第一章 『催淫』
1
薄暗い部屋の中央で、幾つかの影が絡み合っていた。
壁も床も天井さえも石造りの、極めて頑丈な部屋である。窓はなく、唯一の出入り口は分厚い鋼の扉がふさいでいる。扉には目の高さに鉄格子入りの小さな窓がついており、それだけがこの部屋と外界をつないでいた。
荒い呼吸が石壁に反響する。
壁の松明の頼りない明かりに照らし出されているのは、汗を光らせ、絡み合う男女の姿だった。
淡いピンクの長髪がまとわりついている柔肌には、荒縄が幾重にも食い込んでいる。縄が醜くくびれさせている身体の線は、それでも充分に美しいと言える。だがそれ以上に、彼女の美貌は、薄闇を輝かせんばかりに冴え渡っていた。
清楚で神秘的で、それでいて年齢相応の可愛さがある。年の頃は見たところ十七から十九の間くらいなのだが、落ち着いた佇まいがあり、美少女というよりも美女という方が合っている。十人に聞けば十人が美人と答えるだろう、整った顔立ち。
だがその顔も、今はいささか美観を損なっていた。いっぱいに開いた可憐な唇に、グロテスクな肉の棒がねじ込まれているのである。それはもう一本、彼女の股間にも突き入れられていた。
彼女は自由を奪われ、二人の男達に無理やり凌辱されているのだった。彼女はきつく瞑った目の端に絶えず涙を浮かべ、男達が激しく腰を動かす度に、か細い呻きをあげていた。
やがて男達の動きはひときわ激しくなり、絶頂に達すると共に、白濁した液体を娘の裸身にぶちまけた。
「あ…」
彼女は声をあげ、身を震わせる。彼女の反応はそれだけだった。
彼女を犯してしまうと、男達はあっさり部屋を出ていった。
だが彼女が安心する間もなく、次の二人が部屋を訪れた。
訪問者達はすぐには彼女を犯さなかった。背が高い方の男が、嘲るように彼女に話しかける。
「どうだヴィシュナス、少しは慣れたか?」
ヴィシュナスというのが彼女の名だった。
ヴィシュナスは答えない。黙り込んで、男から顔を背けている。
男は舌打ちして、もう一人の男に合図した。もう一人の男は頷いて、ヴィシュナスの後ろに回って自分のものを取り出すと、彼女の腰を持ち上げて無造作に挿入した。
「く……」
少し顔をしかめ、呻く。ヴィシュナスの反応はそれだけだ。
背の高い方の男も洋袴から男根を出し、ヴィシュナスの口許に突きつけた。
「舐めろ」
言葉少なに命じる。ヴィシュナスは無視した。
男はヴィシュナスの頬に強烈な平手打ちを見舞った。
「うっ…」
ヴィシュナスは思わず声を洩らしたが、やはり男の言葉に従う様子はない。
「チッ…。強情な女だ」
男は呟きを洩らすと、ヴィシュナスの鼻をつまんだ。何度も同じ目に遭っているため、ヴィシュナスはじっと我慢していたが、やがて耐え切れずに口を開いた。すかさず男が肉棒をねじ込む。
噛みつきこそしなかったが、特に奉仕することもなく、ヴィシュナスは男達のなすがままになっていた。男は自分から腰を使い始めた。ヴィシュナスの唇に男の持ち物が出入りする。
ヴィシュナスの秘唇に突き込んだ男も動き始めた。が、その動きは今まで彼女を犯してきた男達のそれよりも数段優しかった。男はゆっくりと肉柱を出し入れさせながら、ヴィシュナスの裸身を撫で回していった。ヴィシュナスの身体がぴくりと震える。荒縄で縛られて張りつめた皮膚を愛撫されるとはいえ、驚くほどの敏感さである。犯され続けて体感は鈍っているはずなのだ。
男は焦らずゆっくり、ヴィシュナスの性感を刺激しにかかった。
脇腹を撫でさすった手は縄に絞り出された乳房へと滑っていき、優しく柔肉を揉みほぐす。乳首が尖ってくると、重点的に指先でこね回した。次いで臍の辺りから、自分のものを飲み込んでいる秘唇の辺りへと手の位置を変えていく。わざと通り過ぎ、一旦内腿を撫で回してから、いきなり肉芽をつまむ。
男の巧みな性戯に、ヴィシュナスはたちまち切ない表情で甘い息遣いを上げ始めた。凌辱を受け始めてから初めて、ヴィシュナスは性の悦楽を感じさせられていた。ヴィシュナスの秘部からは、精液ではない液体が溢れ出し始めた。それと共に、今までは屈辱でしかなかった秘所への抽送が、突然快感に変わった。
「うむぅ……!」
ヴィシュナスはくぐもった呻きで、計らずもそのことを男達に知らせてしまっていた。ヴィシュナスの口を犯している男はにやりと笑い、腰の動きを早めると、ヴィシュナスの鼻をつまむと共に彼女の喉に精を放った。窒息しないためには、ヴィシュナスはそれを飲み込むしかない。ヴィシュナスは二度三度と喉を鳴らして、男の精液を全て飲み干した。
前の男が離れると、後ろからヴィシュナスを犯している男はさらに巧妙な愛撫を始めた。
「あ、ああ! あっあっ、あ!」
ヴィシュナスの口からは押さえ切れない喘ぎ声が洩れた。声には快楽の色が滲み出ている。
男はヴィシュナスをさんざんよがらせてから、彼女の胎内に熱い粘液を流し込んだ。
「ああああ……っ」
同時に生まれて初めての絶頂に達するヴィシュナス。
最後の一滴まで注ぎ込むと、男はヴィシュナスを石床に放り出した。ぐったりと横たわるヴィシュナスに、ヴィシュナスの口を犯した男が声をかけた。
「今度は随分とお楽しみだったな、ヴィシュナス」
ヴィシュナスはかっと赤くなるが、男から顔を背け続けた。あくまでも返事をしようとしない。
「答えろ」
男はヴィシュナスの腹を思い切り蹴り上げた。
「ぐうぅ……っ、がっ、ぐはっ!」
ヴィシュナスは苦痛のあまり咳き込んでしまう。しかし、それでも彼女は頑なに口を閉ざしていた。その姿からは、暴力や快楽で屈伏させられたりは絶対にしない、という決意がひしひしと感じられた。
舌打ちを残して、男は部屋を出ていった。もう一人の男もそれに倣う。ヴィシュナスはさらわれてきてから初めて、一人で残された。安堵と共に、ヴィシュナスは意識を失った。
まもなく、彼女の唇からは、安らかとは言えないが、休息を保証する寝息が洩れ始めた。
2
「チッ、強情な女だ。どうしてくれようか…」
ヴィシュナスの部屋を出た後、男は宿舎へ戻って、酒を呑み始めた。もう一人の男は別の娘を調教しに行った。
「妹の方は初日からもうメドが立ってるってのに…。あの女は二日犯り続けてまだ進展なしか。これは、普通の手では陥とせんかな」
彼がじっと考え込んでいると、突然声がかけられた。
「何を考え込んでいるのかね? アルシャルク」
アルシャルクははっと顔を上げた。いつの間にか、目の前に白髪白髯の威厳のある老人が立っていた。
「ああ…。これは、ガンダウルフ先生」
アルシャルクはガンダウルフの突然の出現にも驚いた様子を見せず、彼に椅子を勧めた。
「ちょっと手強い女がいましてね。正直言って、てこずっていますよ」
「ほう? それはちょうどよかった」
「え?」
「実は、例の呪文がとりあえず完成したことを知らせようと思って来たのだよ」
ガンダウルフは、懐から真新しい巻き物を取り出して見せ、咳払いをした。
「説明したと思うが…」
「…そういえば先生は、精神力の強い女が実験材料に必要だからこんなことをしていたんですよね。忘れていました」
そう言ってからアルシャルクは、自分の言葉にはっとして言葉を継いだ。
「それじゃあ、手強い女の方が、先生にとっては…」
「さよう、都合がいい」
ガンダウルフは頷いて、アルシャルクの目を見た。
「早速実験してみるかね?」
3
朗々とした力強い詠唱が続いている。が、傍らで見ているアルシャルクには詠唱の意味は分からない。それは『力の言葉』で紡がれた魔法の呪文なのである。
呪文が進むにつれ、ガンダウルフの伸ばした両手に絡みつくように白い靄が現れ始めた。白い靄はゆらゆらと形を変えつつ、彼の足元に漂い降りていく。そこには二日間休まず犯され続け、今は死んだように眠っているヴィシュナスが横たわっていた。
ほどなく、ヴィシュナスは濃い霧に包み込まれたようになり、輪郭を霞ませた。
呪文はまだ続いている。尋常でなく長い呪文である。
呪文が続くに従って、ヴィシュナスに変化が現れた。眠りながらも、体を桜色に上気させ、息を悩ましく荒げ始めたのである。時間が経つにつれて、反応は激しくなった。誰憚らぬよがり声、淫らに振られる腰。
見ているだけのアルシャルクが生唾を飲み込むような光景だった。これがあの気丈なヴィシュナスの姿とは、ちょっと信じ難い。
やがてヴィシュナスが絶頂に達し、感極まった叫びを放つと共に、呪文は終わった。
「ふむ…。まだまだ改良の余地があるな。今の呪文は全身にかかってしまったが、もっと局所的にすることにより効果を上げることができるだろう。呪唱時間ももっと縮めなければ…。効果時間は今はよくわからんな。が、こんな雑な呪文では一日と保つまい」
ぶつぶつと呟くガンダウルフに、アルシャルクが声をかけた。
「先生、どうなりましたか?」
「ん? ああ、とりあえずは成功だな。今のヴィシュナスはこの暫定版『催淫』の呪文により、極めて快感に弱くなっているはずだ。陥とすなら今のうちだろう」
ガンダウルフはいっそ無造作にそう告げ、口の中で何かぶつぶつと呟きながら去って行った。
アルシャルクはにやりと笑うと、宿舎へ急いだ。
4
「手の空いてる奴、ちょっと来てくれ。急ぐんだ」
開口一番アルシャルクが言うと、何人かがぞろぞろと集まって来た。
「タルタス、ゼルトラン、お前達だけか? タムローンとローランとエルサイスはどうした?」
「ローランはルフィーアの調教が微妙なところで手が放せないって言ってたぜ」
「タムローンは、ラクーナがもうちょっとで堕ちそうだってんで朝から詰めきりだよ」
「エルサイスは?」
「ロリエーンの居場所がわかったから捕まえに行くってさ」
アルシャルクは頭をかきむしった。
「ええい、この大事な時に…! 仕方ない、お前等だけでもいい。すぐ来てくれ」
「どうしたんだ、アルシャルク。そんなに慌てて」
「先生がヴィシュナスに呪文をかけて下さったんだ。陥とすなら今しかない」
「先生が? そいつはいい!」
「そう言う訳だから、急げ」
「そう言うことなら、言われなくたって!」
ヴィシュナスは、ここにいる女達の中でもとびきりの上玉である。これが堕ちるとなれば、ぐずぐずしてはいられない。
彼等は急いだ。
5
「はあっ! ふああっ、あん」
ヴィシュナスは、タルタスがほんの少し指でいじくっただけで甘い声を上げた。
「へえ。これがあのヴィシュナスかい?」
タルタスは驚くと共に、邪まな期待ににやりと頬をゆがめた。
「いじっただけでこんなんじゃ、突っ込んだらどうなっちまうんだろうな?」
「やってみりゃわかるさ」
軽くいなして、アルシャルクは二人に合図した。
うつ伏せのヴィシュナスの腰を持ち上げると、タルタスはいきり立ったものを突き込んだ。充分すぎるほど潤ったヴィシュナスの女陰は、あっさりとタルタスのものを飲み込む。
「ひああっ!」
快美な衝撃に、ヴィシュナスは目覚めさせられた。
「あ…あ…あ…。な、何、これ……」
入れられただけで、ヴィシュナスの身体を今までにない性感が襲っていた。その様子を見て取ったタルタスは、鋭く腰を引くと、ヴィシュナスの尻に思い切り腰を打ちつけた。そのまま激しい抽送に入る。
「あひいいいっ! こんな、こんな……っ!」
ヴィシュナスの全身に、限界を超えた凄まじい快感が満ちた。一度味わったら、もうそれなしで生きることはできない。それほどの快感である。
ゼルトランがヴィシュナスの髪を掴み、彼女の顔を腰の高さまで持ち上げた。
「舐めろ」
ヴィシュナスは最後の抵抗を示し、顔を背けた。一瞬の抵抗だった。アルシャルクの合図で、タルタスはヴィシュナスから引き抜いた。
「あっ…。そ、そんな…。お願い、やめないで」
ヴィシュナスは狼狽えて、哀願の言葉を口にした。犯されることを求めて男たちに懇願している自分の姿に、夢中になっているヴィシュナスは気付くことはなかった。
「ゼルトランに口で奉仕するんだ。そうしたら続きをしてやる」
タルタスの言葉に、ヴィシュナスは無条件で従いかけた。
ゼルトランがそれを許さなかった。
「おっと。俺のものを舐めたかったら、『性交奴隷のヴィシュナスに、御主人様のものにご奉仕させて下さいませ』と言うんだ。ちゃんと言えたら舐めさせてやる」
今のヴィシュナスは、体の疼きを満たしてもらえるならば、どんな淫らなことでもやれた。言われるままに、ヴィシュナスは屈伏の言葉を舌に乗せた。
「あ…せ、性交奴隷の、ヴィシュナスに…、御主人様のものにご奉仕させて、下さいませ……」
言い終えたヴィシュナスの口許にゼルトランが男根を寄せると、ヴィシュナスは自分からそれを咥え込んでいった。
「オラ、咥えるだけじゃねえ。ちゃんと舌で奉仕するんだよ」
命令されて、ヴィシュナスは口中に収められた肉の棒に舌を這わせ始めた。それを確認してから、ゼルトランはタルタスに合図した。
「いいぜ」
タルタスは頷き、もう一度ヴィシュナスの秘唇に咥え込ませた。待ち兼ねたものをようやく与えられて、ヴィシュナスは悦びの悲鳴を上げる。
「へ、グイグイ締めつけてくるぜ」
嘲るようなタルタスの台詞を気に留める素振りも見せず、ヴィシュナスは上下の唇で自分を犯す男根を味わい続けた。我知らず腰を振り、より激しい行為を要求する。
「フン。大陸一の白魔道士も、こうなりゃただの牝犬だな。尻尾を振ってよがってやがるぜ」
「こいつも所詮は妹と同じ淫乱だったって事か」
「そうでもないさ。結局、この女はまともな手段では陥とせなかったわけだからな。大した精神力だよ
。もっとも、こうなっちまうとそれも形無しだがな」
「違いない」
男達はひとしきりヴィシュナスを嘲り笑った。彼等の言葉から、ヴィシュナスの妹ルフィーアも同じ目に遭っていることが明らかだったが、今のヴィシュナスは彼等の言葉の意味を理解することはできなかった。今の彼女にとっては、男達に与えられる性の愉悦以外のものは瑣末事に過ぎなかったのである。
「さて、呪文の効いてるうちに徹底的に仕込んでおかないとな。タルタス、とりあえず縄は解いてやれ。それから、体位を変えてくれ」
ヴィシュナスはこの二日間で初めて、両手の自由を取り戻した。
一旦口の奉仕を中断させ、タルタスは床に仰向けになってヴィシュナスに騎上位を取らせた。次いでゼルトランが再び唇に突き込む。ゼルトランの命令で、今度は手も駆使してヴィシュナスはゼルトランに奉仕した。タルタスが下から突き上げると、ヴィシュナスは切なげに身を震わせる。
最大限に快楽を貪るべく無意識に振られているヴィシュナスの腰の後ろに、アルシャルクが立ち塞がった。ヴィシュナスは夢中で、それに気付かない。だから、次の一撃は完全な不意打ちになった。
「………………!」
何の前触れもなく菊門に突き込まれた太い肉柱に、ヴィシュナスは無言の悲鳴を上げた。苦痛の悲鳴ではない。快楽の悲鳴である。未完成の『催淫』の呪文はヴィシュナスの肉体組織にまで変貌をもたらしたらしく、ヴィシュナスの菊座は男に貫かれて何の痛みも覚えなかったばかりか、今犯されている秘部に勝るとも劣らないほどの筆舌に尽くしがたい快感を彼女に与えたのである。
頭の中が真っ白になり、法悦に酔うと共に、舌の動きがおろそかになっていった。ゼルトランがヴィシュナスの頭を小突いて指示を出す。
「ほら、どうした、しっかり舐めろ。ただぺろぺろやるんじゃなく、いろんな舐め方を試してみるんだ。手は竿をしごけ。もう一方の手で袋を揉め。違う、もっと柔らかくだ。そう、その調子だ」
何も考えずにゼルトランの指示に従ううちに、ヴィシュナスの口技は見る見る巧みになっていった。鈴口に舌をそよがされると、ゼルトランはたまらずヴィシュナスの口中に放出した。技巧はまだそれほどのものではなかったが、あのヴィシュナスが自らしゃぶりついている、と言う状況が彼の欲情を煽ったのだ。鼻をつままれるまでもなく、ヴィシュナスは粘っこい液体を喜々として飲み下した。
自由になったヴィシュナスの口から、遠慮会釈ないよがり声が漏れる。
「あっ! あん! いい、すごい。あ、もっと、もっと…」
うわごとのように更なる愛撫を求めるヴィシュナスの胎内に、タルタスの精が打ち込まれた。
「ふあああ……っ」
ヴィシュナスは感極まった喘ぎを洩らし、絶頂に達する。
タルタスが放ち切るのを待ち、アルシャルクはヴィシュナスの身体を抱え上げ、胡座を掻いて座り込んだ。当然ヴィシュナスは今まで以上に深く菊門を貫かれる。
「ひぃっ!」
歓喜の悲鳴を上げるヴィシュナスを、アルシャルクは本格的に犯し始めた。激しく胸を揉みしだき、タルタスの精を飲み込んだ秘部を巧みに刺激する。その間、腰を微妙に突き上げ続け、ヴィシュナスの肛門括約筋を休まず責める。
甘美な渦に飲まれながらも、ヴィシュナスの性欲は萎えることがなかった。アルシャルクの巧妙な愛撫だけでは足りずに、自ら激しく腰を上下させる。
「はあああああ……。あ、すてき、はぁっ、気持ちいい…っ」
男達の評した通り、そこには既に大陸一の白魔道士の面影はない。性の愉悦を貪る発情した牝犬がいるばかりである。しかし、それでは男達の目的にはそぐわなかった。
アルシャルクはヴィシュナスの腰を掴むと、無造作に持ち上げた。激しくヴィシュナスの肛門を犯していた男根が、濡れた音と共に抜けていく。
「あ、だめえ、抜いちゃ…。やめないで」
欲情し切ったヴィシュナスに、アルシャルクが冷たい声をかけた。
「お前、自分の立場がわかってないな? お前は、奴隷だ。俺達のな。奴隷が身分をわきまえずに、命令もなしで勝手な行動をするとはどういうことだ?」
「お、願ぁい、いじわる、しないでぇ」
ヴィシュナスは悶え泣き、身をよじる。体の芯から突き上げる焦慮が彼女を駆り立てていた。しかし、力の入りにくい態勢であるにも拘らず、アルシャルクの手は彼女の腰をがっちりと固定して、びくともしない。大した膂力だった。
「……と誓え。そうしたら続きをしてやる」
アルシャルクの台詞の後半だけが、朦朧としたヴィシュナスの意識に辛うじて引っかかった。彼女が今もっとも望んでいる言葉だったからである。
「…あぁ、誓います、だから早く……」
誓いの内容も知らず、ヴィシュナスは口早に同意する。
「よし。それじゃあ、こう言うんだ…」
アルシャルクに教えられ、ヴィシュナスは欲情にあふれる声で、誓いの言葉を口にした。
「私…ヴィシュナスは……本日只今より……人間としての、権利の一切を放棄し…未来永劫……ど、奴隷……として生きることを、誓います…。この…瞬間から私は、奴隷としての、義務の…一切を負い……誠心誠意……御主人様に……尽く…させて、いただきますが…いたらないことがあれば……どのような罰でも…加えていただいて、構いません…。どうぞ、末永く…ヴィシュナスを可愛がってくださいませ」
「そんなに俺達の奴隷になりたかったのか?」
言いつつアルシャルクは先端でヴィシュナスの菊座をつついた。ヴィシュナスは鋭く息を吸い込んで身を震わせる。
「ああ、お願い……。ち、誓ったら、続きをしてくれるって言ったわ……。ねえっ…」
アルシャルクは舌打ちして、先端だけ沈めて囁く。
「じゃあ、あと一つ、今後は奴隷としての身分をわきまえ、勝手なことをしないと約束できるんなら、続きをしてやる。約束するか?」
「約束……します……から、早く……も、もう、ダメなの……」
ヴィシュナスの秘部からは、欲情の証がとめどなく溢れ出ていた。
「馬鹿野郎。奴隷なら奴隷らしい口のきき方をしやがれ」
「は、はい……。お言い付け通りに、致します。御主人様……。ですから……あの……」
ようやく満足して、アルシャルクはヴィシュナスの腰を支えていた手を放した。
「あひぃぃっ!」
自分の体重で直腸深くに一気にアルシャルクの肉棒を収められ、ヴィシュナスは悦びの悲鳴を上げた。
肛門を犯されてよがり泣くヴィシュナスの口許に、タルタスとゼルトランが一度に一物を突きつけた。一度放っているにもかかわらず、はやくも充分に猛っている。ヴィシュナスは二本同時に舐めさせられた。
アルシャルクはもはや細やかな技巧を弄す必要性を感じなくなったらしく、激しくヴィシュナスに突き込んでいった。ヴィシュナスは快楽のあまり夢中で腰を振る。
しばらくして、ヴィシュナスの腸内に男の精が弾けた。初めての感覚に、ヴィシュナスはもう何度目かもわからない絶頂を迎えた。
6
窓のない部屋に、薄暗い光が満ちていた。光源は無数の水晶球である。部屋中に置かれたそれらのうち二十個あまりが、淡い光を発しているのだった。
ガンダウルフは、部屋をゆったりと歩き回りながら、光っている水晶球を時折覗き込んでいた。透明な球体の中は、淡い輝きの他に、それぞれ異なった映像が映し出されている。
中心となっているのは全て、全裸の美しい娘達だった。少女達の映像のあるものは昏々と眠り続け、あるものは抱えた膝に顔を埋めていたが、彼女達の大部分は男に犯されている最中だった。
蓬髪の男に後ろから突き込まれつつ、微妙な腰の使い方を仕込まれている、豊かに波打つ紫の髪の少女。今まで懸命に拒み続けていたが、ついに屈伏して自分から男のものを舐め始めた、さらっとした金髪と小麦色の引き締まった体を持つ娘。菊座を激しく犯されながら歓喜の表情で腰を振る、優しげな顔立ちをした茶色い髪のエルフ娘。黒髪のシャーズ。赤毛の機敏そうな少女。
何人もの娘達が、皆一様に、男達の快楽に奉仕させられていた。
ガンダウルフは物憂げにそれらの光景を見やると、重い吐息をついた。
「本当はこんなことはしたくはなかったのだが……。ま、今更言っても仕方がない。私に思いつけた世界を救う術は、これしかなかったのだからな。せめて、お前達の犠牲は無駄にはするまい」
ガンダウルフは自分を説得するように呟きながら、一つの水晶球の前で立ち止まった。そこに映し出されているのは、三人に同時に犯されつつ、夢中で身をくねらせる桃色の髪の娘の姿である。
ヴィシュナスだった。既に一時間近く激しく凌辱され続け、全身精液まみれにされていたが、一向に満足し切った様子はない。かえって犯している男達の方に疲れが見えて来ていた。
ガンダウルフは途端に冷徹な研究者の表情になり、ぶつぶつと呟き始める。今度のは、頭で考えていることが意識せずに口から洩れているもののようである。
「ふむ、効き過ぎたか。……いや、このくらいでなければ、そもそも創る意味があるまい。となると、取り敢えず男達が扱えなくなった場合のために、何らかの代用品が必要か……。よし」
ガンダウルフは数十秒の思索の結果、ローブを翻し、彼にあてがわれた数室のうちの一つに向かった。
床に六芒星の描かれた、正方形の薄暗い部屋である。ガンダウルフが召喚室として使っている部屋だった。
ガンダウルフは床にかがみ込み、単純な六芒星に、様々な文様を書き加えていった。
「生物の召喚だから、基本はこれで……あんまり珍しい種類を捜すのは手間がかかるから、こっちで好きに改造すればよいだろう。普通の印形で構わん。結界は強化しておこう。多分攻撃してくるだろうからな。検索範囲は……ええと……少し広めに取らんといかんな。対象は種別……個体特定はなし。制限、一体。ふむ、魔力印をもう少し増やすか。……思ったより高度な陣になったな。が、まあ、時間がないから仕方なかろう……」
ぶつぶつ呟きながら、驚くべき早さで複雑極まる魔法陣を描き上げていくガンダウルフ。普通なら、単に描き上げるだけで一日、魔力を込めるのにもう三日はかかる魔法陣を、ガンダウルフは数分で、魔力を込めながら描き上げようとしているのである。ウルフレンド一の大魔導師と呼ばれるのもむべなるかな。恐るべき実力の持ち主であった。
魔法陣を組み終わると、ガンダウルフは呪文の詠唱に入った。白髪白髯に似合わぬ、朗々たる美声である。長めの呪唱が終わると、魔法陣の中心に閃光が轟き、次の瞬間そこに一体の生物が現れた。
いびつな円筒形の体幹から、二十本あまりの長い触手がはえた生物。
ローパーである。
強靱な触手で獲物を捕まえ、絞め殺してゆっくり食うという剣呑な生物は、急激な環境の変化に戸惑っていたが、やがてガンダウルフの存在を感知すると、目にもとまらぬ速度で触手を飛ばした。これをかわすのは一流の剣士でもなければ不可能だろう。
ガンダウルフはかわさなかった。ローパーの触手は、ガンダウルフに届く前に、見えない壁に弾かれて跳ね返された。ローパーは戸惑いつつ攻撃を繰り返したが、触手がガンダウルフに届くことはなかった。魔法陣の境界で触手が弾かれていることを悟るほど、ローパーの知能は高くない。
「これではまだ役に立たん。こちらの目的に合わせて改造しなければな」
無益な攻撃を繰り返すローパーを冷静に品定めして、ガンダウルフはそう呟き、また呪文を唱え始めた。魔法の力が容赦なくローパーの体組織を掴み、無理やりに改変していく。苦痛を感じるのか、ローパーの触手がばたばたと暴れては、見えない壁に弾かれる。
「取り敢えず食性が変わったか。これで無闇な攻撃性も緩和されたろう」
ガンダウルフはローパーの苦悶を敢えて無視し、次から次へと魔法をかけていった。
「酸など吐かれてはたまらん。吐くのは別のものにしてもらおう……これでよし。触手も、それだけでは芸がないな。形を変えて……機能も少し変えよう。……よし、できた。わざわざ蓄積したデータも折角だから役立てるか。動きをパターン化するか……いや、直接データを刷り込むとしよう……」
全てが終わるのに、僅か十五分足らず。
外見的には多少触手の形が変わった程度だが、そのローパーの生態や体構造はほぼ別のものになってしまっていた。
「こいつもまだまだ改良の余地があるが、まあ当面の役には立つだろう」
ガンダウルフは一人頷くと、何だかおとなしくなってしまったローパーを置いて、先程の部屋に戻った。
ヴィシュナスの映った水晶球を覗くと、状況はほとんど変わっていないようだった。ただ、心なしかヴィシュナスを犯す男達の憔悴の色が濃くなっていた。どうやら限界が近いようである。
「やれやれ……」
ガンダウルフは首を振り、ふらりと部屋を出ていった。
7
「ん、んむっ……ふっ、ふくっ!」
ヴィシュナスが『催淫』の呪文をかけられてから一時間半が経過していた。
アルシャルク達は息も絶えだえに腰を使っている。ここで快楽に溺れさせると同時に、彼等に対して服従心を持つように、ヴィシュナスが音を上げるまで犯し続けねばならない、という義務感のみで抽送を続けていた。
あの気丈なヴィシュナスを完全に堕とし切るのは今しかない。彼等はそう考えていたし、それはおそらく正しかった。
『催淫』の呪文にかけられたヴィシュナスの性欲は、いくら犯されても満たされることがないようだった。男達は死んだ気で凌辱を続けていた。
誰かがアルシャルクの肩を叩いた。
「えっ……」
意地になって突き込んでいたアルシャルクは、後ろを取られたのに全く気付いていなかった。振り向くと、そこに立っているのはガンダウルフである。
「あ……。これは、先生。このような所まで……」
「持て余しているようだね」
アルシャルクがしどろもどろに言いかけるのに、ガンダウルフが鋭く切り込んだ。
「……え」
「その女だよ。いくら犯しても果てなくて、持て余しているんだろう?」
「あ、はい」
いつもなら少しは見栄を張るところだが、疲れ切っているのでつい本音が出る。
「そう見て取ったものでね、専用の相手を用意してみたのだが」
「は?」
「今のヴィシュナスの、相手ができる代物を用意した、と言ったのだ。使ってみるかね」
ガンダウルフの言葉の意味が理解できると、アルシャルクの面に見るみる安堵の色が広がった。
「是非とも、お願いします!」
「では、とりあえず場所を移そうか。一辺4〜5メートルの正方形をした、使っていない部屋はあるかね?」
8
アルシャルク達は、ヴィシュナスを引きずるようにして、ちょうど空いている部屋へ向かっていた。男を欲しがってすがりついてくるので、ヴィシュナスの前後には取り敢えず張り型を押し込んである。
部屋に着くと、ガンダウルフは早速床に魔法陣を描き始めた。先程よりははるかに簡素な魔法陣である。あっという間に陣を敷いてしまうと、ガンダウルフは疾く呪文を唱えた。
何かが破裂するような音と短い突風と共に、魔法陣の中心に先刻のローパーが出現していた。アルシャルク達は思わず後ずさる。
「部屋全体を結界にした方がよいか」
ガンダウルフは呟いて、ローパーを無視し、部屋の四隅に簡単な図形を描いていった。
「これでよし。アルシャルク、ヴィシュナスをここへ……魔法陣に入らない範囲で、部屋の中へは入れて、な」
「張り型は、どうしましょうか」
「ふむ。抜いておいた方が、いいだろうな」
アルシャルクはヴィシュナスの股間を埋めている二本の疑似男根を抜き去った。ヴィシュナスはイヤイヤをして、もう一度入れてもらおうとする。
「部屋の中から出たまえ。中央の魔法陣の結界を解く。そうすれば部屋全体が奴の領域となろう」
ヴィシュナス以外の全員が部屋から出るのを確認して、ガンダウルフは簡単な呪文を唱えた。
全員が固唾を呑んで見守る中、ローパーは行動を開始した。
はじめは戸惑っていたが、やがて自分の手の届くところにヴィシュナスが横たわっていることを感知すると、素早く触手を伸ばしてヴィシュナスを搦め取った。
「あ……?」
朦朧としていたヴィシュナスは、それで初めてローパーの存在に気付いた。
触手はあっという間にヴィシュナスの全身に巻き付き、淫らな蠕動を始めていた。ごつごつとした異様な形状の触手は、ヴィシュナスの手足を拘束して自由を奪い、巧みに愛撫を加える。柔らかい乳房に巻き付き、ぬらぬらした液体を塗りつけつつ肌を刺激し、先端で乳首を転がす。別の触手は脚に巻き付いて、内腿を攻める。その動きは、女を犯すためだけに生まれた魔物かと思われるほど巧みだった。――実際、それに近い存在ではあったが。
しばらく前戯を施しておいて、ローパーはいよいよヴィシュナスの秘部に触手をつけた。グロテスクな凹凸を加えた太い男根状のそれが、ゆっくりとヴィシュナスの中にねじ込まれていく。分泌している液体の潤滑効果か、触手はいともあっさりと肉の狭間に収められた。次いで菊座にも。口腔にまで。ローパーはヴィシュナスの穴という穴を埋め尽くした。
ヴィシュナスは悦んだ。愛液が洪水のように溢れてくる。腰が独立した生き物のように蠢いていた。
ローパーの責めはまだ終わらなかった。ヴィシュナスの股間からは、愛液と精液、それとローパーの粘液が床へと糸を引き、間断なく流れ落ちている。流れる糸を伝い、鎌首をもたげたローパーの触手が、既に一本が激しく暴れているヴィシュナスの秘所に、誘われるように入り込んでいった。
「むふううう……!」
限界を超えた侵入を受けて、激しい苦痛と激しい快楽がヴィシュナスを襲った。どちらも、牝犬と化した娘の貪欲な性欲に、油を注ぐような効果をもたらした。触手はそれぞれ勝手に、しかし微妙な連携を保って、乱れ狂う女体の中を荒らし回る。体中を一斉に犯される悪魔的快感は、『催淫』の呪文に冒されている今のヴィシュナスさえも、虜にせずにはおかない代物だった。
男達はごくりと唾を呑んだ。犯し過ぎで痛くなった男根も、彼等の意志を無視して限界の膨脹を保っている。
「こ、こりゃ、たまらねえな。ルフィーアでも犯しに行くか」
「馬鹿言うな。いくら立ったって、これ以上やったら死んじまうぜ、俺達」
「そ、そうか……。そうだな」
タルタスとゼルトランが囁き交わしていると、それを聞きつけたガンダウルフがくるりと振り向いた。
「ほう。限界かね? ならば、後で精力剤でも作ってあげよう」
「ほ、本当ですか。助かります」
真顔でゼルトラン達が言うのへ、アルシャルクが口を挟んだ。
「ところで、先生。あの怪物は、どのくらい保つんですか?」
「ん? 放っておけば、いつまででも犯しとるよ。まだあいつには女を犯すだけの機能しかないから、止めさせたくなったら私に言いなさい」
「ほう、それはいい。それじゃ、ヴィシュナスに骨の髄まで快楽の味を覚えさせるには、このまま放っておくだけでいいってことですね」
「そういうことになるかな」
簡潔なガンダウルフの答えを聞き、アルシャルクはにやりと笑った。
9
今まで男達が調教した、何人もの娘達。調教の過程で、彼女達に快楽の極みを与えるための責めを、余さずガンダウルフが収集し、蓄積したデータが、ローパーの触手に全て集約されていた。うねり、刺激するローパーの動きは、ヴィシュナスを狂わせるために計算し尽くされている。
ヴィシュナスはたちまち、今までに想像したことすらなかった絶頂に放り込まれた。同時に、ローパーの触手の先端から、精液に似た白濁液が吐き出される。内も外もローパーの液に汚されながら、ヴィシュナスは歓喜に震えていた。
ヴィシュナスは知らないが、強烈な媚薬の作用を持つ液を最後の一滴までヴィシュナスに注ぎ込んでしまうと、ローパーはすかさず次なる凌辱に入る。ヴィシュナスは一瞬すら休ませてもらえなかった。
やがて、ローパーの吐き出した液体のように白く濁っていたヴィシュナスの意識が、少しずつ晴れ始めた。ガンダウルフのかけた、暫定版『催淫』の呪文が切れて来たのである。
「う……ん…」
『催淫』の呪文にかかっている間のことは、おぼろげにしか覚えていなかった。現在の状況はわかる。何者かに、全身を凌辱されているのだ。
男達は既に立ち去っていた。分厚い扉を閉じていったので、窓のない室内は暗黒に閉ざされていた。何も見えない暗闇の中で、体中を這い回られる感覚があった。
「うむううっ……」
どうやら両手は自由らしいので、ヴィシュナスは振りほどこうともがくが、拘束は柔軟かつ強靱で、僅かばかりの抵抗は全く通用しなかった。触手がずるりと大きく蠢き、ヴィシュナスは理解した。人間以外の何物かが、今ヴィシュナスを犯し、人外の快楽を与えているのだということを。
「あっ、ぐ、う…っ!」
せっかく回復した意識も、絶え間なく加えられる凄まじい快感に飲まれようとしている。ヴィシュナスは必死で、正気を保つべく精神を凝らした。
ローパーの触手は、自在にヴィシュナスの肉体を攻め立てる。人間の男根よりはるかに自由度に富んだそれは、複雑にうねり、襞をめくり上げながら、二本かわるがわる子宮を突き上げる。全身に巻き付いた触手は、蛇のような動きでヴィシュナスの肌を這いずり、言語に絶する刺激を加えていく。可憐な唇に潜り込んだ一本は口腔内を微妙にくすぐり、まるで怪物的なディープ・キスを与えているかのようだ。そして直腸に収まった一本は激しく出入りを繰り返し、ヴィシュナスに苦痛と快楽の入り交じった、屈辱的な被虐の悦楽を味わわせずにはおかない。
変幻自在のローパーの責めは、あたかもヴィシュナスのあらゆる細胞を性感帯に造り変えてしまったかのようだった。それほどの、形容し難い性感がヴィシュナスを襲っていた。
ヴィシュナスは戦った。人並み外れた強靱な精神力で、気を確かに持とうと絶望的な戦いを続ける。男達に犯されていた時には、それはさして難しい行為ではなかった。しかし、『催淫』の呪文にかかって性感を開発されてしまった上に、巧妙などという言葉では片付けられないローパーの愛撫にさらされている今は、もはやほとんど不可能事である。
勝負は始めから見えている。ヴィシュナスの敗北は時間の問題だった。
一旦崩れてしまえば、あとは快楽を求めるだけの牝犬と化す。自分でもそれがわかっているからこそ、ヴィシュナスは少しでもそうなる時を先に伸ばすために、無益な抵抗を止められないのである。
溶け崩れようとする理性を必死でつなぎ止めるヴィシュナスの絶望的な喘ぎが、部屋の中にこだまし続けた。ヴィシュナスが性の虜となるのには、そう長い時間はかからないだろう。
やがて、ヴィシュナスはひときわ強烈な快感と共に、体の内外に断続的に熱い液体が注ぎかけられるのを感じた。一拍の間を置いて、液体を浴びせかけられた部分が、かっと熱くなる。喉の奥に放たれた分を、窒息しないために飲み下すのに必死のヴィシュナスは、体外のそれよりも、食道を駆け下っていくにつれて体の芯から熱くなっていくのを、より強く感じていた。意識の中で僅かに残った冷静な部分が、体温より少し高い程度の温度の液体がこんなに体を熱くするのは何故だろう、と疑問を呈するのを最後に、ヴィシュナスの精神は、媚薬の与える爛れた快楽の中へ、白く溶けていった。
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