(6)
「・・・ずいぶん暗いわね。ロウソクだけでなく、キチンと明かりを点けなさいな、継彦さん・・・」
「ああママ・・・この方が、『初夜』の雰囲気に相応しいと思ってさ。それに僕は、暗いところでも目が見えるし・・・」
どうやら、入ってきたのは百目鬼夫人らしい。
彼女が電気のスイッチを入れたらしく、目隠しを通して、椿の目にも微かに明るさが感じられた。
「おや、縛めを解いてしまったの?育ちの良くない娘らしいから、暴れ出したりしないかしらね?」
「大丈夫。お薬が効いている間は、もう身動き出来ないよ。今、彼女にも説明してあげたところさ」
「そう。・・・それで、『契り』の一通りは終わったのですか?」
「うん、ママ・・・」
男は椿に対するのとは違う、鼻にかかった、やや甘えるような声音で言った。
「彼女の身体、とても素晴らしいんだ。僕の思ったとおりだよ。すごく気持ちが良くて・・・」
「フン、こんな小便臭い小娘のどこが良いのか、ママにはちっとも分かりませんよ・・・」
嘲るように鼻を鳴らしながら、夫人がすぐ目の前に立った気配がした。
射るような視線が、自らの裸身に注がれているのを感じ、椿は自由にならない身体を僅かにでも縮込めようとする。
「まったく、痩せっこけた、貧相な裸だこと。・・・どれ、よく見せてごらん・・・」
「あッ・・・」
脱力しきった両脚がグイと掴まれ、膝を折った状態で左右に押し開かれてゆく。アッという間に、カエルを裏返しにしたような格好で大股開きにされてしまい、椿は悲鳴を上げた。
「やッ、奥様ッ、見ないでくださいッ!・・・」
「やかましい娘ね。勿体ぶるほどの持ち物ではないでしょうに」
「ああ、ダメッ!・・・」
夫人の指先が、鮮血の涙を流したばかりの未成熟な女体を、乱暴にこじり割ってくる。胎内一杯に飲み込まされていた男の体液が、ヌルリという感触と共にこぼれ出てくるのが感じられた。
「あらあら、ずいぶん一杯出したのね、継彦さん・・・」
いささか朗らかな調子になって、百目鬼夫人は言った。
「いつにも増して、元気のよろしいこと。・・・私は気に入らないけれど、まあ、この娘を拐かしてきたのは無駄じゃなかったようね・・・」
何のことはない、息子の淫らな行為の成果を、その母親が悦に入って讃えているのである。
この屋敷そのものが狂気に捉えられていることをひしひしと感じながらも、椿は一縷の望みをかけて、百目鬼夫人に嘆願せずにはいられなかった。
「お、お願いです奥様・・・私をここから帰してください。ご令息に、もうこんなことは止めさせて・・・」
「何ですって?」
百目鬼夫人の声音が、不意に凶暴な調子を帯びて、
「お前のごとき卑しい身分の小娘が、宅の息子の目に留まっただけでも恐れ多いというのに!・・・ここから帰りたい?身の程知らずもいい加減におし!」
激昂した夫人の指先が、充血して硬くしこっている椿の肉芽を、包皮から引きずり出すように摘み上げ、揉みつぶしてくる。
「だ、ダメッ!触らないでくださいッ!」
「フン、こんなにはしたなく濡らしておいて、今さら何を気取っているんだい。この淫売めがッ!・・・」
「あッ、イヤーッ!・・・」
痛みと官能がないまぜになった異様な感覚に、怯えきった泣き声を上げる椿のおとがいを、百目鬼夫人は鷲掴みにするようにして押さえ付けた。
「静かにおしよ。あまり聞き分けがないと、大事なところを本当にひねりつぶすよ」
「・・・・・」
思わず竦み上がった椿に、百目鬼夫人は更に酷薄な言葉を投げつける。
「お前は余計なことを考えず、継彦さんの子を成すために、黙って股を開いていればいいのさ。そのためだけに、私がわざわざ骨を折ったんだからね」
「そんな・・・」
百目鬼夫人が、息子の暴虐を制するどころか、そのあからさまな共犯者であることを知り、椿は愕然とした。
まして陵辱による破瓜にとどまらず、この得体の知れない男の子供を身籠もらされるなど、考えただけでも血の気が引いてゆく思いである。
「ひどすぎます・・・百目鬼閣下の御身内ともあろう方々が・・・どうしてこんな、人さらいめいたことを・・・」
「フン、家の格にこだわるからこそ、なりふりに構っていられないということもあるのさ」
百目鬼夫人は、上流ぶった態度をすっかりかなぐり捨て、蓮っ葉な調子で言った。何処か娼婦めいてすらいるその物腰が、この非情な女の本来の姿なのかもしれなかった。
「でもまあ、引導を渡す意味でも、一通りの事情は説明してやったほうがいいのかもしれないね。どうせもう、お前はこの家から一歩も出ることはないんだから。ねえ、継彦さん?・・・」
「うん、ママ。・・・そうだね、僕たちはもう夫婦なんだから、何でも話し合わないと・・・」
話を引き取った男は、椿に向かって、何か秘め事を囁くような猫なで声を出した。
「・・・椿ちゃん、君、『降魔』って生き物のことを知っているだろう?・・・」
「えッ・・・」
意外な言葉を聞き、椿は一瞬息を呑んだ。
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