11


 昼を忘れたような、薄暗い蕩児の部屋。
腐臭の立ち込める部屋で、琴音と康介は対峙していた。
「部活はどうしたんです?以前、顔を見せてないって、部長が心配してましたよ」
「サボったよ。しかし、虫の報せってのは、信じてみるもんだな」
ドアの前から睨みを利かせる康介。だが、琴音に動揺した様子は無かった。
「この部屋、少し、掃除したほうがいいですよ」
琴音は普段と変わらない口調で話す。
「どうせ汚れんだ、掃除するだけ無駄だろ?」
「それに冷房もつけっぱなし。電気代がもったいないじゃないですか」
「なんだお前?俺にそんな説教しに来たのか?」
「済みません。性格ですから」
冷静に見える琴音だが、内心では、落ち着け、落ち着けと何度も自分に言い聞かせていた。
冷静になる時間を稼ぐために、無意味な会話を繰り広げているに過ぎないのだ。
――落ち着け!落ち着け皆川琴音!!大丈夫だ、冷静になれ!!追い詰められているのは私じゃない!現場を私が抑え、相手を追い詰めているんだ!!――
しばらく無言で睨み合う二人。
――大丈夫!素数を順番に数えてゆけるぐらいに、私は冷静だ!冷静になれば、負けるはずは無いんだ!!――
康介は制服のポケットからタバコを取り出す。
「タバコは止めた方がいいですよ、体に悪いですから」
「そんなもん、俺の勝手だ。お前に言われる筋合いはねぇよ」
康介は火を点け、煙を吐き出す。
あてつけのように、コホンと琴音は咳を一つした。
康介がタバコを吸う間、期せずして琴音は思考を巡らす時間を得た。
状況の整理。
全てを記した日記に、MCプログラム、そしてなにより康介自らが殺害した蕩児の遺体の放置されている部屋に踏み込んでいる。
この部屋を外部の人間に知られては、康介にとって致命的だ。
そして自分はすでに外部への連絡を済ませている。
連絡を受けた祐司が、今こちらに向かっている。
徒歩か、バスか、移動手段は分からないが、遅くとも30分弱で到着できる距離だ。
康介は、自分が外部に連絡を取っているということは知らないだろう。知っていれば、これほど冷静にはいられないはずだ。
となれば、それは自分にとって最後の一手。外部に連絡を取っていることは悟られずに、康介との戦いは進めてゆこう。
一番気をつけなければならないのは、追い詰めすぎて康介を暴走させないこと。
腕力に頼られては、琴音に勝ち目はない。
時間を稼いで稼いで、祐司の到着を待つ。
それが自分の勝利の条件だ。
「なんか、暗くねぇか、この部屋」
タバコを吸い終えた康介が、部屋の電気をつける。
明かりの下に晒される蕩児の遺体。
蛍光灯に照らされた遺体は、暗い部屋にあったとき以上の存在感を持っていた。
剥き出しになった骨。
落ち窪み、陰になった目。
傷口に湧く蛆。
それらが琴音の目に、はっきりと焼きつく。
「うっ」
冷静を装いたかった琴音だが、その光景に息を呑んだ。
口元を押さえ、目を大きく見開き、息が荒くなる。
琴音の恐怖に歪んだ表情に、康介はニヤリと笑った。
「なんだ、愛想のない奴だと思ったら、そんな顔もできるんじゃねぇか。結構、そそるぜ」
康介の軽口に、応戦するほどの余裕は、今の琴音には無かった。
目を離そうとするが、蕩児の遺体から目が離せない。
まるで呪いにでも掛かったかのように、動けずにいる琴音。
その琴音に、康介は歩み寄り、胸に手を伸ばす。
「ひっ…」
「ちっ、本当に胸あんのかよ」
服の上からでは、膨らみもあまり感じられない琴音の胸に、失礼極まりない発言をする康介。
だが今の琴音には、その発言に対しても反応するだけの余裕は無かった。怯えた表情で康介を見上げる。
もともと琴音は康介の好みでもなければ、目星を付けた獲物でもなかった。
 しかし普段無表情を決め込み、自分に対しては嫌悪の感情を垣間見せる相手が怯えた表情を見せている。その姿は康介を高揚させた。
 手を服の下に潜り込ませる。
 「やっ…」
 琴音の手が康介の腕を掴み、侵入を防ぐ。
しかし、その力は非力。康介は気にせず、腕をぐいぐいと進ませる。
「あっ…あの、康介さん…少し聞きたいことが…」
「あぁ?なんだ?」
康介はブラの下に潜り込ませた手で胸を揉みながら、琴音の話に耳を傾けた。
琴音は嫌悪感を抱きながらも、ここで無理に抵抗すれば力ずくで襲ってくるだろうと、あえて強い抵抗を試みずにいた。
「私は…あのとき、女子寮からバスを見かけた日、あなたが事件に関わっているのではないかと、考えました」
「ああ、奏も言ってたな。なんでもあの日の朝、俺が部室で、事件のこと口走ったのが悪かったみたいだな」
「ええ、その通りです。私も奏さんも、バスを見た時点で、あれが事件と関係を持っているとは考えていませんでした。しかしあの日の朝、康介さんは執拗にバスと事件との関わりを聞いてきた。おかしいんですよ。あの時点でバスについて知っていたのは、部室に居た私、奏さん、未汐さん、祐司さん、部長さんの5人だけなんです。何も知らないはずのあなたが、どうしてバスの走行について知っていたのか」
「まああのときは、俺もちょっと焦ってたからな」
「ええ。少し、平常心は失っていたように見えましたからね。あの時点でバスに関して、康介さんがかかわりを持っていることはほぼ確定でした。そしてバスの件に関わった康介さんが、執拗に事件との関連性を探ろうとした。それに対して違和感を覚えた私と奏さんは、事件に関しても康介さんが関わっているのではないかと、考えました」
だが詰めようとした奏は、康介によって返り討ちに遭ってしまった。
「奏さえ操っておけば、他の奴は大丈夫だと、思ったんだがな」
しかし、琴音がこの部屋を嗅ぎつけ、あろうことか蕩児の殺害現場に踏み込んでしまった。
誤算――
だが大した問題ではない。ここで琴音を抑えてさえいれば。
――と、思わせておく必要が琴音にはあった。
この部屋で行われたことは、この部屋に残された証拠は、誰にも漏れていないのだと。だから、部屋の外に琴音を出さなければ、安全だと、そう思わせておかなければならない。
もし琴音が外と連絡を取っていたという事実が判明すれば、康介はこれほど冷静ではいられないだろう。
最後の最後まで、勝利者が自分であると信じさせておけば、時間稼ぎにも乗ってくるはず。
「しかし、康介さんが主犯だとすると、余りにも動機に乏しかった。動機の面では、冴崎さんに恨みを持っている蕩児さん以外にない。そこで私は、主犯が蕩児さんで、康介さんは実行犯だと、考えていました。ですが、この状況…」
琴音の視線に合わせ、康介の視線も、部屋の中央にぶら下がった蕩児に向けられた。
僅かに康介の手の圧力が弱まり、琴音は胸から、ゆっくりと康介の手を引き剥がす。康介はまるでそれに促されたかのように、琴音の体から離れる。
琴音はホッとした。
嫌悪を抱く相手の責めから解放され、琴音は冷静に考える余裕を与えられる。
「私はこの一週間ほど、この家を見張っていました。そこで、毎日、深夜にこの部屋に出入りしている人物を発見しました。そしてその人物を尾行することにしました。気付いてましたか?」
康介からは、「いいや」と素っ気のない返事が返ってきた。
「よかった。実は少し、不安だったんですよ。初めての経験でしたから…以前テレビで、探偵の尾行方法って言うのを見たことがあるんですが、どうもドラマの刑事みたいに、一人でやるものじゃないらしいんですね、実際は。チームでやるんですよ、数人でローテーションで交代しながら…」
「で、それがどうした?」
いらいらとした声が返ってきて、琴音はヒヤッとする。
康介と目は合わせないが、声だけで不機嫌だということはすぐ分かった。
もう少しこの話を続けたかったが、予定変更。機嫌を損ねてしまっては元も子もない。
「ちょっとした自慢ですよ。康介さんを出し抜ぬけたという」
康介の興味を引きそうな話に頭をめぐらせる。
「蕩児さんの家に出入りしている人物が、康介さんだと確証を持ったとき、つまり、深夜、この家を出て行った人物が、康介さんの家に帰って行くのを確認したとき、確信しました。私の推理が当たっていたのだと」
しかし、と続ける。
「実際中へ入ってみると、私の推理は完全に崩れてしまいした。まさか殺されているなんて、誰も考えませんよ、一番恨みを持っている人間が。だから、私には分からないんです。なぜ、蕩児さんが殺されなければならなかったのか。だってそうでしょう?冴崎さんへ対して行った行為、それにその後、あなたの行った行動。どう考えても蕩児さんが生きていて困ることは無い。いえ、むしろ生かして、協力させた方が好都合のはず。なぜ?」
康介へ目を向ける。康介は腕組みをしたまま、微動だにしない。
「主導権を握りたかったから?いえ、康介さんなら殺さなくとも、蕩児さんから主導権は奪えたはず」
力関係で康介が下なら、殺すなんてことは考えられなかったはずだ。
言い終わり、琴音はじっと康介の目を見つめる。
こういう輩は自己顕示欲と征服欲が強いはずだ。敵が敗北宣言をして、教えてくださいと頭を下げているのだ。話に乗ってこないことは無いだろう。
沈黙――
「冴崎さんと蕩児さん、それに康介さんの間に、何が起こったのですか?」
康介を促す。
「…まあ、いいぜ」
よし!
表情には出さないが、胸の内で歓声をあげる。
壁に掛かった時計に目をやる。まだ祐司と連絡を取ってから5分程度しか経っていない。
どのぐらい康介の話で引き伸ばせるか。
(どれだけでも喋ってください、付き合ってあげますから)
無駄な自分語りが始まることを期待しながら、琴音は耳を傾けた。


 
 初めてこのかを見たのは、入学式の日。
 一輪の可憐な花、と言えば陳腐な表現だが、俺にとっては正にそんな存在だった。
 ただ、その花は高嶺の花。外様の俺は、ただ遠くからこのかを眺めていられれば、それで十分満足だった。
 俺はこのかが好きだった。
 透き通ったあの声が好きだった。
クラスメイトと話しているときに見せる笑顔が好きだった。
 体育のとき、汗を弾かせる姿が好きだった。
 教室で目が合った時、返してくれた微笑が好きだった。
 このかに対する俺の感情は、もはや信仰と言ってもいいほどだった。
 このかがいじめをしていると知ったときにも、その信仰が少しも揺らぐことは無かった。
 むしろこのかは取り巻き達に祀り上げられて、いやいやいじめをしてると考えていたぐらいだ。
 夏休みが終わった頃、久し振りに会ったこのかの様子がおかしい事に気がついた。
 ほんの僅かなこと。
例えば笑顔が少し陰っている。
例えばほんの一瞬、沈鬱そうな表情を見せる。
気になった。
ずっと追って来た信仰の対象が、その輝きを失おうとしている。
このかは聖女で、常に輝き続けなくてはならない。
俺はそう信じていた。
だから、追いかけた。
このかから輝きを奪おうとする何かを。
そうしたらどうだ。
深夜、忍び込んだ学校で、俺は見た。
女子寮を抜け出したこのかが、裸で男に犯されているのを。
男は、このかによっていじめられていた、蕩児だった。
怒りしか感じなかった。
俺の聖女が、クズによって穢されている!
俺は怒りに任せて、蕩児に殴りかかった。
鼻血を流しながら怯える蕩児を、何度も殴った。
そして問い詰めた。
「このかに何をした!?」
と。
蕩児はマインドコントロールだの使い方だのを喚いた。
怒りに支配されていたそのときの俺には、よく理解できなかった。
蕩児を追い払った俺は、このかにシャツを羽織らせた。
このときようやく冷静さを取り戻した。
そうして思ったんだ。
よく考えてみろ。
悪魔に囚われていた聖女を助けたんだ。
俺は聖女を助けたナイトだ!
期待するだろ?
高嶺の花だったこのかが、今俺の手の届くところにいるんだ!
俺はこのかを助けたんだぞ?
だが、そんな俺に、このかが最初に言った言葉は何だったと思う?

ごくり…と、琴音は唾を飲み込んだ。
気圧される。鬼気迫る康介の迫力に。
「…なんと、言ったんです?」
震える言葉で、尋ねる。

“お前なんかに助けられるぐらいなら、死んだ方がマシだった”

ダァン――
「っ!?」
康介が琴音の腕を掴み、壁に押し付ける。
押し付けられた背中に鈍い痛みが走る。
「せっかく助けてやったのに!俺に助けられるぐらいなら死んだ方がマシだぞ!!バカにするな!!」
「つぅ!ぃたっ!」
ダンダンと何度も琴音を壁に叩きつける。
その度琴音は苦痛に顔を歪めた。
「だから、死ぬよりも辛い目に遭わせてやろうかと思ってな。蕩児が喚いてたマインドコントロールのやり方を必死で思い出しながら、犬に犯させてやった」
ほんの数センチの距離に康介の顔が迫る。その目は、正気を失っているようにも見えた。
「面白かったぜ。泣きながらひぃひぃ腰振ってよ。お前もすぐ同じ目に遭わせてやるぜ」
康介の膝が、ぐぃっと股の間にねじ込まれる。
琴音は必死に股を閉じて侵入を防ごうとするが、男の力には敵わない。
「も、もう一つ聞かせてください!目的が冴崎さんへの復讐なら、その後のあなたの行為の意味は!?ハーレムなんて作って、一体どうするつもりだったんです!?」
「いつも俺を見下してる生え抜きの連中への復讐だ!」
「復讐がハーレム作り!?やることが小さいですね!」
康介の爪が肩に食い込むが、迫力に押し切られまいと琴音は声を張り上げる。
「いいや。もっと愉快なことだ。俺のやろうとしてたことはな…」
一転、康介は静かな口調で、琴音の耳元へ囁きかける。
「いくらハーレムを作ったところで、自己満足だ。だから、完全に操ったやつらを街に放つ。面白いだろ?昼間の街でウチの生徒が男を襲うんだぜ?それもいたるところでだ。目撃者も、襲われた男も多数。これじゃあ体面を大事にする奴らの親も、学校側も揉み消せねぇ。面目丸つぶれ。どうだ?いい考えだろ?」
そういうことか。冴崎このかへの個人的な憎悪が、学園を含めた、生え抜きの全女子生徒へ向けられたのだ。
琴音は壁の時計に視線をやる。長い時間が過ぎたようにも思えたが、まだ20分も経っていない。
「今度のGWはちょっとしたパーティーをやるんだよ。まあ、ちょっとした予行演習だ。インターネットで参加者を募った、乱交パーティーだ」
「…何人ぐらい…集まりそうなんですか?」
「まあ、男は10人弱ってとこだ。お前も参加するか?」
康介が足を琴音の股に擦り付ける。琴音は嫌悪感に顔を歪める。
あと10分…
いや、もしバスが渋滞に遭っていたとしたら?
もし道を間違えて、到着が遅れていたら?
そんな不安が過ぎるが、もはやこれ以上時間は稼げない。
いや、この際はったりでもいいのだ。康介だって無駄な時間を過ごしたということは、こちらの策略にはまってしまったということは自覚するはず。
そして、その上で勝利宣言をしてやればいい。お前の負けだと、そう宣告してやればいいのだ。
康介は琴音のジャージを掴むと、縦に裂く。
ビリビリと高い音を立て、ジャージが破れ、飾り気のない白いブラが晒される。
「いやっ!」
胸元を隠そうとするが、腕を掴まれ、阻止される。
「もう少し、色気の出る下着ぐらい付けたらどうだ?」
「大きなお世話ですよ!」
両手を捻り挙げられる。もう考えている場合じゃない。教えてやるんだ。お前の企ては、もう全て終わったんだと。
「そんな怖い顔するなよ。せっかくだからお前も楽しめよ」
「いいえ。残念ですけど、そんな時間はないんです。もうすぐここに、人が来ますから」
「人?」
康介の眉が、ピクリと上がる。琴音は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。不安を見透かされないように。
「あなたが来る前に、外と連絡を取ってたんですよ。この部屋で見たこと全て、MCプログラムについても、部屋にあった日記の存在についても、すでに外に伝わっています。もう、あなたは終わり。残念でしたね」
「そうか…」
よし。まだ助けが来るには多少時間が掛かるだろうが、康介の圧力が弱まった。
「で、来るのはどっちだ?」
「え?」
勝ちを確信したのも束の間、康介の意味不明の言葉に詰まる。
「新聞部の連中だろ?だったら大和と垣内、どっちが来るんだ?」
「そんなことを聞いてどうするんです?どちらが来たとしても、あなたの負けには変わりないでしょう?」
二人のうちどちらかなら、ねじ伏せられるとでも考えているのだろうか?
「大和は…そうか、今日は学校に来てねぇはずだから、垣内か…」
「残念ながら、部長は来られているようでしたよ」
「そうか…でもまあ、あの大和がここに出張ってくるなんてことはないだろ。やっぱり、垣内だな」
「それが…どうしたと…」
康介の手がブラに伸びる。
「いやぁぁ!!」
「だったら見せ付けてやろうぜ!お前がヤられてる姿をよ!!」
ブラが引きちぎられる。白い肌に、膨らみのほとんどない胸。
最悪だ。
康介が暴走を始めた。
最も恐れていた事態だ。
しかも…康介の言うとおり、もうすぐ祐司が来るはず。
そうなれば…
「いやぁ!やめぇ!!」
「てめぇ!静かにしろ!!」
ドスン――
じたばたと暴れる琴音を、康介はベッドに押し倒す。
「こ、こんなことしてどうなるというんですか!無意味でしょう!!素直に…!」
「お前を犯したら、素直に掴まってやってもいいぜ!!」
「お願い!やめて!!お願いだから!!」
必死の懇願。だがそれも康介を喜ばせるに過ぎなかった。
「はははは!オラ!いい声で鳴けよ!」
「いやぁぁぁ!!」

バァン――

一瞬時間が止まる。
二人の視線が爆音とともに開けられたドアに向けられた。
息を切らした祐司の姿。
「祐司さ…」
祐司に飛び込んできたのは、琴音を襲う康介の姿。
「琴から離れろてめぇぇぇぇ!!」

ドォン――

怒りに任せ、祐司は康介に体当たりを喰らわせる。
「ぐぅ」と呻き声を上げ、壁にぶつけられる康介。
祐司は倒れた康介に馬乗りになり、殴りつける。
「このぉ!この野郎!!」
ガス、ゴス、ドス――
祐司が殴るたび、康介が低い呻き声を上げる。
一発、一発殴るたび、康介の顔が赤く染まってゆく。
「このぉぉぉぉ!!」
ガァン――
とどめに振り上げた両腕を、康介の顔面に叩きつける。
ゼーゼーと肩で息をする祐司。
見下ろす康介はピクリとも動かない。
祐司は動かなくなった康介をベッドから引き摺り下ろし、ベッドの上でがたがた震える琴音の肩に手を置く。
「琴…大丈夫?」
「祐司…さん…」
破れたジャージから胸が覗く。
祐司は軽く頬を染め、視線を逸らす。
「琴…これ…」
祐司は上着を脱ぎ、琴音に渡した。
「あ…」
ようやく自分の格好に気付いた琴音は、慌てて上着を借り、胸元を隠す。
「…見ました…?」
「えっ?い、いや!そんなに!!」
じとっとした目で祐司を睨む琴音。祐司は慌てて否定する。
「それに、小さいからどこからどこが胸とかそういうのわかんなか…!」
ゴスッ――
慌てていたとは言え、混乱の中で失礼な物言いに、琴音の拳が祐司の脳天を貫いた。
頭を抱える祐司。
「失礼ですよ!女性にかける言葉じゃないでしょう、そんなの!!」
真っ赤になって声を荒げる琴音。
「い、いや、別にそういうわけじゃ…」
「まったく!祐司さんはデリカシーがないんです!!もう少し人の気持ちを考えて…!」
「だ、だからごめんって!!」
両手を合わせ、拝むように平謝りの祐司に、琴音は頬の筋肉が緩むのを感じた。
先ほどまでの状況が、まるで嘘のように、いや、今自分たちが居るこの部屋が異常な空間であることすらも忘れてしまうような、そんな軟らかい雰囲気。
たった一人の存在が、これだけ空気を変えてしまうのだ。
「…まあ、今回は助けに来てくれたことに免じて、許してあげます」
「あ、ありがとう」
立場が完全に逆転してしまっているが、祐司も悪い気はしなかった。それが、長年かけて気付き上げた、信頼関係というものなのだろうか?
「…こうやって、祐司さんに助けられたのは、二度目ですね」
琴音の、優しい声が流れる。
「覚えてます?子供の頃。私が犬に靴を取られて」
「赤い靴」
言葉を切るように、祐司が口を挟んだ。
「赤い靴だった、あの靴」
少し間をおいて、琴音は微笑んだ。
覚えてくれていたんだ、と。
自分が最も大切にしていた思い出の一つを、祐司と共有できていた。
「あのときからなんですよ?祐司さんが立っている時に、右肘を抑えるようになったの」
「えっ?っていうか、俺、そんなことしてたっけ?」
本人すら気付いていない、無意識の中の行為。
「あのとき、肘を犬に噛まれたから…」
無意識の行為が、どんなに忘れたとしても、二人の思い出が体に刻まれていることを教えてくれる。
きっと私は彼の中に、生きていられる…
「あのときから…」
――あなたは、私のナイトでした――
だがその言葉は飲み込む。
自分がナイトに助けられる姫なんて、おこがましい。
本当に助けられなければならないのは、彼女だ。
悪魔に捕らえられ、大きな傷を背負わされた、彼がずっと追いかけていた彼女。
彼女は大きな傷を背負わされた。
でも、彼なら、そんな彼女も受け入れてくれるはずだ。
彼の笑顔が、言葉を促す。
15年間、ずっと見続けた、その笑顔。
だから、私も笑顔を返した。
「行きましょうか」
奏さんの元に――
「そうだな、あんまりこんなところに居ても、しょうがないし」
ベッドから降りた祐司が、手を伸ばす。
「立てる?」
琴音は一瞬躊躇しながら、祐司へ手を伸ばした。

ゴスン――

響く低い音。
ゆっくりと倒れてゆく祐司の体。
軌道をなぞるように、弧を描く血飛沫。
舞い上がる、タバコの灰。
それらが、まるでスローモーションのように、琴音の目に焼きつく。
そして、黒い、大きな男の影が、祐司の代わりに現れる。
康介だ。
「いやぁぁぁ!!祐ちゃん!!祐ちゃん!!」
涙を浮かべながら、倒れた祐司を抱き起こす。
だが祐司はその言葉に反応しない。
後頭部から流れた血が、琴音の手にべったりと絡みつく。
恐怖――
もしかしたら祐司が死んでしまうかもしれないという、恐怖が全身を襲う。
「いや…いや…いやぁぁ!」
ゴトン――
血糊の付いた灰皿を、康介は投げ捨てた。
目の前には、倒れた祐司に泣きつく琴音の姿がある。
前歯の折れたその顔で、醜い笑みを浮かべた。
「お願い!目を覚まして!!お願い!!」
だが琴音は、康介の存在など忘れていた。
「祐ちゃん!死んじゃやだ!死んじゃやだ!!」
強がりも、冷静さのかけらもなく、呼び続ける。
だが、祐司は一向に反応しない。
死んだように、
それは本当に最悪の喩えだが、まるで、死んだかのように反応がなかった。
「いやだぁ…死んじゃ、やだぁ!!」
「おい、皆川」
康介が琴音の頭を掴み、無理やり振り向かせる。
目の前に突きつけられたのは、PCの液晶モニター。
モニターは画面がちかちかと点滅し、幾何学文様が浮かんでは消えてゆく。
MCプログラム――
恐怖で祐司のこと以外考えられなかった琴音は、しかしいつの間にか全ての思考能力を奪われていった。
すぅっと目の光が失われ、脱力する琴音。
深いトランス状態に陥ったことを確信し、康介は満足する。
そして余裕の一服。
「簡単な質問をするぞ」
タバコの煙を吐くと、力の無い「はい」という言葉が返ってきた。
「まず、名前は?」
「皆川琴音です…」
「歳は?」
「15…」
MCプログラムに相手が支配された瞬間。それが康介には最も心地の良い時間だった。
相手の全てを支配する。それは甘美以外のなんと表現できるのか。
「ああ、そうだ。垣内とは、どういう関係なんだ?」
「…幼馴染です…」
少し、間はあったが、ちゃんと返答があった。
「ただの?」
「…はい…」
返答までの僅かな間に、少し違和感を覚えながらも、康介は気にせず質問を続けた。
「じゃあ、お前は垣内のことをどう思ってる?」
「……」
今までで、最も長い間。
まるで、最後の砦を守るかのように。
「好きなのか?」
「…はい…好きです…私は、祐ちゃんのことが…」
だが、最後の砦も、あっけなく崩れ去る。
「告白はしてないのか?」
「してません…」
「なら、キスもまだか」
「はい。キスは、したことがありません…」
予想通りといえば、予想通り。あの性格だ。誰も男は言い寄らなかったのだろう。
「オナニーは、やったことぐらいあるだろ?」
「はい…」
「週にどのぐらいやるんだ?」
「一週間では…一回やるかどうかぐらいです…」
「案外少ないな。で、どんなのを想像してるんだ?やっぱり、垣内か?」
「はい…祐ちゃんに抱かれるのを想像しながら、しています…」
あるときは、自らの告白を受け入れてくれた姿。
あるときは、祐司自ら告白してくれた姿。
あるときは、ずっと愛し続けた恋人同士。
そんな、甘い想像。
だが、目の前の悪魔は、その甘い想像を全てぶち壊したくてたまらなかった。
「よし…お前は垣内のことを助けたいな?」
「はい…」
「なら、俺の言うことはちゃんと聞くことだ。俺の機嫌を損ねたら、殺してしまうかもしれないからな」
「はい…わかりました」
「…そして、もう一つだ」
最後の暗示。それは、二人を地獄に突き落とす為に。



「遅かったですね」
部室のドアをノックし、入ってきた人物に大和は笑顔を向けた。
「これでも急いできたんだ。で、奴らは?」
「約一名、まだ所在がつかめませんが、他はすでに抑えています。まあ、急がなくても、すぐに済みますよ、全て」
「ったく!あんな奴らに足元すくわれるとはな。胸くそ悪い!」
不機嫌さを隠さず吐き捨てる。
「部下は選ばなくてはいけませんね、命」
「全くだ」
命は短い息を吐き、不機嫌そうに言った。



くちゅ、ちゃく、ちゃっちゃ…
「ふぅん…ぁん!」
湿ったような音と、甘い声に祐司の意識が徐々に覚醒してゆく。
ぼやけた視界に浮かんでくる、見慣れない天井。
あれ?昨日どこで寝たっけ?
そんな疑問が浮かんでくる。
「っつ…!」
やがてずきずきとした痛みが後頭部から襲ってくる。
頭を押さえようと思うが、手が自由に動かない。どうやら後ろ手に、硬い紐で結ばれているようだ。
なぜ?
「よう。目が覚めたか?」
疑問が解ける前に、どこかで聞いた事のある声に呼ばれる。
「いやぁぁ!見ないでぇぇぇ!!」
そして、目に飛び込んできたものに、祐司は絶句する。
椅子に座った康介の上に、ショーツのみ残った姿で背中向けに座らされる琴音。
康介は琴音の足の裏から膝を通し、股が閉じられないように大きく外に開いている。
康介の左腕は、琴音の乳首を捏ね繰り回し、右腕はショーツの中で蠢き、中から湿った音を響かせた。
琴音は抵抗できないよう、祐司と同じく両腕を後ろで硬く結ばれていた。
「何言ってんだよ!こんなに気分出してるくせによ!!」
康介はくちゅくちゅと一段高い水音を立てさせる。
「はぁん!や、やめ!んんっ!」
琴音は悩ましげに眉を顰める。
乳首はぴんと天井を向き、ヴァギナから溢れた愛液が、ショーツを濡らす。琴音の体が感じているのは、明らかだった。
「てめっ!」
祐司は康介に殴りかかろうとするが、腕を縛った縄が、ベッドに括りつけられていて、その場を動けなかった。
「くそっ!くそっ!くそっ!!」
何度も挑戦するが、その度にベッドが「ガタン」と大きく揺れるだけだった。
「ははは!おい、皆川。愛しい垣内が、お前を助けようと必死になってるぞ!」
「はぁん!いや、祐司さんには、ぁん、…言わない、んっ!」
「愛しい」という言葉に、一瞬驚いた表情を見せた祐司と目が合い、琴音は目を伏せた。
「知らなかったのか?ありゃぁ、どう考えてもお前に気が合っただろ」
「琴…」
康介の言葉に、戸惑った表情を浮かべる祐司。琴音は俯き、祐司を見ないようにした。
自分がずっと秘めてきた想いが、こんな最悪な形で知られてしまった。
告白はもっとロマンチックなものだと、勝手に夢見ていた。
静かになり、ぴちゃぴちゃと琴音のヴァギナから流れる水音が一際大きく聞こえ、消え入りたい気持ちになる。
だが必死に耐えなければ、快楽に声を漏らしてしまう自分が居て、一層惨めな気持ちになる。
それも、好きな人を目の前に、下衆な男の指に反応してしまうことが、たまらなく悲しかった。
「キスもまだだってよ、コイツ。大方、お前にファーストキス、奪われるのを夢見てたんだろうけどよ」
康介が琴音の顎を掴み、上を向かせる。
そして琴音の唇を奪う。
「んぐぅ!」
琴音は必死に唇を閉じたが、こじ開け、康介の舌が口内に侵入してくる。
琴音は康介から逃れようと、舌を動かすが、その動きはまるで二人の舌が求め合って、絡み合うような動きだった。
康介の舌を伝い、唾液が流し込まれてくる。
口を封じられた琴音は、その唾液を飲み下すしかなかった。
ちゅばぁ、とわざと音を立てさせ、口を離す。琴音は飲み込んだ唾液を吐き出すかのように、大きく咳き込んだ。
「お前がキスしてやってりゃ、こんな男にファーストキス奪われることはなかったのになっ!」
祐司は苦しそうに顔を歪め、俯く。
このまま目を瞑って、何も聞かないようにすれば、この場から逃れられるかもしれない。
これから琴音の身に起こることを、なかったことにできるかもしれない。
だが目の前の悪魔はそれを許さない。
「おおっと。ちゃんとこっちを見てろよ!じゃないと、お前の大切な幼馴染が死んじまうぜ!」
「おぐぅ!あっお…」
康介は祐司が目を逸らしているのを見ると、琴音の首を絞めた。
琴音の苦しそうな呻きに、祐司は目を上げる。
「や、やめろっ!!」
祐司が目を上げると、康介は琴音の首から手を放した。
「がほっ!ごほっ!」
「そうそう。ちゃんとこっち見てろ。じゃねぇと、殺しちまうぞ、この女」
康介は部屋の中央にぶら下がった、蕩児だった物体に目をやる。祐司に向けた、脅しだ。
自分は人を殺す事のできる人間だと、もし言うことを聞かなければ、琴音もああなると、脅しているのだ。
「…見る…ちゃんと、見るから…」
弱々しく、殺さないでくれと懇願する。
「そうそう。それでいいんだよ。じゃあ、大好きな祐ちゃんに、お前の大事なところ見てもらうか」
康介の右腕が、ショーツを掴む。
「嫌嫌嫌!!やめてぇ!!」
琴音は足をばたつかせ、必死に抵抗するが、その程度の抵抗は無意味だった。
康介はショーツを一気に引きちぎる。
「いやぁぁぁぁ!!」
誰にも見せた事のない秘部が、曝け出される。
少女のような、産毛が僅かに生えただけのようなヴァギナが、大きく開かれた股の間でひくつく。
唯一少女のものでないと知らしめしているのは、奥から流れ出る愛液の存在。
それは康介の指によって行われていた、恥辱の証だった。
「さぁて、祐ちゃん。今コイツのマ○コがどうなってるのか、俺に詳しく教えてくれよ」
「いやっ!いやいやっ!」
康介の人差し指と中指が、琴音のヴァギナを左右に開く。
「すごく…濡れてて…」
「マン汁で濡れ濡れだってよ!」
康介が汚い言葉を浴びせる。
「いやっ」
「色はどうだ?!」
「…ピンク…」
「クリトリスはどうだ?!」
「…ここからは…わかりません…」
「いやぁ…もう…いやぁ…」
祐司に、恥ずかしい場所を全て見られ、琴音は目に涙を浮かべていた。
早く終わって欲しい。こんな悪夢は。
だがこれは現実。
そして、その悪夢のような現実は、これからが本番。
「クリトリスは見えないか。じゃあ、どの辺にあるか、教えてやるよ!!」
「ぁひっ!?」
康介の指が、クリトリスにあてがわれる。
そして、振動が送られた。
「ここだよ、ここ!!」
「ひぁん!ぁあん!!や、やめてっ!」
「ほらほら!コイツよがってんだろ!クリトリス弄られて、気持ちよくなってんだよ!!」
「そ、そんなこと!んんっ!な、ないっ!ひっくぅん!!」
愛液を次から次へ分泌させるヴァギナ。その様子は祐司に余すところなく見られてゆく。
「おら!垣内!マ○コ濡れてるか!?」
「…はい…」
「いやぁ…」
感じている姿を見られ、弱々しく否定する琴音。
「クリだけじゃ物足りねぇだろ!」
ちゃくぅ…
「はぁん!だ、やめっ!!」
中指がヴァギナにあてがわれる。
「垣内、ちゃんと実況しろよ。でねぇと…」
「わ…わかり…ました」
じゅちゅぅ…
愛液に濡れたヴァギナに、滑り込むように中指が侵入してゆく。
「はぁぁん!うぁん!!」
「指が…入りました…」
「どこにだ!?」
「…マ…マ○コ…に…」
「んんっ!やっ、やっ!ぁんっ!」
祐司に言葉にされ、恥辱感の増す琴音。
だがどれだけ恥ずかしくあろうとも、指に犯された快楽に負けてしまいそうな自分が居た。
ちゅっちゅっちゅ…
ヴァギナが奏でる水音。その音に合わせて、琴音の腰が浮き上がってくる。
「はぁん!ぅぅんっ!」
「指が…出し入れして…ます」
「気持ち良さそうに濡れてるか!?」
「…はい…」
「はいじゃ分かんねぇだろうが!気持ち良さそうにマン汁たらしてるかどうか、ちゃんと言ってみろ!!」
「やっやぁん…んんっ…」
祐司は琴音の顔を見る。
顎を上げた琴音は、唇を噛み、声が出るのを必死に堪えていた。
「どうなんだ!!」
「…気持ち…良さ…そうに…濡れて…ます…」
その言葉が琴音をどれだけ傷つけるのか、祐司は分かっていた。
そして、その言葉を声にしたとき、自分の心も傷つけると。
「や、やぁん…ぁぁん…」
「気持ち良さそうに濡れてるってなっ!俺の指で!!」
「ち、違っぅぅん!!」
じゅっじゅっじゅっじゅ…
康介は指を二本に増やし、ピッチを上げる。
開いた片手は乳首を捏ね、首筋を舐める。
「はぁっんんっ!!んっんっんっ!!」
琴音は体を弓反りに反らせ、まるで祐司に見せ付けるように腰を突き出す。
絶頂が近いのだ。
「んふぅん!ぅぅん!!」
琴音はイかされまいと、必死に絶える。だがその姿は康介を楽しませるに過ぎなかった。
「こんなに腰突き出して、そんなに気持ちいいのか!?それとも、イった瞬間のマ○コ、愛しの祐ちゃんに見られたいのかなぁ!?」
「んふぅぅぅん!!んんん!!」
「垣内!よく見とけよ!俺の指でコイツがイく瞬間をよっ!!」
「んひぃぃっ!?」
康介がクリトリスを捻り上げると、ぴちゃっとヴァギナが愛液の飛沫を上げ、琴音の体がピンと張る。
そして突き出した腰がぶるぶると震えたかと思うと、力なく崩れていった。
絶頂に達した瞬間だった。
ゼーゼーと荒い息で康介の太腿の上に座る琴音。
そして祐司の前で、こんな男にイかされてしまったのだと言う事実に、涙が溢れてきた。

「よ〜ぅ、イっちまったな」
追い討ちのように、耳元で囁くように語り掛ける康介。
「垣内、ちゃんと見たか?コイツがイった瞬間」
「…はい…見ました…」
そう、答えるしかなかった。見ていなければ、きっとこの男は琴音を殺してしまうだろうから。
「よかったなぁ、好きな男にイく瞬間見られて。半分、抱かれたようなもんじゃねぇか?」
「うっ…うっうっ…」
琴音は、もはや嗚咽しか出てこない。
「なんだぁ?嬉し泣きか?だけど、喜ぶのはちょっと早ぇな」
康介がズボンを下ろすと、意を解した琴音が再び、忘れかけていた抵抗を始めた。
「やっ!やぁ!!それだけは!それだけはお願い!!」
康介の上で暴れる琴音。
だが後ろ手に縛られた少女の力では、この大男から逃れることはできない。
「も、もうやめろ!!先輩がやったことは、誰にも言わないから!だからもう!!」
これから何が行われるか知った祐司も懇願する。
「あぁっ!?もういいんだよ!そんなことは!!俺はただ、お前の前でコイツの処女を奪いたいだけなんだよ!!」
「いやっ!いやいやいやっ!!お願い!何でもします!何でもしますから!それだけは!祐ちゃんの前でそれだけは許してっ!!」
「へぇ?何でも言うことを聞くか?」
「はい!何だってします!!だから、だからそれだけは!」
「だったら、俺の子を孕め」
一瞬助かるのかと思った矢先、死刑宣告にも似た言葉。
ペニスが、狙いを定めるようにヴァギナの付近をゆらゆらと行ったり来たりする。
そして、ヴァギナの真下で、ぴたっと動きを止める。
「いやぁぁぁぁ!!」
「やめろぉぉぉぉ!!」
ぶちぶちぶちぃぃぃぃ!!
康介のペニスが、琴音を貫く。
処女の証、破瓜の血が流れる。
それも、祐司の目の前で。
「せめぇな、お前のマ○コ」
康介のペニスは、ようやく3分の2が納まったぐらいで、小さな琴音の体内にはそれ以上収まらなかった。
お腹は、ペニスが埋まったその場所が少し膨らんでいる。
「ひぎぃぃ!!痛い!!痛い痛い!!抜いて、抜いてぇぇ!!」
痛みに顔を歪める琴音。だが康介は気にせず、腰を動かす。
ずっちゅずっちゅずっちゅ…
「あぁ…さすが処女だけあって、キツキツだな」
「うぐぅぅ!あぐぅぅぅ!!」
初めての相手は祐司だと勝手に決めていた。
愛を耳元で囁いてもらいながら、思い出に残る日になるんだと、勝手に妄想していた。
だがその日はこんな、最悪の形で訪れた。
愛もなく、ただ痛いだけの行為。
「あぐぅっ!痛い…!抜いてぇ!!」
「垣内よぉ、何でお前、抱いてやらなかったんだ?お前が抱いてやりゃぁ、こんな風に俺に処女奪われることもなかったのになぁ?」
祐司は痛みに耐えるような表情を浮かべ、目の前の光景を眺めていた。
ずっちゅずっちゅずっちゅ…
「んっんっ…こいつ、お前に抱かれるのを期待してたんだぜ?おぅ…抱いてやりゃぁ、よかったのによぉ」
痛がる琴音には目もくれず、自分の快楽を求めるために腰を動かし続ける康介。
琴音の膣はぎゅっぎゅっと康介のペニスを締め付ける。
それまでの前戯で十分濡れていたとは言え、処女でも有り、小さな膣。琴音には快楽の欠片も生まれなかった。
「うぐぅぅ!あぐっ!」
「お前がちょっと言ってやりゃあ、簡単に抱かせたんだけどな、この女」
言葉が琴音の心を犯してゆく。
純粋な愛と信じていたものが、汚されてゆく。
「あぐぅ!うぐぅ!!」
もはや抵抗する意思もなく、ただ痛みに耐えるだけだった。
ずっちゅずっちゅずっちゅ…
「んっんっ、後でコイツ抱くか?それとも、奏のほうが良いか?皆川の前で、奏を抱かせてやろうか?その横で他の奴らに皆川を抱かせるってのも、良いかもな?ぉう…」
「も…もう…止めてくれ…お願いだから…」
力なく、祐司が懇願する。
「琴を…放してくれ…」
「お前に何の権限があるんだ?恋人でも何でもないだろうに?」
ずっちゅっずっちゅ…
「それでも…もう…」
「んぐぅん!ぐぃぃぃ!」
祐司の懇願にも、康介は腰の動きを緩めない。
どころか、琴音の膣の長さと狭さに慣れてきたのか、よりスムーズに、リズミカルに腰を動かしている。
「まあ、そんなに放してやって欲しいんなら、すぐに放してやってもいいぜ」
康介は手を胸に回し、乳首を弄る。
 「んぐぃぃ」
 乳首から来る性感に、琴音の痛みが少しだが、和らいだ。
 「じゃ、じゃあ」
 「コイツの膣に出してな」
 康介はニタァと醜い笑みを浮かべる。
 「や、やめっ!」
 「はははは!これだけ締め付けてくるマ○コだ!心配しなくてもすぐに放してやれるだろうぜ!!」
 ずっちゅずっちゅずっちゅ…
 「うぐぎぃぃぃ!やぐぅぅ!!!」
 「おら、てめぇも少しは気分出せや」
 康介はクリトリスへ手を伸ばす。
 ぴちゃっ…
「うぐぅぅぅ!!」
 クリトリスから来る性感も、破瓜の痛みを完全に消し去ることはなかった。
 喘ぎや嬌声などとは全くかけ離れた、呻きのような声しか出てこない。
 ずっちゅずっちゅずっちゅ…
 「あぐっ、ぐぅっ…」
 「まあ、いいか。うぅ…締め付けは、なかなかだからな…うぅ…何回もやってればそのうち、腰も使うようになるだろ…」
何度もこの男に抱かれる姿を想像し、琴音は血の気が引く思いがした。
「っはぐぅ…いだい…いだい…」
「ふっふっふ…」
じゅっじゅっじゅっじゅ…
康介の腰の動きが、徐々に速くなってゆく。それと共に、息遣いも小刻みになる。
「はっはっは…そろそろ…イきそうだ…」
「あぐぅ?!や、やだやだ!!」
「イく」という言葉に、琴音に抵抗の意思が再び目覚める。
「やめて!それだけは本当にやめて!!」
「おらっ!垣内!ちゃんと見とけよ!!見てねぇと、この女殺すからな!!」
「…」
祐司は黙ったまま唇を噛んだ。
「だ、だめぇ!祐ちゃんには見せないで!お願い!!祐ちゃんの前ではお願い!!」
ずっちゅずっちゅずっちゅ…
腰の動きは小刻みに、康介の息遣いは荒くなってくる。
「本当にだめなのぉ…あぐぅ…それだけはぁ…お願いぃぃ…」
「そんなこと言いながら、ちゃんと締め付けてんじゃねぇか!本当は膣に欲しいんだろ?」
「違ぅぅ…お願いだから…もう…もう許してぇ…」
ずっちゅずっちゅずっちゅ…
「見ないで…見ないで祐ちゃん…」
ずっちゅずっちゅずっちゅ…
「ぐ、ぐぅぅ、イいくぞぉぉぉ!!」
「や、や、やめぇぇ!!」
欲望の塊が、ペニスに集中する。
ずちゅぅぅぅ…
康介はペニスを膣の最奥へ突き刺すと、子宮へ精液を流し込んだ。
どっくどっくどっく…
「あっ…?い、いやぁ?」
康介が果てた瞬間、ゾクゾクとしたものが背筋を伝い、脳髄へ流れ込んでくる。
その感覚に戸惑う琴音。
だが、次の瞬間。
「イくぅぅぅ!!」
今まで味わった事のない絶頂が全身を襲い、体を大きく反らせる。
頭が混乱する。
こんなただ痛いだけの行為で、こんな醜悪な相手に犯され、想い人の目の前で。
「あっあっあっ…」
絶頂の余韻に体が震える。
膣がキュウキュウと締まり、康介から最後の一滴まで精液を搾り取ろうとする。
康介の精液が子宮に流し込まれる度、小さな絶頂が体を襲う。
頭が蕩けてしまいそうになる感覚。
「はぁぁん…気持ち…いい…」
思わず言葉が漏れ、ハッとなる。
目の前に、泣きそうな表情を浮かべた、祐司の姿があった。
これが、康介の用意していた、もう一つの暗示だった。
康介がイった瞬間、琴音は今まで味わった事のないような絶頂に達する――
だがそんな暗示があったことは、琴音の記憶からは消されている。
琴音が知っていること。
それは悪魔のようなこの男に抱かれながらも、自分が感じてしまったということだけだった。
それは、琴音が最後の最後で守りたい一線だった。
だが、その一線すら守りきれなかった。
自分の中で、ガラガラと何かが音を立てて崩れ去っていくのが分かった。
「ふぅぅぅ…よかったぜ。お前のマ○コも、あのイき顔も」
最後の一滴まで出し終えた康介は、ニヤニヤ笑いながら、琴音を解放する。
琴音の股間からは、破瓜の血と、汚された証の白い精液が交じり合った液体が、ボタボタと落ちてゆく。
琴音はふらふらとした足取りで、ベッドに括りつけられた祐司の下へ歩いてゆく。
祐司が、自分を見上げる。
その顔はもう見えない。どんな表情をしているのか、もう、分からかった。
琴音は力が抜けたかのように、ベッドの横に座る。
そして祐司に向かって、土下座した。
「…ごめんなさい」
許して欲しかった。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
汚れてしまった自分を。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
そんな自分が、祐司を好きになってしまったことを。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
何も、大きなことを望んだわけではない。祐司が誰を好きになってもいい。
それでも、ただ、側にいさせて欲しかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
だけど、もう、それも望めない。
自分は祐司の側にいる資格すら、失ってしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
まるで、その言葉以外は忘れてしまったかのように、
まるで、壊れたおもちゃのように、
その言葉を繰り返した。
その言葉は、
その言葉を繰り返すたびに、
祐司の心も蝕んでいった。
そして、
「うあぁぁぁぁぁぁ!!」
祐司も、壊れた。
「殺す!殺してやる!!!コロスコロスコロスコロス!!!」
腕を縛った縄を引きちぎろうと、ベッドがガタガタと大きく揺れる。
「コロスコロスコロスコロス!!」
殺意が溢れ出し、康介に向けられる。
「コロスコロスコロスコロシテヤル!!」
自分が大切にしていた存在を、簡単に奪われ、
自分が世界で最も美しいと思っていた存在を、汚され、
祐司は、壊れた。
「コロシテヤルコロシテヤル!!」
それは例えば、宝物入れの一番奥に、誰にも見つからないように仕舞っておくように、
それは例えば、子供がショートケーキの苺を最後まで大事にとっておくように、
ずっと大切に、傷つかないようにしていたそれを、目の前の男は壊した。
「コロスコロスコロシテヤル!!」
縄が腕に食い込み、血を滲ませていることも忘れ、祐司はベッドの上で暴れ続けた。
自分へ向けられた、届く事のない殺意。
「ふふ…」
それを受け、康介は笑った。
「ふははははははは!!」
立ち上がり、顔を覆う。
笑いが止まらない。
彼もまた、壊れていたのだ。
蕩児を殺害したとき、
いや、冴崎このかに、拒否された瞬間、彼は壊れてしまっていた。
「はははははははは!!」
ぐらり、と背中で影が揺れる。
笑うのを止め、振り返る。
すぐ目の前に、蕩児の亡骸。
その亡骸が、自分めがけて覆いかぶさってくる。
「あっ?」
錆びた日本刀が、康介の首を貫いた。
康介は蕩児と共に床に倒れる。
鮮血が、部屋を染めて行く。
その部屋の中、壊れた人形が二体、転がっていた。


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