(12)


 壁にかけられた楕円形の大鏡。複雑精緻な紋様や古代文字が彫り込まれた縁取りに取り巻かれた鏡面には、その場の鏡像ではなく、どこか別の場所の光景が映し出されていた。
『んっ…んふ、ぅぶっ…くふぅうっ…ちゅ、くちゅ……』
 やや足を開いて立った黒髪の華奢な少女が、床と平行になるほどに上体を折って、前後に立った頭巾をかぶった男達に膣と口とを同時に犯されている。
 だが、よく見れば男達は動かず、頭と腰を振り動かしているのはもっぱら少女の方である。
『――締まりが鈍ってきたぞ。常に襞の隅々まで意識しろ』
 少女の股間に肉棒を突き立てている男が、そう言って品よく膨らんだ尻肉に平手を打ちつけた。ぱぁん、と高い音。
『ひぅん! はっ、はい、御主人様…!』
 下半身に意識を集中して括約筋を操ろうと苦心していると、口での奉仕がおろそかになる。
『誰がやめていいと言った!?』
 少女の前に立った男が、容赦なく背中に鞭を振り下ろす。
『ひぃいッ! 申し訳ありません、ただいま…』
 必死でペニスにしゃぶりつき、否応なく磨かれた技巧で男に快楽を与えるべく励む。
 着々と奴隷調教を進められているアリシエル姫の姿を、魔境を通して見ている二つの人影があった。二人ともフード付きの外套を羽織っていた。一人はフードを下ろして頭部をさらしており、もう一人はフードを目深にかぶって人相風体はまったく不明である。
「フヒヒ……どうですかな、調教の様子を実際に目にして」
 フードをかぶっていない方がもう一人に語りかける。頬骨が張り鷲鼻の異相の、初老の男である。
 フードの人物は応えず、じっと鏡像を注視する。懸命に奉仕しながら、黒髪の美姫は明らかに性感を得ていた。乳首はぴんとしこり立ち、内股は溢れた愛蜜が絶え間なく伝い落ちている。従順な奉仕の褒美とばかりに、後ろの男が少女の菊門に太い指を二本まとめてねじ込んでこね回し、前の男は下向きに弾み揺れる乳房に手を伸ばして乳首を乱暴につねり弄った。
『あひぃいいいいい――ッ!!』
 愛撫とも虐待ともつかない扱いに、哀れな王女はそれでも悦楽に撃たれ、潮を噴いて絶頂した。
「――ここまで堕ちれば、身も心も卑しい性奴隷に仕込むのは、もう容易い仕事ですよ。ヒヒ」
「さすがと言っておこう。連合一の奴隷工房の看板に偽りはないようだ」
 フードの人物が初めて声を発する。それは変にこもって人工的な響きのある、性別も年齢も判然としない声だった。何らかの魔導具によって声を変えているらしい。
「ヒヒヒ。お褒めに預かり光栄ですな。ウチでは従来の調教に加え、薬や魔獣など、使えるものは何でも使いますから。ご覧になってどうです。ご満足頂けましたか。フヒヒ」
「そうだな。これならば任せてよかろう。――残りの半金だ」
 テーブルに皮袋を投げ出すと、じゃらりと高額硬貨のぶつかる重い音が響いた。
「これはどうも。ヒヒ。契約完了を祝って、一杯どうですかな?」
 男の手には手品のようにワインの瓶が現れていた。ラベルを見ると最高級のものだ。これまたどこからともなくワイングラスを2脚取り出して、いつの間にか蓋が開いていたボトルからワインを注ぐ。
 目の前に差し出されたグラスを、だがフードの人物は首を振って断わる。よく見れば、念の入ったことにその口元は覆面で覆われている。これを外すのを嫌ったのかもしれない。
「祝杯には早いだろう。残りの仕事を遺漏なく果たして、あの娘を二度とまともな体に戻れない淫らな家畜に仕立て上げることだ。一週間ほどしたら様子を見に来る。その時にはすべて終わっているのだろうな」
 フードの奥から確認を取るようににらむ視線に、男は薄笑いで答えた。
「出直すには及びませんよ。貴方にはしばらく滞在していただきますからね」
「? 何の、こと……!?」
 フードの人物は急激な脱力感に襲われ、がくりと膝をつく。そのまま倒れた人物に歩み寄り、フードに手をかける。
「や、やめ……」
「フヒヒ。素直に飲んでいればすぐに意識を失えたものを。でも香りだけでも効くだろう? ――ティアリス姫」
 フードと覆面を剥がれた下には、炎のような赤毛と、鏡面の中の美姫に劣らない絶世の美貌があった。


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