第三章・プリンセスミネルバ
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「ジューコフ殿、お呼びですか?」
ディール要塞の広間の上座にある椅子に初老の男が座っている。
古くからマケドニアに仕えている将軍であるがミネルバはこの男が好きではなかった。
自分や妹のマリアを見る視線がとてもねちっこく下品なものに感じるのである。
しかし、今では自分の上官であるためにどんな命令にも従わねばならなかった。
「ミネルバ殿、ご苦労だった。しかし、呼び出してから随分時間が掛かったようだが・・・どこかで用でも足していたのですかな?」
「何をっ・・・」
ジューコフから発せられた屈辱的な言葉にミネルバは憤怒の表情を浮かべる。
しかし、ジューコフはそれを愉しむかのように下卑た笑みを浮かべていた。
よく見ると列席した兵士達もミネルバが辱められているところを見てにやついている。
(クソッ、マケドニアの兵士はいつからこんなに堕落してしまったのだ・・・)
ミネルバは堪忍袋の緒が切れそうになるのを拳をギュッと固く握り締めて耐えた。
「聞くところによると、ミネルバ殿は作戦を放棄して戦線を離脱したそうだがそれは誠か?」
「はい、オーダイン将軍のやり方は卑劣極まりなく、誇り高きマケドニア軍の執る作戦とは思えません」
「そうか・・・しかし敵前逃亡は万死に値することは知っておるな」
ジューコフの視線が鋭くなる。
敵前逃亡は死刑であることはもちろん知っていた。
こんな事で命を落とすのは納得いかないが軍人である以上、軍規に従わなければならない。
(マケドニアが滅んでいく姿を見ないで死ねるのは幸せかもしれない)
覚悟を決めたミネルバは腰に携えていた剣と竜騎士団の印である紋章を外した。
抵抗する素振りを見せないミネルバに対し、ジューコフはわざと聞こえるように独り言を呟いた。
「ディール要塞の地下にはマリア王女が幽閉されているのだが、ミネルバ殿が処刑されればマリア王女を生かしておく必要はなくなるな。一緒に始末してしまおうか」
今まで毅然とした態度を取っていたミネルバに動揺が走る。
「待って・・・マリアは関係ない・・・マリアだけは解放してやって」
いつも自分を見下した態度をとっているミネルバが哀願する様子を見てジューコフの加虐心に火がついた。
右手で顎鬚を撫でながら卑猥な視線でミネルバの身体を視姦する。
(フフフ、竜騎士などやらせておくには惜しいほどの厭らしい身体をしておる。これから毎日可愛がってやる)
「今後、命令には絶対に逆らわないと言うのなら死刑は免除するし、マリア王女と会わせてやっても良いが・・・」
戦争が始まってから一度も会うことが許されなかったマリアに会うことが出来ると聞いてミネルバはすぐに承諾してしまった。
「申し訳ございません。今後は命令には背きません。ですから、マリアに会わせてください」
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