3
塔は比較的簡単に見つかった。
静かな湖畔にある白い塔。
まだ作られてそう時が経っていないようだ。
「へえ、けっこう洒落た塔じゃない。ゼロスのことだから、てっきり築三千年とかだと思ったけど」
「それ、どういう意味ですか、リナさん」
ゼロスが草むらから現れる。
ビシッ!
すかさず、リナのスリッパがゼロスの後頭部にヒットした!
「い、いきなりなんですか、はたかないでくださいよ!」
文句をいうゼロスに、顔面でプレッシャーをかけるリナ。
「なんで、あんたが、ここにいるのかな? ボスキャラはボスキャラらしく、塔の最上階で椅子にでも座ってなさい!!」
そういうと、リナは人差し指でゼロスを指さす。
「いえ、今回はただ単なる見届け人でして。リナさん達と直接、どうこうするということはありませんので」
のほほんと笑うゼロス。
「……ガウリイ!」
「な、なんだリナ」
「剣貸して」
そういってガウリイに手を伸ばすリナ。
ガウリイは思わずため息をついた。
「まあ、なんだ、リナ。ゼロス相手に剣一本でどうなるものでもなし、まあ、野良犬がまとわりついていると思えば……」
「野良犬でも、陰険な奴は嫌いなの! あっ、近づくな、陰険野良犬魔族!!」
「…………」
ゼロスは寂しそうに草むらに近づくと、何やらぶつぶつとつぶやき始めた。
「うーっ、わかったわよ、そんな格好しないで! うっとおしい!! 連れて行けばいいんでしょ。わかったわよ!」
リナは思わず切れてしまった。
「いいんです。野良犬は野良犬らしく、後からこそこそついていきますから。ささ、どうぞリナさん、塔の中へ。魔力が封じられた状態でどこまでやれるか見守ってますから」
ゼロスが白々しくいう。
「……なんか知ってるわけ?」
リナは引きつった顔でゼロスを睨む。
「ええ、でも、それは秘密です」
「くっ!?」
リナは心底悔しそうな顔をする。
「リナ、面倒だから、このまま帰ろうか」
「……そうね」
「ちょっ、ちょっと待って下さいよ! せっかくここまでお膳立てしたのに、僕の立場はどうなるんです?」
「そんなものはない!」
リナの言葉に、またいじけるゼロス。
「ええ、ええ、どうせボクは陰険魔族ですよ。しがない中間管理職ですよ。でも、中間管理職でもガウリイさんぐらいは……」
「な……んですって?」
リナの顔が引きつる。
「おや? どうしたんですリナさん。あなたらしくもない」
ゼロスは悪魔の笑みを浮かべる。
「そんなに動揺するなんて」
「……別に動揺なんてしていないわ。それより、ガウリイをどうするつもりなの!」
「別にわたしがどうこうするわけでは……」
「あなた以外のものが、どうこうするってことね」
リナは落ち着いた口調で言う。
「それは秘密です」
ゼロスの言葉にかっとなるリナ。
「ゼロス!」
「リナさん。おとなしく塔の中にはいってくれませんか?」
ゼロスの言葉に肩の力を抜くリナ。
「そうするしか、ないみたいね」
リナはため息をつくと、ガウリイに振り向いた。
「ガウリイ、行くわよ」
「ああ」
三人は塔の中に足を踏み入れた。
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