その3

 ……あれ? わたし、どうしたんだろう?
 頭が重い。
 わたしの目には何かかぶせられていて、何も見ることができない。
 躰を動かそうにも、細いヒモで、わたしの全身は縛り上げられているようだ。
 ヒモ?
 そう、細い革のヒモだ!
 急に、わたしの意識がはっきりとする。
 それと同時に、わたしは気がついた。
 裸だ、わたし。
 ヒモが直接皮膚に触れている。
 股間にも、革紐を通されているのを感じてしまう。
 そんな、そんな、そんな……
 わたしはパニックに陥った。
 必死になって革紐の束縛に抗うわたし。
 ギシッ、ギシッ、ギシッ……
 ベッドが軋むような音がする。
 ううん、違う、ベッドじゃあない。
 わたしの躰は斜めに傾いているようだった。
「うふふ、起きましたわ、カイル様」
「そうか、ご苦労、ローザ」
「いえ……」
 わたしの耳にそんな会話が聞こえてくる。
 まさか、そんなっ!
「それでは、アイマスクを外しますわ」
 次の瞬間、わたしの目に光が飛び込んできた。
 ロウソクの光。
 あまり明るくない部屋。
 ううん、違う、ここは地下室だ。
 それが証拠に、窓がない。
 頭の中の冷静な部分が、そう分析する。
 でも、それは一瞬のこと。
「に、にいさまっ?!」
「ククク、ミレルの躰って、結構エッチだよな」
 かあっ、
 顔に、一気に血が昇る。
 見られた、……見られちゃった。
 ミレルの恥ずかしい姿を、余すところなく、にいさまに……
 わたしは、両足を大きく広げられた姿で、台に固定されていた。
 裸に、革紐を巻き付けられた、淫らな姿で。
「うふふ、わたしが開発した調教台『乙女の嘆き』はいかがでしょう? いかに獲物が抵抗しようとも、このように、いくらでも恥ずかしいポーズをとらせることが可能ですわ。しかも、そのまま調教していくことも可能。屈辱と恥辱に打ち震えながら調教されていく姿を眺めるのも一興かと」
 そ、そんな?! そんなこと、
「にいさま、お願い、助けて!!」
 わたしはにいさまに向けて叫んでいた。


「それは、できないな。ミレルの躰にこれがついている限り」
 そっと、ミレルの股間に手を伸ばすカイル。
 そこには、女性の器官でないものがついていた。
 非常にいびつで矮小なかたち。
 本来の大きさから比べると極度に小さいものであったが、
 それは、……確かに、男性の器官だった。
「に、にいさま……」
 思わず、動揺を浮かべるミレル。
「女の子が、こんなものをつけてちゃあいけないな。いや、ミレルは女の子じゃあないからいいのか」
「……えっ?!」
 ミレルは混乱した眼差しで、カイルを見つめた。
「ど、どういう……」
「つまり」
 善良そうな表情を消し、邪悪な表情を浮かべるカイル。
「ミレル、お前は男だということさ。僕と同じね」



 部屋に沈黙が訪れた。
 愕然とした表情で、そのまま固まるミレル。
 かなり経った後で、ミレルは青い顔で話し始めた。
「あ、あはは、あはははは、な、なにを言われるのですか、カイルにいさま。ミレルは、女の子です。それが証拠に、姫として……」
「それは、お前の母親アリシアの謀略だ」
 きつい目線でミレルをにらみつけるカイル。
「リーフシュタイン城が落城したとき、お前の母アリシアはお前の命を助けるために、ミレルを女であると偽った。いつの日にか、リーフシュタインを復興するときの旗印として、ミレルを使おうと画策していたのさ」
 その言葉に、しばし言葉を失うミレル。
「…………うそ、……うそ、……うそよ、そんなの、嘘よっ!!」
 ミレルの悲痛な叫びが、地下室に響き渡る。
「嘘じゃない。ローザ、見せてやれ」
「はい」
 ローザはミレルの目の前に、瓶を差し出した。
「こ、これ……」
 ミレルはその瓶に見覚えがあった。
 その中身にも。
 母親であるアリシアから、定期的に服用するようにと渡されている薬だった。
「これ、何であるか、わかりますか、ミレル?」
「……栄養剤」
 ミレルの答えに、爆笑するカイルとローザ。
 その姿に状況も忘れ、憤慨するミレル。
「なにっ、なにがおかしいのっ!!」
「これはまた! 本当に知らないようですわね。教えて差し上げますわ、ミレル。このお薬の名前はキチェ。女性の器官の成長を促すお薬ですわ」
「…………えっ、そ、そんなの……」
 ミレルの表情が青ざめていく。
「利用法はいろいろ。普通は乳の出が悪い女性に投与して乳の出をよくしたり、性的魅力の乏しい女性が服用したり。普通でない使い方としては、まだ未成熟な少女に大量に投与して、好みの躰に作り替えるとか。このお薬を使えば、幼女でも巨乳で受胎可能な躰に作り替えることができますわ。もちろん、そういう幼女はその手の趣味の人たちの餌食になるんですけどね」
 楽しげに語るローザ。
 ミレルの躰は恐怖に震えた。
 ミレルはローザが放つ、強烈な邪気にようやく気がついたのだ。
「さらに、アブノーマルな使い方としては、可愛い男の子に大量に投与してみたり。ほら、男の子の躰ってボリュームがないから。淡泊な味がいいっていう人もいるけど、やっぱり、おっぱいがある方が高く売れるわね。だから男娼として完全に調教した後に、このお薬を使って、胸を膨らませたり、お尻を豊かにしたりするの」
 いまや隠しようもなく、欲望にギラついた視線でミレルを見つめるローザ。
「このお薬の欠点は、定期的に服用しないと効果が切れてしまうこと。ミレル、あなた一週間に一錠ずつ飲んでいたでしょ?」
「………………」
 ミレルは返事をしなかった。
 それでも、態度から図星であることは安易に知れた。
「今日から、一日一錠ずつ飲みなさい」
「…………いや、いやです」
 虚ろな瞳で拒絶するミレル。
 そんなミレルを見てクスリと笑うローザ。
「あなたに拒否権はないの。自分で飲みたくないというのなら、強制的に飲ませるだけ。……うふふ、よく考えたら、そっちの方が楽しいかもね。うふふふふ……」
 その言葉に、ミレルの唇が微かに震える。
「まあ、それは後の楽しみとして、まずは何から始められますか、カイル様?」
 カイルに問いかけるローザ。
「そうだな。まずはミレルが乱れる姿を鑑賞するか」
 ローザの問いに、冷徹な口調で話すカイル。
 それはミレルにとり、死刑執行の言葉に等しい感触をもたらしていた。


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