(15)
荷駄の長い列が城門から伸びていた。
王子の婚約者の二人の美姫が行方知れずになって一週間。懸命の捜索にもかかわらず、未だ発見の報はない。手掛かり一つない状況に焦れた当局は強引な捜査に乗り出し、民衆の不興を買っていた。
城門では、城壁に囲まれた市街から出ようとする荷車などを、兵士達が詳しく臨検しており、そのために街から出るのに行列ができるようになっていた。
もっとも、別の兵士が事前に行列をざっと見て回り、どう見てもどこにも人が隠れていない類のものは簡単なチェックだけで通れる列に並ばせて効率化を図ってはいるようだった。
自ら陣頭指揮を執る金髪のハンサムな青年は、苛立たしげな表情で荷車を次々にチェックする兵士達を眺めている。ただ調べるだけで終わればまだ早いのだが、副産物として禁制品や盗品が発見されたりして、捕り物が起こったりするので、余計に時間を食っていた。
と、ざわめきといななきが近付いてくるのを聞きつけ、彼は臨検所から顔を出した。
「どうした。何事だ?」
一両の荷馬車を誘導してきた兵士が、青年の質問に敬礼で答える。
「は、殿下! この荷車なのですが」
見れば、それは実に簡単な作りの代物だった。要するに、鉄の檻に四輪をつけただけのものである。ただ、中身は少し変わっていた。
「――何だ、これは?」
変哲も無いと言えばそうも言えるのだが……。檻の中には、二頭の牝馬と、それにのしかかって泡を吹いて腰を振る二頭の牡馬の姿があった。馬の交尾など珍しいものではない。だが――。
「馬の発情期ではないだろう。どうしたのだこれは」
戸惑った声を上げる青年に、兵士とは別の者が答えた。
「失礼いたします、王子殿下」
彼の前に進み出て深く腰を折ったのは、貧相な初老の小男だった。
「これは手前どもの馬ですが、血の混ぜ方に少々問題がありましてな、フヒヒ。どんな戦場でも怯まない軍馬を育成しておるのですが、血気に逸りすぎて、時々このように時期外れの発情を催してしまうのです。牝馬をあてがわねば狂死してしまうので、こうしてこのまま郊外の牧場に運ぶ途中でしてな。ヒッヒヒ、何しろ、この状態のまま置いておくと、他の馬に悪い影響がありますので」
ふと周りを見ると、確かに他の荷馬やロバ達が何やら落ち着かなげに鼻を鳴らしている。高くいななきながら暴力的に腰を叩きつける種馬達に当てられているのだろうか。あまりに激しい抽送は、見ている人間達まで妙な気分にさせ始めていた。
見れば子供達までぽかんと口を開けて、見たこともないほど強烈な交尾に魅入っている。
ざっと見てみても、床面は板一枚、人が隠れる場所はない。他は鉄格子で素通しである。
「ヒヒ。そんなわけで、早いところ連れ出さなくてはなりませんでな。お早くお調べ願います」
檻の戸を開けようとするのにぞんざいに手を振る。
「いや、いい。時間の無駄だ。早く行くがいい」
一応兵士が下を覗き込んで、何もない事を確認する。小男は耳障りな笑みを残して、御者台に乗って荷車に城門をくぐらせたのだった。
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