(6)


「――ひぅっ!?」
 いつの間にか部屋の中に現れていたモノを目にして、囚われの美姫は恐怖の悲鳴を洩らした。
 それは手があり足があり頭部があり、全体として直立した人型をしていたが、人ではない。太さも形状も様々な触手がうねくり寄せ集まり、人間に似た外形を模しているだけの「何か」だった。触手は得体の知れない粘液にまみれ、のたうつたびにぐちゅぐちゅと粘る音を立てる。先ほど王女の注意を引いたのがこの音だった。
 見るだけで生理的嫌悪を掻き立てて止まない人型の触手塊は、足裏の触手をうねらせ、滑るような非人間的な動きでアリシエルに這い寄り始める。
「〜〜〜〜ッ!? ううっ、うむぅうう――――ッ!!」
 高貴な美少女は、あまりのおぞましさに総毛立った。後退ろうにも背後は石壁、泣き叫ぼうにも口枷が嵌まっている。鎖に繋がれた彼女に逃れる術はない。
(ま……魔物!? どうして!? 嫌ぁ、誰か、助けてぇっ!!)
 恐怖に震え上がる姫君に、謎の生物は手を伸ばす代わりに体中から触手を伸ばした。一瞬で、華奢な美身が厭らしい触手に絡め取られる。
「んおおっ! ひぁおおおおっ!!」
 泣き叫ぶ少女に一顧だにせず、触手生物はその全身に汚穢な粘液を塗り込んだ。腕、足、腰、胸、首、頭……あらゆる部分を触手が取り巻き、意外な力強さで完全に身動きを封じる。頭を動かせなくなった王女の眼前に、これ見よがしに1本の触手が差し出された。勃起した男性器を思わせるが、遥かに醜怪な造形のそれは、先端をゆっくりと開かれたまま固定された美姫の朱唇に近付ける。
(――――! まさか…!?)
 最悪の想像通りに、その触手は実にゆったりした速さでアリシエルの口内に入り込んできた。舌に触手粘液の何とも言い難い饐えた味が広がる。
(嫌ッ! 嫌ッ! 嫌ぁああああ―――ッ!!)
 拒絶の絶叫は響かず、いっぱいに見開かれた瞳から絶え間なく透明な雫が零れ落ちるばかりだった。
「――うぶっ!?」
 触手はどんどん喉奥に突き進み、喉を通り食道を抜け、胃にまで達する。粘液の効果なのか、王女の体は生理的な吐き気を感じたのみで大した抵抗なくそれを受け入れてしまっていた。
「う、う……?」
 起こっていることが信じられずに狼狽する少女の目に、咥えさせられた触手の根元からいくつもの膨らみが断続的に迫ってくる光景が映る。――何かが触手を通して送り込まれて来る。一切の抵抗を排除し、直接胃の中に。
 それを理解して恐慌状態に陥る姫君だが、身動きも許されない彼女に阻止する手段はない。
「んんんっ、んぶぅううう―――ッ!!」
 正体不明の何かは、強制的に少女の体内に送り込まれていった。
「――――!!」
 さらに別の刺激に王女は僅かに身を跳ねる。彼女の膣と肛門にも、それぞれ形状の異なる細身の触手が滑り込んでいた。やはり粘液に摩擦を軽減され、ほとんど抵抗なく奥まで入り込み、そしてまた根元の方から触手を輸送管として得体の知れない「何か」が送られてくる。
 アリシエルはもはや発狂寸前だった。
 注がれたものは、感触からして粘液らしかった。胃を、子宮と膣を、腸内を満たしてさらに注ぎ込まれる。下腹部が膨れ上がるほど大量の注入だった。苦しさに美貌が歪む。限界まで注ぎ込んでから触手の群れは動きを止めた。数分間そのまま留め置かれる。
 そして――新たな侵入。
「!!」
 極細の触手が尿道に入り込んで来る。その先端は二股に分かれ、左右の膀胱にまで達した。

 次に、逆流が始まった。本来の意味から言えば正しい向きの流れではあったが……腸内と膀胱の触手が、強烈な吸引を始めたのだった。
「〜〜〜〜!!!」
 恐ろしい刺激だった。数瞬意識が飛ぶ。腹の中のものすべて、内臓ごと吸い出されるような心地だった。
 排泄物を強制的に処理されたのだと気付いたのはずいぶん後のことである。
 触手生物に絡め取られた姫君は、声にならない悲鳴と共に半失神状態に陥っていた。


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