第五章 立川郁美・淫虐蹂躙



 洋装の店内に反して、通された奥の部屋は純和風だった。マスターが畳の上に敷いてくれた布団に、少女の細っこい体を横たえる。
「私は店があるので、申し訳ないですが、ついていてあげられません。体調が戻るまで、この部屋で休んでいて構いませんので。起きられそうになった時や、なかなか様子が回復なさらない時にはお声を掛けて下さい」
「あ、マスター」
 誠実な態度で告げて部屋を出るマスターを追いかけた。扉の影で捕まえ、小声で話しかける。
「――ご協力、感謝です」
「何、お安い御用です…『四堂』さん。眼鏡の女性のDVDは大変楽しめましたからね。今度も期待しておりますよ」
「それは編集した大器に言ってやってください」
「素材を提供した四堂さんの尽力も大きいと思いますが。…それでは、八王子さんによろしく」
 マスターは最初に店に入った俺達を迎えたときと変わらない、至極温和で柔らかな物腰を崩さないまま、店に戻って行った。
 作戦を立てたときこの店を教えてくれたのは大器なのだが……相変わらず、あいつの人脈はかなり謎だ。
「大丈夫? 郁美ちゃん」
 枕元に戻って話しかけると、立川郁美は弱々しく微笑んだ。
「ええ…。脈拍も呼吸も問題ないみたいです。何だか、手足が痺れたみたいになって、上手く動かないだけで……こんな風になったの、初めてです」
 唇は一応微笑の形を作ってはいるが、目元や口の端には隠し切れない不安が浮かんでいた。病気していたとはいえ――いやそれだからこそ、未経験の症状に襲われて動揺しないわけがない。自分の健康状態への信頼感は、常人より遥かに低いだろうから。
 だが彼女は、湧き上がる恐怖心を無理やり押し込めてなおも硬い微笑を見せ続けた。
「すみません、和樹さん。せっかく誘ってくださったのに、私こんな……」
 健気にも謝ってくる。ちょっとびっくりだ。自分を差し置いて俺、と言うか千堂に対して気遣いを見せるとは……本当に中学生か、この子?
 おそらく千堂限定だろうが。
 相当千堂に傾倒しているようなのは、さっきまで話しててわかった。頭の回転はいいが、思い込みの激しいタイプらしい。その思い込み、あるいは思い入れが『俺』の排斥に繋がっているわけだが……。
 店内での会話の接ぎ穂に、『俺』の話もちらっと出たのを思い出す。
『――そうそう、別人と言えば、和樹さんにそっくりな人がいるのを知っていましたか?』
『え? いや、会ったことないな……そんなヤツがいるの?』
『はい。――でも、中身は全然違いますよ。懲りていなかったら……きっちり制裁してやるんだから……』
 後半はほとんど呟きに近かった。僅かな表情の変化。ほんの一瞬、少女の顔が能面のように冷ややかで酷薄な陰影を見せる。『俺』に思いを馳せた瞬間のその表情を目にして、俺は背筋に冷たいものが走るのをはっきり自覚した。
 やっぱりこいつは危険だ――。
 そのとき俺は、そう認識を新たにしたのだった。
 だが今、千堂以外のものに対して何をしでかすかわからない、千堂原理主義者の無差別テロ少女は、もう俺の手の中にいる。込み上げる圧倒的な優越感を抑え、俺は努めて平静な声音で話しかけた。
「痛いところや苦しいところはない?」
「はい、大丈夫みたいです」
「感覚はあるかな?」
 彼女の小さな手を取って軽く握ってみる。
「あ、はい……それも、大丈夫です。――少し、感覚が鈍い感じでしょうか」
「そうか…よかった」
 上手い具合いに効いてるみたいだな。
「……はい?」
 会話の流れに齟齬を感じたのだろう、微妙に怪訝そうな顔になる少女に、俺は穏やかな笑みを向けながら告げた。
「多分麻痺は1時間ほど続くと思うよ、郁美ちゃん。その後は常態に戻るだろうから、心配は要らない」
 妙に詳細な予測を述べる俺に、立川郁美は少なからぬ困惑を見せた。
「和樹さん……それって、どういう……」
「つまり――1時間は、君は何をされても抵抗できないってこと」
「なっ……何を、言って…!?」
「完全に追い詰めてから料理にかからないと、何をしでかすかわからない面があったんでね、君の場合」
 もう優しそうな振りは必要ない。仮面を脱ぎ捨てた俺は、悦に入って改めて獲物を検分にかかった。
 ほっそりした肢体を覆うのは、ライムグリーンのブラウス、アイボリーの薄手のカーディガン、パールホワイトのスリムブレザー、襟元はリボンタイで留め、ブラウン系のタータンチェックのキュロットを穿き、その下は黒いタイツ。今は脱いでいるが、登場時は肩にキュロットと同柄のポンチョを羽織っていた。何と言うか、容姿の可愛らしさを強調はしたいのだが、子供っぽくは見られたくないと言う対立する命題を苦心してまとめ上げた、と、そう言った感じの服装だった。ポンチョを羽織ると可愛らしさが引き立ち、脱いだときはきりっと知的な印象が際立つようにコーディネイトされているようだ。
 大慌てでクローゼットをひっくり返し、ああでもないこうでもないと悩む昨夜の彼女の様子が目に見えるようだった。
 俺は少女の精一杯のおしゃれをじっくり堪能しながら、その襟元に手を伸ばしていった。
「やっ……な、何するんですか、和樹さん!?」
 慌てた問いかけには取り合わず、俺はブレザーの前を開き、リボンタイを解いてカーディガンとブラウスのボタンを外していった。前ボタンをすっかり外してしまうと、彼女の肌を覆うのは薄いキャミソール1枚だけになった。どうやらブラはしていないようだ。
「………いやぁ…っ」
 真っ赤になって小さく首を振る少女。それ以上の抵抗は、したくてもできない。
 上半身はそのままにしておいて、俺はキュロットスカートの前合わせに手を掛けた。
 彼女ははっとしたように目を上げた。
「だ、ダメ! それはダメです…っ!」
 制止の声を当然のように無視して、ボタンを外し、ジッパーを下ろして少女の腰を上げ、キュロットを引き抜いた。えらく体重が軽いので、実に簡単だ。ついでに腰の裏に回した手でタイツの端をつまみ、ぐっと引き下ろす。
「ああっ…!」
 これまた頑張って背伸びした感じの、大人っぽいデザインのレースのショーツが露わになった。光沢のある生地はシルクだろうか。これって勝負下着? もしかしてキミ、そう言う展開も万に一つぐらい想像してたりした?
 少女の視線がうろうろと宙をさまよう。何が起こっているのかわからないという表情。だいぶ混乱しているようだ。
 キャミソールの裾を掴んで、首元まで捲り上げた。発育不良の薄い胸が俺の視界に現れる。
「――きゃあああっ!」
 悲鳴は一拍置いて上がった。
 乳首の色合いはかなり淡いが、周囲の肌が際立って白いために浮き上がって見えている。微妙にパレットが変なCGのような、非日常的な色彩の妙が、少女に妖精のように儚げな雰囲気を与えていた。
 唯一その幻想性をぶち壊しているのが、胸の中央やや左(俺から見れば右)に走る傷跡だった。――心臓の手術痕だ。既に傷口は塞がり、抜糸も済んではいるものの、手術からまだ半月足らず。かすかな乳房の盛り上がりに沿って走る半月形の切開跡は、未だ生々しく感じられる。
 少女の肌に残る傷跡を注視するのも何だか悪いような気がして――まあこれからもっと悪いことをするのだが、その辺は気分だ――俺は視線をややずらし、彼女のなだらかな肉の丘に手を乗せた。千沙よりもさらに平べったい胸だが、見かけと裏腹にふわっと柔らかい感触が掌を押し返す。子供のようでも、やっぱ女の子だ。
「……っ!」
 剥き出しの乳房を触られ、少女は恥ずかしさのあまりかぎゅっと目をつぶってしまった。
 ふふっ、じゃあこの間に……。
 俺は指先を唯一残った下着へと伸ばしていった。ショーツのサイドをつまんで引き下ろし始めると、彼女ははっと目を見開いて慌てまくった声を上げた。
「そそそ、それっそれっ! それだけはホントにダメです! ダメダメっ……あ、あ、やめて、やめてください! やっ、いやぁああ―――っ!」
 体の動かない彼女に抗う術はない。俺は少女の股間を覆っていた布切れをいとも簡単に引きずり下ろした。ついでに、膝の辺りまで下りていたタイツごと剥ぎ取ってしまう。


 はだけられているとは言え、服を着たままの上半身に対し、下半身は隠すものもなく露わになっている。そのギャップが俺の興奮を煽った。加えて少女の幼い体型が、いっそう倒錯感を引き立てる。
「あああああ……っ」
 肌を這う俺の視線を物理的刺激として感じているかのように、ぎゅっと閉じた少女のまぶたがかすかに震えている。
 俺は剥き身の下半身に手を伸ばし、膝を抱えて左右にくつろげた。大股開きになった少女の幼い秘唇が俺の視界に曝される。
「これが郁美ちゃんのオマ○コかあ」
 わざと卑語を口にし、そのことをはっきり自覚させてやった。もはや声もなく、固く目を閉じて小さく首を振る。
 少女の陰裂は単なる縦割れに過ぎず、恥毛は産毛すら生えていない。剥き身のゆで卵のようにつるつるだった。……本気で幼いな……。
 一瞬萎えかけるが、例のメールの文面を思い返すと胸を焦がす激情が甦る。
「さあて、それじゃあ……」
 俺の声音に不吉な響きを感じ取ったのか、彼女ははっと眼を開いて俺に脅えた視線を向けた。ベルトを緩め、ズボンから引きずり出した俺の猛り立ったモノの先端を目にして、恐怖の悲鳴を上げる。
「ひ…っ! どっ……どうして……!? どうしてこんな……和樹さん……!!」
 必死で訴える少女に、俺は冷笑を返した。
「――まだわからないかい?」
「え…?」
「これはお仕置き――いや、報復だよ。キミのおかげで俺は、同人誌をやめるかどうかの瀬戸際に立たされたんだからね」
「な、何の……こと、ですか……?」
「ひどい中傷メールをくれたじゃないか? ――『立川さん』」
「――――?」
 少女の顔には無数の混乱と困惑が浮かんでいた。俺はじっとその表情を観察する。
 頭のいい少女だ。これだけの手掛かりを与えてやれば――。
 困惑の中にも、じっと考え込む様子が見られる。やがてその面に、ある疑惑がじわじわと湧き上がってくるのがわかった。
「ま――まさか」
 羞恥に赤らんでいた顔が見る見る青褪める。
「まさか貴方は……そんな……!?」
 大きな瞳を見開き、唇を震わせて俺を凝視する立川郁美。
 いい表情だ。ぞくぞくする。俺は会心の笑みを少女に返した。
「やっとわかった? 俺が――――千堂和樹じゃない、ってことが」
 ぴしっ、と少女の心に亀裂が入る音が聞こえた気がした。
「……うそ……そんな……イヤ……」
 白茶けた表情で小さく呟く。まあ現実を否定したくもなるだろう。
 昨夜からのドキドキも、待ち合わせ場所で彼女を迎えた優しい言葉も、待ちに待っていた楽しい語らいも――何もかもが、まがいモノだったとわかったのだから。足元全部が崩れていくような心地に違いない。
 くくっ。
 やはり、本命の絶望は――格別だ。
 言っておくと、俺は彼女を騙したわけではない。勘違いを訂正しなかっただけだ。
 花束につけたカードにもちゃんと俺のイニシャルを入れておいた。
 K.S.――Kazumi.Shidou.を、Kazuki.Sendou.と誤解したのは立川郁美の勝手だ。誤解を誘導したのは認めるけど。
 さらに言えば、彼女が実際に千堂と話したことが一度もなかったために随分やりやすかったのは確かだった。何しろ彼女は、千堂の実像を知ってはいなかったのだから。――あ。そう言えば、俺も千堂に会ったことないや。
 俺は少女の絶望をさらに深めるべく、彼女の腰元に膝を寄せていった。自分の掌に唾を吐き、いきり立ったペニスに塗りつける。両手の親指を少女の縦割れに添えて押し開くと、色素の沈着のまったくない、白に近い薄桃色の粘膜が見えた。予期していた通り、まったく濡れた様子はない。
 乾いたその中心に俺の先端を押し付けると、立川郁美はようやく我に返り、悲鳴を上げた。
「ひっ!? そ、そんな――イヤ、それはイヤですっ! やっ、やめなさいっ!」
 やめなさい、と来たか。
「千堂じゃないってわかったとたん、強気だね」
「は、離れなさい! 今ならまだ許してあげます!」
 きっ、と睨みつける強気な視線に――たまらなく嗜虐心をそそられる。
 その精一杯の強がりを踏みにじり、めちゃめちゃにしてやりたくなる。
 衝動のままにぐっと体重をかけると、少女の未通の肉洞が荷重を受けてきしんだ。
「くぁあっ…! やめ…ホントに……っ! くっ! う…動け…動けぇ! ――なんで動かないの…!?」
 危機感を煽られ、必死で体を動かして逃げようとしているようだ。
「ああ、無駄ムダ。1時間は動かないって言ったろ? 薬が効いてる間は、指一本動かせないよ」
「く、薬…? ――――! さては、一服盛りましたね!?」
 一服盛る、ね。最近使わないような表現をよく知ってるなあ。
「無味無臭で副作用のないヤツ探すのは大変だったんだよ?」
 俺が探したんじゃないけどな。大器、感謝だ。
「何て卑劣な……! 薬を使って、女の子に無理矢理乱暴しようだなんて。恥ずかしくないんですか!?」
「ふうん。それじゃ、ネットの匿名性を悪用して、見知らぬ他人に中傷メールを送りつけるのは、卑怯な行いじゃないのかな?」
 我ながら冷たい声で反問してやる。多分表情も相当冷たかっただろう。
「…………」
「そんなの知りません、とか白ばっくれないだけまだマトモだね、キミは」
 だがそれで彼女が許せるかと言えば、はっきりノーだ。
「それじゃいくよ。――たっぷり苦しんでね」
 宣告しつつ、俺はかける体重を強めていった。次第に先端が彼女の肉に埋まっていく。
「う、あ、ああ、あ……いっ……痛い……いや、イヤ、こんなの嫌ぁ――――ッ!! 助けて! 誰か! 誰か助けて――――ッ!! マスターさぁーんっ!! 助けてぇえ――ッ!!」
 すぐ近くにいるマスターに助けを求める辺り、意外に冷静だった。だが――。
「無駄だよ。誰が『一服盛った』と思ってるんだい?」
「―――ッ!」
 彼女に飲ませた薬。それは、出されたロシアンティーに入っていたと考える以外にないのだ。俺が彼女のカップに触れる機会はなかった。となれば――薬を入れたと思しき人物は、一人だけだ。
「ま……マスターも、グル……」
「そう言うこと。ここ、防音しっかりしてるそうだから、いくら叫んでもかまわないからね」
 イコール、悲鳴は誰にも届かない――。
 俺は一気に体重をかけ、少女の秘孔を貫いていった。ぶちぶちと肉が千切れる感触と、みしみしと肉が軋む感触が肉棒に伝わる。
「――――ぃあアァあぁあアーーーーッ!!!」
 少女の甲高い絶叫が、俺の鼓膜を心地よく震わせた。


「……くはっ…はっ…はっく…」
 小刻みな吐息が少女の口から洩れていた。
「ふぅー…っ」
 俺も少し深い息を吐く。
「…やっと全部入ったよ、郁美ちゃん」
 俺自身の先端が、彼女の膣道の行き止まりまで達していた。
 濡れていない未開通の秘道はひどく狭く、きつかった。腰を左右にひねり、粘膜を掘削するようにしてここまでねじ込んだのだ。「やっと」と言うのは正直な感想だった。唾液を塗って多少なりとも滑りをよくしておかなかったら、入れる俺の方も苦痛だっただろう。
 呼びかけの答えはなかった。途中までは痛がって泣き叫んでいたのだが、後半からは浅く呼吸するだけでろくに声も出さなくなった。目は開いているが、意識は半ば飛んでいるのだろう。
 まあ、処女を奪われるとか純潔を破られるとか、そういう生易しい表現で済む体験ではなかっただろうことは想像に余りある。言うなれば「処女を破壊された」と称するべきか。
 したのは俺だが。
 未成熟の膣をロクな潤滑物もなしに貫通したのだ。精神的なものは置いても、その肉体的な苦痛と衝撃はどれほどのものだっただろうか。――なにしろ、奥まで入れても俺のはまだ3分の1ほど余っているのだ。彼女の体がどれだけ未成熟だったか、これだけでも判ろうというものだ。
 俺は一番奥まで差し込んだ状態を保ったまま、少女の膣が肉を貫く質量に馴染んでくるのを待った。
 別に彼女を気遣ったからではない。あまりにきつきつで、入れてる俺の方も痛いくらいだったからだ。
「ふぅっ…ふぅっ…ふぅっ…」
 乱れまくった呼吸が忙しいながらも規則的になり始め、それと共にぎちぎちに締め付けていた肉洞が僅かに緩む。まだちょっと苦しいが、ぎゅうっと握り締められるような感触ではなくなった。
 ――これなら動けるな。
 俺は予告も前触れもなしに、思い切り腰を引き、力いっぱい突き込んだ。
「きひぃああぁああーーーッ!!」
 一拍置いて再度の絶叫。雁首がいい具合に傷口を抉ったようだ。
 構わず、俺は長いストロークで抽送を始めた。少女の反応を見て、より苦痛を引きずり出すよう心掛ける。抜ける直前まで引き抜き、勢いをつけて奥まで叩き込むと、先端が行き止まりに突き当たり、どすん、どすんと鈍い音が聞こえそうなほど華奢な肢体が揺れ動いた。
「ひっ! ひぃあ! あぐ、くぁああっ! あぎぃいいっ!!」
 息の代わりに切れ切れの悲鳴を吐く少女の見開かれた瞳から、ぽろぽろと涙の粒が零れ落ちる。何も見ていないだろう大きな瞳に、俺の歪んだ微笑が映り込んでいた。
 暴力的な抽送を繰り返すうちに、乾いていて摩擦がキツかった少女の内部も、次第に潤滑が増して来た。ややねっとりしたその感触は、おそらく愛液ではなく破瓜の血だろう。だがそれが血だろうが愛蜜だろうが、動きやすくなったことに変わりはない。
 鮮血のぬめりを借りて、俺は腰の動きをいっそう激しくした。
 もとより、この段階で快感など与えてやるつもりは一切ない。俺が彼女に与えたいのは、極限の苦痛と屈辱――そしてそれがもたらす恐怖。
「あぐっ…ぐ、はっ…ぎぅうっ…」
 傷を抉られる痛みにも慣れて来たのか、それとも痛みの感覚が麻痺して来たのか。悲鳴が段々弱まってきたので、俺は腰の動きを緩め、虚ろな表情の少女の頬を軽く叩いた。
 どうやら別種の苦痛を与える頃合いのようだ。
 次第に瞳に光が戻って来たのを見て取って、俺は小刻みに腰を揺すりながら少女に囁きかけた。
「――そろそろイくよ、郁美ちゃん。……たっぷり、ナカに出してあげるからね」
 俺のセリフがじっくり脳に浸透していき――その意味を理解すると同時に、少女の意識が一気に覚醒した。
「――ひっ!? いっ、イヤぁあ、嫌ぁあああーーーーッ!! それは、それだけは、絶対に、イヤ――――ッ!!!」
 好きでもない男の種を注がれ、孕まされる恐怖――男の俺には一生理解できないだろう恐怖に襲われ、狂乱する少女。俺はにやにや笑いながらその姿を観賞した。どす黒い充足感が胸に溢れる。正気に戻した甲斐があった。

 少女を汚し尽くす精神的な快楽に、俺の欲情は急速に限界に向かう。
 腰の動きを早めながら、彼女を追い詰めるため、故意に切迫した声で呼びかける。演技半分、本気半分だ。
「イくよ、イくよ、イくよ――――!」
 高まりゆく牡の欲求を突きつけられ、恐怖を煽り立てられる少女。
「イヤっ、いやっ、嫌ぁあああッ!」
 追い詰められた悲鳴が、俺の中の引き金を引いた。一番奥までねじり込んで欲望を解き放つ。熱い精液が肉筒を駆け上がっていく感触がはっきりとわかった。
「……くぅ……っ」
 腰の裏に痺れが走る。全身の血が沸騰しそうな快感。長く続く射精が、少女の子宮の奥まで満たす勢いで濁液を注ぎ込んでいく。とてつもない征服感が脳を満たした。
「ぃああぁあああぁああぁ…………」
 俺の精汁が流し込まれていくのに比例して深くなる絶望の喘ぎが、少女の唇を割って響く。
 大量の射精が終わる頃には、立川郁美は物言わぬ人形のごとくに虚ろな眼差しで横たわるばかりだった。


「――ふう」
 凌辱の余韻をたっぷり愉しんで、俺は少女から身を離した。子宮口をこじるようにして射精した成果か、大量に流し込んだはずの精液はほとんど逆流してきていない。少女の小さな子宮は今、俺の精で膨れ上がっているのだろう。
 まだ麻痺が解けるには時間がある。少女の小柄な肢体は、俺が離れた時の姿勢のままぐったりしていた。虚空を見上げながら、その唇が小さく動いている。何やら呟いているようだ。
「――?」
 興味を惹かれて耳を寄せてみた。
「………………」
 放心したようにぶつぶつ呟く内容を聞き取って、俺は苦笑した。彼女は何と、「許さないから……訴えてやるんだから……」と繰り返し呟き続けていたのだ。――外見に似ず気丈な子もいたもんだ。ここまで過酷な体験を強いられれば、普通はしばらく何も考えられなくなると思うがなあ。
 どうやら未成熟な肉体に比して、かなり強靭な精神を身につけているようだ。苦しい闘病生活のもたらしたものだろうか。
 だがまあ、最後までその気力がもつものかどうか、見ものではある。
 今日の『デート』はまだ、始まったばかりなんだから、ね。
 ――くくくっ。


 これからの予定についてあれこれ思い巡らしていると、部屋の入り口――立川郁美の枕元辺りに、ぬっ……と黒い影が差した。
 ボロいガクランを引っ掛けるようにして羽織った、俺より確実に頭一つは高い巨影。剥き出しの胸を、よじったワイヤーのような筋肉の鎧が覆っている。圧倒的な筋力量が、覆すことのできない『戦力差』として肌で感じ取れた。
 剣呑な気配を放つその人影を目に映し、少女ははっと正気に戻った。
「――お兄ちゃん…!?」
 絶望から希望へ。一言に絶対的な庇護者への無限の信頼が溢れていた。
 だが――。
「――俺に妹はいない」
 一歩下がってじろりと見下ろした男の顔を初めて目にして、少女の安堵の表情が凍りつく。
「よう、威蔵。よく来たな。助かるよ」
 そう。それは少女の兄ではなく、俺の友人、立山威蔵だった。
「ふん。つまらん用で呼んだのではなさそうだったからな」
 無愛想に吐き捨て、足元の少女の幼い裸身をじろりと見下ろした。兄の静かな気迫とは異なる粗暴な雰囲気に、立川郁美は不安げに眉をひそめる。一瞬抱いた希望を打ち砕かれた衝撃は相当堪えただろうに、健気に自分を保っている様子が痛々しく、大いに俺の溜飲を下げた。まあまだこんなもんじゃないがな。
「で――俺に何をさせる気だ?」
 睨むような目つきだが、コレがこいつの普通の顔だ。
 俺は束ねた白いロープを取り出し、威蔵に見せた。
「ちょっと、一緒に出かけようと思ってね。まずは、着替えてもらおうかな」
 にやにや笑いを隠さず、俺はそう口にした。


 二十分ほど後。俺達は電車の中にいた。
 昼前とはいえ、休日の環状線はそこそこの混み具合いだった。空席があるほどじゃないが、他の乗客との接触を避けられないほど混んでもいない。
 俺達は外回りの電車の、外側のドアの前に陣取っていた。車両は前から2両目。小さい駅では開かない上に、乗降客も少ない格好のポジションだ。
 俺達はちらちらと他の乗客の注目を浴びていた。連れがかなり目立つせいだ。
 厚手の黒いコートと黒いソフト帽を目深にかぶり、俺――つまりは平均的な男の身長よりも頭一つ分背の高い巨漢。高さだけでなく横幅も大きい。体が大きい上にやたらと剣呑な気配を漂わせており、しかも時折首だけ振り返って周囲の人間に威圧するような鋭い視線を投げているものだから、他の乗客はなるべくかかわり合いにならないよう、慌てて顔を逸らしたり目を伏せたりする。そんなわけで、俺たちの周りには微妙に人のまばらな空間が形成されていた。
 俺はそれとは逆に、むしろ寄り添うように肩を寄せ、時々そいつの胸元に小声で話しかけていた。どこからどう見ても、なにやら怪しい密談をしている風情だっただろう。ちなみに俺の格好も巨漢と同じ、黒いロングコートと黒いソフト帽だった。俺はついでにごついサングラスまでかけている。まあ、これで怪しむなと言う方が、無理がある格好ではあった。
「どうだい? そろそろ体は動くんじゃないかな?」
 巨漢――無論威蔵だが――の襟元はたっぷりした薄手の白いマフラーが覆っている。俺が目配せを送ると、威蔵は頷いて、コートの前ボタンを外し始めた。そして――袷が開かれると、そこに少女の白い肌が姿を見せた。
 威蔵がマフラーを緩めると、その下にあった立川郁美の顔がようやく現れる。
 問いかけの返事はない。
 口の中にスポンジ球を含ませた上、顔の下半分を遮音性に優れた革マスクですっぽり覆われていたのでは、呻き声すらろくに出せるわけはなかった。
 少女は羞恥の涙を目元ににじませながらも、射殺さんばかりの視線を俺に投げかけていた。
「困るね、そういう反抗的な目つきをするようじゃ」
 俺がそう言い聞かせると、一拍遅れて威蔵が腰を揺すり上げた。
「――――!!」
 びくん、と少女の胴が波打った。うん、やっぱり薬は抜けたみたいだな。
 俺は口の端を笑みの形に歪めながら、改めて少女の無残な有様をじっくり観察した。
 立川郁美の裸身は、白いロープで緊く縛り上げられていた。ちなみに痕のつきにくいソフトSM用ロープだったりする。
 足は片足ずつ、膝から下を折り畳んだ状態でがっちり固定してある。遠目に見れば膝下が切り落とされたような姿に見えるかもしれない。
 体はあまり身動きできないよう、淫らに縄掛けしてあった。動けば自分で乳房や尻を搾り上げて、苦しい思いをすることになる。その手の解説本を読んで前もって研究しておいたのだが、意外に上手く縄を打てた。
 両手は、指を動かせないよう特殊な革手袋をつけさせた上で、威蔵の背中に回させている。彼女の手の長さではとても威蔵の背を回り切らないので、手首を革ベルトで繋ぎ合わせている。
 頭部は、その特徴的なツインテールを威蔵の腋の下に回させ、先端を反対側の手首に縛って、動かせないよう固定してある。無理に動かせば髪が引っ張られて痛い思いをするだけだ。鼻から下は黒いマスクに覆われ、鼻声すら響かせられないようになっている。マスク越しの呼吸は楽ではないのだろう。立川郁美の薄い胸は、大きく上下動を繰り返していた。当然その分胸を搾り上げる縄が深く食い込むが、浅い呼吸では充分な酸素が得られないものと見え、ぎちぎちとかすかに縄を軋ませながらも胸郭を膨らませ続けている。
 彼女はロープ以外には全裸で――そして、その体重の大半を、俺の手で無理やり開花させられ、今また威蔵の巨根が埋め込まれている秘洞で受け止め、支えていた。男の背中に回された手も、全身を縛めるロープも、ずり落ちようとする体を支える役には立っていない。
 ――いや、本来はサポートの縄を何本かかけて、体重の何割かだけかかるようにするつもりだったのだが……。威蔵が「問題ない。支えられる」とか言い出したもんだから。
 しかし、いくら軽いとは言え、女の子一人分の体重を本当に支えてしまうとは……ペニスも筋肉製か? こいつ……。
 ちなみに、処女を破られたばかりのただでさえ狭い膣肉が、俺よりも太く長い威蔵のイチモツをまともに受け入れられるわけもなく、ぎちぎちに引き伸ばされた膣口からは、時折赤い雫が垂れ落ちて、威蔵の剛直にいっそう陰惨な彩りを添えていた。
 快楽などひとかけらもないのは間違いない。絶え間ない激痛が少女の細い肢体を苛んでいるだろうことは、彼女の声を聞くまでもなく明らかだった。威蔵が歩くたび、腰を揺するたびに限界まで押し広げられた膣肉が軋み、破瓜の傷口がいっそう引き裂かれて苦痛がいや増すよう、特に考案したのだからまあ当然ではある。
 今までも白いマフラーの粗い布目越しに、威蔵の襟元から外の様子が見えていたはずだが、電車の中で淫縛された裸身を曝し出す恥ずかしさはまた別格らしく、立川郁美は不安げな眼差しで、眼だけ動かして周囲の様子を窺っていた。目元は熟れたトマトのように真っ赤に染まっている。
 俺は手を伸ばし、剥き出しになった少女の左胸に触った。この後何ヶ月かすれば目立たなくなっていくであろう――今はまだ痛々しい――手術痕の上に掌を被せる。どくどくと激しい拍動が伝わってきた。
「そんなに興奮すると心臓に悪いよ、郁美ちゃん」
 いかにも親切ごかして囁きかけると、彼女はまたも涙目で、きっ! とばかりに睨みつけてくる。
 ――学習しないなあ。
「…………ッ!!」
 威蔵が手荷物を落ち着けるような動作で腰を揺すり上げる。手の下で心臓が跳ね上がるのを感じる。めいっぱい押し広げられた破瓜の傷口を抉られ、少女は再び、声にならない悲鳴を上げていた。
 ぽろぽろと涙が伝う頬をそっと撫でる。
 さあて。ああやって抉り込まれなくても絶えず痛いはずだし――痛みに慣れられても面白くない。じゃあそろそろ……。
 俺は再度少女の平べったい胸に手を置いた。今度はそのまま、ゆっくりと撫で回し始める。
「――――?」
 不審そうな眼差しを無視し、ゆっくりじっくり、左右交互に――慰撫するように優しく撫でていく。
「――――」
 逃げるように身をよじりかけ、ぴたっと止まる。下手に動けばまた傷口を抉られる。身動きできるわけはない。嫌そうに眉をひそめながらも、彼女は俺の愛撫を甘受するしかなかった。
 優しく撫でさすり続けると、少し痛みが引いたのか、少女の体から微妙に緊張が抜ける。
 今度は少しだけ力を入れ、掌に包み込んだ、ないも同然の乳肉を軽く揺らす。
 焦らず、ゆっくり――。少しずつ慣れさせながら動きを強めていくと、執拗に刺激され続けた乳房は、乳首の充血と言う形で俺の手に応え始めた。
 尖った乳首を指先でそっと擦る。壊れ物を扱うように優しく。
 柔らかい刺激に耐えかねてか、痛くない程度に意識して微妙に身を揺すり始める少女。
 無論逃れられるわけはない。彼女自身の身じろぎに加え、レールの振動が指の動きを不規則なものにした。慎重に愛撫して少女を性感に目覚めさせていく。やがてめいっぱいしこり立ち、平板な胸から突き出すように自己主張し出した乳首に俺はそっと指を添え――思い切りひねり潰した。
「――――!?」
 穏やかな快感で感度を上げられていた局所に突然訪れた激痛に、立川郁美は不自由な体を精一杯のけぞらせて反応する。白いロープがぎちぎちと軋んだ。電車の振動にまぎれ、俺の耳にもやっと聞こえるかどうかと言う微かな軋みは、当然他の乗客にまで届くことはない。

 そのまま数回きつく揺さぶり立ててから指を離した。虐待を受けても、彼女の乳首は勃起したままだった。
 胸を激しく上下させ、虚ろな瞳を車窓に向けていた少女がびくりと震える。俺の掌が彼女の下腹部をそっと撫で始めていた。俺が何をしたいのかが薄々察せられたらしく、俺に脅えた瞳を向けてくる。
 それそれ、その眼だ。それをもっと見せて欲しいな。
 口の端に笑みが浮かぶ。
 俺はじっくり、下腹部に眠る性感帯を揺り起こし始めた。


 拘束された少女の裸身は脂汗にまみれ、ぐったりと憔悴した様子を見せていた。
 あれから俺は、勃起したクリトリスを押し潰し、潤み始めた肉襞を引っ掻き、下腹部を握りしめて間接的に威蔵のペニスをしごき上げた。快感と激痛を交互に与えられ、わずかな悦感を苦痛を際立てるスパイスに使われた立川郁美は、息も絶え絶えと言う様子を見せていた。
 電車の窓の外を流れる景色が、道を通る車や通行人が、彼女の羞恥心をいたく刺激していたのも間違いない。
 肉体も精神も削られ続けた少女の瞳は、だいぶ力を失ってきていた。それでも時折恨みがましくねめ上げてくる。ここまで来ると、大したもんだと言わねばなるまい。
 威蔵も2回ほど射精していたようだが、少女の狭い膣の具合いがよほど気に入ったのか、未だ萎えずに貫き続けている。……持続力あるなあ。
 そんなこんなで環状線を一周半ほど回った。いい加減足が疲れたので、移動することにする。マフラーとコートを戻した威蔵と連れ立って電車を降りた。歩く度に膣内を抉られる立川郁美の呻き声が聞こえる気がする。特に階段の上り下りはかなりこたえただろう。
 切符の精算をして改札を出、大きな公園に足を向けた。中ほどまで歩き、池沿いのベンチに並んで腰を下ろす。――ただ歩き回るだけで責めになるんだから、楽なものだった。
 昼下がりの公園は、休日だけあってそこそこの賑わいだった。近所に動物園も博物館も映画館もある。そう言うところに出向いて休日を楽しむ人達が、公園を移動経路の一部として、途中の休憩所として利用している。公園自体を目的地として来る人も少数ながらいるようだ。
 10月も終わりに近く、気温は低めだが、風が弱くよく晴れているため、絶好の日向ぼっこ日和だった。特に俺や威蔵みたく黒ずくめの服装だと太陽の輻射熱をめいっぱい吸収して、少し暑いほどだ。
「こうやってのんびりするのもたまにはいいねえ」
 俺はぐーっと伸びをしながら、どちらにともなく話しかけた。
「……ただじっとしているのは性に合わんな」
 答えて威蔵がそわそわと体を揺らす。暇な時間には体を鍛えていないと落ち着かないらしい。――腰を揺らしているのは立川郁美を責め上げるためもあるだろうが。
「ふぅん、そうか。それじゃあ……」
 俺は目の前のかなりでかい池を見回す。少し行ったところに小屋と桟橋があった。
「……ボートにでも乗る?」
 池に数艘漕ぎ出しているボートを見ると、乗っているのは大体二人連れの男女だったが……。
 あそこに見るからに怪しい黒ずくめの男二人で乗ったボートが混じった光景を想像して、あまりの浮きように溜息をついた。
「――やっぱやめ…」
「よかろう」
「…とくか、って、え?」


 結果。
 想像以上に浮きまくってます。
 岸辺や他のボートからの視線がかなり痛い。
 俺はソフト帽を目深に被り直して顔を伏せた。……サングラスしといてよかった。
 漕ぎ手席の威蔵は奇異の目をものともせず、悠々とオールを漕いでいる。ぱっと見ではわからないが、かなりご機嫌のようだ。とにかく体を動かすのが好きなんだな、こいつ……。
 威蔵のパワーはやはり只事ではなく、俺達の乗ったボートは明らかに他のボートと一線を画す速度でぐいぐい進んでいる。まあそのせいで余計に悪目立ちしているわけだが。
 オールを操るため、座ったまま体を前後に大きく動かす威蔵。体動に合わせ、威蔵の剛棒が抽送され、少女の膣肉をこそぐように抉り回していることだろう。
 彼女の苦悶に思いを馳せる一瞬、俺は周囲の視線も気にならなくなり、口元がにやにやと笑み崩れるのを抑えることができなかった。
 もっと虐めてあげたい気分が高まってきたけど……さすがにここでは無理っぽい。
 ぐいぐいと水を切って進むボートに座りながら、俺は次にどこに行こうか思案した。
 ……って、冷たい水の上で風を切って進んでると、ちょっと寒いんですけど。よし、次はどこか屋内。それは決定。


 てなわけで今度はデパートに来てみた。
 けっこう老舗の店だが、あまり人は入っていない。今時デパートってのも流行らないんだろうか。まあ今の俺にとっては、人が少ないのは願ってもない状態だ。
 あちこち見て歩いた後(繰り返すが歩くだけで彼女には拷問だ)、文房具店をのぞいていくつか買い物をする。それからすぐ二人でトイレに行き、誰もいないのを確かめて同じ個室に入る。
 久々に立川郁美と顔を合わせた。半分気絶しているような状態で、瞳はすっかり力を失っている。
 これじゃつまらないなあ。
 そこでさっきの買い物の出番。俺は包装紙を開け、中からいくつかの物品を取り出した。
 事務用のクリップと、綴じ紐である。……え、綴じ紐を知らない? 書類にパンチで穴を開けた後通して縛る用の紐のことなんだが……。バインダーが普及する前はもっぱらこれが使われていたそうで、その名残か、文房具屋とか事務用品店に行くと今も売っている。黒くて荒くて長さ30センチくらいの紐だ。太さは……そうだな、ボールペンの芯くらいかな。
 これをどう使うかと言うと……。
 俺は邪悪な笑み(多分)を浮かべつつ、クリップを少女の胸の先端に寄せていった。
「プレゼントだよ、郁美ちゃん」
 囁きつつ、その飾り気のない「装身具」を身に着けさせる。
「……〜〜〜〜ッ!?」
 半失神状態だった少女の瞳がいっぱいに見開かれる。いい反応するなあ。もう片方の乳首にもサービスしてあげよう。
「――――ッ!!」
 無言の悲鳴を上げて身悶える少女。もはや慣れかけた膣内の裂傷の痛みより、こっちの方がずっと深刻らしい。
 でも、まだだよ。俺は黒いバネ鋼を彼女の足の付け根に寄せていった。
 脅えきった瞳が俺の手の動きを追う。微かに頭が左右に振れ、拒絶だか哀願だかを示そうとしていた。
 でも、ダーメ。
 暴虐から身を守るためだろう、彼女の体は牝の反応を見せ、淫蜜を分泌し、膣襞を充血させていた。当然、秘芯も……。
「!!!」
 包皮に覆われたままの豆粒ほどもない小さな突起に、クリップががっちりと噛み付いていた。
 いっぱいに開いた秘唇からは、白濁した粘液がとろとろと垂れ落ちてくる。何回イったんだ? 威蔵……。でもまだいきり立ったままだ。あまり長時間勃起し続けていると男性機能に支障をきたすとか聞いたことがあるが、コイツには当てはまりそうもない。タフだなまったく。
 俺は綴じ紐をそれぞれのクリップの金具に結び、ポケットからローターを出して3本の綴じ紐でその中央を縛った。3ヶ所から伸びた紐で、ローターが少女のへそ上の辺りに宙吊りになる。綴じ紐をもう1本使い、ローターから伸びた電池ボックスを彼女の体を淫縛するロープに縛って固定する。
 準備完了。
 俺はポケットから小さなプラスチックケースを取り出し、にやりと意地悪く笑う。
 それは――ローターのリモコンだった。
 スイッチ、オン。
 ヴ――ン……。
 微かな振動音が発生すると同時に、少女がぎちぎちとロープを軋ませながら身を揺すり始めた。ローターの振動が綴じ紐を伝わり、クリップに食いつかれた乳首とクリトリスに微振動を与えているのだ。ほのかに快感を伴う激痛――。耐え難いその刺激に、じっとしてはいられないのだろう。
 ――ちなみに、文房具店で安全ピンも購入しようかどうか迷ったのは内緒だ。いくら何でも可哀想かな、などと思ってしまったので買わなかったが。どう使うつもりだったかは――まあ想像にお任せする。
 俺は新たな彩りを添えられた少女の無残な姿を観賞して悦に入る。
「可愛いよ、郁美ちゃん。よく似合ってる」
「…………!」
 涙目で抗議するように俺を睨む。
「おいおい、『プレゼント』はまだ余ってるんだよ? そんな目をされたら、もっとサービスしてあげたくなっちゃうじゃないか」
 紙袋を振るとクリップがカチャカチャ鳴る。立川郁美は慌てて視線を逸らした。
「ふふふっ。それじゃあ、デートを続けようか」
 少女の裸身がコートの中に隠れ……彼女にとっては地獄の散策が再開された。


 時折ローターの振動の強さを変えながら散々歩き回った。時刻は昼下がり。辺りにはだいぶ人が増えてきた。
 ――そろそろ引き上げ時か。
 俺と威蔵は駅に向かい、切符を買って自動改札を通った。環状線のホームに向かいかけたところで、雑踏から頭一つ飛び抜けた長身の人影が目に入る。
 どくん、と心臓が踊った。
 見覚えがあった。
 肩にガクランを引っ掛けた、鍛え上げられた筋肉で全身を鎧った巨漢。
 ――立川郁美の兄だ。名前は……雄蔵、だったか。
 イヤな汗が噴き出してくる。
 な、何故この男がここにいる!?
 いやまあ、それはどこにいようとその人の勝手だが……。あまりにタイミングがよすぎた。――俺にとっては悪すぎた。
 どうしよう。
 どうすべきか?
 この男には絶対勝てそうもないのはもう一目でわかる。わかりすぎるほど。
 もし、俺が今現在、立川郁美にしていることがコイツにバレたら――?
 パニックに陥りそうな精神を無理やり押さえ込む。
 待て待て落ち着け俺。考えてみれば帽子をかぶってサングラスもしてるんだ。俺、と言うか千堂だと思えるはずはない。立川郁美の姿も一見、この場にないわけだし。
 よし。方針決定。
 見なかったことにして通り過ぎる。コレだ。これしかない。
 1秒にも満たない脳内会議の後、対策が打ち出された。
 俺は素知らぬ振りを決め込み、人の流れに乗って歩を進める。立川雄蔵の方は、人波など意にも介さず、自分のペースで悠然と歩いたり止まったり周囲を見渡したりしていた。ある意味傍若無人だ。
 俺――と威蔵――は流れに合わせて移動し、巨漢の傍らを通り過ぎた。
 何もなかった。よかった、考えすぎだったか……とか胸を撫で下ろした瞬間。
「む――待て、千堂和樹。貴様、妹と一緒にいるのではなかったのか」
 一瞬足が止まりかける。冷や汗が流れた。まさか、帽子とサングラス越しに俺の顔を見分けるとは――。
 根性で無理やりそれまでの歩調を保ち、何事もなかったかのように行き過ぎようとする。
 力強い掌が俺の肩を掴んだ。
「待てと言っている」
 胸に重く冷たい塊が沈んでいく感じ。もう、ごまかしは効かないようだ。よ、よし――もうこうなれば……。
 俺は驚いたように振り返り、巨漢の鋭い眼光にうろたえた素振りを見せた。
「え、は? お、俺ですか? あの――ど、どちら様、でしょう…?」
 立川雄蔵が目を細めた。高まりゆく怒気が肌を圧迫するのが感じられる。
 こ――怖えぇ…。
 だがもう、これで行くしか手はない。
「それは、何の冗談だ、千堂。妹はどうした? ――その似合わないサングラスを取れ」
 恫喝にしか聞こえない低い声に、俺は頬を引きつらせながらサングラスを外した。震える声で――この辺、演技の必要がないほどビビっていた――質問に質問を返す。
「あ、あの――だから、何のことですか…? あなた、誰ですか…?」
「――俺の連れに、何の用だ?」
 割って入る低い声。立川兄よりいっそう獰猛な気配のこもる声だった。
「タケ……」
 俺はほっとした顔を作って立川雄蔵に劣らない体躯の巨漢を振り返り、少し落ち着いた声で問い直した。
「あの。改めて聞きますけど、俺に何の用ですか?」
 立川兄は戸惑った表情で俺を見下ろす。
「貴様、その顔――千堂和樹だろう? 今日は妹が貴様に会いに出かけたはずだ。まだ会っていないのか? それとももう別れたのか?」
「妹さん、ですか? ――ん? センドウ? …人違いじゃないですか。俺の名前はセンドウじゃありませんよ」
「何――?」
 俺はポケットから免許証を出し、立川雄蔵に見せた。
「――四堂和巳――?」
 巨漢は目を細め、何度も俺と免許証を見比べていた。
「う…む。本当に、別人なのか…? 見れば見るほどそっくりだが……」
「そんなに、俺にそっくりな人がいるんですか」
「ああ。――済まん、勘違いで迷惑をかけたようだ。妹の気配を感じた気がしたのだが――俺の勘も鈍ったものだな」
 いや、鈍ってません。めちゃめちゃ鋭いです。マジにビビりました。
 彼は俺の背後で『一戦ヤるか?』とばかりに剣呑な空気を漂わせている威蔵にちらりと視線を投げる。が、取り合うことはせず、俺に目を戻した。
「驚かせたようで、重ね重ね済まなかった」
 腰を折って深々と頭を下げる。――実に潔い。
 一瞬驚いてから、俺は慌てて手を差し出した。
「いやそんな――顔を上げてください。確かにびっくりはしましたけど、迷惑と言うほどのこともなかったですし」
 きっかり3秒――いや、計ったわけじゃないがそう言う「ぴったりした」雰囲気だった――頭を下げ、男は顔を上げた。実にかっこいい。思わず「惚れて」しまいそうだ。
 今度は目礼し、男はくるりと背を向けて去っていった。
 妹を苦境から救い出す、唯一無二の機会を置き去りにして……。
 ――威蔵の胸元から、絶望の呻きが聞こえたような気がした。
 驚いたが――これはこれで結果オーライだったようだ。
 口の端に歪んだ笑みが浮かぶ。と同時に、緊張から解き放たれた安堵で膝が震えた。
 一歩対応を間違えたら、絶体絶命だったかもしれないな……。
 俺は額にかいていた冷や汗を拭い、環状線のホームへと足を向けた。


「今日は楽しかったよ、郁美ちゃん。また遊ぼうね」
 今日の『デート』の始まった場所。あの喫茶店の奥の部屋で、裸で床にへたり込む立川郁美を見下ろしながらそう声をかけた。拘束は全て解かれている。クリップも外した。
 ずーっと膝を折った状態で固定されていたため、足が痺れて立てないのだろう。マスターが綺麗に畳んで置いてくれていたらしい彼女の衣装の中から手に取ったブラウスで胸元を隠しながら、少女は最初の頃より随分弱々しい仕草で、だが未だ力の残る瞳で俺を睨み上げた。
 この期に及んでその目ができるのは、実際大したものだ。似てないようでもあの男と兄妹なのだと実感する。
「あなたは……絶対、絶対許さない。必ず、正当な裁きを受けさせてやりますから」
 丸半日喋っていなかったせいでか、ややしわがれた声で、だがはっきりとそう宣言する立川郁美に、俺はにやにや笑いを浮かべながら答えた。
「ふぅん。……でも、君が余計なことを考えると……千堂和樹が不幸な目に遭うかもしれないよ」
「な――――!?」
 目を見開いて絶句する小柄な少女。
「ど、どう言うことです?」
「ん? そうだな、例えば――」
 俺は指折り実例を挙げていく。
「『千堂が』婦女暴行で捕まるとか――喧嘩に巻き込まれて、利き腕を粉砕骨折するとか――交通事故か何かが原因で、失明してしまうとか――そんなことが、起こり易くなるかもしれない」
「――な、な……」
 実のところ――半日にわたって彼女の心と体を痛めつけ続けていたのは、この一言のためだけと言ってもよかった。『俺ならやりかねない』と、この脅迫にリアリティを持たせるため――少女に本物の危機感を抱かせるためにこそ、徹底的な虐待を施してきたのだ。
「だ――ダメです! そんなこと……!」
 案の定、立川郁美は青い顔で食ってかかってきた。
「そうだねえ。そんなことがあったら、千堂和樹は二度と漫画が描けなくなってしまうね」
「くっ……!」
 ぎりっ、と歯を食いしばり、憎悪と言うより怨嗟を感じさせる視線で俺を見つめる。
 数秒間の沈黙の後、彼女はゆっくりと声を絞り出した。
「――――どうすれば……いいんですか……」
 ――釣れた。
 口の端に我知らず歪んだ笑みが浮かぶ。
 やはり彼女は頭がいい。俺の言葉が、取り引きの誘いだと言うことを明敏に察していた。
「なに。要求は一つだけだよ」
「…………」
「――俺の、奴隷になれ」
「!!」
 少女の顔が強張る。震える唇を開いては閉じる。何か言いかけてはやめているようだ。
 激しい葛藤が彼女の精神を苛んでいるのが手に取るようにわかった。
 病気をしてつらい思いを重ね、友達もほとんどいない彼女のこと、自分自身への執着はあまり持っていないだろうとは予想がついていた。もし俺が彼女への虐待や、痴態の記録などを盾に脅迫したとしても、決して俺の言いなりになることはないだろう。
 だが、千堂だけは特別。彼女にとって唯一にして絶対の弱点なのだ。
 今や千堂依存症と言っていい状態の彼女は、これまで思うようにならなかった人生を千堂に仮託することで精神の充足を得てきたものと思われる。千堂の夢を自分の夢、千堂の幸せを自分の幸せとすり替え、千堂の活動に色々と協力することで、充実感と達成感を味わっていたはずだ。
 千堂の手助けをすることが、今のところ彼女の最大の望みなのだ。
 そして実は――この取り引きは、彼女の願望に深く合致する部分があったりする。自分の身を犠牲にして千堂を助ける――。実にこう、少女の甘ったるいヒロイズムとかロマンチシズムとかを満足させるシチュエーションではないだろうか? で、結果として自身が不幸になればなるほど、千堂の幸せに貢献できた実感が得られるわけで、これまで俺が加えてきたプレッシャーが全て彼女の中で悲劇的な自己陶酔に変換され得ると言う、都合のいいカラクリが秘められていたりするのだった。
 彼女がこのカラクリに気付いていてもいなくても、取り引きへの強烈な誘引力として働くのは確かだ。
 さてと、ここでもう一つ駄目押しを加えておこう。
「別に千堂に会うなとも言わないし……メールやプレゼントなんかも、今までどおりにやりとりすればいいさ。今後すべきでないこと、話すべきでないこととかも特に指示しない。賢いキミのことだ、その辺りは言わなくてもわかるだろうからね」
 俺の提示した寛大な条件にかえって苦悩を深めた表情で、立川郁美は微動だにせず黙りこくった。

 たっぷり1分以上も黙り込む少女を、急かすでもなく見つめ続ける。彼女の精神の苦悶は、俺には甘露のようだ。表に出ない精神の暗闘を、じっくりたっぷりと眺めて愉しむ。
 噛み締められて血の気を失った唇が、ようやく言葉を搾り出し始めた。
「……せ…千堂、さんには……決して…手を出さないと……約束、して……くれ…ますか……?」
 ――屈服につけられた条件に、俺は笑みを返した。
「もちろんさ。――君が、俺の要求を呑んでくれればね」
 退路を断たれた少女は、がっくりとうなだれて弱々しく答えた。
「――わかり、ました……。あなたの……ど…奴隷、に……なり――ます――」
 甘美な勝利の瞬間。
 どす黒い歓喜が俺の胸を満たす。
 俯いた少女の顔の真下の畳に、ぽつりと水滴が落ちた。


「――とまあ、そんなわけでだ。これがその後、マスターに協力してもらって撮ったビデオ」
 2日後の火曜日、午後4時半。部屋に押しかけてきた、今回はおおむね裏方に徹してくれていた大器に、首尾報告がてら事のあらましを語って聞かせていた俺は、大器に借りていたデジタルビデオカメラを手渡した。
「うむ」
 受け取った大器は、懐からAVケーブルを引っ張り出し、部屋のテレビにつなぎ始めた。
「――って、ここで観んのかよ!」
 ベッドに腰掛けたまま一応突っ込むが、聞いちゃいねえ。それ以前に、何故ケーブルを携帯しているのかもかなり疑問ではあったが……。こいつもしかして、最初からここで観る気満々だった?
 微かな水音をBGMに、俺は諦めの表情で大器の接続作業をぼんやり眺めていた。接続と設定をてきぱき済ますと、大器はハンディサイズのデジタルビデオの録画映像を再生し始める。テレビにぱっと画像が映し出された。
 テーブルと椅子を取り除けた、例の喫茶店の一角。だがその情景は、最初に見たときとは随分趣きが違う。窓には光沢のある臙脂色の厚手のカーテンが引かれ、内外を遮断すると共に、室内に高級感とどこかほの暗い雰囲気を同時に醸し出している。照明はあちこちに配されたカンテラ型の電灯で、中にはろうそくの炎を模したような形状の透明な電球が光っているが、光量が――あるいは灯数が足りず、店内はやや薄暗い。だがそれも、店内の妖しい空気を助長する役割を果たしていた。
 カメラは固定されており、揺れやブレがない。
 画面奥に向かって幅1メートル足らずの赤いカーペットが敷かれ、突き当たりの壁際に、店の内装同様シックな装いのマスターが立っている。
 そのまま数秒。画面内に歩み入ってくる一組の男女。カメラアングルが斜め後ろなので顔は直接見えないが、まあ有り体に言って俺と立川郁美だ。
 立川郁美はかなり特筆すべき格好をしていた。頭に薄絹を重ねた長いヴェールを被っていたのだ。頭頂部には銀のティアラまで乗っている。特徴的なツインテールのリボンも白レースに変わっていた。付け加えて言えば――ヴェール以外には何も身に着けていない。裸にヴェールだけ被せられていた。
「ほほう。なかなか雰囲気が出ているではないか。手を回した甲斐はあったようだな」
「――やっぱお前か。あんなもん用意しやがったのは」
 マスターがカーペットとヴェールを出してきたときには、どうしようかと思ったぞ。
 テレビ画面では、俺と立川郁美がマスターの前まで歩いていって立ち止まる。
『跪いてください、お嬢さん』
 マスターの口調はあくまで優しげで紳士的だ。この状況下で最初と態度がまったく変わらないのも、考えてみると少々不気味ではある。改めてあの時のシーンを見直すと、今そのことに気付いた俺よりも遥かに敏感にそれを感知して、少女は小さく震えたようだった。
 少女はおずおずと膝を折り、祈りを捧げるようなポーズを取る。
 マスターは呼吸を整え、意外に朗々と、どこか荘厳ですらある声を発する。
『汝、立川郁美は……人としてある権利を全て、傍らの男性に委譲することを受け入れますか?』
『はい――受け入れます』
 答える少女の声は、何かを押し殺したように平板だった。
『彼に所有される存在となり、その命令を自らの意思より優先することに同意しますか?』
『はい――同意します』
「ふむ。編集する時にはトリミングして上の方を切るかな」
 ちなみに上の方にはマスターの顔と俺の後頭部がある。まあいいがな……。
『彼を主と敬う奴隷となり、変わることない忠誠を尽くすことを誓いますか?』
『はい――誓います』
『では、誓いを申し述べてください』
 数秒の沈黙を経て、意を決したように張り詰めた少女の声が流れた。
『私、立川郁美は……四堂、和巳様を…主人とし…奴隷と、なって……』
 これを聞くのは二度目だが――黒い達成感と満足感がぞくぞくと背筋を這い登るのをはっきり感じた。
『終生…忠実に……お仕え、することを………誓います……』
 ようやく全て言い終え、気力を使い果たしたかのように肩を落とす画面の中の少女。そこに、変わらず穏やかな声が投げ落とされる。
『では、誓いのくちづけを』
 びくり、と細い肩が震えた。
 ――今ふと思ったが、いつも穏やかで居続けるってのは、無感動なのと変わらないんじゃないだろうか。
 跪く立川郁美の横顔に俺のいきり立った肉棒が突きつけられていた。画面には映っていないが、「くちづけ」の意味を理解して暗澹たる表情で目を伏せる少女の顔が鮮明に思い出される。今にも泣き出しそうだが、泣く気力さえもうない――そんな顔つきだった。
 多分数日したら抵抗心もだいぶ戻るだろうが、この時の彼女は生きた人形も同然だった。また数秒ためらってから、おずおずと唇を寄せる。今まで無理やりに奪われ続けてきた少女の、初めての自発的な行為。
 震える小さな唇が、俺の先端にそっとくちづける。柔らかく温かな感触が脳裡に甦る。
 ペニスをひときわ強い快感が包んだ。
「ふう……っ」
 息を吐いて気を落ち着ける。
 画面に目を戻すと、マスターが最後の指示を口にした。
『それでは、首輪を』
『――はい』
 今度答えたのは俺だ。赤い革ベルトを取り出し、跪いて頭を垂れる少女の首に巻く。
『以上をもって、隷属式を終えます。立川郁美は誓いを立て、四堂和巳の牝奴隷となりました。常に奴隷の立場を弁え、主への絶対服従を努々忘れぬように』
 厳粛に説き聞かせるマスターは、本物の司祭かと思われるほど威厳があった。
「ノリノリであるな、長瀬氏」
「……長瀬?」
「うむ。長瀬源四郎と言うのが彼の名だ」
「へえ……」
 画面内の俺は郁美を立ち上がらせ、カメラに正対させた。ヴェールと首輪だけ着けた、いたいけな美少女の姿が映し出される。ひどく倒錯的な映像。
 妙なもので、あれほど敵視していた立川郁美も、俺のものになったと思うと愛着が湧いてくる。いい子にしていればそこそこ可愛がってやろう、と改めて思った。
 郁美は俺の出す命令に従って、もう一度跪き、俺のペニスに舌を這わせ始めた。カメラ目線で見ると、その表情には「脅迫されて仕方なく」「やりたくないが逆らえない」と言った「イヤイヤ感」が濃厚に見て取れる。
 まあ、これからみっちり調教して、奉仕に陶酔を覚えるように仕込んでいってやろう。いやまてよ、ずっとあんな感じでもそれはそれで背徳感がある気がするな。反抗心は残したまま調教しようかな……。どうせ逆らえはしないんだし。
 いつの間にか画面外に姿がないマスターが操作したのか、カメラは郁美の横顔にズームしていく。顔をしかめつつも舌を出して俺のものに舐め奉仕する郁美の表情が克明に映し出された。
 ぴちゃぴちゃと小さな水音が聞こえる。
 俺は微かな水音の二重奏を聞きながら、手の下の柔らかい毛足を撫でて感触を楽しんだ。
「ところで」
「何だ、大器?」
「いまさらだが、こんなもの観せてよかったのか?」
 ――そう思うならいきなりここで再生するなよ。
「大丈夫。聞こえてないから」
「……何?」
 目を落とすと、淡い色のふわふわの髪に包まれた頭部が小刻みに揺れている。「んっ、んっ」と甘い鼻声と子猫がミルクを舐めるような小さな水音が聞こえる。
 俺の脚の間に座り込んだ、ブラウン系のセーラー服に身を包んだ少女。
 千沙だった。その首には、画面の中の郁美と同じく真っ赤な首輪が嵌まっている。
 さっきからずーっと、千沙は俺のペニスにしゃぶりついてフェラ奉仕を続けていたのだ。
「俺が呼びかけるか合図するかしない限り、周りの音は一切聞こえてない。ちゃんと確かめた」
 奉仕させた後、その間流していたテレビの話題を振ってもまったくついてこれないようだったし、奉仕中に小さな地震があったのをまったく気付いていないこともあった。
「それは……大した集中力ではあるな」
「そのせいか、テクも信じられないほど上達したぞ」
「む? その割には……」
「俺がイってない、って?」
 千沙は、そういう上達をしなかったのだ。ただ男にひたすら快感を与える類の技巧ではない。その気になればそう言うのもできるのかもしれんが…。千沙が身につけた技術は――たぶん俺限定だが――テレパシー級の洞察力だった。
 俺がして欲しいと思う通りの強さと舌使いで、絶妙の奉仕を続ける千沙。すぐイかされたのではつまらないし、イきそうなところで生殺しにされるのもつらい。千沙は俺が望むままに、俺がもっとも楽しめる強さの快楽を延々与え続ける技術を学んだのだ。千沙は俺の感じている快感の量を感知し、俺が次に何を望むのかを察知するために、全身全霊を俺へと振り向けていた。
 全神経を集中する、と言うのは簡単だが、実践はちょっとやそっとでできることではない。だが千沙は、俺への奉仕の間、実にあっさりその境地を体現し続けていた。俺を悦ばせたいと言う真情が生んだ奇跡の集中力だ。そう思うと、千沙がたまらなく愛しく感じられる。
 俺は微笑して千沙の髪を優しく撫でた。
 俺の情感が高まったのを敏感に察して、千沙の舌の動きがわずかに強まった。
「くっ……」
 完璧に俺好みのやり方で徐々に愛撫を激しくしていく。ともすれば女性が主導権を握りがちなフェラチオだが、千沙のそれは一切の攻撃性を排除し、言わずとも俺の意思が最優先される、極限まで受動的なものだった。
 テレビ画面の中では、郁美の唇に先端を含ませ舐めさせていた俺が、少女の頭を押さえていた。
『いくぞ。吐くなよ』
 言いざま射精する俺。敏感な口蓋粘膜に先端を押し付けて精液を送り込んだんだった。あの時は、結局処女を奪ってからこっち射精してなかったから、かなり溜まっていたはずだ。
 吐くなと言われた郁美の頬が膨らむ。白濁を中に溜め込んでいるのだ。最後の一滴まで郁美の口内に注いでから、俺がゆっくり腰を引く。
『こぼすなよ』
 改めて命じ、ペニスを郁美の唇から引き抜く俺。
『上を向いて口を開けろ。こぼれない程度にな』
 カメラが寄っていく。マスターが持って近付いているのだ。郁美の口の中を覗き込むように画面が動くと、薄暗い照明の中でも、口内にとろりと白い粘塊が溜まっているのが見て取れた。
『舌を動かして味わえ』
 俺の命令に従ってピンクの塊が口内で蠢く。郁美の閉じられたまぶたからは、ぽろぽろと屈辱の涙が溢れ出していた。
『口を閉じていいぞ。それじゃ、飲め。ちょっとずつでいいから、全部な』
 閉じていた目を見開き、明らかに動揺を見せる郁美。
『早くしろ。飲んだら口を開けて証拠を見せろ』
 諦めたように目と口を閉じ、こくっ、こくっと喉を鳴らす。数度に分けて嚥下し、開いた口には精液は残っていなかった。
 郁美の明白な屈服シーンを追体験し、俺の興奮もピークにまで高まっていた。
 千沙の頭が素早く上下に動いている。きゅっと締め付けた唇で肉棒を扱き、舌先がペニスの敏感な部分を舐めくすぐる。最後にちゅうっと吸い立てられ、俺は一気に、長い奉仕で溜め込まれた精を放っていた。
 射精中も千沙の奉仕は続けられる。根元まで俺のペニスを飲み込み、左右に頭を振る。先端は明らかに喉まで達しているが、もう咳き込むことはない。千沙自身の熱心な訓練の成果だ。喉粘膜が亀頭に絡みついて絶妙の刺激を送り込んでくる。
「……くぁああっ!」
 思わず呻いてしまう。
 最後の一滴までちゅうっと吸い出し、目顔で俺に許しを求めてから口に残った精液をごくりと嚥下する千沙。その瞬間、びくびくっと腰を震わせる。
 ――俺の精を飲んで、イったのだ。
「はうう……」
 俺のものに頬擦りするように、くたりともたれかかってくる千沙。一拍置いて顔を上げ、唾液と精液にまみれたペニスを舐め清め始める。慣れた動作で舌を動かし、陰嚢も口に含んでちろちろと舐める。
 一仕事終え、ようやく顔を離した千沙の表情はとろんと陶酔の色を浮かべていた。
「御主人様。千沙、上手に御奉仕できましたですか?」
 無邪気な中にも艶のある声音で俺を見上げる。
 俺は微笑んで千沙の髪を撫でた。
「ああ。気持ちよかったよ、千沙」
「にゃああ…嬉しいですぅ」
 褒めてやるとうっとりと目を細めた。
「では、拙者はこれで」
「ああ。世話になったな」
「そう思うのならレベルの高い作品で返すのだな」
「わかった。そうするよ」
 ケーブルを外してビデオカメラを仕舞い込む大器に、俺は苦笑を返す。
 そうだ。これでようやく、俺の同人活動を阻む障害をすべて排除できたのだ! ――多分。
 よ〜し! やる気が湧いてきたぞ。
 大器を見送って戻ると、千沙はベッドサイドにちょこんと座ったままおとなしく待っていた。改めて見ると、制服に首輪姿の千沙は、大変に倒錯的で蠱惑的だ。あどけないその様はもはや犯罪的ですらある。色んな意味で。
 ――原稿の仕上げは、もうちょっと後でいいや。
「おいで、千沙」
「はいです、御主人様!」
 呼ぶと、ぱっと微笑んで抱きついてくる。腕の中にすっぽり納まる千沙は、本当に小さい。これで高校生だと言うのだから、いまさらながら信じられん。
 郁美もちっちゃいけど。あれで中学生だと言うのだから(以下略)。
 俺は千沙を胸に抱きこみつつ、片手をスカートの下に忍ばせた。下着の底はぐっしょり濡れそぼり、お漏らししたような状態になっていた。

「凄く濡れてるよ、千沙」
「やぁ……恥ずかしいです、御主人様……。御主人様に御奉仕してると、濡れて来ちゃうです」
「ふふ……可愛いな、千沙は。俺の、自慢の奴隷だよ」
「あぁん…御主人様ぁ……千沙は、御主人様が気持ちよくなるのが嬉しいです。どうか千沙で、いっぱい気持ちよくなってください……」
 自分の快楽を二の次に置く健気な心根が嬉しい。濡れた下着を脱がし、制服を着たままの千沙を立ったまま貫いた。
「ひぁああ! 御主人様っ……御主人様ぁあ!」
 相変わらずきゅうきゅう必死に締め付けてくるが、だいぶ俺のモノに馴染んできたのを感じる。奉仕に悦びをも見出し、俺に与えられるものならば苦痛すら快楽に変え、しかも自らの快楽より俺を悦ばせることを至上とする千沙は、理想的な性奴隷に仕上がりつつあった。
 甘い悲鳴を上げて俺にしがみつく千沙を突き上げながら、俺は頭の片隅で、残りの奴隷達――南さんと郁美の調教方針を練り始めていた。


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