第1話 怨嗟の言霊 中編


 眼の前に広がる凄惨な光景にその場にいた全員声も出ないままただ立ち尽くしていた。被害者は校内で知らないものは誰も居ないほどの有名人である。もちろんいい意味でも悪い意味でも、である。その男がナイフを口に突き立てられ、両手を五寸釘で十字に固定された状態で発見されたのである。驚かない方がおかしい。
 「だ、誰がこんなことを・・・」
 峰崎は呆然と一言そう呟くだけでその場から動くことも出来ずにいた。他の生徒達も声もなく立ち尽くすだけだった。女子生徒などその場にうずくまって泣き出してしまうものまでいた。そんな中で一人だけ冷静なものがいた。シンジュである。辺りの様子を伺いながらマコトに歩み寄ると、その首筋に手を当てる。しばらくそのまま脈を診ていたが、やがて手を離し首を横に振ると、峰崎の方に振り返る。
 「先生、救急車は無駄です。警察を・・・」
 「おっ、おお、そうだな・・・」
 シンジュに促された峯崎は弾かれたように自分の携帯電話を取り出し、110番通報する。その間にシンジュは視聴覚室の中を見渡す。外側の窓のカーテンはすべて締まっており、廊下側も一箇所を覗いて全てのカーテンが閉まっている。そのため部屋の中は薄暗い。マコトの口から溢れ出す血はまだ乾いておらず、死後まだ間もないことを意味している。おそらく先ほど聞いた悲鳴がマコトの断末魔の悲鳴だったのかもしれない。
 「・・・ふむ・・・」
 マコトの体を一通り調べたシンジュは今度は廊下に出る。下手に中に残っているところに警察に来られるといらぬ騒ぎを起こしかねないからだ。廊下に出たシンジュはカーテンの開いた窓のところまで移動する。そこから視聴覚室内を覗き込むと、ちょうどほぼ真正面辺りにマコトの死体が見える。薄暗くはあったが、廊下からでもマコトの姿を確認することはできた。
 「ふーーん、こいつは・・・」
 いくつかの可能性を頭の中に入れながらシンジュは顎に手を当てて考え込む。色々な可能性が頭の中を過ぎり、頭の中を埋めてゆく。そんな考え込むシンジュぬ耳に遠くの方からサイレンの音が近付いてくる。どうやら今回の主役の登場のようだと思いながらシンジュは苦笑いを浮べるのだった。




 「で、殺されたのは?」
 「佐々菜マコト、17歳。この学校の二年生です」
 「佐々菜?まさかあの?」
 「みたいですよ。校内で彼のことを知らないやつはいないとのことでしたから」
 「やれやれ・・・厄介なことになったな・・・」
 中年の刑事は若い刑事の報告に頭を抱えてしまう。佐々菜の関係者となれば、上から早急に犯人を検挙しろと圧力をかけられることは目に見えている。出来なければ自分たちの降格は決定的と言っていい。ということはしばらくはまともに寝ることもできないほど忙しいということである。そう考えると憂鬱になってくる。
 「しかし、こいつはまた派手な殺され方をしたものだな・・・」
 「ですね・・・相当恨みを持っていたとしか・・・」
 マコトの悲惨な殺され方を目の当たりにした中年の刑事近藤は眉を顰めながら呟く。その横に立った若い刑事木村もまた顔を顰める。どれほどの恨みがあったらこれほどの殺し方ができるというのだろうか。並々ならぬ恨みが見えるようで近藤はこの事件の根が深そうな気がしてならなかった。
 「害者の発見者は??」
 「この学校の数学教師と補習を受けていた5人です。悲鳴を聞いて駆けつけたらこの惨状だったそうで」
 「他には?」
 「校舎の中に残っていたのはこの6人だけみたいですね」
 「もちろん犯人なんて・・・」
 「目撃していないそうです」
 そう簡単に話が進むとは思っていなかったが、近藤の落胆は大きかった。佐々菜の関係者が被害者のこの一件を早々に終わらせてしまいたい気持ちでいっぱいだった。それだけこの後のことを考えるのが憂鬱だったのだ。とはいえ見ていないものも見たと言えとも言えず、近藤は溜息を漏らしながら鑑識に歩み寄る。
 「どうですか、何かわかりましたか?」
 「解剖してみないとわかりませんが、口への一撃が致命傷ですね・・・」
 「つまりここに吊ってから殺したと?」
 「いや、ナイフは後頭部にまで突き出ていますが、その後ろの黒板には傷がないです」
 「ってことはここに寝かされた状態で刺されたって事か・・・」
 鑑識の話に近藤は足元を見下ろす。マコトの足元に大きく広がった血の海がその出血のすさまじさを物語っていた。そしてそれがマコトが殺されたときにできたものであるなら、彼が床に寝ている状態で殺されたことを意味している。近藤はひげを擦りながらしばらく考え込む。
 「薬でも嗅がされた・・・かな?」
 「被害者は眠っていたと?」
 「それなら納得がいくだろう?」
 「でも目撃者達が悲鳴を聞いてここに駆けつけるまで1分弱。その間にこんな事、できますか?」
 「・・・・・・できねえか・・・」
 黒板に貼り付けにされたマコトの死体を見上げながら近藤と木村はそんな会話を交わす。釣り糸か何かで吊るされていたならばともかく、手の平を五寸釘で刺されているのである。これで目を覚まさないとは思えない。目を覚ませばいやでも悲鳴を上げるだろう。つまり断末魔の悲鳴を聞くよりも早く6人がこの部屋に来てしまう可能性が高い。その間にもう片手を黒板に打ち付け、口にナイフを突き立てて逃げ出す。それも姿を見られず、証拠も残さずに。そんなこと不可能に近い。そうなるといつどうやって殺されたかが問題になってくる。
 「まあ、目撃者達の話でも聞いてみるか・・・」
 「そうですね・・・」
 これ以上自分たちの推理を進めていても話が進まないと判断した近藤は木村を伴って目撃者達のところへと向かう。別室で待たされていた目撃者達は一様に疲れた表情を浮べている。そんな目撃者達の中で近藤の目を引いたのはサングラスをかけたまま窓の外を眺めているシンジュの姿であった。
 「おい、あいつは?」
 「目撃者の1人でシンジュ=某という生徒です」
 木村に名前を聞いた近藤は注意深くその少年を見つめる。何か際立った存在感を放つその少年の姿が近藤は気になって仕方がなかった。しかし、彼を見ていたからと言って話が進むわけでもないのでまず教師の峯崎に声をかけ一人一人別室で聴取を取ってゆく。その話を聞きながら近藤は頭の中で今回の一件をまとめてゆく。



教師・峰崎正二の証言
 私が悲鳴を聞いて駆けつけて、視聴覚室のドアを開けたときには佐々菜君はすでにあんな姿でした・・・教師として不徳の致すところです。犯人の姿ですか?いえ、見ていません。何か気付いたこと、ですか?う〜〜ん。私が視聴覚室の前を通ったときは室内には異常はありませんでした。ええ。カーテンの開いていた窓から黒板が見えたんですが、そこには何も。佐々菜君についてですか?あまりいい印象はありませんでしたね。家の名前を出しては好き放題やっていましたし・・・恨みを抱いていない生徒はいないと思いますよ。あ、私は別に・・・


生徒1・結城裕の証言
 自分は佐々菜の姿なんて見てません。今日は視聴覚室には近寄っていませんし。補習を受けているときに悲鳴が聞こえて視聴覚室にいったらあんなことになっていて。え、どう思うかって?モチロン、ざまあみろって気持ちが強いですね。アイツには恨みがありましたから。も、もちろん殺したいなんて思っていませんよ。補習を受けるために教室に入ったらシンジュと田辺さんがもう来ていました。その後は視聴覚室に行くまで教室を一度も出ていません。


生徒2・曽我志保の証言
 今日は最悪の日ですよ。あんな奴の死体を見る羽目になるなんて・・・え、同級生が殺されてなんとも思わないのかって?冗談じゃない。あいつには恨みはあっても親しみなんて言葉はカケラもありません!私の手で殺したいとさえ思っていたんですから。でも殺したのは私じゃないですよ。私が教室に入ったときにはもう三人来ていました。最後に戸沢君が来て峰崎先生が来て補習が始まりました。それから10分もしないうちに悲鳴が聞こえて・・・その間に田辺さんが一度だけトイレに行っています。すぐに戻ってきましたけど。


生徒3・田辺恵の証言
 気付いたことですか?別に何も・・・佐々菜君の死体を発見して生死を確認したのは峰崎先生ではなくてシンジュ君です。彼が教室内に入って腕の脈を診ていました。え、補習中ですか?トイレに一度出ています。1分くらいで戻って来ましたけど、それが何か?トイレは視聴覚室のほうにありますけど何も見ていませんよ。その後すぐに悲鳴が聞こえて視聴覚室に向かったんです。そこで佐々菜君の死体を発見しました。驚いて呆然としていたんでほかに気づいたことは何もないですよ。一番後ろから覗き込んでいましたから。


生徒4・戸沢浩二の証言
 補習に遅れそうになって峰崎先生を視聴覚室の前で追い越して教室に入りました。僕も視聴覚室のほうに目が行きましたけど黒板には何も。まあ、中は薄暗かったんで気付かなかっただけかもしれませんけど。で、補習を受けている最中にあの悲鳴でしょう?驚いて視聴覚室に行ったらあの惨状だからね。あれ、そういえばあの時視聴覚室のほうからだって言ったの誰だっけ?男の声だった気がするけど・・・教室から出た人?田辺さんが一度トイレに出て行ったけど、すぐに戻ってきたよ。悲鳴はそれからしばらくしてから聞こえました。


生徒5・シンジュ=某の証言
 なにも・・・補習といわれて教室にいて、一度も教室は出ていない。僕のあとに田辺、結城、曽我、戸沢、峰崎先生の順で来た。一度田辺が教室を出たけどすぐに戻ってきたよ。その後悲鳴がして誰かの声で視聴覚室に言ったらあいつが死んでいた。先生が呆然として動けなかったから脈を確認してみた。モチロンなかったけど。他には何も触っていない。現場保存が大切だというから。ところで刑事さん。視聴覚室内、何かありましたか?死亡推定時刻は?え、関係ない?いいじゃないですかそれくらい教えてくれても。


 6人の証言を聞いた近藤と木村はしばらく黙ったままじっとしていた。話を聞いた限り、大きな矛盾点があったようには思えない。教室に入った順番も間違いないし、誰も怪しい行動を取ったようには思えない。だが、どこかすっきりしないものを感じてならなかった。鑑識からの報告では佐々菜マコトの死亡推定時刻は補習が始まる前後ということであった。そう考えると彼らが聞いた悲鳴が佐々菜マコトの断末魔の悲鳴だったと考えるのがしっくり来る。
 「このシンジュという奴・・・怪しいですね・・・」
 「どうしてそう思う?まさか見た目で、とか言うなよ」
 「も、モチロンです」
 木村は事情聴取の間もサングラスを外そうとしなかったシンジュの態度に不信感を抱いていた。そのことはわかっていたので鎌をかけてみると、木村は明らかに動揺している。どうやら当たりだったらしい。溜息をつく近藤もシンジュには何かを感じていたが、木村のような個人的感情による疑いではない。
 「あいつだけですよ、我々が来るまでに教室に入ったのは。何か証拠を隠滅した可能性が・・・」
 「無理だな。死体に動揺していたとはいえ、5人の眼の前で脈を測る以外のことはできんよ」
 「そうかもしれませんけど・・・」
 「まあ、この一件について何か話したそうではあったがな・・・」
 事情聴取の間、逆に質問をしてくるシンジュの態度が気になっていた。彼と話していると何か得られそうな気がしてならない。だからといってこれ以上彼に情報を流してやる必要性もない。一応の調書が取れた以上彼らに用はない。近藤はシンジュたちを解放するとともに署に戻ることにする。署長達のお小言は御免被りたかったが、これ以上ここですることは何もないのだから仕方がない。こうして第一の事件の夜は更けてゆくのだった。




 「くそ!どこのどいつがマコトの奴を!!!」
 ガシガシと腰を振り、女のヴァギナをいきり立った肉棒で犯しながら男は殺された佐々菜マコトのことを思い返す。確かに学校内で佐々菜の名前を使って好き放題やっていた彼が恨みを買っていない可能性などどこにもない。むしろ心当たりが多すぎてそいつら全員が犯人のように思えてならなかった。
 「おら、もっと腰を振れ!」 
 「ふぐっ!!ああああっっっ!!!」
 女の腰を抱え込んで男は寝転がる。その勢いで女は四つん這いの格好から起き上がり、男の腰の上に座るような格好になる。そこから男はさらに腰を突き上げ、女のヴァギナを下から何度も突き上げる。その度に女の体は大きく揺れ、髪は乱れる。小さな胸にはびっしりと汗が浮かび上がっている。
 「志保!もっと締めろ!!この間抜けが!!」
 「ひゃぐっっっ!!もう、許して・・・・」
 「何言ってやがる!あれをばら撒かれたくなかったら大人しく腰を振りやがれ!!!!」
 男は容赦なく志保のヴァギナを自分のペニスでかき回しながら志保の首輪につながれた鎖を思い切り引っ張る。首輪が喉に思い切り食い込み、志保は呼吸できなくなる。息苦しさに苦しみ志保は白目をむいて何度も何度も声もなく頷く。その口の端には白い泡が浮かび上がっている。苦しみの悶える志保であったが、男の方は逆であった。志保の首が絞まり、苦しむほどに志保のヴァギナは心地よいほど締まり、腰を動かしてヴァギナを掻き回す男のペニスに極上の快楽を与えてくれる。その快感に味を締めた男は時折わざと志保の首を締めて来る。
 「はぐっ・・・いぐあぁぁぁぁっっ・・・・」
 「ほらほら。しっかり締めろ!でないと苦しい思いをすることになるぞ?」 
 「ひぐぁぁぁぁっっ・・・もう・・・ゆるひて・・・」
 だらしなく空いた口からダラダラと涎をたらし、鼻水と涙にまみれた表情で志保はうわ言のように何度も許しを請う。しかし男は志保を攻めることを止めようとはせず、少しでも気持ちよくないと思い切り鎖を引っ張り、志保の首を締め上げて快感を得ようとするのだった。その地獄のような攻めに志保は抗うこともできず、ただ犬のように四つん這いになって男の攻めを甘んじて受けるしかなかった。
 「くくくっ、ここ3日ばかり犯っていなかったからな。抜かずに3発はイかせてもらうぞ!」
 「らめらめ・・・きょうは・・・きょうは・・・」
 「あん?また危ない日とか言うのか?そんな嘘、この間で聞き飽きたよ!」
 先日マコト達に犯されたとき、志保は危険日であると偽って膣内射精から逃れようとした。しかし結局それが嘘であることが後日バレ、そのときもマコトたちに容赦なく犯される羽目にあっていた。そして今日、本当に危ない日を迎えたのだが、男は志保の懇願を鼻で笑うだけで腰の動きを止めようとはしない。志保の体は思い通りに動かすことは出来ず、男から逃げることはできない。たとえ動けたとしても男は鎖を使って志保を押さえ込んで思い切り膣内で射精することだろう。それでも志保は何とか逃れようと試みる。しかし、体はどうしてもいうことを聞いてはくれなかった。
 「ひぁは・・・らかで・・・またおおきく・・・」
 「わかるか?もうそろそろ限界だぞ?思い切り子宮に注ぎ込んでやるからな!」
 「やら・・・赤ちゃん,いららい・・・」
 いやいやと頭を振る志保を他所に男はさらに腰の動きを加速させてゆく。志保の膣をぐちゃぐちゃにかき回し、ペニスを膣壁で擦り上げる。快楽の頂きを目指すペニスは志保の膣内でさらに大きく膨らみ、その濡れた肉壁を圧迫する。自分の膣内でヒクヒクと反応するペニスの感触に志保は男の限界が近いことを察し、布団の上を這いずるようにして逃れようとする。しかし男に腰をしっかりと掴まれていては逃げることは叶わない。志保の両手は空しくシーツを掻き毟るだけだった。そんな志保の苦しむ歪む表情に喜びの笑みを浮べて男は我慢の限界を迎える。
 「まずは一発目だ!しっかり受け取れ!!」
 「!!!!いやぁぁぁぁっぅっ!!!」
 男は我慢を堪えようともせずに思い切り志保の膣内で射精する。熱い液体が物凄い勢いで子宮を叩く感触に志保は喉が破れんばかりの悲鳴を上げる。全身を張り詰めさせ、少しでも男から逃れ子宮を満たしてゆく男の子種を吐き出そうとするが、男はそんな志保を押さえつけ、一滴残らず志保の子宮内に注ぎ込む。お腹の中が熱いものでいっぱいになってゆくのを感じながら志保は滂沱の涙をこぼす。対して射精を終えた男は気持ち良さそうな顔をすると、志保の体を押さえつけて自分は寝転がり、ちょうど志保が自分の上に座るような格好をさせる。
 「おら、今度はお前が動け!!動いてご主人様にご奉仕しろ!!」
 「いや・・・・もう・・・ゆるして・・・」
 「さっき言っただろう?抜かないで3発犯るって!!」
 「いやぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」
 志保の絶望にまみれた悲鳴が響き渡る。その悲鳴を心地良さそうな笑みを浮べて聞きながら男は激しく腰を突きあげる。女の絶望にまみれた悲鳴はいつ聞いても心地いいものである。その心地よさが一度勢いを失い始めたペニスに元気を取り戻させてゆく。志保の愛液と精液とが交じり合った膣内でむくむくと頭を擡げてゆく。
 「まあ、安心しろ。一時間後には他の連中も来る。そうしたら朝まで犯りまくりだ」
 「え・・・・ああ・・・・」
 「そのお腹いっぱいに精液を注ぎこんでやるからな」
 「いやぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
 「まずは第二ラウンドだ!他の連中が来るまでに慣らしておくぞ!」
 絶望の波に飲み込まれてゆく志保の姿を見ながら男は心地良さそうに腰を動かす。まだまだ調教の余地のある志保をどう躾けてゆくかを考えながら男は志保を犯す。もはや志保にはその悪夢に抗う力は残されていなかった。ただ男たちの欲望のはけ口となるしかなかった。そして志保の心は闇に飲み込まれてゆく。真っ黒な闇に・・・



 都合3発志保の子宮に精液を注ぎ込んだ男は上半身だけシャツを着込み、満足そうな顔をして煙草を吹かす。その横では志保が横たわり、ピクリとも動かない。そんな志保には目もくれず、男は時計の方に目をやる。そろそろ約束の時間のはずである。今は休ませているが志保をまた欲望の生贄することになる。他の仲間たちも自分のお気に入りの奴隷をそれぞれ連れて来ることになっている。
 「ひひひっ、マコトのことでいやな思いをしたが、楽しい週末になりそうだな」
 女を思う存分貪り、犯し、味わいつくす週末を想像し、男は思わずにやりと笑ってしまう。そんな男に時間がきたと告げるかのようにチャイムが鳴り響く。仲間が来たものといそいそと玄関に向かう。そして鍵を開けるとおもむろにドアを開ける。
 「遅かったじゃねえか。もう始めている・・・」
 ドアを開けた男はそこまで言って押し黙ってしまう。自分の眼の前にいるのは仲間の男達ではない。フードを目深にかぶり顔は見えないが、間違いなく自分の仲間ではなかった。どこのどいつか知らないが、男は背筋が寒くなるものを感じていた。何か不吉な予感がしてならない。その予感は的中する。
 「へっ??げっ!!!???」
 一歩後ろに下がろうとした男の腹部が何か熱した鉄を押し付けられたように熱くなる。恐る恐る自分の腹部を見下ろす。そこには鋭い鉄が深々と突き刺さり、その部分がどんどん赤くなってゆく。自分がこの珍客に指され、自分のお腹に刺さっているものが包丁であると分かると、男は悲鳴を上げて助けを求めようとする。しかしそれよりも早く、その客が全体重をかけるようにして男を室内に押し戻す。重い鉄の扉が閉まってゆくのを男はどうすることもできないまま見つめていた。これが締まれば音は外には漏れなくなる。その後どうなるかを考えると恐ろしくなってくる。
 「うあぁっ・・・ああああっ・・・」
 底知れない恐怖の中、男は自分を指した客を見上げる。一緒に室内に入って来た客の手には新しい包丁が握られている。運悪く圧されて倒れた際に客が自分の上に跨っている。その手に光る包丁がさらなる恐怖を掻き立てる。必死になって抗う男だったが、客は容赦なく包丁を振り下ろす。何度も、何度も・・・深々と突き刺さった包丁が抜かれるたびに熱いものが迸り、白いシャツを赤く染め上げてゆく。男の目から生気がなくなり、ぐったりとなったところで客はようやく包丁を振り下ろすのを止める。そして背負ってきたバックから道具を取り出すと、急いで準備を始めるのだった。



 「はぁ・・・まさか二日続けて殺しがあるとはな・・・」
 近藤は溜息交じりに木村を伴って現場へと向かう。現場にはすでに野次馬が集まり大騒ぎになっていた。それを悪鬼分けて現場となった部屋に入った近藤と木村はぎょっとする。室内には無数の釣り糸が張り巡らされ、被害者が操り人形よろしく吊り下げられていた。
 「なんだ、これは・・・」
 あまりに異様な光景に近藤は絶句したまま室内に入り、被害者の顔を覗き込み、またしても驚く。それは昨日事情聴取をしたばかりの男、高校教諭峯崎正二であった。無数の刺し傷が白いシャツを真っ赤に染め上げ、とどめといわんばかりに凶器の包丁が峰崎の股間に付きたてられていた。そのあまりに凄惨な殺され方に近藤も木村も言葉がなかった。
 「どういうことだ、これは・・・」
 「これは峰崎を相当恨んでいたとしか思えませんね・・・」
 「そうだな・・・で、発見者は?」
 「発見者は彼の教え子です。遊びに来たら部屋のドアが開いていて入って見たらこんなことになっていたと」
 「それはいつごろだ?それから死亡推定時刻は?」
 「午後11時ごろですね。死亡推定時刻は午後9時から午前0時の間らしいです」
 つまり教え子達がここを訪れる直前くらいに殺され、釣り糸に吊るされたことになる。被害者にこんなことをした理由はわからないが、怨恨であることは間違いないだろう。そしてこの事件が佐々菜マコト殺害事件と無関係とは到底思えない。何かしら関わりがあるはずである。
 「ほかに目撃者は?」
 「それが女の子が1人部屋に残っていたらしくて・・・」
 「ほう。じゃあ、犯人を目撃した可能性があると?」
 「それが釣り糸を張られた部屋の中に居たそうで・・・」
 「そりゃ、そのこが犯人だといわんばかりだな・・・で身元は?」
 「驚かないでくださいよ・・・曽我志保です」
 木村の報告に近藤は思わず吹き出してしまう。よりによって生徒、それも昨日の目撃者の一人とは近藤も想像しなかった。二人がそんな関係だったとは思えなかったというのが事情聴取していての印象だった。ただ彼女が何かを隠している感じがしてならなかったのは間違いない。
 「彼女は今どこに?」
 「隣の部屋に待たせてあります。目撃者の生徒達は別の部屋に」
 「話を聞こうか、彼女から」
 近藤は大きき溜息をつくと志保がいる部屋へと入ってゆく。部屋の中では志保が婦警に付き添われてしょんぼりと佇んでいた。その姿はどこか愁いを帯びていて、物悲しさを醸し出していた。近藤は志保の前に座ると、彼女を正面から見据える。志保は焦燥した表情で見つめ返してくる。
 「何があったか、話してくれないかね?」
 「・・・・・・」
 「今日ここに来た理由は?」
 「・・・・」
 近藤が問いかけるが志保は押し黙ったまま視線を逸らしてしまう。何か話したくない何かを抱えているとしか思えなかった。それを察したからと言ってどうこうできるわけでもない。問い詰めても答えてはくれないだろうと思った近藤はもうニ、三質問をすると、別室で待つ生徒のほうに向かう。待っていたのはふてぶてしい態度を示す少年達であった。自分たちがどうしてこんなところで待たされなければならないんだといわんばかりの態度であった。そんな少年達の態度が近藤の癇に障ったが、とりあえず落ち着いて質問してゆく。
 「君達は何で峰崎先生のところに?」
 「んなのどうでもいいだろう?さっさと帰せよ!」
 「犯人は見なかったのかい?」
 「犯人だぁ?そんなのあのアマに決まってんじゃねえか!先生の死体の側に居たんだからよ!」
 あまりに非協力的な態度に近藤も木村も思わず繭を顰めるが、あえてそれ以上問い詰めようとはしなかった。あきれ返った態度を示しながら近藤は木村を伴って事件現場から外に出ると、煙草に火をつける。肺を満たしてゆく心地よさを感じながら近藤は紫煙を吐く。近藤はしばらく煙草を味わいながら階下の野次馬を見つめていた。
 「ん?ありゃ・・・」
 その近藤の目に一人の少年の姿が映る。その特徴的な雰囲気を持った少年、シンジュが何故ここに居るのか、近藤は非常に気になった。近藤がじっと一点を見つめたまま動かないことに気付いた木村も階下を見下ろし、シンジュの姿を見止めると、顔を顰める。
 「またあいつか・・・警部、もしかしてあいつが?」
 「おいおい。憶測で物を言うんじゃない」
 「でも、タマタマこんなところに来たとは思えませんよ!適当な理由をつけて署に連行します!」
 「おい!無茶するんじゃない!!!」
 「大丈夫ですよ!少し痛い目にあえばすぐに吐きますよ!」
 木村はそう言うと勇んで階下に下りてゆく。木村の勇み足は問題であったが、近藤自身、シンジュからもっと話を聞いてみたいと思っていたのであえてそれ以上止めないで置くことにした。あとで始末書モノだろうが、ここは彼の話を聞いておくべきだろうと思い、思い足取りで署に戻ってゆくのだった。



 「だから、お前がやったんだろう??」
 「・・・・・」
 木村の追及にシンジュは身じろぎもしないで無言を貫いていた。そんなシンジュの態度に木村は焦れて何度となく机を叩いているが効果はまるでない。自分が気を抜けば木村は本当にシンジュに殴りかかりそうになるので、それだけは何とか圧しとどめていた。木村とシンジュのやり取りを見つめながら近藤は厄介なことにならなければ言いと思っていた。
 「いい加減にしろ!!一言言えば楽になるのに!!」
 「おい、木村!よせ!!」
 激昂した木村が真珠の胸倉を掴む。近藤は慌ててそれを制しするが、すでに遅くシンジュの顔からサングラスが床に落ちる。木村を落ち着かせながら近藤はシンジュに怪我がないかを確かめる。ちょうど顔を上げたシンジュと目が合い、近藤は思わず息を呑む。その目から感じられる威圧感は到底高校生のものとは思えなかった。
 (何者なんだ、この小僧は??)
 シンジュの正体が気になった近藤が彼に問いかけようとしたとき、ドアを叩く音が聞こえる。何事かと思いながら尋ねると、ドアの向こう側から応対に来たものが答える。
 「あの、先日の被害者の遺族の方が・・・」
 「被害者?佐々菜マコトのことか?」
 「はい・・・」
 近藤は思わず首を捻ってしまう。先日マコトが殺されたことを告げたのだが、そっけない態度で電話を切られていたからである。それなのに今更何故親族がくるのかわからなかった。とはいえ無碍に扱って怒らせるわけにもいかない。仕方がないと思いながら近藤がドアを開けると、そこには2人の姿があった。1人は受付の婦警、もう1人は豪奢な黒髪をなびかせて佇んでいた。その気品に溢れる姿は見るものの目を奪う美しさを兼ね備えていた。少女はゆっくりと腰を折ると、頭を下げて優雅にお辞儀をする。
 「どうも、お初にお目にかかります。佐々菜明日香と申します」
 「これは佐々菜のお嬢様自ら・・・今回の一件を担当しています近藤です。ええ、お兄様は霊安室に・・・」
 「わたくしがここに来たのはそんなものに会うためではありません。お兄様に用があってきたのです」
 マコトが安置されている霊安室に案内しようとした近藤に明日香はきっぱりと言い放つ。その言葉の意味がわからなかった近藤だったが、明日香の顔を見ていてふと見覚えのある顔であることを思い出す。それもつい最近見た顔であった。それは木村も感じたらしい。近藤と木村は同時に自分たちの背後にいる少年の方を振り返る。そこには明日香とそっくりな顔をした少年がにっこりと笑っていた。そんな少年の態度に明日香は深い溜息をつくと、彼を睨みつけながらみなに聞こえるようにきっぱりと言い放つ。
 「こんなところで何をなさっていますの、真お兄様」


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