深夜の校長室。暗闇の中で二つの影が躍る。
 一つは奏。もう一人は男の影。
 じゅぼじゅっぼ…
 「はぁん。あぁん、あん」
 奏は椅子に座った男の膝に乗り、腰を振る。
 奏は制服姿だが、ショーツは足元に脱ぎ捨てられ、スカートの下では男のペニスが、ヴァギナに深々と突き刺さっていた。
 「はぁん。ど、どう?少しは白状する気になった?なったなった?」
 男の首に手を回し、男に迫る。奏はこれでも男に対して、尋問しているつもりなのだ。
 「だから、俺は知らないって言ってんだろ?」
 男はニヤつきながら、奏を下から突き上げる。
 「はぁん!まだシラを切るつもりね、つもりねつもりね!ふぅん。じゃ、じゃあ、こうよ、こう!」
 奏は服を脱ぎ、上半身裸になる。男が突き上げる度に充分な大きさのある胸が、上下に揺れる。
 「はぁん!ど、どう?どうどう?」
 奏は男の顔に胸を押し付けた。
 「これで白状する気になったでしょ?でしょでしょぉ?あはん!」
 「だから、俺じゃないってよ」
 男は露になった胸に手を回し、乱暴に揉む。
 「ぅふん!ご、強情ね、ねね。白状したら、楽になるのに、のにのに。はぁん!」
 「こんな拷問したって、知らないものは知らないって」
 男は手を奏の尻に回し、アヌスの位置を探る。
 じゅぶぅぅぅ!
 「はぁぁん!!」
 「うっ!」
 どっくどくどっく…
 男の指がアヌスに挿入されると、ヴァギナがペニスを締め付ける。それと同時に男が膣に果てる。
 「あっあっあっ…」
 精液が子宮に流れ込む感覚に、奏の体が震える。
 「うぅ…」
 射精が終わっても、奏のヴァギナがぎゅっぎゅっとペニスを締め付け、まるで奥に残った精液まで吸いだそうとするかのようだ。
 「ど、どう、どうどう?話す気になったら、もうここでやめてあげるけど、けどけど?」
 刺さったペニスも抜かずに奏が聞く。
 「だから、俺は何も知らないって」
 「強情ね、ねね」
 奏の非難するような視線に晒されるが、スカート一枚で、ヴァギナではペニスを咥えこんだままでは、迫力もない。
 「なんだったら、他の奴にも聞いてみたらどうだ?」
 男が視線をドアに向けた。
 奏が視線の先を確認すると、三人の男の姿。
 「いいわ、いいわいいわ。皆が白状する気になるまで、相手してあげるから、からから」
 奏は舌なめずりをして、男たちを迎えた。
 

 どれぐらい時間が経ったのだろうか、服を全て剥ぎ取られた奏は床に打ち捨てられていた。
 目は虚ろで、ヴァギナは、コポコポと出された精液を吐き出している。
 「はぁ…はぁ…」
 その奏を4人の男たちが囲む。
 「さすがに17発も出されりゃ、しばらく立てそうにもないか」
 「昼間は途中で邪魔ばかり入ったしな。おかげですっきりしたよ」
 「さて…」
 一人が奏の耳元で囁く。
 「お前は、俺たちを犯人だと思っていたな?」
 「はい…思ってました…」
 言葉に反応して、素直に言葉を返す。だが、目には感情が宿っていないかのように、光を失っていた。
 「だから、今日散々聞き出そうとした」
 「はい。聞き出そうと…しました」
 「でも、そんな手を使っても、俺たちからは何も聞き出せなかった。それはつまり、俺たちが犯人じゃないってことだよな?」
 「……」
 「犯人じゃないよな?」
 何も答えない奏に対し、念を押すように言うと、奏は「はい」と答えた。
 「犯人じゃ、ありません…」
 「よし。半年間大した成果も挙げられない取材にも飽きたろ?違う取材、させてやるぜ…」
 男は口元だけで、ニヤリ、と笑った。


 
 プシュゥゥ――
 朝。琴音はバスのドアが閉まるのを、手すりに掴まりながら見ていた。
 ガタン、とバスが発車すると車内が揺れ、隣に立っていた男子に肩がぶつかる。
 「すみま…あっ…」
 見上げる。そこには見覚えのある顔。
 祐司だ。
「お…おはよ…」
 「おはようございます…」
 一瞬だけ眼が合うと、共に眼をそらし、気まずそうに挨拶を交わした。
 
 琴音の心の声
 気まずい…ですね。
 昨日あれだけ変態と罵っておいて、触発されていつもより激しく…した…なんて知られたら…
 はぁ…こんなに気まずく思うなら、何で昨日あんなことを…
 せめて昨日一日ぐらい、我慢しておけばよかった…
 
 祐司の心の声
 はぁ〜…気まずいなぁ…
 あの後家であれをネタに抜こうとしたなんて知ったら、また軽蔑されるだろうなぁ…
 しかも、琴相手に…
 俺相手にそんな眼で見られたなんて知ったら、怒り狂うだろうな、こいつ。
 いや、でも結局は抜けなかったんだけど…それはそれでどうなんだろ…?
 なんであんなことしたかなぁ…辞めときゃよかった…
 
 同じ原因でありながらも、結果が真逆という状況で、二人は同じように自己嫌悪に陥っていた。
 「「はぁ…」」
 同時に車内に響いたため息に、周りの生徒たちが不思議そうに視線を送っていた。
 ふと、琴音が外に目を向けると、大和と命がMTBを停めてじゃんけんをしている姿が入ってきた。
 琴音は意外な組み合わせと思いながら、二人が遠くなっていくのを見送った。


 バスを降り、なんとなく二人で並んで歩く。
 しかし言葉も、視線も交わすこともなく、ただ単に肩を並べているだけだ。車内からの気まずい雰囲気は、まだ続いている。
 昇降口の前に止まったリムジンから、似合わない人間が降りてきて、二人は足を止めた。
 車を降りた女子生徒は、苦しそうに眉を寄せた表情を二人に向けた。
 「あ〜、おはよう、祐坊、琴」
 不機嫌そうに挨拶したのは奏だった。
 「おはようございます〜」
 続いて未汐が降りる。どうやら車の持ち主は未汐のようだ。
 「奏さん。具合悪いんですか?」
 祐司は助け舟とばかりに奏に駆け寄る。
 気持ちトーンの上がった祐司の声に、琴音は少しムッっとする。
 「あ〜、そうそう。なんだか朝から起きるのが辛くってさ、ささ。だるいし、体の節々って言うか、特に腰がっていうか、すごく痛くって、くてくて…」
 「あ〜」と呻き、頭を抑える。
 「熱、あるんじゃないですか?」
 「と思って計ったけど、けどけど、全然平熱。休もうかとも思ったけどさ、未汐に電話して、送ってもらったの、たのたの」
 辛そうに未汐を指差す。未汐は「このぐらいのことなら、いつでも〜」とニコニコと笑っていた。奏と登校できたことが嬉しかったのかもしれない。
 「あれ?でも携帯ないんじゃなかったでしたっけ?」
 「自宅には電話あるからね、からね…あ〜、昨日なんかしたかなぁ〜?」
「変な姿勢で寝ていたんじゃ、ないですか?」
「そんなことはないと思うんだけど…思わず、せっかく定着した口癖も忘れちゃうぐらいの辛さだよ」
 「良かったではありませんか。それで少しは話が聞きやすくなります」
 「えぇ〜、せっかくの中学からの努力を否定しないでよ、でよでよ」
 「そんな苦労、思い出の中にでも捨ててきてください」
 さっきまで二人でいたときの気まずさは確かになくなっていたが、琴音の言葉には、端々に棘があり、また祐司とは視線も合わせようともしない。
 どうやら、まだ不機嫌であるのは間違いないらしい。
 ただ不機嫌の理由が、多少さっきまでとは違っているようだが。
 「じゃ、また部活のときに…」
 昇降口に入り、そう言って別れようとする奏を琴音が呼び止めた。
 「ん?なになに?」
 琴音は手招きし、耳を貸すように言う。
 奏が耳を琴音に寄せる。
 「結局、昨日は校長室に忍び込んだんですか?」
 昨日、名振を調べるためにと言っていたことだ。実行したかどうかについては、琴音は聞いていない。
 「あ〜、あれあれ。一応実行はしたよ、したよしたよ」
 「それで、何か分かりましたか?Kは?」
 K――
 隠語。二人が容疑者と目星を付けた人間に付けた名だ。
 「あ〜、それね、それねそれね。昨日思った通りさ、見つけたんだけど…」
 「それで、どうでした?」
 琴音の語気が強くなる。奏は少しそれに気圧されるように言葉を続けた。
 「う〜ん、色々聞き出そうと試みたけど、けどけど、どうもヤマ、外れたみたい、みたいみたい」
 「Kは犯人ではなかった?」
 「そー、そーそー。バスの方はともかくとしても、事件と関係はないみたい、みたいみたい」
 カクン、と琴音の肩が落ちる。
 拍子抜け。落胆。
 バスの運転から思わぬ落し物、と思ったのだが、結局は振り出しに戻ってしまった。
 「一歩進んで、二歩戻った感じですね…」
 奏がどういった調べ方をしたかは知らないが、カマをかけて成果が出なかったのだ。Kが犯人ではないと、確信できることがあったのだろう。
 「そもそも、バスの運転手と事件の犯人、結び付けようっていうのが、眉唾物だったわけだし、だしだし」
 「それは、まあ、そうなのですが…」
 彼の行動を不審にさえ思わなければ、短絡的に結び付けようという考えもなかったわけだ。自分たちはブラフを踏んでしまった、ということだ。
 「そーゆーわけで、バスと事件は関係ナシ!ナシナシ!私も今回のことで諦めついちゃってさ、ささ、ちょっと事件から離れて、別のこと調べようと思ってるのよ、のよのよ」
 「別のこと、ですか?」
 奏はうんうんと頷く。
奏の興味が他に移ると、急に今までのことが冷めてしまうというということは以前からある。だから多少の違和感は感じても、それほど気には留めることはなかった。
 「琴が事件のこと調べるのは止めないけど、けどけど、バスとは切り離して調べた方がいいかもね、かもねかもね」
 「はぁ…」
 じゃあ、と下駄箱に向かう奏の背中を見送る。
 (そうは言いますがね、奏さん…)
 そうは言っても、奏が半年間調べて、結局犯人に行き当たることのなかった事件だ。それを今更自分が調べて何か新事実を発見できるとは思いがたい。
 そこに振って湧いた新しい事実、早朝のバスの走行。それに縋りたいと思うのは、仕方ないといえば仕方のない話。
 (まあ、調べられることだけは、調べますよ…)
 琴音も自分の下駄箱に向かう。
祐司の姿は、すでに確認できなかった。もう教室に向かったようだ。
 (待っててくれても、いいじゃありませんか…)
 心の中で文句を言いながら、上履きに履き替えた。


 放課後、部室に新聞部部員が顔をそろえる。
 いつもの活動開始前のミーティングだ。
 「まあ、私から特に連絡すべきことはないのですが…」
 みんなの雑談を止めるため、コホンと一つ咳払いをし、大和が話し始める。
 「ただちょっと、非公式に、ではあるんですが…」
 大和が視線を奏に向ける。奏は「私?」と自分を指差す。
 「どうも昨夜、校舎に忍び込んだ輩がいたそうで…」
 「ぎくっ!」
 ワザとらしく大きなリアクションをとる奏。どうやら隠すつもりはないらしい。
 「それで少し、生徒会から言われましてね。まあ、形跡があったらしい、というだけで確定事項ではありませんが…」
 「ぎくぎくっ!」
 再び奏の大きすぎるリアクション。それを見て大和は追求する気力も、怒る気力も失せたのか、はぁっと大きなため息をついた。
 「犯人も実際見た方もおりませんが、心当たりがあれば知らせてくれ、とのことでしたが…」
 「そ、そんなの知らないよ、よねよね、琴?祐坊?」
 呆れた表情を浮かべる琴音に、苦笑いを浮かべる祐司。奏は二人のリアクションについては気にせず、腕組みしてうんうんと頷いた。
 「全く誰よ。そんなことするのは、のはのは!?」
 「…では、まあ、心当たりはなし…ということでいいでしょうか…」
 諦めた大和は呟くように言い、解散を告げた。
 解散が告げられると、一目散にかなでは部室を出て行った。今朝何か調べたいことがあると言っていたので、それについての取材だろう。
 康介、太一もそれに続いて部室を跡にする。こちらは例の事件についての取材か。
 部室に残ったのは大和・未汐・琴音・祐司の四人。
 祐司は琴音に何か話しかけるタイミングを計っているようだったが、琴音はノートパソコンに向かい、「話しかけるな」オーラを漂わせ、祐司に口を開く隙を与えなかった。
 仕方なく祐司は、シャーペンを指でくるくると回しながら手持ち無沙汰にしていた。
 パタン、と琴音がノートパソコンを閉じる。
 それをタイミングと思い祐司が口を開こうとしたが、それよりも早く琴音が大和に声をかける。
 「そういえば、部長さん。今朝生徒会長と登校していたようですが?」
 「ええ。だいたい一緒に登校していますね。同じ寮生ですし、命とは幼等部からの親友です。それが?」
 ふむ、と琴音は頷く。
 奏が「生徒会は新聞部の手綱を握ろうとしている」と言っていたが、つまりそういうことか。新聞部の情報は、黙っていても大和から直接生徒会長の命に筒抜けなのだろう。
 ならば奏が昨晩校舎に侵入したのは当然生徒会の知ることになるのだろうが、大和が何も追求しなかったということは黙認してもらえるということか?
 それとも非公式での発言だと言っていたということを考えれば、今回は警告、ということなのだろうか?
 とりあえず、大和には報告すべきことと、隠しておくべきことを慎重に選んでおいた方がいいかもしれない。
 「部長さんと生徒会長さんは、仲良しですからねぇ〜。この間クラスの女の子も、お二人の仲がいいとか〜、部長さんが攻めとか〜、そんな話をしてましたよ〜」
 「いえ…そういうことは、私の耳に届けなくていいです…」
 言葉の意味も分からずに使っている未汐を嗜める。未汐は「?」と首をかしげ、なぜ大和が困った表情をしているのか不思議そうにしていた。
 「それでは、私も失礼します」
 「あ、琴…」
 席を立つ琴音を祐司が呼び止める。
 「私は私の調べ物がありますので、祐司さんは祐司さんの仕事をどうぞ。では」
 だが琴音は聞く耳持たず、といった様子で部室を出て行ってしまった。
 立ち上がろうとして中腰になっていた祐司は、「はぁ〜」っと長いため息と共に、どかっと椅子に座る。
 「…喧嘩でも、しましたか?」
 「…まあ、そんな感じです…」
 心配する大和に、ため息混じりに答える祐司。
 「さっきの命との話ではありませんが、友達は大事ですよ、友達は」
 扇子で背中を掻きながら、大和が言った。祐司はため息で返事をした。


 琴音の調査は順調、とは言い難かった。
 琴音が知りたいのは、あのバスがいつ頃、どのぐらいの頻度で走っていたかについてだ。
 早朝という時間帯とは言え、目撃者が今までゼロということはないだろう。
 しかし寮生のみに限定した調査とは言え、対象者は多く、調査を行うのは自分ひとり。中には非協力的な生徒もいて、なかなか思うようには進まない。
 「バス?ねえ、知ってる?」
 体育館へ向かう二人組の生徒を呼びとめた琴音。たが二人は首を捻るだけで色よい答えは期待できそうにない。
 「誰かから聞いた、などはありませんか?寮やクラスで、誰かが喋っていたなど」
 「う〜ん、聞いたことないな〜…」
 「時間としては朝の4時ごろなのですが、その頃に何か気づいたことなどは?」
 「そのぐらいの時間だったら、まず寝てるしねぇ」
 「うんうん。部活で疲れてるから、ぐっすり。朝錬にも早いし、そんな時間じゃ…あっ…」
 一人が悲鳴のような声を上げ、片方の肩を叩く。すると叩かれた方も目を開き、急に黙ってしまった。
 何事か?と怪訝な顔をしていると、琴音の肩が何者かによってぐいっと引かれる。
 「あっ」と思う間もなく、何者かの胸に抱かれる。琴音は顔を上げ、その人物を確認する。
 「……」
 黙ったまま目で琴音を威圧する人物。
 寡黙なその姿は見たことがある。生徒会室にいた副会長、古川清美だ。
 「…どうも…」
 威圧をされながらも、会釈を返す。
 「…少し…話がある…」
 

 連れてこられたのは、校舎の裏、ボイラー室。
 旧校舎とは反対側だが、こちらも木々が目前にまで迫り、人影もない。
 ここに来るまでの間、何人もの生徒に目撃されており、直接何か危害を加えられるという可能性は多くはないだろうが、琴音は万一の場合の逃げ道を考えていた。
 「…ここなら…誰も来ない…」
 清美の、低いながらも良く通る声。
 「でしょうね。何か聞かれてはまずい話でも?」
 相手の気を逆立てないよう、慎重に聞く。
 「…取材…大変そうね…」
 何の取材かは言わないのは、それが事件のことだというが暗黙の了解ということだ。
 「私は新入部員ですから、よくは知りませんが、そんなに簡単なものでもないでしょうし」
 何の取材かについては曖昧にしたまま答える。はっきりさせない方が、後々言い訳がきく。
 「…協力…してあげようか…?…少しだけ」
 「…協力、ですか?」
 生徒会側としては、事件のことは隠し通したい事実のはず。それを協力とはどういう意味だろうか。
 真意を量り兼ね、聞き返す。
 すると清美の強い握力で、肩を掴まれる。
痛みに一瞬顔が歪む。
 「痛ぅ…」
 「事件の後…生徒会や各派閥が…全生徒に緘口令を敷いた…なぜか分かる…?」
 「さあ、どうしてでしょう?」
 清美が目前まで迫るが、気圧されることなく口を開く。
 「…皆、井口奏という存在に…自分たちの歴史と…権威を踏みにじられるのを…恐れていた…それは生徒会が変わった今も…続いている」
 確かに、そんなところなのだろう。でなければ奏が半年間も探っていて、事件の真相らしい真相に近づけないこともなかっただろう。
 「…それでも…いじめについてまで調べ上げたのは…大したものだと思うけど…」
 「それで、どうして協力を?」
 清美は緘口令を敷いた側の人間。それが協力とは、一体どういう意図があってのことだろうか。
 「…ただし…条件が…ある…」
 清美の瞳が怪しく光る。
 「条件?」
 時間の経った今、事件の真相にはどうせ迫れないと高を括った上で、新聞部を利用しようと、そういう腹積もりか。
 だとしたら、同じ副会長の夕菜か?以前生徒会室で見たときは仲が良さそうではなかった。
 「……抱っこさせて…」
 「…へっ?」
 長い沈黙の後の一言に、琴音は素っ頓狂な声を上げてしまう。
 「こう…ぎゅ〜っと…」
 両手を使って抱きしめるしぐさを見せる。
 「いや、抱っこというより、抱きしめてるじゃないですか」
 「どっちも同じじゃない!生徒会室にきたときから目をつけてたのよ!ぎゅっとさせてぎゅっと!!」
 「うわっ!ちゃんと喋れたんですか、あなた!?」
 声質は変わらないが、ポツリポツリと喋っていた姿からは想像できない、早い口調に琴音は驚く。
 「ああ。あれキャラ作り」
 「なにぶっちゃけてるんですか、この人は?!」
 「ああやった方が、みんな話聞いてくれるのよ。部活のときも、口を開くと聞き逃さないようにって、静かにしてくれるし。って、それより…」
 ハァハァと荒い息の清美がじりじりとにじり寄る。目が完全にイっちゃっている人の目だ。
 「こんなちびっこい子がいたなんて…いいじゃない、ほんの30分、いや1時間!」
 「延びてどうするんですか!嫌ですよ、絶対!!」
 「いいじゃない!減るもんじゃあるまいし!!」
 「減りますよ!私の神経が!!」
 「協力もするって言ってるでしょ!!」
 「いりません!一人でやります!!」
 「なら協力のことはどうでもいいから、抱っこはさせてよ!!」
 「意味わかんないじゃないですか、それ!!絶対嫌です!断固拒否します!!」
 はぁはぁと息を切らす両者。
 沈黙。
 しかしお互いが視線で戦う激しい沈黙かと思いきや、突然清美の頬を伝った涙に、琴音はあんぐりと口を開けてしまう。
 「何で泣くんですか、そこで!!」
 「うぇ〜ん!琴音がいじめる〜!ちょっとだけって言ってるのにぃ〜〜!」
 「しかも本域で泣いてるじゃないですか!?ちょ、高校生でしょ、あなた!?」
 清美の声を上げてなく姿は、子供が駄々をこねて泣いているようであり、少なくとも高校生という年齢に見合うものではなかった。
 「うぇ〜〜ん!琴音が〜〜、琴音がぁ〜〜!!」
 ここが生徒が近寄らないような場所でよかった。もし誰かがこの光景を見ていたら、一体どうなっていたのだろう。
 「あぁ!もう!!分かりました!分かりましたよ!!協力してもらいます!!」
 ピタ、と清美の泣き声が止まる。
 「…抱っこは?」
 「させてあげます!」
 指を咥えて質問する清美に、やや切れ気味の口調で答える。
 その答えに満足した清美は、涙を拭き、すっと背筋を伸ばす。
 「…交渉…成立…それで私は…何をすればいい?」
 (古川清美…恐ろしい子!!)
一瞬のうちにキャラに戻った清美に、恐怖を覚える琴音だった。


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