベッドに行きましょ」
 桜花は四人をベッドに招き、カーテンを閉じて中の様子を見えないようにする。
 桜花はベッドの中央に膝立ちになり、四人はそれをベッドの横から囲む。
 「それじゃあ、どこが悪いか診察しましょう」
 「どうするんです?」
 「体のどこが悪いかは、舌の感触を調べれば、すぐに分かるのよ。はい」
 桜花は口をあけ、舌を差し出す。
 「ここに体の調子の悪い人の舌を絡ませて」
 「じゃあ、俺から」
 一人が桜花の顔を自分へ向け、舌を絡ませる。
 ちゃくぅ…
「ん、ん…」
 ちゅちゃ、ちゃっちゃ…
 保険医と生徒が行うディープキスを、周りの三人はニヤニヤと眺めている。
 「センセ〜。俺らも調べて欲しいんですけどぉ〜」
 眺めていた一人が言うと、桜花はぷはぁっと口を離す。二人が交わした唾液が口元に糸を引き、駁淮に映る。
 「ごめんなさい。舌以外にも私の敏感な部分で調べるから」
 桜花は服をブラごとたくし上げ、胸を晒し、ショーツを太腿の半分まで下ろす。
 「あなたたちはここを使って」
 「は〜い。よく調べてくださいね〜」
 両脇から二人の男子が桜花の胸にしゃぶりつく。
 ちゃぶ、ぴちゃ…
 「はぁん…ぁぁん…」
 桜花の口から声が漏れた。
「レロレロレロ…」
 舌先でツンと尖った乳首を弾かれると、桜花は舌を噛み、それに耐える。
 「はい、先生。俺の診察の続きも」
 しかしそんな桜花に、最初の男が再び舌を絡める。
 「ん、くぅぅん…」
 「へへ、じゃ、俺は先生の一番敏感な部分で、調べてもらいますね」
 最後の一人はベッドに登り、桜花の股下に潜り込む。
 「へっへっへ…感じちゃってるのかな、センセ。お○んこ濡れちゃってますよ」
 「ん、ぷはぁん…ん、ん…」
 だがその声が届いていないかのように、キスに熱中する桜花。
 いや、彼女自身、この行為は正統な医療行為と思い込んでいる。
 下に潜り込んだ男子が、指でヴァギナをむにっと開く。三人の舌によって性感を高められた桜花のヴァギナからは、トロトロと奥から愛液が流れ出てくる。
 「じゃあ、一番敏感な部分で、調べてもらおっと」
 男子はクリトリスを剥き出しにして、舌を這わせる。
 ぴちゃぁ…
「むぐっ…ぱはぁん!はぁん」
 桜花は下からこみ上げる刺激に、思わず口を離してしまった。
「だめですよ、ちゃんと僕のも調べてもらわないと」
 だが男はそれを許さず、再びキスを迫る。
 「へっへっへ、ちゃんと調べてもらわないと、ひどい病気かもしれないもんな〜」
 胸を責めていた男子が、カリと乳首を甘噛みする。
 下の男子は、クリトリスり穩め挙げるだけではなく、中指をヴァギナの中へ沈めてゆく。
 「ん、んふぅん!」
 ちゃ、くちゃっちゃ…
 桜花はその責めから気を紛らわそうとしてか、激しくキスを求めてゆく。
 下の男は愛液で濡らした指で、アナルまで責め始める。
 「そろそろ、診察はいいんじゃないですか?どうです、分かりました?」
 男子たちが桜花の体から口を離す。
 「ええ…ちょっと、体に悪い血が溜まってるみたいね、皆」
 桜花は肩で息をしながら冷静に答える。
 「じゃあ、どんな治療をすればいいんですかね?」
 一人がニヤニヤと聞く。
 「これからみんなの毒を吸い出してあげるから、ズボンとパンツを脱いで」
 四人は言われるままに下半身を剥き出しにし、ギンギンにいきり立ったペニスを桜花の前に晒す。
 「さっきの触診で、悪い血がここに溜まっているはずだから、今から吸い出してあげるわね。ベッドに横になって」
 「じゃ、俺から」
 触診でキスをしていた男が、ベッドに上がる。
 「それじゃあ、治療を始めるわね」
 桜花は男の股の間で正座をし、上体をゆっくり前に倒してゆく。
 くちゅぅ…
 「ん、ん、ん…」
 「おぁぁ…」
 桜花がペニスを咥え、頭を上下させる。男子はその感触に声を上げる。
 他の三人は桜花の後ろに回り込む。後ろからは頭の動きと連動するアナルとヴァギナの運動が良く観察できた。
 先ほどまでの責めにより、アナルまで愛液で濡れている。
 「センセー!俺らはほったらかしですか?」
 「んっ…ぷぁぁん…ご、ごめんなさいね。四人もいるんだから、一人ずつやってたら、時間掛かっちゃうわよね。皆いっぺんに治療してあげるわね」
 桜花はベッドに横になった男子の腰辺りに跨る。
 「それじゃあ、あなたはここに座って」
 桜花は一人を指差し、自分の後ろに座らせる。
 「あなたにはここを使ってもらうから」
 むにっと桜花がアナルを開く。男子は「おほっ」と歓声をあげた。
 「後の二人は私の横に立って。口と手で搾り出してあげる」
 二人の男子は言われたとおり桜花の横に立ち、大きく張り出したペニスをずいと桜花に向ける。
 「最後に、あなたのはここで吸い出してあげるわね」
 桜花は最初に相手をしていた男子に向け、両手でヴァギナを割り開いた。
ヴァギナは愛液がとめどなく溢れ出しており、充分に濡れている。
 「で、どんな治療するんですか?」
 「そうですよ。インフォームなんとかってやつですよ。治療の説明してもらわないと」
 「そうね…まず私のおま○ことお尻に、座ってる二人のち○ぽを挿れてもらって、溜まった毒を出してもらうわね。たってる二人は私の口と手で、ち○ぽに溜まった毒を吸い出してあげる」
 「毒はどうするんですか?」
 「おま○ことお尻の二人はそのまま出していいわよ。上の二人は、なるべく飲んであげるけど、二人もいるから間に合わなかったら、好きなところに掛けてね。なるべく部屋を汚さないようにしたいから。ベッドに零れたら、感染症とかも心配だからね」
 「は〜い。わかりました」
 返事をするや否や、上の二人が待ちきれないとばかりにペニスの先端で桜花の頬をつつく。
 「ぁん。そんなに急がないで。ちゃんと治療してあげるから…」
 桜花は下の二人のペニスの位置を調整し、上の二人のペニスを握る。
 「じゃあ、始めるわよ」
 ずぶぶぶぶぅ…
 「はぁぁん!」
 桜花は腰を沈めてゆく。
 「あぁぁん!あっあぁ!」
 アナルとヴァギナがペニスによってひしゃげ曲がる。
 桜花は治療を完遂しようと必死に腰を上下させる。
 じゅ、じゅっぷ、じゅっぷ…
「はぁん!ぁあん!はっは…」
 「先生!早く口で、口で!」
 「んっむぐっ…!?」
 手で扱かれたていた上の男子が溜まらず口にねじ込む。
 桜花はペニスに下を絡ませ、治療を続ける。
 男子は喉奥を犯そうと、ペニスを突き入れる。
 ぐっぽぐっぽぐっぽ…
 「ん、むぐぅ!んっん!」
下は下で、二人がヴァギナとアナルにペニスをガンガン突き入れる。
 「先生!こっちも!こっちも!」
 上のもう一方が桜花の口を奪い、咥えさせる。男子は桜花の頭をがむしゃらに前後させ、口内を犯す。
 「おぁぁ!アナルのチ○ポが伝わってくるぜぇぇ!こりゃ、すぐに毒出ちゃうなっ!!」
 ヴァギナを犯していた男子が胸を鷲づかみにし、パンパンと叩きつける。
 「ふむぐぅん!ふむぅん!ぅぅん!!」
 じゅっぷじゅっぷじゅっぷ…
「口交代、口交代!」
 ちちゃぁぁぁ…ぐぽぉぉ!
「ふぅぅん!」
 頭を固定し、腰を前後させ、口を犯す。
 「片方貸せよ」
 口を奪われた男子が、片方の胸に手を這わす。
 その頂点、乳首に辿り着くと掌で押しつぶしたかと思うと、摘み上げ、思いっきり引っ張る。
 「ふむぐぅぅう!」
 じゅっぽじゅっぽじゅっぽ…
 「お、おぉぉし!そろそろ毒が出てきそうだぁぁ!」
 「お、俺ももうだめだぁ!」
 「全員一緒にイくぞっ!」
 「先生!口空けて!!」
 「むはぁぁぁ!はっはっは!!」
 上の二人が桜花の前に立ち、ペニスを扱く。桜花は口を空け、舌を出し待ち構える。
 「イくぞぉぉぉ!!」
 「はぁぁぁ!」
 どぴゅる!どぴゅ、どぴゅぅ!
 どっくどっくどっく…
 上の二人は大きく開け放たれた口めがけ、精液を放つ。狙いを外した精液が顔と、体を汚してゆく。
 そして下の二人は、アナルへ、膣へそれぞれ精液を放った。

 
 
 桜桃華学園。名門私立高校。
 学園は小高い山の上に建ち、麓では高い壁が山を囲み、下界からは隔絶されているようである。
 生徒の約3分の2は、学園敷地内にある寮を使っている。
 下は幼等部から上は大学までのエスカレーター式の学園ではあるが、中等、高等、大学と、一般入試枠も設けている。
 その数は僅かで、中等以降から入学してくる人間は大抵、それ以前までの生徒とは家柄に大きな開きがあり、外様と揶揄される。
 そして小等以前の生徒は「生え抜き」と呼ばれ、自分たちをエリート視している人間ばかり。実際彼らの家柄は、社会的にも上級に分類されている。
 そこに家柄に関係のない人間が、しかもすでに派閥が形作られているところに投げ込まれるのだ。
 そんな生徒が生き残ろうとすれば、どこかの派閥に最下層として受け入れてもらうか、衝突するかの二者択一しかない。
 「ま、そんなわけでね、ね。そんな外様の不満やら鬱憤やらをね、ウサ晴らししてやろうってのがね、私たち新聞部の使命、ってゆうか、仕事とゆーか。外様の希望の星ってわけなのよね、ね、ね!」
 「井口君の言うところの、生え抜きの私の前でおおっぴらに批判されると、あまりいい気分ではありませんね」
 大和は苦笑いを浮かべ、パタパタと扇子で扇ぐ。
 「まま。他にも色んな派閥の皮芬中傷ってとこかな。な、な?」
 「ちゃんとやってますよ。学校行事の特集とか、部活紹介とか。皮芬中傷を主に行っているのは、井口君でしょう?」
 「だって、読者が知りたがってることじゃないですか、ですか。それを調べ、報道する!それこそがメディアの使命でしょう!でしょう、でしょう!?」
 「先生や生徒会から怒られる、私の身にもなってくださいよ…」
 大和は困ったように、扇子でこりこりと額を掻く。
「第一そういうところで憂さ晴らさないと、外様の皆が暴発しちゃいますよ。ますよ、ますよ?そうなって困るのは学校側でしょう?でしょう?こういうガス抜きは必要なんですよ、ですよ!そう思うわよね祐坊、琴!」
 「言われても、来たばかりでこの学校の事情に疎いので、賛同しかねます」
 奏に話を振られた琴音がそっけなく答える。
 「え〜。こういうときは適当に話を合わせるのよ。のよのよ!それが処世術ってやつじゃない?じゃない、じゃない!?」
 「遅くなりました」
 「なりました〜」
 三人の生徒がドアを開け、新聞部に入ってくる。
 「奏さん〜。外からでも声が良く聞こえてましたよ〜〜」
 「いいのよ、未汐。どうせ苦情も来ない、隔絶されたぶしつなんだから。だから」
 未汐と呼ばれたのは、ウェーブ掛かった長い髪の女子生徒。琴音ほどではないが、平均と比べれば小柄と呼べる体だが、胸だけはその存在を誇示するかのように大きい。
 胸に視線が奪われた祐司の足を、琴音が踏みつける。
 「痛っ!」
 「?」
 声を上げた祐司に視線が集まる。祐司は「なにすんだよ!」と小声で怒るが、琴音はそ知らぬふりをしていた。
 「それが、電話で言ってた新入部員ですか?」
 丸坊主の、体の大きな男子が祐司と琴音を指して聞く。
 「ええ。紹介しますよ。垣内祐司君と皆川琴音さん。そして新聞部部員の井上未汐君、大きい男性の方が多田康介君、小さい方の男性が竹内太一君」
 小さいと呼ばれた太一が、猫背の背を曲げ、頭を下げる。
 小さいと言っても康介と比べての話だ。見た目祐司と同じぐらいの身長だろうが、猫背を伸ばせば、それよりは高くなるだろう。
 「新入部員を含めて、以上がこの新聞部の部員」
 「ちなみに!部長と未汐以外は全員外様ね。ね、ねね」
 奏は未汐の肩を抱き、ぽんぽんと叩く。
 「あ〜、ひどいですよ〜。そうやってまた苛める〜」
 「苛めちゃいないわよ。背がちっさい癖に、私より大きな胸がにくいだけ。おりゃ、おりゃりゃ!」
 「ぁん!も〜、やめてよぉ〜」
 肩から回した手で、奏が未汐の胸を揉む。
 祐司はその光景に顔を赤らめて見入っていたが、琴音u∨まれ視線を中に浮かせた。
 康介は無関心そうにその光景を眺め、太一はちらちらと盗み見るように視線を送る。
「背はちっさいくて、胸もちっさい人もいるのにね、ね、ね!」
 「胸なんて飾りですよ」
 視線を送られた琴音は、不機嫌そうにそれだけ答える。
 「え〜、コホン。いいですかね」
 部室に流れた異様な空気をなぎ払うように大和が咳払いをする。
 「まあ、新聞部の仕事は、特別な行事などがない場合は、だいたい皆さん自分勝手に興味のあることを調べていますかね。どうせ私の言うことは聞いてくれませんし」
 「部長の言う通りしてたら、面白い記事なんて書けませんよ。書けません!」
 「行き過ぎた記事と、取材行為をしなければ、文句は言いませんが…」
 大和は引き出しを空け、ファイルを取り出す。
 「一応月曜に一週間の行動予定と、週末に実際の行動を記したレポートを提出してもらいます。負担が大きいと特に井口君からは苦情を頂きますが」
「そーそーそー。取材して、記事書いて、さらにレポートなんて書いてたら、時間なくなっちゃいますよ、ますよ!」
「放っておいたら、井口君は何するか分かりませんからね。生徒会や先生方に呼ばれたときに、行き過ぎた行為はなかったかチェックするためです」
 「部長さんはもしかして、奏さんが嫌いですか?」
 先ほどから奏を槍玉に挙げる大和の口ぶりに、琴音がポツリと訊く。
「言いにくいようなことを、ストレートに訊きますね…」
 「ええ〜!?部長さん奏のこと嫌い?嫌いなの?ショック〜〜」
 頭を抱え、まるでこの世の終わりかのような絶望の表情を浮かべる奏。もちろん、振りだ。
 「別に嫌いというわけではありませんよ。ただ他から来る苦情の多くが井口君絡みなので、注意が多くなるだけですよ」
 「話はもう終わりました?それなら、俺らはこれで」
 康介は太一に目配せする。太一w員くと席を立つ。
 「あ、二人とも行っちゃうんですか?」
 「ええ、取材がありますから」
 「あの件のこと、まだ何も分かっちゃないですからね」
 二人は鞄を持ち、部室を後にする。
「ふ〜、どちらかに新入部員の面倒を見てもらいたかったんですけど…」
 「あ、じゃあじゃあ!私がやります!どうせ顔見知りだし。だしだし!」
 「あんまり井口君には教育してもらいたくはないんですけどねぇ…」
 「じゃあじゃあ!さっそくあの事件の取材に!」
 「皆さんは新入生へのインタビューをお願いします。今月の特集ですから」
 「ええ〜!そんなツマンナイツマンナイ!事件ですよ、ですよ!」
 「あの、事件って何ですか?」
 おずおず、といった感じで祐司が聞く。
 「そっか。新入生にはわかんないよね?よね、よね?いいわ話してあげる」
 
 去年の秋、ウチの寮生が深夜に徘徊してたの。
 徘徊?
 それは門限もあるでしょうけど、それだけで事件ですか?さすが名門校だけありますね。
 ノンノン!多少の規則違反ぐらい問題じゃないわよ。問題は彼女の格好。なんと全裸で徘徊!しかも一説には犯された後だったとか!
 え、それって…痛っ!?
 で、どうなったんです?
 それを他の生徒が見つけて保護したらしいんだけど、その後その生徒は名乗り出ず。徘徊していた生徒は学校を辞め、事件は学校側がなかったことにした。
 生え抜きなら名家の人間でしょうし、親も揉み消したいところでしょうね。
 そそ。結局親側と学校側の利害が一致して、事件はもみ消されることになっちゃったわけ。事件を実際に目にした生徒もいなければ、彼女を保護したって言う生徒も誰だかわからないから、証言者も皆無。狐憑きだとか、気が狂ったとか、その辺の噂だけが流れちゃってさ。今じゃ中退した彼女への皮芬の噂みたいに言われちゃってるわけ。
 
 「そんなの悔しいじゃない!権力に私たちは屈するのっ!?否!私たちはこの事件を明るみにし、学校の体制に風穴を開ける必要があるのよ!あるのよ、あるの!!」
 「実際はどうなんですか?そんな事件あったのかなかったのか。私には単なる中退した女子生徒を利用して、憂さ晴らしの噂を流しているように思えるのですが」
 「どうなんでしょうか?私には分かりかねますが」
 「さっきの二人もそれを調べに?」
 「ええ、まあ…」
 大和は少し口ごもりした。顎を扇子で少し持ち上げ、少し思案し言葉を続けた。
 「彼らは、まあ、事件があった後からはずっと掛かりっきりで…正確には多田君が新聞部に入ったのは、事件後なのですが…」
 「そーそーそー!それにはちょっとしたロマンスがあってね!なんとなんとなんと!康介はその中退してしまった生徒に片思いだったのでしたーー!!」
 「井口君…そういうことを本人の知らないところで言いふらすのは、どうかと思いますよ…」
 はぁっと大和が大きなため息をついた。
 「そう、恋のロマンス!これは康介の復讐!部員の痛みは私たちの痛み!ということで、私も取材に行ってきます!きます、きます!!」
 「ええ。新入生への取材にね」
 大和がにこりと笑った。
 「……ここにいる二人に聞いて終わっちゃ、ダメですか?」
 「だめですよ」
 奏の苦肉の策も、あっけなく、却下された。


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