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まぶしい光が、まぶたを通して感じられる。周囲のざわめき。エミリーの意識は急族に覚醒にむかっていた。耳から入ってくるのは、いやしい期待に満ちた男たちの笑い声。
「うう……?」
うめきながら身を起こすエミリー。かすかな吐き気と頭痛を感じた。無理な姿勢で寝ていたせいだろうか。体の節々が痛む。
「おう、ようやく目が覚めたか、エミリー」
背後から聞こえる声に、女は背筋が凍るような恐怖を感じた。この声は──低く野太い、無意識のうちにも他人を威圧するこの声は今一番聞きたくない声だった。
「カーツ!」
はねおきたエミリーの視界に入るのは、ジョンソン・カーツ。つい先日、彼女自らが指揮した作戦で捕縛、逮捕された犯罪組織の幹部だった。
「そう、オレだ。まったく、やってくれたなあ。ジャファル捜査官殿」
カーツの巨体がのっそりと立ち上がる。文字通り見上げるばかりの大男だ。組織の荒事を中心として活躍する武闘派の幹部。それがこの巨漢だった。油断なく周囲を見渡す女刑事の視界に入るのは、巨大な倉庫らしい空間と、彼女を取り囲む十人ほどの男たちだ。
「こ、ここはどこなのっ! なんであなたがここに?」
不利な状況だったが、弱みを見せるわけにはいかない。部屋着のまま身構える女刑事だが、周囲の男達を喜ばせるだけだった。
「俺達には強い味方がついているからな。あっさり護衛つきで開放してくれたぜ」
エミリーは悔しそうに舌を噛んだ。警察内部にも組織の手が伸びているのはわかっていたが、よほど強力な弁護士を使い、カネを積んだのだろう。
「案外家じゃあ色っぽい格好してるんじゃねえか。見なおしたぜっ。刑事さんよおっ」
「そんな立派な身体隠すことないぞ、ねえちゃん」
下卑た男たちの視線を浴びながらも無理な姿勢でこわばった身体をほぐす。男たちの目的が単なる誘拐であるはずがない。陵辱は免れないかもしれないが、あっさりと男たちにこの身体をくれてやる気はしない。
──少しでも長引かせて、脱出のチャンスをさぐらないと──。
動揺を隠し、押さえた声で質問しなければならない。できるかぎり男たちを刺激しないように。会話の主導権を握られてはならない。
「こんな倉庫の中で、私をどうするつもり?」
女刑事はまっすぐにカーツを見据えた。女性としては長身のエミリーからも見上げなくてはならない。巨漢の威圧感は文字通りに圧倒的だった。
「お前さんのやり方があざやかすぎてよ。部下どもが納得いかないんだとよ」
組織の会合の際に無力化弾を打ち込み一網打尽にしたことを言っているのだろう。
「納得いかないからって、こんな大勢で女一人を取り囲むの?」
エミリーは軽蔑したように鼻で笑ってみせるが、カーツの余裕は崩れない。
「馬鹿いうな。これでも有志の中から選りすぐってきたんだぜ。この中から五人相手をしてやってくれよ。全員倒せたら、開放してやるよ」
無力化弾の効果を逃れた数人は、彼女みずから取り押さえたりもしている。腕自慢の男たちとしてはいたくプライドを傷つけられたのだろう。
カーツが指を立てて合図をすると、一人の男が立ちあがった。ひょろりと背の高い男だ。見覚えがある。この男も逮捕したはずだったのだが──。
──受けなければこの場で押さえ込んで輪姦か──。
受けるしかないようだ。逆に言えばここにいる男たちを倒してしまえば脱出できるということだ。カーツは恐ろしい敵だが、彼からならば逃げ切れる自身はある。何人か倒したところで体力が温存できていれば、脱出の目も出てくるかもしれない。
「その気になったようだな──いけっ」
巨漢の合図とともに、痩せた男が襲いかかってくる。エミリーとて素人ではない。組織を敵に回す決意をしてからは護身術、格闘技を学び、警察の訓練でも護身術、格闘技では優秀な成績をおさめているのだ。
──早い!
大きくステップを踏んで男の拳をかわすが、男の攻撃は予想よりも速い。ニの腕で続く一撃を弾いたが、相手の体勢を崩すには至らない。連続の打撃がおそってくるのを下がりながらかわしていくが、普段の動きができないのだ。
──む、胸が──。
部屋着のままブラジャーもつけていないままの胸が、ちょっとした動作にも揺れてしまう。普段は動きの邪魔にならないようにしているというのに。男達の好色な視線も、ボリュームある乳房の揺れに対してのものだろう。
「どうした? その調子じゃあ、一人も倒せずに終わっちまうか」
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