No.22 お嬢様とクソゲーの狭間(2)


 「お嬢様特急」は、ヒマとお金を持て余しているボンボン(としか思えない)の主人公が、たった一度だけ運行されるという超豪華特急列車「ヴェガ」に乗り込み、北海道から九州まで日本縦断の旅を続けるというゲームである。
 ギャルゲーであるから、主人公たるプレイヤーは、列車内で知り合う女の子を次々とコマし、イベントを消化して、意中の娘とラブラブになるというのが目的だ。
 ちょっと実際にありそうで楽しい設定だが、プレイしてみると相当にハチャメチャな印象で、ヴェガは路線なんか無視してグネグネ走り回るわ、各都市の駅にのんびり停車して、降りたはずのキャラに悠々と先回りされるわ、およそ「特別急行」とは呼びがたい脳天気列車である。



 要するにこれ、
「銀河鉄道999」をミクロなギャルゲー仕立てにしたという感じなんですね。
 主人公がやたらとお金を持っていて、しなくても良い浪費を散々にしてみたり、食堂車のメニューが結構美味しそうで、可愛いウェイトレスさんが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたり、車掌さんとの濃密な交流があったりと、「999」風の味付けが随所に見られるのだ。
 子供の頃マンガであこがれた、豪華列車による食って飲んで遊びまくりの銀河観光。その夢に、ナンパし放題のお嬢様の群れまでがセットされているのだから、こりゃなるほどゲームにして遊ぶだけの価値がある美味しい設定と言えるだろう。



 ところがプレイしてすぐに気が付くが、このゲームには大きなシステム上の欠陥がある。端的に言うと、やりたくもないことをやらされる部分が非常に大きいのだ。
 列車には20人近くのギャルキャラが乗り込んでくるのだが、同時攻略のフラグを立てられるのは多くても3〜4人程度。それ以上に欲張ると、発生区間が決まっている必須イベントをこなせなかったり、お目当てのキャラの好感度が上がりきらなかったりで攻略に失敗してしまうことになる。
 つまりこのゲームの場合ハレム状態のプレイは禁物であり、本命の女の子から気をそらさずに旅を続けることが肝要となるのだが、じつはこれがなかなか厄介だ。
 というのも、それぞれの女の子には乗車区間があらかじめ設定されていて、長い娘でも全行程の半分、短い娘なら3分の1程度で列車を降りてしまう。要するに、本命の娘と一緒に旅を出来るのはせいぜい旅程の半分までなのだ。



 すると当然、本命の娘が乗っていない区間では、プレーヤーは全くすることがなくなってしまう。と言うより、何もしてはイケナイ状態に置かれてしまう。暇つぶしに他の女の子とイチャつきでもしようものなら、好感度が逆転して本命をフイにしてしまいかねないからだ。「と○メモ」なら再び本命と仲良くして好感度を調整したり出来るが、本作の場合は肝心の本命が車内にいないのだからそれも不可能ということになる。
 プレーヤーが本命攻略を確実なものにしたければ、その間やることは一つしかない。自分の寝台個室にジッとこもり、ひたすら時間経過のコマンドを押し続けるのだ。誰にも会わないように。誰にも話しかけられないように。(^^)
 逃亡中の指名手配犯と言おうか、刺客におびえる抜け忍と言おうか、どっちにしろ「楽しい旅行中」というノリでないことだけは確かだ。
 例えば山口星奈の場合、稚内から乗車して、早くも松本では下車してしまう。彼女が本命だとすると、松本から鹿児島までプレーヤーは自室に引きこもりだ。そしてやることと言えば、人目を避けて一日中ピコピコボタンを押し続けるだけ。ほとんど発狂しそうになる。とても普通の神経ではプレイし続けられないのである。



 どうでもいい単純作業を繰り返さなければクリアが出来ない不条理ゲームというのは、古くはファミコンの
「未来神話ジャーバス」なんかをはじめとして結構たくさんあるが、その作業の空しさ、バカバカしさにおいて、本作は相当に群を抜く強者である。だからこそ当時からクソゲーという評価があったのだろうし、オイラも一旦はクリアをあきらめて放り出してしまったのだ。
 しかし今回、ひょんなことから本作にハマリ終えて考えるに、オイラ的にはこのゲーム、どうしてもそうあしざまに言われるほどの「クソゲー」であるとは思えないのである。



 世には「クソゲー」と呼ばれるモノがそれこそ星の数ほどあるが、その全てが同程度にくだらないということはもちろんなくて、つまりクソゲーにも色んなレベルがあることは皆さんご承知であろう。
 そしてそういう包括的な面白さのレベルとは別に、クソゲーにはその「クソゲーとしての傾向」において、いくつかの種類があるのだとオイラは考えている。オイラ的にはそれを、「真のクソゲー」、「バカゲー」、そして「惜しゲー」と勝手に分類しているのだが。



 「真のクソゲー」というのは、まさにクソゲーたるクソゲーのこと。そもそものアイデアがつまらなかったり、グラフィックやテキストが非常に低レベルだったり、システムが根本的にダメだったりして、とにかくプレイする気になれないゲームのことを言う。
 オイラ的には、ギャルゲーで言うと
「セングラ」なんかがそれに近いのだが、要するに制作スタッフに全くセンスがなかったり、ユーザーに対する思いやりを欠いていたりするとそういうゲームが出来るのだと思う。



 「バカゲー」というのは、ゲームとしての基本的な発想は面白いのだが、現実的なプレイ上の問題点を何ら斟酌せず、そのまんま製品として発売してしまったような、勢いだけの作品を言う。
 オイラ的には
「ルームメイト・井上涼子」なんかがまさにこのバカゲーだと思う。
 サターンの内臓時計にゲーム内時間をシンクロさせるという発想は、ハードの特性も生かしていて確かに面白い。だけどホントにそのまんまゲームにしちやったらダメじゃんって。(^^)
 一人暮らしの主人公と可愛い女子高生が同居することになるのは良いが、その涼子ちゃんはSSの時計に従ってゲーム内でも生活するのだから、一日のうち大半は学校に行っていたり寝ていたりしてコミュニケーション不能。つまりプレイ可能なのは一日15分ほどで、そりゃあ確かにリアルではあるかもしれないが、ゲームとしては当然成立しないだろう。まさにバカゲーであり、企画するのは良いが実際に作って発売してしまう制作会社の神経が信じがたい。(とは言えオイラの友人は、涼子ちゃんと実際に生活サイクルを合わせ(!)ながらこのゲームをプレイし続け、するうちに強い愛着が湧いてきたというのだから人間色々である)



 そして「惜しゲー」であるが、これはそのまんま「惜しいゲーム」。
 アイデアは良く、キャラやグラフィックなども高水準なのだが、バランスの煮詰めが甘かったり、システムにちょっとした思いやりを欠いていたりして名作になり損ねたゲームを言う。
 オイラ的には、まさに「お嬢様特急」はこの「惜しゲー」なんだと思う。



 実際「お嬢様特急」には、オイラのようなアホをハメ殺すに足る長所がたくさんある。ちょっと書いてみると、



 ・柳沢まさひで氏によるキャラデザがとても可愛い。ハデさこそない(全キャラが黒か茶色の髪の毛)が、このゲームのほんわかした雰囲気にはマッチしている。

 ・シナリオはどれも他愛なく陳腐だが、毒のないホッとする優しさに満ちている。

 ・車内のグラフィックはチープだが、ホントに鉄道旅行をしているような楽しい雰囲気が出ている。

 ・テキストは最小限で、プレーヤーが常に主体的にゲームに参加できるよう工夫されている。コマンドレスポンスもまあまあ良い。

 ・主人公(プレーヤー)の生きる世界がそのまま滅び(終点)へと向かっていくため、「と○メモ」などと違って「あの思い出の夏・・・」という切ない雰囲気が良く出ている。最終区間ではメインキャラもほとんどが下車してしまい、ヴェガ車内はガランとしてしまう。その胸が締め付けられるような寂寥感の演出は見事だ。



 ・・・等々であるが、かよう魅力的な要素を持ちながら、煮詰めの甘さでシステムに重大な欠陥を抱えてしまい、クソゲーだの何だのと揶揄される結果になってしまったのは残念だ。
 制作者にあともう少しユーザーに対する思いやりがあれば、例えば一日単位でスキップ出来るコマンドを付けたりするだけで、本作に対する市場の評価はずいぶん変わっていただろう。
 もっとも聞いたところによると、本作は開発の最後になって相当ドタバタしたらしく、発売が三ヶ月延びたあげくに結局調整不良版のまま出荷する始末だったというから、制作者としては「思いやり」どころの騒ぎではなかったのかもしれない。
 実際エンディング間近になるとグラフィックも減ってきて、まっくらけの画面でストーリーが進行したりするシナリオも多い。全く持って「惜しい」仕上がりとなってしまったものである。



 書いてきたように、本作は笑っちゃうような欠陥を抱えた問題ゲームであるが、その欠陥を辛抱して奥をのぞいてもらえれば、オイラでなくともハマる要素を持った「惜しゲー」である。
 いったん挫折したオイラが言うのもなんだけど、もし機会があったら、どうぞこのやるせない気分にさせてくれるエンタテイメントを体験していただきたく思う。オイラだけのぼせているのはシャクだもんな。


 総評・「もう一度18歳に戻してくれたら、今すぐにでも超豪華特急ヴェガに乗る!」(ダメだこりゃ)



 追記・オマケとして、全キャラ分の印象レビューを
こちらに掲載しました。

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