第二章 王
1
「んああ、あふぅ、はひィッ……。あっ、あんんっ、ひ、は、ヒッ!」
突き込まれる度に漏れる快楽の声を、押し止めることは彼女にはできなかった。諦めと絶望が精神を蝕んでいく。何故なら、彼女があげているのは、無理やり犯されいるにも拘らず、意思を無視して体が洩らす、屈伏の声に他ならなかったからである。
彼女自身が凌辱されている姿を見せつけるためだろう、部屋の壁と天井は、全て鏡張りになっていた。目を開けば、視界に、犯されてよがる自分の歓喜の表情が飛び込んでくる。
見るまいと思っていたが、目を開いた拍子に、つい彼女は淫らな表情を浮かべる自分の顔に見入ってしまった。心持ち吊り上がった目は、今は性の悦楽に細められている。青く澄んだ大きな瞳は、意志の輝きが薄れ、悦びの涙に潤んでいるせいか、微かに曇って見える。顔の造形は美しく整っており、彼女は自分でもトップクラスの美女だと自負していた。染み一つない白磁の肌はほんのりと上気し、額には汗の玉が浮かんでいる。欲情に笑み崩れた赤い唇の端からは、痴呆のように唾液が伝い落ちる。いや、唾液だけではなく、とろりとした白い液体も混じり込んでいる。顔のあちこちは飛び散った同じ白濁液にいやらしく彩られており、彼女の美しい顔を汚した液は、とろとろと流れて彼女の顔の美しさを半減させ、淫靡さを倍加させていた。この顔に、額のほつれ毛がはらりとかかった様は、彼女自身どきりとするほど艶かしかった。
耳は長く尖り、耳朶がない。彼女はエルフであった。
極めて豊かで柔らかい金髪は、今は複雑に編み上げられていて、せいぜい肩の下辺りまでしか下りていない。四つん這いで這い回っても髪を痛めないようにとの、彼女を犯す者達の配慮である。髪が痛むと、それだけ『商品価値』が下がるからだそうだ。確かに、いつもの髪型で今のような姿勢を取れば、石床に擦られて見事な金の髪は痛まずにはいなかったろう、と、鏡に映る己れの姿を見ながら彼女は思った。
両手と両膝を床についた彼女の肉体は、一般に細身のエルフ族にしては珍しく、そこらの人間の娘など敵わないほど豊満だった。彼女の裸体でエルフの華奢さを感じさせるのは、首と手首、足首、そして腰、そのくらいだった。女性としては最もいい場所が細く、最もいい場所に肉がついている。
だが、今、腰以外の彼女の細い場所には、全て黒光りする革が巻きついていた。手首と足首には黒革のベルトが巻きつき、いつでもすぐに拘束できるようになっている。首には猟犬に使うような、鋲を打った太い黒革の首環が巻かれ、そこから伸びた細い鎖の端は、彼女の腰の後ろに膝をついている男の手に握られていた。
男は時々思い出させるように首環の鎖を引きながら、激しく彼女に突き込んでいた。突き込まれる度に彼女の唇からは濡れた吐息がこぼれ、豊かな乳房がゆさゆさと揺れた。
やがて男は呻き、彼女の胎内に精を注ぎ込んだ。ぬめった膣の中に熱い汚液が奔騰する感触に、彼女はたまらず、感極まった嬌声を上げてしまう。
「んっあああっ、ふぁっ! あっ、あ……」
脈動して打ち込まれる粘液が、彼女の性感に過剰な刺激を流す。彼女は逃げ道のない奴隷の絶頂に追い上げられるしかなかった。
「は、はあっ、はぁあ…っ」
彼女は放心しつつ荒い息を吐いた。崩れ落ち、脚を大きく開いて尻だけを上げた淫猥な格好の自分にも気付かない。
男が首環の鎖を強く引いた。彼女はその刺激で次にしなければならないことを思い出し、暗然と身を起こす。股間から精液と愛液を滴らせながら、四つん這いのまま男の方に向き直る。
彼女はしなだれた男のものに顔を寄せると、仕込まれた言葉を舌に乗せた。澄んだ声が屈辱で震える。
「御主人様、サーラを用いて下さって、どうも有り難うございました。御主人様に犯していただいて、はしたなくイッてしまった牝犬を、どうかお許し下さいませ。サーラのいやらしい汁で汚れた御主人様のものに、奉仕させていただいてよろしいでしょうか?」
男が首を縦に振るのを確かめて、サーラは自分を犯した男根に舌を這わせた。わざとぴちゃぴちゃと音を立て、付着した粘液を舐め取っていく。やりたくてしているわけではなく、そうするように調教された結果である。
粘液を舐め取っても、サーラは男に奉仕を続けた。再び硬度を取り戻してきた男根を、口いっぱいに咥え込んで刺激する。手は床から離さず、四つん這いの姿勢を保っている。尻は特に高く掲げなければならない。
サーラは、秘口からどろりと打ち込まれた精液があふれ出るのを感じた。もちろんその光景は、鏡に映って男に丸見えである。サーラもそれは知っていた。羞恥で頬が熱くなる。
サーラの施す巧妙な口戯に、間もなく男は再度の射精をした。次々と喉に雪崩込んでくる白い粘液を、サーラは喉を鳴らして飲み下した。生臭い精液の味には、もうすっかり慣らされてしまった。
最後に舌で男根を清めると、男は立ち去った。窓のない部屋の鉄扉が閉ざされ、ひどく大きな音を立てて鍵が掛けられる。持ち込んだランタンを男が持ち去ったので、光源は鉄扉に開いた小さな格子窓からの、頼りない薄明かりだけになった。
薄闇の中で、サーラは、膝を抱えて座り込んだ。次の凌辱までの、束の間の休息である。
(こんなはずじゃ、なかった……)
サーラはぼんやりと考えに沈んだ。
(奴隷になるくらいなら、舌を噛んで死のう、と思ってたのに……)
いくら犯されても、責められても、サーラは頑として男たちの言うことを聞かなかった。その後、気絶するまで責められた後のことが、どうもはっきりしない。その次目覚めた時は、気も狂わんばかりの快楽の中だった。そして、いつの間にか調教を施され、こうなってしまっていたのである。
(何が、あったのかしら)
サーラは、空白の時間を思い出そうと頭を絞った。必死に記憶をつなぎ合わせていくと、少しずつ思い出されてくる。
そう……老人が、いたような気がする……。
2
白髪白髯の老人が呪文を唱えると、どこからともなく淡い煙の帯が現れ、全裸で横たわるサーラの肢体に絡みついていく。それは実体を備えているかのように襞や括約筋を押し広げてサーラの内部に潜り込んでいくが、振り払おうと動くサーラの手は煙の帯に触れることはなく、何もない空間を泳ぐばかりである。実体がないのに実体と同じ効果を及ぼす煙の帯に犯されて、サーラは悲鳴を上げた。悦びの悲鳴を。全身を凌辱する煙の帯は、サーラの神経に純粋な性的快楽のみを流し込んだのだった。
サーラの秘部からは洪水のように蜜が溢れ出し、身悶える肌は汗に濡れ光っていた。呪文の詠唱が続く僅かな時間に、サーラは数回絶頂に達した。
悪夢のような記憶はまだ続く。
呪文が終わると、荒い息をつくサーラに、待ち構えていた男達が群がり、一斉にサーラを犯し始めた。膣に肛門に、乳房の間に、男達は肉の竿をねじ込み、はさみ込んだ。サーラは悦んだ。矜持は日の光を浴びた薄氷の如く快楽に溶け去り、屈伏しまいとかたく決めていたはずの強固な意志は、脳裡に満ちた性感に押し出され、居場所をなくしてどこかへ消えてしまった。性欲だけがサーラの全てになった。
今思えばそれはあの呪文の効力だったのだろう。だが、その時のサーラは何も考えられず、快楽を得るためならばどんな恥知らずな真似でも進んでやった。屈辱的な命令も、従えば快感の報酬が得られると思うと、むしろ喜びだった。
サーラは何度も何度も凌辱の汁を浴びせかけられ、たちまち精液まみれになった。数え切れないほど何回も、気の狂うような絶頂に放り込まれた。しかし、どんなに激しく犯されても、サーラの体は更なる責めを欲して止まなかった。
こころゆくまでサーラを犯し尽くすと、男達はサーラを窓のない真っ暗な部屋に押し込めた。まだ満足できず、男を欲しがってねだるサーラに、闇の中から無数の触手が襲いかかった。触手はたちまちサーラを搦め取り、全身に言語を絶する快楽を与えた。炎のような快感がサーラの貪欲な性を満たした。
そこから先は記憶が判然としない。正体も知れぬ怪物に、恥も外聞もなく腰を振り、更なる愛撫を求めて哀願していたような気がする。
そのまま、何時間が過ぎたものか。突然、サーラの意識を閉ざしていた、魔法の快楽の檻が消え去った。が、肉体に与えられる刺激はそのままである。何が何だかわからないうちに、折角解放された意識もたちまち叩きつけるような魔界の快楽に巻き込まれ、溶け果てた。
その後どれくらいの時間が流れ去ったのか、サーラにはわからない。疲労と快感に気絶しても、とてつもない快楽にまた目覚めさせられる、魔性の淫獄にサーラは堕とされていた。限界を超えた淫戯に悲鳴を上げても触手は一切容赦せず、ひたすらサーラの性感を燃え立たせ続けた。
疲労困憊し切って息も絶え絶えになりながら、それでも無理やり感じさせられているサーラの元へ、男達が訪れて来た。彼等はサーラを触手から解放し、液状の薬品をサーラの喉に流し込んだ。抗う体力はなかったので、サーラはおとなしく飲み下した。と、体がじんわりと温かくなったかと思うと、疲労が嘘のように消え失せていった。
疲労が消えれば、精神力も回復する。鏡張りの部屋へ連れ込んで自分を犯そうとする男達に、サーラは精一杯の抵抗を見せた。男達のものに自分からむしゃぶりついていったのは、老人が自分にかけた怪しげな呪文のせいだ。普通の状態ならば、また以前のように拒むことができる。そう思ったのである。
が、男達に簡単な愛撫を受けただけで、肉体は熱く燃え立ち、サーラの精神をとろ火で溶かし始めた。狼狽するサーラを尻目に、男達は次々とサーラに突き込んだ。一片の苦痛もなく、全身を貫いた快美な衝撃に、サーラの精神的抵抗はあっさりと潰えた。
脳が悦楽に痺れ、体が勝手に快感を貪ろうとして精神のコントロールを受け付けなくなる。サーラは自然に腰を振り始めていた。意識は不透明な快楽の靄に閉ざされ、精神はいまや逆に、性欲に狂った肉体にコントロールされかけている。
以前のように拒めるなどと考えたサーラは甘かった。もはやサーラは以前のようではなかったのである。性の悦楽に全く無防備に造り変えられてしまった自分に、サーラは気付いていなかったのだ。今のサーラは、快感を与える者に対しては僅かな反抗を考えることすらできない、極めて従順な性の虜と化してしまっていた。
男達は肉の槍の穂先で巧妙にサーラを追い立て、のっぴきならないところまで追いやって、サーラに奴隷の誓いを立てさせた。
ご褒美に骨の髄まで犯してもらったサーラに、男達は黒革の手枷、足枷、首環をつけ、念入りな調教を始めた。口の使い方、手の用い方、前後の拡張と絞める訓練、色々な時の決まり文句など、サーラは徹底的な調教を施され、次第に非の打ち所のない奴隷へと変わっていった。
3
ここまでの経緯をすっかり思い出したサーラは、がちゃりと扉が鳴るのを聞いてびくりと身を震わせた。考えに沈んでいたので、足音が近づいてくるのに気付かなかったのである。
入って来たのは、いつもサーラを犯している男の一人と、もう一人、見覚えのない小柄な男だった。体格で言えば、いつもの男の方が遥かに勝っていたが、小柄な男の方は周りの者が従わざるを得ないような支配者の風格を備えており、いつもの男は彼にへりくだったような態度を取っていた。
「これなどは、いつ『商品』にしても恥ずかしくないと思いますが」
「ほう、エルフか。なかなか、見栄えはいいな」
男はそう言うと、目を細めてじっとサーラを眺め回した。思わずサーラが身震いするほどの、粘っこい視線であった。
「立ってみろ」
端的な命令に、サーラはゆっくりと立ち上がった。見知らぬ男に肌を晒す羞恥に頬が赤いが、両手は脇に垂らされたままだ。体を隠したりしたらひどい罰を受けることになるだろうことは、頭のいい彼女にはよくわかっている。
「ゆっくり、一回転しろ」
サーラは従った。男はサーラを、女を見る目ではなく、家畜を検分する目でつぶさに観察した。
「ふむ。胸も腰もいい肉付きをしている。体のラインも申し分ない。しっかり仕込んであれば、相当高く売れるだろう。――調教は済んでいるのか?」
「一通りは。熟練させるために、今休み休み使っているところです」
「そうか。味のほうはどうだ?」
「今が食べ頃でしょう、陛下」
「ふうん。それでは、今晩味見してみるかな。…よし、これを私の寝室に持って来てくれ」
「はい。では、ただちに」
サーラのほうへ歩いていく背の高い男の背中に、陛下と呼ばれた男が声をかけた。
「ああ、そうだ。その奴隷の名前は、何て言うんだ?」
「サーラです、スカリー陛下」
4
サーラは鎖を引かれ、四つん這いで歩かされていた。
全裸ではない。あれから、胸元と股間が開いた、黒革のボディ・スーツを着せられている。この服は肌にぴったり食い込んでおり、無理やり着せられる時にはかなり痛い思いをさせられたが、身に着けてしまいさえすれば、息苦しくはあったが痛くはなかった。前に進む度に、いやらしく絞り出され、張り詰めた乳房が揺れる。
四つん這いなので、前を歩く男のペースについていくのは容易ではなく、何度も首環を引かれ、苦しい目に遭わされた。手足には、革の枷の下にやはり黒革の長手袋とストッキングを着けられているので、石床の上を精一杯急いでこすれても痛くはない。
両側に鉄扉の続く長い廊下を、サーラは進んでいった。おそらくその一つ一つが、サーラと同じくさらわれてきて調教された奴隷少女達の独房なのだろう。幾つかの扉からは、明らかに欲情した少女のよがり声が聞こえてきた。
やがて長い廊下も終わり、今度は長い螺旋階段が現れた。これをひたすらに昇っていく。途中横道もあったが、サーラはただ階段を昇らされた。
階段の終わりは壁だった。戸惑うサーラの前で、サーラを引いている男は横の壁に向き、何やら壁面に作業をしている。と、突然壁がくるりと半回転した。どんでん返しになっていたのである。
その向こうは小部屋だった。机と椅子、棚があり、窓はない。どんでん返しの正面に木製の扉があった。男はサーラを引いて扉をくぐる。廊下に出た。左は変わらず闇に続いているが、右を見てサーラは息を呑んだ。
遥か向こうにきらめく白光は、あれは紛れもなく日の光だ。さらわれて来てから今まで、サーラが日の光を見たのはこれが初めてだった。
それを目にすると同時に、サーラの心に諦め切っていた自由への渇望が沸き上がってきた。
男が闇の中へ誘おうと、サーラの鎖を引っ張る。サーラの心に、このまま引かれていけば、もう二度と太陽の光を見ることができなくなるのではないかという恐怖が膨れ上がった。そう思うともう矢も盾もたまらず、サーラは後先を忘れ、男の手を振り解いて駆け出していた。
「あ、おい待て!」
男の叫びがサーラに聞こえていたかどうか。自由と、自然に触れることへの欲求が、サーラを突き動かした。エルフは森の民である。自然と触れ合うことこそサーラの喜びであり、活力の源であった。思えばこの数日間は、何と不自然な環境を強いられていたことか!
白い光が闇に慣れていたサーラの目を射る。目の奥に突き刺さる痛みも、今のサーラには気にならなかった。それは自然の暖かい光だったからだ。
輝きはどんどん大きくなり、やがてそれはアーチ状の入口の形を取った。期待がサーラの胸を膨らませた。自然と笑みがこぼれる。淫らな服装も気にならなかった。もっとも、今のサーラはそこまで考えてはいない。
外へ出られる!
突然、絶望がサーラの足を止めた。出口の直前で、頑丈な鉄格子が下りていたのである。
「……そんな…」
かすれた呻きがサーラの口から洩れた。鉄格子の桟を両手でつかみ、自由とサーラとを隔てる僅か2ヤッチ(3.2センチ)の鉄棒の隙間越しに表を見遣る。
闇に目が慣れた今のサーラには、外は明る過ぎて、何も見えなかった。
闇に身を堕とした今のサーラには、自由はまばゆ過ぎて、掴むことはできなくなっていた。
5
「どうしたのだ、それは?」
いくつも穴の開いた球状の箝口具を咥えさせられ、屈辱的な格好にがんじがらめに縛り上げられたサーラが台車で運ばれてくるのを見咎め、スカリーが尋ねる。
「この女、逃げようとしましてね。陛下がお待ちなのでとりあえず持って来ましたが、二度と逃げる気になどならないよう、後できつく罰してやります」
「ほう。逃げようとね。フン、面白い。今夜は可愛がってやろうかと思っていたが、そう言うことならたっぷりといたぶってやることにしよう」
身動き一つできぬほどきつく縛められたサーラの瞳は、アルファース王国の新王、兄殺しのスカリーの無慈悲な口調に脅えの色をにじませた。
「この奴隷は寝室ではなく、地下の部屋に運んでおいてくれ。私はまだ執務があるので今は行けぬが、よろしく頼むぞ」
「地下の部屋とおっしゃいますと、例の……」
「そう、彼女のためにわざわざ造らせた、あの部屋だ」
「あのお方は、まだそちらをご利用になられているのですか?」
「ああ、使ってもらっている。何しろ、彼女だけのためにあつらえたのだからなぁ。こころゆくまで堪能してもらわねば、せっかく造った甲斐がないというものさ」
スカリーは邪悪なものを感じさせる微笑を口許に貼り付けていた。
「では、そちらの方へ運んでおきます」
「ああ、任せた」
サーラは台車に乗せられたまま、その部屋を離れた。
6
サーラはその格好のまま目隠しをされ、何処とも知れぬ場所へ運ばれていった。ガラガラという台車の音に紛れて、時折足音やざわめきが聞こえる。どうやら何処かの廊下を運ばれているらしいが、サーラがこれまで囚われていた場所とは明らかに趣が違う。
一度などは、若い女性の「やだぁ」「何あれ」という小声の会話と、嘲りのこもったくすくす笑いがサーラの鋭い耳に飛び込んできた。
全ての女が奴隷で、全ての男が主人である、今までサーラがいた世界から出て、一般人にこのあられもない格好を見られているということを知り、サーラの全身が羞恥と屈辱にかっと熱くなった。いや、見ないで、と叫ぶが、箝口具のためにそれは口の中で無意味な呻きに変わってしまう。
恥ずかしさのあまり真っ赤になって震えているうちに、脚を大きく割り裂かれ、ぱっくりと開いたサーラの淫唇から、じわりと液体があふれ始めた。
「ンっ……!」
サーラは辱めを受けて感じているのだった。そんな自分にサーラは驚き、狼狽した。
サーラを運んでいる男は、サーラの反応に気付いてにやりと唇を歪める。視界を奪われているサーラは、既に気付かれているとも知らず、必死に自分の状態を隠そうとして無理に平静を装った。
男はわざと遠回りを始めた。特に人通りの多い回廊の方へ折れる。がやがやとしている回廊に出ると、男は白々しく呟いた。
「おっと、そう言えば一つ忘れ物をしていた。取って来なくちゃな」
サーラを回廊の真ん中に放置し、男はわざと足音高く歩み去った。
サーラはしばし茫然としていたが、一人取り残されたという事実が頭に染みて来ると、恐ろしい心細さに襲われた。完全に拘束されているサーラは、誰に何をされようと一切の抵抗ができない。そればかりでなく、誰かが何かをしようとしていても、実際にされるまでは何をされるのか全くわからないのである。何かをされたとしても、誰にされているのか知ることすらできない。たとえ自分を家畜としか思っていない存在でも、知っているものが誰も側にいないことがこんなにも不安を掻き立てるものだとは、サーラは思いもしなかった。
通り過ぎる城の使用人や侍女達が、サーラを見て様々な蔑みの言葉をかけていった。
「なぁにこの娘、はしたない」
「おや、奴隷が落ちてる」「どれどれ。おっ、濡らしてるぜ。淫乱な奴だな」「奴隷だからな」
「あら、エルフよ」「奴隷じゃない。ほっときなさいよ、汚らわしい」
大勢の人達に見られている。脚を思い切り広げ、殊更に胸を突き出すような形で固定されているので、身体の奥の奥まで見られてしまう。死にそうに恥ずかしかったが、サーラは興奮した。
目隠しの下から恥辱の涙を流し、大きく開いた股間から性的興奮を示す涎を流す。頭がくらくらして、何が何だかわからなくなりそうだった。通路で晒しものにされている、そう考えるだけでサーラはいきそうになった。
薬を盛られているわけでもなく、肉体的接触は一切ない。視姦と侮蔑の言葉を浴びせられるだけで、サーラは身動き一つせずによがり続けた。
二十分後、男が戻って来た時には、床に愛液の水溜まりができるほどサーラは欲情していた。男はにやりと笑い、何の予告もなしで、取って来たものをサーラの膣に突っ込んだ。
「んふゥうう……ッ!」
サーラが悶えると、箝口具の穴から唾液がだらだらと流れ出した。
男が無造作に差し込んだものは、淫らに蠢く張り形だった。魔法の力によって激しくうねるそれを、男はサーラの菊座にももう一本ねじ込んだ。
凄まじい充足感と快感にヒィヒィよがり泣くサーラを乗せた台車を、男は悠然と押していった。ゆっくりと移動する台車の上で、責め具の淫らな刺激に溺れ切った性交奴隷が晒しものになる。男の性欲を満足させるための性の器に過ぎないものが、利用者に犯されるための場所へと運ばれていることは、通路を行く誰の目にも明らかだった。
7
サーラは台車から下ろされると、服のあちこちに取りつけられた拘束用の輪にフックを掛けられ、ガラガラと音を立てて巻き上げられた鎖に天井から吊された。男はそのまま立ち去ってしまう。
「んむゥう……ふぅっ……」
体内を二本の張り形に掻き回されつつ、サーラは空中でよがり続けた。
サーラはそのまま数時間放置された。何も見えず、何も聞こえない、感じることだけが全ての時間がのろのろと流れ去る。身動き一つしていなくても、全身の筋肉を緊張させているために、サーラは消耗していった。
「いい格好だな」
快楽の濃霧を切り裂いて、サーラの耳に声が響いた。スカリーの声である。どのくらい悶え続けたものか、サーラにはさっぱりわからなかった。
「目隠しは取ってやろうか」
サーラの視界を奪っていた布切れが取り去られた。
サーラは快感に霞む目の焦点を合わせようとする。目の前にスカリーの姿がある。そしてその後ろは……。
「ひィィィ……っ!」
サーラの口から恐怖の悲鳴が洩れた。
それは拷問室だった。三角木馬、吊り具、鞭、得体の知れない薬品などが整然と並んでいる。よく見ると、苦痛で責め立てる道具よりも、性的な拷問を加えるための道具に重点が置かれているのがわかった。
スカリーは壁にかけられていた鞭の一本を手に取ると、見せびらかすように自分の手に当てて鳴らしてみせる。サーラは脅えた目でそれを見つめていた。
急な動作で、スカリーはサーラに鞭をふるった。
「うぐうう……っ!」
意味のある言葉を封じられたサーラの口から苦鳴が発せられる。
スカリーは二度三度と、続け様に奴隷に鞭を浴びせた。特に狙い澄まして、乳首や淫核に鞭を当て、エルフ娘から苦痛の呻きを絞り出す。黒革のスーツを着せられているサーラの露出部分は少なかったが、スカリーは的確に鞭を命中させた。
白く豊かなサーラの乳房に何条かの赤い筋を刻み込み、スカリーは手を休めた。苦痛の涙を流して喘いでいるサーラのおとがいにたたんだ鞭の先を当て、軽く持ち上げる。
「逃げようとしたそうだな。そんなに私に抱かれるのが嫌だったのか?」
「うむぅぅ……」
サーラは呻き声を上げる。ろくに首も動かせないほどきつく固定されているので、否定とも肯定ともつかない。サーラは完全に意思表示の手段を奪われていた。
スカリーはそんなことは百も承知で、重ねて質問した。
「私に抱かれるのが嫌だったのか、と聞いているんだ」
固い声で問いつつ、鞭をぴしりと鳴らす。
「ふん、むぅんっ、んくっ」
サーラは恐怖に歪んだ表情で必死にスカリーに迎合しようとするが、スカリーは見て見ぬ振りで、鞭を更に音高く鳴らした。
「どうやら答えたくないらしいな」
「ふぐううう――――ッ」
違います、とでも言っているのであろう。
スカリーは大きな動作で鞭を振り上げた。風を切って振り下ろす。サーラの肌の上で、ぴしりと鋭い音が鳴った。
「うぶぅっ!」
動けないサーラは、激しい痛みに泣くことしかできない。
スカリーは今度は一点を狙わず、乳房全体と臀部全体に対して攻撃を加えた。皮膚が裂けないよう、絶妙に手心を加えてある。痛みだけを与える、懲罰の打ち方だった。
続け様に襲ってくる鋭い痛みに息も絶え絶えのサーラに、スカリーが面白そうな声をかけた。
「返事をする気になったか?」
返事をするも何も、箝口具を噛まされたサーラには返事ができない。しかし返事をしなければ罰を与えられる。主人の意地悪に、サーラは焦慮の極みに追い込まれた。胸も尻も打たれて真っ赤に腫れ上がっている。神経を剥き出しにされた皮膚にこれ以上理不尽な責めを課されないためならば、サーラはどんな無茶な命令でも進んで従い、どんなに不公平な『契約』でも心から交わす心境になっていた(※)。
「ん、ふうぅっ、んんっ」
哀願の表情を作ったサーラに、スカリーはふっと笑ってみせる。温かみの感じられない笑いだった。
「まだだんまりか。強情な女だな。では、いい返事をしたくなるよう、面白いものを見せてやろう。それを見てから、まだ逆らいたいかどうか決めるがいい」
スカリーは鞭を壁に戻し、犬用の引き綱を手に取ると、サーラの首輪の止め金につけた。
上を向けないくらいがっちりと固定されているサーラは気付かなかったが、サーラが吊されている鎖の先には、天井を走るレールに取り付けられた車輪のついた物体があった。移動できるように作られた、モノレールのような装置である。
スカリーは今までサーラが動かないように掛けていた止め金を外し、レールに沿ってサーラの引き綱を引いた。移動装置は意外なほど滑らかに動き、サーラは身じろぎもままならず、スカリーの望む通りに動かされる。
首を引っ張られ、ゆらゆらと腰が揺れる。痛みで忘れていたが、性器と排泄器にはサーラの性欲を掻き立てる淫猥な物体がまだ深く収められている。
「んフ…ん……ンッ、ふゥっ」
膣の襞と腸の襞をかき乱される感覚を突然生々しく感じ、荷物を扱うように運ばれている家畜同然のエルフ娘は鼻声で唸った。スカリーはそれを聞くと立ち止まり、腫れ上がった胸と尻の皮膚を軽く撫で回した。
「………!」
ぴりぴりする痛みと、驚くほどの性感がサーラを襲った。わずかな痛みが、くっきりと快感を際立てる。初めての感覚にサーラの体は堪え切れないほど熱くなり始めていた。
スカリーはグネグネと蠢く二本の張り形を、大きく一回ずつ抜き差しした。
「ふ、ひいィ…っ」
甘美な刺激に、サーラは上の唇と下の唇の両方からよだれを垂らして悦んだ。だが、スカリーはそれ以上よがる奴隷には取り合わず、引き綱を取って先に進んだ。
「むぅぅっ……」
サーラは哀願の呻きを発するが、スカリーに無視される。仕方なく、サーラは眼球だけを動かして、周りの様子を探ってみた。
どうやら拷問室は幾つもの続き部屋からなっているらしく、あちこちにアーチ状の出入り口や閉じられた扉が見える。天井のレールはそのどれもに通じていた。それらと天井の間には、鎖を通すためにわざわざ溝が作られている。扉はほとんど木製だったが、一つか二つ鉄の扉もあるようだった。
スカリーは厳重に閉じられた鉄扉の前で立ち止まった。サーラが監禁されていた部屋の鉄扉には目の高さに鉄格子の窓があったが、これにはそれもない。ただの一枚板である。スカリーは懐から鉄製の大きな鍵を取り出すと、鉄扉の鍵穴に差し込み、解錠する。よく油を差してあるのか、重そうな鉄扉はスカリーが軽く押しただけで音もなく開いた。
部屋の中は真っ暗だった。スカリーは扉の脇の壁に手を伸ばす。しばらくすると、ふぅっと部屋が明るくなった。不審に思ったサーラがスカリーの背中越しに室内を見ると、壁に固定された幾つものランタンの中で炎が揺れている。何かの仕掛けを操作しただけで、これらのランタン全てに自動的に燈が灯ったのである。驚くほど巧妙な仕掛けだった。
スカリーはサーラを引いて部屋の中に入った。スカリーが一歩脇へのくと、室内の光景がサーラの目に飛び込んでくる。
「うむ……っ!」
サーラは目を見張り、箝口具のせいでくぐもった驚きの声を上げた。
そこにいたのは、奇妙な仕立ての絹服をまとった、栗色の髪の15、6の美少女だった。その服は、そう言ってよければ、ノースリーブのボディ・スーツだった。しかし、サーラの着せられているものと同様、乳房のまわりと股間が開いており、おそらく背中でベルトか何かで締められるところまで締めつけてあるために、そのどちらもがいやらしく絞り出されている。口には箝口具を噛まされ、両手は後ろ手に高く固定されているらしい。首にはサーラとは違い、黒革ではなく、金細工の首輪をはめられている。
美少女は三角木馬に乗せられ、足に数キロの錘を下げられていた。少女の褐色の瞳は力を失っており、入って来たスカリーの動きを虚ろな視線で追っている。相当長い間責められているに違いなかった。
少女の頭には、王家の一員であることを示す金冠が誇らしげに輝いている。
突然大きく響く金属音が轟いた。サーラは驚いて、少女の観察を中断する。背中の方で鳴ったので、おそらく鉄扉が閉じた音だろう。音もなく開いた扉が、閉まる時には対照的に大きな音を立てた。
スカリーはサーラを放置し、美少女の方へ歩み寄っていった。
「やあ、メディア。ご機嫌はいかがかな」
サーラは一瞬耳を疑った。するとこの、サーラよりは高級そうな奴隷少女が、過日の内乱でスカリーの勢力に最後まで対抗したスカリーの腹違いの妹、メディア姫なのだろうか。
「ここの暮らしにはすっかり慣れてくれたものと思うが、足りないものがあったら何でも言ってくれたまえ。鞭でも蝋燭でも肛門拡張器でも、すぐに用意させよう」
メディアは焦点の定まらない目を宙にさまよわせるだけで、スカリーの言葉が聞こえているのかどうかもわからない。
「とりあえず今の君に必要なのは、もっと重い錘かな」
呟くように言って、スカリーは壁にかかったもう一回り大きな錘を手に取った。メディアの両足の錘を外し、それに付け替える。
メディアの瞳に光が戻った。
「う、うふぅっ! むぅ、う、ううーっ」
苦痛のそれだった。
「どれ」
スカリーは部屋の隅にあった、レールに下がった鎖付きのフックを持って来る。どうやら、滑車の働きでフックに吊り下げられたものを楽に持ち上げられる仕掛けらしい。スカリーはフックを、メディアを後ろ手に縛めている手枷同士をつなぐ金具に引っかけた。がらがらと音を立てて鎖を巻き上げると、メディアの体がゆっくりと持ち上がっていく。
すると、メディアの乗せられていた三角木馬が普通のものではないことが、宙ぶらりんで股間の快楽に悶えるサーラにもはっきりとわかった。三角木馬から棒状のものが二本屹立し、メディアの体内へとつながっていたのである。そしてそれは、サーラの入れられている張り形と同様、それ自身淫猥な生物であるかのように淫らに蠢いていた。男根を模した器具がひとうねりする度に、メディア自身の分泌した体液が飛び散る。王族の美少女は、明らかに張り形に犯されて感じていた。
スカリーは妹の性器と肛門にめり込んだ張り形が抜けない程度まで鎖を巻き上げてから、急に手を放した。突然支えをなくしたメディアの体は、自らの体重に錘の重さを加えた勢いで、張り形を突き込まれつつ三角木馬に叩き付けられた。
「うぎぃっ…!」
メディアは箝口具越しに苦鳴を発する。スカリーは妹の苦悶には取り合わず、何度も同じことを繰り返した。
「ひっ、ひィっ! あぐっ、ふぐっ! んんん――――ッ!」
今のメディアの状態が、サーラには手に取るようにわかった。交錯する苦痛と快感に翻弄され、惑乱状態に陥っているに違いない。自分も先程味わわされた感覚だけに、サーラにはそれはよく理解できた。
張り形のもたらす刺激以上に興奮している自分に、サーラは気付いていた。目の前で繰り広げられるメディアの恥態に欲情してしまっているのである。
十回近く地獄と極楽を往復させられて、メディアは果てた。
「…ふっ……ふぅっ……ふっ…」
本人にも何の涙だかわかっていないだろう涙を流すメディアの耳元にスカリーが囁いた。
「いい加減私のペットになる決心はついたかな、メディア。一言うんと言えば、こんなに苛めたりはせず、大事に可愛がってやると言っているんだぞ」
「んんっ……」
メディアは必死に首を縦に振り、精一杯の恭順を示す。
「まだ返事をしないつもりか」
スカリーはメディアの勃起した乳首をひねり上げる。
「んくぅうっ」
メディアは絶望の涙を流した。
スカリーは肩をすくめると、サーラに向き直った。
「かれこれ二週間責め続けているのに、まだ屈伏しないのだよ。こちらとしても、今更責め立てる手を緩める気はさらさらない。屈伏するまで痛ぶり続けるつもりだ。お前も、我々と根比べをするつもりかな?
さあ、今ここで、もう二度と逃げ出そうとしたりはせず、永久に我々の奴隷として誠心誠意尽くすと誓え。そうすれば逃げようとしたことは不問に付そう。嫌だと言うなら、あの女以上に手をかけて責め立ててやるぞ」
その瞬間、サーラは悟った。スカリーは一度自分に逆らったものを許す気など、微塵もないのだ。自分はスカリーの被虐奴隷として、骨の髄まで嬲られ続けることが決定づけられているのだろう。それでもサーラは、主人の慈悲を求めて声を上げずにはいられなかった。今のメディアもそうだったのだろう。
「相変わらず、答える気はなしか。全く強情な女どもだ」
「むぅん!」
「うふうぅっ!」
サーラとメディアは同時に呻く。スカリーは奴隷娘達の嘆きを無視して、次の責めの準備にかかった。
※ここで言う『契約』とは、魔法の行使に根本的に関わる、絶対的な約束事のことを指す。魔法を使う者はこの『契約』を破ることは不可能である。
8
「んッ……ふゥッ、ンむぅうっ」
「んん、ンくっ……ふぐぅっ、ぅふうっ」
娘達の発するくぐもった声が地下の拷問室に響いている。対照的な、黒革の奴隷服と白絹の奴隷服をまとった美しい女達。エルフ娘の元腕利きの冒険者サーラと、少し前には一大勢力を率いていた元王女メディアである。
彼女達は向かい合って、それぞれ小さめの三角木馬に跨らされていた。だが、それはただの三角木馬ではない。二つの三角木馬は、二人の中央の支点を通る竿で連結されていた。
「どうだ、『淫魔の天秤(Incubus's Seesaw)』の味は。気に入ってくれたかな? せっかく誂えさせたのだが、今までメディア一人だったので使えなかったものだ。たっぷり楽しんでくれ」
少し離れた壁際で、腕組みをしたスカリーが椅子に腰かけている。口許に冷酷な笑みを浮かべた彼が言った言葉が、果たして二人の耳に届いているのかどうかは定かではない。それ程、種族の異なる奴隷娘達は乱れていた。
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「くふぅうーっ」
今サーラは、長く豊かな金髪をゆるい編み下げにされている。その美しい飾り紐を揺らして、エルフ娘は足を縮めた。後ろ手に拘束された娘の両足は床に届いていないが、足枷から伸びた鎖が床に繋ぎ止められている。下向きの力をかけられ、三角木馬は少し下がった。
三角木馬からは、先刻メディア姫が乗せられていたものと同様、二本のいびつな張り形が突き出ていた。違うのは、自分から蠢いていない点と、三角木馬に取り付けられているのではない点である。張り形は三角木馬にではなく、床に固定された二本の棒の先端についているのだ。棒は三角木馬を貫通した二つの穴から覗いていた。当然三角木馬の動きとは連動せず、三角木馬が下がればその分先端が突き出る。
黒革の拘束衣を着せられた金髪娘は、三角木馬の角が股間を苛むのもかまわず、二箇所に同時に潜り込んでいる張り形でより深く自分を犯すために膝を縮めたのだった。
支点が固定されている以上、力点が下がれば作用点が上がる。メディアの跨る三角木馬は、サーラが脚を縮めただけ持ち上がった。メディアの両足首も鎖で繋がれているので、鎖がピンと張ったところが限界になる。サーラはそれ以上自分を犯すことはできなかった。
サーラが入るところまで迎え入れようとすれば、三角木馬がメディアの股間にきりきりと食い込んでいくことになる。前の三角木馬では体重プラス錘の重量がメディアを責め立てていたが、今は体重プラスサーラの脚力が三角木馬の角にかかっていた。が、メディアにとっては、痛みが増したことよりも、サーラの動きによって張り形がほとんど抜けかけるまで引かれてしまったことの方が一大事だったようだ。
メディアは凌辱を求めて脚を縮める。膣の襞と腸の襞をねぶりつつ、張り形がメディアにこじ入り、サーラから抜けていった。今度はサーラが切なそうにして、また三角木馬を押し下げる。
悪夢のような堂々巡り。二人に苦痛と快楽の交錯する淫獄を味わわせるその器具は、どちらがより情欲に対して貪欲であるかを量る、まさしく『淫魔の天秤』だった。淫猥なシーソー運動は、被虐の悦楽に溺れ切っている二匹の哀奴には止めることができない。倒錯的に美しく、哀れな光景である。
スカリーが酷薄な笑みをこびりつかせてこの淫猥なショーを楽しんでいると、鉄扉に微かなノックが響いた。かなり強く叩いたのだろうが、扉が分厚いので振動を吸われてしまうのである。
スカリーは鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。この扉は、内側からでも鍵がなければ開かないのである。
扉の向こうには、お仕着せの衣装を着たメイドが立っていた。拷問室の設備を目にしたためか、かなり脅えた風情がある。メイドは室内の光景を見て、「ひっ」と声を上げて硬直した。
「どうした。何の用だ?」
スカリーに声をかけられてやっと正気を取り戻したメイドは、支えていた盆をスカリーに差し出した。その上には洒落た造りの小箱が乗っている。
「ゼルダ様からの、お届けものでございます。以前から頼まれていたものだそうですが、『殿下のことだからまたご入り用になるでしょうと思い、多目に作っておきました』とのことです」
「そうか、できたのか。ふふ、ゼルダめ、なかなか憎い心遣いをする。下がってよいぞ。ゼルダには、スカリーが礼を言っていたと伝えておいてくれ」
「は、はい、かしこまりました」
メイドは深々と一礼して、逃げるように戻っていった。
スカリーは扉を閉じると、小箱を開いて中を見る。邪悪な笑みがこぼれた。
「ふゥうーっ」
「ふぐうぅっ」
無惨な性の虜と化した二匹の牝は、そんな一幕に気付きもせず、淫靡な力比べを繰り広げている。スカリーは奴隷達の競艶に飽きたのか、つかつかと『淫魔の天秤』に歩み寄り、支柱に取り付けられたペダルを踏んだ。
「ひぎぃっ!」
「……っ! んんっ! ……フッ!」
淫魔の操り人形達はぎゅうっと背を反らす。それぞれ二本ずつ入れられた、合計四本の張り型の先端から、一斉に粘性のある液体が噴き出してきたのである。その液体は哀れな性奴達に精液のような感触を伝えたが、精液と違って、二人の中がいっぱいになっても次々と打ち込まれ続けた。絶頂に達しても注入され続ける液体は、二人を更なる絶頂に押し上げていった。サーラとメディアは、精神が耐えられる以上の快感を与えられ、悦楽の中に意識が溶けていくのを、どうすることもできなかった。
9
苦痛が爆発した。
「!!!!!」
悲鳴が声にならない。
神経繊維が苦痛の情報のみで満たされ、他の一切のものを締め出した。自律神経さえ一時その機能を喪失し、鼓動は乱れ、あらゆる筋肉が寸時弛緩する。
失禁し、腸内の排泄物を激しく流出している自分に、サーラは気付いていなかった。
永劫ともまごうばかりの数秒間の煉獄が過ぎる。箝口具の隙間から唾液を垂れ流しながら荒い息をつくサーラの虚ろな視界に、ぼやけた影が映った。体の制御が戻ると共に、少しずつ焦点が合っていく。
スカリーである。先端が光る、長く細い棒を持っている。その棒の姿がはっきり見えてくると、サーラは恐怖と理解と絶望を覚えた。
それは先端が、真っ赤を通り越して真っ白に焼けた、鉄の焼鏝だった。自分がその焼鏝で焼き印を捺されたことをサーラは悟った。どこに捺されたのかは、すぐに知らされることになる。
スカリーが身を屈めて足元の火鉢に焼鏝を突っ込んでいると、2ヤーム(3.2メートル)ほど離れたところに、意識のないメディア姫の体がサーラと向かい合わせに吊られているのが、サーラの目に映った。最初にサーラが吊られたときのように、身動き一つできそうにないほど厳重に拘束されている。
両足首をまとめて黒革の足枷でとめ、その足枷を首環に固定してある。両手は高手小手にしたあと更に金具でとめてあるようだ。膝は大きく開かされ、殊更に股間を前へ突き出すようなポーズを取らされている。この淫らがましいポーズが崩れないよう、ベルトや金具でがんじがらめにしてあるため、愛液と『淫魔の天秤』から流し込まれた液体が、メディア姫の淫唇からとろとろと流れ出してくるのがよく見えた。
目の位置が同じであることからすると、サーラもメディアとほぼ同じポーズをさせられているらしい。
スカリーは十分に熱せられた焼鏝を火鉢から引き抜くと、慎重に狙いをつけて、一気にメディアのふっくらと柔らかい肉の丘に押しつけた。
じゅうっ! と嫌な音が立ち、快楽に朦朧としていたメディアはたちまち覚醒させられる。
「ぃひィィい……ぃぎっ……ぎぃっ」
聞くに堪えない苦鳴が、封じられた王女の口から洩れ聞こえてくる。サーラと同じように、派手な音を立てて排泄物が床を叩く。聞いているサーラの方が赤面してしまった。肉の焼ける異臭が漂ってくる。
スカリーが焼鏝をメディアから離すと、その下から黒く鮮やかな焼き印が現れた。サーラは息を飲む。その印には意味があった。
奴隷を意味する飾り文字。
サーラとメディアは、恥丘に奴隷の烙印を捺されたのである。
もう二度と、自由だった頃の瑕一つない体には戻れなくなった。その思いが、サーラの心を深い絶望で塗り潰していった。
ふと視線を感じて目を上げると、メディアがサーラの体を観察していた。サーラの恥丘に視線が行くと、完全に奴隷の身に堕とされてしまった姫君の瞳にも、絶望の色が浮かぶ。
悲嘆に暮れる奴隷娘達に、スカリーが氷のような声をかける。
「これで終わりだなんて考えているんじゃあるまいな」
びくりとする二人の前で、スカリーは先程届けられた小箱を開けた。中から、場違いに美しく輝く金の針を取り出す。戸惑う二人の視線の中、スカリーは宙吊りのサーラに歩み寄ると、尿と愛液と注ぎ込まれた粘液に濡れた秘部をいじり始めた。恥丘の焼け跡からは未だ継続的な苦痛がずきずきと響いていたが、そこは本人にも意外なほどあっさりと熱くなり始める。『淫魔の天秤』から注入された液体に催淫作用があったからなのだが、もちろんサーラには知る由もない。
「ふむぅ……っ」
サーラは快感に鼻を鳴らした。乳首がみるみる固く尖っていく。淫核も勃起してきた。と、スカリーは無造作に、手に持った金の針でピンと立った乳首を横一文字に貫き通した。
「っ……!」
サーラは突然の痛みに悲鳴を上げるが、スカリーは注意を払わず、次々ともう一つの乳首、それに淫核に金の針を突き通していった。淫核に使った針は乳首のものより少し短いようである。
金の針は、刺し通されると自動的にくにゃりと曲がり、きれいな円を描いて、端と端が溶け合わさって継ぎ目のない環になってしまった。サーラの両の乳首と淫核を、美しいが無惨な、貴金属の装飾品が彩る。淫核の金環は乳首のものより二まわりほど小さい。
スカリーは、か細い悲鳴を上げるサーラの箝口具を取り外した。
「ふあ……?」
サーラは予想もしなかった事態に、一瞬何が何だか分からなくなる。その隙にスカリーはサーラの喉に一回霧吹きを吹いた。
「?」
驚いて一回鋭く息を吸うサーラ。スカリーはそれを見て満足気に笑った。
「吸ったな」
「えっ……」
「今のを、吸ったな?」
「は……はい…」
「そうか」
スカリーはサーラの股間に手を伸ばし、淫核を貫いた金のリングを指の先で持ち上げる。不思議と出血の痕跡はない。横向きのそれを、急に縦方向にひねり上げた。
「ひぎいぃーっ!」
サーラはたまらず泣き声を上げる。取り合わず、スカリーはリングをひねり回し続けた。
「ああ―――っ! お、お許し…くださ…い、御主人様っ! サーラは二度と逆らいません! 一生、奴隷としてお仕え致しますから……。もう、もう苛めないでくださ…ぃひいいいっ」
今まで箝口具に封じられていた哀願を一気に吐露しようとしたエルフの言葉を、スカリーの指先が断ち切った。
「ひいいっ! いっ、いたぁ…ゆ、ゆる…し、てぇ……っ。ああぁ! はぁ、ぁ、ぁくぅぅぅ……。ひぎ……っ、ぎっ………。………! っ! ……………っ」
サーラの悲鳴は徐々に小さくなり、遂には全く聞こえなくなってしまった。力尽きたわけではない。サーラの唇は、叫び声を上げる形に開かれ、激しく肺の空気を吐き出している。それなのに、聞こえるのは呼吸音だけで、声は一切聞こえては来ない。
スカリーは魅入られた様にサーラを見つめているメディアに向き直ると、にこやかに声をかけた。
「声というのは、どうやって出るものか知っているかな、メディア。それは、ここ……」
スカリーはサーラの、首環に覆われた喉の真ん中を示した。
「この部分にある、声帯という笛のような器官から出るのだよ。息を吐くときに空気は声帯を通って出ていく。その時、声を出そうとすると、声帯が閉じて、そこを通る空気で笛のように震える。これが声の正体だ。
今この家畜に吸わせた液体はかなりの劇薬でね。声帯を完全に溶かし潰してしまう。ただし、体の他の部分には一切影響がないように調整した、特殊な魔法薬だ。これを吸わされたものは声帯を完全に破壊され、もう二度と声を出すことはできなくなる。…ほら、このように」
スカリーが乳首の金環を二つ同時にこじると、サーラは苦痛に表情を歪め、大きく口を開き、ひゅうひゅうと吐息をついた。本来叫び声であるものの成れの果てなのだろう。
人の言葉を喋ることができず、乳首と淫核に金のリングを通され、恥丘に焼き印を捺された半裸のエルフ娘。だれが見ても性奴にしか見えまい。サーラの頬を、絶望の涙が幾筋も伝い落ちた。
痛ましげに見守るメディアに、スカリーが歩み寄っていく。
「さて…」
スカリーは小箱から三本の金色の針を取り出した。二本は長く、一本は短い。メディアははっと表情を硬張らせた。
「これをどうするかは、もう言わなくてもわかるな。言っておくが、こいつは魔法で作られていて、どんなことをしてもはずれることはない。肉ごとこそげ取る覚悟があるなら別だが、な」
針はメディアにはっきり近付く様子がわかるように、ゆっくりと迫ってくる。
「んんん……ッ! ンむぅうう――――っ! ふッ!」
メディアは微かに首を横に振りながら、恐怖に見開かれた目で乳首に接近する針を凝視した。どうしようもなく緊縛され宙に吊られているので、メディアにはそれを止める方法は一切ない。
桜色の突起は萎縮し、肉芽も隠れてしまっていた。スカリーは舌打ちし、片手をメディアの露な股間に伸ばす。軽い愛撫を加えただけで、淫らな責めと薬液によって性感を極限まで高められた少女の体は、意思を裏切って勝手に欲情していく。与えられる快感の果てに何があるのか、たっぷりと見せつけられたメディアは、必死で興奮を押し止めようと努力する。が、発情した牝犬同然のメディアの肉体は、性的な刺激を隅々まで貪ろうと、理性の制御を振り払い、神経組織を快感に対して開放した。
「ふヒィィィッ」
瞬間に雪崩込んできた快楽情報に、メディアの脳は過負荷に陥り、肉体の管理能力をすっかり失った。代わりに肉体の制御を司ったのは、獣欲に支配される自律神経である。それらは喜々として、欲情の証を外部に示していった。
「ぐぎぃっ!」
乳房の先端に炸裂した鋭い痛みが、メディアの理性を強烈に呼び覚ました。眼球だけを動かすと、張り詰めた肉の膨らみの先端にぴんと突き出た桜色の突起を、今まさに金色の筋が取り巻いていくのが見えた。金のリングが、メディアの乳首にも通されてしまったのである。
もう一本の針がゆっくりと、無事に残された乳首に忍び寄る。メディアは脅えた視線を自分を疑問の余地のない性奴の身分に堕とす存在に注ぐが、性に狂った肉体はあたかもスカリーがメディアを辱めるのに協力するように、乳首の隆起を高く堅く保ち続けた。
スカリーの指が乳首をつまみ、固定する。針が乳首の横にぴたりと据えられる。そのまま、数秒間が流れた。メディアの精神を苛むための時間である。メディアが緊張に耐え切れなくなる瞬間を見澄まして、針は一息に少女の乳首を貫いていた。
「フ、ひィィィ……っ」
メディアは奇妙な啼き声を洩らした。
王族の一員だった美少女の精神に、奇妙な変化が訪れていた。絶望が蚕食した心の傷の中に、ねじ曲がった喜びが湧き上がってきたのである。少しずつ、性交奴隷以外ではありえない外見を与えられていく。すなわち、少しずつ奴隷として完成していくのだと考えると、これまでにない性的衝撃がメディアを襲った。一瞬の激痛と共に、まだ残っていた以前の自分の残滓が粉々に破壊され、新しいメディアに造り変えられていく。性具として男達に屈辱的に用いられ、心からの満足を得る家畜に。メディアは、汚辱にまみれて昏い悦びに浸る自分の淫ら極まる映像を脳裡に描き、目眩がするほど興奮している自分に気付いた。
三回目の、そして最大の激痛は、今のメディアには前後を一度に犯されるくらいの効果があった。
「ンうぅウ………ッ!」
その瞬間、高く呻いてメディアはイッてしまった。
10
「ふぅ、ふぅ、ふ、はあぁ……っ」
汗などの体液にまみれ、荒い息をつくメディア。吐息が声となって吐き出されていることに、彼女は突然気付いた。
「あっ……。口が…」
快楽の余韻に陶酔しているうちに、メディアの口に噛まされていた箝口具がはずされていた。
「お前とちゃんとした話をするのは久し振りだな、メディア。一週間振りかな。それとも十日振りか? 前の時に、お前が最後に言った言葉は覚えているかな?」
折角声の自由を取り戻したメディアだが、スカリーのその台詞で言葉を封じられてしまった。脅えた表情のメディアを見て、スカリーは鷹揚に頷いて見せる。
「その顔だと、ちゃんと覚えているようだな。『汚らわしい手で触れるな。下賤な妾腹の身で大それたことを』。確か、そう言ったのだった。さて、今度は何と言うのかな?」
メディアは答えない。答えられない。スカリーが自分の言った言葉を正確に覚えているという事実が、メディアの喉を詰まらせていた。それはつまり、スカリーが、受けた侮辱を全く忘れていないということを意味するからである。
今までの例からも、スカリーが恨みを忘れることなどないとわかっている。一体どう言えば許してもらえるのか見当もつかない。
スカリーが例の霧吹きをゆっくりと彼女の口許に近付けていくと、恐怖がメディアの呪縛を解いた。
「い、いやぁ! お、お願い、お願いです。それだけは、許して!」
以前にスカリーに浴びせた言葉とは正反対の、それは哀願だった。
「おやおや。前の時の威勢はどこへ行ったんだ? 困るな、反乱軍の首魁がそんなことでは」
身も世もなく訴える元王女殿下に、新王陛下は冷たい笑みを投げる。
「お望みのことは何でもします。ス、スカリー様、いえ御主人様のペットにでも、性交奴隷にでも、何にでもなります! で、ですからそれだけは、お許し下さい!」
「さぁて…どうしようかな。銀の鈴と讃えられたお前のその美しい声で、そのような屈従の言葉を聞くのも悪くはないが」
メディアの面に、僅かな希望の光が射した。
「本当に、どんな命令にも従うか?」
スカリーが念を押す。
メディアは必死で肯定した。
「は、はい。どのようなご命令でも、喜んで果たさせていただきます!」
それはほとんど悲鳴だった。この姿で声を失ったら、もはや家畜以外のものにはなり得なくなる。たとえ最低の身分の性交奴隷でも、メディアは人間のままでいたかった。
「それでは…」
スカリーは意地の悪い笑みを浮かべた。
「真っ昼間、犬と交わりながら四つん這いで大通りを端から端まで行進しろと命じたら、喜んで従うか?」
「え!?」
おぞましい光景が目に浮かんだ。
衛兵に囲まれ、先導されて、城下町の大通りを歩いていく少女。全裸よりも淫らな絹服をまとい、四つん這いでのろのろと進む。少女の胸の膨らみが揺れると、胸の先端を貫いている金のリングが、きらきらと輝いてその存在を主張する。彼女の腰には、黒い巨犬が息を荒げてのしかかっている。犬の腰は一定の律動をもって少女の腰に打ちつけられ、その度に濡れたような音がする。少女の息も荒い。犬のグロテスクな陽物が少女に突き入れられると、少女の顔は切なげに歪む。明らかに彼女は、犬に犯されて悦んでいる。その浅ましい姿を、十重二十重に取り巻いた群衆が注視する。街の者も旅の者も、少女の媚態を飽きるまで見物していく。そして、牝犬以下の栗色の髪の少女の噂は、あっという間に周辺の国々に広まっていくのだ。何しろこの街では、メディアという名の、王家の美少女の顔を知らない人間の方が少ないくらいなのだから…。
「いやあああ――――ッ!」
メディアは我知らず、半狂乱で叫んでいた。
「そうか。やはり私のペットにはなりたくない、と言うわけだな。フフ、それでは仕方がない」
「あっ! ち、ちが…」
手遅れだった。
霧状の液体が、メディアの顔に吹きつけられた。
これを吸わされたものは声帯を完全に破壊され、もう二度と声を出すことはできなくなる…。
スカリーの言葉が思い出された。逆に言えば、吸い込みさえしなければ、声帯は破壊されない、と言うことにならないだろうか。
メディアは、咄嗟に息を止めた。
十秒。二十秒。
噴霧された薬品は、少しずつ薄れて消えていった。
メディアは安堵の吐息をつく。だが、その瞬間を見澄まして、スカリーは再び霧吹きの液体をメディアに吹きつけた。メディアは十分な呼吸をすることも許されず、慌ててまた息を止める。
それが数回繰り返された。体が呼吸を欲する限り、こんなことがいつまでも続けられるわけはない。やがてメディアは屈伏し、大きく息を吸い込んだ。それと同時に、王女の喉に霧状の薬品が吸い込まれていく。
「い、いやぁ……。助けて、助けて……っ」
魂も凍るような恐怖に襲われたメディアは、譫言のように助けを求める言葉を繰り返した。哀れなメディアの姿を眺め、スカリーは心から満悦したような笑みを浮かべる。
「いやあああ……あぁぁ……ぁ…ぁ……」
少女の悲痛な叫びは、やがて吸い込まれるように消えていった。
それと共に、スカリーの哄笑が高く響き渡った。
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