第八章 崩壊・悶え咲く奴隷華たち・・・

 少女探偵たちがサンクチュアリで虜囚となってから、ちょうど1ヶ月が過ぎたある日の午後・・・



 すっかりルーティンとなった調教のために、恵麻里は例によってバスルームへと引っ立てられ、M字開脚の格好でクリスに抱きすくめられていた。
 首輪と鎖で繋がれ、後ろ手に手錠をかけられた上、口は明るい緑色のボールギャグによって塞がれている。
 桃色の泡に包まれた裸身は、ふたまわりほどボリュームを増したバスト、豊かに張った腰、まろやかに脂の乗った下腹等、1ヶ月前よりは遙かに女性らしく、柔らかに実が詰まって見える。
 「ふォ・・おお・・・」
 切なげな喘ぎ声と共に、鳥肌の立った肌にピクンピクンと間欠的な痙攣が走り、恵麻里がたまりかねたように身をよじり始めると、
 「フフフ、息が上がってきたわね。もう限界なのかしら?」
 クリスは背後から恵麻里の顔を腕で巻き取り、
 「どう?もう卵を産みたいの?」
 さも愉快そうに言う。
 その奇妙な問いに、恵麻里はコクコクと慌ててうなずき、必死に目で訴えて肯定の意を示した。
 「いいわ、じゃあ産ませてあげる・・・」
 クリスは言って、恵麻里のヴァギナを指先でくつろげ、柔らかな果肉の襞を左右にかき広げる。
 「さあ、イキんでごらんなさい」
 そう言われて恵麻里は、上気した顔を仰のかせ、苦しげに眉根を寄せて、グッと下腹に力を込める。
 と・・・
 「んんッ・・・」
 膣口がヒクヒク収縮し、咳き込むように震えた後、中から桃色の繭型ローターが2つ、大量の蜜にヌメリながらツルリと吐き出されてきた。
 「あうッ!・・・」
 あえかな悲鳴を上げ、恵麻里は背を弓なりにする。
 その様子はなるほど、母鳥が必死に卵を産み落とす様に見えなくもない。

 「今度はこっちの穴のも産みましょうね」
 そう言うとクリスは、恵麻里のアヌスから伸び出ている、先端に小さなボールの付いたヒモをグイと引く。と、ヒモに繋がっていたアナルパールが、ズルズルと数珠繋ぎになって引きずり出されてきた。
 「うッ、ひあッ!・・・  」
 菊門をゴリゴリと刺激され、恵麻里は悲鳴と共に腰をよじり、ボールギャグがつぶれそうになるほど歯を食いしばる。
 彼女の体内に押し込まれていたそれら淫具は、いずれも体温によってマイクロバッテリーが充電され、自律的に震動を繰り返す物だ。
 膣内や直腸内はバイオチップにすっかり侵食されているし、ゾニアンも投与されているから、恵麻里の全身を苛む官能は、調教で耐性の出来ていない者ならば発狂しかねないほどに強烈であった。



 「フフ、いっぱい産んで、いっぱいイッたわね・・・」
 オルガの余韻で呆けたような表情になり、下腹をヒクヒクと波打たせている恵麻里から、クリスはギャグを取り外して、
 「どうお?気持ちよかったかしら?」
 「は、ハイ・・クリス様・・・」
 ハフハフと荒く息を吐きながら、恵麻里はかすれた声で答えた。
 驚くほど大量のヨダレが口の端からあふれ出し、胸元にドロリと溜まりを作る。
 「すご・・く・・・気持ひ良かったです・・・」
 「そう。恵麻里ちゃんもすっかり奴隷ぶりが板に付いてきたわね」
 「ハイ・・わたひは奴隷です・・・浅ましい、セックス奴隷です・・・」
 「それならそろそろ、マーメイドとして、新しい御主人様に売り渡しても大丈夫かしら?立派に奴隷としてのお勤めが出来る?」
 「は、ハイ・・もちろん・・御ひゅ人様に、心から、性の御奉仕を・・・・」
 次第に涙声になりながら、しかし恵麻里は、散々叩き込まれた通りに、奴隷としての口上で応じ続ける。1ヶ月前までの凛とした少女探偵の面影は、もはやどこにも見出すことが出来なかった。



 恵麻里は、あまりに惨めな自分の境遇を、今は逃れようのない運命として受け入れつつあった。
 サキュバスによる連日の恐ろしい拷問、そしてすっかり身体に馴染んでしまった異常な官能の味が、彼女をして、この先性奴隷として生きる以外の人生を想像させ得なくしていたのだ。
 今の恵麻里はむしろ、自分が一刻も早くマーメイドとして売りに出されることを切望さえしていた。
 売られた先でどのように屈辱的な扱いを受けるにせよ、このサンクチュアリでの地獄のような生活に比べれば、何某かマシに決まっているように思えたからである。
 S・Tである自分が完全に闇社会に屈すること、そしてここに1人とり残される静音のことなどを考えると胸が張り裂けそうになるが、それでもとにかく、恵麻里はこの牢獄から抜け出したかったのだ。



 「ウフフフ、あの跳ねっ返りさんが、ずいぶんと素直になったものねェ・・・」
 クリスは笑い、恵麻里を繋いでいる鎖を握って立ち上がった。
 「それじゃあ今日は、あなたが真に完璧なマーメイドとなれるよう、仕上げをしてあげるわ」
 「し、仕上げ?・・・」
 クリスの言葉に不穏な気配を感じ取り、恵麻里は怯えた視線で魔女を見上げる。
 「要するに、『商品』としての仕上げをするのよ。どんな品物だって、出荷する前には検印を押し、綺麗に包装をするでしょう?マーメイドだってそれと同じなの。私たちは『儀式』って呼んでるけどね」
 言いながらクリスは、壁の一部をプッシュして、内部に仕込まれていたSM木馬をせり出させ、それに恵麻里の裸身を括り付けてしまった。


 クリスお気に入りのアイテムであるこの木馬は、横倒しになった俵型のシートを四本の脚で中空に支えた格好になっており、台座部分、そしてシート自体にも多数の拘束ベルトが取り付けられている。仰向け、うつ伏せ、その他色々なスタイルで、人体をシートに固定することが出来るのだ。
 シートを背中で抱くようなスタイルで仰向けに寝かされた恵麻里は、台座から伸びた鎖付きベルトに両手両足を拘束されている。自力ではどうにも逃れることの出来ない、完全な磔(はりつけ)状態であった。
 「・・・・・・」
 この木馬に縛り付けられたことは何度もあるが、今日は何をされるのだか皆目分からず、不安と恐怖で恵麻里が震えていると、



 ギッ・・・・



 微かな音と共に、脱衣場に繋がるドアが開いて、何者かがバスルームへ入ってきた。
 「フフ、特別ゲストのご到着ね」
 楽しげにクリスが言う。
 (だ、誰なのッ?・・・)
 これまで調教の現場にクリス以外の人間が入ってきたことなどなかったので、恵麻里はすっかり狼狽え、ドアの方へ首をねじ向けて闖入者の正体を見ようとした。
 柔らかに立ち込める湯気を透かして、二人の人物がそこに立っているのが見える。
 1人は恵麻里が見たこともない、長身で浅黒い肌をした、トランクス姿の男。
 そしてもう1人は・・・・



 「し、静音ッ!!」
 心底仰天し、恵麻里は頓狂な声を張り上げた。
 既に1ヶ月近く離ればなれとなってはいたが、それは間違いなく、彼女のかけがえのないパートナー、静音・ブルックスだったのだ!



 静音は恵麻里同様に鎖付きの首輪をはめられ、後ろ手に手錠をかけられてはいるが、裸ではない。
 と言ってまともな衣服を着ているわけでもなく、女子学生が水泳の授業で使う濃紺の水着、いわゆるスクール水着をピッチリと身にまとっていた。



 「言われたとおりに連れてきたぜ、クリス」
 男が気取った調子で言った。
 「フン・・・」
 クリスは鼻を鳴らし、小馬鹿にしたような表情で、男・・・比良坂功と、静音の水着に視線を送る。
 「今日はその娘にそんなモノを着せて遊んでたってワケ?相変わらずイカれた男ね」
 「ヘヘ、ちょっとイイだろ?」
 比良坂は心なしか照れ臭そうな顔付きになって笑った。
 「ブルマがあるのにスク水が無いってのは寂しい気がしてな。通販で買ってやったんだ。まあサイズ的に合うモノなんてあるわけないから、ご覧の通りピチピチのキツキツだけどさ」 
 男のその言葉通り、静音のプロポーションは、恵麻里が呆気に取られるほど、極端に変質してしまっていた。
 元々非常にグラマーな少女ではあったが、現在のそのバストは、もはや乳房と言うよりも、何か別の巨大な器官に見える。
 それがスク水の胸元を破裂しそうにふくらませ、腹部をすっかり覆い隠すように重たく吊り下がって揺れているのだ。
 恵麻里の肉体もこの1ヶ月で見違えるほど豊満にはなったが、静音のそれとは全くレベルが違うと言わざるを得なかった。



 「お友達同士、久々のご対面ね。感想はどぅお?恵麻里ちゃん」
 クリスが酷薄な笑みを浮かべて言った。
 「静音ちゃんの身体があんまり変わっちゃったのでビックリでしょ?新型のバイオチップと、念入りな調教の成果とで、こんなにダイナマイトバディになったのよ」
 「・・・・・・」
 「それにね、見た目だけというワケじゃないの。静音ちゃんは一生懸命に調教メニューをこなして、今やすっかり一人前のマーメイドになったのよ。恵麻里ちゃんよりも先に、商品として仕上がったというワケ。ね、そうでしょ、静音ちゃん?」
 「ハイ、クリス様・・・」
 鎖を手繰られ、クリスの手元に引き寄せられながら、静音は答えた。
 その口調はしかし、無理から言わされているようには聞こえない。どころか静音の口元には、うっすらと笑みさえ浮かんでいるのだ。
 「クリス様や比良坂様にお導きいただいて、こんな私も、ようやくマーメイドになる訓練を終えることが出来ました。とっても幸せです。奴隷としての喜びを教えてくださった新世界準備会に、心から感謝しています・・・」
 「し、静音・・・」
 顔を上気させて得々と語るパートナーを、恵麻里は愕然として見つめた。
 これがあの、清楚で可憐で、人一倍潔癖性だった少女と、本当に同一人物であろうか?



 恵麻里のその表情に気が付いた静音は、クリスの方へチラリと向き直り、直接会話をしても良いか?と問うような視線を送った。
 クリスがうなずくと、
 「お久しぶりですね、恵麻里さん・・・」
 静音はクスッと笑って、得意げな調子で話し始めた。



 「私・・・あなたのことを、とても尊敬していました。あなたは強くて、頭が良くて、私は何をやってもかなわない・・・そう思っていた。だけど、本当はそうでもなかったんですね」
 「・・・・・」
 「だってマーメイドとしては、私の方が早く一人前になれたんだもの。意外と恵麻里さん、物覚えが悪かったりして・・・」
 「静・・音・・・・」
 呆然として、恵麻里は呻くように言った。
 気弱だったこの少女が、ここでの凄惨な調教に、ひとたまりもなく屈服せざるを得なかったことは分かる。
 それは仕方がないが、それにしても、この攻撃的な物言いはどうしたことだろう?



 「そんな目で見ないで下さいよ」
 静音はフンと鼻を鳴らして、
 「このくらいのこと、言わせてもらっても良いでしょう?実際恵麻里さん、ここに囚われてからこっち、何一つイイトコなしじゃないですか。S・Tの仕事に失敗して、救出目標を助けられなかったし、私のことも助けてはくれなかった。私は恵麻里さんがきっと助けてくれると信じていたのに・・・」
 「・・・・・」
 「それに、あなたが調教をされてる時のビデオを見せてもらいましたよ。ヒイヒイわめいて、泣きを入れて、全くカッコ悪いったら・・・」
 「そ、それは・・・」
 「あら、勘違いしないでくださいね。別に恨み言を言ってるワケじゃないんです。むしろあなたに感謝しているんですよ」
 「・・・・・」
 「だって私は、ここで調教を受けたおかげで、本当の私ってモノに気付くことが出来たんですから。淫らで、浅ましくて、イヤらしいことが大好きな、本当の自分の姿に!・・・」
 静音は異常に肥大化した胸を反らせ、叫ぶような調子で言った。
 「それに、何の取り柄もない、世の中のクズだと思い込んでいた自分が、そう捨てたモノでもない存在だってことにも気が付きました。こんな私でも、性奴隷として御奉仕することで、それなりに他人様のお役に立つことが出来る・・・そのためにこのイヤらしい身体を使うことが、私にとっての幸せ、そう気が付いたんです。あなたがヘマをしてくれたおかげで、私は思いがけず、真の心の平穏を手に入れたんですよ!」
 頬を紅潮させ、静音は熱に浮かされたように話し続ける。それは恵麻里が一度も見たことのない、恍惚とした輝きに満ちた表情であった。



 「すっかりおしゃべり屋さんになったでしょう?あんなに大人しい娘だったのにね」
 クリスがクスクス笑いながら言った。
 「つまりこの娘は、マーメイドになったことで、自信と生き甲斐ってヤツを初めて手に入れたのよ。あなたたちが忌み嫌ってきた召喚犯罪も、こうやって社会のお役に立ってる面もあるってワケ」


 
 「・・・ふうん、これが静音の相棒だったって娘かい」
 静音の鎖を壁のフックに繋ぎながら、比良坂が恵麻里の顔を覗き込んで言った。
 「直に見るのは初めてだが、なるほど美形だな。身体も綺麗だし、ちょっと味見をしてみたい気分になるぜ」
 「バカ言わないで。この娘は売約済みだと言ったでしょ」
 クリスがにべもなく言う。
 その横で、静音が比良坂にチラリと投げかけた視線に気が付き、恵麻里はギョッとなった。それは明らかに、強烈な嫉妬の表情だったからである。



 「分かってるよ。じゃあオレは帰るぜ。明日は朝から管区会議だからな」
 そう言うと比良坂は、別れの挨拶のつもりなのか、静音を抱き寄せて濃厚なキスをした。
 静音もさも当然のようにそれに応じ、ピシャピシャと舌の絡まる音が周囲に響き渡る。
 いかにも品のない、二人のその所作が、恵麻里の胸を衝いた。
 一体どんな手練手管を使ったのかは知らないが、ヤクザめいたこの男が、無垢だった静音の魂を、どす黒く染め変えてしまった張本人であると、イヤでも気付かざるを得なかったからだ。



 「さてと、静音ちゃん」
 比良坂がバスルームを出ていくと、クリスは静音に向き直って言った。
 「今日あなたをここへ呼んだのは、ただ単に恵麻里ちゃんと再会させてあげるためじゃないのよ」
 「はあ・・・」
 何も事情を聞かされていなかったらしい静音は、戸惑ったような声で応じる。
 「実は、恵麻里ちゃんの仕上げの『儀式』を、あなたに手伝ったもらおうと思ってね。と言うより、実際の作業はあなたに任せようと思っているの」
 「ええッ!?」
 静音は心底驚いた様子で、叫ぶように言った。
 「あなたは既に『儀式』を終えたんだから、段取りは分かってるでしょ?マーメイドの先輩として、恵麻里ちゃんの仕上げをしてあげてくれない?」
 「・・・・・」
 「それとも気が進まないかしら?お友達に引導を渡すような役割はイヤ?」
 「い、いいえ、ちょっとビックリしただけで、イヤだなんてことはありません。光栄です。是非やらせていただきたいです」
 「じゃあ決まりね」
 クリスは言って、静音の手錠を外すと、茶筒ほどの太さの円筒を手渡した。
 「まずはコレからよ」
 円筒は黒く塗られており、一方の断面には小さなモニターと文字キーが、もう一方には細かな穴が無数に開いた円盤状のパーツがはめ込まれている。一体何をするためのツールなのか、外観からはちょっと判然としない。
 「使い方は知ってるわよね?もうパターンの入力は済んでるから、後は『押す』だけで0Kよ」
 「分かりました」
 静音はうなずき、恵麻里を見おろして立った。


 
 「おかしな運命ですよね・・・」
 円筒を手で弄びながら、静音は奇妙に静かな口調で言った。
 「ほんの1ヶ月前まで、あなたは私にとってパートナーであり、S・Tとしての教師であり、憧れの女神様みたいな存在でした・・・」
 「・・・・・」
 「でも今は、少なくともマーメイドとしては、私の方が先輩格です。その私が、あなたに商品としての仕上げ印を押そうとしている。ヘンな言い方だけど、何だかちょっとイイ気分です」
 「な、何をするつもりなの?」
 正体不明の円筒に目をやり、恵麻里が怯えた声を上げる。
 「今言ったでしょう?仕上げ印を押すんです。こんな風にね・・・」
 静音はスクール水着の肩ひもを外し、バストを自ら露出させた。
 まるで俵のような2つの肉房があふれ出て、身体の前にドサリと吊り下がる。
 「あッ!」
 恵麻里は思わず叫んでいた。



 静音の右乳房・・・その豊かな白い肌に、目にも鮮やかなマリンブルーの絵が浮かび上がっている!
 明らかに、深々と彫り込まれた入れ墨模様だった。
 デザインがまた振るっていて、まるで水面高く飛び上がっているように強く背を反らせた人魚の絵と、円弧を描くその姿態で囲むように、099という3桁の数字が描き込まれている。


 「先週、クリス様に押していただいたの。この数字は、このサンクチュアリで産み出された99人目のマーメイドという意味です。つまり商品としてのシリアルナンバー・・・」
 099という数字を愛おしげに指でなぞりながら、静音は言った。
 「恵麻里さんには100というナンバーが入ることになりますね。キリ番でステキじゃないですか」
 「そ、そんな・・・それじゃ、それは・・・」
 恐怖に目を見開いて、恵麻里は黒い円筒を凝視する。



 「そう、これはタトゥーを彫り込むためのポータブルマシンですよ」
 静音は円筒をかざしながら言った。
 「この小さな穴からマイクロカテーテルが無数に突き出して、一瞬で彫り上げてくれるんです。図柄はデジタル入力してあって、ただ肌に押し当てるだけで、その通りの模様が自動的に彫られる仕掛けなんですよ」
 「い、イヤよ!そんなことしないでッ!」
 悲鳴を上げて、恵麻里は縛められた裸身をシートの上でギシギシと身もがき始めた。
 バイオチップによる肉体改造とはまた違う、見てすぐそれと分かる性奴の証が、一生消えない形で身体に穿たれることが、この上ない恐ろしさとして心に迫ってきたからだ。
 「怖がることはありませんよ。そりゃ痛いけれど、ホントに一瞬で済みますから」
 「イヤ、イヤッ!入れ墨なんてッ!」
 「何を今さらまたダダをこねてるの?」
 クリスが顔をしかめて割って入った。
 「あなたさっき、マーメイドになる覚悟が出来たと言ったばかりじゃないの。あれはデマカセだったワケ?」
 「・・・・・」
 「それとも、改めてキチンと覚悟が決まるまで、まだまだ調教を続けようかしら?もう二度とイヤだなんて寝言が言えないよう、念入りにサキュバスにかけてあげるわよ」
 「そ、そんな・・・それは・・・」
 拷問マシンへの激しい恐怖が、恵麻里から抵抗する気力をたちまち奪ってしまう。



 「観念するしかないと分かったようね」
 クリスは嘲るように言うと、静音に顎をしゃくって見せた。
 「いいわ、おやりなさい」
 「ハイ・・・」
 静音は汗にまみれて光る恵麻里の右乳房を鷲掴みにし、円筒型装置を無造作にあてがうと、そのまま思い切り強く押し付けた!
 ブシュッ!というガスの抜けるような音がして、同時に恵麻里の裸身が強く弓なりになる。
 「ィあああアアーッ!!」
 絶叫がバスルーム中に響き渡ったときには、タトゥーマシンはその機能をすでに完璧に発揮し終えていた。
 無数の針によって貫かれ、激痛で痺れたようになっている恵麻里の乳房を、クリスはグイと持ち上げて、
 「出来たわね。さあ見てご覧なさい、奴隷の印(しるし)を・・・」
 「あ・・あ・・・」
 涙でボヤけた恵麻里の視界に、自らのバストの美しい半球が映る。そこにみるみる、目の覚めるようなタトゥーの青が浮かび上がってくるのが分かった。
 模様は静音と同じ人魚の形で、共に入れられたシリアルナンバーは「100」だ。
 「ウチで生まれた100番目の奴隷商品ね。ステキよ、恵麻里ちゃん・・・」
 感じ入ったように言うクリスの横から、静音も覗き込んで、
 「綺麗・・・」
 自らが刻印した残酷な印形の出来映えに、満足そうな声を漏らす。
 誇り高いかつての相棒が、自分と同じ奴隷の印を入れられて泣きあえいでいることが、何故かひどく痛快に思えた。



 「ひ、ひど・・い・・・こんな・・・」
 顔を背け、ガックリと脱力しきってむせび泣いている恵麻里を、クリスは静音に手伝わせて一旦木馬から解き放し、今度はうつぶせの格好で再びシートに括り付けてしまった。
 「な、何するの?もうこれ以上・・・」
 恐怖と不安にすくみ上がり、弱々しく泣き声を上げる恵麻里に、クリスは、
 「さっき言ったでしょう?入れ墨は手始めだって。仕上げの儀式はこれからが本番なのよ」
 突き放すように言って、静音にもう一本、別の円筒型ツールを手渡した。
 形は最前のモノと似ていて、色も同じ黒に塗られているが、幾分径が太く、長さは倍近くもある。
 「これもあなたが押しておあげなさい。お友達に最後の引導を渡してあげるのよ」
 「は、ハイ・・・」
 静音は一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに決心が固まった様子で恵麻里の方を振り返り、ニヤリとサディスティックな笑みを浮かべた。
 「い、イヤ・・・もう入れ墨なんかしないで・・・」
 泣きじゃくり、恵麻里は必死の哀訴を繰り返す。
 彼女の目には、かつてのパートナーが、今やクリス同然の魔女然として映っていた。



 「アラ違いますよ、これはタトゥーマシンではありません」
 円筒を指差して見せ、静音は少し愉快そうに言った。
 「まあ、奴隷の印を押す装置には違いないですけれど、つまりこれは・・・」
 「説明するより、見本を見せてあげたらどう?静音ちゃん」
 クリスが口を挟む。
 「あなたの身体にも、それで押した印が入ってるんだから。オッパイだけじゃなく、全身の仕上がり具合を見せてあげなさいよ」
 「は、ハイ、そうですね・・・」
 静音はうなずくと、円筒をいったん洗い場の床に置き、着ているスクール水着をクルクルと脱ぎ下ろし始めた。
 すでにあからさまになっている双乳に続き、まろやかに脂の乗った下腹、そして恵麻里のそれと同様、すっかり陰りを失って幼女のようにツルツル光っている土手のふくらみが現れる。
 「さあ見て下さい。これがマーメイドとして完全に仕上がった、その証の印です!」
 誇らしげに言いながら、全裸となった静音は、中空にうつ伏せにされた恵麻里の前に回り込み、クルリと背を向けた。
 「あッ!!」
 仰天して叫び声を上げ、恵麻里はまじまじと友人の裸身を凝視する。



 ・・・静音の豊かな腰、そして白く輝く柔らかなヒップ・・・
 そのヒップの左側に、バストのものと同じマーメイドの意匠が入れられている。
 しかし色はマリンブルーではなく、盛り上がった肉の桃色が、そのまま人魚模様を形成しているのだった。
 つまり・・・
 「ま、まさか・・・それは・・・」
 激しく震える声で、恵麻里は言った。
 「そう、これは焼き印ですよ。胸と同じ模様を、お尻には焼き入れてあるんです」
 こともなげな調子で、静音は言った。
 「そんな・・・ことって・・・」
 「つまりこちらの円筒は、タトゥーじゃなくて焼き印を押す装置なワケです。強力な電気ゴテで、一蹴のウチに皮膚を焼いてくれるんですよ」
 説明をしながら、静音は恵麻里の足もと方向へと回り込む。
 「さあ、恵麻里さんにも印を入れてあげます。マーメイドの証となる、最後の仕上げの印を!」


 「い、イヤッ!イヤーッ!!」
 狂ったような叫び声を上げ、恵麻里は木馬に縛り付けられた裸身をムチャクチャにもがき始めた。
 「絶対イヤよッ!焼き印なんて、死んだ方がマシだわッ!」
 「往生際が悪いですよ。以前の恵麻里さんは、どんな時でも凛としていたじゃありませんか」
 目にチラと軽蔑の色を浮かべて、静音は言った。
 「意気地なしの私だって、焼き印はキチンと覚悟をして受け入れたんですよ。そりゃあ恐ろしかったけれど、考えてみれば、家畜の証としてこれくらい相応しいモノはありませんからね。今ではむしろ、これが身体に入っていることを、マーメイドとして誇りに思っているくらいなんです」
 「く、クリス様ッ、お許し下さいッ!」
 涙と洟(はな)でグシャグシャになりながら、恵麻里は今度はクリスに向かって哀訴をし始めた。
 「焼き印なんかされなくても、何でも言うことを聞きます!決して逆らったりいたしません!心から・・奴隷に・・素直な奴隷になりますからァああ!・・・」
 嗚咽に飲まれながらも、ノドが張り裂けそうな声で絶叫する。しかし・・・
 「そうやって無駄な抵抗をしてるのが、本当には奴隷になりきっていない証拠じゃない」
 クリスはせせら笑った。
 「そういう勘違いを完全に取り除くために、焼き印が必要なのよ。人間じゃない、SEXのためだけの道具、家畜に生まれ変わるためにね。さあ静音ちゃん、構わないからやっちゃいなさい」
 「ハイ」
 クリスに促され、静音は手に持った円筒を恵麻里のヒップに近づけた。
 その断面はすでに赤熱し、周囲の空気をチリチリと揺らめかせている。



 「イヤ、イヤ、許してェ・・・」
 「怖がらないで。確かに熱いし痛いけど、後ですぐにアゲット先生が処置をしてくれますから。明日にはもう痛みは無くなって、人魚模様だけが綺麗に残りますよ」
 「イヤぁ・・助けて・・誰か助けてェええ・・・」
 一体この地獄の底へ、今さら誰が恵麻里を救いになど現れてくれるというのか。
 そもそも自分は、他人を救うためにここへやって来たのではなかったか。それが不様にも捕虜となり、今こうして、自身が人外のモノに堕とされようとしている・・・
 自業自得だとは分かっていても、しかし恵麻里は泣きわめくことをやめることが出来なかった。
 まるでサキュバスの見せる悪夢のような状況が、彼女の精神を完全なパニック状態に陥れていたのだ。



 「いきますよ」
 わめき続ける恵麻里をそれ以上は制しようとせず、静音は円筒を押し付けた。
 コテのパーツが自動的に押し出され、シミ一つ無い少女の皮膚を無惨に焼き破っていく。
 「ギャアアアアアーーーッ!!!」
 凄惨な絶叫が上がり、バスルーム内には肉の焼ける異様な臭いが立ち込めた。
 「お見事」
 クリスが楽しげに言い、恵麻里のヒップを覗き込む。
 血にまみれたそこには、静音と同じ人魚のマークが、どす黒い赤で深く刻まれていた。
 「初めてなのに上手に押せたわね。ナイスよ静音ちゃん」
 言いながらクリスは、恵麻里の頭側に回ってその顎に手をかけ、グイと乱暴に仰向かせる。
 「恵麻里ちゃんにも、後で写真に撮って見せてあげるわね。あなたが完全な奴隷となった、その証の印を」
 「あ・・え・・・」
 何かを答えようとした恵麻里の目玉がクルリと裏返り、全身がダラリとテンションを失う。
 だらしなく開いた口からヨダレの筋がこぼれ出し、縛められているシートをヌルヌルと汚し始める・・・
 白目をむいて失神した奴隷少女の、不様に伸びきった裸身がそこにあった。

 「アラアラ、全くだらしのない・・・」
 クリスがクックッとノドを鳴らしながら言った。
 「でもこれで、ようやくこの娘も仕上がりね。まともな世界に戻りたいだなんて幻想は、綺麗サッパリ忘れるしかないでしょう。人として生きていく道を、根こそぎつぶしてやったんだからね」
 ・・・その言葉通り、腕利きのS・Tであった早坂恵麻里という少女は、この瞬間、完全にその魂を破壊され、帰還不能な闇の底へと堕とされたのであった。
 次に彼女が目を覚ました時からは、人ではなく、一匹、二匹と勘定される淫らなメスの人魚としてしか生きていくことは出来ないのだ・・・・


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