第3話 デビュー?アクシデント?大逆転?初戦は大勝利!!


 「んくっ・・・あああっっ、あんっ!!」
 暗闇の中で少女の喘ぎ声が響く。少年は少女を四つん這いにさせて後ろから貫き、激しく腰を叩きつけてゆく。少女の膣からあふれ出した愛液が飛沫となって布団に飛び散り、布団に染みを作ってゆく。
 「こんな・・・後ろからなど・・・ふあああっ、これではケダモノと一緒ではないか・・・」
 喘ぎ声を上げながら少女は文句の声を上げる。少女、シルヴェリア=デューム=エヴォールにしてみれば、セックスとは愛し合う者同士が抱き合い、愛を確かめ合うものだと思っている。だからいつも正面を向き合い、抱き合ってするのが普通だと思っていた。
 「そんなこと言って・・・こっちはこんなにビショビショじゃないか・・・」
 少年、豪拳寺精子朗はシルヴァの股間に手を回してそこを弄繰り回しながら彼女の耳元で囁く。そこが濡れ、愛液が滴り落ちてきていることは、シルヴァもよく承知している。しかし、頭で考えていることと、体が感じることは別だと彼女は思っている。だからといって後ろからする行為など、彼女には認められるものではなかった。
 「まったく、強情だなぁ・・・」
 精子朗はあきれ返りながらもシルヴァの両手首を掴みペニスをより深くへと押し込んでゆく。子宮の奥の奥へとペニスが侵入してきた感触にシルヴァは快楽の悲鳴を上げる。
 「これが気持ちよくないのかい?これも、これも???」
 腕を掴んだ姿勢のまま精子朗は激しく腰を突きたてる。精子朗が勢いよく突き上げるたびに、シルヴァの豊かな胸がプルプルと揺れて卑猥さを醸し出す。精子朗はその一突きごとにシルヴァの感じる箇所を抉ってくる。その度にシルヴァは切なそうな声を上げて精子朗の攻めを感じ、喘ぐ。
 「くううんっ、セイシロー・・・そんなに激しく攻めるな・・・妾が壊れてしまう・・・」
 「これくらいどうってことないだろう?これくらいでないと!!」
 切なそうに訴えかけてくるシルヴァに精子朗はさらに奥へとペニスを押し込んでくる。その攻めにシルヴァは体をビクビクと震わせ、膣道をキュウキュウと締め付けて喜びを表す。あふれ出した愛液は腿をペニスを伝って布団を濡らし、大きな染みを作ってゆく。
 「これが、いいんだろう?」
 「そうじゃ、それが気持ちいいのじゃ・・・」
 クリトリスをつままれて弄ばれると、さすがのシルヴァも降参し、正直に答えてくる。そんな彼女がかわいくて、精子朗は乳首とクリトリスを弄んだまま、さらに激しく腰を動かしてくる。ペニスで突くたびに行き場を失った愛液が噴出し、布団をぬらしてゆく。それでもシルヴァの膣からは止まる事を知らず、愛液が滴ってくる。
 「セイシロー・・・そこが、そこがいいのじゃ・・・んんぁあああっっっ!!」
 精子朗が両の乳首を弄ぶとシルヴァは嬉しそうな声を上げて頭を振る。よほど感じているのか、ペニスを締め付ける膣の動きも小刻みに激しくなってくる。そこで精子朗はペニスを律動させたまま乳首の攻めを激しくしてゆく。引きちぎらんばかりに締め付けてくる感触を感じながら、精子朗は快感を貪っていた。
 「シルヴァもこの3日でかなり慣れてきたね・・・」
 「当たり前じゃ・・・毎晩そなたがあんなに妾を貪れば・・・」
 そこまで言ったシルヴァはこれまでのことを思い返して顔を赤らめて押し黙ってしまう。精子朗はそんなシルヴァを背後から抱きしめて動くのをやめる。突然のことにシルヴァはきょとんとした表情で精子朗の方を振り返る。
 「どうしたのじゃ、セイシロー?いつもなら”自分がエッチなくせに”とか申して激しく動いてくるものを・・・」
 「んっ?そういうこともあるよ・・・」
 そう言ってシルヴァを抱きしめる手に力を込める。そしてシルヴァの肌の匂いをかぐ。甘い香りが精子朗の鼻をくすぐり、気分を落ち着かせてくれる。シルヴァはそんならしからぬ行動をする精子朗の手に自分の手を重ねる。
 「一つ言っておくぞ、セイシロー」
 「なんだい?」
 「妾はそなたとこの後もこういったことをしたいと思うておる」
 暗に明日勝てと、その後も勝ち続けろと命令してくる。そんな言葉を恥ずかしそうに言ってくるシルヴァの優しさが精子朗には嬉しかった。シルヴァとの別れが怖くなり、自分が負けるかもしれないことに恐怖し、いつしか緊張してしまっていたようだった。しかし、今のシルヴァの一言でそんな緊張から解放される。
 「ありがとう、シルヴァ・・・」
 「か、勘違いするでない!妾は己の自由のためにそなたに勝って貰わねばならぬのだ!」 
 精子朗が礼を言うとシルヴァは慌てて言いつくろってくる。しかし顔を真っ赤に染めていっても何の説得力もない。これ以上なにか言っても墓穴を掘るだけだと思ったのか、シルヴァは黙り込んでしまう。そんなシルヴァを抱きしめたまま精子朗はもう一度彼女に礼を言う。
 「必ず勝つのじゃぞ、セイシロー・・・負けることは妾が許さぬ・・・」
 「わかりました、我が姫君・・・」
 精子朗はシルヴァの言葉に大きく頷くと彼女の唇を塞ぐ。誓いの口付けを交わしたまま精子朗は腰の動きを再開させる。深く、激しく腰をシルヴァに叩きつける。その度にシルヴァの口からくぐもった声が漏れてくる。
 「必ず勝つ、シルヴァ。約束する!!」
 「その意気じゃ、セイシロー。そなたは妾が選んだ男。負けるはずがないのじゃ!!」
 シルヴァにそういわれるとむくむくと勇気がわいてくる。それが今の精子朗の全てであった。精子朗はシルヴァを正面に向かせるとキスを交わしたまままた腰を動かし始める。シルヴァもそれを受け入れ激しく精子朗を求める。
 「んんんっ、いいっ・・・いいのじゃ、セイシロー!!」
 「くッ、シルヴァ、シルヴァ!!」
 腰と腰がぶつかり合い、汗が飛び散る。溢れ出した愛液をペニスがかき回す音が淫らに響き渡り、ペニスが子宮口を叩く。いつも以上に激しく、早い動きにシルヴァはあっという間に極みへと登りつめてしまう。それは精子朗も同様であった。それでも二人も止まらない。
 「ふあああああっっっ、セイシロー、セイシロー!!!」
 「うぐっ!!シルヴァ!!」
 精子朗は子宮内の思い切り射精する。熱い液体がシルヴァの子宮を満たしてゆく。お腹の中を満たしてくるその温かさを感じながらシルヴァはそっと精子朗を抱きしめる。精子朗もシルヴァを抱きしめそのぬくもりを確かめる。お互いに抱きしめあい、恐れを追い払うかのようにいつまでもお互いのぬくもりを確かめ合っていた。


 翌朝、早くから豪拳寺家は騒々しかった。決闘の日を迎えたのだから当たり前ではあったが、それでも上に下にの大騒ぎであった。おもに騒いでいたのはシルヴァと倫の二人だった。
 「セイシロー、落ち着いて戦うのじゃぞ?」
 「精子朗!お守り持った?」
 一分おきに精子朗の様子を伺いに来ては声をかけてゆく。そのくせお互いに顔を見合わせることはなく、視線すら合わせることはない。そんな二人の意地の張り合いを見ながら精子朗はどこか落ち着いた気分になる。
 「セイシロー殿。貴方にお渡ししたスーツは決闘用のもので、大概のダメージから貴方を守ってくれるはずです」
 エルは今朝方渡したスーツについて説明をしてくれる。シュテンカイザーに合わせて色は赤いものが用意されていた。体にぴっちりと張り付くような感覚に精子朗はまだ慣れずにいた。原色のスーツを少し恥ずかしそうな表情で見つめながら迫り来る戦いのときに鼓動が高鳴っていた。
 「あ、そうだ。セイシローさん・・・」
 そんな緊張感を感じていた精子朗にアルが話しかけてくる。不思議そうな顔をする精子朗にアルは何事か、そっと耳打ちをしてくる。それを聞いていた精子朗の表情が驚いたものに変化する。
 「ちょ、大丈夫なんですか?そんなことして・・・」
 「大丈夫、大丈夫。この間の戦闘から得られたデータを検証してみてわかったことだから!」
 断言するアルの言葉が信じきれない精子朗は疑いの眼差しを向けるが、シュテンカイザーの整備をしてきたのは彼女である。おそらくこの機体の事を一番理解しているのは彼女だろう。
 「わかりましたよ。アルさんの言うとおりにします・・・」
 「そう言ってもらえると助かります!!」
 にっこりと笑うアルの笑顔を背に精子朗は了承する。そんな二人のやり取りに疑問を持っていたシルヴァたちが横から口を挟んでくる。
 「二人で何を話しておるのじゃ?」
 「え?ああっ、アルさんが五分間防御と回避に専念して戦いになれろっていうからさ・・・」
 精子朗の言葉を聞いたシルヴァも倫も驚きを隠せなかった。折角戦いに出たのに攻撃しないで防御と回避に専念しろなどと自殺行為のように思えた。そんな疑問に答えるようにアルが説明してくれる。
 「まずは戦い方に慣れてもらわないと。大丈夫ですよ。シュテンカイザーの防御力なら!」
 アルの言うことにも一理あるがそれでも心配を払拭できない。二人はなおも暗い顔をして心配そうにしていた。すると傍らで話を聞いていたエルがアルの考えに同意してくる。
 「確かにアルの言うとおりですね。それに五分間ならシュテンカイザーの防御力なら十分にあの五体の猛攻を捌ききれると思います」
 アルだけでなくエルも同意し、保証してくれたのでようやくシルヴァたちは安心した表情を浮べる。そんな会話をしている間に時は刻み、戦いの時間はやってくる。
 「さてと、そろそろいきますか・・・」
 精子朗は拍手を打ってしばし祈ると、大きく息を吐いて緊張をほぐす。そしていざ決戦の地に向かうためにシュテンカイザーに乗り込む。
 「セイシロー、必ず勝つのじゃぞ!!」
 「負けるんじゃないわよ!!」
 「セイシロー殿、ご武運を!!」
 「まあ、頑張ってください!」
 シルヴァたちの声援を背に精子朗はシュテンカイザーに乗り込む。パネルを操作しシュテンカイザーを起動させる。エネルギーが注入された動力が回転し始め、体全体にエネルギーがいきわたり始める。精子朗はパネルを操作に、シュテンカイザーに異常がないか調べてゆく。
 「駆動系、異常ない。バランサー、異常ない。動力、あれ?エネルギーが半分しかない?アレだけやってか?」
 パネルに映し出されたエネルギーの残量を見た精子朗は呆然とする。この3日間、何度もシルヴァを満足させてきた。エルの言う一週間10回の最低基準は充分に超えたはずである。なのに今パネルに映し出されているエネルギー値は最大値の半分しかない。
 『アルさん。エネルギーが半分ほどしかないんですけど、動力の異常ですか?』
 「違うわよ。シュテンカイザーのエネルギー値は今はそれが最大。最大までエネルギーが欲しかったらもっと姫様とやるべきだったわね!」
 マイクを通して尋ねてくる精子朗の質問にアルはそっけなく答える。そんな二人のやり取りにシルヴァたちはアルの手元のパネルを覗き込む。確かにゲージの半分ほどしかパワーが溜まっていない。それよりもエルを驚かせたのはその隣にある数値だった。
 「エネルギー値500?こんなに少ないんですか、シュテンカイザーのエネルギーは??!!」
 「どういう意味じゃ、エル?」
 悲鳴じみた声を上げるエルにシルヴァは不思議そうに尋ねる。そんなシルヴァをなんともいえない眼差しで見つめながらエルは簡潔に説明してくれる。
 「通常の決闘機のエネルギー値は5000〜10000が普通です。機体によってはその倍以上のエネルギーを持つものも存在します。ですからエネルギー値500というのは・・・」
 「普通の10分の1以下・・・」
 絶望的数値にシルヴァも倫も眩暈を起こす。しかし、すでに起動していたシュテンカイザーは出撃位置まで進んでしまっている。それに決闘開始まであと少し、とても今からジェネレーターをさらに充填している余裕などない。
 『確かに絶望的な値だけど・・・ま、何とかなるでしょう・・・』
 当の精子朗はそんなのんきなことを言いながらシュテンカイザーを進めてゆく。転移の扉をくぐり姿を消してゆくシュテンカイザーの姿をシルヴァは心配そうな眼差しで見送るのだった。
 「さてと・・・じゃあそろそろ私達も行きますか。倫さん、こっちに・・・」
 「姫様はそちらのポッドにお乗り下さい」
 シュテンカイザーの姿が見えなくなるとアルとエルも動き出す。監視委員としてこの決闘を見届けなければならない仕事が彼女たちにはある。シルヴァを一人乗りのポッドに乗せ、自分達は倫を伴なって小型の宇宙船に乗り込む。もちろんただの宇宙船などではなく、もしもの場合に決闘をやめさせる装備は十分に備わっている。
 「ところでなんじゃこのポッドは?何故、妾だけこんなものに・・・」
 「あれ、姫様知らなかったんですか?決闘の勝者は相手のパートナーを自分のものに出来るんですよ?そのエンブレムごと・・・」
 「なんじゃ、それは?妾は知らぬぞ!!」
 あっさりと答えるアルにシルヴァは目の色を変えて怒鳴り散らす。アルは説明していなかったけと不思議そうな顔をし、エルは頭を抱え込んでしまっている。そんなこと大会規定に書かれていることなので知っているものと思い込んでいたのだ。もっともこのお姫様がそんなもの読むはずがない。
 「これ、出さぬか!!妾はモノではないぞ!!」
 大声で文句を言うが聞き入れてもらえるはずがない。シルヴァの空しい叫び声を残してポッドはシュテンカイザーのあとを追って転移の扉を通ってゆく。それを確認してからアルは小型の宇宙船を発進させる。その先で待つのは太陽系での初めての戦いであった。



 シュテンカイザーが転移した場所はアル達が月の裏側に作った特設リングだった。リングといっても半径5キロ四方の輪っかで覆われているだけのものである。決闘機はその中でのみ戦うことを許される。勝敗は相手が参ったというか、行動不能になるまで続けられる。
 「ええっと、ようは敵を倒せばいいのか・・・あとは?」
 精子朗はエルから手渡された大会規定に目を通してゆく。いまさらだが、一応目を通しておいたほうがいいと考えて待ち時間に使うために持ってきたのである。
 「一応このリングは戦いを挑んできたものに有利なように出来ているんだ・・・」
 リングの機能を調べていた精子朗は驚きの声を上げる。普通の戦いなら相手の本拠地なら相手に有利な戦いの場が用意されるはずである。ところがこの決闘ではリング内が戦いを挑んだ者が最も得意とする戦場にする効果があるという。つまり場合によっては自分が不利な戦場で戦わなければならない可能性もあるのだ。
 「まあ、俺には関係ないか・・・」
 まだ一度も戦ったことのない精子朗にはどんな地形が得意で、どんな地形が苦手かなで分からない。どんな地形も不得手であるかもしれないし、どんな地形も苦手でないかもしれない。そんなのは実際戦ってみなければわからないだろう。それよりも精子朗の目を引いたのは他の項目であった。
 「なになに?勝者はエンブレムと共に相手のパートナーを捕虜または奴隷とすることが出来る?そんなおいしい特典があるんだ!!」
 喜色満面でよろこぶ精子朗だったが、自分が勝利したときのことを思い浮かべる。金髪の美女も黒髪の美少女も全て自分の思うように出来るのだ。望んだときの、望んだことをしてくれる、させてくれる。そう考えるだけで股間が熱くなってくる。同時に自分が負ければシルヴァを差し出さなければならない現実を認識する。
 「負けることは許されない・・・そう言うことだな・・・」
 そう考えると体が緊張してきて武者震いする。負けない、負けられない、その思いが心を支配し、緊張させてゆく。それがなぜか精子朗には心地よく気分を高揚させてゆく。
 「早く戦ってみたいな・・・」
 早く戦いのときが来ないかとうずうずしているとリング内に一体、また一体と決闘機が降下してくる。どうやらお客様がいらしたようだと精子朗はニッと笑う。精子朗の眼の前には五体の決闘機が立ち並ぶ。どれも先日自分をいいようにいたぶってくれた機体である。
 (こいつらにきっちりとお礼をしないとな・・・)
 そんなことを思っていると自分の後ろに小型のポッドが出現する。そちらに視線を送ると中にはシルヴァが乗っているのが見える。なにやら窓を叩いて騒いでいるが、この際気にしないでおく。大体何があったか想像できるから。さらに転移の扉をくぐって小型の宇宙船が現れる。
 『お待たせしました。これより婚約者選定のための決闘を開始します。皆、名乗りを!!』
 小型の宇宙船からアルの声が響く。戦いの始まりを知った決闘機が吼える。
 「ゴゴット、バン・バン・バン、行く!!」
 「ファルゴが決闘機ジュゴーの槍で手前ら全員、串刺しだ!」
 「このナットル様のブル・グルーンが怖くなければ掛かって来な!」
 「センザが駆りしファルファンのスピードについてくれるかい?」
 「ああ、この美しき騎士ストームの決闘機ヴィストールがお相手しましょう!」
 五人が五人、口々に勝手なことを言って名乗りを上げる。それを聞いていた精子朗は自分がなんといって名乗りをあげるか考えていた。色々と考え込み、一つの名乗りを考え付く。
 「紅き鬼神シュテンカイザーがマスター、豪拳寺精子朗!参る!!」
 シンプルにまとめて五人を迎え撃とうとする。が、そこであるとの約束を思い出す。五分間何もしてはいけないという約束だった。仕方なく精子朗はシュテンカイザーに防御の構えを取らせて様子を見ることにする。そんな精子朗の行動に慌てたのがシルヴァだった。
 「こら、精子朗!そんなことをする必要はない!!そなたの機体のエネルギーは・・・」
 ポッドの中から必死になってわめき散らすがその声は外には漏れない。だからいくら喚いてもそれが精子朗に届くことはなかった。慌てたのは倫も同様であった。精子朗の負けは地球の破壊につながりかねない。何とかして負けさせないようにしなければならない。
 「アルさん、エルさん!精子朗は大丈夫なんでしょうか!?エネルギー不足を補う秘策かなにかを授けることは出来ないんですか?」
 「残念ですが、決闘が始まったからには我々は中立の立場を取らなければなりません・・・」
 エルは倫の問いに残念そうに答える。シュテンカイザーがパワー不足を補う秘策を精子朗に伝えう術がないことに倫は絶望感を覚える。そんな倫をアルは笑顔で慰める。
 「大丈夫ですよ、倫さん。これから起こる事をじっくりと見ていてください・・・」
 ニッと笑うその顔に倫は底知れぬ何かを感じ取っていた。そしてその視線を小型宇宙船の外で戦いに備えるシュテンカイザーへと向ける。すでにリング内はシュテンカイザーに戦いを挑んだ五人の得意とする地形に変化していた。それぞれが自分の機体の性能をフルに生かせる地形を得てゆく。
 「とはいえ、五人同時だからな・・・お互い苦手な地形も存在するだろう・・・」
 精子朗は相手の様子を伺ってみる。確かにその中で動こうとしないものがいる。それは明らかに隣のエリアに入るのを嫌がっているのが分かる。そういったやからを自分の有利なエリアにおびき出す手立ても考える。だが、彼らの狙いはあくまで自分だった。
 「この豪腕で叩き砕いてくれるわ!!」
 まず最初に動いたのはナットルだった。岩が混在するエリアを器用に走ってシュテンカイザーに襲い掛かってくる。その異様に長い腕で斧を持ち、それを振り回してくる。精子朗はその攻撃をよく見切ってかわしてゆく。ブル・グルーンの攻撃力はおそらくこの五体の中で最強だろう。
 「あの斧に当たったらシュテンカイザーでもやばいかな?」
 ブル・グルーンの攻撃をかわしながら精子朗はそんなことを考える。しかし、ナットルの攻撃は大振りで戦いの素人である精子朗の目でも十分にわかるほど単調であった。そんな単調な攻撃が通用するわけもなく精子朗はシュテンカイザーを操ってその攻撃を華麗にかわしてゆく。
 「くそ!逃げるな!!」
 逃げ回るシュテンカイザーに業を煮やしたナットルが大声で怒鳴る。もっとも、逃げるなといわれて逃げない奴がいるはずがない。精子朗はそんな言葉を無視してナットルの攻撃をかわす。そのかわした瞬間だった。その背後から鋭い一撃がシュテンカイザーに襲い掛かる。
 「相手のエリアに入らなくても俺の武器なら攻撃できること忘れるなよ!!」
 シュテンカイザーの背後に回りこんだジュゴーの槍が煌めく。がこの一撃も精子朗は背後から来る槍に手を掛けると、バク転をする要領で綺麗に宙を舞ってかわしてみせる。完全に隙を突いた必殺の一撃をかわされたファルゴは声も出ない。宙を舞ったシュテンカイザーは見事に着地してみせる。
 「残念だったね。お前らの動きは全部レーダーで把握済みさ。どう動き、どこにいるかもね」
 ファルゴの動きはシュテンカイザーのレーダーに映されていた。そして彼が自分の後ろに廻ったことも精子朗にはわかっていた。だからそのタイミングを測り、先ほどのような回避方法を取ったのである。もし回避に専念していなかったらかわせなかったかもしれないと精子朗は自分の幸運に感謝する。
 「優秀なレーダーだな。でも、俺の動きまで見切れないだろう?」
 その精子朗に高速で動き回るファルファンが襲い掛かる。両手に装備された小刀がシュテンカイザーの背中に突き刺さる。手ごたえありとに笑みを浮べたセンザだったが、すぐにその顔が驚きに変わる。ファルファンの小刀はシュテンカイザーの装甲に阻まれダメージを与えていなかった。
 「いくら早くても、装甲を貫けない攻撃なら問題ないだろう?」
 精子朗のバカにしたような言葉にセンザは悔しそうな顔をする。だが、センザにそれ以上攻撃をする余裕はなかった。ファルファンの背後からヴィストールが剣を振りかざし、ファルファンごと切り倒そうとする。それに気付いたセンザは慌ててファルファンをシュテンカイザーから遠ざける。
 「我が華麗なる攻撃でくたばりなさい!!」
 ヴィストールの剣がシュテンカイザーを頭部から真っ二つにしようとする。その一撃を精子朗は白刃取りの要領で受け止める。まさか剣を素手で受け止める防御の仕方が存在するなど思いもしなかったストームもまた驚きの表情を浮べる。慌てて剣を引きニ撃目を見舞おうとするが、それよりも早くシュテンカイザーは間合いから離れてしまう。
 「そんなバカな・・・」
 「こっちの攻撃がまるで通じない?」
 「一体どんな機体なんだ・・・」
 「あのような防御方法、見たことも聞いたこともない!!」
 ゴゴットを除く四人は自分達の攻撃をかわされ、または受け流され、大いに焦っていた。それぞれ自分達の必殺の一撃であった。この一撃ならばいかなる敵も倒せる、そんな自信を持って繰り出した攻撃だった。しかし、その攻撃がいとも簡単にかわされたのである。それも辺境に蛮族にである。
 「お前ら、ダメ。ゴゴット、行く!!」
 唯一動かなかっゴゴットが金棒を振り回してシュテンカイザーに襲い掛かる。相手は先日の戦いではいくら金棒で殴っても壊れなかったシュテンカイザーである。その点はゴゴットもわかっている。そこで今回は遠心力をつけたフルスイングでシュテンカイザーに一撃を見舞う。
 「やべっ!!」
 そんなゴゴットの攻撃に反応の遅れた精子朗はかわす事を諦め、腕で受け止めようとする。だが、先日を遥かに越える衝撃に耐え切れず、大きく吹き飛ばされてしまう。土煙を上げてシュテンカイザーが地面に叩きつけられる。その衝撃が精子朗にダメージとして襲ってくる。
 「うぐっ!!」
 全身に叩きつけられるような衝撃が響き渡る。そのため一瞬、シュテンカイザーの動きが止まる。その一瞬を他の四人は見逃さなかった。一斉にシュテンカイザーに襲い掛かる。
 「どらぁぁっっ!!破壊の斧を受けろ!!!」
 ブル・グルーンの斧がシュテンカイザーの胸部に命中する。ブル・グルーンの豪腕から繰り出された攻撃である。装甲に斧が食い込み、またしても大きく吹き飛ばされる。二度、三度、地面に叩きつけられたシュテンカイザーに追い討ちをかけてジュゴーの槍が閃く。
 「今度は逃げられまい!」
 ニ撃、三撃と繰り出される槍にシュテンカイザーの体は土煙の中に消える。確かな手ごたえを感じたファルゴがその状態を確認するよりも早くシュテンカイザーの足を掴んだファルファンが大きく飛び上がる。
 「けけっ。硬い装甲なら叩きつけて中のやつを殺せばいいのさ!!」
 センザはそう叫ぶとシュテンカイザーの脚を掴んだまま手身近にあった岩にシュテンカイザーを何度も何度も叩きつける。ファルファンのパワーは他の機体に比べて圧倒的に低い。それでも何度も岩に叩きつけられればダメージは出る。センザはそう考えて叩きつけていた。
 「まったく美しくない戦い方ですね。敵はこう倒すのです!」
 ファルファンによって岩に叩きつけられたシュテンカイザーにヴィストールの剣が煌めく。胸部装甲に剣が叩きつけられ、岩を叩き割り、シュテンカイザーを切り伏せる。会心の一撃にストームは満足そうな笑みを浮べて後方に飛び退る。岩が巻き上げた土煙に撒かれてシュテンカイザーの姿は見ることは出来ない。
 「ゴゴット、勝利!!」
 「これでエンブレムは俺様のものだな!!」
 「なにぬかしやがる!俺のだ、俺の!!」
 「バカは黙ってな!俺が止めを刺したんだ!!」
 「まったく美しくありませんね・・・私以外に誰が勝てたというのですか・・・」
 各々勝手なことを口走って勝利宣言をする。そんななか、濛々と立ち込める土煙を見つめていたシルヴァはただ声もなく呆然としていた。まさか精子朗がやられてしまったのではないかと不安が心を支配する。あれだけの猛攻に晒されて無事なはずがない。
 「セイシロー・・・そんなバカな・・・」
 目の端に涙が浮かんでくる。自分の我儘から精子朗を危険な目に合わせたばかりか、死なせてしまったかもしれないのだ。そう思うと後悔と悲しみがシルヴァの心を支配してゆく。
 「セイシロー、すまぬ・・・」
 肩を震わせながら謝るシルヴァ。そんな彼女の視界に土煙を引き裂いて立ち上がるシュテンカイザーの姿が映る。あれだけの猛攻に晒されたというのにシュテンカイザーの体に破損箇所は見受けられない。まったくの無傷のまま悠然と立ち上がる。
 「セイシロー・・・このオオバカが!!妾をこれほど心配させるなど・・・あとでお仕置きじゃ!!」
 目に涙を溜めたまま精子朗のことを怒鳴りつけるシルヴァ。そんなことを口走っている彼女だったが、内心は精子朗が無事で安心していた。
 「ふいい・・・さすがに今の猛攻は焦ったぜ・・・」
 シュテンカイザーのコックピット内で精子朗は汗を拭う。彼らの五連続攻撃にまるで対応できなかった。もしシュテンカイザーの装甲が耐え切れなかったら大破して終わっていたことだろう。自分が創造した機体だが、予想以上の装甲の固さに精子朗は満足していた。
 「さてと・・・そろそろ約束の五分だな・・・」
 アルとの約束で五分間、攻撃しないでいたが、それもここまでである。ここからは自分も攻撃していくことが出来る。ここまでいいように甚振ってくれた連中にどう反撃しようかと精子朗は考え込んでいた。
 「まあ、それは後で考えるとしようか・・・まずは・・・」
 精子朗はパネルをいじって行く。それに合わせてコックピット内の計器が反応を示す。
 「バイパス完全解放、エネルギーフルチャージ!!」
 それまで一部閉じられていたバイパスが解放され、シュテンカイザーのエネルギーが全身に行き渡る。肘や膝、肩などのパーツが展開し、そこから炎があふれ出す。膨大なエネルギーが全身を駆け巡り、各部からあふれ出しているのだ。その光景を見たエルは慌てる。
 「ダメです、セイシロー殿!そんなことをしたらすぐにエネルギー切れに・・・」
 「ならないわよ、エル・・・」
 慌てるエルをアルが宥める。まるで全て悟っているかのように悠然と構えている。しかし先ほどシュテンカイザーのエネルギー値を見たエルは気が気ではない。
 「でも、エネルギー値500であれほどのエネルギーを解放したら1分も稼動していられません!」
 「エルも結構おっちょこちょいね・・・そのエネルギー値、単位を確認した?」
 慌てるエルを諭すようにアルが語り掛けると、ようやくエルは落ち着きを取り戻しパネルをいじって先ほどのデータを読み直す。そこには先ほどと変わらない数値が示されている。
 「えーとシュテンカイザーのエネルギー値は・・・500・・・テラライト????!!!!」
 そこまで呼んでエルは驚愕の声を上げる。アルに言われなければ気付かなかったことである。これはおそらく機体整備をしていたアルだから気付いたことである。自分は決闘機のエネルギーの単位はメガライトが普通という先入観で読んでいた。それがこのミスに繋がったのである。
 「そ、そんなにすごいんですか?」
 同じように先ほどエネルギー値が低いと説明されていた倫も恐る恐る尋ねてくる。エルはこくりと頷くと先ほどのミスをわびると説明してくれる。
 「先ほど、決闘機のエネルギー値は5000〜10000と言いましたが、その単位はメガライト。ですがシュテンカイザーのエネルギー値は500テラライト。通常の決闘機の50000〜100000倍と言った感じです」
 「・・・・・・・・それって圧倒的じゃないですか?」
 「そうですね・・・子供のけんかに超人が入ったようなものです・・・」
 圧倒的な力の違いを認識した倫とエルの表情はうつろであった。正直これから起こる戦いは一方的なものにしかならないのは目に見えている。それでも見届けなければならない。倫とエルは視線を決闘上のほうへと向ける。黙っていたアルは涼しい顔で同じように決闘を観戦している。 
 「さてと・・・そろそろ行きますか!!!」
 ようやく攻撃に移れる喜びを噛み締めて精子朗はシュテンカイザーを一気に跳躍させる。岩場を駆け抜けブル・グルーンとの距離を瞬く間に詰める。あまりに一瞬のことにナットルの反応が遅れる。
 「遅い!!」
 精子朗の叫びと共にシュテンカイザーの拳がブル・グルーンの頭部に直撃する。顔の半分を吹き飛ばし、ブル・グルーンを地面に叩きのめす。精子朗は反転すると倒れたブル・グルーンを追撃する。不意をつかれたナットウルは慌ててブル・グルーンの体勢を整える。
 「この、田舎モノが!!!」
 自分を殴り倒したシュテンカイザーに渾身の力を込めた拳を見舞う。精子朗はタイミングを合わせてその拳に自分の拳を激突させようとする。それを見たナットルはニヤリと笑う。パワーだけなら五体のうち最強に自分にこの小さい決闘機が勝てるはずがない。逆に吹き飛ばせる。そう信じていた。
 「ふきと・・・なにぃぃぃっっっ!!!!」
 目の前に広がる信じられない光景にナットルは驚きを隠せなかった。それは他の四人も同様であった。シュテンカイザーを吹き飛ばすはずだったブル・グルーンの腕が逆に破壊され,吹き飛ばされる。完全なパワー負けであった。シュテンカイザーの拳がブル・グルーンの肘を、肩を破壊する。
 「そんな・・・そんなバカな!!!」
 信じられない光景にナットルは絶叫する。パワー自慢の自分の機体がパワー負けするなどありえないことだからだ。もう片腕の拳を振るいシュテンカイザーに襲い掛かる。それを読んだ精子朗も拳を振るい、これを迎撃する。
 「今度こそ・・・なっ!!!」
 今度こそシュテンカイザーを吹き飛ばすつもりで繰り出した拳がシュテンカイザーに破壊される。自慢の豪腕が両腕とも破壊されてしまう。肩口からなくなった腕をナットルはただ呆然と見つめていた。ナットルにはまさに悪夢のような光景だった。
 「油断大敵!!」
 動きの止まったブル・カイザーはいい的でしかない。精子朗はシュテンカイザーを反転させると、そのがら空きの腰に裏拳を見舞う。ブル・グルーンの腕を吹き飛ばすほどのパワーを秘めた一撃である。ブル・グルーンの装甲を打ち砕き、その上半身を吹き飛ばす。
 「まず、一体!!!」
 崩れ落ちるブル・グルーンに背を向けた精子朗は次の目標に狙いを定める。跳躍し、その距離を一気に詰める。狙った先はジュゴーであった。自分に狙いが定められたファルゴは急いで身構える。とはいえ、相手はブル・グルーンをたった三発で仕留めたほどのパワーの持ち主である。正直言って自分が喰らって耐え切れる自信はなかった。
 「だが、リーチでは俺の方が上。攻撃を喰らう前に仕留めてやる!」
 シュテンカイザーの攻撃が当たる前に自分の槍を見舞う。カウンターでの勝ちを狙ったファルゴはじっとシュテンカイザーの動きを見極める。槍の攻撃範囲内に入ったらすぐさま攻撃するつもりでいた。
 (あと少し、あと少し・・・)
 じっとシュテンカイザーの動きを見つめその距離を測る。そしてシュテンカイザーが自分の槍の攻撃範囲内に入ったと同時に攻撃を繰り出す。完全に回避できないタイミングでの攻撃だった。会心の一撃にファルゴの表情に笑みが浮かぶ。しかし、その笑みはすぐに消えてしまう。
 「そんな・・・」
 シュテンカイザーの拳はファルゴの繰り出した槍を打ち砕きながらジュゴーに襲い掛かる。勝利を確信していたファルゴの反応は完全に遅れてしまう。慌てて回避しようとしたがすでに遅かった。槍を打ち砕いたシュテンカイザーの拳がジュゴーの胸部にめりこむ。そしてそのまま胸部を吹き飛ばしてしまう。
 「二体!!」
 上半身を失ったジュゴーは糸の切れた操り人形の如く地面に崩れ落ちる。ブル・グルーンに続き、ジュゴーまでも倒したシュテンカイザーは次の獲物に狙いを定める。
 「ひぃぃぃっっ!!」
 その視線先にあったのはファルファンであった。その圧倒的なパワーを目の当たりにしたセンザは恐れ戦きファルファンをシュテンカイザーから遠ざける。いかに強大なパワーを持っていても当たらなければ問題はない。
 「逃げて逃げて、逃げまくってやる・・・」
 スピードに絶対の自信を持つセンザはシュテンカイザーからひたすら逃げることにする。いくらシュテンカイザーでも攻撃が当たらなければいつか諦めるだろう。あんな化け物みたいな攻撃力を持つ決闘機と真正面からやりあう気はセンザにはさらさらなかった。
 「諦めて他のやつに襲いかかった隙をついて・・・」
 他の二人に攻撃対象が移った隙を突いてシュテンカイザーを仕留めればいい。いくらシュテンカイザーでも背後から動力炉を狙えば倒すことが出来る。自分が勝つにはそれしかない。そう考えたセンザは必死になってファルファンをシュテンカイザーから遠ざける。
 「これだけ離れれば・・・って、やつはどこだ?」
 戦闘空域から遠くはなれたところまで退いたセンザはモニターでシュテンカイザーとの距離を確認する。だがそのモニターにシュテンカイザーの姿は映っていない。辺りを探索するがどこにもその姿は見えない。他の二体に襲い掛かったのかと思ったが、どうもそれも違う。
 「どこだ・・どこへ行った?」
 パネルを操作し、レーダーを使ってシュテンカイザーの位置を探索する。レーダーはその位置はすぐに特定してくれた。そう、自分のすぐ背後に・・・
 「なぁ、なぁ、なぁ・・・」
 慌てて振り返ったセンザの視界に紅く燃える鬼神が映る。センザは何のためらいもなくファルファンをシュテンカイザーから飛び退かせる。相手の攻撃範囲内にいることがいかに危険かわかっている。だからすぐさまシュテンカイザーの攻撃範囲内から逃げる必要があった。
 「いったい、いったいやつはナンなんだ!!?」
 混乱しきったセンザはコックピット内で大声で叫んでいた。自分よりも早い機体などいるはずがない。いたとしてもさほどスピードに差異があるはずがない。そう思っていた。だが今目の前にいるシュテンカイザーはそのセンザの考えを根底から覆す存在だった。
 「こんな事ありえるはずがない!!!」
 またしてもいつの間にか姿を消し、ファルファンの背後に回りこんでいたシュテンカイザーの存在にセンザは混乱し、恐怖していた。意味のないことをわめき散らし、両腕を分けもなくばたつかせる。何とか今目の前にいる悪魔を振り払おうとするかのように。しかし、そんなセンザの思いも空しく、シュテンカイザーはファルファンの頭部を鷲掴みにする。
 「ひゃぁぁぁぁっっっっっっ!!!」
 悲鳴を上げるセンザをよそにシュテンカイザーはファルファンを地面に思い切り叩きつける。センザが選んだ地形は砂地であったため、砂塵が巻き起こる。叩きつけた瞬間、シュテンカイザーはファルファンの頭部を握りつぶす。さらに浮き上がった胴体を下から蹴り上げる。スピード重視のファルファンの機体は細く、その一撃で腰の部分で真っ二つにへし折れてしまう。
 「三体!!」
 圧倒的スピードとパワーで三体の決闘機を葬り去ったシュテンカイザーはさらなる獲物に狙いを定める。その先ではヴィストールが愛用の剣をかざして待ち構えていた。その様は猛獣を迎え撃つ戦士か悪魔と対峙する騎士のようであった。
 「その三体を倒した力は認めましょう・・・しかし、それもここまでです!」
 あくまで格好をつけたストームは大見得を切ってシュテンカイザーにかかって来いと挑発する。どんなにスピードがあってもパワーがあっても技がなければ自分は倒せない、ストームは自分の技に絶対の自信を持っていた。だからシュテンカイザーを誘い込み、技を駆使して倒すつもりでいた。倒せるつもりでいた。それを察したのか精子朗はシュテンカイザーを正面からヴィストールに向かわせる。
 「正面から向かってきて私に敵うと思うのか!!」
 ストームは自信満々に剣を振り下ろす。だが、ストームは失念していた。先ほど見事にその剣を受け止められたことを。そしてその返し技を喰らっていないことを・・・勝ちを確信したストームはシュテンカイザーを一刀両断しようとする。精子朗からすればすでにストームの太刀筋は読んでいる。タイミングを合わせてもう一度白刃取りにしてみせる。ただし今度は少し違っていた。交差する手の位置を少しずらす。
 「なっ!!??」
 鈍い音と共に交差した手が剣を半ばからへし折ってしまう。へし折られた剣は宙を舞い,地面に突き刺さる。折れた剣に気を取られたストームに精子朗の技が追い討ちをかける。肩口を掴み、左右に思い切り引っ張る。ストームもすぐに抵抗するがびくともしない。ミシミシという嫌な音が当たりに響く。肩が握りつぶされ、機体が左右に引きちぎられる。
 「四体!!」
 真っ二つに引き裂いたヴィストームを地面に投げ捨てると精子朗はバン・バン・バンを睨みつける。初めて戦ったときに動けないのをいいことに言いようにやられたことを精子朗は忘れてなかった。ぐっと構え、すぐさまバン・バン・バンに殴りかかる。
 「お前の拳、俺には通じない!」
 ゴゴットは先ほどと同じように勢いをつけて金棒を振り回し、シュテンカイザーを迎え撃つ。だが、そんな直線的攻撃、すでに精子朗の方もわかっていた。普段よりも身を低くしてその攻撃をやり過ごす。そしてそのがら空きの胸元に炎の拳と叩き込む。
 「ゴゴット、堅い。おまえの攻撃、通じない!」
 自分の防御力に自信を持っていたゴゴットはシュテンカイザーの拳を真正面から受け止める。だが、シュテンカイザーの炎の拳はバン・バン・バンの分厚い胸部装甲を貫き、中枢に致命的ダメージを与える。それでも収まらない炎がシュテンカザーの拳から噴出し、バン・バン・バンを包み込む。
 「ラスト、ブレイク!!」
 噴出した炎がバン・バン・バンの体を突き破りその活動を停止させる。その熱量はバン・バン・バンの強硬な装甲をも溶かしていた。その圧倒的な闘い方と勝利に、エルも倫も言葉がなかった。
 「なんてパワーなんですか・・・あれでよく機体が耐っています・・・」
 「爆発的パワーを持っていることはわかったけど、あんな戦い方をして大丈夫なの?」
 「大丈夫、大丈夫。絶妙な計算の元に出来上がっているから・・・」
 疑念と不安に入り混じった声で呻く二人にアルは嬉しそうに答える。すでに機体整備の段階で大体の機体性能を把握していたアルにはシュテンカイザーのすごさがよく分かっていた。それでもその桁外れなパワーには驚いていてしまう。
 「まず機体の強度だけど、あの各部から噴出す炎、あの炎の熱量でも溶けないほどの強度を持った装甲を持っています。それからあの期待には独特のシステムがいくつも搭載されているの」
 「独特のシステム?」
 「そう。まずひとつがエネルギー動力炉。あれだけ膨大なエネルギーを得るために、彼は動力炉にパーツを一つ使っています」
 その話を聞いたエルはシュテンカイザーのパワーの秘密がようやくわかった。本来機体の動力炉はすでに最初から組み込まれており、I.E.Mを使って作り出す必要はない。そのことを知らなかった精子朗は機体を作り出す段階で動力炉のことまで想像し、創造してしまったのだろう。おかげであのパワーを得ることが出来たのだ。もちろん、他のものがまねできるものでもない。作れてもエネルギーを溜められなければ宝の持ち腐れである。その二つを両立できるのは精子朗だけだろう。
 「そしてもう一つが、機体に装備された独自のシステム、”テンション・キャパシティ”」
 「”テンション・キャパシティ”?」
 「簡単にいってしまえばテンションが上がれば攻撃力、防御力、機動力、そのすべてがアップされていくシステムのこと。つまり精子朗さんが興奮すればするほどするほど、シュテンカイザーは強くなるって訳」
 「アル、貴方それを知っていた技と最初耐えろって・・・」
 呆れるエルの言葉にアルは悠然と頷く。隠し立てする気はまるでなかった。攻撃を受け流し機体の動かし方を詳しく学び、早く攻撃したい欲求を高める。これにより機体性能をさらに向上させたのである。さらに機体の各部から噴出す炎は余剰エネルギーであることも教えてくれた。
 「ま、そんなことしなくても楽勝だったみたいだけど・・・素手だけで倒しちゃうんだもん、セイシローさん・・・」
 「ちょっと待ちなさい、アル。もしかしてシュテンカイザーには・・・」
 「もちろん武器がついているわよ。どんな武器化はないしょ!」
 ニッと笑うアルの笑顔に得るは眩暈を覚えていた。殴り飛ばしたい衝動に刈られながらも、先にやらなければならないことがある。シュテンカイザー、精子朗の勝利宣言とエンブレムの委譲、その他をやってしまわなければならない。
 『勝負あり!!この勝負、シュテンカイザー、豪拳寺精子朗の勝利とします!!』
 決闘上に凛としたエルの声が響き渡る。ここに五対一の決闘が終結を迎えた。ゴゴットたちの大会参加の証である指輪が剥奪され、勝ち残った精子朗にエンブレムとして下げ渡される。これを50個集めたものが優勝者となるのだ。戦いが終わって精子朗はしばし感慨深げにエンブレムを眺めていた。
 (勝ったんだ・・・)
 今になってようやくその実感がわいてくる。自分が創造した機体とはいえ、シュテンカイザーの強さには驚くべきものがあった。それ以上にシルヴァたち皇星連邦の化学力には驚かされる。いくら想像したものを創造するとはいえ、ここまで忠実に再現できるとは思っていなかった。
 (こんな星相手じゃ、地球なんてあっという間に滅亡だな・・・)
 そうさせないためにも自分が勝ち抜くしかない。改めてそのことを誓う精子朗に、小型ポッドから解放されたシルヴァと倫が駆け寄ってくる。二人とも満面の笑みを浮べている。
 「でかした、セイシロー!よく勝ったぞ!!」
 「すごいじゃない、精子朗!」
 精子朗にまとわりついてその勝利を祝福してくれる。もっとも精子朗を挟んでお互いにけん制しあい、対抗しあっている。そんな二人にはさまれた精子朗は苦笑いを浮べる。
 「セイシローさん、おめでとうございます」
 事後処理に当たるエルから離れてアルが精子朗達に駆け寄ってくる。アルからも祝福を受けて精子朗はぺこりと頭を下げる。そんな精子朗にアルは言葉を続ける。
 「ではセイシローさん。この五人がセイシローさんの奴隷ですので、かわいがってあげてくださいね?」
 「応!!」
アルの言葉に精子朗は喜色満面で応じ、シルヴァと倫は目が点になってしまう。何故そんな美少女達が精子朗の奴隷になるのか、どこからそんな少女達を連れてきたのか、シルヴァたちにはわからなかった。そんな不思議そうな顔をしている二人にアルが簡単な説明をしてくれる。
 「簡単な説明をしてしまえば、この子達は貴方が勝った相手のパートナーです。勝った者は負けた者のパートナーを大会期間中エネルギー重点の道具に使うことが許されています」
 それを聞いた二人は納得がいった。つまりこの子達は精子朗が好きなようにしていいということである。だから精子朗はニヤニヤと笑っているのである。次の瞬間、お尻と股間に二人の手が伸びる。
 「精子朗!!奴隷なんてわたしが許さないからね!!」
 「そうじゃ。そなたのここは妾の物じゃ。他の誰にも使わせぬぞ?」
 「なにいっているのよ、シルヴァ!!そこは・・・」
 「そなたのものと言いたいのかえ?あまいの。ここはすでに妾を喜ばせるためのものじゃ!」
 大きな胸を張って精子朗が自分のものであると主張するシルヴァ。それの真っ赤になって否定する倫。その間に立って精子朗はどちらの肩を持つことも出来ず、ただオロオロとしていた。そんな精子朗にアルの後ろに控えていた女達が駆け寄り纏わりついてくる。
 「ご主人様、これからよろしくお願いします」
 「ご主人様、私のこと、かわいがってくださいね?」
 口々に甘えた声を上げて精子朗に擦り寄ってくる。美女、美少女に纏わりつかれて嬉しくない男などXXぐらいのものだろう。たぶんにもれず精子朗も鼻の下をデレンと伸ばしている。その精子朗をもう一度つねりながらシルヴァと倫が耳元で怒鳴りつけてくる。
 「こら、セイシロー!浮気は許さぬぞ!!」
 「なに鼻の下伸ばしてるのよ、このスケベ!!」
 七人の美女、美少女に纏わりつかれ、抓られ、甘えられ、怒鳴られた精子朗はどうしたものかと青い顔をしている。そんな精子朗の情けない顔をエルは溜息混じりに、アルは大笑いしてみている。そんな彼らをシュテンカイザーはこれからも続くであろう戦いに思いをはせるように雄々しい姿で佇んでいた。


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