10


 4月29日――
 校舎と離れた場所に、手入れされた日本庭園が広がる。
 その中央に、小さな茶室がある。
 茶道部の部室だ。
 GW中も活動のある運動部の声も、ここには届かない。学園は山一つの敷地があるだけに、こういう場所を造るには困らないようだ。
 その茶室の前に、太一と早稲田が姿を現した。
 「リーダーは?」
 早稲田が訊く。
 「井上のマンションで、また新しい獲物の調教中」
 「俺たちだけでいいのか?初物もいるんだろ?」
 「リーダーにも了解とってるから、安心しろよ。俺らだけで、存分に愉しもうぜ。それに、手分けした方が早いだろ?」
 「ま、そうか」
 太一が扉を叩き、茶室に入る。
 「失礼します。新聞部の竹内です」
中で茶道部員和服を着た6名が三つ指をたて、二人を迎える。
「お待ちしておりました」
「あ、ども。それと、こっち今日取材手伝ってもらう、早稲田です」
「私が茶道部部長、飯島奈緒でございます」
長い黒髪に、切れ長の、一重の瞳の奈緒が深々と頭を下げる。
「本日は部員一同、御二方を、誠心誠意を持って、御もてなしさせて頂きます」


くちゅ。くちゃ…ちゃく…
「ん…んくぅん」
奈緒は抹茶を立てた茶器の上でM字に足を広げ、自らの手でヴァギナを弄っていて、愛液がぴちゃ、ぴちゃと抹茶に注がれてゆく。
着物ははだけ、帯の部分でまとわり付くような状態だ。おかげでスレンダーな体型が、男たちの前に余すとこなく晒されている。
その姿を取材の一巻として、カメラに収めてゆく太一。

「部長さん、それは何をしているんですか?」
「はぁん…こ、これはぁ…御抹茶に愛液を垂らし、はぁん…御抹茶にコクを…出しているんです…はぁん…」
「ちょっと近くで撮影させてもらって、いいですか?」
「ど、どうぞ…」
太一は奈緒のヴァギナの接写を試みる。
奈緒はテラテラと愛液で光るヴァギナを指で大きく開き、愛液が流れてくる様子を太一に見せつける。
「毛が無いみたいですけど、剃ってるんですか?」
「日本女性のたしなみ、ですから。茶道にとって、陰毛は、邪魔にもなりますし」
「へぇ〜、なるほど」
で、と太一は目を茶が立てられるのを待つ、他の部員たちに移した。
「あれは、なんなんですか?」
五人の茶道部部員は早稲田を中央に、着物を帯に巻きつけたような状態で身体を晒している。
そして体勢は正座などではなく、足をM字に開き、両手を後ろについて、胸を反らしている。
ヴァギナは奈緒の言った通り、綺麗に剃り上げられていた。
「あ、あれは、殿方をもてなすための正式な作法です。御抹茶を立てている間、ああやって殿方の目を愉しませているんです」
「なるほど。気配りってやつですか」
太一はその姿もカメラに納めてゆく。
「あぁ、早稲田さん。んふぅ…よ、よろしければズボンを脱いで下さっても…」
「え、いいんですか?」
「ええ。んふぅん…ズボンの下で、おち○ぽが苦しそうにしていらっしゃるから」
「ええ、実はさっきからズボンの下で苦しくて苦しくて」
早稲田はズボンを脱ぎ捨て、いきり立ったペニスを部員たちの前に晒す。
すると部員たちから口々に早稲田のペニスを褒める声が上がる。
「まあ、すばらしいおち○ぽ様」
「ええ。あんなに立派なものをお持ちなんて」
男を褒めるのが女性としてのたしなみ。そう教え込まれているだけなのだが、分かっていても早稲田は悪い気はしなかった。
すると奈緒が、早稲田の隣に座ったセミロングの黒髪の部員、佐々岡律子に目配せをする。
「あの、早稲田さん?」
律子は隣に座った早稲田に声を掛ける。
「よろしければ、私の体に触っていただけませんか?」
「おっ!いいの?」
「ええ。茶道とは殿方を満足させるための道を教わるもの。御抹茶が用意できるまでの間、是非私の体でお愉しみ下さい」
「それじゃあ…」
早稲田はまず律子のほとんど膨らんでいない胸に手を這わせる。
「んくぅ…」
胸の頂点、乳首をツンツンとノックする。律子は甘い声を挙げる。
「あの、早稲田さん…胸ばかりではなく…んくぅん…よろしかったら、おま○こも愉しんでください…」
律子は堪らないといった感じで腰を浮かせ、ゆらゆらと振る。
「まだ処女ですから、存分に愉しんでいただけると、思うんです」
「へぇぇ〜〜」
早稲田は状態を倒し、律子のヴァギナを凝視する。
「これが処女ま○こかぁ…ひひ」
早稲田が胸を弄っていた指を律子の口元に運ぶと、意を解した律子はそれに舌を這わせる。
ちゅばぁ、ちゅぶぅ…
「あの娘、処女なんですねぇ」
「ええ。処女であるほうが、んくぅん…殿方に悦ばれますから、んくぅん…」
太一の呟きに奈緒が答える。
「ちょっと写真、撮っとこうかな」
太一は律子の前に行くと、ファインダーをヴァギナに向けた。
早稲田はヴァギナを広げ、太一に奥まで見せ付ける。
早稲田はさらに皮を被ったクリトリスも剥き上げ、カメラに収めさせる。
「くぅん…」
律子は切なげに眉を顰めた。
早稲田は律子の唾液で濡らされた指をヴァギナにあてがうと、ゆっくり中に沈めてゆく。
カメラはその様子を撮影する。
「うはぁん…はぁん…」
ちゅく…ちゅ…
指がゆっくりと出し入れされると、律子の腰は指を求めるように前後に揺れ動く。
「処女なのに、やらしい腰の動きするのな」
「はぁん…それは、早稲田さんの指がいいか、ら、はぁん…いぃ…」
早稲田は指で律子を犯したまま、胸にしゃぶりつく。
「ふぅん…あはぁん…」
ぴちゃぴちゃと、律子の胸が唾液にまみれてゆく。
じゅっじゅっじゅっじゅ…
「はぁん!ぁっぁっ!」
茶器の上でオナニーを続けていた奈緒の声が切羽詰ったものになってきた。
太一はカメラを奈緒に向ける。
奈緒は先ほどまでの静かな動きとは違い、激しく二本の指をヴァギナに突き入れていた。
「どうしました、部長さん?」
「いぃ!い、イきます!イ、イ、イ、イくぅぅぅぅ!!」
奈緒のヴァギナがぶしゅっ、と飛沫を上げる。どうやら絶頂にまで達したようだ。
太一は連続撮影で奈緒のイく瞬間の表情を、余すとこなくカメラに収めていった。
イった奈緒は、しばらく茶器の上で息を整えていた。
今だ溢れる愛液が、ポタポタと茶器に注がれてゆくが、外に零れた愛液が畳を汚していた。
奈緒は茶器から退くと、愛液が多く注がれた抹茶を部員たちに振舞った。
部員たちは「言い御手前で」と褒めてゆく。
早稲田も「部長さんのマン汁がいい味を出している」と褒めた。
「それでは、本日はせっかくですので、ぜひ御二方にも御茶を立てていただこうと思います」
「えぇ?無理ですよそんな」
これは太一の段取りだったため、何も聞いていない早稲田が拒否した。
「いえ、そんなに難しく考えて頂かなくて結構ですわ。律子」
「はい」
律子が太一の腕を引き、上座に招く。
早稲田は何をされるのかと、太一に目で訊くが、太一は「いいからいいから」と笑うだけだった。
「では、本日は太一さんのおち○ぽで、御抹茶を立てていただきます」
「へっ?ど、どうやって」
「緊張なさらないで大丈夫ですよ。私のおま○こ抹茶を淹れましたら、早稲田さんにはその逞しいおち○ぽで掻き回していただくだけですから」
にこりと、律子が言う。
「うぉっ!そんなことでいいの!?」
早稲田が太一に視線を送ると、親指を立てて返してきた。
「特別な作法もございませんから、御自由に膣で射精するまで、掻き回してください」
「これこそが、殿方に満足していただく茶道の真髄。律子は処女ですから、一生に一度の御抹茶になりますわ」
「じゃあ、初めてだけど、御茶立てちゃおうっかな?」
早稲田は律子を畳に寝かせ、腰を持ち上げ、ヴァギナの中に抹茶の粉を流し込む。
早稲田はヴァギナを大きく開き、中を確認する。
抹茶が愛液を吸い、膣内を緑に染める。
先ほどまで弄っていただけあって、準備は万端のようだ。
「ではっ!早稲田!イっきまーす!!」
つぷ…つぷぷぷぅ…!
早稲田はゆっくり、処女膜を破っていく感触を味わうように、腰を沈めてゆく。
「うぐぅぅぅん!」
ぷちぷちぷちぃぃぃぃ!!
「おぉぅ!!根元まで入ったぁぁ!!処女膜破ったぁぁ!」
早稲田が歓声をあげ、律子のヴァギナから、処女の証の鮮血が零れる。
「はぐぅぅん!ど、どうぞ御自由に動いてください!!」
「もっちろん!遠慮無くイかせてもらうよ!!」
パンパンパンパン!
早稲田は言葉どおり激しく腰を打ちつけ、肉と肉が爆ぜる音が茶室に響く。
「あぐぅぅ!お、奥まで届い…ぐぅ!ぁぐん!!」
今度は一番奥までペニスを突き入れたまま、円を描くように腰を動かす。
「はくぅぅん!!ぁくぅん!!」
さっきまでは早稲田の腰の動きに耐えるだけだった律子が、悩ましげな声を上げる。
早稲田は腰を動かしながら、律子の唇を奪う。
律子は舌を絡ませ、早稲田に応えた。
「ちょっと、体位変えても大丈夫かな?」
「はぁん…ど、どうぞ御自由に」
早稲田は律子を起こすと、壁に手を付かせ、バックから突き上げる。
じゅっぐっじゅっぐじゅっぐ…
「あぐぅん!あふぅん!す、すごいです!!わ、早稲田さ、うぐぅぅぅ!!」
先程よりも深い抽送に律子が声を上げる。
早稲田のペニスはコツコツと、壁のようなものに突き当たっていた。
「奥っ!奥にあたっ…!!ひぎん!!」
「うわぁぁぁ!!ど、どうかな!!いい御茶になりそうかな!?」
「え、ええっ!うぐぅん!!早稲田さんのおち○ぽなら、き、きっと!!」
「はぁん、ぁあん…」
ちゅぷぅ、くちゅう…
しばらく早稲田と律子の行為をカメラに収めていた太一だったが、今は他の部員たちと一緒に座り、隣の部員の胸を吸っていた。
「君、胸大きいね」
「あ、ありがとうございます」
ヴァギナを犯している指は、愛液でテラテラと光る。部員は腰をグラインドさせ、指を受け入れる。
目を早稲田に戻すと、律子が上になって腰を振っていた。
「ほらっ!もっと腰を動かして!!」
「は!はいっ!はぐぅん!あっぐぅぅ!!」
ぐっぷぐっぷぐっぷ…
早稲田は律子の動きに合わせ、腰を突き上げる。突き上げる度、ペニスが奥の子宮口を叩く。
処女を失ったばかりの少女に自ら腰を振らせる。その淫靡な光景に早稲田の欲望が、ペニスの先端へ駆け上ってゆく。
じゅっぐじゅっぐじゅっぐ…
「あぐぅぅん!はぁぁん!!」
「くぐぅぅ!!も、もうイくよぉぉぉ!!」
「き、きてくださぁぁぁぃぃぃん!!」
どぴゅるぅぅ…どぴゅぅ…どくどく…
ペニスを根元まで突き入れた状態で、早稲田は精液を膣に注ぎ、その感覚に律子が果てる。
「はぁん…あぁぁん…」
未だ膣内で脈打つペニスに身を振るわせる律子。
射精が完全に静まると、律子は慎重に早稲だから離れ、茶器に跨り愛液と、破瓜の血、早稲田の精液に抹茶の混ざった液体を、ポタ、ポタと注いでゆく。
その光景を撮影する太一。
全て注ぎ終えると、律子はそれを部員たちに振舞う。
部員たちはそれを飲み、早稲田の精液の濃さや、行為中のテクニックを褒め称えていった。
「それでは、道具の手入れをさせて頂きます」
律子は三つ指を立て、一礼すると、早稲田の、愛液と精液で汚れたペニスを舐め上げ、綺麗にしていった。
「おぉぅ…」
早稲田は腰を浮かせ、律子の奉仕に身を任せた。
「いかがですか、竹内さんもお茶を立てていかれては?」
「そうですね。ちょっと、やってみようかな?」
「ではどの部員でお茶を立てられますか?新入部員の真琴などは、律子と同じ処女ですし、副部長の美紀は、二穴を使ってお茶を立てることもできますが」
「じゃあ、まず真琴さんでやってみようかな?そのあと、副部長さんの二穴ってのを、早稲田とやってみるってことで」
「ではそのように。真琴、竹内さんにお茶を立てていただけるよう、おま○こを濡らしなさい」
「はい」
真琴と呼ばれた少女が、深々と頭を下げた。


「ふふふん♪ふふふん♪地球儀を〜♪」
祐司が鼻唄を歌いながら、旧校舎にやってくる。足取りは、どこか軽い。
今日は5月1日。琴音が戻ってくると言っていた日だ。
祐司は職員室から借りた部室の鍵を、チャリチャリと鳴らしながら廊下を進んだ。
一番奥の部屋、部室に辿り着くまでがもどかしい。
それほど琴音に会えることを楽しみにしている自分をおかしく思いながらも、琴音とこれほど会わなかったのは初めてのことだから、と納得させた。
鍵をドアに差し込む。
しかし鍵を回しても、開いたような感触が無い。
「?」
不思議に思いながら、ドアに手を掛けると、何の抵抗も無く、スッと開いた。
「やあ、おはようございます」
待ち構えていたのは、誰でもない、新聞部部長・久保山大和だった。
「って、あれ?部長さん…?」
「はい?なんですか?」
大和は自分の椅子に座り、パタパタと扇子で扇ぐ。
「いや、ってゆうか…何でいるんですか?」
「不躾ですね。新聞部の部室に、部長がいてはおかしいですか?」
「いや、そうじゃなくて…」
「冗談です」
祐司が困る姿をおかしそうに眺めていた大和が、きっぱり言い放つ。
祐司は「はっ?」とわけの分からないといった表情を浮かべた。
「もともとは休むつもりだったんですがね、皆川君のことが、私も気になっていましたから、用事を早く切り上げて、学校に来ることにしたんですよ」
もっとも、着いたのは授業が終わってからですが、と大和は笑った。
普段ならば、午後の授業に間に合う時間だが、GW中日は、これがインフルエンザならば即学級閉鎖となる程度の欠席者を生む。それがわかっているから、午前の授業で終わってしまう。
それでも授業に出るのは、部活動がある生徒と特進クラスの生徒。それとズル休みができない、まじめな生徒だ。
「で、皆川君は、一緒ではないのですか?」
「いえ。僕も部室に来てるんだと…」
「学校には、来ていたのですか?」
「クラスには寄ってみましたけど、見なかったですね」
しばらくの間。
その間を嫌ってか、祐司は「そのうち、来るんじゃないですかね」と自分の席に着いた。


コンビニで、黒いジャージにキャップ帽を目深に被った少年が立ち読みをしていた。
少年の正体は琴音。体型を隠すジャージに、髪をキャップ帽の中に収めている姿は、どこからどう見ても少年そのものの姿だった。
(少年そのものってことは無いでしょうに…)
心の中でセルフ突込みを入れる琴音。
立ち読みをしながらも、ちらちらと視線を店の外に送る。
と、店の前を自転車で通り過ぎる中年女性の姿が見えた。
琴音はその女性を見送ると、本をラックに戻し、コンビニを出た。
琴音はそのまま小岩井蕩児の家の方向へ足を向ける。急ぐわけでもなく、しっかりとした足取りで。
琴音が見送ったのは、蕩児の母親。
蕩児の母親は昼の12時から夕方5時までの間、パートに出る。
また、蕩児には小学生の弟がいるが、今日はいつもどおりの時間数学校があるので、3時までは学校だ。
父親は夜まで仕事。
そのため、今家に居るのは、引き篭もったままの蕩児のみだ。
奏が祐司を前にしてとった行動。奏が祐司に対し、あのような言動を行うのは異常だ。それは長年付き合わされた琴音になら、あの時点で気付いても良かったことだ。
だが、あの時は祐司が関わっていることだけにどこか冷静さを失ってしまっていた。
冷静になった今、琴音は考える。奏があのような言動を、なぜ行ったのか。
それは恐らく、犯人を追い詰めた奏が返り討ちに遭い、祐司や、琴音に被害が及ばないよう遠ざけるためのものではなかったのか。
それならば納得がいく。
奏は今頃、どう抜け出すか算段している頃なのだろうが、祐司を安心させたい手前、勝手ながら琴音は個人で奏を救う為に行動することにした。
5月1日に決行することを決めたのは、犯人と目されるKが、GW中に何らかの計画をしている可能性があったから。
祐司を連れてこなかったのは、奏のことを知ればこちらの計画も聞かずに飛び出してしまいそうだったからだ。
いや、ただ奏のことで必死になる祐司を見ているのが、自分に耐えられなかっただけかもしれない。
Kが犯人と言うことは、まず間違いないだろう。
だが、恐らく彼は実行犯に過ぎない、それが琴音の予想だった。
事件の流れからして、彼を動かしている人物。主犯格は別にいるはず。
その主犯格として目をつけたのは、事件の始まりにいる人物、小岩井蕩児だ。
おそらく冴崎このかにいじめられていた蕩児は、Kと共謀し、退学にまで追い込んだ。
しかし蕩児の復讐は何らかの形で今も続いている。実行犯のKを利用し。
がささ、と民家の生垣から音がした。
目を向けると、そこから野良猫が顔を出していた。
一瞬ヒヤッとしたが、音の主が猫と分かり、胸をなでおろす。
このあたりの住宅街は、平日の昼間は人がいなくなったように静かになる。
目撃されても自分だとバレはしないだろうが、人目にはなるべく着かない方がいいのは間違いない。
一旦止まった思考を再開させる。
主犯を蕩児と読んだ琴音は、蕩児の家を張り込むことにした。
そしてその成果として、小岩井一家の生活サイクルと、深夜2時から2時半までの間、毎晩蕩児を訪ねる男がいることが分かった。
琴音は数日にわけ、その男がどこへ帰っているのかを尾行した。
そしてそれは琴音の予想通り、Kの家に帰っていたのだ。
これで琴音の予想が間違いないことが証明された。
ではなぜ、蕩児はKを自らの家に招いていたのか。
蕩児がKに直接指示を与えているのだろうか?
だがそれならば、携帯にでもかければいい。
誰かに聞かれることを恐れた?
通話記録が残るのを恐れた?
だがそれならば、誰かに見つかる恐れのある、特に家人のいる家に、深夜迎え入れる危険を冒しているのはなぜか?
それならば、家人に不審がられる危険を冒してでも、直接会わなければならない理由があったはずだ。
ならばその理由は?
考えられること、それは蕩児が、Kから直接、何らかの復讐の物証を手渡されているのではないだろうか。
そうでなくとも、蕩児の部屋には、復習の証拠が残っているはずだ。
蕩児との関係から、Kを直接問いただすことも考えたが、奏はそれを行って返り討ちに遭っている。
それに、Kから連絡が行き、蕩児が証拠を破棄してしまうかもしれない。
ならば、直接蕩児を問い詰める、強硬手段にとって出ようと言うのだ。
程なく、蕩児の家に辿り着く。
門を開け、敷地に侵入。
そして裏に回り、生垣の下を探す。
と、そこに工作で作ったような巣箱が、木の影に隠すように置かれていた。
巣箱を手に取り、中にある家の鍵を取り出す。
これは小学校に通う弟の為の置き鍵だが、ずっと小岩井家を観察していた琴音はこの場所に鍵が隠されていることを知っていた。
(無用心ですよ、全く)
しかし、その無用心さ、この街の治安のよさが今は幸いした。
鍵を開け、ゆっくり玄関を開ける。
目前に現れる階段。
蕩児の部屋は二階の、北西の部屋。
不法侵入だが、復讐の証拠がある自らの部屋に、第三者を呼び寄せるようなことはしないだろう。
意を決して階段に足を踏み出すが、二歩目がなかなか踏み出せない。
目を階段の上に向ける。
二階に溜まったどす黒い空気が、階段を伝い一階にまで流れ出ているような感覚に襲われる。
「くそっ!」
小さく呟き、数度、動かない足を叩く。それでようやく二歩目が踏み出せる。
それを見て、ホッとする。
二歩目が済めば、三歩目からは楽に進めた。
階段を登りきると、あとは奥にある蕩児の部屋へ向かうだけ。
しかし二階に辿り着き、さらに足が重くなる。
琴音は足を引きずるようにして廊下を進む。
蕩児の部屋の前。
ドアを見るが、心配していた鍵のようなものは見当たらない。
とりあえずは安心するが、ドアを前に琴音は金縛りに遭ったように、身動きが取れなくなってしまった。
数度、深呼吸。
大丈夫、大丈夫だ。きっと上手くいく。私なら、上手くできる。大丈夫、大丈夫だ。
暗示を掛けるように言い聞かせ、ドアノブに手を当て、ゆっくり引く。
部屋の中から漏れ出る冷気。
そしてそれと一緒に中から、憎悪、嫌悪、殺意、恐らくこの世の負の感情全てが詰まったような空気が溢れ出した。
息を止め、その悪意に満ちた部屋に踏み込む。
中は冷房が掛けられ、ひんやりと寒い。
昼間なのにカーテンは閉められ、電気もつけられていないので薄暗い。
埃の溜まったベッド。
乱雑に散らかった床。
勉強机の上には大学ノートに、大きなデスクトップパソコンが置かれている。
部屋の中央に置かれたテーブルには灰皿から溢れた吸殻。
その上に、照明のコードにぶら下がった、胸に日本刀が突き刺さった屍体。
半ば白骨化したその屍体に蠅や、蛆がたかる。
そして、襲い来る腐臭――
「うっ…」
屍臭――
「おぅぇぇぇぇ!うぇっ!おぐぇぇぇ!!」
琴音は吐いた。
目前に広がる非常識な光景に、吐いた。
「うぇっおぇっ!うぇぇぇ!!」
まともな食事を採っていなかった琴音は、吐くものも無く、胃液ばかりが逆流する。
「うぇぇぇ!おぇっ!うぇっ!!」
胃液が無くなり、肺に吸い込んだこの部屋を空気を吐き出そうとする。
血液と結合し、体内を駆け巡った酸素も、全て吐き出そうと、この部屋の全てを体が拒絶する。
「うぐぇぇぇ!うぇっうえっ!!」
なんで?
死――
誰が?
死――
なにが?
死――
誰?
死――
違う。
死――
これは何?
死――
考えがまとまらない。
何が?
死――
ここは?
死――
違う?
死――
何故?
死――
助けて。
誰か。
助けて。
助けて助けて助けてタスケテタスケテタスケテ――
「あっ…あっあっあっ…」
がたがたと震える手で琴音は携帯を操作する。
タスケテタスケテタスケテ――
見知った、最も安心できる、その人の名前を、その中に見つけた。


ヴヴヴヴヴヴ――
新聞部の部室。祐司の鞄に入れた携帯が鳴る。
「おっと…」
電話が掛かってきた瞬間、祐司の頬が緩む。
掛け主は、予想通り琴音。
「皆川君から、ですか?」
「ええ。みたいですね」
なるべく平静を装って答えるが、表情は緩んでいる。
それが分かるからか、聞いた大和はくすくす笑っている。
大和の笑いには気付かず、祐司は電話に出た。
「もしもし。琴か?」
『……』
しかし返事が無い。
「おい、琴?どうした?今どこにいるんだ?学校か?」
『……』
無言。
祐司の表情が強張ってゆく。
「おい、琴!どうした?!今一人か!?何かあったのか?!」
『…祐ちゃん…助けて…』
電話から聞こえる、弱々しい琴音の声。
「琴!?どうした!?今どこだ!!」
『怖い…わからない…なんで、こんなことに…?』
「ちょ!どうしたんだ!?誰か他にいるのか!?」
『私…私…』
「琴!おいっ!琴!!」
琴音の弱々しい声に、冷静さを失う祐司。
大和はその祐司を見て状況を把握し、メモを渡す。
メモには「まず、皆川君を落ち着かせて。深呼吸」と書かれていた。
祐司は大和を見、こくりと頷く。
「琴。とりあえず、落ち着いて。深呼吸してみろ」
『……』
少しの間の後、すぅーと深い息を吸う音。
「落ち着いた?」
『……』
沈黙は肯定だと受け取る。
再び大和からメモが渡される。
メモには「今どこにいるのか、他に人がいるか、周りに何が見えるのか」と書かれている。
「琴、今、どこにいるか分かるか?」
『…はい。小岩井…蕩児さんの家です…』
「小岩井蕩児?」
どこかで聞いたような名前だなと考えていると、大和が「例のいじめに遭っていた生徒ですね」と助け舟を出した。
「他に、誰かいるのか?蕩児の家族とか?」
『……るんです…』
声が小さくて聞き取れない。
「ごめん、上手く聞こえなかった。何だって?」
『…死んで…るんです…蕩児さんが…』
「死んでる?誰が?蕩児が?」
一瞬理解できず、聞き返す。
『分からないんです!何でこんなことが!?何で…なんで…』
あとは琴音のすすり泣く声だけが聞こえる。
「ちょ、琴!琴!!」
「貸して下さい」
痺れを切らした大和が、祐司から携帯を奪う。
「あっ!」
「もしもし、皆川君。聞こえますか、私です。大和です。わかりますか?」
なるべくゆっくり、穏やかな声で話しかける。
『…はい…』
琴音は鼻を啜り、声を絞り出す。
「まず、少し落ち着きましょうか。大きく息を吸って、吐いて…」
電話の向こうで、大和の声に合わせ、琴音の呼吸音が聞こえる。
「落ち着きましたか?」
『…少し…』
「では、少し簡単な質問をしましょう。あなたの名前は?」
『皆川…琴音です…』
「歳は?」
『15…』
「誕生日は?」
『10月6日』
「では、好きな食べ物は?」
『えっと…ちょっと、思いつきません…』
「はは。いいですよ。無理はなさらなくても」
琴音が落ち着きを取り戻したと感じると、大和は確信部分に触れ始める。
「今、貴方はどちらにいますか?」
『蕩児さんの…家です…』
「そこで、何を見ました?」
『蕩児…さんが…蕩…児…さん…が…死ん…で…』
「そうですか。それは…怖い思いをしてしまいましたね…」
『……』
「でも大丈夫ですよ。私は味方です。それに、ここには垣内君もいます」
大和が携帯を祐司に向ける。
「琴、聞こえるか?俺だ」
『祐司さん…』
「そう。だから何も怖がる必要は有りません。大丈夫。大丈夫」
『…はい。ありがとうございます…あの、祐司さんに、代わっていただけますか?』
「ええ」
どうぞ、と大和が祐司に携帯を返す。
祐司は礼を言った後、携帯に出た。
「琴。俺だ。代わった」
『…はい。分かります。祐司さんの声は、聞き慣れていますから』
「そ、そうか…」
向こうで琴音が「ふふっ」と笑った。大和のおかげで随分落ち着いたらしい。


蕩児の部屋の隅で、膝を抱えて電話に耳を傾ける琴音。
『そ、そうか…』
なんだか間の抜けた祐司の返事が、琴音を笑顔にさせた。
『怪我とか、してないよな?』
ようやく落ち着きを戻し、最も聞きたかった声が全身に染み渡る。
「ええ。大丈夫です。…大丈夫ですから、もう少し、電話、聞いていてもらえますか?」
『ああ、琴がいいって言うまで、ずっと聞いてる』
「ありがとうございます」
こうやって電話で話しているだけでも、祐司を近くに感じる。
祐司から勇気を分けてもらえる。
琴音は自らの吐瀉物に足を取られながら、立ち上がる。
「今、私は小岩井蕩児の部屋にいます。部屋の中には男…だと思いますが、死体が有ります」
口に出して言うことで、思考を纏めようと試みる。
「死体には日本刀が刺さっています」
死体に近づき、状態を確認する。
体中に湧く蛆。目は落ち窪み、指先は骨が露出している。
「専門家ではありませんから、よく分かりませんが、殺されてから一、二週間ということは無いでしょう。ほとんど白骨化して…もしかしたら、事件があった頃に、もう殺されていたのかも…」
日本刀は完全に錆び付いている。
「胸に刺さった日本刀は、背中から振り下ろされたようですね…ということは、殺された後に吊るされたのでしょう…」
首に巻かれた紐は、照明のコードに結ばれている。
薄暗くて分からなかったが、よく見れば床や壁に血痕らしき痕が残っていた。
「血痕が、部屋に残ってます…この部屋で殺されて…」
この死体の主が小岩井蕩児であったのなら、恐らく犯人はK。
しかし、ならなぜ、この死体のある部屋に、Kは通っていたのだろう?
死体の状態が気になった?
いや、それ以上に、この状況をどうして家族が見逃していたのだ。
引き篭もっていたから?
馬鹿な。
食事を全くとらない息子を不思議に思わないはずが無い。
部屋中に立ち込める腐臭が、外に漏れないはずが無い。
Kのみが出入りする状況を、どうして家族が許したのか?
チリチリとした痛みが額に走る。
頭を振り、袋小路に陥った思考を霧散させる。
ここで考えているだけでは、同じ場所を回り続けるだけだ。
「祐司さん、聞いてくれてますか?」
『ああ。聞いてる。あんまり無理、するなよ』
「はい。危なくなったら、すぐ逃げますから」
祐司の声でようやく戻った思考。
周りを見回す。
勉強机にあるデスクトップPC。
琴音はそのPCの電源を入れる。
立ち上がる間に、机に重ねられた大学ノートに目を通す。
ぺらぺらと捲る琴音の手が止まる。
日記――
記述に細かく目を通してゆくが、日常の記述が記されている。間違いなく日記だ。
「祐司さん!日記です!小岩井蕩児の日記です!」
『日記?』
「はい」
細い、丁寧な文字で書かれた日記。これに何か書かれているかもしれない。
日記には通し番号が1〜18まで振られている。
一冊目の、最初の記述は中学一年の二学期から。
「どうも、昔からいじめに遭っていたようですね」
日記の大部分はいじめに関する記述と、いじめた相手や何もしない教師への恨みが綴られている。
事件とは関係ない部分だと、琴音は読み飛ばす。
日記はようやく高校入学差し掛かる。
蕩児は桜桃華学園に入学することが、上級市民に仲間入りするパスポートか何かと勘違いしていたようだ。
学園に入学したことで、今まで自分をいじめた生徒や、教師を見下す立場になったと優越感を覚え始めている。
琴音が側にいれば、「バカなことを考えるな」と言ってやっていたことだろう。
案の定、学園でいじめが再発する。
きっかけはテストの結果だった。
主犯格となるのは、冴崎このか。
もともと人間付き合いは下手な部類の人間だったのだろう、守ってくれる人間も現れず、6月18日を最後に、学園へ姿を現さなくなる。
その後の日記には、このかへの復讐に燃える蕩児の言葉が綴られている。
その中に「MCプログラム」という文字があった。
「MCプログラム?」
内容については詳しく触れられていないが、復讐の核となるものであることが窺えた。
蕩児はしばらくの間、部屋に篭ってこのMCプログラムの開発に当たった。完成に漕ぎ着けられない苦悩と、このかへ向けられた憎悪の言葉が並ぶ。
7月5日。
MCプログラム、完成――
家族への実験は、うまく行った。あとは冴崎に掛けるだけだ。
明日、学校へ行こう。学校のパソコンルームに呼び出して、MCプログラムを掛けてやる。
石原や五木も一緒に来るかもしれないが、それだったら二人にも一緒に掛けてやればいい。
明日だ。全部、明日だ。
そして、唯一蕩児が目撃された7月6日。
彼はこのかをパソコンルームに呼び出すことに成功する。
このかは彼に引導を渡してやろうと呼び出しに応じたのだろう。
蕩児が予期した通り、石原、五木の二人の取り巻きを引きつれたこのかは、しかし二人ともどもMCプログラムの餌食になってしまう。
「このかさんは、蕩児の作ったMCプログラムに掛けられたようですね」
『MCプログラムって、何なんだ?』
電話の向こうから、祐司の声。
「さあ…詳しい記述が有りませんので…しかし…」
その後の、このかが従順になってゆく様子に、毎夜の如く繰り返される性行為。
単なる妄想ではないかと疑いたくなるような記述が、その後は並ぶ。
「…もしかしたら、MCプログラムと言うのは、被験者を一種の催眠状態にするものではないでしょうか?」
であれば、今の状況も理解できなくもない。
MCプログラムの実験に使われた家族。彼らが催眠状態に置かれ、蕩児の部屋で何が起きても気にならないような暗示が掛けられていたとしたら?
「とはいえ…俄かには信じられないことではありますが」
ちらと蕩児の遺体へ目を向ける。
今目の当りにしている状況ですら、本来信じられるようなものではないのだ。
さらに日記を読み進める。
蕩児は守衛の名振を仲間に引き込み、夏休み中このかを犯し続けた。
「夏休み、ずっと寮にいたのは、このためですか…」
目頭を押さえる琴音。
『え?なんだって?』
「いえ…なんでもありません…蕩児は…このかさんと…その…なんというか…」
『え?何?蕩児と、えっと、このか?その人が何だって?』
口に出して言うことが躊躇われる内容のため、口ごもっているのに、祐司の無神経さには嘆息せざるを得ない。
「だからHですよ!蕩児はこのかさんを犯していたんです!少しは察してください!!」
『あ、ご、ごめん』
「まったく…いいですけど、そういう察しが悪いの、昔からでしたし」
『ご、ごめん…』
まったく、と頭を抱えるが、それはそれで祐司らしいと笑みが漏れた。
しばらく、どのようにこのかを犯したかが並ぶ日記の記述。
9月20日。蕩児を殺す。
「うっ…!?」
突如現れたその文字に、息を呑む。
文字は筆圧の強い、乱雑なものに変わっている。明らかに別人の筆跡。
「9月20日…このかさんが自主退学する前日に、蕩児は殺されていたと言うことですか…」
『誰が?!なんで!?』
「さあ、そこまでは…ただ、犯人は日記の続きを書いていたようです」
Kが毎日通っていた理由はそれだったのか?
それだけの為に?
日記を読み進める。
親父が持っていた日本刀を持って部屋に入ると、泣いて謝ったが、その姿がおかしかった。
日本刀を突き刺すと、叫びながら血を噴出して、動かなくなった。
このかは野良犬に犯させてやった。犬相手に、泣きながら腰を振っていやがった。犬相手に、大した淫乱女だ。
あんな女、蕩児みたいに相手にしなくて正解だった。
MCプログラムの使い方は、蕩児に教わった。これを使えば、学園中の生え抜き女を自由にできる。
慌てる必要はない、じっくりやっていけばいい。
まずは、このかの取り巻き、二人を犯してやるか。このかと違って、手付かずみたいだからな。
守衛の名振、あいつはあのまま利用しよう。色々と役には立ってくれそうだからな、蕩児がやってたみたいにな。
9月21日。
このかが退学することになった。まあ、あれだけやれば、当然だな。
誰かが見たとかそういう話もあったが、俺のことは誰にも見られてない。
新聞部の井口が色々と騒いでいるらしいが、誰も協力しないだろうから、問題ない。
まずは石原と五木だ。呼び出すことができれば、後は簡単だ。蕩児がしていたように、楽しませてもらおう。
――
9月29日。
新聞部の竹内を仲間にした。井口の行動を知るのにも使える。
それに新聞部なら、取材か何かとか言って校内を動き回れる。
竹内には、仲間の証として石原と五木を振舞ってやった。筆下ろしがクラスメイト相手の3P。いい思い出になるだろう。
――
10月3日。
保険医の桜花はこの学園のOGらしい。
竹内が一度やってみたいと言っていたから、ちょうどいい。あれも獲物に入れよう。
――
10月29日。
いつも夕菜のまわりをうろついていたチビは、3組の早稲田というらしい。
夕菜は極上の獲物だ。早稲田を仲間に入れれば、役に立つだろう。
――
11月――
12月――
――
――
彼らは次々に学園の生徒を餌食にしてゆく。琴音は新しい生徒の名前が出るたびに、その名を告げてゆく。
日記の中で、ようやくあのバスの謎も解けた。
そして、琴音が最も知りたかった事実にまで、辿り着く。
その記述に辿り着いたとき、琴音は息を呑んだ。
それは琴音にとっては、一種残酷な宣告だった。だがそれでも、この事実を祐司に伝えなくてはならない。
それが、琴音がここに足を運んだ理由なのだから。
「…奏さん…」
擦れた声。
『奏さん!?』
祐司が奏の名前に、強く反応する。
『奏さん!?奏さんが、どうしたんだよ!?』
「奏さんも…やはり彼らの被害に遭っていたようです…」
『奏さんが…!?』
「ええ、ですから…」
琴音はこみ上げてきたものを、ぐっと堪える。
「あのとき、祐司さんにしたことは、本心ではなかった、ということです…」
『……』
返って来たのは無言。少しは安堵の声や、喜びの声を上げればどうかと思う。
「よかったですね、祐司さん。これで、あの告白は全て無しということです」
だから琴音自らが促す。身を切るような言葉を、自身から搾り出す。
『あっ…うん…』
ようやく帰ってきた祐司の言葉は、そんな曖昧なものだった。
その後は同じように、新しく被害に遭った生徒の名前だけを告げてゆく。
驚いたのは、未汐が被害に遭ってからの、被害者の数だ。
それまでは一月に3〜4人程度の被害者しかいなかったのが、以降は2〜3日に数人のペースで被害者が増えていた。
そして、今年の四月まで読み終え、琴音は日記を閉じた。
「ふぅ〜〜」
っと長いため息。
「日記は、以上です」
『そうか…とりあえず、警察に』
電話の向こうで、小さく『警察は、今のところやめておきましょう』と大和の声が聞こえた。
『えっ?でも』
「私も、今のところ部長の考えに賛成です」
『琴音まで…だって、もう警察に頼るしか…』
祐司は当然のことながら、琴音も警察に通報すると考えていたために、驚きの声を上げた。
「それもそうですが…日記に載っている女子生徒の名誉についても考えなければなりませんし、私も、あまり褒められるようなことはしていませんし…それに何より、実のところあまりに常軌を逸した事態ばかりで、どこかで冷静に考えたいと思っています」
長い言葉を喋り、疲れたのか琴音は深い息を吐いた。
この空間では、言葉を発することですら、体力を消耗させるのだ。
「それらをクリアした上で、警察には…今はとりあえず、部室に戻り、そこで今後について話し合いましょう…」
『わかった。じゃあ、今から迎えに行くから、そこで待ってろよ、琴』
「ええ。よろしくお願いします」
その言葉を最後に、琴音は電話を切った。
終わった――
長い緊張状態から解き放たれ、琴音は糸の切れた人形のように、机に倒れこむ。
これで全てが終わった。
祐司は自由になった奏に、再び告白をするだろう。
良い部分も、悪い部分も知った仲だ、きっと上手く行く。
自分は二人を祝福し、見守っていこう。
やがて琴音の脳は、思考を止めた。


部室。
「それじゃ、俺、琴迎えに行ってきます!」
「あ、ちょっとちょっと」
電話を切り、今にも駆け出そうとする祐司を、大和が止めた。
「小岩井君の自宅、どこだか分かってるんですか?」
「あっ…」
祐司の動きが止まり、ぽりぽりと頬を掻く。
「まったく…」
呆れたように、大和は扇で頭を掻き、メモを渡した。
「これが住所です。大体の場所、分かりますか?」
渡されたメモに目を通す。幸いにも、見知った町名で、大体の見当がついた。
祐司は「はい」と頷いた。
「それでは、ついでにこれも」
と、今度は鍵を渡す。
「これは?」
「私のMTBの鍵です。歩いていくには、距離がありますからね。旧校舎の裏に止めてありますから、すぐ分かるでしょう」
「あ、す、すみません」
「いえいえ。それより早く、皆川君を迎えに行ってあげて下さい。いつまでも、死体と一緒じゃかわいそうですから」
「はい。ありがとうございます」
大和に礼を述べると、祐司はバタバタと埃を立て、部室を出て行った。
にこにこと笑いながら手を振っていた大和だが、祐司を見送るとすぐさま携帯を取り出した。
表情はそれまでとは違い、厳しいものになっている。
大和の電話に、彼はすぐに出た。
「もしもし、私です。実は、例の件で動きがありまして…ええ。どうも、お互い部下の管理ぐらい、ちゃんとできませんとね」



デスクトップパソコンの、低いファン音だけが響く部屋で、再び琴音の脳が活動を始めた。
思考が止まったのは5分だっただろうか?
それとも3分?
実際には1分にも満たないその時間が、琴音には随分長い時間のように感じられた。
事件の経過に思考をめぐらした琴音は、続いて今後の行動について考え始める。
祐司はここに迎えに来るといった。
祐司のことだから、言葉の通りこの家まで迎えに来るのだろうが、当時の弟が帰ってくる恐れもある。隣人に発見されるリスクも、なるべくなら避けなければならない。
ならば自分はここを離れ、適当な場所に移動した後、祐司と連絡を取った方がいいだろう。
その後は部室に移動し、大和も含め、今後の対応を話し合おう。
日本刀はKが持ち出したものであれば、女子生徒たちとのことを伏せたままでも、蕩児殺害犯として捕まえることは可能だろう。
日記は…とりあえず持ち出した方がいいか。奏や未汐も含め、公開されれば大きな問題に発展する。
彼女らのことを考えれば、闇に葬った方がいい事実だ。
MCプログラム…
MCプログラムはどうしたらいいだろうか?
その実効性について、実証すべきではないのか?
でなければ、日記にある記述が事実だと証明できないのではないか?
琴音は体を起こし、目の前にある液晶モニタに目をやる。
デスクトップのアイコンに「MCプログラム」の文字を見つけた。
(探す手間が、省けましたね)
自分しか扱わないPCだという前提とは言え、隠そうとしない名前の付け方は、少し間の抜けたように感じた。
アイコンの中には、いくつかのプロジェクトが保存されていた。
どれがどういった役目を果たすかは分からないが、とにかくこのどれかがMCプログラム本体のはずだ。
琴音はコピーするものは無いかと、机を調べる。
すぐに引き出しの中に、空のDVD−Rを見つけた。
(悪いですが、少し借りますよ)
ちらりと、後ろにぶら下がった蕩児に目を向ける。
その瞬間、琴音の動きが止まった。
部屋のドアが開いている。
そして、
「よお、何やってんだ、お前?」
そこに、立っている人物――
「あなたこそ、人の部屋に入るときは、ノックぐらいしたらどうですか?康介さん」
「不法侵入者に言われたくないな。それに一応、俺の使ってる部屋なんだよ、ここは」
康介は笑った。


→進む

→戻る

桜桃華学園・新聞部のトップへ