その19



 三人の黒人達が、奇妙な器具の準備を始める。
 抱えるほどの、大きな密封型のガラス器を二つ。
 それには、それぞれゴムのチューブが二つずつ取り付けられていた。
 一緒に置かれている、レバーのついた金属製の箱が一つ。
 それに、ガラス器から伸びた黒いチューブを取り付けていく黒人達。
 それが終わると、
 それぞれのガラス器から伸びた、もう一方の赤いチューブにバルブを取り付ける。
 さらにバルブの反対側に赤いチューブを取り付け、
 それをY字型の金属器具に取り付けていく。
 二口の方にはそれぞれ赤いチューブがつながり、
 チューブがつながれていない一方口の先端に、ミレルの手により特異な形状を示すカートリッジが取り付けられた。
 波打つような造詣が施され、先端にいくほど細くなっていく、特異な形状。
 その器具を手に持ち、ミレルは妖しい笑みをその顔に浮かべた。
「うふふ、たっぷりと楽しんでくださいね、か・あ・さ・ま」
「な、何をするつもりなのっ?!」
 思わず怯えた声をあげるアリシア。
「うふふ、ズー、薬剤を充填して」
「ハイ、ミレルサマ」
 ズーはうなずくと、ガラス器の一方に薬剤を流し込む。
 その後で蓋を閉め、厳重に密封するズー。
「さてと、始めますか」
 レバーのついた金属製の箱に近づくと、レバーに手を掛けるミレル。
 そして、レバーをそのまま押し込んで、その後で引き上げた。
「うんしょ、うんしょ……」
 レバーを幾度も幾度も上下させるミレル。
 やがて満足したのか、Y字型器具をもってアリシアのところに戻ってきた。
「ふふっ、かあさま、抵抗は無駄ですからねっ!」
 そう言った後で、薬品棚からローションの瓶を取り出すミレル。
 そして、器具の先端にローションを垂らし、塗りたくる。
「うふふふふ……」
 舌なめずりをするミレル。
 Y字型器具にヌルヌルするローションを馴染ませていく。
 まんべんなくローションが行き渡ったところで、アリシアに微笑みかけるミレル。
「始めはツライけど、そのうち気持ちよくなって、病みつきになっちゃうんですよ。わたしが屈服したのも、お尻に対する責めでなんです」
 調教台の傍らにあるペダルを足で踏むミレル。
 カタカタカタ、という音を響かせながら、鎖が巻き上げられていく。
 それと同時に、アリシアの両足が、あっというまに上へと持ち上げられた。
 その結果、露わになったのは……
「くすっ、可愛いアナル」
 ミレルは満足げに微笑んだ。
「まだ、誰からの蹂躙も受けていない、ヴァージンアナル。わくわくしちゃいます」
「みっ、ミレルぅっ!?」
 アリシアの絶叫が、地下室に響き渡る。
 しかし、救いの手が現れるはずもない。
 青ざめるアリシアの顔。
「あら? なんなのその顔? こわいの、かあさま? まさか、ね」
 アリシアの恐怖にゆがんだ表情を楽しむミレル。
「別に、とって食おうなんて訳じゃあないんだし」
 筒先を、アリシアのアナルにあてがう。
「ただ、かあさまを完全なる屈服に追い込むだけなんだから」
 ぬちゃっ……
 調教台に拘束されたアリシアのアナルに、器具の先端が突き立てられる!
「ひぎいいっ!!」
 思わず悲鳴を上げるアリシア。
「あらあら、本番はこれからなのに。くすっ」
 人差し指を口元に添え、楽しげに笑うミレル。
 その瞳には、淫らな炎が燃え上がっていた。

「じゃ、ダー、バルブを開けて」
「ハイ、ミレルサマ」
 手元にあるバルブをひねるダー。
 とたんに、ガラス器のチューブに薬剤が、浣腸液が、流れ込んでいく。
 それはバルブを通過し、アリシアのアナルに突き立ったY字型器具に流れ込み、ついにはアリシアの体内へと、強制的に浸透していった!
「なにっ? ああっ、なんなのっ、いやあっー」
 アリシアの悲痛な叫びが部屋中に響き渡る。
 しかし、無情にも浣腸液はアリシアのアナルを通って、次々と体内に流し込まれていく。
 ビクンッ、ビクンッ、ビクンッ……
 跳ねる、アリシアの肢体。
 絶叫をあげながら、躰を引きつらせながら、それでも浣腸されてしまうその躰。
「ひいっ! いやあっ! だめえっ!!」
 ひたすら絶叫をあげるその姿。
 それは誇り高き王妃の姿ではない。
 おぞましい責めに、躰を震わせる一人の女でしかなかった。
 強制浣腸の屈辱を味あわされるアリシア。
 かつてない屈辱に、カタカタと震えだすアリシアの躰。
 しかも、その屈辱を与えたのは……
「うふふ、いいでしょ?」
 ミレル、そう、実の我が子であるミレル。
「やめてっ、やめなさいっ! これは命令よっ!!」
 気力を振り絞り、ミレルに向かって叫ぶアリシア。
「うふふ、そうじゃなきゃ、ね……」
 アリシアの命令を、楽しげに聞き流すミレル。
「そうじゃなきゃ、楽しくないわ。かあさま」
 口元に手をあてて、邪悪な笑いを浮かべるミレル。
「さて、ダー、この辺でいいわよ。かあさままだ初心者だし。栓を閉めて」
「ハイ、ミレルサマ」
 うなずくと栓を閉めるダー。
「さてと!」
 手元にあるカートリッジを、ゆっくりとひねるミレル。
 すると、
 細かった先端が、急速に広がっていくっ!
「ひぎっ!!」
 いきなり拡張した筒先に、思わず悲鳴を上げるアリシア。
「うふふ、なんか、とっても初々しい……」
 笑みを浮かべそう言った後で、目線をギーに移すミレル。
「さあ、開けて、ギー」
「ワカリマシタ、ミレルサマ」
 ギーが手元のバルブをひねった。
 すると、今まで押し寄せていた圧迫感が消え、逆に……
「ひいっ、なんなのっ?! す、吸い取られるぅ……」
 アリシアのアナルから、……汚物が次々と吸い上げられていく。
 それはチューブを伝わっていき、やがて空のガラス器の中へと流れ込んでいった。
「あっ、あっ、あっ、ああっ……」
 強制排泄の恥辱を味あわされるアリシア。
 精も、根も、魂さえも吸い取られそうなその感触に、アリシアの躰が悲鳴をあげる。
「うふふ、これぐらいでそんなに喜ぶなんて、本当に初々しいわ、かあさま」
 ミレルの顔に、邪悪な喜びの表情が浮かび上がる。
「さて、ギー、そろそろ栓を閉めて」
「ワカリマシタ、ミレルサマ」
 十分に排出させた後で、栓を閉めるギー。
「さて、今度はもっと強めにいきましょうね、かあさま」
 婉然と微笑むと、ミレルは金属製の箱の所へ行き、再びレバーを上下させ始めていた。


「すごい……な」
 思わず、感嘆の声を上げるカイル。
「確かにそうじゃの」
 思わず唸る、ガリウス。
「なんという邪悪な器具じゃ。おそらくあの金属の箱がポンプになっておって、薬剤の入った容器に空気を送り込み、その分、空の容器から空気を吸い取る仕組みになっておるのであろう」
「なるほど。……よく考えてる」
 おもわず感心するカイル。
「腸の中に送り込まれた分だけ、あとから引きずり出されるということか……」
「おまけに、自由に圧力を調整できるようじゃな。これではいかに抗おうとも、強制的に浣腸され、排出されることになってしまう。本人の意志に関わらず、な」
 ガリウスの言葉に思わず想像し、身を震わせるカイル。
「すごい、なんて邪悪な器具なんだ」
 ローザを振り向くカイル。
「さすがはローザだな。ここまで邪悪な責め具を考えつくなんて……」
 感嘆のため息をつくカイルの言葉に、
 ……ローザはしばし押し黙っていた。
「あ、ありがとうございます」
 ようやく引きつった笑みを浮かべながら、それだけ言うローザ。
「?」
 カイルの顔に、疑問の表情が浮かぶ。
「どうしたんだ、ローザ?」
「い、いえ……」
 語尾を濁すローザ。
 確かに、これらの器具類はローザが所有していたもの。
 しかし、実はこの責め具を考え出したのは、ローザではなかった。
 この器具の考案者、それは……
 いましもアリシアを責めている、ミレル本人。
 ローザの実験用の器具を組み合わせ、三人の黒人達を使って、瞬く間にこのおぞましき責め具を組み立てたのだ。
 機械的にアナルを拡張し、純粋に相手を屈服させる為の器具。
 その機能には、いかなる妥協もない。
 人をモノとして扱い、機械的に、無慈悲に、そのアナルを作り替えていく。
 ただその為だけに作られた、『器具』。
 そうアリシアは、実の子供であるミレルの考案した邪悪な責め具によって、徹底的に責められているのだった。
 この事実は、ローザしか知らない。
 しかも、ローザはこの事を他の者に告げる気はまったくなかった。
『にいさまにこの事を話したらどうなるか、わかっているわよね、ローザ?』
 にっこりと微笑みつつ、血に濡れた暗殺用の短剣をかざしたミレルの言葉に、
 ……ローザはただ、うなずくしかなかった。
『いーいローザ、ミレルはにいさまの従順な肉奴隷でいたいの。その事を絶対に忘れないでね。もし、少しでもにいさまに話す素振りでも見せたら、わたし、あなたを殺しちゃうよ?』
 笑いながら、ローザに語りかけるミレル。
 その瞳の内にある明確な、非人間的な殺意に恐怖を覚えつつ、ローザはひたすら頷くしかなかった。
 ミレルの、その額に燦然と輝く……
 ふと、カイルの疑問の視線を感じ、回想を打ち切るローザ。
「……どうもいたしませんわ」
 乾いた声で、ローザは言葉を濁した。
「そうか?」
 訝しげな表情になるカイル。
 しかしローザは意識的にカイルの視線を無視した。
 なんとなく納得できないものを感じつつも、視線をアリシアに戻すカイル。
 カイルの目の前で、アリシアは二度目の排出の恥辱を、経験しつつあった。


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