第1話 怨嗟の言霊 後編


 「こんなところで何をなさっていますの、真お兄様」
 明日香のきっぱりとした一言に近藤も木村もシンジュの方を振り返る。シンジュはバツの悪そうな顔をして自分の頬を指先で掻いている。否定しないところ、明日香にそっくりな顔立ちを見れば明日香の言葉に嘘がないことだけは間違いなかった。同時に木村の表情がどんどん青くなってゆく。
 「何って・・・学校で起きた事件を追っていただけだけど?」
 「お兄様はそのようなことをなさる必要はないでしょう?」
 「まあ、そうだけどね。でも、よくわかったね、僕が捕まったって」
 「氷姫(ひめ)が連絡を入れてくれたんです。まったくあの子、泣きそうな声をしていましたわよ?」
 「それはまずかったな・・・あとで慰めてやるか・・・」
 真は今回の一件に興味を持って調べていたことを明かすと、逆に明日香にここにいることを知った理由を尋ねる。自分の正体は明かしていないし、明日香達に連絡も入れていない。だから明日香達がここに来られるはずだったからだ。すると明日香は妹たちの1人の名前を出して来る。立花氷姫、自分の異母妹の中で一番年下の少女である。一番年下であるがゆえに甘えん坊で真や他の異母姉にすぐに抱きついてくる。そんな氷姫であるが、真のボディガードでもある。幼い外見とは裏腹に母親譲りの武術の腕前はなかなかのものである。その氷姫がどうすることもできないまま真が警察に連行されてしまって落ち込んでいるというのだ。手を出すなといったのは真であったので、その結果彼女が落ち込んでいるのならば悪いことをしたなと反省する。
 「あの・・・お話中のところ申し訳ありませんが・・・」
 「何でございましょうか、刑事さん?」
 「こちらの方が本当に佐々菜真様で?」
 「わたくしがあなた方に嘘をついて何の得がありますの?」 
 恐る恐る聞いてくる近藤に明日香はやや侮蔑を込めた眼差しで睨み返しながら素っ気なく答える。確かに佐々菜の人間が縁もゆかりもない少年を『兄』として保護するのはおかしい話である。ならばシンジュが明日香の言うとおり佐々菜真であることは間違いないだろう。
 「しかし何故シンジュなどという偽名を・・・」
 「僕の名前を騙って好き放題暴れている輩がいると聞いてね。その調査に・・・」
 「お兄様のことを知っていれば『シンジュ』の名前で気付くはずでしたが・・・予想以上の馬鹿でしたわ」
 「『シンジュ』で?どういう意味なんでしょうか?」
 兄の名前を騙っていた男を完全に馬鹿に仕切った口調で明日香は鼻を鳴らす。しかし、近藤も木村も『シンジュ』の名前から佐々菜真を想像することはできない。おそらく佐々菜マコトも同じだったのだろう。しかし、彼のことをよく知る人物ならば、『シンジュ』の名前を聞いただけでそれが誰だかわかるらしい。その意味を問いただす。
 「あら、ここにもわからない方々が・・・」
 「そう言うな、明日香。僕のことをよく知る人物ならわかる偽名、なんだからね」
 「そうでしたわね。騙りもお兄様のことをよく調べていればよかったものを・・・」
 「刑事さん、現佐々菜グループ会長の旧姓はご存知ですよね?」
 「ええ。たしか『樹』修二様でしたか・・・あっ!!」
 やっと真と明日香が言わんとしている言葉の意味がわかった近藤と木村は驚きを隠せなかった。真が『樹』姓を名乗れば『樹』真、その順番を入れ替えれば真『樹』、『シンジュ』と読める。かなり回りくどい呼び方だが、佐々菜の、真のことをよく知るものであればすぐ気がつき名前なのだろう。しかし、佐々菜マコトはそれに気付かなかった。気付かずに『佐々菜』の名前を乱用していた。それは彼が佐々菜家とは縁もゆかりもない人物であることを意味していた。
 「なるほど・・・では殺された『佐々菜マコト』はどこのどなたで?」
 「こちらが仕入れた情報では不動産業者の息子らしいですわ」
 近藤の問いに明日香は肩を竦めて見せる。おそらくは『佐々菜』の遠い分家筋に当たるのかもしれない。ただ直系の真から見たら赤の他人に過ぎない。そんな男が『佐々菜』の名前を騙ってやりたい放題やっていたことはもはや真たちにも見過ごせないレベルにまで来ていたのだ。それをやり込めるためにこの学校に来たのだが、その前にこの事件が起こってしまったのである。『佐々菜マコト』の正体に近藤も木村も唸っていると、明日香の携帯電話が呼び出し音を鳴り響かせる。すぐに携帯電話を取った明日香は二言ほど会話をすると、それを真の方に差し出してくる。
 「お兄様、麗からですわ」
 「麗から?」
 明日香から携帯電話を受け取った真は通話相手と話をし始める。しばらく話を聞いていた真は電話の相手に礼を言うと携帯を切り、明日香にそれを返す。そして近藤達の方に視線を送ると声をかけてくる。
 「じゃあ、刑事さんたち。学校に行きましょう。そこでいいことを教えてあげますよ」
 「いいこと?」
 「この事件の真相と犯人」
 とんでもないことを口走った真は近藤達が何も言えず呆然としているのを尻目に明日香を伴ってその場から出て行ってしまう。しばし唖然としていた近藤達だったが、捜査が行き詰まったこの状況を打破できるかもしれないと真のあとを追ってゆく。最初の事件の起こった学校へと。




 「じゃあ、まず『佐々菜マコト』の殺害方法とアリバイトリックから教えてあげます」
 「ええ。お願いします」
 「まず『佐々菜マコト』が殺されたのは補習が始まる前。そして犯人は殺した彼を黒板に貼り付けにした」
 「補習が始まる前?しかし、峰崎と戸沢という2人の目撃者が・・・」
 学校についた真はすぐに視聴覚室に向かうと、事件について語り始める。それを聞いていた近藤と木村は真の話に何度か頷いていた。しかし、最初の『佐々菜マコト』が殺されたときに視聴覚室に死体が貼り付けにされていなかったことは峰崎と戸沢という2人が目撃している。
 「そうか。目撃者の峯崎が殺された。それは目撃者が共犯だったからだ!つまり犯人はと・・・」
 「残念ですけど木村刑事。その考えは犯人の思う壺ですよ」
 「しかし、そうなると視聴覚室の死体がなくなったことになるんだよ?」
 「ええ、そうです。犯人はあるものを使って死体を視聴覚室から消して見せたんですよ、黒板ごとね」
 木村が思いついた考えを真は頭から否定する。近藤も木村と同じことを考えていたので少し恥ずかしそうであった。確かに木村の言うとおりの方が話がすっきりとする。しかし同時にしっくりと来ない部分もいくつかあるのも事実であった。それを説明するようの真は視聴覚室のカーテンを一箇所を除いて全て締めてゆく。そして薄暗くなった部屋の黒板に人形を吊り下げると、木村に声をかける。
 「木村刑事、これから犯人がやったことを再現します。合図したら廊下を走りながらこちらを覗いてくれませんか?」
 「??いいけど・・・」
 真の指示に木村は素直に頷くと、視聴覚室から出てゆく。そしてしばらく視聴覚室の見えないところで待っていると真から声が掛かる。その声に従って視聴覚室のほうへと歩き始める。夜ということもあるが、唯一中を覗ける窓から見える室内はカーテンを閉ざしたため真っ暗で殆どどこに何があるか分かりにくい。しかし、大体のものの位置は把握できる。
 「んっ?あれ???」
 視聴覚室をそのまま通り過ぎようとした木村はある違和感を覚える。その違和感を確かめるべく廊下を戻ると、もう一度視聴覚室内を覗き込む。
 「ない・・・さっき吊るしたはずの人形がない!!!」
 木村の視線の先には黒板があり、そこには先ほど真が吊るしたはずの人形は存在していなかった。木村が唖然としていると、視聴覚室のドアが開き中から真と明日香、近藤が出てくる。近藤はやれやれといった顔を、真はにっこりと笑っている。その意味が木村にはわからなかった。
 「近藤さん、これは一体???」
 「こういうことだよ・・・」
 「え??あっ!ああああああっっっ!!!」
 何が起こったのかまるでわからないという顔をする木村に近藤は視聴覚室内を指差す。その指に導かれるように視聴覚室内を覗き込んだ木村は素っ頓狂な声を上げて驚く。そこから見える黒版には確かに先ほど吊るした人形がそのまま吊るされている。そしてその少し前には何かが置かれて人形を隠していた。
 「これは移動式の黒板???」
 「そうです。これを死体の前に置くことで死体を隠していたんですよ、あの時は」
 「しかし、こんなもの、すぐにばれるんじゃ・・・」
 「それは木村刑事が中を注視していたからですよ。あのときの二人は中に死体があるなんて知らなかったはずです」
 真の言うとおり木村は中に人形があることを知っていたから中を注視していた。だから違和感に気付き中を覗きにいった。しかし、あのときの二人は死体がここにあることなど知るはずもなく、補習というほかの目的もあったのだから注意深く中を確認することはないし、急いで通り過ぎてしまうことだろう。これによって補習が始まる前には視聴覚室には死体はなかったという証言が生まれる。犯人はそこまで考えた上での行動だったのだろう。
 「だけど、この移動式の黒板が使われていた証拠なんて・・・」
 「ありますよ。これを見てください」
 意外な事実を突きつけられた木村がなおも食い下がろうとすると、真は黒板の足元を指差す。そこには移動用のキャスターがついていた。そしてその一部にうっすらと赤いものが付着している。よく注意してみなければ確実に見落とすことだろう。それを覗き込んだ近藤と木村は驚いた顔をする。それは間違いなく血痕であった。
 「調べてみてください。『佐々菜マコト』の血液と一致するはずです」
 「だけどこんな擦ったあとなど今日室内からは見つかっていなかったはずだが・・・」
 「多分まだ出血しているときに突いたものでしょう。そしてその擦った部分のうえから新しい血が重なれば・・・」
 「なるほど・・・同じ血液、わからなくなってしまうな・・・」
 真の説明を聞いた近藤は唸ってその血を見つめる。おそらくほんの少しだけのミス、そのミスに犯人は気付かなかった。そして自分たちも。しかし、この少年はそれを見つけ出し、犯行の全容まで探り当ててきたのだ。わずかな、ほんのわずかなミスが犯人にとって命取りとなったのである。
 「それじゃあ、犯人は2人が過ぎ去ったあと、この黒板を片付けて・・・」
 「違いますよ。犯人は補習が始まったあとにこの黒板を片付けに来たんです」
 「どうしてそんなこと・・・」
 「それではアリバイ作りの役に立たないでしょう?」
 木村の質問に真はにっこりと笑って答える。確かに真の言うとおり、補習が始まる前に黒板を片付けては峰崎達が通り過ぎたあとに殺された、一番最後に来た生徒が犯人だと疑われてしまう。しかし、2人の目撃者が教室に入ったときに犯人が教室内にいればアリバイは完成する。
 「この黒板を視聴覚室の外に出すくらい、1分もあれば十分でしょう?」
 「そうか!じゃあ、犯人は・・・」
 「補習の間一度だけ席を立った人物・・・田辺恵、彼女が犯人です」
 ようやく至った犯人の名前に近藤も木村も言葉がなかった。しかし、動機がわからない。そして真が最初からこの一件に疑いを持っていたかもわからなかった。そのことを思い切って質問してみると、真は笑って答えてくれる。
 「最初に疑問を持ったのは悲鳴を聞いて視聴覚室に行ったときですよ」
 「それがどうかしたのかい?」
 「そのとき視聴覚室のドアは閉まっていました。その瞬間、犯人はあの教室で補習を受けていた奴らのなかにいると確信したんです」
 「??ドアが閉まっているとどうして補習を受けていたものが犯人になるんだい?」
 「だって視聴覚室は防音設備が整っているんですよ?僕らがいる教室まで悲鳴が聞こえるわけない」
 「あっ!!」
 「それにそのとき誰かが『視聴覚室だ』と促がしているんです」
 「この広い学校で悲鳴が聞こえただけで場所を特定できるもの、それは犯人というわけか・・・」
 「ええ。あの悲鳴はおそらくテープか何かに落としたものを流しただけでしょう」
 殺したときの悲鳴をテープに落とし、それをどこか見つかりにくいところに隠して時間が来ると同時に流してみんなに悲鳴を聞かせる。その悲鳴と同時にみんなを視聴覚室に誘い、『佐々菜マコト』の死体を発見させる。あとは峰崎達に死体が補習開始前にはなかったと証言させれば自分の疑いは晴れることになる。
 「でも視聴覚室のドアが開いていたら・・・」
 「それは犯人にはできないでしょう。もし自分の計画通りに行かなかったらという強迫観念が働いて」
 「そうか。もしドアが開いていて他の誰かに死体を見られる可能性を恐れたということか!」
 「そうです。でもそこが犯人の致命的なミスであり、僕に誰が犯人かを確信させたんです」
 真の話を聞いていた近藤も木村も唸りしかなかった。確かにここまでの真の推理に言い返せる要素はない。さらに真は近藤達の調書が取ったからも恵のミスを指摘する。それは脈の取り方であった。張り付けにされた『佐々菜マコト』の腕の脈は取りにくいと思った真は彼の首筋で脈を測っている。なのに恵は『手首の脈を測っていた』証言していた。
 「これは彼女がそのとき今日室内を見ていなかったからですよ」
 「見ていなかったって・・・なにをしていたのかね、彼女は??」
 「もちろん回収していたんですよ、決定的な証拠となる『佐々菜マコト』の悲鳴が録音されたテープを」
 一番後ろで死体に驚きへたり込んだ振りをして他の面々の隙を突いてテープを回収する。そして事情聴取を受けたときに真が脈を測っていたことを証言すればいいはずだった。しかし慎重になるあまりに『手首の』という一言を付けてしまったことが間違いであった。恵の犯行が確定的となったところで携帯の呼び出し音が鳴り響く。
 「はい、真です。」
 『お兄ちゃん?氷姫・・・』
 「氷姫?どうかしたのかい?」
 『田辺恵が家を出て電車に乗った・・・』
 「電車に?どこに行こうとしているかわかるか?」
 『多分、あそこ・・・・』
 氷姫からの電話に真は舌打ちをする。恵の動きが予想以上に早かったのだ。そうとわかればここでいつまでものん気にトリックの種明かしをしている余裕はない。一刻も早く恵が向かおうとしているところへと向かわなければならない。幸いにもこちらにはそこに向かう足がある。
 「近藤刑事、お願いがあります!」
 「な、なにかね?」
 「今から言うところまで連れて行ってください、一刻も早く!」
 「それはかまわんが、何か理由でもあるのか?」
 「田辺恵に最後の殺人を犯させないためです!」
 真の一言に近藤も木村も驚き、すぐにサイレンを鳴らして真が指定した場所へと向かう。その車内で近藤と木村は先ほどの話しの続きを聞いていた。
 「しかし、何故田辺恵は『佐々菜マコト』と『峰崎正二』を殺したのかね?」
 「復讐です」
 「復讐?」
 「はい。5年前、家族を皆殺しにされた復讐です」
 真の話を聞いた近藤も木村も首を傾げる。今回の事件が起こった後一応目撃者の素性は調べ上げてある。その結果、田辺恵の両親は健在であることは間違いない。それなのに真は家族を殺された復讐だといっている。何故彼がこんなことを言うのかわからなかったがここは素直に話を聞いていることにした。
 「ところで木村刑事、さっき頼んだこと、わかりましたか?」
 「え?ああ。君の言ったとおり、山形で細井裕馬が福岡で西條禄がそれぞれ事故死していた」
 「そうですか。やはり田辺恵の最後の標的は・・・佐々菜剛三ですか・・・」
 「佐々菜剛三??もしかして殺された佐々菜マコトの??」
 「父親ですよ。そして今回の事件の根幹に関わる人物でもあります」
 そこまで言うと真はゆっくりと事件の全容を語り始める。事の起こりは5年前、斉藤吾郎一家殺害事件にまで遡っていく。当時斉藤吾郎は妻を亡くした無気力状態に漬け込まれ、一銭にもならない株券を妻の死亡保険全額で買わされ、破産寸前にまで追い込まれていた。その株券を売ったのが佐々菜剛三であった。
 「そんな昔から繋がりがあったのか・・・」
 「ええ。斉藤を騙した佐々菜剛三はほくそ笑んでいましたが、予想外のことが起こったんです」
 「予想外のこと?」
 「ええ。二束三文にもならない株券が、その会社がある製品の開発に成功、急速に成長していったんです」
 「なるほど。そのお陰で株券は元手を回収してもあまるくらいにまで高騰したらしいです」
 「それを知った佐々菜剛三は全て返せと言い出したわけか・・・」
 近藤は真の話を聞きながら胸の辺りがむかむかしてくるものを感じていた。相手をだまして売りつけたものを、高騰して価値が出たから返せなど虫が良すぎる話である。もちろん斉藤もこの話に応じるはずもなく、手厳しい言葉を浴びせかけて追い返したと言う。しかし、佐々菜剛三はその程度で諦めるような男ではなかった。すぐさま仲間を集めると、別荘に出かけた斉藤家に侵入、株券を盗み出そうとした。が、佐々菜剛三を警戒した斉藤がこれを出先にまで持ち出してしまっていたため、やむなく断念。すぐさま斉藤のあとを追い掛けて別荘を襲撃したのである。
 「後腐れのないように斉藤は殺害、一緒にいた娘三人もレイプしたあと殺害しています」
 「反吐の出るような男だな・・・じゃあ、田辺恵はそのとき奇跡的に生き延びた娘って事かい?」
 「いいえ。田辺恵の本名は『斉藤恵(ケイ)』、斉藤の長男ですよ」
 「ぬわんだってぇぇぇぇぇっっっ???」
 「何をそんなに慌てているんですか?機能しないものでよければ付けたり切ったりは出来ますよ、今の世の中?」
 真のいままでで一番衝撃的な一言に木村はそれ以上何も言う力はなかった。そうやって性別を入れ替え、新しい両親の元に身を寄せて復讐の機会を伺っていたのだろう、この5年間。そしてついにその機会が巡ってきた。そう考えた恵が行動に出たことは想像できた。
 「つまりこの細井裕馬と西條禄は佐々菜剛三の仲間ということか・・・」
 「ええ。心臓発作なんかの事故死を新聞がいちいち全国紙には載せませんからね」
 「なるほど。佐々菜剛三が仲間の死を知る機会はなくなるということか・・・」
 「はい。その間に残りの3人を殺せば済む話ですから・・・」
 「3人?『佐々菜マコト』は父親への見せしめに殺されたんじゃ?」
 「違いますよ。『佐々菜マコト』もまた実行犯の1人です」
 近藤も木村もくらくらするものを感じていた。当時まだ12歳くらいの少年が父親の強盗に付いて行き、そこの娘をレイプしたというのだ。どんな教育を受けてきたのか聞きたくなる話である。その結果が同姓同名の人物の名前を騙り、したい放題に暴れまわる性格破綻者を生み出したのだから妙に納得が言ってしまう。
 「恵はこの5年間、ずっと復讐の機会を伺っていたんでしょうね。女に身を窶して・・・」
 「そしてその手を血に染めたということか・・・」
 「ええ。一人を殺したら残り二人もすぐに始末を付けなければならなった。だからこうして連続的に犯行を犯しているんです。それが破滅的な行動であっても・・・」
 「いつ自分のことが奴らに知れ渡るか、わからないからかね?」
 「はい・・・」
 真の話を聞いていた近藤と木村はそれ以上何も言えなかった。自己中心的なものの考え方しかできない男たちによって家族を殺された恵に普通以上に同情してしまい、殺されたマコトたちには欠片の同情も抱けなかった。だからといってこれ以上恵に罪を重ねさせるわけにはいかない。けたたましいサイレンを鳴らしながらパトカーは目的地へと疾走するのだった。一刻も早くそこに着くために・・・




 「ひああああああっっっ!!!」
 肩をサバイバルナイフで刺された剛三は世にも情けない悲鳴を上げて転げ回る。深々と突き刺さった傷口からは止め処なく血が溢れ出てくる。激痛に苛まれながらも這いずりながら逃れようとする剛三の足にサバイバルナイフが突き立てられる。ずぶりと確かな手ごたえとともにナイフが深々と突き刺さる。
 「ぷぎゃあああぁぁぁぁっっっ!!!」
 またしても襲い来る激しい激痛に剛三は情けない悲鳴を上げる。顔は涙と脂汗にまみれ、恐怖と激痛に歪みきっていた。そんな剛三を冷たい眼差しで見下ろしながら恵はサバイバルナイフを構えなおす。べっとりと血と脂がこびりついたナイフであったが、その鋭さは衰えてはいない。
 「どう?痛い?苦しい??」
 「ひゃぁっ、ひゃぁっ・・・らんれこんなころを・・・」
 「なんで?自分は聖人君子だとでも言いたいのかしら?」
 涙と脂汗にまみれた顔をさらに歪ませながら剛三は何故自分がこんな目に合わされなければならないのかと思う。その思いを恵は読み取り、思い切り蔑みの眼差しを剛三に向けながら問い掛ける。恵の問いの意味側からない剛三であったが、自分のこれまでの生き方に間違いなどあったはずがないと自負していた。しかしそんな剛三の思いを恵は否定する。
 「貴方は聖人君子なんかじゃない。ただの人殺しよ・・・」
 「な、なにを言って・・・」
 「忘れたの?お父さんを騙して、殺して、財産を奪って、お姉ちゃんや妹たちを嬲りものにしておきながら」
 「!!!まさか、お前は斉藤の・・・」
 「そう。長男の斉藤恵よ!」
 ようやく眼の前の少女の正体に気づいた剛三は驚きの声を上げる。恵はその答えに頷くともう一度ナイフを振り上げ、剛三の腹部に深々と突き立てる。最初は痛みも何もなかった。するりとナイフの切っ先が自分の体の中に消えてゆく。そしてしばらくするとそこがじんわりと熱くなってくる。服はどんどん赤く染まり、激しい激痛が体を駆け巡る。
 「ウギャあああああぁぁぁぁっっっ!!!」
 激痛が駆け巡る腹部を押さえて剛三は転げ回る。痛みは剛三に恐怖を与え、逃げる力を奪ってゆく。それでも剛三の生存本能は必死になって恵から逃れようとしていた。痛みが駆け巡る体を押して転がるようにして恵から逃げようとする。しかし、それを許すほど恵みもできてはいない。
 「逃がすと・・・思うな!!!」
 「ぷぎゃあああぁぁぁぁぁっっ!!!」
 逃げようとする剛三の傷口を思い切りかかとで踏みつける。傷口が開き新たな血が服を赤く染め上げる。そしてまたしても駆け巡る激痛に剛三はだらしなく鼻水をたらして転げまわるしかなかった。恵は恨みを今こそとばかりに何度も何度も剛三の体にナイフを付きたてる。腕に、足に、腹に、背中に。何度も何度もそれこそ数え切れないほど突き刺してゆく。しかし、慣れない事をした所為か、そのどれも浅く、致命傷には届いていない。しかしそれは逆にいつまでも死ぬことも気絶することもできないまま激痛に苛まれる結果となった。
 「ひぃぃ、ひぃぃっ、ゆ、許してくれ・・・だ、だます気は・・・」
 「うるさい、黙れ!!」
 涙と鼻水と脂汗まみれの顔をゆがませて剛三は必死になって恵に許しを請う。そんな剛三の姿が恵には腹立たしいものにしか映らなかった。その許しを請う言葉はい荒立ちを掻きたてるものでしかなかった。だから剛三の懇願も一蹴してその頬にナイフを突き立ててゆく。頬肉を付きぬけたナイフは剛三の舌を貫く。
 「ぷぎょぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
 激しい激痛に剛三は頬を押さえて転げ回る。その剛三を蹴飛ばしながら恵はさらにナイフを突きたてようと迫る。許しを請うにも舌が傷ついていて動かすことも難しい状況ではまともに声を出すこともできない。意味のわからない奇声を発しながら首を横に振るが、恵には聞き入れてはもらえそうになかった。
 「お前を殺して・・・」
 「それ以上、君の手を血に染める必要はないよ!」
 とどめを刺そうとナイフを振りかざした恵に剛三以外の誰かが声をかけてくる。その声のした方を振り返った恵に有無を言わさず近藤と木村が飛び掛る。2人係りで恵を拘束すると、手にしたナイフを叩き落す。ようやく事態が沈静化したのを見て真と明日香はホッとした表情を浮べる。
 「なんで・・・なんで邪魔をするのよ!!」
 「こんな下衆どもの血を君がこれ以上浴びる必要はないってことだよ」
 目に涙をためて捲くし立てる恵に真は優しく騙りかける。そして逆に恵が捕まったことに安堵し、強気に出てきた剛三の方には冷ややかな眼差しを向ける。その真の視線に気づいていないのか、剛三は押さえつけらた恵を勝ち誇った目で見下ろしながらへらへらと笑っている。
 「佐々菜剛三、そんな笑っている余裕はお前にはないぜ?」
 「ほひゃ??」
 「佐々菜の名前を騙ってただで済むと思っていなかっただろうね?」
 「ら、らにを・・・」
 「残念だけど、君たち親子がやってきたことは全て調査済みだよ」
 真の一言に顔面蒼白になった剛三に真は冷酷な表情を浮べて言い放つ。そして明日香の方に手を伸ばし、彼女が持っていた大判の封筒を受け取るとその中身を剛三に見せ付ける。それを見た剛三の表情がさらに青くなる。そこには剛三が犯した悪事の数々が証拠の写真とともに面々と綴られていた。 
 「・・・」
 「これだけじゃない。斉藤家における強殺に詐欺、レイプに放火か・・・」
 「らにをしょうこに・・・」
 「証拠?こういうものがあるんだけど?」
 佐々菜の名前を騙って犯した罪については言い逃れできないと思った剛三だったが、斉藤家で犯した罪については証拠がないと自負していた。だから真の追求をのらりくらりとかわそうとしていた。その剛三の眼の前に別の大判の封筒が落ちてくる。それを見た剛三は情けないほど真っ青な顔をしている。慌ててそれを回収しようとしたが、それよりも早く真がそれを取り上げる。
 「今回の一件の発端になった株券・・・どうしてお前の金庫に眠っていたんだろうな?」
 「ひっ・・・・」
 金庫の奥深くに隠して少しずつ換金してきた株券がどうしてここにあるのかはわからない。誰かがあの金庫を破って持ち出してきたとしか思えない。しかし今はそんなことどうでもいいことであった。証拠となる株券を突きつけられた今、言い逃れはできない。剛三はがっくりと肩を落としてへたり込んでしまう。
 「まあ、冷たい牢獄でこれまで犯してきた罪の重さを噛み締めるんだな」
 「しょ、しょんなこと・・・れきるか!!」
 真の言葉に開き直った剛三は床に転がっていたナイフを手に取ると、そのまま真に襲い掛かる。突然のことに反応が遅れた近藤も木村もそれを阻むことはできなかった。しかし近藤は真がそれを見つめながらも悠然としていることに気付いた。命の危機に瀕しているというのに何故あそこまで悠然としていられるのかがわからなかった。そしてその答えはすぐに分かることとなった。
 「へぎっ??」
 真に襲い掛かった剛三が奇妙な声を上げて立ち止まる。その直前キンッという金属音が近藤の耳には届いていた。一拍置いて床に何かが突き刺さる。それは剛三が手にしていたサバイバルナイフであった。それが根元の辺りから綺麗に寸断されていたのだ。何が起こったのかと視線を真たちの方に戻した近藤は、真と剛三の間にいつの間にか別の人影が割って入っていることに気付いた。120センチくらいの小柄な少女が真を護るように立ちふさがり、手には紐のような何かを持っている。いつどうやって割って入ったかはわからないが、この少女が真を護ったのは間違いない。
 「お兄ちゃん、無事?」
 「ありがとう、氷姫・・・」
 兄の無事を確認する少女の頭を真は無造作に撫でてやる。それが嬉しいのか少女は頬を赤く染めて目を細める。そんな2人のやり取りを他所に剛三は脂汗をダラダラ流しながらどうしたものかと考え込んでいた。出た答えは簡単であった。目の前の少女を人質にしてこの窮地を脱するという安易なものであった。
 「おまへら、うごくら!!」
 「まったく、引き際を心得ていない愚か者は哀れですわね・・・」
 「明日香お嬢様、何をそんなに落ち着いて・・・あの娘が人質に・・・」
 「まるで問題ありませんわ。氷姫を人質に取るなんて馬鹿以外の何者でもありませんもの」
 答えが出れば行動は早かった。剛三はおもむろに氷姫の首に腕を巻きつけるとそこにいた全員を脅す。しかし明日香はその脅しに大きな溜息を漏らす。何を馬鹿なことをするのかといわんばかりの態度に、木村が困りきった口調で尋ねてくる。その問いかけに明日香は鼻を鳴らして答える。その答えは簡単だった。氷姫はおもむろに剛三の足を踏みつけ、腕の力が弱まったところでその鳩尾に肘を突き入れる。完全に剛三の腕から脱するとそのまま彼の頭を掴み、バク転して剛三の背後へと飛ぶ。堪え切れなかった剛三がそのまま仰向けに倒れこむ首筋に氷姫の膝が待ち構えていた。
 「ぐへはぁぁぁっっっ!!」
 剛三は大きく体を震わせるとそのまま白目をむき、泡を吹いて失神してしまう。氷姫のあまりに鮮やかな技に近藤も木村も言葉がなかった。しかし、すぐに警察の本分を思い出し、剛三の身柄を拘束する。これにてこの一件は解決したことになり、近藤はほっと胸を撫で下ろす。
 「恵君・・・もう一度やり直してください・・・貴方の父親や姉妹のためにも・・・」
 「・・・・・・・」
 真の一言に恵は何もこたえられなかった。もうすでに真は全てを知っている、警察もそれを聞いている。逃げることはできないことはいやでもわかる。それは自分の復讐が今ここで終わりを告げたということだった。剛三達に復讐する、ただそれだけのために生きてきた彼にはそれに失敗した今何も残されていなかった。それなのに真の一言は胸に沁みる。自分がしてきた復讐が父や姉、妹たちが本当に臨んでいたことなのかさえわからなくなってくる。恵はただ項垂れたままボロボロと涙をこぼす。そんな恵は近藤に促されて部屋から出てゆく。真も明日香も氷姫もただその後ろ姿を見送ることしかできなかった。復讐に自分の人生を狂わせた少年の後ろ姿を・・・



 「んくっ・・・ああっ・・・お兄様・・・・」
 明日香の肢体が艶かしく蠢く。陶磁器のように白い肌には汗が噴出し、体を動かすたびにキラキラと舞い散る。両手は切なそうに自分の両肩を抱え込み、腰をくねらせて下半身から沸き立つ快感を貪る。大きさはそれほどでもないが、形の整った乳房は腕の下でフルフルと震えている。
 「お兄様、もっと強く突いてください!」
 「こうかい、明日香?」
 明日香の下で寝転がった真は明日香の花芯を己の剛直で貫きながら舌から激しく腰を動かして突き上げる。硬い肉棒がゴリゴリと膣壁をかき回す感触に明日香は蕩け切った表情を浮べてその快感に浸りきっている。兄の肉棒がくれる快感は何ものにも勝る至上の快楽であった。
 「お兄様、わたくしの・・・気持ちよろしいですか?」
 「明日香のどこが、だい?」
 「ですから、その・・・」
 「ちゃんと口にして言ってごらん?ほら?」
 明日香は蕩け切った表情を浮べて真に問いかける。すると真はイジワルそうな笑みを浮べてどこが気持ちいいのか隠語を使って答えるように強要してくる。気の強い明日香はそんな隠語は使えないと顔を真っ赤に染めてモジモジとしていた。そんな明日香に答えを強要しようと、真は膣を激しくかき回すように動かしていた肉棒の動きを止めてしまう。
 「ああんっ、お兄様・・・イジワル・・・」
 「ほら、ちゃんと正確に言ってごらん?」
 「わたくしの・・・オマンコ・・・」
 「もっといやらしく!」
 「ひんっ!わ、わたくしの・・・ぐちゅぐちゅに濡れたオマンコは気持ちいいですか、お兄様??」
 恥ずかしそうに隠語を口に舌明日香だったが、真はさらなる隠語を求め、明日香の真っ赤に充血したお豆を指先で軽く押しつぶす。全身を駆け巡る快感に明日香は顔をだらしなくゆがめて悶える。先ほどまでの女王様然とした明日香の姿からは考えられないほどの乱れようであった。明日香の本質をよく知る真はさらに明日香を攻め立てる。その攻めに明日香はあっという間に陥落し、自分から肉棒が収まった蜜壷の両端を開いてそれが収まっている様を真によく見える格好をして淫らな言葉を口にしておねだりをする。
 「お兄様のおチンチン、気持ちよすぎです!ああんっ、もっと、もっとわたくしを乱れさせてください!」
 「まったく、こんな淫乱な妹を持って僕も苦労するな・・・」 
 「あら、実の妹に手を出されたのはどこのどなたでしたっけ?」
 「だれだっけ、ね!!!」
 「ひゃんっっ!!お兄様ぁぁぁぁっっっ!!」
 自分の上で乱れる明日香の姿に苦笑いを浮かべる真を咎めるように明日香は自分の膣内をきゅっと締め付ける。そんな明日香のささやかな反撃も真の力強い突き上げの前では何の意味も成さなかった。硬い肉棒がゴリゴリと膣壁を擦りあげ、先端が子宮の入り口を何度も何度も叩く。その動きが醸し出す快楽に明日香は完全に酔いしれていた。
 「明日香のここも完全になじんだみたいだね?」
 「お兄様がわたくしの処女を奪ってもう二年、それだけあれば、ね?」
 「そうだな。明日は氷姫がとまりに来る。そうしたら三人でまた一緒に寝ようか?」
 「あの異母妹はまだなれていませんものね。わたくしがサポートしてあげませんと・・・」
 明日香と体を重ねあったのはもう2年前、血の繋がった妹と愛し合ってしまったのだ。近親相姦、その言葉が真と明日香をさらに燃え立たせた。それは他の異母妹たちも同様であった。異母兄を愛してやまない彼女たちもまた真と次々に体を重ねあい、ときには他の妹たちとともに愛し合った。そしてまだ10歳になったばかりの氷姫が処女を失ったのはつい先日、異母妹たちのなかで一番最後であった。
 「んあぁぁっ、お兄様・・・」
 「ん?なんだい?」
 「他の異母妹たちに手を出すのはかまいません。でもわたくしたち以外の女に手を出したら・・・」
 「僕にとってお前達は何物にも代え難い宝物。それを捨てるわけないだろう?
 「お兄様・・・んんんっっ・・・」
 真は全ての妹たちを愛していた。妹たちも兄を愛していた。たとえそれが世間から近親相姦、汚らわしき愛、禁断の関係と謗られようとも関係なかった。真にとって妹たちはほかに存在しない愛しき者たちであり、妹たちにとって真は永遠の忠誠と愛を誓える男性であった。たとえ禁断の子供を身篭ろうともその思いに偽りはなかった。その思いを明日香に誓うように真は彼女を抱き寄せ、その唇を自分の唇で塞ぐ。その姿勢のまま激しく腰を突きあげ、明日香を攻め立てる。
 「あっ、あっ、あっ、お兄様!だめっ、きちゃう、きちゃいますわ!!」
 「いいよ、そのまま一緒にイこう」
 「ああんっ、お兄様、お兄様ぁぁぁぁっっっ!!!」
 真の動きがよりいっそう早くなってゆく。その動きに明日香は突いてゆけなくなり、なすがままに流されてゆく。体の昂りは押さえきれず、快楽を求める脳は素直にそれを受け入れ、絶頂へと登りつめてゆく。その流れに明日香は抗うことなく登りつめてゆき、全身を激しく震わせてそこへと到達する。その瞬間、明日香の膣内は激しく収縮し、真の肉棒を締め上げてくる。その締め付けに耐えながら真は絶頂に達した明日香の姿を堪能する。頬をピンク色に染めて乱れる明日香の姿はいくらお金を積んでも見ることのできない芸術作品であった。そしてその作り主は自分であることを真は誇っていた。そんな明日香の艶姿を拝みながら真は自分の戒めも解き放ち、明日香の子宮を自分の欲望で満たしてゆく。お腹の中に満ちてゆく温かなものを感じながら明日香は幸せそうな顔で真にもたれ掛かって来るのだった。
 「?あれ?メール?麗からか?」
 戯れを終えた真はすやすやと寝入ってしまった明日香を胸に抱きながら自分の携帯電話に送られてきたメールを開いてみる。そしてそこに書かれていた文面を読んだ瞬間、真の表情が大きく曇る。そしてその口からは大きな溜息が漏れる。その表情には悔しさが滲んでいた。
 「これで事件は完全解決、か・・・」
 真はそう呟くと携帯電話を閉じる。もうこの事件は恵の望みがかなえられたことで片がつくはずである。しかし真は何となく納得がいかないことを感じていた。しかし、恵を問いただしてもその疑念を晴らすことはできないだろうし、それに答えてくれる人は誰もいないだろう。そんな思いを抱きながら真は明日香を優しく抱きすくめ、眠りに就くのだった。




 「お兄様・・・」
 「・・・かい?終わったのかな?」
 「はい。佐々菜剛三には天罰を下してきました・・・」
 暗闇の中から現れた女性は自分の前に座る男に話しかける。まだ40前の容貌の男はその報告を聞いて満足そうに頷く。この女性が言うからには佐々菜剛三の息の根は確実に止められていることだろう。それも他殺とはわからない手段で。これだけの仕事を事も無げにこなすことの出来る女性を男は全幅の信頼を寄せていた。
 「しかし、斉藤恵の方は始末しなくてよろしかったので?」
 「俺が為さなければならないのは復讐を望むものの手助け。それ以上は何もないよ」
 「・・・・・そうでしたね、申し訳ありませんでした」
 「それに彼は俺のことは何も知らない。警察も俺が裏にいるなどとはわからないだろう」
 男はそこまで言うと女性を自分の元に招きよせる。女性は嬉しそうに男に歩み寄ると、その膝の上に音もなく座り込むと、男の愛撫を何の抵抗もしないまま受け始める。女性の顔は今日の仕事をこなした御褒美をいただける喜びに満ち満ちていた。そんな女性を優しく抱きすくめながら男は彼女の体を貪ってゆく。
 「しかし、こんなことをなさって・・・平気なのですか?」
 「かまわないさ。誰も俺の元にたどり着けない。辿りつけるのは神に選ばれたものだけだよ」
 「それを待ち続けるのですか、お兄様・・・」
 女性の問いかけに男はにやりと笑う。そしてそれ以上何も答えず、女性の肢体を貪り始める。そのねっとりとした愛撫に女性のほうもそれ以上何も問いただすことは出来ない。ただその愛する男との営みを堪能する。男の狙いが何であれ、自分は男を守るために全力を尽くす、女性の誓いはそれだけだった。
 「真よ、お前はその神に選ばれし者となれるか?」
 女を抱きながら男は虚空に向かって問いかける。もちろんその問いに答えるものは誰もいなかった。ただ沈黙と暗闇が男と女を包み込むのだった。

 暗闇が2人を包み込んでゆく。ただ甘く艶やかな声だけを残して・・・


 翌日の新聞にはこんな記事が載っていた。
 『強殺容疑者佐々菜剛三、留置所内で自殺』
 と・・・


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