ロウソクが灯される。
 その輝きに照らされて、机の上の料理が輝きだした。
 ガウリイは正装をして、椅子に座っていた。
 青い背広を巧みに着こなし、それとない威圧感を周囲に与えていた。
 反対の席にはリナが座る。
 薄いピンクのイブニングドレスを着こなしている。
 数日前のリナとはすっかり様子が変わっていた。
 かつてのリナを知る者なら、決して信じることができないであろう。
 大人しく、従順で、ガウリイにすっかり媚びる雰囲気をまとっていた。
「さあ、食べようか、リナ」
「うん」
 こくりと頷き、ナイフとフォークを優雅に持つリナ。
 かつての、がさつな態度は欠片もなくなっている。
「それにしても意外だったな」
「なにが?」
「リナがテーブルマナーを知っているとは思わなかった」
「……お姉ちゃんに仕込まれたの。公式な席で恥をかくことがないようにって」
 リナが淡々と答える。
「それより、ガウリイが知っていたとこの方が意外だったな」
「幼い頃より、つきっきりで練習させられていたからな」
 ガウリイも静かに答える。
「えっ、そうなの?」
「ああ……」
「…………」
 どこかしら、苦みを含んだ声で答えるガウリイに、押し黙るリナ。
 静かに食事をするリナとガウリイ。
 やがて食事も終わり、リナはナプキンで口元を拭く。
「で、わたしを思いのままにした感想は?」
「最高だな。もっと早くこうするべきだったかもしれない」
 にやけた表情で喋るガウリイ。
「そう……」
 悲しげな表情をするリナ。
「納得がいかないか?」
 ガウリイの言葉に首を振るリナ。
「いつかはこんな日が来るんじゃあないかと思ってた。でももっと、そう、もっと抵抗できると思ってたんだけど。こんなにあっさりガウリイに溺れちゃうなんて、軽蔑したでしょう、ガウリイ?」
「そんなことはない。むしろ嬉しいよ、リナ。リナがそこまでおれにゾッコンで、メロメロに惚れていたことを知ることができて」
 ガウリイの言葉に、顔をまっ赤にするリナ。
「うっ、そ、そうなのよね。自分でも気がつかなかったな。一度奪われただけでここまでメロメロになってしまうぐらい、ガウリイに惚れていたなんて」
 リナの言葉に沈黙するガウリイ。
「どうしたの?」
 不思議そうに尋ねるリナ。
「いや、なんでもない」
 ガウリイは知っていた。
 リナが今の状態になったのは、強力な媚薬を使ったためでもあることを。
 リナは自分の身体に、そんな卑劣な手段を使われたことに気づいていない。
「そう」
 リナは傍らにあるカップをとり、紅茶をすすった。
「それにしても、さすが、と言うべきなのかしら。女の子の身体の扱い方がうまいのね、ガウリイは」
 リナの言葉に意表を突かれるガウリイ。
「どういう意味だ?」
「そういう意味よ。わたしが知らないとでも思ったの?」
 リナの言葉に沈黙するガウリイ。
 思わず、驚愕の表情を表に現す。
「聞かれたくないと思ったから今まで言わなかったけれど、もういいよね」
 やさしく微笑むリナ。
「いつから知っていたんだ」
 ガウリイの問いに、首をかしげるリナ。
「そうね、会ってから半年ってところかしら」
「…………」
 ガウリイは強ばった表情を浮かべていた。
「甘いマスク、金髪碧眼、まったく人畜無害にみえる笑顔。しかし、その道では最高のスペシャリスト。何十人もの女の子を毒牙にかけ、クライアントの要望通りのセックス奴隷に仕立て上げてきた男。まあ、噂を要約するとそんなところかしら?」
 苦笑するリナ。
「もっとも、わたしが知った事実は、ガウリイが非合法組織の『ダークロウズ』にいたという事実だけだけれどもね」
 言葉を切ると、再び紅茶をすするリナ。
「なぜだ、リナ。それを知っていて……普通なら」
「そうね。でも、わたしの目に映るガウリイは、ガウリイでしかなかったから。うふふ、そうとしか言いようがないんだけれど、とにかく、そういうことね」
 それから、面白そうに笑うリナ。
「それに、ガウリイの事言えないもん。わたしに関する噂に比べれば、まったくもって可愛いものじゃない?」
 苦笑いするリナ。
「まあ、男女の仲になったとき、まずいかな、とは思ったけれど、その時はその時だって割り切っていたし、それに」
 真剣な瞳でガウリイを見つめるリナ。
「ガウリイの女にされても仕方ないと思ってた。だって、ガウリイがいなかったら、わたし生きていけなかったもん。ううん、ガウリイの女にして欲しかった。こんな気持ちに気づいたのは、つい最近のことなんだけれどもね」
 リナの赤裸々な告白に、胸が一杯になるガウリイ。
「……いじらしいんだな、リナは」
「そうよ、気がつかなかったでしょう?」
 にこやかに微笑むリナ。
「でも、ガウリイに犯されるのが、こんなに気持ちいいとは思わなかったな。もうわたし、完全にガウリイの虜ね」
 てへへ、とテレ笑いするリナ。
「でもなんか妬けるな、ガウリイが調教した女の子達に。こういう気持ちいいことをしたんでしょう、たっぷりと」
 嫉妬をあらわにするリナ。
 すねるリナのその姿に、思わず可愛いと思ってしまうガウリイ。
 完全に、リナにいかれてるな。
 内心、ガウリイは苦笑した。
「リナが思っているほどのことはなかった。それらの女の子には手をつけていない」
「うそっ?」
 信じられない、という顔でガウリイを見るリナ。
「本当さ。確かに女の子を仕込むのを手伝わされたけど、手をつけたことはないな。商品に手を出すようなことはしたことがない。そこまで不自由したことは無かったし。だいたい、女の子を無理矢理なんて、おれの主義じゃあない」
 ガウリイの言葉に、ジト目で睨み付けるリナ。
「じゃあ、わたしはどうなるのよ! 無理矢理犯されたような気がするけど?」
「だから、それは、リナが魅力的すぎるのが悪いんだ」
「なっ?」
「初めてだった。自分の主義を捨ててまで、抱きたいと思った女は」
「まったく、口がうまいんだから。ジゴロの言うことなんか、まともに聞けないわね」
 そう口では言いつつも、茹でたこのようにまっ赤になるリナ。
「本当の事だ」
「はいはい」
 手のひらをひらひらさせるリナ。
「で、それはそれとして、もういいかげん束縛をほどいて欲しいんだけれど」
 リナは自分のくびれたウエストに巻き付けられている鎖を指し示した。
 きっちりとリナに絡みついているそれは、リナを完全に束縛し、椅子に縛りつけている。
「それは出来ないな」
「なんで? もうわたし、ガウリイから逃げる気なんてないよ。だって、あんな麻薬みたいなセックス味わったら、ガウリイから離れることなんて出来ないもん」
「たとえそうでも、駄目だな。常に目の届くところに縛りつけておかないと、おれが安心できない。まあそのうち、束縛が快感になっていくようにリナを仕込んでいくつもりだからな。一月もたった頃には、縛られて股間を濡らすように、調教してやるよ、リナ。リナが自ら、『お願い、縛って』とおねだりするぐらいにな」
 そういって、好色な視線を向けるガウリイ。
「うっ、そ、そんな……」
 絶句するリナ。
「縄の味は、一回覚えたら病みつきになるからな。縛られながらイク快感は、また違った味があるそうだし、リナにはたっぷり味わって欲しいな。それに、アナルも開発しないとな」
「アナルって……お尻の穴?!」
 驚きの声をあげるリナ。
「そうだ。リナみたいに気の強い女の子は、そこを調教されると、ボロボロになって堕ちていくそうだからな。是非とも調教したい。おれの太い逸物を飲み込んで、喜びながら腰を振るぐらいになるようにな」
「ううっ」
上目遣いに、非難の視線を向けるリナ。それでも拒否しないのは、すでに躰を屈服させられた弱味か……
「じっくり時間をかけて、リナを変えてやるよ。普通は強引にそこまで調教するんだが、リナはおれの女だからな。快楽に溺れていくようなやり方で、調教してやるよ」
「こ、怖いな」
 リナは呟いた。
「自分が自分でなくなりそうで、こわい……」
「リナはリナさ。ただ、おれの好みの女に作り替えられたリナになるだけさ」
「…………」
「さて、話はこれでお終いとして、続きはベッドで、肌と肌をあわせながらするか」
 ガウリイは椅子から立ち上がった。
「リナをもっと素直でいい子にしなきゃあいけないからな」


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