俺をなめるなよ




 中立商業都市「ヘイズ」――
 この都市は様々な国の国境が重なる場所にあった。なぜそのような場所にありながら中立をたもっていられかといえば各国が牽制しあいうかつに手が出せない間に都市は大きくなり国家とよべる域まで発展してしまったためにうかつに攻められなくなった。そこで各国は話し合いの結果。ヘイズを中心に半径50kmを統治領としヘイズを捕虜交換などの場所に使うなどの便宜などを条約で定められたことでより効率的に商売が執り行われるようになり今やヘイズではありとあらゆるものが売買されている。食料、衣料、薬物、武器、兵器そして人間と限りは一切ない。

 雑多な町並みではあるがヘイズは活気に満ち溢れていた。
「あいかわらず賑やかな街だな」
「千客万来」
 街を物色するジュウゾウとエレスは感想を漏らした。
「お嬢ちゃんこれかっていかないかい?」
「いや、私はだな…」
「似合うと思うよ?どうだい?」
 アーシャは足を止めた先の露天で店主に捕まり髪飾りを売りつけらそうになった。
「おっちゃん、それなんぼや?」
 ミンが割って間に入った。
「うん?金貨で100だけど」
「まちぃ、そんな粗悪品を金貨100とはどういう了見や!」
 ちなみに一般的な平民の収入で1月、金貨30枚もあれば上等といわれている。その相場を考えれば露天の髪飾りの価格としては確かに高い。
「ちっちっちっ…お嬢ちゃん、この街は始めてかい?まーどこかの田舎から一攫千金を求めてきたんだろうけど、こいつは髪飾りの形をしてるがこいつは正真正銘のGEAだ。そいつが100なんだ安いもんだろ?」
 露天商は自信満々に啖呵を切るが
「おんどれ、うちぃなめとんのかい?ニセGEAなんぞ売るとはいい了見やないかい」
 逆に商人を気迫で呑む。
「な、なんだと言いがかりをつけるのなら、おいおまえら」
「へい」
 商人の呼び声で両椀を鉄の鎧で覆った屈強な男が二人現れた。
「あんたみたいに品物にケチをつける人がたまに居るんでね。そういう人の相手をしてもらう凄腕を雇ってるんだ!」
「マシーンアーム…といことは三つ名の国『マギナ』の傭兵かいな」
 三つ名の国マギナとは医術の国、機械の国、そして傭兵の国と三つの呼び名で呼ばれることからそう呼ばれている武装中立国家である。自国で作った兵器をどの国にも等しく売り、医療技術を提供し、そして自国で育てた兵士を傭兵として貸し出すという政策をとっている。そうすることで自国の価値を他国に示し侵略を試みる国同士を牽制させて平和を維持している。そのマギナの国力の結晶ともいえるのがマシーンアームなどをもつ傭兵は機人と呼ばれ各国から一目を置かれている。
「女、覚悟しな!」
 ゴォォォ
 鉄の腕が唸りを上げてミンに襲い掛かる。
 が、
「おい、てめぇら俺のツレに何してんだ」
 その拳を平然と片手でジュウゾウが受け止めた。
「素手で受け止めやがった…さてはオマエも機人か!」
 男は力を込め押し切ろうとする。だが、ジュウゾウは不敵な笑みを浮かべる。
「だれが機人だと?」
「否定…ジュウゾウは奇人…」
 シーン
 エレスの一言で周りが凍りつく。
「おい!だれか突っ込めよ!」
 が、誰も否定はしてくれないようである。
「ぐぎぃぃぃ…なんでだ…こいつの力、マシーンアームじゃねぇさてはGEAか?」
「だとしたら?」
「パワー自慢のGEAだろうが…力だけでマギナの傭兵に勝てるとおもうんじゃねぇ」
 そういとう手首を掴み投げ飛ばす。
「おっと」
 ジュウゾウは華麗に空中でトンボをきると男の顔面を踏み台に跳躍する。
「パワーだけが何だって?」
「ぐっ…しかし、空中ではなにもできまい!」
 男はジュウゾウに拳を構えると
「くらいやがれ!ロケットパーンチ!!」
 声たからたかに男が叫ぶと一部ギャラリーから
「おお、やはりロケットパンチは漢のロマンだよな」
歓声をあげながらうなずいている。
「ちっ…しかたねぇか…『GEA』起動…」
 刀を空中で構えると自分へとむかって来る鋼の拳を切りつける。
「なっ…!」
「ああ、それとオマエ、ミンをなめすぎだぜ」
 その言葉が男に聞こえたかはわからないが男の表情は驚きに満ちていた。
「ほんまやで」
 ジュウゾウに気をとられていた男の腹に拳を叩き込んでいた。
「な、なんだよ。マギナの傭兵を…お、おい!」
 商人はもう一人の傭兵に声をかけるが
「不様…マギナの傭兵でも低ランク…装備も数世代前…たぶん脱走兵」
 エレスが既にもう一人の後頭部を殴り飛ばし昏倒させていた。
「脱走兵?ああ、どうりで以前やりあった虎のおっさんとは随分と差があるとはおもったぜ」
「アホか、引退したとはいうても荒野の猛虎と較べたらかわいそうやで」
 のんびりと構える二人は既に腰を抜かしてる商人に視線をむける。
「それにしても、ケチつけられたからって傭兵をけしかけるなんてどういうこっちゃ?」
 顔は笑っているがミンからは怒りの感情があふれていた。
「おい、さっきから気になってたんだけどよ…あのメガネの女って…」
「ああ、それだけじゃなくて…あの男と棺おけをもった女の子って…」
 野次馬からそんなささやき声が響き始める。
「はい、退いてください。チーロン保安部が通ります」
 人垣を掻き分け金髪の青年とその背後に青年と同じく服装の男たちが騒ぎの中心となった商人の商業スペースにきて立ち止まる。
「えっと、店主・ザキマ・ガーイさんですね?」
「ああ、そうだが…」
 店主は気のない返事を返す
「困るんですよね。粗悪品をGEAと偽って売り難癖をつける客には物騒な方で処理をする。ここは確かにいかなる商売も許可されてはいますが…流れ者がそういう商売されるとね。ですので…全財産の没収と街からの強制退去と決定いたしました。みなさん処理を」
「はっ、リュウ隊長」
「お、おいまて」
 容赦なく連行していった。
「ふ、いやすみません。もう少し早く来るつもりだったですけど…すみません。ジュウゾウさん」
 その名を聞き野次馬から声が上がる。
「ジュウゾウって『黒衣の死神』じゃねぇのか?」
「ああ、間違いないぜ、チーロンの保安部隊長が『さん』付けで呼んでるし…ということは…」
「うわー、そのつれの二人ということは『闘いの舞姫』ミン・アールと『棺の射手』エレスに喧嘩うったのかよ。あの商人…俺、今すっげぇ同情するわ」
「しかし、この街でこの3人を知らないてのは致命的だよな?」
「たしかに、この街が機動型武装多脚砲台『ギュ・ドーン』に襲われたときたった三人でスクラップにしちまったり、夜盗200人を一夜で壊滅させたりしてるんだぜ?」
 3人の素性を理解した野次馬は口々に語りながら散り散りなっていった。
「たく…ウソをつくならもう少しましなウソをつけよな。シン」
 ジュウゾウは不機嫌に頭をかきながら警備隊長と呼ばれた青年に近づいた。
「ああ、やっぱりバレました?いや、騒ぎがあると報告が出てきたらちょうど問題の人だったので余計な手間を省こうと思いまして、すみませんジュウゾウさん。でも、ジュウゾウさんならあのレベルの敵だったら楽勝というかどうやっても負けないと確信してましたから」
 にこやかに答える青年にまったくの邪気というか悪意がなく毒気が抜ける。
「まぁいい…それで出張ってきたのはされだけか?」
「はははは、お嬢様からの命令でしてあなたがこの街に姿をみせたら屋敷にお連れしろとのことでしてこの街にこられた目的は大方理解でしていますのでそれに関するものですので損はされないかと思いますが?」
「判った。伺うとしよう。お嬢ちゃんにも会うのは3年ぶりだしな。というわけでミン、エレス、アーシャ。どういやら茶と菓子を用意してまっているらしい」
 ジュウゾウは振り返り連れの三人に声をかけた。
「おや、一人お連れが増えたんですね?しかも女性が」
 少し嫌味がこもっているがにこやかに笑いながらそのまま道案内を始めた。

★ ★ ★

 ジュウゾウ達が案内されたのは立派な屋敷の貴賓室。そこでジュウゾウたち出された菓子とお茶に舌鼓をうっていた。
「さすがヘイズは菓子も豊富だし、質も高いこのイチゴ大福なんざ最高だね」
 そういってもう一個手をだしていた。その様子を見てアーシャはミンに耳打ちをする。
「もしかして…ジュウゾウは…」
「甘いモンに目があらへんのや…」
「なるほど」
 実はその疑問を抱いたのはお茶を出されたとき緑茶に大量の砂糖をぶち込む様をみたためである。
「…メロンパン…所望…」
 エレスはといえば満足そうにメロンパンをほうばっていた。
 そうしていると扉がゆっくりと開きシンと一緒に豪華なドレスを身にまとった少女が一緒に入ってきた。
「おもてなしは気にいっていただけましたか?」
「よう、フェル。久しぶりだな、随分成長したもんだな立派なレディーだな」
「ありがとうございますジュウゾウ様、でも私も16ですから」
「16…」
 フェルと呼ばれた少女の16という言葉にアーシャは自身と少女を比較してみた。身長は同じくらいウェストはじゃっかん少女のほうが細いヒップは自分のほうが大きいと思うだが…胸は少女のほうが大きいそれも圧倒的に大きいなぜなら胸が服のサイズに収まっていないまるで大きなメロンが二つつるしているかのようであった。
 そんなアーシャの心境を気にすることなく対面に座る。
「ほんま美人になったもんやで」
「ミン様まで、ですが積もる話もいろいろとありますがお急ぎなのでは?」
「たしかに急ぐといえば急ぐな随分出遅れてるからな」
「やはり、ジュウゾウ様たちの目的も遺跡なのですね?」
「ああ」
「すこし残念ですね。せっかくきていただけたと思いましたのに…」
「陳謝…火急的用件…」
「エレス様もあいも変わらず、ですが遺跡目的で来られると予想しておりましたので必要な書類、及び手続きは終了しています」
 そういって一枚のカードを出す。
「こちらがこのたび発見された遺跡の発掘ライセンスです」
 ヘイズの周りには遺跡が多くまたそれから得られる利益が多いため街を治める議会によって管理しライセンスをうけとらなければ入ることに許可が必要とされている。
「用意がいい。これで明日からもぐれる」
「喜んでいただき光栄です」
 フェルは満足そうに微笑む。
「用件は済んだのなら長居することもあるまい?」
 少し焦りと不満があるような声でアーシャが会話にわって入った。
「うん?たまに旧知に会ったんだすこしくらいはのんびりとすればいい。それはそうとシン」
「はい?」
 今までそばでのんびりとしていた青年に声をかける。
「おまえ、フェルと寝たろ?」
 その一言で全員ふきだしそうになった。
「い、いつ気がつきました?」
「最初にお前に会ったとき、微かだがお前から女物の香水の匂いがした。で、確信したのはフェルとあったとき同じ匂いがしたからピントきた。まーあとはフェルの雰囲気と表情に仕草でかな?だいたい3年前はあんなおてんばだったのがこうも女らしくなるのは男だろと思ってな」
「いやー凄い洞察力というか…犬並みの嗅覚ですね」
「で、どうだった?」
「凄く可愛いですよ」
「シン!あなた!」
 フェルが声を荒げる。
「だって、可愛いんですからしょうがないじゃないですか」
「むぅぅ…どこがですか?」
 怒った顔をしてるが嬉しさを隠しきれていないのがこの場にいる全員がわかった。
「そうですね…僕が女の子からプレゼントとラブレターをもらったあとのすねた顔とかキスしたあとのおねだりの声とか、眠るときにぎゅっと抱きつく仕草とかですね」
 その言葉を聴きフェルは耳ままで真っ赤になった。なんともバカップル全開な会話である。
「うわぁぁ…あの内気で泣き虫でジュウゾウにからかいまくられてたシンがこうなるとは時のながれとは不思議なもんやね」
「ラブ空間…絶対領域を確認…」
 ジュウゾウたちは一時の昔話に花を咲かせた。

 ★ ★ ★

 シンとフェルの愛の巣と書かれた部屋にその部屋の主たちはいた。
「ジュウゾウさんたち元気そうでしたね」
「うん…」
 フェルは少し曇っていた。
「どうかした?」
「シンも…ジュウゾウ様たちと一緒にいきたいんじゃないかと思って…」
「そんなことはないよ。僕の居たい場所は君のそばだから」
「あっ…」
 そっと優しく慰めるように唇を重ねベッドに押し倒す。
「不安にしたお詫びに今日はいつもの3倍はかいがってあげるからね」
「まっ…いつもの3倍はそんなはぁぁ…やめ…そこ弱いのに…ああぁぁ」
 甘い二人っきりの時が過ぎていった。

 一方、ジュウゾウたちは街の一角にあるかつての住居に居た。長らく離れてはいたがきちんと管理されていたらしく食料品以外はなんでもそろっていた。
「それにしてもあの二人がやなんて…なんかラブラブやったし」
「少し…羨ましい」
 キングサイズのベッドの上でミンとエレスは裸で横になっていた。むろん二人の間にはジュウゾウが横になり腕枕をしていた。
「き、きさまら!なぜ私が床なのだ!」
 そのベッドの隣でアーシャが仁王立ちでにらんでいた。
「せやかてこれ以上ベッドの上で寝たらいくらなんでもせまなるやん」
「当然的処置」
「ぐっ…しかし、なぜ私がこのような不遇な扱いをだな…」
 ちらりとジュウゾウをみる。
「現状の改善を要求をする!」
「ああ、めんどくせぇ…」
 ジュウゾウはベッドから体を起こしベッドから降りる。
「俺はソファーで寝る。明日は遺跡にもぐるんだからとっとと寝ろ…ベッドはお前ら3人で使ってろ」
 ぶっきらぼうにそういうと予備の毛布を掴みとっととソファーの上で寝息を立て始めた。
「あんたのせいやで…」
「……お休み」
「うっ…」
 二人の非難の眼差しを向けられながらベッドにもぐるアーシャであった。


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