第五章・アカネイアパレス
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「全軍突撃!!」
澄み切った青空にマルスの号令が響くと、それに呼応する掛け声が方々から上がる。
アカネイアパレスを守る砦は全て陥落し、後はパレス内に残った兵と、このアカネイアを統治している魔道士ボーゼンを倒すだけだった。
頭数ではまだドルーア軍の方が勝っていたのだが個々の能力差と士気の高さの違いで瞬く間に形勢が逆転する。
そして数分後には城門での戦闘は終わり城内へ戦場が移っていた。
シーダはその一部始終を城の窓から見下ろしていた。
ラングに目隠しをされて連れまわされ、再び光が戻ったときにはこの部屋へ連れて来られていたのである。
「さて、下で始まったみてえだから俺達もさっさとずらかるぜ」
ラングとその仲間達はそれぞれが大きな箱を手にしている。
かなりの重量があるのか、皆が腰に力を入れて持ち上げていた。
中には二人で大きな箱を運び出そうとしてる者もいる。
(なんて酷いことを・・・)
シーダは冷めた目で貴族達の行動を眺めていた。
彼等が運び出そうとしているのはアカネイアパレスの宝物であった。
大陸一の力を持つ国の宝物庫だけあってその財宝の量は物凄いものであった。
それぞれが手に持ちきれないほどの宝を手に、戦いのどさくさに紛れて城から脱出していった。
「ドルーアの奴等はこの宝物庫の位置を知らなかったみてえだな。何ひとつ手をつけてねぇ。だけど、パレスが解放されたときには財宝を盗んだのはドルーアの仕業ということになるんだがな」
最後に残ったラングもめぼしい宝を既に確保していてあとは逃げ出すだけだった。
「愛する王子様の姿を見れて満足だったろ。さあ、オメェも運ぶの手伝いな」
シーダはラングが持っていた大きな箱を手渡された。
しかし、予想以上の重さにシーダの身体はバランスを崩し大きな音を立てて転んでしまった。
「バカヤロゥ!!なにやってるんだ!」
ラングの怒号が響く。
「誰かに気付かれたらどうするんだ!さっさと拾え!」
ラングの命令に逆らえないシーダは、この悪行の手助けをしなければならない自分に涙を流した。
落とした宝を全部拾い終えパレスから抜け出そうとしたその時、不意に宝物庫の扉がゆっくりと開かれた。
「ヤバイ!隠れろ!」
手にした財宝を床に置くと何段にも積み重ねられた宝箱の陰に身を隠した。
息を殺し様子を窺うシーダ達の目の前に信じられないものが飛び込んできた。
「ミディア。本当にこっちが抜け道なんだね」
「ええそうよ、マルス様。この先にある扉は玉座のすぐ隣の隠し扉に繋がっているわ」
「そうか、じゃあ上手くすればボーゼンに奇襲をかけることが出来るかもしれないな。ミディア、ありがとう」
なんと宝物庫に入ってきたのはマルスと青い髪の女性だった。
久しぶりに間近で見るマルスの姿はシーダが知るものとは異なっていた。
長い戦いをしてきた為かちょっと頼りなさそうだった青年には貫禄がつきとても大きく見えた。
しかしその反対に優しかった表情は薄れ、どこか影のある険しい顔つきになっていたのである。
「ダメだ。扉のすぐ向こうに兵士がいる。奴がいなくなるまで待たないと」
鍵穴から向こう側を覗いていたマルスは残念そうに首を振った。
ここに辿り着くまでに幾人の兵士を葬ってきたのかマルスの剣には赤い血が滴り、鎧も返り血で真っ赤になっていた。
「マルス様、お疲れでしょう。今のうちに休まれたほうがいいですわ」
ミディアの申し出に従いマルスは手頃な大きさの箱に腰を下ろした。
そして長い戦いで余程疲れていたのか、体力を回復するために思い鎧まで脱いでくつろぎ始めた。
暫くの静寂が続いた後、ミディアがゆっくりと話し始めた。
「あれは一瞬の出来事でした。絶対に落ちないと思っていたパレスから火の手が上がり、我々騎士達は何も出来ずにドルーアに負けたのです。そして誇り高き仲間達は自決したり捕らえられて殺されました。だけど、私だけは殺されませんでした。そして死ぬことよりもっと苦しい目にあったのです」
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