第七章 それぞれの黄泉路・・・

 「どれ・・・」
 比良坂は洗い場にドッカリと胡座をかくと、壁の金具から取り外した鎖を乱暴にたぐり、静音を身体の前へ引き寄せた。
 「あッ、何するんですかッ!」
 手も無く男のヒザに乗せられて、静音が思わずヒステリックな悲鳴を上げる。
 「何って、『備品』を点検するのに決まってるじゃねェか。ガツガツ楽しむ前に、まずは品物を良く見てみないとな。そうだろ?」
 「やッ、イヤですッ!」
 必死に身をもがこうとするが、尻餅をつく格好で背後から抱え込まれているため、せいぜいヒザを曲げ伸ばしすることくらいしか出来ない。男の腕の中から逃れ出るのは不可能だった。


 「それにしてもブルマとはな・・・クリスのヤツ、人をやたらロリコン扱いしやがって・・・」
 苦笑混じりにブツブツ呟きながら、しかしまんざらでもなさそうな様子で、比良坂は静音の身体に指を這わせ始めた。右手は透き通るように白い首筋から、左手は重たく肉の付いた太股から、それぞれ下と上へ肌を伝いだす。
 「さ、触らないでくださいッ!」
 金切り声が口をつくが、比良坂はまるで意に介する風もない。
 冷たくしなやかなクリスの指と違い、男のそれはボッテリと生暖かい感触で、静音にはまるで毛虫が這うように薄気味悪く感じられた。
 やがて男の両手は乳房を上下から挟むような格好で行き会い、その圧倒的なボリュームを確かめるかのように円を描いて撫でさすりを始めた。
 「あッ、やッ・・・」
 「フフン、クリスから聞かされちゃあいたが、なるほどこのバストは相当に楽しめそうだな」
 両手の平を胸の下にあてがい、支えるようして持ち上げながら、そこからあふれ出る肉の量と重みに、比良坂が嬉しそうな声を出す。
 体操着の胸元は異様に高く突き上げられる格好になり、大きく左右を向いた2つの紡錘形の間で、白い生地が引きちぎられそうにピンと張り詰めた。
 体操着の本来の持ち主だった遠山深雪も相当にグラマーな少女ではあったが、静音の類いまれに豊かな肉体を包むのには、やはり服のサイズが不足しすぎているのだ。
 いきおい布地も胸元に引っ張り上げられるようになり、ヘソの辺りが丸見えになってしまう。比良坂はそこへ手を差し込み、一気にグルリと裾をまくり上げてしまった。
 「あッ!」
 静音の悲愴な泣き声と共に、純白のブラにピッチリとくるまれたバストが、ドサリとでも音のしそうな迫力でその場にこぼれ出た。

 

 ジャバラ状にまくり上げられた体操着は、胸のボリュームに完璧に遮られて、ずり落ちることもなくカップの上辺に留まっている。それを良いことに、比良坂は悠々とした手つきで、今度はブラの上から静音の肉体をまさぐり始めた。
 「イヤ!許して下さいッ!・・・」
 切羽詰まった声を上げ、静音は上体を出来るだけ男の身体から遠ざけようとするが、背後から胸をつかまれているために、僅かにギクシャクと腰を折ることしか出来ない。その上・・・
 「むッ!・・・」
 異様な声を漏らし、不意に静音の背がキュッと反り返った。首筋がブルブルと震え、襟足のうぶ毛が静電気を帯びたかのように逆立っていく。
 「そらそら、あんまりジタバタしない方が身のためだ」
 比良坂がニヤニヤと相好を崩し、からかうような口調で言った。
 「お前さんの身体、アゲットの爺さんにこってりチップを植えられてあるんだろ?暴れりゃそいつをヘタに刺激して、どんどんエッチな気分になっちまうだけだぜ」
 「う・・・・」
 比良坂の言うとおり、脊髄を直接殴られたような、強烈な官能美が静音の脳天を焼いていた。
 無垢だった少女の肉体は、ほんの5日前に奪われたばかりの処女に代わり、淫らを強要する人口細胞を埋め込まれ、その肥沃な繁殖場とされていたのだ。


 人一倍気丈な恵麻里ですら脆くも屈服させた悪魔の発明に、同じ若く健康な肉体を持った静音も抵抗の出来る道理はない。3日前にバイオチップの移植手術を施されて以来、静音は調教の際だけではなく、日常生活のいたるところで、恵麻里同様に悪夢のような官能地獄を味合わされていた。
 いや、恵麻里同様と言うよりは、それを数段上回ると言った方が良いだろう。クリスに思うさま腕を振るうよう言われたアゲット医師が、恵麻里に倍する量のバイオチップを容赦なく植え付けていたからだ。
 静音の場合、局所や乳首だけではなく、乳房全体が新種の強力なチップによって冒され尽くしていた。その新種チップが、男の手から逃れようと身をもがくことでむしろ刺激され、叩き付けるような性感を脳髄に送り込んでくるのだ。


 「やめ・・・ください・・・お願い・・・・」
 下手に抗うことも出来なくなった静音は、眉根を寄せ、歯を食いしばりながら、途切れ途切れにつく苦しげな吐息と共に、すがるような哀訴の声を絞り出す。
 固くつぶった目の縁に我知らず涙が盛り上がり、伏せられた長い睫毛の先に小さな粒となって幾つも溜まり始めた。
 「フン、なかなか気分が出てきたみたいじゃねェか。見てみな、ここも良い具合に茹だってきてるぜ、ええ?」
 からかうように言って、比良坂は静音のバストをグッと指の腹で押し込んでくる。その刺激に思わず目を見開くと、上半分がレース状に透けているブラのカップごしに、本来青白いほどに色素の薄い肌が、火照ってきつい桃色にまで上気しているのが分かった。
 肌の表には、まるでそれぞれのバイオチップから滲み出した体液ででもあるかのように薄く汗が浮き、それが肌を一層敏感にさせて新たな汗を誘う、その悪循環を静音は押しとどめようもない。


 「おほッ、まるで催促してるみてェに盛り上がってきやがった」
 そう揶揄されたのは、カップの上からでもそれと分かるほど、いやむしろカップを突き破りそうなほどに高く尖り、肥大化してその在処を誇示している乳首のことだ。そして男の指先が、カップの生地ごとその部分をねじるようにつまみ持った瞬間、
 「ぐっ、むうッ!」
 くぐもった悲鳴と共に、静音は抗うのをためらっていたはずの身体を一瞬激しくもがき、顎を突き出すように強く反った姿勢となった。
 背の筋がキリキリと音を立てそうなほどに張り詰め、瞳が絶望の色をたたえたまま一杯に見開かれる。
 ややあって背の緊張が解けると、静音の全身からはグッタリと諦めきったように力が抜け、男の腕の中へ体重を預けていった。
 目の縁に溜まっていた涙が一息にあふれ出し、あとは堰を切ったように、次から次と光る筋が頬を伝っていく・・・。


 「ん、何だよ、一回戦目はもう早『アガリ』なのかい?」
 クックッと咽で笑いながら、比良坂が背後からのぞき込むように首を突き出して言った。
 「・・・・・・」
 情けなさ、恥ずかしさで声も出ない。
 特に濃厚とも言えない、下着越しの乳房への愛撫だけで、浅ましく絶頂に達する様をさらしてしまった我が身を、静音は何処か別の世界へでも放逐し、覆い隠してしまいたいような心境だった。
 「この間まで生娘だったと聞いていたが、どうしてなかなかのスキモノぶりじゃねェか。イイぜイイぜ、その調子でうんと乱れてくれよ」
 「ち、違いますッ、これは・・・・」
 「アゲットのバイオチップのせいだってのか?確かにそれもあるかもしれないが、だけどそればっかりじゃあないと思うぜ」
 涙声で抗弁しようとする静音を、比良坂はニヤニヤ笑いで制して言った。


 「あのチップは確かに大した発明だが、元々不感症の人間に移植したってロクに効果は出ないらしい。つまりチップの効き目は、移植された人間にそもそも強い性感が備わっていてこそバツグンなんだ。要するにお前さんには、生まれ持っての才能があるんじゃないか?『淫乱の才能』ってヤツがさ・・・」
 「そ、そんな・・・・」
 「違うってのか?じゃあこれは何だよ?」
 比良坂は再び静音の胸元へ手を伸ばして、
 「今気をやったばかりだってのに、ここはまだまだ欲しがってコチコチに尖ってるじゃねェか。まるで噴火でも起こしそうな感じだぜ」
 下卑た揶揄と共に、指先が再び乳首をつまみ上げ、揉みこするように刺激を加えてくる。
 「あッ、いけませんッ!」
 「へッ、『いけません』どころか、またすぐにでも『イケそう』なんだろうが・・・どれ、そろそろ直接オッパイを拝ませてもらうかな」
 「だ、ダメです!イヤーッ!」
 金切り声を上げる静音に構わず、比良坂はブラの背のホックをパチリと外してしまった。そしていきおい前方へ浮いた状態になったカップに手を差し入れ、卵の殻を剥くようにそれを裏返しつつ、荒々しい手付きで熱くなった乳房に触れてくる。


 「あうッ!・・・」
 重く張り切った二房の肉が、ゾロリとかき出されるようにあらわになった。
 下着というくびきを外されて、本来のボリュームをようやく完全に現したその圧倒的な肉体の迫力に、さすがの比良坂も「おう」と感じ入ったような低い呻きをもらす。
 「たまげたな・・・・」
 静音の肩越しにひとしきりそのバストを観察して後、男は正味呆気に取られたような口調で言った。
 「一体何を食って育ったら、こんな非常識にバカでっかいオッパイが出来上がるんだい、ええ?おかしな例えだが、『生命の神秘』って言葉を連想しちまいたくなるぜ」
 「イヤッ!おっしゃらないで下さいッ!」
 後ろ手に縛められているので耳を塞ぐことが出来ず、下卑た揶揄を否応なく聞かされてしまう屈辱に、静音はきつく目を閉じたまま頭を激しく振り、ヒステリックな悲鳴を張り上げた。
 「違うんですッ。これも、これもチップが・・・・」
 継いだ言い訳が、次第にしゃくり上げるような涙声に変わっていく。


 男に言われるまでもなく、静音は自らのバストが、もはや「豊満」などという賛美の勝った形容に収まる状態ではなくなっていることを思い知っていた。
 それは元々のJカップどころではなく、まさに異様と言っていい・・・特大の縦長スイカを2つぶら下げたようなボリュームにまでなっており、大柄な静音の身体に比しても全くアンバランスとしか見えない。
 そしてその異常な肥大化は、静音が訴えるとおり、魔法医師アゲットが盛り付けたバイオチップに原因があった。


 恵麻里がヴァギナに植え付けられたものとは違う、その新種の細胞は、性感の異常活性化のみならず、乳房を急速に、かつグロテスクなまで巨大に発育させてしまう効果を持っていたのだ。元々豊かすぎるプロポーションを有する静音なだけに、その効果が惨たらしいほどに強調されて見えてしまう。
 チップを移植されたのは、このサンクチュアリに囚われてから2日目のことだったが、それからの4日間というもの、静音はみるみる異様な変貌を遂げていく自らの肉体を、死にも勝る絶望感と共にただただ眺めているより他なかった。乳房が際限なく膨れあがり、しまいに破裂するのではないかという、一種シュールな恐怖感にとらわれることも一再ならずあったほどだ。
 そしてチップの効果発現を確認するため、日々アゲットによって施される様々な屈辱的検査、テストの数々・・・・。つまりこのチップは掛け値なしに最新種であり、静音はその実用化の最終仕上げとして、無情にも人体実験に利用されたのだった。


 「フン、またぞろ『バイオチップのせい』かよ?何でもかでもその伝で言い逃れようってのかい?」
 比良坂は再び乳房を下から支え持ち、からかうようにユサユサと揺すり上げながら言った。他愛のないその動きだけでも静音の今の肉体にはかなりの負担となり、あッ、あッという小さな悲鳴が切れ切れに噴きこぼれる。
 「まあ、お前さんに移植されたっていう新しいチップについちゃ、確かにアゲットからさんざ能書きを聞かされてるがね。・・・・何でも性感が強くなったり乳が膨れたりだけじゃあなくて、面白い二次的効果も付いてるそうじゃないか、ん?」
 「!!」
 男の言葉を聞いて、静音の背にギクッと異様な戦慄が走った。首筋に粟が立ち、口は何事かを訴えようとパクパクするが、上手く言葉が出てこない。・・・・新種のバイオチップには、性感や外見の変異以外にも、まだ何か静音を激しく怯えさせるような機能が別に隠されているらしい。

 「フン、まあそれは追々試させてもらうとして・・・」
 恐怖にすくみ上がっている様子の静音を見て、比良坂はメインのお楽しみは後に取っておこうかという気にでもなったらしい口調で言った。
 「先に躾(しつけ)の第1段階を済ませておくか。・・・全部完了するまで時間がかかっても良いとは言われているが、こういうことはテキパキやらないとお互い興醒めだもんな。第一オレの『教育係』としてのメンツが立たねェ」
 「き、教育・・・係?・・・」
 男の言う意味が分からず、静音が涙にふくれた目で背後を振り返り、不安げな声を出す。
 「そうさ、今回オレは、単に『備品』のサービスを受けに来ただけじゃねえんだよ」
 比良坂の口の端がキュッと吊り、歪んだ笑みが浮かんだ。


 「まだ商品として不完全な『備品』を一丁前のマーメイドに仕立てるよう、クリスから直々に依頼されてるのさ。さっきも言ったろうが。お前さんの精神(こころ)も身体も徹底的に教育してやるってな。その言葉通り、精神には奴隷のたしなみを叩き込み、肉体は男を存分に悦ばせられるよう隅々まで開発し尽くす、そのためにオレは呼ばれたんだ」
 「そ、そんなこと・・・・」
 「まあクリスとしちゃあ、お前さんも最後まで自分で調教したかったらしいがな。・・・お前さんの相棒・・・恵麻里とか言ったっけか、今はその娘の調教にかかりきりで、こちらまでは手が回らんらしいんだ」
 「・・・・・・」
 「向こうの娘にはもう買い手が決まっていて、だから一応は『納期』ってもんがあるわけだしな。で、このオレに美味しいお役目が回ってきたわけさ。商売柄、オレはこういうことが大得意なんでね」
 比良坂は何か自慢げな調子になり、肩をそびやかして、
 「要するに奴隷調教ってのは、相手の精神を完全に組み敷いて屈服させる作業だからな。オレたち治安機構の人間が容疑者をさんざ脅かして、何でも思い通りに自白させるのと、テクニックとしてはそう変わらんわけだ。お前さんも直(じき)にそうなるのさ。オレがそう仕付けるんだ。御主人様に心から従い、嬉々として性の奉仕に励む、従順な奴隷女になるようにな・・・」


 「い、イヤですッ!そんな・・・・」
 無様な泣き声を上げ、静音は再び何とか男の腕から逃れ出ようと、力の入らない身体を無理にもがき始めた。
 クリスに調教されることももちろん恐ろしいが、この男のむき出しの獣性には、それ以上に静音を激しく恐怖させる凄味のようなものが感じられたのだ。
 また、恵麻里がすでに商品として送り出されるべく調教を受けていると聞かされたのもショックだった。
 あの気丈な恵麻里がそう容易く調教に屈するとは信じたくないが、バイオチップの威力を考えれば、聖者ですら淫売にまで堕してしまいそうな気がする。
 恵麻里がマーメイドとして売られていけば、残された自分にはもう万が一にも脱出のチャンスはないだろう。そしてそれは静音にとっても、性奴隷としての暮らしがこの先一生続くのだということに他ならないのだ。
 そうした恐怖感が出し抜けに具体性を持って眼前に迫り、全く無駄としか思えない抗いを静音に強いていた。


 「許して下さい!奴隷になんかなりたくない!なりませんッ!」
 「と、意地を張ったって、今さら抵抗なんか無駄だと分かってるだろうが。もうこんな身体にされちまってるんだからさァ」
 愉快そうに言い、比良坂は左手ですくうように静音の乳房を持ち上げると、濃い紅色に充血したまま、固く、高く屹立している乳首を、右手の指でグイとしごくようにひねり上げた!
 「あヒぁああッ!」
 甲高い嬌声が上がり、静音の両足がピンと伸びて前方へ振り上げられる。惨めなアクメを示す一瞬の静止の後、それが再びパタリと床へ着くのと連動するように、細い首が力尽きたように前へ折れ、眼鏡の内側に涙の大粒がパタパタとこぼれ落ちた。
 深くうつむき、自らの尋常ではない胸の隆起に鼻先を埋めるような格好で、静音の口元からは、やがて絞るような嗚咽が漏れ出し始める。
 「へッ、どうだい。軽く一こすりで何べんでもイッちまうようなみっともない身体じゃねェか。まるで色情狂だぜ。今さら奴隷がイヤだもないもんだ。そうだろうが、ええ?」
 嘲りながら、比良坂は静音のお下げをつかんで手綱のように引き絞り、強引に仰のかせた。
 「あうッ!」
 突き出した顎が、後ろから巻くように鷲掴みにされる。涙に濡れたその頬に、男のヤニ臭い顔がグイとすり寄せられてきた。

 「ノンキに泣いてるんじゃねェぜ」
 一段と凄味を効かせた声音で男は言い、静音の顔をつかむ手にジワリと力を込める。
 「言ったろうが。オレは優しくはないし、お前を厳しく仕付けるよう依頼されてる。そのためには、お前の身体にヒビを入れることだって躊躇はしねェ。手付けにここを喰いちぎってやったってイイんだぜ。傷モノになりたいかい?ええ!」
 つまみ持ったままの乳首をそれと示すようにクリクリとひねられ、静音の顔から血の気が引いた。
 「い、イヤですッ!許してッ!」
 不用意にゲーム(獲物)の身体を傷付けることなどクリスが許可するわけはないのだが、まともな判断能力を失っている今の静音には、そんな単純なブラフでも十分すぎるくらいの効き目があった。
 「言うこと聞きますッ。何でも聞きますから・・・お願いです・・・・ヒドイことしないで・・・・お願い・・・・・」
 涙でむせかえり、最後の方は言葉までもが惨めにズブ濡れたような弱々しい風情になる。
 もはや観念して従うより仕方なかった。縛められ、バイオチップに冒された身体で、そもそも大男相手にどんな抵抗が叶うというのか。


 恐怖と絶望にすっかり打ちひしがれた様子の少女に、比良坂はやや柔らかい物腰に戻って、
 「良いだろう。それじゃあまず『レクチヤーその1』だ。よォく聞いて覚えろよ」
 「は・・い・・・」
 まさに子供を仕付けるような男の口調に自尊心がザクリと抉られるが、素直に返事を返す以外にない。
 「お前は今、オレが軽く弄ってやっただけで2度も気をヤっちまったワケだが、今後はそんな勝手は許さねェ。これが心得の第一だ。良いか?」
 「え、あの・・・」
 男の言う意味が分からず、戸惑った視線をオドオドと背後に送っている静音に、比良坂は面白がっているような調子で言葉を継ぐ。
 「いや、イクこと自体は構わないぜ。どんどんエゲツなくイッてくれて良いんだが、勝手にイクことは許さねェって言ってるのさ。つまり今後、イク時には必ず『イク』と断ってからにしろってこった」
 「そ、そんなこと・・・・」
 「イヤだってのか?そもそも奴隷風情に自由になることなんか何一つ無いのが当たり前じゃねェか。まして御主人様を差し置いて、1人勝手にアヘアヘ良い気持ちになるなんざ図々しいとは思わないかい?」
 「でも・・・そんな・・・・」
 言い募る語尾が、再び細かく震えて涙に呑まれてゆく。


 静音がこの下卑た命令を受け容れがたいと感じるのも当然だった。
 この年になるまで『性』というものから頑なに目を背け、発育の良すぎる自分の肉体に逆にコンプレックスすら抱いていた彼女には、もちろん自慰の経験も全くなかった。故にアクメも、ほんの5日前に初めて知った、全く新しい感覚なのである。
 それは快楽には違いないのだが、非合法薬物、そして人工細胞という異常な手段によって強制的に開眼させられたものであるため、静音はどうしても、自らの穢れた部分を体内から無理やり引きずれ出されるようなおぞましさを覚えてしまうのだ。
 いわば我が身の原罪を示されるような気分になる「それ」を、あろうことかいちいち他人に申告しなければならないなど、元々気弱に過ぎるこの少女にとっては死にすら勝る恥辱と言って良い。しかし・・・・


 「言い付けは分かったようだな。じゃあ実際に練習してみるか」
 納得して従うと言ったわけでもないのに、比良坂はもはやそれが当然のような口調で言って、つまんだままの乳首に再び淫らな刺激を加え始めた。
 「あッ、ダメですッ!」
 「『ダメ』じゃねェだろ。『イイです、イキます』だ。キチンと要領を覚えろってんだよ」
 「ま、待ってくださ・・むッ!」
 哀訴する涙声が、異様に切羽詰まった調子で中断される。
 「チッ、バカめが!」
 目を虚ろに見開き、襲った絶頂の余韻にハフハフと荒く息をついている少女へ、男の口汚い叱責が飛んだ。
 「何を聞いてやがったんだ!イク前に断れと言ったろうが!また勝手に上がっちまやがって」
 「ゴメ・・なさい・・・でも・・・・」
 涙の中から必死に詫びようとする静音の乳首が、男の指先でビンと弾かれる。
 「あうッ!」
 「奴隷の能書きなんざ聞いちゃいないんだよ。お前は御主人様にキチンと報告が出来るよう、練習に専念すりゃ良いんだ。ほれっ、もういっぺんやってみろ!」
 「やッ、堪忍・・・あッ、あッあッ・・・」
 怒張し、前方はるかへ屹立している乳首をしごくように、残酷な愛撫が加えられ続ける。今やヌルヌルと汗にまみれたその部分を苦しげに上下させながら、静音はしかし、男に言い付けられたセリフをどうしても口に出来ないまま、さらに二度、三度と、脳天を灼くようなアクメへ追い上げられてしまった。


 「オイオイ、こんなことでいつまで意地を張ってたって仕方ないだろうが」
 絶頂の連続で、もはや意識が朦朧とし始めている静音に、比良坂はやや柔らかい口調に戻って諭すように言った。
 「お前が言うことを聞かない限り、おんなじことがいつまでも繰り返されるだけなんだぜ。さっさと従った方が早く楽になれるじゃネェか」
 「許して・・下さい・・・どうか・・・・」
 涙と洟で顔中をドロドロにしながら、静音はやっとのことで、何度繰り返したか分からない哀訴を弱々しく口にした。同時にノドがゴボリと音を立て、泡のようなヨダレが口の端から大量にあふれ出す。
 惨めとしか言いようがない。もはや自分は人間としては扱われず、無様に狩られた狩猟動物に過ぎないのだと思い知らされる気分であった。


 「ダメだね。少しだって甘やかすつもりはねェと言ったろうが」
 顔面を皮脂で残酷な色にギラつかせ、比良坂はにべもなく言った。
 「お前もさっき、何でも言うことを聞くと言ったばかりじゃネェか。さっさと言って楽になっちまいな。さァ・・・・」
 「あッ!・・・」
 痛いほどにキリキリと尖った乳首に、再び淫らな指戯が加えられ始める。その部分を中心に、鋭いメスのような快感が身体の隅々へと発信され、それがやがて黒々と濁った絶望に変じて、ワッと脳髄を押し包んできた。
 (もう私ダメ・・・恵麻里さん、ごめんなさい・・・)
 この残酷無比な運命に対し、未だ孤独に抵抗を続けているのかもしれない友人に、我が身の不甲斐なさを思わず心中で詫びる。
 まさに限界であった。この責め苦に永劫苛まれるくらいなら、どんな屈辱でも受け入れた方がマシに決まっているように思えた。
 少女の中で、かろうじて男への隷従に抗っていた最後の何か・・・魂が潰れないよう支える心棒のようなもの・・・が、ポキリと脆い音を立ててへし折れ、砕け散る!


 「い、イク・・・イキますッ!・・・」
 血を吐くように凄絶な調子で、覚えさせられたばかりの卑しい言葉を絶叫し、静音はその豊かに過ぎる裸身を、男の腕の中でビクビクと激しく跳ね悶えさせた。
 組織に捕らわれて5日目、ついに開始された心身両面に対する徹底的な奴隷調教に、少女S・Tの魂がバラバラに解体され、変質させられ始める、まさにその第一歩であった。


 「ほほォう、なかなか元気良く言えたじゃねェか」
 比良坂はニンマリと相好を崩し、
 「なあ?大きな声を出してイッた方が、お前も気持ちがイイだろうが?その調子でもっと続けてみな」
 言いながら、今度は両の乳房の中ほどを掴んで前方へ持ち上げる。
 「あッ・・・」
 精神も身体もすっかり疲弊し、グッタリと力を抜いていた静音は、男の言葉に再びギョッと背を緊張させ、泣き声を上げて振り返った。
 「も、もうお言い付け通りにしたじゃありませんか。どうか、これ以上は・・・・」
 「馬鹿野郎、今日の調教メニューはまだまだ山ほどあるんだぜ。どんどん要領良くこなさねェと日が暮れちまうぞ」
 ひとまず相手の言うことを聞いたのだから、せめて小休止くらいは与えられるのではないかという静音の甘い期待を打ち砕くように男は言って、持ち上げたバストの固くしこった先端同士をクリクリと摺り合わせ始めた。


 「ああ・・むッ!やッ!・・・」
 電撃のような官能にまたも両の乳首を貫かれ、悲鳴を上げて上体を身もがく静音に、すかさず比良坂の叱責が飛ぶ。
 「オイッ、呑気にヨガってないでキチンと言うことは言えよ!また勝手にアガったりしたら承知しねェからな!」
 「そ、そんな・・・あッ、い、イキますッ!」
 絞り出すような泣き声の申告と共に、汗にまみれた背が丸まり、またバネ戻る。
 「いいぞ、そら次だ」
 「ご、後生ですから、もう・・・うッ、またイキますッ!・・・あッ、イヤイヤッ、またイッてしまいますーッッ!・・・・」

 少しずつパターンを変えてネチネチと続く男の愛撫に、湧き起こる激しい官能を御する術もなく、追い込まれ、手もなく達し、また追い上げられをいつまでも繰り返す、囚われの美しい少女S・T。
 悲愴な哀訴の声、その合間に嫋々と洩れるすすり泣きが降り積もるたび、桃色に磨き上げられた室内の光沢が、次第に絶望の涙色へと曇り、くすんでいくかのようであった・・・・


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