第三章 汚辱



                1

 薄暗い部屋の中、白髪白髯の老人が立ち尽くしている。
 彼の前には、幾つかの水晶球が置かれていた。その中で、各水晶球につき一人の娘が身悶えている。
 老人はちらりと背後に目をやった。そこには、数十個の似たような水晶球が置かれ、そのどれもに美しい少女達が映し出されている。
「やれやれ。これだけやって、実験に耐えるだけのものがこれだけとは、な……」
 しかも、そのうちの一人はスカリー殿下が潰してしまわれたし、と、彼は口の中で呟いた。
「この中でも、複数回の実験に耐えるのは一人か二人、と言うところだろうな」
 彼は重い溜め息をついた。
 実験量が圧倒的に足りない。本来ならばもっと実験を重ね、完璧な呪文を織り上げねばならないというのに……。
「しかも辛いのは、彼女等に目的を明かした場合、実験の意義を損なってしまう、と言うことだ…」
 だから何も知らせず、少女達が凌辱されるに任せなければならない。彼にはそれが一番心苦しかった。
 彼の目の前に置かれた水晶球の中に映し出されているのは、ウェーブのかかった桃色の髪の美少女、気の強そうな、栗色の髪の気品ある顔立ちの美少女、銀色の髪の毅然とした美女、引き締まった体の、桃色の巻毛の美少女、等の娘達である。
「一番の有望株は、やはりこの娘か……」
 彼は優しそうな顔立ちの桃色の髪の娘が映った水晶球に目を凝らした。彼女の名はヴィシュナス。大陸一の白魔道士と呼ばれていた娘である。

                2

「んくっ…くぅっ…ぐっ」
 室内に呻き声が反響していた。それに混じり、濡れたものを掻き回すような音、荒い息遣いなども聞こえる。
 白い肢体に、四人の男達が群がって快楽を貪っていた。性器と排泄器に太い肉棒がねじ込まれ、激しい抽送を繰り返す。いっぱいに開いた口もどす黒い一物が凌辱している。形のよい乳房はひしゃげさせられ、間に挟んでピストン運動し、筒先で喉元をつつく肉柱を刺激するために使われている。
 男達に全身を許している美少女は、明らかに感じていた。乳首は堅く凝固し、股間からは透明な液があふれ、腿を伝って石床に溜まっている。頬は羞恥と快楽に上気し、表情からは屈辱ではなく喜悦が読み取れる。封じられた口の端からこぼれるのは、拒否の言葉ではなくよがり声だろう。これだけひどく犯されながら性感を得ている少女の肉体は、極めて淫乱な代物と言っていい。
 しかし、四本の男根に気も狂わんばかりの悦楽を与えられながら、少女は自分からは何もしようとしなかった。舌は動かず、膣の襞は一片たりとも蠢かず、ただ膣口と肛門の括約筋が時たま不随意的に収縮するばかりである。
 抵抗しない代わりに、自分では一切奉仕しない。少女はそう思い決め、津波のように押し寄せる肉の求めを精神力で無理やり押し留めているのだった。賛嘆に値する、素晴らしく強靱な意思力である。
 やがて性感の高まりと共に、少女の強靱無比な精神力にも一瞬綻びが生じた。その一瞬の綻びを無理やりに押し拡げて、少女が今まで必死で抑えてきた肉の欲求が怒濤の勢いで脳裡を埋め尽くす。薄紙一枚の均衡で保っていた理性は、ひとたまりもなく快楽の渦に呑まれ果てた。
「ンんッ…!」
 動物的欲望に主導権を握られた肉体は、獣欲を満たしてくれる至高の存在に奉仕を開始した。口を犯す男根に舌と唇、口腔全体を用い、技巧を凝らした愛撫を施す。乳房の間で抽送する男根には、自分から乳房を揉み潰し、できる限り巧妙な刺激を与えるべく努める。下半身の空隙を埋める二本は、思い切り締め付け、全ての括約筋を総動員して心から奉仕する。何故なら、その二本がもっとも強烈に彼女の渇きを癒してくれるからである。
 悦楽に麻痺し切った脳裡を、理性が苦心惨憺して取りまとめ、再度支配下に置いたのは、既に男達の欲望をその身にしたたかに浴びせられた後だった。
「あ…」
 少女の瞳に光が戻ったのを見て取ると、男達の一人が少女に話しかけた。
「大分お楽しみだったな、ヴィシュナス」
 清楚な顔立ちの白磁の美少女は、はっと表情を硬張らせ、顔を背けた。肩が細かく震えている。快楽に負けた屈辱と、いや増す羞恥のためだろう。固く瞑った目尻から光るものがにじみ出る。
「ひン!」
 突然背筋を突っ走った快感に、ヴィシュナスは目を見開いた。不意打ちに後ろの穴を貫かれたのである。
 材質不明の張形だった。
 肛門括約筋がそれを食い締めようとするのを阻むために、ヴィシュナスは意志力の全てを奮い起こさねばならなかった。彼女の肉体が、それをすれば、痛みも苦しみもなしでより一層の快楽が味わえる、ということを知り尽くしていたからこそ、それには尋常でない自制心を必要とした。
「もうあまり日がないんでな。これ以上お前に時間を取られるわけにはいかない。人間として答える最後のチャンスだ。奴隷として俺達に忠誠を誓え」
 そう言いつつ、男はもう一本の張形を前に挿入した。
「くはぁあ」
 堪え切れず、ヴィシュナスの口から喘ぎが漏れる。
 しかし、神経を快楽に侵されながらも、少女が最後の矜持を失うことはなかった。人間として答える最後のチャンス、というのがどんな意味かはわからなかったが、ヴィシュナスは拒否の姿勢を崩さなかった。
 沈黙で応えたヴィシュナスに、男が底冷えのする声をかけた。
「いいだろう。それではこれからは、お前を言葉の通じない家畜として扱うことにする」
「!」
 ヴィシュナスが絶句している間に、彼は他の男達に合図した。
「早速調教を始めるぞ。吊れ」

                3

 くぐもった悲鳴が反響していた。悲鳴に前後して、革と皮とが鋭く打ち合わされる音が鳴る。壁に映る影が激しく揺れるのは、松明の炎が揺らめいているためだけではない。
 部屋の中央に吊られた裸体に、続け様に鞭が当てられていた。鉄の枷で手首を吊り上げられた少女の前後に立った男達が、交互に鞭をふるっている。息つく暇もなく鞭打たれる娘は激しくもがき、床に届かない足が宙を掻く。
 それはスカリーがサーラに加えた鞭打ちと同じ懲罰の打ち方だった。スカリーの鞭使いも手慣れたものだったが、男達――アルシャルクとタムローン――の鞭の動きはそれよりも更に巧みだった。職業戦士だけあって、武器の扱いに対する勘がスカリーよりも優れているのだろう。
 鞭打たれる度、美少女の口から苦しげな呻き声が洩れる。だが、いくらもがいても襲いかかる鞭の狙いを外すことはできなかった。鞭はたゆみなく、規則的に獲物の細くしなやかな肢体に絡みつき、離れていく。決まり切ったその動作は舞踏にも似ていた。
 天井から鎖で吊られて鞭打たれているヴィシュナスは、打たれる度に苦痛に反応するため、既に疲れ切っていた。意識は朦朧とし、もはや何回打たれたのかもわからなくなっていた。口には最初に箝口具を噛まされ、意味ある言葉を発することを禁じられてしまっている。ねじ込まれた張り型はそのままで、抜けないように鎖で股縄をかけられていた。ヴィシュナスが疲れているのは、身をよじる度に否応なく体の内側をこすられ、味わわされる快感に耐えているためでもあった。

 どのくらいの時間が過ぎ去ったものか。ついに鞭の雨がやんだとき、ヴィシュナスは荒い息をつくだけで、ぴくりとも動かなかった。
 汗に濡れ、鞭を当てられて赤くなった皮膚に、男達が手を這わし始めた。触れられてヴィシュナスはびくりと身を震わせる。神経を剥き出しにされた肌はひりつく痛みを訴える。しかしこの場合、痛みよりも快感のほうが優った。
「ン……ッ!」
 予期せぬ快感に、ヴィシュナスは狼狽の声を上げる。ただ単に撫で回されているだけで、彼女の身内に驚くほどの性感がこみ上げてきた。強烈ではないが、静かで逆らい難い心地好さに、鞭打たれて消耗し切ったヴィシュナスは抗い切れずに流されていった。
 何度も打たれて腫れ上がり、鋭敏になった皮膚を撫でさすられるために、過敏に反応せざるを得ないヴィシュナスは、急速に欲情させられていった。少女の性感が燃え上がっていくにつれ、男達の玩弄もより激しくなっていく。柔らかな胸を、雫の伝う内腿を、力強い指が揉みほぐし、揉みしだく。堅くなってきた乳首を巧みに転がされ、ヴィシュナスは我知らず首を反らして呻く。無防備に晒された喉を男の舌が這う。
 男達はヴィシュナスの肉体の反応だけを意識して、冷静に彼女の性欲をかき立てていった。機械的に女の性感を引き出すようなそのやり方は、それまでの凌辱以上に、ヴィシュナスに、単に肉の器として扱われていることを思い知らせた。そう意識すると同時に快感が倍増したような気がして、ヴィシュナスは自分の心の動きに当惑せざるを得なかった。
 ヴィシュナスの性感が充分に高まったと見るや、アルシャルクは口の中で何かぶつぶつと呟いた。と、ヴィシュナスの体内に収まっていた二本の張り型が、突然激しくうねり始める。
「っ! …ふぐゥうぅ―――――ッ!」
 思いがけない刺激に、ヴィシュナスはたやすく絶頂に達した。
 微妙な性感と強烈な快感の交錯が、強固な彼女の意志力を急速に蝕んでいく。これまでのように、絶頂の一瞬だけ我を忘れるというのではなく、美少女の精神は性の悦楽にとろけ、性欲の虜になろうとしているのである。それを阻む術を、少女はもはや持たない。
 汗と唾液と愛液にまみれつつ、ヴィシュナスは何度も何度も昇りつめた。拒絶も哀訴も、箝口具が無意味な呻きに変えてしまう。だから彼女は言葉を発するのもやめた。今彼女の口から漏れるのは、純粋な悦びの喘ぎだけだった。喋ることを放棄すると、思考を保つことも難しくなり、ヴィシュナスはその高い知能を働かせることもやめてしまった。
 全てを捨てて快楽を貪っていた美少女は、次の瞬間、凄まじい苦痛に身悶えた。張り型がうねりを止めると同時に、強い電撃を発したのである。
「ぐぶっ……ふっ…ふぅっ……」
 最初それは強い衝撃としか感じられなかったが、その衝撃は体中に染み透った一瞬後、凄まじい激痛に変じた。ヴィシュナスは呼吸を阻害され、満足に苦鳴を発することもできなかった。
 数十秒の間、ヴィシュナスは苦痛に悶え続けた。もちろんそれまでの快感などもはや跡形もない。が、悦楽がもたらした体液に濡れそぼった体は電撃をよく通し、衝撃を体の隅々まで行き渡らせた。苦悶のあまり失禁してしまった自分に、彼女は気付いていなかった。
 時々痙攣が走る弛緩し切った肢体に、男達は再び手と舌を這わせ始めた。
「うう……うぅう…っ!」
 強烈な刺激に無理やり理性を呼び覚まされたヴィシュナスは、まだ半ば虚ろな瞳で男達に哀訴した。もう、彼女の体力も精神力も限界に達していた。これ以上されたら、肉体か精神のどちらかが崩壊してしまうのではないか。そんな恐怖が芽生えるほどの責め苦だった。
 しかし彼女の哀願は完全に無視された。ヴィシュナスの肉体は、自分でも意外なほど急速に、またも意思とは無関係に欲情させられていった。

                4

「う、ふっ……う、フゥうっ…」
 何時間も前から、ヴィシュナスは思考をしていなかった。ただ苦痛と快楽に反応するだけの時間がのろのろと過ぎていく。疲労困憊して反応もできなくなると、箝口具の隙間からガンダウルフの調合した強精剤を流し込まれ、無理やり体力を回復させられて再び責めを続けられた。
 加えられる愛撫と拷問は交錯し合い、やがてその意味をぼやけさせていった。ヴィシュナスの感覚には、そのどちらもが、強烈な刺激としか捉えることができなくなっていた。境界が曖昧になれば、どちらもが快感になるしかない。絶え間ない苦痛を容認するには、人は弱過ぎるからである。かつて名高い白魔道士であった娘は、何をされてもよがり続ける単なる肉の塊に成り果てていた。
「そろそろいいんじゃないか」
「ああ。頃合だな」
 休まず少女の肉体を痛ぶり続けていた男達は、ようやく手を止めて言い交した。
「それじゃ、早速本格的な調教に入ろう」
 逸るアルシャルクを、タムローンが手を挙げて制した。
「待てよ。少しは休ませて体感を取り戻させた方がいいんじゃないのか。それに、いい加減場所も変えようぜ」
「…そうだな。――だが、せっかくぐちゃぐちゃにした意識を取り戻されちゃあ、ここまでした意味がなくなるぞ」
「じゃ、誰か手の空いてる奴に軽く今までのを続けさせるか。俺達はその間に次の準備をしてりゃいいだろ」
「ああ、それがいい。…それにしても、随分分かってきたな、タムローン。ちょっと前は、女と言えば痛ぶるしか知らなかった奴が…」
 アルシャルクの言葉に、蓬髪の戦士は頭を掻いて苦笑して見せる。
「そいつを言うなって。あの女も、先生の魔法のおかげで、今は随分こなれてきたんだ。もういいじゃねえか」
「責めてるんじゃない。褒めてるのさ。…さて、じゃ、代わりの奴を呼んで来て、準備を始めるとしよう」
 数十分後、ヴィシュナスは今までよりもかなり広い部屋に引き出されていた。そこは拷問室のようだった。様々な責め具、吊り具、架台、拘束具等が、所狭しと並んでいる。鎖で繋いだ四つん這いのヴィシュナスを鞭で追い立てて来たエルサイスが、室内を見て口笛を吹いた。
「すごい設備だな」
 感心しているエルサイスに、アルシャルクが邪まな笑みを向ける。
「この部屋に来るのは初めてか。スカリー陛下がメディア殿下のために誂えさせた部屋を模して作ったのさ。そこには及ばないが、まあ、これでも俺達の目的には十分以上だ」
 悠然と解説するアルシャルクに、今度はタムローンが焦れた声をかけた。
「こっちはいつでもいいぜ。とっとと始めよう。正気付かれちゃまずいんだろ」
「…そうだった。取りかかるとするか。エルサイス、ヴィシュナスを連れて来てくれ」
 それから彼等は、長い時間を要するヴィシュナスの調教を始めた。
 今、ヴィシュナスは思考をしていない。性感を貪るだけの性の器である。思考をしていないということは判断もしていないわけで、今のヴィシュナスは自分からは何もできない。そこで彼等は、ヴィシュナスの性欲を満たしてやることと引き換えに、ヴィシュナスの体がある一定の刺激に対して自動的に反応するよう訓練しようとしているのである。
 彼等は急がなかった。ある条件下で特定の行動をすれば愛撫してもらえることを、何度も繰り返し、たっぷり時間をかけてヴィシュナスの体に教え込んでいった。口に入れられれば舐める。巧妙に舐めるほどご褒美も多い。握らされればしごく。乳房の間に置かれれば、挟んで揉みしごく。膣にでも肛門にでも、入れられれば強く、律動的に締め付ける。これらのことが反射動作になるまで、男達は徹底的にヴィシュナスを調教した。
 ヴィシュナスは無意識下に、奴隷としての行動マニュアルを刷り込まれていったのだった。
 作業は一日では終わらなかった。ヴィシュナスは日が変わる度に、苦痛と快感で正体をなくされ、意識はないが体は目覚めている状態で、正に家畜にするような調教を施されていった。

                5

 ヴィシュナスは泥のような眠りから目覚めた。
「ン……」
 呻く。箝口具のために、人間の言葉を発することはできない。
 「家畜として扱う」と言われた日から、ヴィシュナスはまともな格好で眠ったことがなかった。がんじがらめに拘束され、ひざまずいた形で俯せにされ、地面にごく近いところで首輪の鎖を杭に止められる。寝所は、どうやら使われていない廐舎の一角のようだ。寝藁が敷き詰められ、土の床にヴィシュナスが直接触れないようにしている。更に屈辱的なことには、ヴィシュナスの排泄についてはほとんど何の配慮も払われておらず、毎朝奴隷少女がやって来て、ヴィシュナスの排泄物を手桶に掬い取って運んでいくだけだった。
 奴隷少女が朝の儀式を終え、ヴィシュナスに口移しで食事をさせて去って行った。一人取り残されたヴィシュナスは、今日のこれからを考えて、絶望的な気分になった。
(また、ひたすらに拷問される一日が始まる…)
 最近ではすっかり被虐の快楽を開発されたヴィシュナスは、そう考えるだけで股間がぬるむのを感じ、羞恥に頬を赤らめた。ヴィシュナスは拷問で意識が混濁した後のことは覚えていない。真の調教の成果は意識の裏側に隠され、本人さえ気付いていなかった。ヴィシュナスは「家畜として扱う」という意味をただ単に、あれ以来廐舎に住まわされ、毎日気を失うまで苛められ続けていることだけだと思っていた。
 今日はまた昨日までと同じことが繰り返されると思っていたヴィシュナスだが、この日はしかし、様子が違った。男達は廐舎からヴィシュナスを連れ出すと、いつもの天井から鎖が吊られている部屋に連れていったが、直ちに問答無用の責めにはかからなかった。
「今日一日で、本当に仕上がるのかい?」
 不安そうに言ったのは、さらさらの金髪をした、線の細いエルフの青年だった。エルサイスである。
「仕上がるんじゃない。仕上げるんだ」
 断ち切るようにタムローンが返す。
「仕上がるかどうかはわからないが、俺達に残された時間はもう今日だけしかない。やるしかないさ」
 アルシャルクはエルサイスの肩を叩き、なだめるような口調で言った。
「――もっとも、調教中にある程度のメドが立たなければ、今回はヴィシュナスは諦めて他の女達の最終調整に入る。今日は忙しいぞ。覚悟しておけ」
 彼等は一斉に頷き、それ以上は無駄口を叩かずに、拘束されたヴィシュナスの体にかがみ込んでいった。
「ンふゥ……っ!」
 ヴィシュナスは思わずのけ反って、屈伏の吐息を漏らした。何故なら、彼女の体に加えられたのは、拷問の前段階としてではない、混じり気なしの愛撫だったからである。「家畜」にされる直前に与えられて以来の、純粋な性感がヴィシュナスの神経を柔らかく包み込んだ。
 しかしヴィシュナスの強靱無比の精神力が、それを素直に楽しむことを許さなかった。既に快感に抵抗し、心から奴隷になってしまうことに抵抗するのが、ほとんど反射的な精神作用になっていたのである。
 ヴィシュナスは以前この快感を与えられた時と同じく、可能な限り一筋の随意筋も動かすまいと努め、男達に快感を与えないようにしようとした。
 できなかった。
 そうすまいと思っていたはずなのに、エルサイスのものを咥えさせられると、意思とは無関係に舌がそよいで肉棒に奉仕を始めていた。下から突き上げるアルシャルクのものには勝手に襞が絡みついていき、後ろから突き込んでいるタムローンに対しては、括約筋が律動的に快感をもたらす肉の竿を締め付けていってしまう。そしてそれらの行為に伴って、めくるめく快感がヴィシュナスの全身を駆け巡った。
「……!」
 一瞬すらも抵抗することはできなかった。そんな馬鹿な、と考える余裕もなく、ヴィシュナスは圧倒的な爛れた快楽の中に堕ちていった。

                6

 ヴィシュナスに施された調教は、男達の期待以上の効果を発揮した。
 ヴィシュナスの意識と肉体は分断され、犯し始めさえすれば、本人の意志とは関わりなく奴隷として男に奉仕するようになったのである。
 彼等はヴィシュナスの性戯を堪能し尽くし、それぞれねじ込んだ場所に征服の証を注ぎ込んだ。男達は力を失ったものをヴィシュナスの体内から引き抜くと、満足そうに頷き交わす。だが、これはまだ、肉体の調教が上手くいったかどうかを確かめるという第一段階をクリアしただけのことだった。これからが本番である。今日一日で、彼女の精神をも完全に屈伏させねばならないのだった。
 打ち込まれた精液の熱い感触に打ち震えるヴィシュナスに、アルシャルクが醒めた声を浴びせた。
「立て」
 凌辱の余韻に酔い痴れる少女は、のろのろと従う。動作が遅いのは上半身の自由を奪われたままであるためだけではなく、意識がまだ半ば性感に囚われているためでもあるだろう。
「ゆっくり一回転しろ」
 ヴィシュナスはこれにも従順に従う。踵を軸にゆるりと回る様は、生来のものであろう優雅さを保っていた。
 数分後、ヴィシュナスは首輪を除いたあらゆる拘束を解かれていた。
「四つん這いになれ」
 この命令にも従いかけて、ヴィシュナスの瞳に光が戻った。かがみかけた姿勢のまま、正面に立つアルシャルクから顔を背けて拒否の色を見せる。
「あっ…!」
 その体がびくりと震えた。背後に立つエルサイスが、彼女の股間を撫で上げたのである。それだけで膝の力が抜け、数瞬後ヴィシュナスは、アルシャルクに命じられた姿勢を取っている自分に気付いた。
「舐めろ」
 命じてヴィシュナスの顔に男根を押しつけるアルシャルク。ヴィシュナスは涙を浮かべ、必死で顔を背けた。アルシャルクはかまわず口許に押しつけていく。
 いつの間にか唇が大きく開いていた。反逆した口腔に、ヴィシュナスを汚し抜く意思を込めた肉の凶器が我が物顔で入り込んでいく。無礼な闖入者に対し、ヴィシュナスの口唇は、本人がするつもりの全くない歓迎の饗応を施した。唇が茎を締め付け、歯列はそっと挟んで皮をしごき、舌は筋を舐め上げ、先端に絡み付き、鈴口をつつく。
 彼女の人格も矜持も完璧に無視し去った自分の肉体の裏切りに、純粋過ぎる少女の精神は悲鳴を上げた。目尻から涙が零れ、表情は心の苦悶に歪んでいたが、口唇部だけは全く独立した生物のように男の快楽に仕えていた。
 亀頭は喉の奥にまで達していたが、ヴィシュナスは吐き気を覚えなかった。知らぬ間に、受け入れられるような体に訓練されていたからである。
 やがてヴィシュナスの口を犯しているものはびくびくと震えて精を放った。射精中も休まず淫戯を施しつつ、ヴィシュナスは喉の奥にぶちまけられた白く濁った粘液を一滴余さず飲み下した。
 最後の一滴までヴィシュナスの口の中に放ってしまうと、アルシャルクはゆっくり腰を引いた。ヴィシュナスの口中からアルシャルクの肉柱に透明な糸がかかる。ヴィシュナスはその糸を追って、再びアルシャルクのしなだれた陰茎に舌を這わす。ほとんど本能と化すまで深く刷り込まれた行動パターンに従い、自分を凌辱した主人のものに付着した汚れを舐め取っているのだった。
 尿道に残った精まで吸い出し、アルシャルクのものを完全に清めてしまうと、ヴィシュナスはようやく体のコントロールを取り戻した。
「よし、よくできたな。褒美をやろう」
「あ…?」
 まだ自分のしたことが信じられず、ヴィシュナスはアルシャルクの言葉も耳に入らずに茫然としていた。アルシャルクが指を鳴らすと、あらかじめ用意していたタムローンが頷き、四つん這いのヴィシュナスの背後に屈み込む。
「……! ひぁあァっ!」
 二本の張型が彼女の性器と肛門にねじ込まれていた。今しがたの性交で弛んでいた部分を不意打ちに抉られ、ヴィシュナスは快美の声を発する。
 それらは彼女がこれまで受け入れてきたもののどれより大きく、形状もいびつだった。あちこちにごつごつとした瘤があり、基本部分もまっすぐな円筒形とは言い難い。そしてその張型は、タムローンが入口に当てただけで、自ら身をくねらせてヴィシュナスの体内に潜り込んできたのである。ヴィシュナスは気付く余裕もなかったが、その張型は内部の奥行に合わせ、その太さを変えずに伸縮していた。ヴィシュナスは小陰唇から子宮口まで、肛門括約筋から直腸の中一杯にまで張型に埋め尽くされ、痺れたように震えていた。痛みはなく、充足感だけが彼女を捕えていた。打ち込まれた精液が、行き場をなくして張型と括約筋の隙間から押し出されてくる。
「あ」
 ヴィシュナスはぴくりと跳ねた。タムローンが彼女の股間に貞操帯を巻き付けたのである。材質は強く滑らかな黒革で、刃物でも用いなければ傷も付けられそうになく、結合部はずいぶんと精巧な錠で留められていて、鍵がなければ魔法を使う以外に外せそうにはなかった。精神集中も満足にできない今のヴィシュナスにはどうすることもできない。貞操帯はヴィシュナスの皮膚にぴっちりと張り付き、限界にまで詰まった張型を更に深く押し込んだ。
「あ、く…」
「さて、それじゃ褒美をやろう」
「えっ…」
 今入れられた張型がアルシャルクの言う「褒美」だとばかり思っていたヴィシュナスは息を呑んだ。
 アルシャルクは口の中で何か短い言葉を唱えた。
「……………!!!」
 突然、言語を絶する刺激がヴィシュナスを襲った。
 腹中にぎっちり詰まった質量が、大きくゆっくりとうねり始めたのである。と同時に、表面に散らばる幾つもの瘤が各々勝手に動いて襞を掻き回し始める。納める鞘に余裕がない以上、これを受け入れるにはヴィシュナスの側が動きに合わせて変形するしかない。蠢く張型の動きが、傍らで見ている男達にも、ヴィシュナスの腹の肉越しにはっきりと見て取れた。
 腹の中全てを犯し尽くされる異常な感覚に、ヴィシュナスは悶絶した。言いようもなく苦しく、そして、たとえようもないほど気持ちよかった。

 ヴィシュナスは声にならない悲鳴を上げた。被虐の快楽を教え込まれた体には、苦悶さえもが悦楽に変わる。暴力的な動きを見せる張型は、ヴィシュナスに呼吸も止まるほどの快感をもたらした。
「ひ、ア、ひ…っ。は、ふっ、ひゃあぅっ……っ!」
 まともに呼吸することも許されず、ヴィシュナスは断末魔のような痙攣を見せた。震える手で下腹と腰の後ろを押さえる。無意識裡に、腹腔総てを蹂躙する魔性の器具の動きを抑えようとしてのこの動作は、かえって器具の横への動きを助長し、より一層の、地獄の苦痛と魔淫の法悦を彼女の白くしなやかな肢体に加えることになった。哀れな美少女の魂に、決して切れない淫獄の鎖が、十重二十重に巻きついていく――周囲を取り巻く男達は、淫靡な表情で悶え狂うヴィシュナスの姿に、そのような光景を幻視した。
 アルシャルクはまた別の言葉を唱えた。激烈なまでにヴィシュナスを責め苛んでいた、兇悪な形状の疑似男根の動きが静止する。
 ヴィシュナスは震えながら荒い息を吐き、ぐったりと横たわった。涙と唾液が絶えずあふれてくるが、それを拭う気力すら今の彼女にはなかった。数分間で骨の髄まで味わった、強烈無比な凌辱の余韻に耐えるのが精一杯のところだった。
「…どうだ、気に入ったか? この褒美は」
 アルシャルクが震える裸体を見下ろして問いかける。ヴィシュナスは答えない。答えられない。
「返事はどうした。気に入ったと言うなら、もう一度やってやってもいいんだぞ」
 半ば放心状態だったヴィシュナスは、瞬間、目眩を覚えた。その言葉がたまらなく魅力的に感じられたのである。
 少女の全身が、たった今与えられた、表現を絶するような責めを欲して疼いていた。精神の大部分も、悦楽に酔い、犯してもらいたがって哀願の甘え声を上げている。ただ、かつて白魔道士であった心の一小部分だけが、微かな迷いの囁きを洩らしていた。
「気に入ったのか、入らないのか。気持ちよかったんだろう?」
 重ねてアルシャルクが問うと、ヴィシュナスは伏目がちに頷いた。気持ちよかったのは事実であったし、事実を認めることはうっすらと残った矜持にも抵触しない。
「もう一度して欲しいか?」
 数瞬迷って、頬を染めつつこれにも頷く。
「頭のいいお前のことだ。前にした奴隷の誓いは覚えているだろう。今後はあの誓いを守って、二度と破らないと約束できるか? できるならもう一度やってやるが。どうだ」
 言われて、『催淫』の呪文に冒されていた時のことが鮮烈に思い出された。同時に、何故今与えられた快楽に逆らい難いのかも理解できた。呪文の影響下にあった時に味わわされたものとよく似ていたのである。ヴィシュナスの耳に自分の声の幻聴が響く。
『私、ヴィシュナスは、本日只今より、人間としての権利の一切を放棄し、未来永劫、奴隷として生きることを、誓います。この瞬間から私は、奴隷としての義務の一切を負い、誠心誠意、御主人様に尽くさせていただきますが、いたらないことがあれば、どのような罰でも加えていただいて構いません。どうぞ、末永く…ヴィシュナスを可愛がってくださいませ……』
 ヴィシュナスの心を激しい葛藤が襲った。今の彼女は限り無く奴隷に近い存在だった。アルシャルクの要求にもすぐさま頷きかけたが、何かがそれを止めた。白魔道士の心に残った最後の矜持。被害者の意思を無視した、男達の自分勝手な行動に対する怒り。自分の身に振りかかった理不尽に屈伏してはならないと命ずる、心の奥の声。それは、白魔道士として最初に持っている資質、すなわち、正義を愛する心だった。
 しかし、調教され尽くした少女の性への渇望は、時にそれをも圧倒するほど膨れ上がっていた。
 肉の欲求と魂の欲求の間で苛まれるヴィシュナスは、嫌々をするように小さく首を振った。
 アルシャルクは目を細め、床にへたり込んでいる哀奴を冷たく見下ろした。
「…ほう、約束できないか。約束すればこうしてやる、と言っているんだぞ」
 そう言ってもう一度コマンドワードを唱える。
 再び二本の張型が大きくうねり始めた。と同時に、今度は瘤の先端から無数の繊毛が伸びて、前後の襞の隅々まで舐め回し、しゃぶり抜いた。
「あああっっ! きひっ! かぁっ! くあっ…かは、…ぐはっ、きっ! ぎひいいぃぃィィィィっっ!!!」
 快楽のあまり、気が狂う。精神が破壊されて痴呆のようになり、犯されれば嬉しそうに腰を振り立てるだけの家畜人形になってしまう。本気でそんな恐怖を覚えるほどの刺激がヴィシュナスに攻め寄せた。
 アルシャルクは張り型の動きを止め、同じ質問をした。ヴィシュナスはほとんど負けそうになりつつも、泣きそうな顔で首を横に振った。
 それから何度か同じ手続きが繰り返された。その度に、ヴィシュナスの理性は1ミリずつ性欲に領土を明け渡していった。危ういところで均衡を保つヴィシュナスの心の天秤の、屈伏の側の皿に、一枚ずつ、快感の銀箔がそっと乗せられる。
 何度目かに辛うじて横に首を振った後、ヴィシュナスはとうとう限界が訪れたことを知った。
 もう一度だけ動かされれば、もう我慢することはできない。ひとたまりもなく屈してしまうだろう。だが…これ程の快楽に耐えてまで守るものが、果たしてあるだろうか。これまで持っていたすべてと引き換えても、惜しくはないのではないか。この快感には、それだけの価値があるのではないか。奴隷になれば――奴隷になってしまえば、もう耐える必要はない。奴隷の身であれば、罪悪感など抱かずとも、この魂も蕩かす愉悦を、心から貪ることが許される。奴隷になりさえすれば、素直に、肉体全てを犯される快感を味わうことができる。奴隷として、凌辱を受け入れれば、今まで感じることを拒否していた快感までが味わえるはずだ。それに逆らう意味が果たしてあるだろうか。性の奴隷として生きる以上に充実した人生を、これまでの私は送ってきたろうか。快感に身を委ねて生きるのも、素晴らしいことではないのだろうか。御主人様の命令に絶対服従するかわり、絶大な快感を味わって生きる――奴隷。それはそれで望ましい生き方なのではないか。私は……奴隷に、なりたい。これから私は、奴隷として生きるのだ――。御主人様が次に問いかけたとき、首を縦に振るだけでいい。もう、引き裂かれるような葛藤に苦しむ必要はないのだ。ああ、奴隷になれる…!
 ヴィシュナスの精神に、劇的な変化が訪れていた。これまで長きに渡り対抗してきた負荷に耐え切れなくなった瞬間、ヴィシュナスの心は完全に屈伏し、何もかも諦め、あらゆる抵抗を放棄して、どんな理不尽な命令にも恥じらいつつ従順に従う、理想的な性奴の状態にまで、驚くほど急速に変貌したのである。
 もちろん今のヴィシュナスの状態は耐え続けた反動による一時的なものであるが、この機を逃さず畳み込めば、このまま最高級の性奴として完全に調教し切ることが可能だろう。ヴィシュナスはあと一回張り型を動かされれば、それを機に、男達の性具として用いられるだけの存在にされる運命を受け入れ、人としての権利を持たず、服従の義務を負う奴隷として生きることを承服しようと、諦念にも似た決意を固めていた。
 しかし、アルシャルクの行動は、ヴィシュナスの倒錯した期待を裏切るものだった。
「どうやら、これ以上やっても無駄のようだな……。今回はこの女は見送りだ。他の女の仕上げにかかろう」
 アルシャルクは、純粋な奴隷の快感に備えて身を堅くしていたヴィシュナスに背を向け、男達を見て扉のほうへ顎をしゃくって見せた。男達は無念の表情を見せ、一斉に戸口へ向かう。
「おっと、その前に……」
 アルシャルクは酷薄な笑みを唇に貼り付け、戸惑う美少女の全身に舐めるように視線を這わせた。
「散々手を焼かせてくれたお返しをしておかなければならんな」
 アルシャルクは男達に合図をして、ヴィシュナスを部屋から連れ出させた。

                7

 地下らしい廊下を、奇妙な姿の娘が男に首輪を引かれていた。
 一糸まとわぬ姿であるが、首から上だけは装具に覆われている。黒革の首輪と、黒革のマスクである。頭部全体を覆うように作られており、何本ものベルトで、はずれないようがっちり固定されているらしい。あちこちに金具が取り付けられていて、壁や鎖に繋ぐのに便利な作りになっている。髪の毛はマスクの後端部から流れ落ちており、緩やかな三つ編みに結われ、娘が覚束無い足取りで歩を進める度に背中で揺れる。背中では黒革の手枷がほっそりした両手首を縛めている。
 マスクは複数の部分により構成されているようだった。目の部分、鼻の部分、口の部分、耳の部分、また顔全体に当たる部分がマスク本体から独立しているように見える。耳の開いた黒革のヘルメットに、フェイスマスクなどの部品を組み合わせたものらしい。
 今、マスクには全てのパーツが取り付けられている。鎖を引かれる娘は、何も見えず、聞こえず、外からの情報がほとんど得られない状態に置かれていた。
 あられもない格好の娘を引いて来た男は、廊下の端にある扉をくぐった。
「言われた通りにして連れてきたぜ、アルシャルク」
 男は、室内の男達の一人の背中に声をかける。
「タムローンか。ご苦労さん。これから少しばかり面白いショーを始めるが、見ていくか? 大して時間はかからないと思うが」
「いや、遠慮しておく。仕事があるんだ。これからカサンドラを仕上げるので、監督するのさ。時間がないって言ったのはお前だぜ」
「そうだったな。俺も、これが済んだらラクーナとナーダの方に回るつもりだ」
「手早く済ませろよ、全く。――こういうことは好きなんだからな…」
 口の中でぼやきつつ、タムローンは足早に立ち去った。
 アルシャルクは残された娘に近付き、両耳に被されていたカバーを取り去った。娘は音の世界を取り戻す。
「ヴィシュナス、これからお前に、いいものを見せてやろう」
 アルシャルクは娘の耳元に意地悪く囁いた。
 娘はヴィシュナスだった。マスクを被せられ、どことも知れない場所へ連れられて来たヴィシュナスの、使用を許された耳に、濡れた声が聞こえてくる。女の、媚びるような甘い喘ぎ声と、肌がぶつかり合う音、そして液体が絡み合う淫猥な響き。男が叱咤する声も聞こえる。おそらく、彼女とは別の奴隷娘が調教されているのだろう。
「喰い締めが足りなくなってきたぜ。もっと力を入れな」
「まだわからんのか。ただ締めりゃいいってもんじゃねえって言ったろ。うまく強弱を付けるんだよ」
「そう、それだ。同じリズムで腰も振れ。そんな単調にじゃねえ。上下左右回転、強さも変えるんだ。どうすれば最も御主人様に悦んでもらえるか、常に考えて動くようにしろ」
 男達の命令に応じる奴隷の言葉は、常に一つだった。
「はい、御主人様」
 男達の命令と、それに答える、幼さは残るが欲情し切った少女の声からして、今仕込まれているのが、極めて従順かつ淫乱な奴隷であることが察せられた。
 アルシャルクはヴィシュナスの手枷を、鉄の桟を通して繋ぎ直し、彼女の視界を覆っていたアイマスクを取り去った。現れたのは、ちょうど瞳の大きさ程度にくり抜かれた、二つの空洞である。中から外を見る分には何とかなるが、外から着用者を知る手掛かりはない。瞳の色を見て取ることすら不可能である。
「――――!?」
 小さな覗き穴越しに目に映った光景に、ヴィシュナスは凍りついた。
 こちらを向いて四つん這いになった少女に、背後から男がのしかかって犯している。可愛らしい顔立ちの少女は年の頃十四から十六。豊かに波打つ紫の髪と、ほぼ同色の深い紫の瞳が、顔立ちの幼さに似合わぬ神秘的な雰囲気を彼女に与えている。しかし、心持ち細められたその瞳は、今は何も見てはいない。凌辱者に奉仕する快楽に霞み、何もない空中に焦点を結んでいる。目の前のヴィシュナスの姿にも気付いてはいないだろう。
 自らを汚す男の命じる通りに、少女は腰を様々に振り立て、快感に酔い痴れていた。遠慮会釈ないよがり声には、最早いささかの恥じらいもない。
 やがて男は少女の尻肉に指を食い込ませて固定し、限界まで挿入して精を放った。胎内を汚液が満たしていく感触に、一瞬遅れて少女も絶頂を迎え、ひときわ高くよがり泣く。
 断続的に放たれる白濁液を全て少女に注ぎ込んでしまってから初めて、男は、少女を責め立てていた肉具を引き抜いた。少女は陶然とした表情で、荒く息を吐きつつ崩れ落ちる。が、すぐに身を起こし、膝をついて、立ち上がった男の股間に頬を寄せた。
「御主人様。ご満足、頂けましたでしょうか。どうか、この卑しい性交奴隷のルフィーアに、ルフィーアのいやらしい汁で汚れた御主人様のモノを、清めさせて下さいませ」
 男が首を縦に振るのを確認して、ヴィシュナスの妹ルフィーアは、汚れた肉茎に舌を這わせ、彼女自身の愛液を舐め取り始めた。
 瞬きも忘れて実の妹の恥態を凝視するヴィシュナスに、アルシャルクが囁きかけた。
「どうだ、ヴィシュナス。一人前になったルフィーアの淑女振りは? 素直で、筋がいい。物覚えも悪くない。これなら立派に奴隷としてやって行けるだろう。高い評価が付くこと間違いないぞ。
 誇らしいだろう? お前も妹を見習って、次に遭うときまでには非の打ち所のない性交奴隷になっておくんだな。……もっとも、お前に次にルフィーアと遭う機会があるとは思えないがな」
 嘲りのこもった耳打ちに、ヴィシュナスは痺れたようになっていた意識を呼び戻すことができた。
「ウ……、…ン……。フッ…ンン………」
 身をよじり、男の肉棒をしゃぶる妹に呼びかけようとする。が、ヴィシュナスの声は、マスクの下に噛まされた箝口具によって単なる音の羅列に貶められている上、分厚い黒革に遮られ、くぐもった、弱々しい呻き声にしかならない。
 声をほぼ封じられ、身は妹と鉄格子で隔てられたヴィシュナスは、ただ苦悶するより他に為す術がなかった。
 実の姉の悲痛な呼びかけを背に、主人の分身を陰嚢の裏まで清め終えたルフィーアは、ひざまづいたまま石の床に両手をつき、深々と頭を下げた。
「御主人様、ルフィーアを使っていただき、どうもありがとうございました。大好きな精液をおなかいっぱい頂けて、ルフィーアは幸せです」
 男は這いつくばる全裸の性奴の首輪に引き綱をつけ、四つん這いにさせてヴィシュナスの方に引いてきた。ルフィーアは牝犬のように、おとなしく四つ足で牽かれてくる。鉄格子越しに姉妹は対面した。妹はその事実を知らないし、姉は伝える術を奪われている。
 アルシャルクはヴィシュナスの手枷をはずし、鎖と枷が絡まり合った拘束具で再び自由を奪った。左右の足首をそれぞれ逆の膝に繋ぎ、座禅を組むような形にして、脚を閉じられなくする。両手を背中で交差させ、右の手首を左の膝に、左の手首を右の膝に留める。自然、ヴィシュナスの柔らかい身体は弓なりに引き絞られ、殊更に股間のふくらみを突き出すような姿勢を強いられた。
 薄暗い石造りの部屋に鎖を巻き上げる騒々しい音が反響した。姉妹を隔てていた鉄格子が上がっていく。ほどなく、背を反らして横たわるヴィシュナスの傍らに、四つん這いのルフィーアが這い寄っていた。
 強制された姿勢の苦しさに喘ぐヴィシュナスの耳に、無慈悲に命じる声が滑り込んだ。
「ルフィーア。この強情な牝犬に、自分が何であるか思い知らせてやれ。徹底的にな」
 一瞬何の事かわからなかったヴィシュナスは、頷いたルフィーアが張り詰めた乳房の表面をちろりと舐め回し始めてからその意味に気付いた。
「……ウ……ン…ッ………ムゥ…」
 ヴィシュナスは唯一自由に動かせる首を必死で振り、目線で妹に訴えようとするが、ルフィーアの目にさえ、それは進退窮まった虜囚の哀願としか映らない。ルフィーアは気にもとめず、整った胸のふくらみを刺激しつつ、恥丘にそっと掌を滑らせた。指先が微妙にヴィシュナスの淫唇を撫で下ろす。拘束された裸身がぴくりと反応するのを確認し、ルフィーアは、命じられた通り獲物の肉体から牝の反応を引き出し始めた。
 乳房を柔らかく揉み上げ、乳首を甘く噛み、舌先でくすぐるように、あるいはこそげ取るように舐め立てる。股間に押し当てられた片方の手は恥丘全体をごくゆっくりした調子で揉みほぐし、やがて触られている本人も気付かないほど密やかに、既に湧きだし始めた蜜壺に侵入していく。獲物の体から堅さが取れてくると、美しい曲線を描く二つのふくらみを征服し尽くした舌は、更なる侵略を企み、張り詰めた腹筋の表面を下へと移動する。
 ルフィーアのものとは到底信じ難い巧妙で容赦のない淫戯に、否応なくあからさまな媚態を呈しつつある自分に気付き、ヴィシュナスは絶叫を上げた。姉妹の絆を冒涜しようとする、人の心を持たない男達の邪悪な意図に対する拒絶と、最早それに逆らう力を持たない自分自身への煩悶の叫びだった。しかしそれすらも、箝口具とマスクが無意味な呻きに変えてしまう。
 魂も灼けるような罪悪感と背徳感に苛まれつつ、ヴィシュナスは為す術もなく、これまで感じた中で最も辛い絶頂に追い上げられていった。

                8

 ヴィシュナスの裸身を、二人の娘が弄んでいた。紫の波打つ髪の少女と、まっすぐな栗色の髪の少女。ヴィシュナスはその両者を見知っていた。妹であり、炎の術に大きな天稟を持つ魔術士でもある、ルフィーア。レオスリック王国の第一王女であり、大陸でも有数の戦士として知られる、ディアーネ姫。しかし今は二人共、幅広の黒革の首輪以外は一糸もまとわぬ奴隷に過ぎなかった。
 膝と肘とを留められ、海老反りの姿勢を強いられたヴィシュナスは、全身唾液と脂汗にまみれて、ただ震えていた。何回かもわからないほどイかされていたが、脂汗の原因はそれとは別にあった。ヴィシュナスの下腹は妊婦の如くに膨れ上がっている。男達に命じられたルフィーアとディアーネが、交互に十分の一リットルずつ、浣腸器でヴィシュナスの腸内に薬液を注入していったのである。3リットル近く注ぎ込まれた上、弾ける寸前のヴィシュナスの菊座に極太のアヌス栓がねじ込まれた。以来ヴィシュナスは排泄を許されないまま、飼い主に忠実な二匹の牝犬に全身を嬲られ続けているのである。
 天界の法悦と地獄の苦悶が、同時にヴィシュナスを襲っていた。二枚の舌と二十本の指が、恐ろしいほど的確にヴィシュナスの官能を掻き立て、次の瞬間、二人の片手が膨らんだ腹部にめり込み、思い切り握りしめる。満たされ切った性感と解放を禁じられた便意が共にヴィシュナスの精神を切り刻んだ。
 奴隷達は喜々として、身動きのままならぬ虜を責め抜いていく。奴隷として調教されてしまったことで生じた、普段は抑圧されている悲嘆を、ここぞとばかりに発散させているようである。
 よくよく見れば、ルフィーアとディアーネがお互いに気遣い合うような気配を示すのがわかる。二人はどうやら、互いに同情し合い、慰め合っている間柄のようだが、その気配りは無論、誰ともわからぬ拘束された淫売奴隷に対しては向けられない。むしろお互いだけを気遣う分、自分達より低い立場のものに対してはいっそう苛烈に、容赦なく責め立てていくようだった。
 しかし、今のヴィシュナスにそんなことを察するだけの余裕はない。ヴィシュナスが感じているのは別のことだった。
 ルフィーアとディアーネは巧妙にヴィシュナスの体を弄び、性感を掻き立てていく。その愛撫は男達よりはるかに繊細なものだったが、温かみに欠けていた。込められているのは愛情ではなく、他のものだった。ヴィシュナスは精神的に屈伏しなかった分、肉体的な調教は二人よりもはるかに進められていた。どんな愛撫にも敏感に反応し、どんな苦痛を与えられても苦しむよりもよがり狂う、そんな感覚をヴィシュナスは開発されてきた。否応のない生理的反応としてではあるが、ヴィシュナスが、腸内に大量の薬液を注ぎ込まれることにすら強烈な快楽を覚えていることを敏感に察し、二人は侮蔑を込めてヴィシュナスに激しい責めを加えているのだった。
 ヴィシュナスは二人が自分の浅ましい肉体を蔑んでいるのに気付いていた。そしてそのことが、いっそう被虐の悦楽を掻き立てていく。情けなさにヴィシュナスは涙を流した。
 親しくつき合っていた王女戦士と、死んだ母親に代わって、幼い頃から守り慈しみ育ててきた、たった一人の血を分けた妹。彼女達がヴィシュナスを、意思も人格もない単なる肉塊としてしか見ていないことが、一番彼女を傷付け、苦しめていた。
 だが、アルシャルクが『時間がない』と発言していた以上、拷問はそれほど長くは続かない。間もなく終わりのときがやってきた。
 アルシャルクの命令で、ルフィーアは、ヴィシュナスの菊門を封じているアヌス栓に手をかけた。何をしようとしているのか理解したヴィシュナスが、必死で首を振って止めようとする。ルフィーアは構わず、アヌス栓をゆっくりと引き出し始めた。
 しかし、三分の一くらいが引き出されたところで、ルフィーアの手は止まる。安堵の息をつくヴィシュナスの、手足を拘束する鎖を、二人は手早く解き始めた。ヴィシュナスは自由を取り戻すが、腸内に満たされた薬液と、初めての同性の愛撫に何度もイかされたせいで腰が立たず、抵抗することはできない。ディアーネは床に仰向けになって荒い息をつくヴィシュナスの足に手をかけた。そのまま引っ張り、ヴィシュナスの頭の両脇に膝を持ってくる。ヴィシュナスは、腰を天井に向かって突き上げた形でディアーネに固定された。
 その状態で、ルフィーアは再びアヌス栓を、今度は垂直に引き上げ始める。何が起こっているのかようやく理解したヴィシュナスは、くぐもった絶叫を放った。
 アヌス栓が引き抜かれた。と同時に、ルフィーアは、ヴィシュナスの膨れ上がった下腹部に両手を回して、思い切り抱きしめた。
「ングウゥゥゥゥゥゥッ……………!」
 絶望の呻きとともに、開ききったヴィシュナスの肛門から、薬液に溶けて液状になった汚物が、高く噴き上がった。
 強制排泄の恥辱は、襲いかかる解放の快感に飲み込まれる。ヴィシュナスはまたもや絶頂に放り込まれ、排泄物を噴水のように宙に高く噴き上げつつ、失禁してしまった。ヴィシュナス自身とディアーネの顔に尿が注がれるが、ディアーネはヴィシュナスを押さえつける手を緩めもしなかった。
 真上に噴き上がったものは真下に落ちてくる。金色の温かい水の軌跡をかき消して、初めての愉悦に陶酔するヴィシュナスの上に、驚くほど大量の汚液が襲いかかっていった。

                9

 何ものかがヴィシュナスの肌を舐め回していた。
 ヴィシュナスは再び音も光もない世界に押し込められ、別室へ移されて拘束されていた。
 薬液だけで三リットル。内容物を含めれば四リットル近いだろう汚物は、ある程度はルフィーア、ディアーネにも振りかかったものの、そのほとんどがヴィシュナス自身にぶちまけられた。性奴調教で艶かしさを加えた美しい裸身は、見るも無残に汚物にまみれた。
 ヴィシュナスは泣いた。
 普段は全く表に出ないが、女性である以上、ヴィシュナスにも虚栄心はあった。ヴィシュナス自身が自分を厳しく戒め、抑圧されているため、それは人一倍強いものだったかもしれない。男達は、奴隷としてとはいえ、これまでヴィシュナスの美しさを正当に評価してきた。矜持は傷付けられてきたが、虚栄心はむしろ助長されてきたのである。そこへ突然この仕打ちを受け、ヴィシュナスの虚栄心、自らの美を誇る感情は、完膚無きまでに破壊された。一番上等のドレスを引き裂かれた少女のように、ヴィシュナスは泣きじゃくった。
 アルシャルクはうるさそうに、きれいにしてやるから黙れ、と命じ、ヴィシュナスを今いる部屋へ連れてきたのだった。
 何枚もの舌がヴィシュナスにこびりついた汚物を舐め取っていく。手が触れてこないところを見ると、拘束された奴隷娘達ででもあろうか。汚れのない体にしてくれている、自分を舐めているもの達に、ヴィシュナスは感謝の念すら覚えていた。自分がこれほどまでに潔癖症だったということを、ヴィシュナスはこれまで意識したことがなかった。
 ヴィシュナスの全身を舐め終えると、舌は白さを取り戻した肌から離れていった。誰かの手が、ヴィシュナスのマスクの止め金をはずしていく。ヴィシュナスは数時間振りに頭部全体を覆う黒革のマスクを脱がしてもらえた。同時に箝口具の止め金もはずされたらしく、穴の開いた球体が口許から零れ落ちる。
 暗さに慣れた目が光に眩み、ヴィシュナスは視界を取り戻すのにしばしの時間を要した。徐々に、明るさに目が慣れてくる。
「ひィ……っ!」
 そして、目に映った周囲の光景に、ヴィシュナスは悲痛な悲鳴を洩らした。
「い…やっ。イやぁ…っ。イヤ、イヤ! 嫌ぁあああ――――ッ!」
 子供のように泣き叫び、首を振るヴィシュナス。彼女の目に映ったのは、ありふれた、しかしおぞましい光景だった。
 そこは、豚小屋だったのである。
 ヴィシュナスの肌に擦りつけられていたのは豚の舌だった。豚達はヴィシュナスを清めたのではなく、ヴィシュナスを覆っていた汚物を貪っていただけだったのだ。ヴィシュナスは、全身に豚のよだれをなすりつけられて有難がっていたのだった。
 豚の唾液にまみれたヴィシュナスは、自らの排泄物を浴びた時にも劣らない嘆き様を見せた。

               10

 十分後。
「それじゃ、俺も忙しいんで、これで失礼するぜ。ディアーネとお前の妹は大体仕上がったが、まだラクーナとナーダと、あとロクサーヌやチチーナなんかも最終調整しないといけないんでな。家畜同士、仲良くやるんだぜ」
 アルシャルクはそれだけ言って、去っていった。ヴィシュナスは一人、豚小屋に取り残された。
 ヴィシュナスは、長細い木箱の中に仰向けに固定されていた。浅いバスタブに浸かるときのように、箱の短い方の縁に首を乗せている。その縁は中央部で大きく、少し離れた両脇で小さくえぐられていて、ヴィシュナスの首と両手首がはめ込まれ、分厚い鉄の枷でがっちり留められていた。両足も同様に、ただし大きく広げて束縛されている。

 箱の中にすっぽり収められた形のヴィシュナスの体の上には、生臭いどろどろしたものがぶちまけられていた。豚達は箱に群がり、ヴィシュナスの裸身に舌を這わせる。
 豚の餌だった。
 ヴィシュナスは、豚の餌箱の中に固定されていた。と言うより、彼女自身が豚の餌の器にされてしまったのである。
 乳房を、腹筋の上を、恥丘や秘部まで、何匹もの豚に無遠慮に舐め回され、ヴィシュナスは嫌悪に泣き叫び続けた。悲鳴はいつまでも止まなかった。


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