先頭を歩くのはリナ。続いてガウリイ、それからかなり離れてゼロスが続く。
「……何にも起きないわね……」
 リナが意外そうに呟く。
「ゼロスのことだから、もっと凝った罠を張っていると思ったんだけど」
 後ろを振り向かず、呟くリナ。
「リナ!」
「わかってる、ガウリイ。油断するなって言いたいんでしょう? でも、なんかゼロスらしくないわ」
立ち止まり、考え込むリナ。
「どうしたんですか、リナさん?」
 近づいてきたゼロスがリナに尋ねる。
「ずいぶん、らしくないじゃない、ゼロス」
 リナの問いかけに、肩をすくめるゼロス。
「まあ、たまにはこんな単純な罠もいいでしょう。それになにより、今回は手の込んだ仕掛けは必要ありませんでしたし」
「どういう意味よ? ……って、それは秘密ですってか」
 リナはため息をつく。
「別に秘密ではありませんよ。この塔の最上階でリナさんは完璧に敗れ去り、虜にされた上で、服従を誓うようになるんですから」
「……なんですって?」
 かすれた声で問いかけるリナ。
「ゼロス、あなたわたしのことを甘く見ていない? 魔族の軍門に下るような、わたしじゃあないわよ!」
「魔族の軍門に……ですか?」
 ゼロスはガウリイに流し目を送る。
「それに、なんか勘違いしていない、ゼロス? わたしには、ガウリイがいるわ!」
 リナは胸を張って言い放つ。
 そんなリナをにこやかな顔で眺めるゼロス。
 染み出るゼロスの歓喜の感情に、リナの背筋が凍った。
「……なんなのよ、その期待に満ちた笑いは……」
 リナのおびえを感じ取り、ますます喜ぶゼロス。
「いえいえ、なんでもありませんよ。それよりも先に進んでください」
「…………」
 リナは再び廊下を歩き出した。


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