第八章 崩壊・悶え咲く奴隷華たち・・・

 クリスに隷従する恵麻里の映像を見せられて以来、静音の精神状態には大きな変化が生じた。
 完膚無きまでに敗北した友人の姿は、まず静音の胸中を大いなる絶望で虚無的な状態にした。どんな抵抗ももはや無駄であると、荒んだ、投げやりな心境に囚われてしまったのだ。
 その状態が一段落すると、今度は奇妙なことに、恵麻里に対する憎しみとも憤りともつかないイライラした感情が募ってきた。
 自分は恵麻里のことを頑なに信じて、たとえ肉体は支配されようとも、精神だけは完全に売り渡すことのないよう必死に気を張ってきたのに、先に1人だけ白旗を揚げて敵に降ってしまうとは・・・。


 「裏切られた!」「見捨てられた!」という強い思い込みは、やがて「では何故自分1人が、この状況を懊悩と共に堪えなければならないのか?」という屈折した感情に形を変えていき、それが静音のモラールに対するタガを急速に解体していった。
 彼女は次第に積極的に調教メニューをこなすようになり、アクメにも素直に応えて、自ら激しい嬌声を上げるようにもなった。
 すでに官能に対する激しい嫌悪感は消えていたし、女性としての機能に何の欠陥もない自分が、肉体の当たり前な反応をこれ以上押し殺し、そっぽを向き続けるのも何かバカバカしくなってきたからである。
 比良坂に言われたように、どうせマーメイドとして調教される運命から逃れられないのであれば、性感は心地よいものと割り切り、受け入れなければツライだけだ。そんな捨て鉢な気分、そして恵麻里に対する当てつけのような感情とが、人一倍無垢だった少女をインモラルな獣へとみるみる変質させつつあった。


 しかしそうした静音の変わり様と逆行するように、調教する側の比良坂にも不可解な態度の変化が現れ始めた。
 あれほど熱を入れていた調教に、彼は次第に興が乗らなくなった様子で、また何か別に気にかかることがあるらしく、ボンヤリと考え事をしているような表情を見せることが多くなった。
 嫌味なほどの饒舌さも影を潜め、ムッツリと押し黙ったまま調教を終えると、そのままそそくさと引き上げてしまうこともしばしばだ。あれほど色に卑しかった人間にしては、いかにも「おざなり」といった体(てい)なのである。


 そんな状態がしばらく続くうち、相手の陰気さに引きずられるようにして、静音の方もワケの分からない不安感に苛まれるようになってきた。
 こんな男と会話を楽しみたいわけでは無論ないが、しかし囚われの身である今、比良坂は唯一と言っても良い交流の相手だ。独居房に入れられた囚人が、例えネズミやゴキブリを相手にしてでも寂しさを紛らわせたいと願うように、静音の華奢な精神も極限の孤独に疲れ果てていたのだ。
 とは言えこちらから話しかけたり事情を尋ねたりするのはやはり気が引ける・・・そう逡巡しているうち、驚いたことに、比良坂はとうとうサンクチュアリに姿さえ見せなくなってしまったのである。


 (どういうつもりなの?調教はもう完了したということなのだろうか?・・・)
 クリスが食事を運んでくる以外は全く放置された状態が二日、三日と過ぎるにつれ、静音は自分がこの先どうされるのか全く分からない不安から、真剣に比良坂の再訪を待ち望むようにまでなった。どんな内容であれ、自身の運命について何某かの情報を与えてくれるのは、今や彼しかいなかったからだ。


 同時に静音の肉体もまた、異性との交合を求めて狂おしく猛り始めていた。
 無理もない。
 ほぼ1ヶ月近く、改造された身体を日々犯され、媚薬を盛られ、性感を開発され尽くしてきたのだ。それを不意に中断されては、さしも無垢だった女体も、湧き起こる肉欲を処理しかねて渇きに喘ぐのは当然の結果であった。
 受け入れるモノのないことに苛立ってか、秘部は蜜を大量に湧出し続け、淫らな音をのべつにジクジクと立てているような気さえする。

 無論自ら慰めるということも出来たが、しかしそれをすることには抵抗があった。調教スケジュールの妨げになるからと、比良坂によって固く戒められていたからである。
 監禁部屋もカメラによって24時間監視されているから、どんなにコッソリと行為に及ぼうが必ずバレてしまう。言い付けを破って、ただでさえ様子のおかしい比良坂の機嫌をこれ以上損ねるようなことはしたくなかった。
 (苦しい・・・本当に気が変になってしまいそう・・・)
 発作のような肉欲の突き上げに悶え、自らの肉体が完全に造り替えられてしまったことに涙しながらも、静音は男が再び現れるのをひたすら待つしかないのであった。


 「比良坂が来たわよ。ずいぶん久々ね」
 クリスが静音の監禁部屋にやって来てそう告げたのは、最後に調教を受けてからたっぷり一週間も間を空けた後、それも真夜中過ぎという変則的な時間であった。
 「アイツ、ここのところ何かとトラブって忙しいみたいでさ。今日も調教じゃなくて、ちょっとアンタの様子を見に寄っただけみたいよ。バスルームは使わないと思うから、このままここで待ってなさい」
 いかにも眠そうな顔をしたクリスは、静音に衣装を着せるのを面倒がり、それでも下着だけは着けるようにとブラ、ショーツを手渡し、さっさと自室へ引き上げてしまった。
 下着姿になった静音が監禁部屋の中で待ち続けていると、
 「よう、元気にしていたか?」
 鋼鉄製のドアが重たい音を立てて開き、比良坂がその長身をぬうと室内に現した。
 「い、いらっしゃいませ、御主人様・・・」
 ひざまずいて三つ指をつかえ、散々に仕付けられた奴隷としての挨拶をしながら、静音は久しぶりに見る男の様子をしげしげと観察した。


 普段見る比良坂はたいてい全裸、あるいはトランクス姿なのに、今日は濃いグレーのスーツを身に着けていて、いかにも職場からそのままやって来たという風情である。その服装のせいでもあるのか、いつもよりははるかに堅気の人間らしく、キリリとした印象に見える。
 しかし物憂げな様子は相変わらずで、最初の一声の後は何も言葉を発さず、床に胡座をかいて黙々とタバコをふかし始めた。


 「あの・・・」
 我知らずに、問いかけの声が静音の口をついて出た。何か矢も楯もたまらないような心境になっていた。
 「ん?・・・」
 比良坂は手に持った携帯用灰皿にタバコの灰を落とし込みながら、そこに少女がいたことを改めて思い出したような顔つきになって、
 「どうした?」
 「あ、あの・・・何かあったのですか?」
 「何だって?意味が分からねえな」
 「いえ、あの・・・ここ最近、お見えがなかったのもので、それで・・・」
 「何だよ、オレが来なくて寂しかったってのか?」
 比良坂は一瞬、人を小馬鹿にしたような本来の口調を取り戻して言った。
 「それともオレのことを心配でもしてくれてるワケか?奴隷のお前がよ?」
 「・・・・・・」
 「身の程もわきまえないでナマ言うんじゃねェよ。お前なんぞにこっちのプライベートな事情を話したところで・・・・」
 そこまで言って比良坂は不意に言葉を切り、タバコを灰皿に押し込んだ。顔には何かふて腐れたような奇妙な表情を浮かべている。


 「まあ・・・別に勿体ぶるようなことでもないから話してやるか。実はな・・・」
 男は上着を脱ぎ、足を組み直した。
 「オレは命を狙われてるんだ。この半月ばかりはかなりヤバイ感じでな」
 「えッ・・・」
 思いがけない言葉に、静音はギョッとなって目を見開いた。


 「最近オレたちは、ある犯罪組織を潰す計画を進めていたんだ。前にも言ったが、PPOだって悪徳に目をつぶってばかりじゃない。たまには毅然とした対応を取って、市民にも犯罪組織にもPPOの権威ってモンを印象づけてやらなきゃならないからな。そこでその組織と対立する組織にガセ情報を流して抗争を煽ってやった。互いに抗争で弱体化させてから、楽に摘発してやる作戦だったのさ。昔からよくあるやり方で、陳腐だがそれなりに効果的なんだ」
 「・・・・・」
 「ところが今回はヘタを打っちまった。情報が漏れて、PPOの作戦だってことがバレちまったんだ。無能な部下共のおかげでな!」
 怒気鋭く言って、比良坂は新しいタバコに火を付ける。


 「組織の連中は当然怒り心頭だ。これまで持ちつ持たれつでやって来たオレたちからいきなり切り捨てられたんだから無理もないわな。そこで組織同士の抗争を手打ちにして、共同でPPOに牙を剥いてきやがった。狙いはもちろん、管区長のオレの命だ」
 「まあ・・・」
 「連中の軍資金は潤沢だ。その金で大勢のヒットマンが雇われたらしい。つまりオレは四六時中的(まと)にかけられてる賞金首ってワケだよ」
 「・・・・・」
 「こういう稼業だから、もちろん命を狙われることは初めてじゃねえし、そのための備えだってしてある。しかし今回はどうも分が悪い。連中はマジにキレてて、オレを殺すまでは絶対に諦めないだろう。取引の余地がねェんだ。と言って、今さら組織を力ずくで潰滅しても意味がねェ。そんなことをしても、連中は地下に潜ってオレを狙い続けるだけだからな」


 「・・・PPOには暗殺を阻止するノウハウがあるのじゃないんですか?」
 我知らずに、静音は励ますような調子で言った。男の追い詰められた様子につい引き込まれてしまったのだ。
 「そりゃあるさ。そのための備えもしてるって言っただろ?」
 素人め、という表情になって比良坂は言い返す。
 「だけどな、こういう場合はどんな備えだってムダになることが多いんだよ。何故ならケンカってのは、狙われる立場より狙う立場の方が圧倒的に有利っていう原則があるからなのさ」
 「はあ・・・」
 「考えてもみな。命を狙う方からすりゃあ、好きなときに、好きな場所で事を仕掛けりゃ良い。それに比べてこっちは、来るか来ないか分からない刺客を常に警戒してなきゃならねェ。それで一方的に消耗させられて、結局いつかは殺られちまうってワケだ」
 「・・・・・」
 「まあ、自分1人の身なら何とか守りきれるかもしれねェが、組織の連中はオレの家族も狙ってくるつもりなんだ。見せしめのためにな。・・・お前には話してなかったかもしれないが、オレには女房も、11才になる息子もいる。ろくに構ってもやらず、ほったらかしにしてきた家族だが、オレのドジのせいで殺されたりしたんじゃさすがに可哀想だ。だからその警護もやらなきゃならないんだが、どうにも手回りかねる。PPO隊員だってそうそうヒマじゃないからな」
 ハァ〜と長く息を付き、比良坂は頭をうなだれた。
 「オレがヤバイことになってるってんで、PPO本部の態度も素っ気なくなり始めた。ヒビの入った管区長はさっさと見捨てて、組織との関係を修復するつもりなんだろう。八方塞がりってのはこのことだな」


 「・・・そうですか・・・それでお見えがなかったんですね」
 「別にここへ来る時間がなかったわけじゃないがな。ただ少しでも狙われにくいように、行動パターンを変えていたのさ。毎日決まってサンクチュアリに来ていたら、ヒットマンに襲撃の機会を与えてやってるようなもんだろう?」
 「はあ・・・」
 「・・・まあ、オレもヤキが回ったってことなんだろうな・・・」
 比良坂は何かしみじみしたような調子で言った。
 「自慢じゃないが、悪どいことは散々やってきた。犯罪組織の上前をはねるのなんざ序の口だ。うるさく嗅ぎ回るジャーナリストを消してやったこともある。そういう不品行のツケをそろそろ払えって言われてるのかもしれねェな。踏み付けてきたヤツらの亡霊から・・・」
 「・・・・・」
 静音は目の前で起こっていることに圧倒されていた。
 あれだけ非情かつ傲慢極まりない男が、為すすべのない窮状に落ち込み、あがき、打ちひしがれている・・・。にわかには信じられないような光景である。
 散々に自分を陵辱してきた、憎んでも憎みきれない相手なのだから、ザマアミロとでも言いたくなって当然のはずだが、何故か少しもそんな感情は湧いてこない。不思議に静かで、またどこかシクシクと切ないような心持ちだった。


 そして・・・・


 「あの・・・私で何かお力になれることはないでしょうか?」
 思わず口をついて出た言葉が、他ならぬ静音自身を愕然とさせた。一体何を思って、自分は男にそんな声をかけたというのか。


 「ヘッ、何だよ、オレに同情してくださってんのか?」
 比良坂は醜く口の端を歪めて笑った。
 「落ち目になったオレは家畜のお前よりも格下か?つい励ましたくなるほど惨めに見えるってか?ああ?」
 「いえ、私は・・・」
 「奴隷のくせに生意気なこと抜かすなと言ったろうが!」
 苛立ちが極まったかのように、男は怒鳴り声を上げて立ち上がった。
 「何を勘違いしてやがる!人間以下のヤツに心配してもらって、オレがホッとなんぞ出来るか?逆にプライドがへこむだけだ!ムカつくだけだってんだよ!」
 「・・・・・」
 「お力になれますかだと?お前ごときに何が出来るってんだバカめが!お前ごときに・・・・」
 ヤケクソめいた調子で喚き続ける比良坂は、しかしそこで不意に言葉を切り、我に返ったような表情になって静音を見下ろした。


 「・・・フン、そうだな、せっかくだからコッチの奉仕をやってもらうか。お前が役に立つ事と言えばコレ以外にはないんだからな」
 スーツを脱いでトランクス姿になると、比良坂は自らの股間を指し示した。口元には再び薄い笑いが浮かんでいる。静音を大げさに見下すことによって、強引に精神の平衡を取り戻そうとしているかのようだ。
 「まずは口とオッパイでコイツを奮い立たせてみせな。だがいつもみたいに簡単にはいかねェぞ。情けねェ話だが、今のオレは揉め事にブルってポテンツが落ちちまってるからな」
 「は、ハイ御主人様・・・」
 ひざまずいた姿勢でいそいそと寄り添うと、静音は男のトランクスに手をかけて引き下ろし、その局部をむき出しにした。


 1ヶ月前の静音であれば、例え下着越しにでさえおぞましくてたまらなかったはずの男の肉体だが、マーメイドとして散々に調教を受けた今では、少なくともその器官に対する強烈な嫌悪感は無くなっている。いやそれどころか、およそ一週間ぶりに見るその巨大な肉塊に、何か懐かしさのような奇妙な感慨が込み上げてくるのを、彼女は当惑と共に自覚した。
 (私・・・身も心も浅ましい色に染められてしまったよう・・・。でもこの人に奉仕することでしか、今の私は自分がここにいるということすら主張できないもの・・・・)
 静音は着けていたブラを自ら外して床に置いた。肉の双房がドッという迫力であふれ出し、身体の前に重たく吊り下がる。
 それを両手ですくい上げるようにして支え持つと、目の前に立つ男のシンボルに下からあてがい、柔らかく挟み込んだ。


 「し、失礼します・・・」
 非常識としか言いようのないボリュームと重さになってしまったバストを懸命に操り、静音はパイズリ奉仕を始める。
 キュッ、キュッ、キュッ、ジュッ、ジュジュッッ・・・・
 埋め込まれたバイオチップの作用がたちまち少女の胸に淫らな汗を浮き出させ、肉の摩擦音を重たく湿らせていく。静音が舌も使い始めると、さらにピシャピシャというミルクを舐めるような音が加わり、行為の淫靡さがいや増すのだった。
 散々に訓練された作業だけあって、静音は物腰こそ未だおずおずとしているものの、その動作にはよどみがない。たったの一月で、無垢だった乙女がここまで娼婦じみた真似が出来るようになるものなのかと驚嘆させられるほどだ。

 「ん・・んむッ・・・んッ、んッ・・・」
 羞じらいで顔を真っ赤にしながらも、静音は含んだモノにヨダレをまぶし、舌で丁寧にくるみ込み、さらにバストで大胆に刺激を加えることを繰り返す。そしてときおり、
 「うあッ!・・・」
 すでに硬く充血している乳首同士がこすれ、ともすれば自分自身がアクメに導かれてしまいそうになる。しかし静音はそれを必死にこらえ、動作を中断することのないよう、健気に気を張り続けるのだった。


 だが・・・・


 事前に言われていたとおり、男の肉体の方は反応が芳しくない。
 それなりに硬さもボリュームも増してはいるのだが、大きく反り返って天を指すような勢いがないのだ。
 何より、海綿体を満たす血の熱さ、そこに宿る野獣のような猛々しさが全く感じ取れない。この男の竿をイヤと言うほど扱わされてきた静音には、その異常がハッキリと分かるのだった。


 「やっぱり上手くいかねェなァ・・・」
 比良坂はまるで独り言のような調子で言うと、静音の頭に手をかけて軽く揺すった。
 「もういい。今日は止めておこう・・・」
 頭上から降ってきたその声が、少女にはまるで自分への死刑宣告のように響いた。
 「も、もう少し御奉仕させてください!」
 パイズリを続けたまま、必死の形相で言い募る。
 恵麻里がクリスによって性奴隷に堕し、ここから脱出する望みもない今、自分も奴隷として男に尽くすしか生きる道はない。しかしそれすらも否定されてしまえば、奴隷以下の、芥(あくた)のような存在ということになってしまう・・・・足下が砂に飲まれていくようなその不安が、静音に頑なな態度を取らせていた。


 「続けたってムダだ。気が乗らねェんだよ」
 「もっと心を込めてやりますから!お、お願いします!」
 「もういい・・・いいって言ってんだッ!」
 苛立った怒声を上げ、比良坂は静音の身体を乱暴に突き放した。
 バストの谷間からペニスが引き抜かれ、股間に垂れ下がる。フォルムこそいつもながらに長大だが、ダラリと頭をうなだれた様子はいかにも勇ましさを欠き、男の萎縮した精神状態を映しているように見えた。


 「す、スミマセン・・・」
 乳房を高く持ち上げたまま、静音は絞るような声音で言った。
 「上手く出来なくて・・・私がヘタクソだから・・・御主人様を元気づけられなくて・・・・」
 詫びながら、我知らずに涙があふれ出してくる。


 何とも言えない惨めな心境だった。


 犯罪組織に付け狙われ、強気のポーズを取り繕う余裕すらない比良坂。そしてそんな男の淫ら事の相手すら満足に務められない自分・・・・。
 どちらも哀れで、この世で最も柔弱な生物のように思えてくる。


 「ゴメ・・なさい・・・ゴメンナサイぃい・・・・」
 とうとう声を上げて泣き出した静音を、比良坂はしばらく苦虫を噛みつぶしたような顔で見下ろしていたが、やがて、
 「気にすることはねェよ。お前のせいじゃない」
 何か漂白したような、静かな声で言った。


 「オレが意気地なしだってだけなんだ。だからもう良いんだよ」
 「で、でも・・・」
 さらに言い募ろうとする静音を片手で制し、比良坂は再び床に胡座をかいた。
 「何だか・・・・」
 言いかけてややためらい、男は静音の方を向いた。信じられないが、顔には何か照れたような表情が浮かんでいる。


 「お前の殊勝さに感じて言うわけじゃないが・・・それなりに元気づけられたような気分だぜ。まあ竿の方はこのザマだが、不思議と気が楽になったって言うか・・・」
 「まあ・・・」
 「今のオレは、ここから一歩外へ出りゃあ街のチンピラみてェな気分だ。何処で刺されたり撃たれたりするか分からねェんだからな。だがここにいりゃあ、少なくともお前の『御主人様』ではいられる。一月かかって仕込んだお前の顔を見れば、それが実感できるんだ」
 「は、ハイ御主人様!」
 本心から同意し、静音はそう頷いた。


 目の前にいる男は、少なくとも今は自分の敵ではないし、また恐れるべき相手でもない。そう強く感じる。
 何故ならとてつもなく傲慢に思えたこの男も、結局は自分と同じ、心に弱さを抱えた1人の人間に過ぎないということが分かったからだ。またその弱みを自分にだけは隠さずに見せてくれたのだという思いが、比良坂に対する奇妙な親近感を生じさせてもいた。


 「癒してくれてありがとうよ。こっちへおいで」
 聞いたこともない穏やかな声で比良坂が言う。
 それを聞いて静音は頭の芯が痺れたような心持ちになり、ひざまずいたままフラフラと彼に近寄ると、広げられたたくましい腕に身体を預けていった。
 比良坂は少女の豊満な肉体を大事そうに抱きかかえ、これも彼なりの感謝の気持ちからなのか、その首に巻き付いている鎖付きの首輪を外してやる。


 「覚えが悪いと散々叱ったが、お前にもいつの間にか、立派にマーメイド魂ってヤツが育っていたんだな」
 「ご、御主人様の・・お仕込みが良かったから・・です・・・」
 優しく髪を撫でられ、トロンとした目つきになって、静音はこれまでであれば強制されなければとても言えなかったようなセリフをためらいなく口にした。
 その唇へ比良坂の口が覆いかぶさり、きつく吸い付いてくる。
 「むッ!・・・」
 静音は一瞬ギクリと身体を緊張させて抗うような様子を見せたが、すぐに力を抜いて口づけに応え、自ら貪るように舌を絡ませ始めた。


 (素敵・・・気持ちイイ・・・)
 単なるキスであっても、一週間一切のスキンシップから遠ざかっていた静音の肉体には十分に激しい刺激となり、舌の細胞全てから電撃のような官能が湧き起こる。
 理性や思考力がみるみる麻痺していき、というより、脳の働きがたった一つの感情へと急速に収斂していき、他のこと一切が考えられなくなってきた。その感情とは、目の前の男への恋慕の情に他ならない。
 尊大で猛々しい獣王のような顔と、柔弱な敗北主義者の顔という二面性が同居したこの魅力的な男を、自分は何故あれほどに忌み嫌っていたのか、静音は思い出すことが出来なくなっていた。


 その心情の変化が男に伝わり、彼を奮い立たせたわけでもなかろうが、
  「オッ・・・」
 比良坂は不意に軽い驚きの声を上げ、キスを中断して自らの股間に目を落とした。
 「見ろよ、元気になってきた!」
 本来のポテンツを取り戻したかのように、ムクムクと高く起きあがりつつあるペニスを見て、はしゃいだ様子で言う。
 「あッ、本当・・・」
 つられてつい華やいだ声を上げてしまい、静音はすぐに真っ赤になってうつむいたが、男の方はますますウキウキとした調子で、
 「お前のおかげだ。癒されて、竿に空気が入ったんだ。これなら使えるぞ。お前を抱いてやれる!」
 「あ、愛していただけるのですか?嬉しい・・・」
 男の肉体を本心から求めるセリフを、静音はついに口にしてしまった。
 しかし比良坂への嫌悪と恐怖心が氷解した今、彼との交合を拒む理由は何もない。まして改造された肉体の方は、ここ最近の欲求不満に堪えかね、その解消を狂おしいほどに求めているのだ。


 「愛していただける、なんてお上品に言われても困るが・・・まあそうだな、今日は助けられた礼もあるし、なるべく優しく抱いてやろう」
 「い、いえ、どうぞ、御主人様のお気の済むように・・・」
 奴隷としての分を過ぎてはイケナイと、慌ててへりくだる静音を、比良坂はまあ遠慮するなとでも言わんばかりの笑顔で再び抱き寄せ、ショーツに太い指を這わせ始めた。
 「ああッ!・・・」
 泣き声にも似た嬌声が上がり、静音は痺れるような官能に身を震わせる。男の指が触れた瞬間、下腹部が淫らな熱でボッと燃え上がったようにすら思えた。


 「何だ、お前の方はすっかりヤル気じゃないか。もうパンツの上までヌルヌルになってるぜ」
 「は、恥ずかしい・・です・・・私、こんな・・・・」
 「別に恐縮することでもねェだろ。いつでもイヤらしく濡れてこそ、立派なマーメイドだ。さあ、もっと感じてごらん・・・」
 言いながら、男は再び静音の唇を吸う。
 這い込んできた舌に口内を愛撫され、その心地よさに一瞬意識が飛びかけると、さらに淫靡に蠢き始めた指が、今度はその意識を激しくそちらに引き寄せる。
 少女の理性は、それぞれの性感帯の間でピンポンされ、奪い合われて、たちまち細い糸のように脆弱に伸びきってしまった。
 やがて男の指が、重たく濡れたショーツの布地越しに秘裂をかき分け、その上端にプックリとふくれ上がっている羞恥の芽をグリッと揉みつぶすと、
 「いああッ!!」
 静音の腰が感電したかのように跳ね、全身がキリキリと弓なりになる。


 「ん?アガっちまったのか?」
 肩で大きく息をし、次第にグッタリと脱力していく少女の顎をすくい取って、比良坂は囁くように言った。
 「ごめ・・なさい・・・静音、もうイッて・・しまいました・・・お、お許しを・・御主人様・・・・」
 あまりに他愛もなく達してしまったことが恥ずかしく、情けなくて、静音はすすり泣きを洩らしながら詫びるが、男は優しく笑って、
 「だから、謝らなくても良いんだって。遠慮せずに何度でもイケば良いじゃねェか。お互いゆっくりと楽しもうぜ」
 「は、ハイ・・・」
 「もうこれは脱いじまおうな?ビショビショに透けちまってるし・・・」
 仰向けに横たえられ、濡れたショーツが抜き取られる。
 「あ・・・」
 さすがに羞恥に堪えかね、思わずきつく脚を閉じ合わせようとするのを、比良坂は両手で観音開きに押し割ってしまい、Mの字になった脚の間に顔を寄せていった。
 「見せてくれ。一週間ぶりに拝む静音のアソコをよ・・・」
 「う・・・」
 男の生暖かい鼻息を秘部に感じ、静音は切なげに身じろぎをする。
 今や相手の視線から覆い隠しようもないその部分は、相変わらずツルツルに剃毛処理をされ、こんもりとせり出している肉の丘を一層艶めかしく見せていた。


 「いつもながら綺麗だ。オレが来ない間も、キチンとお毛々の処理はやっていたんだな」
 「それは・・・毎日、お風呂の時に、クリス様が・・・してくださって・・・」
 「なるほどな・・・それで・・・」
 「ひゃうッ!」
 男の尖った舌先が膣口にスッと差し入れられてきたことに不意を突かれ、静音は悲鳴と共に内股の筋をギュッと緊張させる。
 「クリスのヤツはこっちの方も可愛がってくれたのか?あの女に抱かれたのかい?」
 「い、いえ・・・」
 あえぎながら、静音はふるふると首を振った。
 「クリス様は・・・恵麻里さんの調教でお忙しいからと・・・私のことは、お風呂に入れてくださるだけで・・・・」
 「じゃあ一週間、オ○ンコは御無沙汰だったのかよ?」
 「ハイ・・・」
 「そりゃさぞかし辛かったろう。改造された身体にゃあ、禁欲は断食みたいなものだっていうからな」
 しみじみした調子で言うと、比良坂は静音の裸身を裏返して四つん這いにさせ、自身はその真下で逆方向へ頭を向けて仰向けになった。つまりは6-9の態勢である。


 「お詫びと言っちゃ何だが、念入りに欲求不満を解消させてやらなきゃな。さあ、今度は一緒に気持ちよくなろうぜ」
 静音のヒップに手を当てて腰を落とさせ、下からその股間に吸い付くようにして、男は再び舌を使い始める。
 「むッ!・・ああ・・・」
 一瞬ビクッと腰を浮かせかけたものの、すぐに力を抜いて比良坂の舌技に身を任せ、静音は自分も眼下にある相手のシンボルへの奉仕を始めた。
 ヒジをついた格好で乳房を操り、男のモノを挟み込むと、最前は中断させられてしまった行為を熱心に再開する。

 「んッ・・んッ、んッ・・・・」
 柔らかな肉の谷間を突き抜けて顔を覗かせている亀頭部に舌を這わせると、明らかに先ほどとは違う、情欲のマグマのような気配が内部にたぎっているのが感じ取れた。
 他でもない自分が、この男を勇気づけ、肉体にエネルギーを注いだのかと思うと、何とも奇妙な幸福感が湧き起こってくる。それが静音を饒舌にさせ、恵麻里にはとても聞かせられないようなセリフがはしなくも口をついた。
 「と、とても元気になっていますッ!御主人様、いつもみたいに立派ですッ!」
 「フフ、元気で比べりゃ、今はお前の方が大したモンだぞ」
 少女の股間に顔を埋めたまま、比良坂がくぐもった、しかし楽しげな声で応じる。
 「まさに尽きない愛の泉ってヤツだなこりゃ。こちらの顔までヌルヌルだぜ」
 「す、すみません・・私・・・」
 「分かってるって。散々溜まってたんだから無理もないさ。まだまだもっと感じて良いんだぜ。ホラ・・・」
 男はヒョイと首を持ち上げると、大ぶりのクリットを吸い出すように舌で絡め取り、コリッと甘く前歯を当てた。
 「えあああッ!!」
 腰が激しく跳ね上がり、比良坂の股間に顔を突っ伏すような格好で、静音は先回に増す破壊的な絶頂に屈した。
 ヒップは高く差し上げられたままですぐには下ろすことも出来ず、オルガの余韻にビクビクと痙攣し続けている。
 膣口が咳き込むように蠢いて新たな蜜を吐き出し、両腿の内側へトロリと滑らかな流れを作っていくのが異様に艶めかしかった。


 「もしわけ・・あいませ・・・また・・・」
 口がひどくもつれ、詫びようとする言葉がそのままむせび泣きに変わる。
 一週間の禁欲が、性感の質をこれまでより数段純度の高いものにしており、それが身体の機能をも様々に麻痺させつつあるのだ。
 今の静音にとって、それは既に屈辱を伴うことではないが、「御主人様」である比良坂をさておき、自身だけが快楽を貪っているように感じられ、そのことが恥ずかしく、申し訳のない心境だった。
 しかし比良坂はあくまで穏やかな物腰のまま、
 「そんなにヨガってくれると調教師冥利に尽きるぜ・・・」
 言いながら身体を起こし、未だ硬直気味の静音の裸身をリラックスさせるように愛撫しながら、優しく横たえてやる。粘液にまみれたヒップが、床にベタリと湿った音を立てた。


 「だがこうもビショ濡れだと、これ以上ジラすのは可愛そうだな・・・オレのモノが欲しいだろう、静音?」
 「は、ハイ・・・」
 男の問いかけに、静音は半身をフラフラさせながらも起こし、
 「すごく・・欲しいです・・・御主人様の、どうか・・・く、くださいませ・・・」
 上気した顔を切なげに歪めて哀訴する。ヨダレが口の端から顎を伝い、熱くふくれ上がったバストにポタポタとこぼれ落ちた。
 肉欲への渇きは、二度の絶頂を経ても少しも癒されることがなく、むしろますます強烈に、彼女を内奥からあぶり続けているらしい。
 「く、苦しいの・・・欲しくて気が狂いそうですぅう・・・・」
 これが、囚われの身でありながら必死に性の暗黒を拒み、理性を見失うまいと抗い続けてきた、かつての聖少女の姿だとは!・・・・
 職業柄、静音もこれまでに幾度か目にしてきた、薬物と調教によってモラールの崩壊した少女たち・・・もしも自分があんな状態にされれば、とても生きてはいられないと恐れた、その淫獣のような浅ましい姿に、今や彼女自身が完全に堕してしまっていた。


 「オレのイチモツの方は、まだ完全に本調子とは言えないが・・・なるべくご期待に沿えるように気張ってみるかな・・・」
 自らを鼓舞するように言って、比良坂はバックスタイルでの挿入を試みようと静音のヒップを抱え込んだが、そこでふと何かに気が付いたような表情になり、
 「おっとそうだ・・・オレの方はともかく、お前、その格好のままで物足りなくはないのか?」
 「え?・・・」
 言われた意味が分からず、静音は戸惑った表情を男に向けた。
 「格好」と言われても今は全裸なのだが、また何かコスチュームを着ろと言うのか、それとも体位の好みでも指定しろと言うのだろうか?
 いずれにしても、今の静音にはどうでも良いことであり、彼女の取りあえずの望みは、男の肉体を一刻でも早く体内深くに受け入れたいということだけなのだが・・・・


 「いや、お前が構わないのなら別に良いんだが・・・」
 相手の不審そうな反応に苦笑して、比良坂は言った。
 「何というか・・・いつもの、調教の時の『抱かれ方』に、お前は馴染んでるんじゃないかと思ってな。つまりその、お前は手足が自由なまんまで抱かれたことってあまり無いだろう?だから・・・」
 「あッ!・・・」
 どうしてそんなことに気が付かなかったのだろうという表情になり、静音は座った姿勢でいそいそと両手を背中に回した。
 「て、手錠・・・手錠をかけてください・・・」
 「無理しなくても良いんだぞ。イヤならそのままの格好で・・・」
 「いいえ、どうか手錠をお願いします。静音は御主人様の奴隷ですから・・・やっぱり奴隷らしい姿で愛していただきたいですから・・・・」
 少女が次第にすがるような口調になるのを見て、比良坂はそれが本心からの言葉だとようやく得心したらしい。
 「よしよし、ちょっと待ってな・・・」
 そう言って、床に脱ぎ捨ててあったスーツのポケットから手錠を取り出し、後ろに回した静音の手首をカシャリと繋ぎ止めてしまった。


 「ああ・・・」
 切なげな吐息を漏らし、静音は手錠の感触を確かめようとするかのように腕を揺すって、ガチャガチャと鎖の金属音を立ててみる。
 自分でも到底信じられないことだが、両手が不自由になってまず胸を満たしてきたのは、涙が出そうになるほどの深い安堵の気持ちであった。まるで手錠というアイテムが、本来の自分を縛り付けるのではなく、逆に解放してくれたかのような、奇妙な倒錯感覚・・・・


 (もうダメ・・・私は完全におかしくなってしまった。狂ってしまったんだわ。・・・でもそれでもイイ。狂ってしまうことこそが、この牢獄では、逆に正気を保つ唯一の方法だと気が付いたのだから・・・・)
 静音は今さらながらに何某かの真理に到達したような感慨を覚え、そしてそのことを彼女に気付かせてくれた愛すべき「恩人」に、熱の籠もった視線を向けた。
 「ありがとうございます・・・手錠、嬉しいです・・・」
 「そいつはオレの私物なんだ。この部屋はバスルームと違って備品入れが用意されてないからな。でもやっぱり静音には手錠が似合うよな・・・」
 照れ臭そうに比良坂は言って、さらに最前外してやったばかりの首輪も彼女の前にかざし、
 「ついでにこれもはめるかい?『奴隷らしい姿』ってんなら、首輪もしていた方がよりそれらしいだろう?」
 「は、ハイ、是非・・・」
 恍惚となってうなずく首筋に、クルリと首輪が巻き付けられる。尾錠の鳴るカチッという微かな音が、更なる妖しい興奮を喚起するのを、静音は感じた。


 自分はあらゆる自由を奪われた俘囚なのだ。この男に為すがまま弄ばれるよりない、哀れなお人形なのだ・・・そう考えるだけで、身体の芯に淫らな蜜が熱く湧いてくる。
 この1ヶ月、比良坂によって念入りに植え付けられ、醸成されてきたマゾヒズムが、静音の体内で爆発的に開花を始めた、まさにその瞬間であった。

 「可愛いヤツだ。さあ、続きをやろうな」
 そう言って再び床に胡座をかくと、男は首輪に繋がれた鎖を手繰り、静音を背後から抱くようにして身体の前に座らせた。
 ちょうど父親が子供をヒザに乗せてあやすような格好だが、まさに父親めいた慈しみの表情を浮かべながら、比良坂は少女の熱くなった裸身を愛撫していく・・・
 「んッ・・くああッ・・・」
 男の大きな掌が乳房を揉み絞り、その切なさ、心地よさに、静音は歯を食いしばったような喜悦の声を漏らす。
 思わず仰のかせた頭も男の手に巻き取られ、先に増す情熱的なキスで金縛りにされた。
 「んむうッ!・・・」
 舌同士がカッキリときつく絡まり合い、その快感によって静音の意識が飛びそうになった瞬間・・・・
 それを見すましたように、いつの間にかヒップの下へと回り込んでいた男の手が、彼女の身体を大きく開脚させた格好で持ち上げ、今はすっかりベストの状態にまでポテンツの上がったイチモツへ、上から落とし込むように合体させていく。


 ズリュウウウッ!


 ぬめった音と共に、熱く開ききった雌型が、硬く天を指す雄型をスムースに呑み込み、膣口から子宮までが一瞬に肉で突き通された状態になった。
 「えがアアアアアッ!!」
 獣じみた叫喚が上がり、静音は両足をバネ仕掛けのようにピンと前方へ振り上げた格好で、今日3度目の激しい頂へと追いやられた。
 「い・・まィ・・わ、わ・・・・」
 仕付けられている通り、達したことを律儀に申告しようとするが、ふくれ上がった舌が口腔を塞ぐように飛び出し、焦れば焦るほどまともな発声が出来なくなる。
 比良坂はそんな静音の肩を「分かっている」とでも言うように優しく撫でさすり、ようやくこれからが本番とばかり、ねちっこいリズムで腰を使い始めた。
 「はぅ!あッ!いあッ!!・・・」
 悲鳴を吹きこぼし、静音が裸身を再び激しくよがり出す。と同時に彼女は、身体の芯を強く捉えている不可思議な感覚に気が付いていた。


 (何なの?・・・バイオチップの効果だけじゃない・・・こんな感じ初めてッッ!・・・・)


 これまでに全く味わったことのない、異質な、しかも異様に高密度の快感であった。
 媚薬や人工細胞によって強いられる、強烈ではあるがどこか平板な官能とは違い、男の肉体にみっしりとまとわりついた自らの膣壁が、細胞の一つ一つまで芳醇な心地よさに支配されていくのが分かる。しかも、まるで手に取るようにクッキリとした輪郭を伴って・・・・
 それはもはや単なる性感ではない。
 心の中まで全てが至福に満ちていく、まさに「天にも昇る」と形容するしかない感覚だ。


 (どうしてこんな?・・・・いいえ、分かってるわ。ちゃんと分かってる・・・)
 めくるめく官能の嵐にさらされながら、しかし完全にはそれに翻弄されることなく、静音は今や自らの意志でそれを受け止め、味わい、意味を咀嚼しようとさえする。
 (それは、この交わりが強いられたものではないから。私は比良坂様を必要とし、今は比良坂様も私を必要としてくださっている。だから気持ちがイイの。互いが求め合った行為だから。本当にしたくてしていることだから・・・・)
 大声でそう叫び出したいような気分で、静音は素晴らしい快感の根源を自覚した。


 それは平たく言えば、愛のないセックスよりも愛のあるセックスの方が「良い」に決まっているというだけのことに過ぎない。
 しかし静音にとって、それは一ヶ月近くに及ぶ監禁、陵辱、薬物投与、肉体改造という凄惨な体験の末、ようやくに辿り着いた宝石のような真理なのだ。


 これまで男から散々に聞かされてきたこと・・・マーメイドとして生まれ変わる決意をすることが、イチバン静音自身のためになるのだという・・・は、決してデマカセやハッタリなどではなかった。
 肉親からまるで愛されない境遇に生まれつき、通常の社会では疎外感ばかりを味合わされてきた少女の安息は、思いもかけず、この牢獄での奴隷としての生活の中にこそあったのだ!
 恵麻里との生活の中でさえ覚えたことのない、自らが真に必要とされている人間なのだという幸福感が、静音の全身を官能と共に強く貫いていた。


 「どうだい、久々に腹の中へ入れるモノを入れた気分は?」
 小刻みに腰を揺すりながら男が言う。
 「ふ・・す、素敵ですッ!スゴイ・・・ふごく気持ちイイっ!・・・」
 髪を振り乱し、もつれる舌を必死に操って答えながら、静音は待ち焦がれた「御主人様」の肉体を、容易には逃すものかとキチキチに固く喰い締め、快感のひとしずくまでをも味わい尽くそうとする。
 「これを・・御主人様にしていただくことだけを・・・ずっと待ってました・・・欲しかったの・・御主人様のいない間、ずっと欲しくてたまらなかったんですゥうう!・・・・」
 「全く可愛らしいことを言ってくれるじゃねェか。ようし、オレも今のコンディションで出来るだけのサービスをしてやるぞ!」
 「う、嬉しい・・あぐッ!・・・」
 子宮口をグリッとこじられて、豊かな裸身が一際激しく跳ね躍る。
 それが行為のリズムを変える節目でもあったかのように、比良坂は身体を繋がらせたまま器用に少女の腰を回転させ、今度は向かい合う格好へと体位を移した。


 いかに静音が並はずれたグラマーとは言え、後ろ手錠の裸身を胡座の上に抱え込まれたこの姿勢では、丸まった背がいかにも小さく、弱々しい印象に見える。
 しかし今の彼女にとっては、男によって良いように嬲られ、弄ばれているということが実感できる体位であればあるほど、ゾクゾクするような悦びが身体の芯から込み上げてくるのだ。
 「こうして向き合わないと、お前の自慢のオッパイがよく見えないからな」
 言いながら比良坂は、目の前に破裂せんばかりのボリュームを誇示している静音のバストを、両の掌一杯にあふれさせながらすくい上げ、
 「オ○ンコだけじゃなくて、このオッパイもオレのことを恋しがっていたかい?可愛がって欲しいと疼いていたかよ?」
 「はァああッ!」
 右の乳首を吸い上げられ、舌と歯でコリコリと転がされて、その痺れるような快感に思わず叫ぶような嬌声が上がる。


 「気持ひイイの!オッパイも欲しかったです!御ひゅ人様に愛して欲しかったですゥ!」
 とうに充血しきっていた乳首が、男の口の中でさらに高く尖った円錐へと形を変え、キリキリと異様に硬度を増していくのが分かる。その部分がヴァギナに劣らない強烈な性感を発振し、それにつれ、静音の裸身はビクンビクンと大きく波を打った。
 「み、右だけしないでッ!お願いですッ、両方吸ってください御主人様ァああ!・・・」 
 「ん?こっちもか?」
 静音が叫ぶように言うのに応えて、比良坂はもう一方の乳房にも顔を寄せて見せるが、舌先でツンと乳首を弾くだけではぐらかし、
 「まあそう焦るなよ。じっくり、ゆっくり楽しもうじゃないか」
 「い、イジワルしないで!お願いです!・・お願いィいい・・・」
 すっかり涙声になって哀訴しながら、しかしその狂おしいようなフラストレーションが、逆に官能をいや増していくのも、静音は本能的に理解しつつある。


 もはや自分の肉体は、そして精神も、完全にセックスを貪ることのみに特化し、変質してしまったのだと認めざるを得なかった。責め込まれればもちろん、一旦引いたり焦らされたり、それら行為の全てが性感の増大に繋がってしまうのだ。
 だがそんな事は、今の静音にとって問題ではない。全てを造り替えられてしまったのなら、その新しい自身を堂々と表明し、存分に楽しむことだ。もう人としてのつまらないモラールになど縛られる必要はない。自分は倒錯した性の海をこそ活き活きと泳ぐ生物、マーメイドなのだから。


 「フフフフ、汗びっしょりだな。そんなイイのかい?」
 比良坂は自分もズクズクに汗を噴き出させながら言い、静音の手錠をカチャカチャと指でつついて、イタズラっぽい調子で付け加える。
 「腕が不自由でしんどくないかい?やっぱり手錠は外してやろうか?」
 「い、イヤッ!外さないでくださいッ!」
 はねつけるような声音で叫び、静音は首を打ち振った。
 「手錠されてるのがイイのッ!その方が燃えるんですッ!」
 「オヤオヤだ。こうまでお前がノリノリだと、こっちの方が気後れするぜ」
 比良坂は、相手のあまりの積極性に苦笑して、
 「もうオレの調教なんか必要なさそうじゃないか。今や静音も立派なマーメイドだな。セックスが好きで好きでたまらない、一人前の変態奴隷だ」
 「は、ハイ・・静音は・・変態です。セックス大好き・・手錠をされて、首輪をされて、スゴク感じちゃう変態奴隷なのォォオオ!・・・」
 泣き声とも悲鳴ともつかない凄絶な叫喚が室内に響き渡る。


 それは静音・ブルックスという人格が自らに下した、いわば死亡宣告であった。
 18年間、この時代の少女としては類いまれに清らかなまま保たれてきた魂が、しかし今やすっかり淫気に冒され、闇の奥底へ堕ちてしまったことを、彼女は完全に認めたのだ。


 「イイ子だ。手塩に掛けただけに、オレも嬉しいぞ。さあ、本格的に気を遣らせてやろうな・・・」
 静音が全面降伏を掲げたことに対して褒美を与えるかのように、比良坂はこれまで「おあずけ」にしていたもう一方の乳首をチュルンと吸い上げ、同時に激しく腰を突き入れた。
 「いァうううッッ!」
 目のくらむような快感に舌を飛び出させ、ヨダレを吹きこぼしてあえぎながら、静音は欲望のまだまだ尽きないことを必死に訴える。
 「い、イッひゃう・・またイッちゃいます!・・でももっと・・・もっと何度も、いっぱい、いっぱいイひたいのォォォォォ〜!!」
 前方へ振り出された脚が男の背に巻き付くようにして交差し、使えない腕の代わりにきつく抱擁する。同時に肉の壺もますます強く男の身体をたぐり込み、締め付けて、最大限に快楽を絞り尽くそうと蠢くのだった。

 「イイぞ静音。最高だ。最高の具合だよ」
 ゼイゼイと息を荒げ、比良坂は一気に感極まった様子で、
 「取りあえずいっぺん出ちまいそうだ。イイか?出すぞ!お前に出すぞッ!」
 「く、くだはいッ!欲しいのッ!静音に出してッ!御主人様の、いっぱい、静音の中にぶつけてくださいィィッ!」
 「ん、おおうッ!」
 ノドの奥で激しく唸り、男は静音のヒップを持ち上げるように下から支え持つと、突き入れた腰をブルブルと痙攣させる。と同時に、少女の胎内では汚れた精の奔流が猛然と炸裂した!


 「ンあああああああーッ!」
 上体を仰け反らせ、恐るべきボリュームのバストを振り立てて、静音は今日最大のオルガの波に全身を痙攣させる。
 かつて身の毛がよだつほどの嫌悪を覚えた男の体液が、今は何と豊かな心地よさを伴って花壺を満たしてくることだろう。
 これ以上に素晴らしい愉悦がこの世にあるだろうか?あろうはずがない。それを存分に受容出来る自分の肉体、そして境遇は、何という幸運に恵まれているのか・・・静音は目の前の男に対する泣きたくなるような感謝の念を押さえようがなかった。


 「何て素敵・・・静音幸せ・・身体中、幸せですッ!御主人様に愛していただいて、苛めていただいて、世界一幸せな奴隷女なのおおおおッ!!」
 肉の悦びへの感動を精一杯込めた叫びが、室内一杯に響き渡る。
 心身とも完全に成熟した人魚姫が、男の腕の中で妖しい輝きを放って誕生する、まさにその瞬間であった・・・・



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 「フン、毎度毎度、安くて見てられない三文芝居だわね」
 眠い目でモニターを眺めながら、クリス・宮崎は苦々しげに独りごちた。


 彼女のオフィスルームには、居ながらにしてサンクチュアリの全フロア、全室を監視できるデジタル端末がある。
 今見ているモニターには静音の監禁室内が映し出されており、そこでは比良坂と静音とが、ただれた痴態を果てることなく繰り広げ続けていた。
 のべつに激しい嬌声を上げ、全身を律動させて快楽を貪っている少女には、ほんの一ヶ月前の、「無垢」という言葉がそのまま人の形を取ったような雰囲気は毫も残っていない。
 そこにいるのはセックスを糧として育つ汚れた新生物であり、それはつまり、静音の性奴としての調教が実質的には完了したことを如実に示していた。


 「たまには少しシナリオをいじってみれば良いのにさ。本人は職人芸のつもりか知らないけれど、見ている方は退屈だったらないわ・・・」
 大きくアクビをして、クリスはオフィスチェアの背もたれに寄りかかる。


 彼女が退屈なのも道理だ。
 何故ならスクリーン内の光景は、これまで何度となく目にしてきた、「比良坂流」調教術の定番シーンだったからである。


 調教対象の心身をまずは徹底的に痛めつけ、追い込んで、自我の鎧を破壊し、しかる後、不意にその手を弛める。
 いきおい空虚になった相手の心理に、今度は自分の弱さをさらけ出して侵入し、比良坂への恐怖と憎悪を、逆に愛情へと転化させる・・・・これが比良坂の調教術である。
 単純ではあるが非常に効果的かつ強力で、一度この術中に落ちれば完璧なマインドコントロールが成立してしまう。古くから、軍隊でも捕虜を転向させるために用いられているやり方の応用なのだ。


 比良坂が、「命を狙われている」と静音に吐露したことはウソではない。しかし彼にとってそんなことはまさに茶飯事であり、特に怯えたり落ち込んだりするほどのネタではないのだ。
 全ては計算ずくの演技であり、調教のためのプロセスに過ぎないのだが、しかし演技であるということを毫も見抜かれずに(何しろポテンツまでを自律的にコントロールしてしまうのだから)、毎度100%の成功率で女たちを支配下に置いてしまうその手腕は、やはり非凡であると言わざるを得なかった。


 攻撃性ばかりが肥大化したピュアなサディストであるクリスには、比良坂のやり方はただまだるっこしいだけの気取った方法に思える。
 しかし彼が調教した娘たちは、その従順さ、奴隷としての躾の良さから、商品としての評判が非常に高い。だからクリスもビジネスはビジネスと割り切って、今では作り出すマーメイドの半数以上を彼に任せるようになっていた。


 (好みのタイプだから、静音ちゃんは私が直々に仕付けてやるつもりだったんだけど、今はコッチが忙しいから仕方がないわね・・・)
 クリスはモニターを別の部屋へと切り替えた。
 映し出されたのは、彼女が言う「コッチ」、つまり恵麻里が囚われている監禁部屋である。
 すでに売られていく先が決まっている恵麻里は、その納品予定まで間がないので、いきおいクリスもそちらに専心せざるを得ないのだった。


 モニターの中で恵麻里は、床のマットレスに横たわり、その背をかすかに震わせている。
 スン、スンと小さくマイクに入ってくるのは、彼女が鼻をすすり上げる音だろう。
 もう深夜の二時近いというのに、恵麻里は寝付くことが出来ず、闇の底でひっそりと嗚咽し続けているのだ。
 日々繰り返される激しい調教、そしてサキュバスによる残酷極まりない拷問で、さしも気丈だった彼女の精神も、砕け散る寸前にまで弱り切っているのである。
 首輪と鎖で繋がれ、丸く縮こまらせた裸身が、煉獄の底へ追い詰められた少女の心をそのまま映しているようで、何とも哀れな風情であった。


 (フフ、良いザマね・・・)
 クリスは満足げにほくそ笑み、血の色をした舌で上唇を舐め回した。
 この生意気きわまりなかった娘も、完璧な商品として仕上がるまでに、もうあと半月もかからないだろう・・・・経験から来る確かなカンが、クリスにそう教えている。


 だが恵麻里の場合は、静音のように、生まれ変わることを悦びと共に受け容れるような仕上がりとはならないだろう。


 肉体をすっかり変質させられ、抵抗する気力を残らず奪い取られながら、しかしなおその運命を受け容れられない・・・無駄と分かっていても、泣きじゃくって官能に抗い続けようとする・・・そんな嗜虐心をそそる惨めな奴隷を、恵麻里のオーナーとなる予定の人物は希望しているからだ。それはクリスの調教流儀とも合致している。
 静音の調教に関われないフラストレーションを解消する意味でも、クリスは恵麻里を最後までとことん嬲り抜き、その精神を恐怖と絶望だけで支配してやるつもりだった。


 (そうだわ、恵麻里ちゃんの仕上げの「儀式」は、せっかくだから静音ちゃんにも見学させてあげようかしら。いやむしろ、儀式を仕切る側として参加させてあげるってのも良いわね。どうせ静音ちゃんの方が、ずっと早く調教が終わりそうなんだし・・・・)
 またぞろ邪(よこしま)なことを思いついた様子で、クリスはクックッとノドを鳴らしながら、モニター内の恵麻里を凝視し続ける。
 少女探偵たちを苛む凄惨な処刑劇は、いよいよその最終局面に差しかかろうとしていた。


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